急に心臓がドキドキする、脈が飛ぶように感じる、胸がドクンと強く打つ――。こうした「動悸」の症状に、不安を感じたことはありませんか?運動後や緊張した時に起こる動悸は誰にでも経験があるものですが、なかには病気が隠れている危険なケースもあります。
この記事では、動悸の症状や考えられる原因、危険な動悸の見分け方、ご自身でできる対処法や予防法について詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対応を知るためにお役立てください。
動悸とは、普段は意識しない自分の心臓の拍動を、不快感や違和感として感じる状態を指します。症状の現れ方は人それぞれで、一言で「動悸」といっても様々な表現があります。
どんな動悸の症状がある?
動悸を感じる時の表現は、以下のように多岐にわたります。ご自身の症状がどれに近いか確認してみましょう。
- 脈が速くなる感覚:「ドキドキする」「バクバクする」
- 脈が飛ぶ・抜ける感覚:「脈が一瞬止まる」「胸が一瞬つまる感じがする」
- 脈が強く打つ感覚:「ドクンと大きく打つ」「心臓が飛び出しそう」
- 脈が乱れる感覚:「脈のリズムがバラバラになる」
これらの症状は、安静にしている時に突然現れることもあれば、食後や特定の動作の後、ストレスを感じた時などに起こることもあります。
動悸の様々な原因
動悸の原因は一つではありません。心臓の病気だけでなく、他の体の病気や精神的な要因、生活習慣など、その背景は非常に多岐にわたります。
心臓の病気による動悸(不整脈など)
動悸の原因として最も心配されるのが心臓の病気です。特に「不整脈」は動悸の主な原因となります。
- 不整脈: 脈が速くなったり、遅くなったり、リズムが不規則になったりする状態の総称です。命に別状のないもの(期外収縮など)から、注意が必要なもの(心房細動など)、緊急治療が必要なもの(心室頻拍、心室細動など)まで様々です。
- その他の心臓病: 心不全、心臓弁膜症、心筋症などでも、心臓に負担がかかることで動悸の症状が現れることがあります。
心臓以外の病気による動悸(甲状腺機能亢進症、貧血など)
心臓自体に問題がなくても、他の病気の影響で動悸が起こることがあります。
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など): 甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が活発になりすぎる病気です。心臓の働きも活発になるため、頻脈や動悸が起こりやすくなります。
- 貧血: 血液中のヘモグロビンが不足し、全身に酸素を運ぶ能力が低下します。心臓はそれを補うために多くの血液を送り出そうと頑張るため、動悸や息切れが起こります。
- 発熱: 感染症などで体温が上がると、脈拍も速くなるため動悸を感じることがあります。
- 更年期障害: 女性ホルモンのバランスが乱れることで自律神経にも影響が及び、ほてりやのぼせとともに動悸が起こることが知られています。
ストレスや精神的な要因による動悸
過度なストレス、不安、緊張などは、自律神経のバランスを崩し、動悸を引き起こす大きな要因です。パニック障害や不安障害といった病気の症状の一つとして、激しい動悸が現れることもあります。
食事や生活習慣による動悸(食後、カフェインなど)
日常生活の中にも動悸の引き金は潜んでいます。
- カフェイン: コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインには、心臓を興奮させる作用があります。
- アルコール: アルコールの摂取は脈を速くし、不整脈を誘発することがあります。
- 喫煙: ニコチンは血管を収縮させ、心臓に負担をかけます。
- 睡眠不足・疲労: 体が疲れていると自律神経が乱れやすくなり、動悸につながります。
- 食後の動悸: 食事、特に炭水化物を多く摂ると、消化のために胃腸に血液が集中し、それを補うために心拍数が上がって動悸を感じることがあります。
自律神経の乱れによる動悸(自律神経失調症)
自律神経は、心臓の拍動や呼吸、体温などを無意識のうちにコントロールしています。活動時に働く「交感神経」と、リラックス時に働く「副交感神経」のバランスが、ストレスや不規則な生活で崩れる(自律神経失調症)と、動悸やめまい、頭痛など様々な不調が現れることがあります。
危険な動悸の見分け方・すぐに受診すべき症状
動悸の多くは心配のないものですが、中には命に関わる危険な病気のサインである可能性もあります。以下の症状を伴う場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。
命に関わる緊急性の高い症状
以下の症状が動悸と同時に現れた場合は、心筋梗塞や重篤な不整脈など、緊急性の高い病気の可能性があります。すぐに救急車を呼ぶか、ためらわずに救急外来を受診してください。
- 胸の強い痛み、圧迫感、締め付けられる感じが続く
- 息苦しさ、呼吸困難
- 意識が遠のく、めまい、失神(気を失う)
- 冷や汗が出る
- 手足のしびれ、麻痺、ろれつが回らない
迷ったら病院へ!動悸で受診する目安
緊急性は高くないものの、以下のような場合は一度、医療機関で原因を調べてもらうことをお勧めします。何科を受診すればよいか迷う場合は、まずは循環器内科を受診するのが一般的です。
- 動悸が頻繁に起こる、または持続時間が長い
- これまで経験したことのない初めての動悸
- 動悸の症状がだんだんひどくなっている
- 安静にしていても動悸がする
- 動悸のせいで日常生活に支障が出ている
- 動悸のほかに、むくみ、体重減少、手の震えなどの症状がある
動悸が起きた時の対処法と治療
実際に動悸が起こった時、どのように対処すればよいのでしょうか。一時的な応急処置と、病院で行われる専門的な治療について解説します。
動悸が止まらない時の応急処置(一時的な対処法)
まずは慌てず、楽な姿勢で安静にすることが大切です。
- 安静にする: 椅子に座るか、横になるなど、楽な姿勢をとりましょう。
- ゆっくり深呼吸する: 腹式呼吸を意識して、息をゆっくり吸い、長く吐き出すことを繰り返すと、副交感神経が優位になり、気持ちと心拍が落ち着きやすくなります。
注意点: これらはあくまで一時的な対処法です。症状が改善しない場合や、前述の危険な症状を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。
病院で行う検査と診断
病院では、動悸の原因を特定するために様々な検査を行います。
検査の種類 | 内容 |
---|---|
問診 | 症状の詳しい状況(いつから、どんな時に、どのくらい続くかなど)や既往歴、生活習慣などを詳しく聞きます。 |
身体診察 | 聴診器で心臓の音を聞いたり、脈拍を測ったりします。 |
心電図検査 | 心臓の電気的な活動を記録し、不整脈の有無や種類を調べます。 |
ホルター心電図 | 小型の心電計を24時間装着し、日常生活の中での心電図変化を記録します。時々しか出ない動悸の診断に有効です。 |
心エコー検査 | 超音波で心臓の形や動き、弁の状態などをリアルタイムで観察します。 |
血液検査 | 貧血や甲状腺機能、電解質の異常など、心臓以外の原因がないか調べます。 |
動悸の主な治療法(薬物療法、生活習慣改善など)
治療は、原因となっている病気や状態に応じて行われます。
- 生活習慣の改善: ストレスや生活習慣が原因の場合、まずはその改善が基本となります。十分な睡眠、バランスの取れた食事、カフェインやアルコールの制限などが指導されます。
- 薬物療法: 不整脈に対しては抗不整脈薬、不安が強い場合は抗不安薬、甲状腺機能亢進症や貧血にはそれぞれの病気に対する薬が処方されます。
- カテーテルアブレーション: 薬でコントロールが難しい特定の不整脈に対して行われる治療法です。カテーテルという細い管を心臓まで挿入し、不整脈の原因となっている異常な電気信号の発生源を焼き切ります。
- カウンセリング: ストレスや精神的な要因が強い場合には、カウンセリングや心理療法が有効なこともあります。
動悸の予防とセルフケア
危険な病気が原因でない場合、日々のセルフケアで動悸を予防・軽減できる可能性があります。
日常生活でできる動悸対策
- 規則正しい生活: 睡眠時間を十分に確保し、起床・就寝時間をなるべく一定に保ちましょう。
- バランスの取れた食事: 偏った食事を避け、様々な食品をバランス良く摂ることが大切です。
- カフェイン・アルコールを控える: 動悸を感じやすい方は、これらを控えるか、摂取量を減らしてみましょう。
- 禁煙: 喫煙は心臓に大きな負担をかけます。禁煙は動悸だけでなく、多くの病気の予防につながります。
- 適度な運動: ウォーキングなどの有酸素運動は、心肺機能を高め、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。
ストレスへの対処法
現代社会においてストレスは避けがたいものですが、上手に付き合っていくことが重要です。
- リラックスできる時間を作る: 趣味に没頭する、ゆっくり入浴する、音楽を聴く、軽いストレッチをするなど、自分なりのリラックス方法を見つけましょう。
- 悩みを一人で抱え込まない: 家族や友人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。必要であれば専門のカウンセラーに相談することも選択肢の一つです。
動悸は多くの人が経験する症状ですが、その裏には様々な原因が隠れています。心配のないものがほとんどですが、「いつものこと」と自己判断せず、不安な症状や危険なサインがあれば、ためらわずに専門医に相談することが、ご自身の健康を守る上で最も大切なことです。
免責事項: 本記事は情報提供を目的とするものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
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