咽頭炎は、喉の痛みや不快感といった誰もが一度は経験する身近な症状を引き起こす病気です。風邪の初期症状として見られることもあれば、特定の細菌感染によるもの、あるいは慢性的に症状が続く場合もあります。原因や症状は多岐にわたるため、「いつもの風邪かな?」と軽く考えてしまうことも少なくありません。しかし、中には適切な診断と治療が必要なケースや、周囲への感染に注意が必要な場合もあります。この記事では、咽頭炎の原因や症状、効果的な治し方、そして「うつるの?」といった疑問まで、専門的な知見をもとに分かりやすく解説します。つらい喉の症状でお悩みの方はもちろん、咽頭炎について正しく理解したい方も、ぜひ参考にしてください。
咽頭炎とは?基礎知識
咽頭炎とは、文字通り「咽頭」に炎症が起きている状態を指します。喉の痛みや腫れ、飲み込みにくさなどの症状が現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。
咽頭炎の定義と部位
咽頭は、鼻の奥から食道と気管に分かれるまでの管状の器官です。食べ物や飲み物の通り道であると同時に、空気が肺へ向かう際の通り道でもあります。咽頭はさらに上咽頭、中咽頭、下咽頭の三つの部分に分けられます。
- 上咽頭: 鼻の奥、口蓋垂(のどちんこ)の上方に位置し、鼻腔と繋がっています。アデノイドがある部位です。
- 中咽頭: 口を開けた時に見える部分で、口蓋垂や扁桃腺(口蓋扁桃)があります。食べ物や飲み物が最初に通過する部分です。
- 下咽頭: 中咽頭の下に位置し、食道と気管の入り口に分かれる部分です。
咽頭炎は、これらの咽頭の粘膜やリンパ組織(扁桃腺など)に炎症が生じる病気です。特に中咽頭に炎症が起きやすい傾向があります。
急性咽頭炎と慢性咽頭炎
咽頭炎はその発症からの経過によって、大きく二つのタイプに分けられます。
- 急性咽頭炎: 比較的短期間(数日〜1週間程度)で発症し、症状も比較的強いのが特徴です。原因の多くはウイルスや細菌による感染です。一般的に「喉風邪」と呼ばれる状態の多くがこれに該当します。症状は急激に現れ、適切に対処すれば比較的短期間で改善します。
- 慢性咽頭炎: 急性咽頭炎のような強い症状は少ないものの、喉の違和感、軽い痛み、乾燥感、咳払いなどが長期間(数週間〜数ヶ月)続く状態です。急性咽頭炎を繰り返したり、喫煙、乾燥、アレルギー、逆流性食道炎など、感染以外の要因が原因となることもあります。症状は比較的軽くても、持続することで不快感やQOL(生活の質)の低下を招きます。
このように、咽頭炎と一口に言っても、その性質は原因や経過によって異なります。ご自身の症状がどちらのタイプに近いかを把握することも、適切な対処や受診を検討する上で役立ちます。
咽頭炎の主な原因
咽頭炎を引き起こす原因は多岐にわたりますが、最も一般的なのは感染性のものです。ウイルスや細菌が喉の粘膜に付着し、炎症を引き起こします。
ウイルス感染によるもの
咽頭炎の最も一般的な原因はウイルス感染です。風邪の原因となる様々なウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスなど)や、インフルエンザウイルス、RSウイルス、EBウイルス(伝染性単核球症の原因)などが挙げられます。
- 症状: ウイルス性咽頭炎は、喉の痛みに加えて、鼻水、鼻づまり、咳、発熱、倦怠感、頭痛といった全身症状を伴うことが多いです。インフルエンザの場合は、急な高熱や強い倦怠感が特徴的です。
- 治療: ウイルスそのものに直接効く特効薬は限られるため、基本的には症状を和らげる対症療法が中心となります。安静にして、水分を十分に摂り、体がウイルスと戦うのをサポートすることが重要です。
細菌感染によるもの(溶連菌など)
ウイルス感染に次いで多いのが細菌感染による咽頭炎です。特に小児によく見られますが、大人も感染します。代表的なものにA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)による咽頭炎があります。その他、肺炎球菌や黄色ブドウ球菌なども原因となることがあります。
- 溶連菌性咽頭炎の特徴:
- 比較的急激な発症で、高熱(38℃以上)が出やすい。
- 喉の痛みが強く、特に飲み込む時に痛みが増す。
- 扁桃腺が赤く腫れ、白い膿のようなものが付着することがある。
- 首のリンパ節が腫れて痛むことがある。
- 咳や鼻水は比較的少ない傾向がある(ウイルス性との違い)。
- 舌にイチゴのようなぶつぶつができる「苺舌(いちごじた)」が見られることがある。
- 体に小さな赤い発疹(猩紅熱)が出ることがある(特に小児)。
- なぜ細菌性咽頭炎の診断が重要か: 細菌性咽頭炎、特に溶連菌感染症の場合は、適切な抗生物質による治療が必要です。抗生物質を使用することで、症状を早く改善させるだけでなく、リウマチ熱や急性糸球体腎炎といった重篤な合併症を予防できるためです。自己判断せず、医療機関を受診して診断を受けることが重要です。
その他の原因(アレルギー、乾燥、刺激物など)
感染以外の要因も咽頭炎の原因となります。これらは慢性咽頭炎の原因となることが多いです。
- アレルギー: 花粉やハウスダストなどのアレルゲンが喉に付着し、アレルギー反応として喉の炎症や痒み、イガイガ感を引き起こすことがあります。アレルギー性鼻炎や喘息と合併して起こることも少なくありません。
- 乾燥: 空気が乾燥していると、喉の粘膜も乾燥しやすくなります。粘膜のバリア機能が低下し、ウイルスや細菌が付着しやすくなるだけでなく、物理的な刺激によっても炎症が起きやすくなります。冬場やエアコンの使用時などに起こりやすいです。
- 刺激物:
- 喫煙: タバコの煙に含まれる有害物質が喉の粘膜を刺激し、慢性的な炎症を引き起こします。喫煙者は非喫煙者に比べて咽頭炎になりやすく、治りにくい傾向があります。
- アルコール: 過度なアルコール摂取も喉の粘膜に刺激を与え、炎症の原因となります。
- 大気汚染: 排気ガスやPM2.5などの汚染物質も、吸い込むことで喉に刺激を与え、炎症を誘発することがあります。
- 辛い食べ物など: 一時的に喉を刺激することがあります。
- 声の使いすぎ: 大声を出したり、長時間話し続けたりすると、喉の粘膜に負担がかかり炎症を起こすことがあります。教師や歌手など、声を使う職業の人に起こりやすいです。
- 胃食道逆流症(逆流性食道炎): 胃酸が食道を経て喉まで逆流し、喉の粘膜を刺激して炎症を引き起こすことがあります。胸やけやげっぷといった症状だけでなく、喉の痛みや違和感、咳払いが続くことがあります。
- 口呼吸: 鼻づまりなどで口呼吸が習慣になっていると、空気が直接喉に送られ乾燥しやすくなり、炎症の原因となります。
- その他: 物理的な刺激(魚の骨など)、化学物質の吸入なども原因となることがあります。
これらの原因が単独で、または複合的に作用して咽頭炎を引き起こします。特に慢性的な症状がある場合は、感染以外の原因も考慮して対処することが重要です。
咽頭炎の症状
咽頭炎の症状は原因や炎症の程度によって様々ですが、喉に関する症状が中心となります。
主な初期症状(喉の痛み、違和感)
咽頭炎の始まりで最も多く見られるのは、喉の違和感や軽い痛みです。「なんか喉がおかしいな」「イガイガする」「乾燥する感じがする」といった感覚から始まることが多いです。飲み込む時に少し痛みを感じたり、咳払いをしたいような感覚があったりします。この段階では、まだ他の全身症状はほとんどないか、あっても軽微なことが多いです。
進行した際の症状(発熱、咳、鼻水など)
炎症が進行すると、症状は強くなります。
- 喉の痛み: 初期より痛みが強くなり、食べ物や飲み物を飲み込む際に激しい痛みを感じることがあります。痛みが耳に響くように感じることもあります。
- 発熱: 体温が上昇し、多くの場合37℃台後半から38℃台になります。細菌性咽頭炎の場合はさらに高熱になることもあります。
- 咳: 痰が絡む湿った咳が出たり、コンコンとした乾いた咳が出たりします。
- 鼻水・鼻づまり: 鼻の症状を伴うことも多く、風邪の症状として一緒に現れることがよくあります。
- 倦怠感: 全身のだるさや疲労感を感じます。
- 頭痛: 発熱や炎症に伴って頭痛が生じることがあります。
- リンパ節の腫れ: 顎の下や首筋にあるリンパ節が腫れて触ると痛むことがあります。これは体が炎症と戦っているサインです。
- 声の変化: 声がかすれたり、出しにくくなったりすることがあります。
細菌性咽頭炎の特徴的な症状
前述の通り、細菌性、特に溶連菌による咽頭炎にはいくつかの特徴的な症状があります。
- 高熱: 急激に38℃以上の高熱が出ることが多いです。
- 強い喉の痛み: ウイルス性に比べて痛みが強い傾向があります。
- 扁桃腺の白い膿: 扁桃腺に白い斑点状や膜状の膿が付着しているのが見られることがあります。
- 苺舌: 舌の表面が赤く腫れ、小さなぶつぶつが目立つようになります。
- 発疹: 体幹や手足に細かい赤い発疹(猩紅熱)が出ることがあります。
これらの症状がある場合は、溶連菌感染の可能性が高いため、早めに医療機関を受診して検査を受けることが重要です。
慢性咽頭炎の症状
慢性咽頭炎の症状は、急性の炎症のような強いものではありませんが、長期間持続します。
- 喉の違和感・異物感: 何か詰まっているような、あるいは乾燥しているような感覚が常にあります。
- 軽い痛み: ピリピリとした軽い痛みや、ヒリヒリするような刺激感が続くことがあります。
- 咳払い: 喉の不快感を解消しようと、頻繁に咳払いをしてしまいます。
- 乾燥感: 喉が乾燥しているような感覚が強く、水分を摂っても改善しにくいことがあります。
- 声のかすれ: 声が出しにくかったり、かすれたりすることがあります。
これらの症状は、特に朝起きた時や空気が乾燥している環境で悪化しやすい傾向があります。
咽頭炎の主な症状比較表
症状 | 急性咽頭炎(ウイルス性) | 急性咽頭炎(細菌性/溶連菌) | 慢性咽頭炎 |
---|---|---|---|
喉の痛み | 比較的軽い〜中等度 | 強い | 軽い、違和感、異物感 |
発熱 | 37℃台後半〜38℃台 | 38℃以上の高熱が出やすい | なし、または微熱 |
咳・鼻水 | よく伴う | 比較的少ない | 咳払いや軽い咳を伴うことがある |
扁桃腺の状態 | 赤く腫れることが多い | 赤く腫れ、白い膿が付着しやすい | 軽度の腫れや赤みの場合がある |
リンパ節 | 腫れることがある | 腫れて痛むことが多い | 軽度の腫れの場合がある |
全身症状 | 倦怠感、頭痛などを伴う | 倦怠感、頭痛などを伴う | 全身症状は少ないが、不快感が続く |
特徴 | 風邪症状全般を伴うことが多い | 苺舌、発疹(猩紅熱)が見られることも | 長期間(数週間以上)症状が持続する |
※これは一般的な傾向であり、個人差があります。
咽頭炎になりやすい人・繰り返しやすい人
特定の要因を持つ人は、咽頭炎にかかりやすかったり、一度治っても繰り返してしまったりする傾向があります。
免疫力が低下している場合
体の免疫力が低下していると、ウイルスや細菌に対する抵抗力が弱まり、感染しやすくなります。
- 疲労や睡眠不足: 十分な休息が取れていないと、免疫機能が低下します。
- ストレス: 精神的、肉体的なストレスは免疫力を低下させる大きな要因です。
- 高齢者: 加齢とともに免疫機能は低下しやすくなります。
- 基礎疾患がある人: 糖尿病、腎臓病、自己免疫疾患などの慢性疾患がある場合や、免疫抑制剤を使用している場合は、免疫力が低下していることがあります。
- 栄養バランスの偏り: ビタミンやミネラルなど、免疫機能に必要な栄養素が不足していると、体の抵抗力が落ちます。
喫煙や飲酒の習慣がある場合
タバコの煙に含まれる有害物質やアルコールの刺激は、喉の粘膜に直接ダメージを与えます。これにより、粘膜のバリア機能が低下し、ウイルスや細菌が付着しやすくなります。また、炎症が起きやすくなるだけでなく、粘膜の修復も遅れるため、一度かかると治りにくく、慢性化しやすい傾向があります。
声をよく使う職業の人
教師、歌手、アナウンサー、コールセンターのオペレーターなど、日常的に声帯や喉を酷使する職業の人は、物理的な刺激によって喉の粘膜が炎症を起こしやすくなります。また、乾燥した環境での発声も喉に負担をかけます。
大人が咽頭炎を繰り返す原因
大人が咽頭炎を繰り返す場合、いくつかの原因が考えられます。
- 慢性咽頭炎への移行: 急性咽頭炎が完全に治りきらずに、慢性的な炎症に移行してしまうケースです。前述したアレルギー、乾燥、喫煙、逆流性食道炎などが背景にあることが多いです。
- 免疫力低下: 疲労、ストレス、不規則な生活などにより、免疫力が常に低い状態にあると、様々な病原体に感染しやすくなり、咽頭炎を繰り返すことになります。
- 特定の原因菌・ウイルスへの再感染: 例えば溶連菌は一度感染しても免疫が長続きしないため、再び感染する可能性があります。また、風邪ウイルスには非常に多くの種類があるため、次々に異なる種類のウイルスに感染することで、何度も風邪(咽頭炎を含む)を引いてしまうことがあります。
- アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の合併: 鼻炎や副鼻腔炎があると、鼻水が喉に流れ落ちる「後鼻漏(こうびろう)」が起こりやすくなります。この鼻水が喉を刺激し、炎症を引き起こしたり悪化させたりすることがあります。
- 環境要因: 職場や家庭の空気が常に乾燥している、ホコリっぽい、換気が不十分であるといった環境要因も、繰り返し咽頭炎になる原因となり得ます。
大人が咽頭炎を繰り返す場合は、単なる風邪として片付けず、背景に隠れた原因(慢性化、生活習慣、合併症など)がないか医療機関で相談してみることが大切です。
咽頭炎の診断と検査
咽頭炎が疑われる場合、医療機関では問診や視診、必要に応じて検査が行われます。
問診と視診
- 問診: まず、いつからどのような症状があるのか(喉の痛み、発熱、咳、鼻水、倦怠感など)、症状の程度や経過、普段の健康状態、服用している薬、アレルギーの有無、喫煙・飲酒習慣、職業、周囲に風邪やインフルエンザ、溶連菌感染症にかかっている人がいないかなどを詳しく聞かれます。
- 視診: 医師が口を開けて喉の状態を観察します。ペンライトなどを用いて、咽頭粘膜の色(赤み)、腫れの程度、扁桃腺の状態、白い膿(白苔)の付着、水疱や潰瘍の有無などを確認します。首のリンパ節を触診して、腫れや痛みの有無も確認します。
多くの場合、問診と視診だけで咽頭炎の診断は可能ですが、原因を特定したり、他の病気と区別したりするために検査が必要となることがあります。
必要な場合の検査(溶連菌検査など)
特に細菌感染が疑われる場合や、症状が重い場合、特定の疾患が疑われる場合には検査が行われます。
- 溶連菌迅速検査: 細菌性咽頭炎の原因として最も多い溶連菌感染を調べる検査です。綿棒で喉の奥をこすり、検体を採取して検査キットで判定します。10分〜15分程度で結果が出るため、診察中に診断が可能です。感度・特異度は高いですが、稀に偽陰性(感染しているのに陰性と出る)や偽陽性(感染していないのに陽性と出る)の場合もあります。
- インフルエンザ迅速検査: インフルエンザが流行している時期に、インフルエンザウイルスの感染を調べる検査です。鼻の奥に細い綿棒を入れて検体を採取し、キットで判定します。これも15分程度で結果が出ます。
- その他ウイルス検査: アデノウイルスなど、他の特定のウイルス感染が疑われる場合に行われることがあります。
- 細菌培養検査: 綿棒で採取した喉の分泌物を培養し、どのような種類の細菌がいるか、どの抗生物質が効くか(薬剤感受性試験)を詳しく調べる検査です。結果が出るまでに数日かかりますが、より正確な診断や治療薬の選択に役立ちます。
- 血液検査: 炎症の程度(CRPなどの炎症マーカー)、白血球数、抗体価などを調べることで、炎症の強さや種類、免疫の状態などを把握できます。特に全身症状が強い場合や、診断が難しい場合に行われます。
これらの検査は、漫然と行うのではなく、患者さんの症状や流行状況、医師の判断に基づいて必要最小限に行われます。特に溶連菌感染症の場合は、迅速検査で診断を確定し、早期に適切な治療を開始することが重要です。
咽頭炎の治療法
咽頭炎の治療は、その原因によって異なります。ウイルス性の場合は対症療法が中心となり、細菌性の場合は原因菌に応じた抗菌薬が使用されます。
自然治癒する場合と自宅でのケア
ウイルス性咽頭炎の場合、多くの場合は時間とともに自然に治癒します。特別な治療をしなくても、体の免疫力によってウイルスが排除されるのを待つ形になります。この期間は、自宅での適切なケアが症状の緩和と回復の促進につながります。
- 安静: 体力を消耗しないように、十分な休息をとることが最も重要です。睡眠時間を確保しましょう。
- 水分補給: 発熱や炎症によって脱水しやすい状態になるため、こまめに水分を摂取しましょう。水やぬるま湯、スポーツドリンクなどが適しています。熱い飲み物は刺激になることがあるので避けましょう。
- 保湿: 喉の乾燥は炎症を悪化させます。室内の湿度を適切に保つ(加湿器などを使用する)ことが重要です。マスクを着用するのも、保湿効果が期待できます。
- うがい: 喉を清潔に保つことは、症状の緩和に役立ちます。水や薄めたイソジンなどのうがい薬で、こまめにうがいをしましょう。
- のど飴・トローチ: 唾液の分泌を促し、喉の乾燥や痛みを一時的に和らげる効果があります。
- 刺激物を避ける: 辛いもの、熱すぎるもの、冷たすぎるもの、アルコール、タバコなどは喉への刺激となるため避けましょう。
- 栄養バランスの取れた食事: 消化が良く、喉への刺激が少ないものを中心に、バランス良く栄養を摂りましょう。
病院での治療(薬物療法など)
自宅ケアで症状が改善しない場合や、症状が強い場合、細菌感染が疑われる場合は医療機関を受診し、必要に応じて薬物療法が行われます。病院での治療は、主に症状を和らげる対症療法と、原因を取り除く原因療法に分けられます。
- 対症療法薬: 症状に応じて、以下のような薬が処方されます。
- 痛み止め・解熱剤: アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが使用されます。喉の痛みや発熱を和らげます。
- 咳止め: 咳がひどい場合に処方されます。
- 去痰薬(痰切り): 痰が絡んで辛い場合に処方されます。
- 抗ヒスタミン薬: 鼻水や鼻づまりを伴う場合に処方されることがあります。アレルギーが原因の場合は、アレルギー症状を抑える薬が使用されます。
- 消炎鎮痛薬: 喉の炎症や痛みを抑える薬が処方されることがあります。
細菌性咽頭炎の治療(抗生物質)
細菌性咽頭炎、特に溶連菌感染症と診断された場合は、原因菌を死滅させるために抗生物質(抗菌薬)が処方されます。ペニシリン系やセフェム系の抗生物質が第一選択薬となることが多いですが、アレルギーがある場合は別の種類の抗生物質が使用されます。
抗生物質治療の重要な点:
- 医師の指示通りに服用する: 症状が軽くなったと感じても、自己判断で服用を中止せず、必ず医師から指示された期間(通常5日〜10日程度)しっかりと飲み切ることが非常に重要です。途中でやめてしまうと、原因菌が完全に死滅せず、再発したり、抗生物質が効きにくい耐性菌が出現したりするリスクが高まります。
- 合併症予防: 溶連菌感染症の場合、適切な抗生物質治療を行うことで、リウマチ熱や急性糸球体腎炎といった重篤な合併症を予防できます。
- ウイルスには無効: 抗生物質は細菌にのみ効果があり、ウイルスには全く効果がありません。ウイルス性咽頭炎に対して抗生物質を服用しても、症状は改善せず、耐性菌のリスクだけが高まることになります。抗生物質が必要かどうかは、医師の診断に必ず従ってください。
急性咽頭炎を早く治すための対処法
急性咽頭炎をできるだけ早く治すためには、以下の点を心がけましょう。
- 十分な休息: 何よりも体を休めることが最優先です。無理をせず、睡眠時間を十分に確保しましょう。
- 保温・保湿: 首元を温かく保ち、室内の湿度を適切に保ちましょう。乾燥は大敵です。
- 禁煙・禁酒: タバコやアルコールは喉に強い刺激を与え、回復を遅らせます。治療期間中は完全に避けましょう。
- 喉に優しい飲食物: 刺激の少ない、喉越しの良いものを摂りましょう。温かいスープやおかゆ、ゼリーなどがおすすめです。
- こまめな水分摂取: 喉の乾燥を防ぎ、痰を出しやすくする効果もあります。
- 医師の指示に従う: 処方された薬は用法・用量を守って正しく服用しましょう。特に細菌性の場合は、抗生物質を最後まで飲み切ることが非常に重要です。
- 市販薬の利用: 軽い症状であれば、市販ののど飴やうがい薬、症状緩和のための風邪薬を利用することもできます。ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。
咽頭炎の予防法
咽頭炎は、原因の多くが感染によるものであるため、日頃からの予防が非常に重要です。感染を防ぎ、喉の健康を保つための対策を講じましょう。
日常生活での注意点
- 十分な休息と睡眠: 体の免疫力を維持するために、質の良い睡眠を十分に確保しましょう。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスの偏りは免疫力低下を招きます。ビタミンやミネラルを豊富に含む野菜や果物を積極的に摂りましょう。
- 適度な運動: 適度な運動は免疫力を高める効果がありますが、過度な運動はかえって疲労を招き、免疫力を低下させることもあるので注意が必要です。
- ストレス管理: ストレスは免疫力を低下させる大きな要因です。趣味やリラクゼーションなどで、上手にストレスを解消しましょう。
- 禁煙: 喫煙は喉の粘膜にダメージを与え、感染しやすく、かつ治りにくくします。禁煙は咽頭炎予防だけでなく、全身の健康にとって非常に重要です。
- 過度な飲酒を控える: アルコールも喉への刺激となります。飲みすぎには注意しましょう。
- 喉の乾燥を防ぐ:
- 空気が乾燥している場所では、加湿器を使ったり、濡れタオルを干したりして湿度を適切に保ちましょう。理想的な湿度は50〜60%です。
- 就寝中にマスクを着用するのも、喉の乾燥を防ぐ効果があります。
- こまめに水分を摂取し、体の内側からも潤いを保ちましょう。
手洗い・うがいの徹底
ウイルスや細菌は、主に飛沫感染や接触感染によって体内に侵入します。これらの感染経路を断つために、手洗いとうがいは非常に効果的な予防策です。
- 手洗い: 外から帰宅した時、食事の前、咳やくしゃみをした後など、こまめに丁寧な手洗いを行いましょう。石鹸を使い、指の間、爪の間、手首までしっかり洗い流します。アルコール消毒液も併用するとさらに効果的です。
- うがい: 帰宅時や人混みに出かけた後には、うがいを習慣にしましょう。口の中の食べかすなどをゆすぐだけでなく、上を向いて「あー」と声を出しながら喉の奥をガラガラと洗い流すようにします。水でも効果はありますが、イソジンなどのうがい薬を使用すると殺菌効果も期待できます。ただし、うがい薬の使いすぎはかえって喉の常在菌のバランスを崩すこともあるため、製品の説明書をよく読んで適切に使用しましょう。
マスク着用
- 飛沫感染予防: 咳やくしゃみによる飛沫の飛散を防ぎ、周囲への感染を広げないために、症状がある時はマスクを着用しましょう。
- 吸い込み予防: 人混みなど感染リスクが高い場所では、ウイルスや細菌を吸い込むのを防ぐためにマスクを着用することが推奨されます。
- 喉の保湿: マスクを着用すると、呼気によってマスク内部の湿度が高まり、喉の乾燥を防ぐ効果も期待できます。
ワクチン接種
インフルエンザなど、ワクチンで予防できる感染症が原因の咽頭炎もあります。流行前にワクチン接種を受けることは、感染予防や重症化予防につながります。
咽頭炎の感染力(うつるか)
「咽頭炎って人にうつるの?」という疑問を持つ方は多いでしょう。答えは「原因による」ですが、感染性の咽頭炎は人にうつる可能性があります。
感染経路と潜伏期間
感染性の咽頭炎は、主に以下の経路で感染します。
- 飛沫感染: 感染している人が咳やくしゃみをした際に飛び散る、ウイルスや細菌を含んだ小さな粒子(飛沫)を、周囲の人が吸い込むことで感染します。
- 接触感染: 感染している人の鼻水や唾液が付着した手で、ドアノブやスイッチなどを触り、さらに別の人がその場所を触った後、手についた病原体を口や鼻に触れることで体内に取り込んでしまい感染します。
潜伏期間は、原因となる病原体の種類によって異なりますが、一般的には数時間から数日です。例えば、風邪ウイルスの多くは1〜3日、溶連菌は2〜5日程度とされています。潜伏期間中は症状が出ないこともありますが、既に他人に感染させる可能性がある期間であることもあります。
いつまで人にうつる可能性がある?
人にうつす可能性のある期間も、原因となる病原体や、治療を開始したかどうかによって大きく異なります。
- ウイルス性咽頭炎: 症状が出始める1日前くらいから、症状が改善するまで(一般的に発症から3日〜1週間程度)が感染力が高い期間とされています。ただし、ウイルスによってはさらに長く体内に留まり、ごく少量ながら排出し続ける可能性もあります。
- 細菌性咽頭炎(溶連菌):
- 治療をしない場合: 感染力が非常に強く、症状が続いている間(数週間)人にうつす可能性があります。
- 抗生物質で治療する場合: 抗生物質を飲み始めてから24時間経過すれば、ほとんどの場合、感染力は大きく低下すると考えられています。学校や職場によっては、抗生物質開始後24時間経過し、全身状態が良好であれば出席・出勤が許可されることが多いのはこのためです。ただし、症状が改善しない場合や、医師から別の指示があった場合はそれに従ってください。
人にうつさないための対策:
- 咳エチケット: 咳やくしゃみをする際は、ティッシュやハンカチ、袖などで口鼻を覆い、飛沫の飛散を防ぎましょう。
- 手洗い: 咳やくしゃみをした後、鼻をかんだ後などは必ず手洗いを行いましょう。
- マスク着用: 症状がある場合はマスクを着用し、飛沫の飛散を防ぎましょう。
- 人との距離: 症状がある時は、できるだけ人混みを避け、周囲の人との距離を保ちましょう。
- 食器やタオルの共有を避ける: 唾液や鼻水が付着しやすいものの共有は避けましょう。
咽頭炎になったら仕事・学校は休むべき?
咽頭炎になった場合に仕事や学校を休むべきかどうかの判断は、症状の程度や原因、そして周囲への感染リスクを考慮して行う必要があります。
出勤・登校の判断基準
明確な基準は、病原体の種類や職種・学校の規定によって異なります。
- 症状の程度: 発熱、強い喉の痛み、倦怠感が強いなど、全身症状が辛くて普段通りに活動できない場合は、無理せず休んで療養に専念することが最も重要とする。症状が軽ければ、感染対策をしっかり行った上で活動することも可能ですが、無理は禁物です。
- 原因:
- ウイルス性咽頭炎: 一般的な風邪の場合、症状が落ち着いて普段通りの活動ができるようになれば出勤・登校は可能とされます。ただし、インフルエンザの場合は学校保健安全法で「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」は出席停止と定められています。
- 細菌性咽頭炎(溶連菌): 前述の通り、抗生物質による治療を開始してから24時間以上経過し、全身状態が良好であれば、感染力は大幅に低下するため、出勤・登校が許可されることが多いです。学校保健安全法でも、「適切な抗菌薬療法開始後24時間を経過していること」が一つの目安とされています。
- 職種・学校の規定: 職場や学校によっては、独自の基準を設けている場合があります。特に、医療機関や福祉施設、食品を扱う職場、乳幼児が集まる場所などでは、感染拡大防止のためにより厳格な基準が設けられていることがあります。事前に規定を確認しましょう。
判断に迷ったら:
- 症状が辛い場合は、無理せず休みましょう。休むことは自身の回復を早めるためにも、周囲への感染を防ぐためにも重要です。
- 発熱がある場合や、細菌感染(特に溶連菌)の可能性がある場合は、医療機関を受診し、医師に相談して出勤・登校の可否についてアドバイスをもらいましょう。診断書が必要な場合もあります。
- 症状が軽くても、咳やくしゃみなどの症状がある場合は、必ずマスクを着用し、手洗いや咳エチケットを徹底するなど、周囲への感染対策を十分に行いましょう。
周囲への感染対策
仕事や学校に行く場合、あるいは自宅で家族と一緒に過ごす場合でも、周囲へ感染を広げないための対策が重要です。
- マスク着用: 咳やくしゃみの飛沫を防ぎ、吸い込みも減らす効果があります。
- 手洗い・手指消毒: 外出先から戻った時、食事前、咳やくしゃみ後など、こまめに丁寧に行いましょう。
- 咳エチケット: 口鼻を覆い、飛沫を飛ばさないようにしましょう。
- 換気: 室内の空気を定期的に入れ替えましょう。
- 十分な距離を取る: 症状がある人とはできるべく距離を保ちましょう。
- タオルの共有を避ける: 家族間でも、タオルの共有は避け、個人のものを使用しましょう。
咽頭炎の受診目安と診療科
「喉が痛いだけだけど、病院に行った方がいいかな?」と悩むことがあるかもしれません。咽頭炎の場合、自宅でのケアで改善することもありますが、中には医療機関での診断や治療が必要なケースがあります。
どんな症状で受診すべきか
以下のような症状が見られる場合は、医療機関を受診することを強くお勧めします。
- 喉の痛みが非常に強い: 食べ物や飲み物を飲み込むのが困難なほどの痛みがある場合。
- 高熱: 38.5℃以上の高熱が出ている場合。特に急な高熱の場合は細菌感染やインフルエンザの可能性があります。
- 息苦しさ: 喉の腫れがひどく、呼吸がしにくい、あるいは息苦しさを感じる場合。
- 水分が十分に摂れない: 喉の痛みで水分摂取が困難になり、脱水の兆候が見られる場合(尿量が少ない、めまいなど)。
- 症状が改善しない、あるいは悪化する: 自宅でのケアを続けても症状が軽くならない、あるいは咳や熱などの症状が悪化する場合。
- 首のリンパ節の腫れがひどい、痛みが強い場合。
- 扁桃腺に白い膿が付着している場合。
- 体に発疹が出ている場合(特に小児)。
- 声が出せない、声が全く違う場合。
- 特定の病気(糖尿病、心臓病など)を持っている方: 免疫力が低下している可能性があり、重症化しやすい場合があります。
- 乳幼児や高齢者: 体力がなく、脱水や重症化しやすい傾向があります。
これらの症状は、単なる風邪ではない可能性や、合併症のリスクを示唆している場合があります。特に細菌感染(溶連菌など)の場合は、早期の抗生物質治療が必要です。
何科を受診すれば良い?
咽頭炎の診断と治療には、以下の診療科が適切です。
- 耳鼻咽喉科: 喉の専門家です。咽頭の観察や必要な検査(内視鏡検査など)を正確に行い、診断や治療(ネブライザー治療など)を専門的に行うことができます。最も適切な診療科と言えます。
- 内科: 発熱や咳、全身症状を伴う場合は内科でも対応可能です。風邪やインフルエンザなど、他の全身性疾患との関連も考慮して診察できます。
どちらの科を受診しても基本的には対応してもらえますが、喉の症状が中心で長引いている場合や、より詳しい検査が必要な場合は耳鼻咽喉科の受診を検討すると良いでしょう。かかりつけ医がいる場合は、まずかかりつけ医に相談するのも良い方法です。
咽頭炎は何日で治る?(治癒期間の目安)
咽頭炎が治るまでの期間は、原因や重症度、個人の免疫力、適切な治療が行われたかどうかによって大きく異なります。
- ウイルス性咽頭炎(一般的な風邪の場合): 多くの場合は数日〜1週間で症状がピークを越え、徐々に改善に向かいます。喉の痛みは数日で和らぎ、咳や鼻水といった他の症状も1週間〜10日程度で落ち着くことが多いです。
- 細菌性咽頭炎(溶連菌など): 抗生物質による適切な治療を開始すれば、24時間以内に熱が下がり始め、数日で喉の痛みもかなり楽になることが多いです。抗生物質の服用は通常5日〜10日間指示されますが、症状自体は比較的早く改善します。ただし、薬を途中でやめると再発や合併症のリスクがあるため、指示された期間は必ず飲み切ることが重要です。
- 慢性咽頭炎: 原因にもよりますが、症状が数週間から数ヶ月、あるいはそれ以上続くこともあります。原因となっている要因(喫煙、乾燥、逆流性食道炎など)への対処が重要であり、すぐに症状が消失するとは限りません。
一般的な経過:
時期 | 症状 |
---|---|
初期 | 喉の違和感、軽い痛み、イガイガ感 |
ピーク | 喉の痛みが強くなる、発熱、咳、鼻水、全身倦怠感など(急性期の場合) |
回復期 | 熱が下がる、喉の痛みが和らぐ、他の症状も徐々に軽くなる |
治癒 | 症状がほぼなくなる |
症状が長引いている場合や、一度改善したように見えても再び悪化する場合は、単なる咽頭炎ではない可能性や、他の病気(副鼻腔炎、気管支炎など)を合併している可能性も考えられます。必要に応じて医療機関で再診を受けましょう。
【まとめ】咽頭炎について知っておきたいこと
咽頭炎は非常に身近な病気であり、多くの場合はウイルス感染によるもので、自宅でのケアで数日〜1週間程度で改善します。しかし、細菌感染(特に溶連菌)が原因の場合や、症状が重い場合、基礎疾患がある場合などは、医療機関での適切な診断と治療が必要です。
- 原因: 主にウイルスや細菌感染ですが、乾燥、喫煙、アレルギー、逆流性食道炎なども原因となります。
- 症状: 初期は喉の違和感や軽い痛みから始まり、進行すると強い痛み、発熱、咳、鼻水などを伴います。細菌性咽頭炎は高熱や扁桃腺の白い膿が特徴的な場合があります。
- 治し方: ウイルス性には対症療法(安静、保湿、水分補給など)、細菌性には抗生物質が有効です。
- 予防: 手洗い、うがい、マスク着用、喉の保湿、規則正しい生活などが重要です。
- うつるか: 感染性の咽頭炎はうつります。飛沫感染や接触感染に注意が必要です。溶連菌は抗生物質開始後24時間で感染力が低下します。
- 受診目安: 強い痛み、高熱、息苦しさ、水分が摂れない、症状の悪化や長引く場合は医療機関を受診しましょう。耳鼻咽喉科または内科が適切です。
喉の症状は不快で辛いものですが、原因を正しく理解し、適切な対処や予防を行うことで、つらい時期を乗り越えることができます。症状が気になる場合は自己判断せず、早めに専門医に相談することをおすすめします。
【免責事項】
この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法や製品を推奨するものではありません。個々の症状や健康状態に関する診断や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。記事で提供する情報は、必ずしも最新の医学的知見を反映しているとは限りません。この記事の情報によって生じたいかなる結果についても、当サイトおよび筆者は一切の責任を負いません。