ヘモグロビン低いのは「貧血」かも?見逃せない症状と原因・改善策

ヘモグロビンが低いと健康診断で指摘されて、不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。「ヘモグロビン 低い」という結果は、多くの場合「貧血」の状態を示唆しています。しかし、貧血にもさまざまな種類があり、原因も一つではありません。放置すると日常生活に支障をきたしたり、より深刻な病気が隠れていたりする可能性もあります。この記事では、ヘモグロビンが低いことの医学的な意味、考えられる原因、現れる症状、そして改善や治療の方法について、専門的な知見をもとに分かりやすく解説します。ご自身の体の状態を知り、適切な対応をとるための一助となれば幸いです。

目次

ヘモグロビンが低いとは?基準値と貧血の関係

ヘモグロビン(Hb)は、血液中の赤血球に含まれるたんぱく質で、酸素を全身の臓器や組織に運ぶ重要な役割を担っています。このヘモグロビンの値が基準値よりも低い状態を一般的に「貧血」と呼びます。貧血は、酸素供給能力が低下するため、全身にさまざまな症状を引き起こします。

ヘモグロビン、赤血球、ヘマトクリットの関係性

血液検査では、ヘモグロビンだけでなく、赤血球数やヘマトクリット値なども一緒に測定されることが一般的です。これらは互いに関連が深く、貧血の状態を多角的に評価するために重要です。

  • 赤血球(RBC: Red Blood Cell): 血液中の細胞成分の一つで、ヘモグロビンを含み、酸素を運搬する役割を担います。赤血球の数自体が減少しても貧血となります。
  • ヘモグロビン(Hb): 赤血球の中に含まれる色素たんぱく質で、酸素と結合して運びます。貧血の診断において最も重要な指標の一つです。
  • ヘマトクリット(Ht): 血液全体に占める赤血球の体積の割合を示します。赤血球の数や一つ一つの大きさが変わるとヘマトクリット値も変動するため、貧血の指標となります。

これら3つの項目は、一般的に「血算(けっさん)」と呼ばれる基本的な血液検査で測定されます。ヘモグロビンが低い場合、通常は赤血球数やヘマトクリット値も低くなる傾向がありますが、貧血の種類によってはこれらのバランスが崩れることもあります。

ヘモグロビンの基準値(男女別)

ヘモグロビンの基準値は、年齢や性別によって異なります。一般的に、男性の方が女性よりも基準値は高くなっています。これは、女性は月経による出血があることなどが影響しています。

項目 男性 女性 単位
ヘモグロビン 13.1~16.6 11.6~14.8 g/dL

注:上記は一般的な基準値であり、検査機関や測定方法によって多少異なる場合があります。ご自身の検査結果については、必ず医師にご確認ください。

この基準値よりもヘモグロビン値が低い場合に「貧血」と診断されます。特に、女性では11.0 g/dL未満、男性では12.0 g/dL未満を貧血と定義することもありますが、WHO(世界保健機関)の基準など、厳密な定義はいくつか存在します。重要なのは、基準値からどの程度外れているか、そしてそれがどのような原因によるものかを見極めることです。

貧血の定義と分類

貧血は、ヘモグロビン濃度、赤血球数、ヘマトクリット値のいずれか、または複数が基準値を下回った状態を指しますが、診断上はヘモグロビン値が基準値以下であることを最も重視します。

貧血はさまざまな原因によって引き起こされるため、その原因に基づいて分類されます。主な分類方法としては、以下のようなものがあります。

  • 赤血球の形態による分類: 赤血球の大きさ(MCV: 平均赤血球容積)やヘモグロビン濃度(MCHC: 平均赤血球ヘモグロビン濃度)によって分類されます。
    • 小球性低色素性貧血: MCV、MCHCがともに低い。最も代表的なものは鉄欠乏性貧血。
    • 正球性正色素性貧血: MCV、MCHCが正常範囲内。出血による貧血、再生不良性貧血、腎性貧血など。
    • 大球性貧血: MCVが高い。ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏による貧血など。
  • 原因による分類:
    • 造血機能の低下: 赤血球を作る能力が低下している(例: 再生不良性貧血、腎性貧血、ビタミンB12/葉酸欠乏)。
    • 赤血球の喪失: 体外への出血や体内での出血によって赤血球が失われる(例: 鉄欠乏性貧血の主な原因)。
    • 赤血球の破壊の亢進: 赤血球が正常より早く壊れてしまう(例: 溶血性貧血)。

この中でも、ヘモグロビンが低い原因として最も頻繁に見られるのが鉄欠乏性貧血です。

ヘモグロビン 低いを引き起こす主な原因

ヘモグロビンが低くなる、つまり貧血になる原因は多岐にわたります。大きく分けて「赤血球を作る材料が不足する」「赤血球を作る工場(骨髄)の機能が低下する」「赤血球が壊されすぎる」「赤血球が体外に失われる」といったメカニズムが考えられます。

鉄欠乏性貧血の原因

鉄欠乏性貧血は、貧血全体の約60~80%を占めると言われている最も一般的なタイプの貧血です。ヘモグロビンを作るには鉄分が不可欠であり、体内の鉄分が不足すると、十分にヘモグロビンを合成できなくなるために起こります。鉄欠乏の原因は主に以下の2つです。

出血による鉄の喪失

体内の鉄分はリサイクルの仕組みが整っており、通常はほとんど失われません。しかし、出血があると鉄分も一緒に体外へ出て行ってしまいます。慢性的な出血が続くと、体内に貯蔵されている鉄分(貯蔵鉄:フェリチンなど)が枯渇し、鉄欠乏性貧血を引き起こします。

  • 女性の場合:
    • 月経過多: 月経時の出血量が多い場合、毎月の鉄の損失が増加します。これは女性が鉄欠乏性貧血になりやすい最大の原因です。
    • 子宮筋腫や子宮内膜症: これらの病気があると、月経以外の出血や月経過多の原因となり、鉄の損失が進みます。
  • 男女共通の場合:
    • 消化管からの出血: 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、大腸がん、大腸ポリープ、痔、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などからの慢性的な出血は、自覚がないまま鉄を失い続ける原因となります。便潜血検査や内視鏡検査などで発見されることがあります。
    • その他の出血: 尿路からの出血(膀胱炎、尿路結石、腎臓病など)、鼻血や歯茎からの出血が慢性的に続く場合なども、鉄の損失につながることがあります。

鉄分の摂取不足・吸収不良

食事からの鉄分の摂取量が不足している場合や、摂取した鉄分がうまく体に吸収されない場合も、鉄欠乏の原因となります。

  • 鉄分の摂取不足:
    • 偏食や極端なダイエット: 肉や魚などの鉄分を多く含む食品を十分に摂らない食生活。
    • 菜食主義(ベジタリアン・ヴィーガン): 植物性食品に含まれる鉄分(非ヘム鉄)は、動物性食品に含まれる鉄分(ヘム鉄)よりも吸収率が低い傾向があります。ビタミンCなどと一緒に摂る工夫が必要です。
  • 鉄分の吸収不良:
    • 胃の切除後: 胃酸が鉄分の吸収を助けるため、胃を切除した後は鉄分の吸収が悪くなることがあります。
    • 特定の薬剤: 胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)を長期に服用していると、鉄分の吸収が阻害されることがあります。
    • 炎症性腸疾患: 腸の炎症があると、鉄分を含む栄養素の吸収が低下することがあります。
    • ピロリ菌感染: ピロリ菌がいると胃の粘膜が傷つき、鉄分の吸収が阻害されたり、微量の出血の原因になったりすることがあります。

赤血球の産生低下に関わる病気

骨髄は赤血球を「生産する工場」のような役割をしています。この骨髄の機能が低下したり、赤血球を作るための材料(ビタミンB12、葉酸など)が不足したりすると、赤血球の産生量が減少し、貧血を引き起こします。

再生不良性貧血

骨髄にある造血幹細胞が障害を受け、赤血球だけでなく白血球や血小板といった他の血球も十分に作れなくなる病気です。原因不明なことが多いですが、薬剤やウイルス感染、自己免疫などが関与することもあります。重症化すると輸血が必要になるなど、難治性の病気です。

腎性貧血

腎臓は、赤血球の産生を促進するエリスロポエチンというホルモンを分泌しています。慢性腎臓病などで腎臓の機能が低下すると、エリスロポエチンの分泌も減少し、骨髄での赤血球作りが滞って貧血になります。腎臓病の進行とともに貧血も悪化する傾向があります。

ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏性貧血

ビタミンB12と葉酸は、赤血球が成熟する過程でDNAを合成するために必須の栄養素です。これらが不足すると、赤血球がうまく成熟できず、通常よりも大きい「巨赤芽球」という未熟な赤血球が増加し、貧血(巨赤芽球性貧血)となります。

  • 原因:
    • 摂取不足: 極端な偏食やアルコールの過剰摂取などで不足することがあります。
    • 吸収不良:
      • ビタミンB12は、胃から分泌される内因子と結合しないと小腸で吸収できません。自己免疫疾患で内因子が作られなくなる病気(悪性貧血)や、胃の切除後、小腸の病気などで吸収が悪くなります。
      • 葉酸は小腸で吸収されますが、小腸の病気や特定の薬剤(抗がん剤、てんかん薬など)で吸収が阻害されることがあります。
    • 需要の増加: 妊娠中や授乳中、成長期、特定の血液疾患などでは、これらのビタミンの必要量が増加するため、不足しやすくなります。

赤血球の破壊が進む病気(溶血性貧血など)

通常、赤血球は約120日間の寿命を終えると脾臓などで処理されます。しかし、何らかの原因で赤血球が正常よりも早く壊されてしまう病気を「溶血性貧血」と呼びます。骨髄が頑張って赤血球を増産しようとしますが、破壊のスピードに追いつかなくなると貧血になります。

  • 原因:
    • 遺伝性: 赤血球膜や酵素の異常、ヘモグロビン構造の異常(サラセミア、鎌状赤血球貧血など)。
    • 後天性:
      • 自己免疫性溶血性貧血: 自分の免疫が自分の赤血球を攻撃してしまう病気。
      • 非免疫性溶血: 薬剤、感染症、機械的な刺激(人工弁など)、特定の全身性疾患(播種性血管内凝固症候群など)によって赤血球が壊される。

これらの原因以外にも、慢性的な炎症や感染症、悪性腫瘍などが原因でサイトカインという物質が分泌され、骨髄での赤血球産生が抑制される「慢性疾患に伴う貧血」などもヘモグロビンが低くなる原因となります。

ヘモグロビンが低いという結果は、単なる栄養不足だけでなく、体のどこかに異常があるサインかもしれません。自己判断せずに、医療機関で正確な原因を調べることが非常に重要です。

ヘモグロビン 低い場合に現れる症状

ヘモグロビンが低い、つまり貧血の状態になると、酸素運搬能力が低下するため、全身の組織や臓器が酸欠状態になりやすくなります。これにより、さまざまな自覚症状が現れます。貧血の症状は、ヘモグロビンの低下スピードや程度、個人の適応能力によって大きく異なります。ゆっくりと貧血が進んだ場合は、かなりヘモグロビン値が低くなるまでほとんど症状を感じないこともあります。

貧血で自覚しやすい症状

貧血で最も一般的に自覚しやすい症状は、以下の通りです。これらの症状は、体が酸素不足を補おうとして、心臓が一生懸命動いたり、呼吸を速めたりすることで引き起こされます。

  • 全身の倦怠感・疲労感: 最も頻繁に見られる症状です。体が重く感じたり、疲れが取れにくかったりします。
  • めまい・立ちくらみ: 特に急に立ち上がった時に起こりやすい症状です。脳への酸素供給が一時的に低下するために起こります。
  • 息切れ・動悸: 軽い運動や階段の昇降でも息が切れたり、心臓がドキドキしたりします。心臓が全身に酸素を運ぶために拍動を速めるためです。
  • 顔色が悪くなる・皮膚や粘膜の蒼白: 赤血球やヘモグロビンが減ることで、皮膚や唇、まぶたの裏などが青白くなります。
  • 頭痛: 酸素不足が原因で頭痛が起こることがあります。
  • 耳鳴り: 血流の変化に関連して耳鳴りを感じることがあります。
  • 集中力の低下: 脳への酸素供給が不十分になることで、集中力が続かなくなったり、思考力が鈍ったりすることがあります。
  • 手足の冷え: 末梢への血行が悪くなることで、手足が冷たくなりやすくなります。
  • 肩こり: 血行不良が原因で肩こりがひどくなることがあります。

また、鉄欠乏性貧血の場合に特有の症状が見られることがあります。

  • 爪の変形(スプーン爪、さじ状爪): 爪の中央がへこんでスプーンのような形になることがあります。
  • 舌炎・口角炎: 舌が赤くなったり痛んだり、口角が切れたりします。
  • 異食症: 鉄分を含む特定の物質(氷、土、紙など)を食べたくなる衝動に駆られることがあります。特に氷を食べたくなる「氷食症」は、鉄欠乏性貧血の比較的特徴的な症状です。

これらの症状は、貧血以外の病気でも起こることがあります。症状だけで自己判断せず、医療機関で検査を受けることが大切です。

ヘモグロビンが特に低い場合の危険な症状

ヘモグロビン値が著しく低い場合や、急激にヘモグロビンが低下した場合は、より重篤な症状が現れる可能性があり、注意が必要です。命に関わる状態になることもあります。

  • 強い胸痛: 心臓への酸素供給が極端に不足し、狭心症のような痛みを引き起こすことがあります。
  • 失神: 脳への血流・酸素供給が著しく低下し、意識を失うことがあります。
  • 心不全の悪化: 元々心臓に病気がある方が貧血になると、心臓への負担が増大し、心不全の症状(息切れ、むくみなど)が悪化することがあります。
  • 呼吸困難: 安静時でも強い息切れを感じたり、呼吸が苦しくなったりすることがあります。

危険な数値の目安

ヘモグロビン値がどのくらいになったら危険、という明確な境界線は一概には言えませんが、一般的には以下のような目安があります。

ヘモグロビン値(g/dL) 状態・リスク
10~11.9(男性)、10~11.5(女性) 軽度の貧血。自覚症状がないことも多いが、疲れやすいなど感じる人も。
8~9.9 中等度の貧血。息切れ、動悸、倦怠感などの症状を自覚することが多い。
6~7.9 高度な貧血。安静時でも息切れや動悸を感じたり、顔色が非常に悪くなったりする。
5未満 生命に関わる危険なレベル。強い胸痛や呼吸困難、失神のリスクが高まる。

注:上記の数値はあくまで一般的な目安です。症状の有無や基礎疾患の有無によって、同じ数値でも危険度は異なります。

特に、もともと心臓や肺に病気がある方、高齢者などでは、ヘモグロビン値が比較的軽くても重い症状が出やすい傾向があります。逆に、若くて健康な方であれば、ヘモグロビン値がかなり低くても体が順応してしまい、自覚症状が少ないこともあります。

ヘモグロビン値が低いことが判明したら、数値だけでなく、どのような症状があるか、いつから症状が出ているかなどを詳しく医師に伝え、適切な診断と治療を受けることが重要です。

ヘモグロビン 低いを指摘されたら行う検査

健康診断や人間ドックでヘモグロビンが低いと指摘された場合、または貧血を疑う症状がある場合は、医療機関を受診して詳しい検査を受ける必要があります。貧血は病気のサインである可能性があるため、原因を特定することが最も重要です。

血液検査(血算)でわかること

貧血を診断するための最初の、そして最も基本的な検査は「血算(CBC: Complete Blood Count)」と呼ばれる血液検査です。この検査で、ヘモグロビン、赤血球数、ヘマトクリット値などの貧血の主要な指標が得られます。さらに、赤血球の大きさやヘモグロビン濃度を示す以下の指標も同時に測定され、貧血の種類を推測するのに役立ちます。

  • MCV(Mean Corpuscular Volume: 平均赤血球容積): 赤血球一つの平均的な大きさを表します。
    • MCVが低い(小球性貧血):鉄欠乏性貧血などが疑われます。
    • MCVが正常(正球性貧血):出血、再生不良性貧血、腎性貧血などが疑われます。
    • MCVが高い(大球性貧血):ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏などが疑われます。
  • MCH(Mean Corporalis Hemoglobin: 平均赤血球ヘモグロビン量): 赤血球一つに含まれるヘモグロビンの平均的な量を表します。
  • MCHC(Mean Corpuscular Hemoglobin Concentration: 平均赤血球ヘモグロビン濃度): 赤血球の体積に対して、ヘモグロビンがどのくらいの濃度で含まれているかを表します。
    • MCHCが低い(低色素性貧血):鉄欠乏性貧血などで見られます。
    • MCHCが正常(正色素性貧血):鉄欠乏以外の貧血などで見られます。

血算の項目を総合的に評価することで、ある程度貧血のタイプを絞り込むことができます。例えば、「ヘモグロビンが低く、MCVとMCHCも低い」という結果であれば、鉄欠乏性貧血の可能性が最も高くなります。

原因を特定するための精密検査

血算の結果だけでは、貧血の「原因」まで特定することはできません。貧血の原因を突き止めるために、以下のような精密検査が追加で行われます。

  • 鉄関連検査: 鉄欠乏性貧血が疑われる場合に行われます。
    • 血清鉄: 血液中に含まれる鉄の量。
    • フェリチン: 体内に貯蔵されている鉄(貯蔵鉄)の量を反映する指標。鉄欠乏性貧血の診断に最も重要とされる項目の一つです。たとえ血清鉄が正常でも、フェリチンが低い場合は鉄が不足している状態と考えられます。
    • TIBC(Total Iron Binding Capacity: 総鉄結合能)/UIBC(不飽和鉄結合能): 血液中の鉄を運ぶたんぱく質(トランスフェリン)が、どれだけ鉄と結合できるかを示す指標。鉄が不足していると、鉄と結合する能力が高くなる傾向があります。
  • ビタミンB12、葉酸濃度測定: 大球性貧血が疑われる場合に行われます。血液中のビタミンB12と葉酸の量を測定します。
  • 網状赤血球数: 骨髄で作られて末梢血に出てきたばかりの若い赤血球の数。貧血に対して骨髄がどれだけ赤血球を作ろうと頑張っているかを反映します。網状赤血球数が多い場合は、出血や溶血など赤血球が失われたり破壊されたりしている貧血が、少ない場合は再生不良性貧血や腎性貧血、ビタミン/葉酸欠乏性貧血など骨髄の機能低下が原因の貧血が疑われます。
  • 原因を探る検査:
    • 便潜血検査: 消化管からの微量な出血がないか調べます。陽性の場合は胃カメラや大腸カメラが検討されます。
    • 胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)/大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査): 胃や腸からの出血源(潰瘍、ポリープ、腫瘍など)を直接確認し、必要に応じて組織を採取(生検)して詳しく調べます。
    • 超音波(エコー)検査、CT/MRI検査: 子宮筋腫や卵巣腫瘍、腎臓病、リンパ節の腫れ、悪性腫瘍など、貧血の原因となりうる病気を画像で調べます。
    • 骨髄検査: 再生不良性貧血や白血病など、骨髄の病気が疑われる場合に行われる精密検査です。骨髄液や骨髄組織を採取して顕微鏡で詳しく調べます。
    • 自己抗体検査: 自己免疫性溶血性貧血など、免疫の異常による貧血が疑われる場合に行われます。

これらの検査を通じて、ヘモグロビンが低い原因を正確に診断し、その原因に応じた適切な治療法を決定します。

ヘモグロビンを増やすための改善方法と治療

ヘモグロビンが低い状態、つまり貧血を改善するためには、まずその原因を特定し、原因に応じた治療を行うことが基本となります。原因が特定されれば、食事療法、薬物療法、必要に応じて輸血などが検討されます。

食事によるヘモグロビン増加

特に鉄欠乏性貧血やビタミンB12/葉酸欠乏性貧血など、栄養不足が原因の場合、食事内容を見直すことが改善の第一歩となります。ただし、食事だけで重度の貧血を短期間で改善させることは難しい場合が多く、多くは薬物療法と並行して行われます。

鉄分を多く含む食品と摂り方のポイント

鉄分には、主に動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、主に植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」があります。ヘム鉄の方が体への吸収率が高いとされています。

鉄分を多く含む食品 含まれる鉄分の種類
動物性食品
レバー(豚、鶏、牛) ヘム鉄主体
赤身肉(牛、豚、鶏もも肉など) ヘム鉄主体
カツオ、マグロ(赤身)、アサリ、シジミ、イワシ、サバ缶など(魚介類) ヘム鉄主体
植物性食品
ひじき、切り干し大根、ほうれん草、小松菜、枝豆、大豆、豆腐、納豆(野菜・豆類) 非ヘム鉄主体
ごま、アーモンド、カシューナッツ(種実類) 非ヘム鉄主体
穀類(米ぬか、きなこなど) 非ヘム鉄主体
海苔、わかめ、昆布など(海藻類) 非ヘム鉄主体

鉄分摂取のポイント:

  • ヘム鉄と非ヘム鉄をバランス良く摂る: 吸収率の高いヘム鉄を含む肉や魚介類と、非ヘム鉄を含む野菜や豆類などを組み合わせて食べましょう。
  • ビタミンCと一緒に摂る: ビタミンCは非ヘム鉄の吸収を促進する働きがあります。鉄分の多い植物性食品(ほうれん草など)を食べる際は、レモン汁をかけたり、食後にミカンなどの果物を食べたりすると効果的です。
  • 動物性たんぱく質と一緒に摂る: 肉や魚に含まれる動物性たんぱく質も、非ヘム鉄の吸収を助けると言われています。
  • 調理器具を工夫する: 鉄製のフライパンや鍋で調理すると、料理中に鉄分が溶け出し、鉄分摂取量を増やすことができます。

ヘモグロビンの合成を助ける栄養素(たんぱく質、ビタミンなど)

ヘモグロビンを作るには鉄分だけでなく、他の栄養素も必要です。

  • たんぱく質: ヘモグロビンの主成分はたんぱく質です。良質なたんぱく質(肉、魚、卵、大豆製品など)をしっかり摂ることが大切です。
  • ビタミンB群(特にビタミンB12、葉酸、ビタミンB6): これらのビタミンは赤血球の成熟やヘモグロビンの合成に関わっています。
    • ビタミンB12:肉、魚、卵、乳製品などの動物性食品に多く含まれます。
    • 葉酸:ほうれん草、ブロッコリーなどの緑黄色野菜、豆類、レバーなどに多く含まれます。
    • ビタミンB6:カツオ、マグロ、バナナ、ニンニクなどに含まれます。
  • 亜鉛: ヘモグロビンの合成を助けるミネラルです。牡蠣、牛肉、レバーなどに含まれます。

食事で注意すべきこと

鉄分の吸収を阻害する可能性のある食品や習慣にも注意が必要です。

  • タンニンを多く含む飲み物: 食事中や食後に濃い緑茶、紅茶、コーヒーなどを大量に飲むと、タンニンが鉄分と結合して吸収を妨げることがあります。これらの飲み物は食事から時間を置いて(食後30分~1時間以上あけて)飲むようにしましょう。
  • フィチン酸: 玄米などの穀類のぬかや豆類に含まれ、鉄分の吸収を妨げることがあります。
  • カルシウム: 大量のカルシウムも鉄分の吸収を妨げる可能性が指摘されています。サプリメントなどで多量に摂取している場合は注意が必要です。
  • アルコールの過剰摂取: 葉酸などの吸収を妨げたり、骨髄に悪影響を与えたりする可能性があります。
  • 極端な食事制限: 特定の食品を避ける極端なダイエットは、必要な栄養素が不足しやすいため、避けるべきです。

食事療法は、あくまでも治療を補うもの、または貧血の予防として重要です。重度の貧血や、食事だけでは改善しない場合は、必ず医療機関の指示に従ってください。

薬による治療(鉄剤など)

鉄欠乏性貧血の場合、多くは鉄剤の内服による治療が行われます。食事からの鉄分摂取だけでは、失われた大量の鉄分を補うことは難しいためです。

  • 内服薬: 医師の指示に基づいて、鉄剤(硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウムなど様々な種類があります)を毎日服用します。通常、ヘモグロビン値が正常に戻った後も、体内の貯蔵鉄を補充するために数ヶ月間、継続して服用する必要があります。自己判断で中断すると、再び貧血になってしまう可能性があります。
    • 副作用: 鉄剤の内服で、吐き気、胃もたれ、便秘、下痢などの消化器症状が現れることがあります。また、便の色が黒っぽくなることがありますが、これは鉄分が排泄されたためであり、心配ありません。副作用が強い場合は、医師に相談して薬の種類や量を調整してもらいましょう。食後に服用すると、副作用が軽減されることがあります。
    • 飲み合わせ: 一部の薬や食品(牛乳、特定の抗生物質など)は鉄剤の吸収を妨げることがあるため、服用時間を調整する必要がある場合があります。医師や薬剤師の指示に従ってください。
  • 注射薬: 内服薬で効果が不十分な場合や、内服薬による副作用が強い場合、鉄分の吸収が極端に悪い場合などには、鉄剤の注射が行われることがあります。

ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏による貧血の場合は、それぞれビタミンB12製剤や葉酸製剤が処方されます。ビタミンB12欠乏の場合は、内因子欠乏による悪性貧血などが原因であれば、吸収が悪いため注射による投与が中心となります。

腎性貧血の場合は、エリスロポエチン製剤(ESA: Erythropoiesis-Stimulating Agents)の注射によって赤血球の産生を促す治療が行われます。

輸血による治療

非常に重度の貧血で、全身状態が不安定な場合や、急激な出血によって命の危険がある場合など、緊急性の高い状況では輸血が行われます。輸血は失われた赤血球を速やかに補う効果がありますが、これは対症療法であり、貧血の根本的な原因を治すものではありません。また、輸血にはアレルギー反応や感染症のリスクもゼロではないため、医師が必要と判断した場合にのみ行われます。

原因疾患に対する治療

貧血の原因が、消化管からの出血(胃潰瘍、がんなど)、婦人科疾患(子宮筋腫など)、腎臓病、自己免疫疾患、血液疾患(再生不良性貧血など)といった特定の病気である場合は、貧血そのものを改善させるためには、その原因となっている病気を治療することが最も重要です。

  • 消化管出血の場合は、内視鏡治療で止血したり、原因疾患(潰瘍、がんなど)の治療を行ったりします。
  • 子宮筋腫などが原因で月経過多がある場合は、ホルモン療法や手術などが検討されます。
  • 腎臓病の場合は、腎臓病自体の治療と並行して、エリスロポエチン製剤などによる貧血治療を行います。
  • 再生不良性貧血や溶血性貧血などの難病の場合は、専門医のもとで免疫抑制療法や造血幹細胞移植など、病気に応じた専門的な治療が行われます。

ヘモグロビンが低いという検査結果は、体に何か異常が起きているサインです。自己判断でサプリメントなどを試す前に、必ず医療機関を受診し、正確な診断と適切な治療を受けるようにしましょう。

ヘモグロビンが低い状態を放置することの危険性

ヘモグロビンが低い状態、つまり貧血を放置すると、単に「だるい」「疲れやすい」といった症状が続くだけでなく、さまざまな健康上の問題を引き起こす可能性があります。特に、貧血が長期間続いたり、重症化したりすると、体への影響はより深刻になります。

  • QOL(生活の質)の低下: 倦怠感、息切れ、めまいなどが慢性的に続くことで、日常生活や仕事、学業に支障をきたし、活動範囲が狭まったり、気分が落ち込んだりするなど、生活の質が著しく低下します。
  • 心臓への負担増加: 体が酸素不足を補おうとして、心臓はより多くの血液を送り出そうと頑張ります。これにより心臓に常に負担がかかり、動悸や息切れが悪化したり、長期的に見ると心臓肥大や心不全を引き起こしたり、悪化させたりするリスクが高まります。
  • 免疫機能の低下: 鉄分は免疫細胞の機能にも関与しているため、鉄欠乏性貧血になると免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があります。
  • 脳機能への影響: 脳への酸素供給が不十分になると、集中力や思考力の低下、記憶力の低下、頭痛などが起こりやすくなります。子供の場合は、成長や発達に影響を与える可能性も指摘されています。
  • 妊娠への影響: 妊娠中の貧血は、母体の健康だけでなく、胎児の発育にも影響を与える可能性があります。低出生体重児や早産のリスクが高まることが報告されています。
  • 基礎疾患の悪化: もともと心臓病や呼吸器疾患、腎臓病などの病気がある方が貧血になると、これらの病状が悪化しやすくなります。
  • 原因疾患の進行: 貧血の原因が消化器がんなどの重篤な病気である場合、貧血を放置するということは、原因疾患の発見・治療が遅れることを意味します。これにより、病気が進行し、治療がより困難になるリスクが高まります。

このように、ヘモグロビンが低い状態を放置することは、単なる体調不良にとどまらず、全身の機能に悪影響を及ぼし、場合によっては命に関わる病気を見逃すことにもつながりかねません。

「これくらいなら大丈夫」「どうせ体質だから」と安易に考えず、ヘモグロビンが低いと指摘されたら、その数値の程度に関わらず、一度医療機関を受診して正確な診断を受けることが大切です。

ヘモグロビンが低い場合は専門医へ相談を

健康診断などでヘモグロビンが低いという結果が出た場合、あるいは貧血を疑うような症状(だるさ、めまい、息切れ、動悸など)が続く場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。

受診をおすすめする医療機関:

  • かかりつけ医: 普段から診てもらっている医師がいる場合は、まず相談してみましょう。基本的な検査や診断、初期治療を行ってもらえます。
  • 内科: 貧血全般について診察・検査を行ってくれます。
  • 血液内科: 貧血の種類が複雑だったり、再生不良性貧血や溶血性貧血など特殊な貧血が疑われたりする場合は、血液疾患の専門家である血液内科医に相談するのが最も適切です。
  • 婦人科: 女性で月経過多など婦人科系の原因が疑われる場合は、婦人科を受診することも重要です。
  • 消化器内科: 胃潰瘍や胃がん、大腸ポリープや大腸がん、痔など消化管からの出血が疑われる場合は、消化器内科で詳しい検査を受ける必要があります。

受診時に医師に伝えるべきこと:

  • 健康診断などでヘモグロビン値が低いと指摘されたこと(可能であれば検査結果を持参)。
  • 自覚している症状(だるさ、めまい、息切れ、動悸、頭痛、顔色の悪さ、異食症など)の種類や程度、いつ頃から始まったか。
  • 女性の場合は、月経の量や期間、不規則性など。
  • 既往歴(過去にかかった病気)、現在治療中の病気。
  • 現在服用している薬、サプリメント。
  • 食生活(偏食があるか、菜食主義かなど)。
  • 飲酒や喫煙の習慣。
  • 家族に貧血や血液疾患の方がいるか。

これらの情報を正確に伝えることで、医師は適切な診断を下し、原因に応じた検査や治療計画を立てやすくなります。

貧血は、多くの場合治療可能な状態です。しかし、その背景に思わぬ病気が隠れていることもあります。「ヘモグロビン 低い」というサインを見逃さず、早めに医療機関で相談し、適切な対応をとることがご自身の健康を守るために非常に大切です。


【免責事項】

この記事に記載されている情報は、一般的な知識の提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を代替するものではありません。ご自身の健康状態に関して不安がある場合や、ヘモグロビン値の低下を指摘された場合は、必ず医師や他の医療専門家にご相談ください。記事の情報に基づいてご自身で判断したり、治療を中断したりすることは避けてください。情報の正確性には努めていますが、保証するものではありません。

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