PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?症状・原因・診断・対処法

心的外傷後ストレス障害、ptsd(Post-Traumatic Stress Disorder)は、生命の危機に関わるような出来事や、それに近い強い精神的衝撃を受けた後に発症する精神疾患です。
この記事では、ptsdの症状、原因となるトラウマの種類、診断方法、そして回復に向けた治療法について、専門的な知見に基づいて詳しく解説します。
また、ptsdが日常生活に与える影響や、ご自身や周囲の方ができる対処法、さらに複雑性ptsdについても触れ、ptsdに関する疑問や不安をお持ちの方へ、正確でわかりやすい情報を提供することを目指します。
一人で抱え込まず、適切な知識を得て、回復への第一歩を踏み出すための参考にしてください。

目次

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、死や重傷を負う、あるいは性的暴力を受ける、またはそうした出来事を目の当たりにするなど、心に大きな傷を負うような体験(トラウマ体験)をした後に発症する精神疾患です。この「トラウマ」となる出来事は、本人にとって非常に恐ろしく、強い衝撃を与えるもので、通常、日常生活ではなかなか経験しないような出来事が該当します。

PTSDは、トラウマ体験から時間が経過してから発症することもあれば、比較的早期に症状が現れることもあります。発症時期や症状の現れ方は個人によって大きく異なります。以前はベトナム戦争帰還兵などで注目されましたが、現在では、災害、事故、犯罪被害、虐待など、さまざまなトラウマ体験が原因となることがわかっています。

PTSDは、単に「ショックな出来事を引きずる」といった一時的な反応とは異なり、日常生活に深刻な影響を及ぼす継続的な精神的な問題です。しかし、適切な治療を受けることで、症状を軽減し、回復することが十分に可能です。

PTSDの主な症状

PTSDの症状は多岐にわたりますが、特徴的なのは、トラウマ体験が過去の出来事であるにも関わらず、まるで今再び起こっているかのように感じられたり、その出来事に関連することを避けたり、気分や考え方に変化が現れたりすることです。これらの症状は、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition)などに基づいて整理されており、主に4つのカテゴリーに分類されます。

症状の4つのカテゴリー

PTSDの症状は、DSM-5において以下の4つのカテゴリーに分類されています。これらのカテゴリーに属する複数の症状が、一定期間以上にわたって持続している場合にPTSDと診断される可能性が高まります。

再体験(侵入症状)

再体験の症状は、トラウマ体験が意図せず繰り返し蘇ってくるものです。これはPTSDの中心的な症状の一つと言えます。

  • 侵入的な苦痛な記憶: トラウマ体験の記憶が、突然、繰り返し、不本意に心に浮かび上がり、強い苦痛や動揺を伴います。
  • 悪夢: トラウマ体験に関連する、または体験そのものが悪夢として繰り返し現れます。
  • フラッシュバック: まるでトラウマ体験が今まさに起こっているかのように感じられる解離状態です。現実感がなくなり、その場にいるかのように振る舞ったり、体験当時の感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)が蘇ったりします。
  • トラウマに関連する内的・外的きっかけへの強い苦痛や生理的反応: トラウマ体験を思い出させるような場所、人、物、会話、状況などに触れると、強い心理的な苦痛を感じたり、心拍数の増加、発汗、震えといった身体的な反応が現れたりします。

フラッシュバックなどは、非常にリアルであるため、本人にとっては現実との区別が難しくなることもあり、日常生活に大きな支障をきたします。

回避症状

回避症状は、トラウマに関連する苦痛な感情や記憶を避けるための行動や思考パターンです。

  • トラウマに関連する苦痛な記憶、思考、感情に関する回避: トラウマ体験について考えたり、話したりすることを意図的に避けようとします。
  • トラウマに関連する外部想起物(人、場所、会話、活動、物、状況)に関する回避: トラウマ体験を思い出させるような人や場所、状況などを積極的に避けるようになります。例えば、事故現場の近くを通らない、特定の種類のニュースを見ない、トラウマについて話す機会を避けるなどです。

この回避行動は、一時的には苦痛を和らげるように感じられますが、長期的にはトラウマ体験と向き合う機会を奪い、回復を妨げる要因となります。

認知と気分の陰性の変化

このカテゴリーの症状は、トラウマ体験後に生じる、考え方や感情の持続的な変化です。

  • トラウマ体験の重要な側面を思い出せない(解離性健忘を除く): トラウマ体験の一部または全体を思い出せないことがあります。これは通常の物忘れとは異なり、脳の防衛反応として記憶がブロックされている状態と考えられます。
  • 自分自身、他者、世界に対する持続的で誇張された陰性の信念や期待: 「自分は無力だ」「誰も信用できない」「世界は危険な場所だ」といった、ネガティブで非現実的な考えを持つようになります。
  • トラウマ体験の原因や結果について、自分自身を責めるなど、歪んだ認識: トラウマが起きたのは自分のせいだと過度に自分を責めたり、出来事に対する理解が歪んだりします。
  • 持続的な陰性の感情状態: 恐怖、怒り、罪悪感、恥、悲しみといったネガティブな感情が常に続き、喜びや満足といったポジティブな感情を感じることが難しくなります。
  • 重要な活動への関心の著しい低下または参加の停止: 以前は楽しめていた趣味や仕事、友人との交流などに興味を失い、引きこもりがちになります。
  • 他者からの疎外感、または他者との分離感: 人とのつながりを感じられなくなり、孤独感や孤立感を強く感じます。
  • 陽性の感情を体験できないことの持続的な困難: 幸福感、満足感、愛情といったポジティブな感情を十分に感じることができなくなります(感情の麻痺)。

これらの症状は、人格が変わってしまったかのように感じられることもあり、本人だけでなく周囲の人々も戸惑うことがあります。

覚醒度と反応性の変化

覚醒度と反応性の変化は、トラウマ体験後に生じる、過敏になったり衝動的になったりする状態です。

  • 易怒性、攻撃的な行動: 些細なことでイライラしたり、怒りっぽくなったり、衝動的に攻撃的な行動をとったりします。
  • 無謀または自己破壊的な行動: 危険を顧みない運転をしたり、過度の飲酒や薬物使用に走ったりするなど、自分自身を傷つけるような行動をとることがあります。
  • 過剰な警戒心(過覚醒): 常に周囲に危険がないか過度に注意を払い、リラックスすることができません。ちょっとした音や動きに過敏に反応します。
  • 驚愕反応の亢進: 突然の音や刺激に対して、非常に強く驚いたり、飛び上がったりします。
  • 集中困難: 物事に集中することが難しくなります。
  • 睡眠障害: 寝つきが悪くなる、夜中に何度も目が覚める、熟睡できないといった睡眠の問題を抱えます。

これらの症状は、常に「戦闘モード」にあるかのような状態で、心身が休まらず、強い疲労感や消耗感につながります。

PTSDの5つの主要症状

DSM-5の4つのカテゴリー分類と少し視点は異なりますが、PTSDの主要な症状として以下の5つが挙げられることもあります。これらは上記の4つのカテゴリーにまたがる形で現れます。

  1. 再体験(Re-experiencing): フラッシュバック、悪夢、侵入的な記憶など、トラウマ体験が繰り返し蘇る。
  2. 回避(Avoidance): トラウマに関連する思考、感情、場所、人などを避ける。
  3. 感情の麻痺(Emotional Numbing): 喜びや愛情といったポジティブな感情を感じにくくなる。
  4. 過覚醒(Hyperarousal): 常に警戒心が強く、イライラしたり、眠れなくなったりする。
  5. 解離(Dissociation): 現実感がなくなる、自分が自分ではないような感覚になる、記憶の一部を思い出せないなど。

感情の麻痺と解離は、DSM-5では主に「認知と気分の陰性の変化」や「再体験」のカテゴリー内で扱われることが多いですが、PTSDの特徴的な症状として個別に挙げられることもあります。特に感情の麻痺は、回避行動とも関連が深く、回復の過程で重要な課題となることがあります。

PTSDの17の症状とは

DSM-5におけるPTSDの診断基準では、特定のトラウマ体験に暴露された後に、上記4つのカテゴリーに属する具体的な症状項目が複数存在することが求められます。これらの症状項目をすべてリストアップすると17項目(またはそれ以上、詳細な表現によってはさらに細分化)に及びます。

例えば、
* 再体験: 侵入的な苦痛な記憶、悪夢、フラッシュバック、関連刺激への心理的苦痛、関連刺激への生理的反応
* 回避: 苦痛な記憶・思考・感情の回避、外部想起物の回避
* 認知と気分の陰性変化: トラウマ重要側面の健忘、自己・他者・世界の陰性信念、トラウマ原因・結果の歪んだ認識、持続的陰性感情、関心低下、疎外感、陽性感情体験困難
* 覚醒度と反応性変化: 易怒性・攻撃行動、無謀・自己破壊行動、過剰警戒心、驚愕反応亢進、集中困難、睡眠障害

といった項目があり、診断にはそれぞれのカテゴリーから一定数以上の症状が存在し、それらが臨床的に意味のある苦痛や機能障害を引き起こしていることが必要となります。詳細な診断基準は複雑であるため、専門家による評価が不可欠です。

PTSDの原因となる出来事

PTSDは、強い精神的な衝撃、すなわち「トラウマ体験」が原因となって発症します。トラウマ体験は、個人の生命や身体の安全が脅かされたり、他者の死や重傷を目の当たりにしたりするような出来事です。どのような出来事がトラウマとなるかは個人によって異なりますが、一般的に以下のような出来事が挙げられます。

原因となるトラウマの種類

PTSDの原因となるトラウマ体験は多岐にわたりますが、主に以下の種類に分類できます。

  • 自然災害: 地震、台風、洪水、火山の噴火など、大規模な自然災害に巻き込まれる、あるいは被災地で救援活動を行うといった経験。
  • 人為的災害・事故: 航空機事故、列車事故、自動車事故、火災、建築物の倒壊など、生命の危機に瀕するような事故や、それを目撃する経験。
  • 犯罪被害: 強盗、暴行、殺人未遂などの暴力犯罪に巻き込まれる、あるいは家族などが被害に遭う経験。
  • 性的被害: 性的な暴行、性的虐待、セクシャルハラスメントなど、意に反する性的な行為の被害に遭う経験。これは特にPTSDの発症リスクが高いトラウマと言われています。
  • 戦闘・紛争: 戦争地域での戦闘経験、捕虜体験、あるいはジャーナリストや援助活動家として紛争地域で活動する経験。
  • 医療行為: 緊急手術、集中治療室での体験、あるいは生命に関わる病気の診断を受けるといった、身体的・精神的に強いストレスを伴う医療体験。
  • 虐待: 子供の頃の身体的虐待、性的虐待、精神的虐待、ネグレクト(育児放棄)など、長期間にわたって反復的に受ける虐待体験は、後に複雑性PTSDの原因となることがあります。
  • いじめ: 学校や職場での執拗ないじめも、深刻なトラウマ体験となることがあります。
  • 近親者の突然死・非業の死: 大切な家族や友人の突然の事故死や自殺なども、強い精神的衝撃となりPTSDの原因となることがあります。

これらの出来事そのものだけでなく、その出来事に対して本人がどのように感じたか、周囲のサポートがあったかなども、PTSDの発症リスクに影響します。同じような出来事を経験しても、PTSDを発症する人もいればしない人もいるのは、個人の脆弱性やレジリエンス(精神的回復力)も関係しているためです。

PTSDの診断方法

PTSDの診断は、専門家である精神科医や臨床心理士などによって行われます。自己診断は目安にはなりますが、正確な診断には専門的な評価が不可欠です。

診断基準(DSM-5など)

PTSDの診断は、主にアメリカ精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)』に定められた診断基準に基づいて行われます。医師は、患者さんからの詳しい聞き取り(問診)を通じて、トラウマ体験の有無、そして再体験、回避、認知と気分の陰性変化、覚醒度と反応性の変化といった症状が、DSM-5の基準に沿って存在するかどうか、またその症状がどのくらいの期間持続しているか、日常生活にどの程度支障をきたしているかなどを総合的に評価します。

DSM-5の診断基準では、まずトラウマ体験に暴露されたという基準(基準A)を満たしていることが前提となります。その上で、再体験(基準B)、回避(基準C)、認知と気分の陰性変化(基準D)、覚醒度と反応性の変化(基準E)の各カテゴリーから、定められた数の症状が存在すること、症状がトラウマ体験から始まり1ヶ月以上持続していること(基準F)、症状が臨床的に意味のある苦痛または機能障害を引き起こしていること(基準G)、そして症状が物質や他の病気によるものではないこと(基準H)を確認します。

診断においては、患者さんの語りだけでなく、質問票や面接ツールなどが補助的に用いられることもあります。

PTSD診断テスト

インターネット上や書籍などで、PTSDの可能性をチェックするための「診断テスト」や「チェックリスト」を見かけることがあります。これらは、DSM-5の症状項目などを参考に作成されていることが多く、ご自身や周囲の人がPTSDの症状に当てはまるかどうかを自己評価するためのツールとしては役立ちます。

例えば、以下のような項目にチェックを入れる形式のテストがあります。

  • トラウマ体験を何度も思い出してしまう(フラッシュバック、悪夢などがある)。
  • トラウマに関連することを考えたり話したりするのを避けている。
  • トラウマを思い出させる場所や状況を避けている。
  • 将来への希望が持てず、感情が麻痺したように感じる。
  • ささいなことでイライラしたり、過剰に驚いたりする。
  • 眠りにつくのが難しかったり、夜中に目が覚めてしまったりする。

しかし、これらの自己評価ツールは、あくまで「参考」として利用するべきです。 これらのテストで項目が多く当てはまったとしても、それだけでPTSDと診断されるわけではありませんし、逆に当てはまる項目が少なくてもPTSDではないとは断言できません。正確な診断には、必ず精神科医などの専門家による診察と評価が必要です。自己判断で決めつけず、心配な場合は専門機関に相談することが最も重要です。

PTSDの治療法

PTSDは、適切な治療を受けることで症状が改善し、回復に向かう可能性が十分にあります。治療の中心となるのは心理療法ですが、必要に応じて薬物療法が併用されることもあります。また、日常生活でのセルフケアも回復をサポートする上で非常に重要です。

心理療法(トラウマ焦点化認知行動療法、EMDRなど)

PTSDの治療において、最も効果が確立されているのは心理療法です。心理療法では、専門家との対話を通じて、トラウマ体験とその影響に適切に対処する方法を学びます。

特に効果的とされている心理療法には、以下のものがあります。

  • トラウマ焦点化認知行動療法 (TF-CBT: Trauma-Focused Cognitive Behavioral Therapy): PTSDの症状を維持している考え方や行動パターンに焦点を当てる認知行動療法の特殊な形です。安全な環境で、トラウマ体験の記憶に段階的に向き合い、苦痛を伴う思考(認知)を修正し、回避行動を減らしていくことを目指します。トラウマ体験を「語る」プロセスが含まれることが多く、感情の処理を促します。
  • EMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing: 眼球運動による脱感作と再処理法): 患者さんがトラウマのイメージ、感情、身体感覚に焦点を当てている間に、セラピストが指などを左右に動かし、患者さんに眼球運動を促す治療法です。この眼球運動(またはタッピングなどの両側性刺激)が、トラウマ記憶の処理を助け、苦痛を軽減すると考えられています。複雑なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、多くの研究で有効性が示されています。
  • 持続エクスポージャー療法 (Prolonged Exposure Therapy: PE): 安全な環境下で、トラウマに関する記憶、思考、感情、状況に意図的に繰り返し触れる(エクスポージャーする)ことで、それらに対する恐れや苦痛反応を和らげることを目指します。これは、回避行動が症状を維持しているという考え方に基づいています。インビボエクスポージャー(実際に怖い場所に行くなど)やイマジナルエクスポージャー(トラウマ体験を詳細に語るなど)が含まれます。
  • 認知処理療法 (Cognitive Processing Therapy: CPT): トラウマ体験に関連する思考や信念に焦点を当てる認知療法の一種です。トラウマによって生じた「安全」「信頼」「力」「評価」「親密さ」といった主要なテーマに関する歪んだ考え方(例:「自分は不完全だ」「誰も信用できない」)を特定し、それらをより現実的でバランスの取れたものに変えていくことを目指します。

これらの心理療法は、多くの場合、週に1回など定期的なセッションを複数回行うことで効果が現れます。どの治療法が適切かは、患者さんの状態や治療目標によって異なりますので、専門家とよく相談して決定することが重要です。

薬物療法(PTSD medication)

心理療法がPTSDの治療の第一選択肢とされることが多いですが、症状が重い場合や心理療法だけでは効果が不十分な場合、あるいは抑うつや不安といった併存する症状が強い場合には、薬物療法が用いられることがあります。

PTSDに対して最も効果が確立されている薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる抗うつ薬です。SSRIは、再体験、回避、感情の麻痺、過覚醒といったPTSDの主要な症状の多くに効果を示すことが報告されています。セルトラリン(ジェイゾロフト)やパロキセチン(パキシル)などが、PTSDに対して承認されているSSRIです。

SSRI以外にも、以下のような薬が症状に応じて用いられることがあります。

  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): SSRIと同様に再体験や過覚醒に効果を示すことがあります。ベンラファキシン(イフェクサー)などが用いられることがあります。
  • α1受容体遮断薬: プラゾシンなどが、悪夢や睡眠障害に効果がある可能性が示唆されており、特に悪夢が主症状である場合に検討されることがあります。
  • 非定型抗精神病薬: リスペリドンなどが、SSRIの効果が不十分な場合の増強療法として検討されることがありますが、副作用のリスクも考慮して慎重に用いられます。
  • 抗不安薬: ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、一時的な強い不安症状を抑えるために短期間使用されることがありますが、依存性のリスクがあるため、PTSDの主たる治療薬としては推奨されていません。

薬物療法は、症状を和らげる助けにはなりますが、トラウマ体験そのものに対する向き合い方を学ぶ psychological skills(心理的スキル)を獲得するためには心理療法が重要です。多くの場合、心理療法と薬物療法を組み合わせて行うことで、より効果的な治療が期待できます。薬の選択や服用については、必ず医師の指示に従ってください。

日常生活での対処法・セルフケア(How to calm PTSD down)

PTSDからの回復には、専門的な治療だけでなく、日常生活におけるご自身での取り組み(セルフケア)も非常に重要です。セルフケアは、症状の軽減や、トラウマによる影響から回復するための力を高める助けとなります。以下は、PTSDの症状を落ち着かせ(How to calm PTSD down)、日常生活を立て直すためのセルフケアの例です。

  • 安全な環境を確保する: 物理的にも精神的にも、ご自身が安全だと感じられる場所や人間関係を確保することが最優先です。危険を感じる状況や人からは距離を置くことも必要です。
  • 規則正しい生活を送る: 睡眠、食事、休息の時間をできるだけ一定に保つように心がけましょう。特に睡眠障害はPTSDの症状を悪化させる可能性があるため、睡眠衛生を意識することが重要です。
  • 健康的な食生活と適度な運動: バランスの取れた食事と、無理のない範囲での運動は、心身の健康を維持し、ストレスを軽減するのに役立ちます。ウォーキングや軽いストレッチなど、心地よいと感じられる活動から始めてみましょう。
  • リラクゼーションを取り入れる: 深呼吸、瞑想、ヨガ、筋弛緩法など、ご自身がリラックスできる方法を見つけて実践しましょう。これらの方法は、過覚醒による身体の緊張を和らげる助けになります。
  • 感情を表現する安全な方法を見つける: 日記を書く、絵を描く、信頼できる人に話を聞いてもらうなど、溜め込まずに感情を表に出す方法を見つけましょう。
  • サポートシステムを活用する: 信頼できる家族、友人、パートナーに話を聞いてもらったり、支えを求めたりすることは、孤独感を軽減し、回復への力を与えてくれます。また、PTSDの自助グループに参加することも有効です。
  • ストレスを管理する: ストレスの原因を特定し、それに対処するための健康的な方法を見つけましょう。断る勇気を持つ、休息時間を取る、趣味に没頭するなどもストレス管理に役立ちます。
  • ポジティブな活動を取り入れる: 以前楽しめていた活動や、新しく興味を持った活動に少しずつ挑戦してみましょう。成功体験や達成感は、自己肯定感を高め、感情の麻痺を和らげる助けになります。
  • マインドフルネスの実践: 今、この瞬間に意識を向けるマインドフルネスは、侵入的な思考や感情に飲み込まれそうになった時に、距離を置いて観察することを助け、感情の調整力を高める可能性があります。

セルフケアは「これをすれば必ず良くなる」という魔法のようなものではありませんが、日々の積み重ねが、症状の軽減や再発予防、そしてより良いQOL(Quality of Life)の実現につながります。ただし、セルフケアだけで症状が改善しない場合や、症状が悪化する場合には、ためらわずに専門家の助けを求めてください。

PTSDの種類(Types of PTSD)

PTSDと一言で言っても、その原因となるトラウマ体験の種類や、体験が単回か反復性かによって、症状の現れ方や治療アプローチが異なる場合があります。DSM-5では基本的に単一の診断カテゴリーとして扱われますが、臨床的には複雑性PTSDといった概念も重要視されています。

複雑性PTSD

複雑性PTSD(Complex PTSD: C-PTSD)は、特に幼少期の虐待、長期にわたる家庭内暴力、戦争捕虜、人身売買など、逃れることのできない状況下で、長期間にわたり反復的に極度のトラウマ体験を受けた場合に発症しやすいとされる状態です。単回のトラウマ体験によるPTSDとは異なる特徴を持つため、近年注目されています。

複雑性PTSDの主な特徴は、通常のPTSDの症状(再体験、回避、過覚醒など)に加えて、以下の3つの領域における困難が顕著に現れることです。

  • 感情調整の困難: 感情の波が激しく、怒りや悲しみ、絶望感といった強い感情をコントロールすることが非常に難しい。自己破壊的な行動(リストカット、過食・拒食など)に走ることもあります。
  • 自己知覚の変容: 自分自身に対して強いネガティブな感情(無価値感、罪悪感、恥など)を持ち、「自分はダメな人間だ」といった否定的な自己イメージを抱く。
  • 人間関係の困難: 他者を信用することが難しく、人間関係を築いたり維持したりする上で問題を抱えやすい。極端に他者に依存したり、逆に他者を完全に避けたりすることもあります。

複雑性PTSDは、幼少期の発達期に生じたトラウマが人格形成に深く影響している場合が多く、その治療には通常のPTSDとは異なる、より包括的で段階的なアプローチが必要とされることがあります。治療では、まず安全性の確保と安定化を図り、感情調整スキルを習得し、人間関係の課題に取り組むといったステップを経て、トラウマ記憶の処理に進むことが一般的です。専門的な治療が不可欠であり、経験豊富なセラピストとの継続的な関わりが重要となります。

PTSDが生活に与える影響(How can PTSD affect a person’s life? / What is like to live with PTSD?)

PTSDは、単に過去の出来事に悩まされるだけでなく、現在の生活に広範かつ深刻な影響を及ぼします(How can PTSD affect a person’s life?)。PTSDとともに生きること(What is like to live with PTSD?)は、常に心身が緊張状態にあり、予測できない再体験や強い感情に翻弄されるという、非常に困難な状態です。その影響は、個人の内面だけでなく、周囲との関係や社会生活にも及びます。

人間関係への影響

PTSDの症状は、人間関係に大きな課題をもたらすことがあります。

  • 他者への不信感: トラウマ体験によって他者への基本的な信頼が損なわれ、「誰も信用できない」「人は自分を傷つける存在だ」といった信念を持つようになることがあります。これにより、新しい関係を築くことや、既存の関係を維持することが難しくなります。
  • 感情の表現の困難: 感情の麻痺や感情調整の困難から、自分の気持ちを適切に表現できなかったり、感情的になりすぎてしまったりすることがあります。これにより、周囲とのコミュニケーションがうまくいかなくなることがあります。
  • 回避行動: トラウマに関連する人や場所を避けるのと同じように、トラウマについて話すことを避けるため、親しい関係の中でも自分の内面を打ち明けられず、孤立を深めることがあります。
  • 過覚醒によるイライラや攻撃性: 常に緊張しているため、些細なことでイライラしたり、家族やパートナーに対して攻撃的な態度をとったりすることがあります。これにより、人間関係に摩擦が生じやすくなります。
  • 親密さへの抵抗: 性的被害などがトラウマ原因である場合、パートナーとの間で親密な関係を築くことに強い抵抗を感じることがあります。

これらの影響から、家族、友人、パートナーとの関係が悪化したり、引きこもりがちになったりして、孤立を深めてしまうことがあります。サポートを最も必要としている時に、人間関係の困難さからそれが得られにくくなるという悪循環に陥ることも少なくありません。

仕事や学業への影響

PTSDは、仕事や学業にも大きな影響を及ぼします。

  • 集中力・記憶力の低下: 過覚醒や侵入的な思考によって、物事に集中したり、新しい情報を覚えたりすることが難しくなります。
  • 睡眠障害による日中の機能低下: 悪夢や不眠によって十分に休息が取れず、日中の眠気や疲労感が強く、本来の能力を発揮できなくなります。
  • フラッシュバックやパニック: 職場や学校でトラウマに関連する刺激に触れた際にフラッシュバックを起こしたり、強いパニック発作を起こしたりすることがあり、業務や授業の遂行が困難になります。
  • 回避行動による欠勤や休学: トラウマに関連する状況を避けるために、会社や学校に行くこと自体が難しくなったり、特定の業務や活動に参加できなくなったりすることがあります。
  • 対人関係の困難: 同僚やクラスメートとのコミュニケーションがうまくいかず、孤立したり、軋轢を生じたりすることがあります。
  • 易怒性や攻撃性: 感情のコントロールが難しく、職場や学校での人間関係に問題を生じさせることがあります。

これらの影響により、仕事でミスが増えたり、納期を守れなくなったり、遅刻や欠勤が増えたりして、評価が下がったり、休職や離職、退学に追い込まれることもあります。本来持っている能力を発揮できなくなることは、本人の自信をさらに失わせ、回復への意欲を低下させる可能性があります。

しかし、適切な治療と周囲の理解、職場や学校での合理的配慮を得ることで、これらの影響を最小限に抑え、社会生活を継続していくことは十分に可能です。

PTSDに関する統計や事実(PTSD facts)

PTSDは、特定のトラウマ体験をした人に誰でも起こりうる精神疾患です。PTSDに関するいくつかの統計や事実(PTSD facts)を知ることで、この疾患に対する理解を深めることができます。

  • 有病率: 一般的な有病率は国や文化、調査方法によって異なりますが、生涯でPTSDを発症する人は、全人口の約1~10%程度と言われています。特定のトラウマ体験に暴露された人に限ると、発症率はより高くなります。例えば、戦闘経験のある兵士や性的被害のサバイバーでは、一般人口よりもはるかに高い発症率が報告されています。
  • 性差: 女性は男性よりもPTSDを発症するリスクが高い傾向があります。これは、女性の方が性暴力や虐待といった、よりPTSDを引き起こしやすい種類のトラウマに暴露される機会が多いことなどが要因と考えられています。
  • 発症時期: PTSDはトラウマ体験から比較的早期(数週間~数ヶ月以内)に発症することが多いですが、中には数ヶ月、あるいは数年以上経過してから症状が現れる「遅延型発症」のケースもあります。
  • 自然経過: PTSDの症状は、何も治療しなくても時間とともに自然に軽快していくケースも少なくありません。しかし、多くの場合、症状は長期間続き、適切な治療を受けなければ慢性化するリスクがあります。特に症状が重い場合や、複数のトラウマ体験がある場合、併存疾患がある場合には、自然寛解は期待しにくいです。
  • 併存疾患: PTSDは、他の精神疾患や身体疾患と併存しやすいことが知られています。うつ病、不安障害(パニック障害、社交不安障害など)、物質使用障害(アルコール依存症、薬物依存症など)、摂食障害、パーソナリティ障害(特に境界性パーソナリティ障害など)、慢性疼痛、線維筋痛症などが挙げられます。これらの併存疾患があると、PTSDの症状が複雑化したり、治療が難しくなったりすることがあります。
  • 自殺リスク: PTSDを抱える人は、そうでない人に比べて自殺のリスクが高いことが報告されています。特に重度の症状、併存疾患、サポートシステムの不足などがある場合には、そのリスクがさらに高まります。

これらの事実は、PTSDが比較的多くの人が経験しうる疾患であり、単独で存在することもあれば、他の困難を伴うこともある複雑な疾患であることを示しています。しかし、同時に、早期に適切な支援や治療にアクセスすることの重要性も示唆しています。

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よくある質問

PTSDについて

よくある質問

PTSDに関するよくある質問にお答えします。

トラウマ体験をすれば必ずPTSDになりますか?

いいえ、トラウマ体験をした人すべてがPTSDを発症するわけではありません。多くの人は、強い衝撃を受けても、時間とともに自然に回復する力(レジリエンス)を持っています。PTSDを発症するかどうかは、トラウマ体験の性質(重症度、反復性など)、個人の脆弱性(過去のトラウマ体験、精神疾患の既往など)、そして体験後のサポート体制(家族や友人、社会からの支援など)といった様々な要因が複雑に関係しています。トラウマ体験はPTSD発症の必要条件ですが、十分条件ではありません。

PTSDの症状はいつまで続きますか?

PTSDの症状の持続期間は個人によって大きく異なります。一部の人は数ヶ月で症状が自然に軽快することもありますが、適切な治療を受けない場合、症状が数年間、あるいはそれ以上にわたって慢性化するリスクがあります。特に症状が重い場合や、複数のトラウマ体験がある場合、併存疾患がある場合には、症状が遷延しやすい傾向があります。しかし、治療によって症状を軽減し、回復に向かうことは十分に可能です。

PTSDは完全に治りますか?

PTSDは、適切な治療を受けることで、症状が大幅に改善し、トラウマ体験による苦痛から解放され、充実した日常生活を送れるようになることが十分に期待できる疾患です。「完全に治る」という言葉の定義は難しいですが、多くの人が症状に悩まされることなく生活できるようになります。ただし、トラウマ体験の記憶そのものが消えるわけではありません。治療の目標は、トラウマ記憶によって現在の生活が支配される状態から脱却し、記憶と共存しながらも、過去ではなく現在に焦点を当てて生きていけるようになることです。回復には時間がかかる場合もありますが、諦めずに治療を続けることが重要です。

子供でもPTSDになりますか?

はい、子供もPTSDを発症します。虐待、事故、災害、いじめなど、子供にとって強い精神的衝撃となる出来事はPTSDの原因となります。子供のPTSDの症状は、大人とは異なった形で現れることがあります。例えば、遊びの中でトラウマ体験を繰り返し表現する、以前できていたことができなくなる(トイレの失敗など)、年齢に不相応なわがままや攻撃性を示す、将来についてのネガティブな考え方をするなどが挙げられます。子供の場合も、早期の発見と適切な治療が非常に重要です。

家族や友人がPTSDになったら、どう接すればいいですか?

家族や友人がPTSDになった場合、最も大切なのは理解とサポートです。症状によって本人が苦しんでいることを理解し、非難したり責めたりせず、辛い時にはそばにいる姿勢を示すことが重要です。無理にトラウマについて聞き出そうとせず、本人が話したい時に耳を傾けるようにしましょう。また、フラッシュバックやパニック発作が起きた際には、安全を確保し、落ち着くまで寄り添うなどの対応が必要です。専門機関での治療を勧めることも大切ですが、強制するのではなく、本人の意思を尊重しながらサポートしましょう。ご自身も、支援する中で心身の負担を感じることがあれば、無理せず休息を取ったり、他の人に助けを求めたりすることも忘れないでください。

どこで相談できますか?

PTSDの症状に悩んでいる場合や、心配な場合は、一人で抱え込まずに専門機関に相談することが重要です。

  • 精神科、心療内科: 医師による診察や診断、薬物療法や心理療法の提案を受けることができます。
  • 精神保健福祉センター: 各都道府県や政令指定都市に設置されており、心の健康に関する相談や情報提供を行っています。
  • 地域の保健センター: 地域住民の健康相談に応じており、必要に応じて専門機関を紹介してくれます。
  • 大学病院の精神科: より専門的な診断や治療が必要な場合、あるいは複雑なケースの場合などに適しています。
  • トラウマやPTSDを専門とするカウンセリングルームやクリニック: 心理療法を中心に治療を提供している機関です。

どこに相談すればいいか迷う場合は、まずは最寄りの精神保健福祉センターや保健センターに問い合わせてみるのも良いでしょう。

【まとめ】PTSDは理解と適切な治療で回復を目指せる疾患です

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、トラウマ体験後に発症する深刻な精神疾患ですが、決して治らない病気ではありません。再体験、回避、認知・気分の陰性変化、覚醒度・反応性の変化といった特徴的な症状は、ご本人にとって非常に苦痛を伴い、日常生活に大きな影響を及ぼしますが、これはトラウマに対する心身の自然な反応の一部でもあります。

この記事でご紹介したように、PTSDの原因となるトラウマは様々な種類があり、その診断はDSM-5などの基準に基づき専門家によって慎重に行われます。そして、効果が確立されている心理療法(トラウマ焦点化認知行動療法やEMDRなど)や、必要に応じて薬物療法、さらには日常生活でのセルフケアを組み合わせることで、症状を軽減し、回復へと向かうことが十分に可能です。複雑性PTSDのように、より包括的なアプローチが必要な場合もありますが、専門的な支援によって状況は改善します。

PTSDは、一人で抱え込むにはあまりにも辛い疾患です。症状に悩んでいる方、あるいは周囲に悩んでいる方がいる場合は、この記事で得た知識を参考に、ためらわずに精神科医や臨床心理士といった専門家にご相談ください。適切なサポートと治療を受けることが、トラウマによる苦痛から解放され、再び自分らしい人生を歩むための確かな一歩となります。

免責事項: 本記事の情報は、PTSDに関する一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや診断、治療を代替するものではありません。個別の症状や状況については、必ず医師や精神保健の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づくいかなる決定や行動によって生じたいかなる損害についても、当方は責任を負いかねます。

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