肝血管腫とは?良性でも大丈夫?原因・症状・治療法を解説

肝血管腫とは、肝臓の中にできる良性の腫瘍です。これは肝臓の実質細胞が増殖したものではなく、血管の細胞が異常に増殖してできる、血液が溜まった海綿状の塊のようなものです。多くの場合、健康診断などで偶然発見されることがほとんどで、特に症状がないまま経過します。

肝血管腫は悪性腫瘍(がん)とは異なり、周囲の組織に浸潤したり、他の臓器に転移したりすることはありません。また、基本的にがん化することもありません。そのため、多くの場合は治療の必要がなく、定期的な経過観察が行われます。

しかし、中には大きくなるものもあり、その大きさや発生した場所によっては、周囲の臓器を圧迫して症状を引き起こしたり、非常にまれではありますが破裂のリスクが生じたりすることもあります。この記事では、肝血管腫について、その原因や症状、診断方法、そして多くの人が気になる「肝臓がんとの違い」について詳しく解説します。また、大きさによる注意点や、どのような場合に治療が必要となるのか、その治療法についても触れていきます。もし肝血管腫を指摘されて不安を感じている方がいらっしゃれば、この記事を通じて正しい知識を得ていただき、適切な対応を考える一助となれば幸いです。

目次

肝血管腫の概要

肝血管腫は、肝臓内に発生する最も頻度の高い良性腫瘍です。これは文字通り、肝臓の血管が異常に拡張・増殖してできた血管の塊であり、血液が充満した状態になっています。その構造は、スポンジのように血管が複雑に絡み合ったものや、小さな袋状の血管の集まりなど、様々です。

肝血管腫は、大きさも数ミリ程度の非常に小さいものから、数十センチメートルに及ぶ巨大なものまであります。ほとんどの場合、発見されるのは数センチメートル以下の小さなものです。肝臓の中であればどの場所にでも発生する可能性がありますが、多くは肝臓の表面に近い部分に見られます。

この腫瘍が「良性」であるということは、非常に重要なポイントです。悪性腫瘍である肝臓がんのように、急激に増大したり、肝臓内の他の場所に広がったり(肝内転移)、肝臓から離れた肺や骨などに転移したりすることはありません。また、良性腫瘍が時間経過とともに悪性腫瘍に変化する「がん化」の報告も、肝血管腫においては極めて稀であり、一般的には考えられていません。

肝血管腫は珍しい?(発生頻度)

肝血管腫は、実はそれほど珍しい病気ではありません。一般的な健診などで腹部超音波検査が行われる機会が増えたことにより、偶然発見されるケースが増えています。複数の調査によると、健康な人の肝臓を調べた場合、数パーセントから最大で20パーセント程度の頻度で見つかるという報告もあります。これは、肝臓で見つかる腫瘍の中で最も頻度が高いことを意味します。

特定の年齢層に多いという傾向も見られます。一般的に、30歳から50歳くらいの中年期にかけて発見されることが多いとされています。また、男女差では、女性にやや多く見られる傾向があります。特に妊娠や女性ホルモンの治療を受けている女性で、肝血管腫が発見されたり、すでに存在していたものが大きくなったりすることがあるという報告もあり、女性ホルモンとの関連性が示唆されています。

このように、肝血管腫は特別な病気ではなく、比較的多くの人に見られる可能性のある病態です。発見されても、多くは小さく無症状であるため、治療の必要がない場合がほとんどです。このことは、肝血管腫を指摘された際の不安を軽減する上で理解しておくべき重要な点です。

肝血管腫の原因

肝血管腫がなぜできるのか、その明確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの可能性が考えられています。

最も有力な説の一つは、先天性(生まれつき)の血管の奇形であるという考え方です。胎児期に肝臓の血管が作られる過程で、何らかの異常が生じ、局所的に血管が過剰に増殖しやすい状態になった結果、成長とともに血管腫として目に見える大きさになるというものです。この説を裏付ける根拠として、乳幼児期に巨大な肝血管腫が見つかるケースがあることや、成人で複数の肝血管腫が同時に見つかるケースがあることなどが挙げられます。

また、ホルモンとの関連性も指摘されています。前述のように、女性に多く見られることや、妊娠・ホルモン治療で増大する可能性があることから、特に女性ホルモン(エストロゲン)が肝血管腫の発生や増殖に関与しているのではないかと考えられています。ただし、男性にも発生するため、ホルモンだけが原因とは言えません。

その他、まれなケースとして、特定の遺伝的な要因が関与している可能性も指摘されています。例えば、フォン・ヒッペル・リンドウ病のような特定の遺伝性疾患を持つ人に、肝血管腫を含む複数の臓器の腫瘍が発生することがあります。しかし、これはあくまで特殊なケースであり、一般的に見つかる肝血管腫のほとんどは、こうした遺伝性疾患とは関連がないと考えられています。

現時点では、これらの要因が単独であるいは複合的に影響して肝血管腫が発生すると考えられていますが、具体的な発生メカニズムについてはさらなる研究が必要です。

ストレスやアルコールは肝血管腫の原因になる?

肝血管腫の原因に関して、ストレスやアルコールが関与しているのではないかという疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在の医学的な知見では、ストレスやアルコールが直接的に肝血管腫を発生させる原因となるという明確な証拠はありません。

ストレスは様々な体の不調を引き起こす可能性がありますが、肝臓の血管の異常な増殖に直接的に結びつくメカニズムは考えにくいです。同様に、アルコールは肝臓に大きな負担をかけ、アルコール性肝炎や肝硬変、さらには肝細胞がんといった病気を引き起こす既知のリスク因子ですが、肝血管腫の発生原因としては考えられていません。

ただし、アルコール性肝炎や肝硬変など、他の肝臓の病気がある方が、健診などで肝血管腫を偶然発見されるという状況はあり得ます。これは、肝臓の病気自体が肝血管腫を発生させたわけではなく、肝臓の検査をする機会が増えたことで同時に見つかった、と考えるのが自然です。

つまり、肝血管腫は、私たちが普段の生活で避けることができるような特定の生活習慣(ストレスや飲酒など)によって引き起こされるものではない、と考えられています。もし肝血管腫を指摘されたとしても、それが過去の生活習慣のせいだと過度に心配する必要はありません。原因が不明であるため予防法も確立されていませんが、多くは良性であり、適切な診断と管理が重要となります。

肝血管腫の症状

肝血管腫の最も大きな特徴の一つは、ほとんどの場合が無症状であることです。多くの肝血管腫は、小さく、肝臓の機能にも影響を与えないため、本人が気づくことはありません。前述のように、健康診断や他の病気の検査で偶然発見されることが大半です。

無症状が多いが注意すべき症状とは?

無症状が基本である肝血管腫ですが、ごくまれに、特にサイズが大きくなった場合に症状が現れることがあります。一般的に、肝血管腫が5cmを超えるような大きさになると、周囲の臓器を圧迫する可能性が出てきます。これにより、以下のような症状が現れることがあります。

  • 腹部膨満感(お腹の張り): 巨大な血管腫が胃や腸を圧迫することで、お腹が張った感じがしたり、少し食事をしただけで満腹感を感じたりすることがあります。
  • 右上腹部痛または不快感: 肝臓は右上腹部に位置しており、血管腫が大きくなると肝臓を包む膜(グリソン鞘)を伸ばしたり、周囲の組織を圧迫したりすることで、鈍い痛みや重苦しい不快感を感じることがあります。
  • 吐き気や食欲不振: 胃や十二指腸が圧迫されると、吐き気を感じたり、食欲が低下したりすることがあります。
  • 早期満腹感: 少量の食事で満腹になってしまい、十分に食べられないことがあります。
  • まれな症状: 非常にまれですが、巨大な血管腫が胆管を圧迫して黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)を引き起こしたり、血管腫内で血液が固まることによって痛みが生じたりすることもあります。

これらの症状は、肝血管腫が原因で生じることもありますが、他の様々な消化器疾患や腹部の病気でも見られる一般的な症状です。したがって、これらの症状が現れたからといって、すぐに肝血管腫が原因だと断定することはできません。症状がある場合は、必ず医師の診察を受け、原因を特定することが重要です。

注意点として、肝血管腫があるからといって、これらの症状が必ず現れるわけではありません。たとえ5cm以上の大きさであっても、無症状のまま経過する方も多くいらっしゃいます。症状の出現は、血管腫の大きさだけでなく、位置や成長速度、個人の体質など、様々な要因が影響します。

背中の痛みは肝血管腫と関連がある?

肝血管腫と背中の痛みが直接的に関連することは、比較的稀です。肝臓は体の前面、特に右上腹部に位置しているため、肝臓に原因がある痛みは一般的に腹部や右側の側腹部に出ることが多いです。

ただし、例外的に、非常に巨大な肝血管腫がある場合には、間接的に背中の痛みと関連する可能性もゼロではありません。例えば、

  1. 圧迫による関連痛: 巨大な血管腫が、肝臓のすぐ上にある横隔膜を圧迫したり、背中側の神経に影響を与えたりすることで、関連痛として背部(特に右側の背中や肩甲骨の下あたり)に痛みを感じることがごくまれにあるかもしれません。
  2. 姿勢の変化: 巨大な血管腫による腹部の膨満感や不快感が原因で、無意識のうちに姿勢が変化し、その結果として背中の筋肉に負担がかかり痛みが生じるという間接的な関連も考えられます。

しかし、背中の痛みの原因としては、筋肉痛、脊椎の疾患(椎間板ヘルニア、変形性脊椎症など)、腎臓結石、膵臓の病気、肺の病気、帯状疱疹など、肝血管腫よりもはるかに頻度の高い原因がたくさんあります。

したがって、もし背中の痛みがある場合でも、それが直接的に肝血管腫によるものであると考える前に、まず整形外科や内科などで他の一般的な原因がないかを確認することが重要です。肝血管腫による背部痛はまれなケースであることを理解しておきましょう。不安な場合は、健康診断などで肝血管腫を指摘された際に、医師に背中の痛みについても相談してみるのが良いでしょう。

肝血管腫の診断方法

肝血管腫の多くは無症状であるため、診断されるきっかけは、健康診断や他の病気のために行われた画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査など)で偶然発見されるケースがほとんどです。これらの画像検査によって、肝臓内の腫瘍の存在が確認され、その特徴から肝血管腫である可能性が疑われます。

肝血管腫を診断するために最も一般的に行われる画像検査とその特徴について説明します。

  • 腹部超音波検査(エコー):
    • 最も簡便で体に負担の少ない検査です。健康診断で広く行われています。
    • 典型的な肝血管腫は、超音波画像上で周囲の肝臓組織よりも明るく(高エコー輝度)、境界が比較的はっきりとした円形または楕円形の病変として描出されることが多いです。
    • 血管腫内部に血液の流れを示す信号(カラードプラ)は、一般的に見られないか、あっても非常に少ないのが特徴です。
    • 小さすぎるもの(数ミリ以下)や、脂肪肝など他の肝臓の状態によっては典型的な見え方をしない場合(非典型的)もあります。
  • 造影CT検査:
    • X線とコンピューターを使って体の断面画像を詳しく描出する検査です。造影剤を静脈から注射することで、血管や臓器の血流を評価し、腫瘍の性質をより詳細に調べることができます。
    • 肝血管腫の造影CTでの典型的な特徴は、造影剤を注入すると辺縁から不均一に染まり始め、時間の経過とともに中心部に向かって染まりが広がり(求心性濃染)、最終的には全体が周囲の肝臓組織と同じくらいに染まる(等濃度)パターンを示すことです。
    • この特徴的な造影パターンは、肝臓がんなど他の腫瘍とは異なるため、鑑別に非常に有用です。
  • 造影MRI検査:
    • 磁力と電波を使って体の内部を画像化する検査です。造影剤を使用する場合と使用しない場合があります。CTよりも組織のコントラストに優れており、詳細な情報が得られます。
    • 肝血管腫のMRIでの典型的な特徴は、特にT2強調画像で非常に明るく(高信号)見えることです。これは血管腫内に血液が豊富に溜まっていることを反映しています。
    • 造影剤(ガドリニウム製剤)を使用した場合は、CTと同様に辺縁から求心性濃染を示し、診断的な特徴がより明確になります。
    • 造影MRIは、肝血管腫の診断において最も精度の高い検査の一つと考えられており、超音波やCTで診断が確定できない場合や、他の腫瘍との鑑別が難しい場合に特に有用です。

これらの画像検査の結果を総合的に評価することで、多くの肝血管腫は診断が確定されます。

まれに、画像検査のみでは他の腫瘍(特に atypcial な肝細胞がんなど)との鑑別が困難な場合があります。このような状況では、追加の検査として血管造影検査や、最終手段として肝生検(肝臓の組織を少量採取して顕微鏡で調べる検査)が検討されることもありますが、肝血管腫の場合は生検による出血のリスクがあるため、慎重に行われます。多くの場合、特徴的な画像所見から肝血管腫と診断され、生検は不要です。

診断に際しては、医師が患者さんの症状、既往歴、他の検査結果なども考慮し、総合的に判断を行います。

検査方法 特徴 肝血管腫の典型的な見え方 メリット デメリット 診断における役割
腹部超音波 音波を使用、簡便、被曝なし 高エコー輝度、境界明瞭な円形/楕円形。内部信号なし。 簡便、安価、被曝なし、繰り返し可 オペレーターの技量に左右される、小さいものは見えにくい スクリーニング、偶然発見のきっかけ、初期評価
造影CT X線を使用、造影剤使用 造影早期相:辺縁から染まる。遅延相:求心性に染まり中心部まで広がる。 広範囲を一度に撮像、比較的短時間 被曝あり、造影剤アレルギーリスク、腎機能への影響 詳細な評価、他の腫瘍との鑑別
造影MRI 磁力・電波を使用、造影剤使用(ガドリニウム) T2強調画像で高信号。造影後:辺縁から求心性濃染。 軟部組織のコントラストに優れる、被曝なし 検査時間が長い、高価、閉所恐怖症、体内金属の制限 最も診断能が高い、鑑別診断に最も有用な場合がある
血管造影 カテーテルを使用、造影剤使用 特徴的な造影パターン 診断と治療を同時に行える場合がある 侵襲的(カテーテル挿入)、合併症リスク 画像診断で困難な場合の追加検査、治療前評価
肝生検 組織採取 顕微鏡で組織診断 確定診断(ただし血管腫では稀) 出血リスク、侵襲的 画像診断で鑑別困難な場合の最終手段(慎重に行う)

上記のように、肝血管腫の診断には主に画像検査が用いられ、特に造影CTや造影MRIはその特徴的な見え方から診断に非常に役立ちます。

肝血管腫と肝臓がんの違い

肝血管腫を指摘された方が最も不安に思うことの一つが、「これはがんなのではないか」「がんに変わってしまうのではないか」という点でしょう。しかし、前述の通り、肝血管腫は肝臓がんと明確に異なる病気です。その違いを理解することは、不要な不安を解消する上で非常に重要です。

肝血管腫が癌である可能性は?

肝血管腫は良性腫瘍であり、癌(悪性腫瘍)ではありません。 肝血管腫が時間経過とともに悪性化して肝臓がんになる、というケースは医学的に確立された事実としては考えられていません。したがって、「肝血管腫が癌である可能性」や「肝血管腫が癌に変わる可能性」は、一般的には極めて低い、または無いと考えていただいて問題ありません。

一方、肝臓がん(主に肝細胞がん)は、肝臓の実質細胞が悪性化したもので、周囲組織への浸潤や遠隔転移を起こす可能性があります。肝臓がんの多くは、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの持続感染、アルコールの多飲、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)による肝硬変などを背景に発生することが多いです。

どうやって見分ける?

肝血管腫と肝臓がんは、画像検査によって特徴的な違いを示すため、多くの場合、画像診断で鑑別が可能です。

  • 超音波検査:
    • 肝血管腫: 典型的なものは、周囲より明るく(高エコー)、境界がはっきりしています。
    • 肝臓がん: エコーの強さは様々で、周囲との境界が不鮮明なこともあります。内部に血流信号が見られることが多いです。
  • 造影CT/MRI検査:
    • 肝血管腫: 造影剤が辺縁から染まり始め、ゆっくりと中心に向かって広がる(求心性濃染)パターンが特徴的です。遅延相では全体が周囲と同じ濃度になります。T2強調MRI画像で非常に明るく見えます。
    • 肝臓がん: 動脈相で強く染まり(早期濃染)、門脈相や平衡相では造影剤が洗い出されて周囲より暗くなる(wash out)パターンが特徴的です。これらの造影パターンは、肝血管腫とは全く異なります。
  • 腫瘍マーカー:
    • 肝血管腫: 特異的な腫瘍マーカーはありません。肝臓がんの診断に使われるAFP(アルファフェトプロテイン)やPIVKA-IIといった腫瘍マーカーは、肝血管腫では基本的に上昇しません。(ただし、肝臓がん以外の原因で上昇することもあるため、これらのマーカーが正常値だからといって肝臓がんを完全に否定できるわけではありません。)
    • 肝臓がん: AFPやPIVKA-IIといった腫瘍マーカーが上昇することが多く、診断や治療効果の判定に利用されます。
  • 肝生検:
    • 画像診断や腫瘍マーカーで鑑別が難しい場合に、最終的な診断のために肝生検が行われることがあります。組織を顕微鏡で観察すれば、血管腫か肝臓がんかを確定できます。
    • ただし、肝血管腫に針を刺すと出血のリスクがあるため、血管腫が強く疑われる場合には安易に生検は行われません。鑑別がどうしても必要な場合に、経験のある医師によって慎重に行われます。
特徴 肝血管腫 肝臓がん(肝細胞がん)
性質 良性腫瘍 悪性腫瘍
増大・転移 多くは緩徐な増大、転移しない 急速な増大、周囲浸潤、転移を起こす可能性あり
癌化 ほとんどしない(極めて稀) 細胞の悪性化そのもの
原因 不明(先天性、ホルモン関連などが示唆) B型・C型肝炎、アルコール、脂肪肝など(多くは肝硬変が背景)
症状 多くは無症状(巨大化で圧迫症状) 病期や場所による(症状が出にくいことも多い)
超音波画像 典型例:高エコー、境界明瞭 エコーは様々、境界不明瞭なことも。血流信号あり
造影CT/MRI 典型例:辺縁から求心性濃染、T2高信号 典型例:動脈相で早期濃染、遅延相でwash out
腫瘍マーカー 特異的なマーカーなし、AFP/PIVKA-II正常 AFP, PIVKA-IIなど上昇することが多い
肝生検 鑑別困難時に検討(出血リスクあり、稀) 確定診断に有用(画像診断で鑑別困難時など)

このように、肝血管腫と肝臓がんは、その性質も、画像検査での見え方も、発生の原因や背景となる肝臓の状態も大きく異なります。画像診断の専門家が、これらの特徴を総合的に評価することで、両者を正確に鑑別することが可能です。肝血管腫を指摘された場合でも、多くの場合は良性であり、過度に心配する必要はありませんが、正確な診断のためには適切な画像検査を受けることが重要です。

肝血管腫の大きさ

肝血管腫は、発見されるサイズが様々です。数ミリ程度の非常に小さいものから、10cmを超える巨大なものまであります。肝血管腫の大きさが、その後の管理方針や現れる症状、そしてリスクに大きく関わってきます。

どのくらいの大きさで注意が必要?

肝血管腫の大きさに関する明確な定義や基準は施設によって異なる場合もありますが、一般的に5cmを超えるものを「巨大肝血管腫(Giant Hemangioma)」と呼ぶことがあります。この5cmというサイズは、症状が現れやすくなる可能性や、ごくまれな合併症(破裂など)のリスクがわずかに高まる可能性がある、一つの目安と考えられています。

ただし、これはあくまで目安であり、5cmを超えたからといって必ず症状が出たり、すぐに危険になったりするわけではありません。血管腫の位置(肝臓のどの部分にあるか、他の臓器に近いか)や、短期間での増大傾向があるかどうかも、注意が必要かを判断する上で重要な要素です。例えば、5cm以下でも、胃や腸に近い位置にある場合は症状が出やすいかもしれませんし、10cm以上あっても全く無症状の方もいます。

大きくなるとどうなる?

肝血管腫が大きくなると、主に以下の二つの点で影響が出てくる可能性があります。

  1. 圧迫による症状の出現: 前述のように、巨大化した血管腫が周囲の胃、腸、横隔膜などを物理的に圧迫することで、腹部膨満感、痛み、吐き気、食欲不振といった症状が現れるリスクが高まります。
  2. 合併症のリスク(稀):
    • 血管腫内の血栓形成: 血管腫内の血液が滞りやすくなり、血栓(血の塊)ができることがあります。これにより、血管腫の内部や周囲に痛みが生じることがあります。
    • 出血(破裂): 最も懸念される合併症ですが、非常に稀です。巨大な血管腫が、外部からの強い衝撃(交通事故や重い腹部への打撃など)を受けたり、まれに自然に破裂したりすることで、血管腫から大量に出血することがあります。

自然に破裂するリスクは?

肝血管腫が自然に破裂するリスクは、極めて低いと考えられています。多くの肝血管腫は表面が厚い被膜で覆われており、構造が比較的しっかりしているため、自然に破れることはほとんどありません。

自然破裂のリスクがわずかに高まるとされるのは、以下のような特殊なケースに限られます。

  • 非常に巨大な血管腫: 特に10cmを超えるような巨大な血管腫は、内部の血流や圧力が高まるため、わずかに破裂のリスクが上がると言われることがあります。
  • 血管腫が肝臓の辺縁部など、外力の影響を受けやすい場所にある場合: 外部からの衝撃が伝わりやすい場所にあると、リスクが上がると考えることもできます。
  • 特定の病態: ごくまれに、血液凝固異常がある場合など、他の病態が関連する可能性も指摘されることがありますが、一般的ではありません。

しかし、たとえ巨大な血管腫であっても、自然に破裂する確率は非常に低く、必要以上に恐れる必要はありません。多くのケースでは、大きさが増しても症状が出ない限り、そのまま経過観察が続けられます。破裂のリスクが懸念されるような巨大な血管腫の場合には、予防的な治療が検討されることもあります(後述)。

肝血管腫の大きさが指摘されたら、まずは医師とよく相談し、現在のサイズ、位置、増大傾向、そして個々の状況におけるリスクについて正確な情報を得ることが大切です。

肝血管腫の治療法

肝血管腫の治療方針は、その大きさ、症状の有無、増大傾向、そして合併症のリスクによって決定されます。多くの場合は治療の必要がなく、経過観察となります。

経過観察となるケース

ほとんどの肝血管腫は、小さく(一般的に5cm以下)て無症状であるため、特別な治療は行われません。このようなケースでは、定期的な画像検査(超音波検査など)による経過観察が行われます。

経過観察の目的は、血管腫の大きさや性質に変化がないかを確認することです。最初の診断からしばらくの間(例えば半年後、1年後など)は比較的短い間隔で検査を行い、その後は変化がなければ1~2年に一度といった間隔で検査を行うことが多いです。これは、万が一、短期間で急激に大きくなったり、画像上の性質に変化が見られたりした場合に、他の腫瘍である可能性を否定したり、治療が必要な状態になっていないかを確認するためです。

経過観察で問題なく推移していれば、基本的に治療の必要はなく、そのまま安心して生活することができます。

治療が必要となるケース

肝血管腫に対して治療が必要となるのは、比較的まれなケースに限られます。主な治療適応となるのは以下のような場合です。

  • 巨大化による明らかな症状がある場合: 血管腫が大きくなり、周囲臓器の圧迫などによって、腹痛、腹部膨満感、吐き気、食欲不振などの症状が持続的に現れており、日常生活に支障をきたしている場合。
  • 短期間で急激に増大している場合: 急速な増大は、まれに他の悪性腫瘍である可能性を完全に否定できない場合や、将来的な症状出現・合併症のリスクを高める可能性があるため、治療が検討されることがあります。
  • 破裂リスクが高いと判断される場合: 非常に巨大な血管腫(特に10cm以上など)で、場所や形態から破裂のリスクが高いと判断される場合。ただし、破裂リスクの評価は慎重に行われます。
  • 画像診断でも他の腫瘍との鑑別が困難な場合: 画像検査で肝血管腫と肝臓がんなどの悪性腫瘍との鑑別がどうしてもつかない場合に、診断と治療を兼ねて切除や塞栓術が行われることがあります。

主な治療方法

治療が必要と判断された場合、病状や患者さんの全身状態に応じて、いくつかの治療法が選択肢となります。

  • 外科的切除(手術):
    • 血管腫そのものを肝臓の一部とともに切除する方法です。最も根治的な治療法です。
    • 大きな血管腫で症状が強い場合や、破裂リスクが懸念される場合などに適応となります。
    • 開腹手術または腹腔鏡手術で行われます。血管腫が大きい場合や、肝臓の深い部分にある場合は開腹手術となることが多いです。
    • 手術には麻酔や出血などのリスクが伴うため、患者さんの全身状態を十分に評価して適応が判断されます。
  • 肝動脈塞栓術(TAE):
    • 足の付け根などの動脈からカテーテルを挿入し、肝臓内の血管腫に栄養を供給している動脈を選択的に詰め物(塞栓物質)で塞ぐ治療法です。
    • 血管腫への血流を減らすことで、血管腫を縮小させる効果が期待されます。
    • 手術が困難な場合や、症状軽減を目的とする場合などに選択されることがあります。
    • 塞栓後、一時的な発熱や腹痛(塞栓後症候群)が起こることがあります。
  • 経皮的硬化療法:
    • 超音波ガイド下で、皮膚の上から血管腫に針を刺し、血管腫内に硬化剤(エタノールなど)を注入して血管腫を固める治療法です。
    • 比較的小さな血管腫で、場所が肝臓の表面に近く、安全に針を刺せる場合に適応となります。
    • 外来や短期入院で行われることが多く、比較的低侵襲な治療法です。
  • 薬物療法:
    • 特定の状況(例えば、非常に巨大な血管腫や、特定の症候群に関連するものなど)や、研究段階として薬物療法が試みられることもありますが、一般的な肝血管腫に対する標準的な薬物療法は確立されていません。
  • 放射線療法:
    • 放射線を照射することで、血管腫の縮小効果が期待されることが報告されています。
    • 手術や塞栓術が困難な場合などに検討されることがありますが、これも一般的な治療法とは言えません。

どの治療法を選択するかは、血管腫の性質、患者さんの状態、そして医療機関の設備や医師の専門性などを総合的に考慮して決定されます。

肝血管腫を小さくする方法はある?

「生活習慣や食事などで、肝血管腫を自然に小さくする方法はないか?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながら、医学的に効果が証明された、食事制限や特定の運動、サプリメントの摂取などによって肝血管腫を小さくする方法は、現在のところ確立されていません。

肝血管腫は血管の異常な増殖によってできた構造物であり、癌のように特定の薬剤が効くといった性質のものではありません。そのため、自力で血管腫を縮小させることは難しいと考えられています。

ただし、前述の治療法(肝動脈塞栓術や経皮的硬化療法)は、血管腫を小さくすることを目的としたものです。これらの治療は医療機関で専門的な手技によって行われるものであり、患者さん自身が自宅でできるものではありません。

経過観察中に血管腫の大きさに変化がないか、あるいは自然にわずかに縮小したように見えるというケースはありますが、これは病気の自然な経過の一部であり、特定の行動によるものではないと考えられています。

もし肝血管腫のサイズについて心配がある場合は、まずは主治医に相談し、ご自身の血管腫がどのような状況にあるのか、そして医学的な治療によって縮小を目指す必要があるのかどうかを確認することが最も適切です。自己判断で根拠のない方法を試みることは避けましょう。

肝血管腫に関するよくある質問

肝血管腫について、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめてみました。

  • Q1: 肝血管腫は遺伝しますか?
    A: 多くの一般的な肝血管腫は、遺伝性疾患との関連は低いと考えられています。特定のまれな遺伝性症候群に伴って発生するケースはありますが、親に肝血管腫があるからといって、その子供に必ず遺伝するというものではありません。ご家族に複数人見られる場合でも、体質的な要因が似ているといったことの方が考えやすいかもしれません。遺伝について特に懸念がある場合は、医師に相談してみてください。
  • Q2: 肝血管腫があると、何か気を付けるべき食生活はありますか?
    A: 肝血管腫があること自体によって、特別な食生活を送る必要があるという指示は一般的になされません。バランスの取れた健康的な食事を心がけることが重要です。ただし、もし肝血管腫以外に、肝硬変や脂肪肝といった他の肝臓の病気を合併している場合は、その病気に対する食事療法が必要となることがあります。
  • Q3: 妊娠中に肝血管腫が大きくなることはありますか?
    A: はい、妊娠中は女性ホルモンの影響で、すでに存在していた肝血管腫が大きくなる可能性があることが報告されています。妊娠中に肝血管腫が見つかったり、妊娠前からあったものが増大傾向を示したりした場合、産婦人科医と消化器内科医が連携して経過を観察することが重要です。巨大な血管腫がある場合は、妊娠・出産による腹圧上昇やホルモン変化が影響する可能性も考慮し、より慎重な管理が必要となることがあります。
  • Q4: 経過観察はどのくらいの頻度で行いますか?
    A: 経過観察の頻度は、肝血管腫の大きさ、初めて発見された時のサイズ、前回の検査からの変化の有無、そして患者さんの他の持病などを考慮して、医師が個別に判断します。一般的には、最初に発見された時は半年後、変化がなければ1年後、さらに変化がなければ1年〜数年ごとといった間隔で腹部超音波検査が行われることが多いです。これはあくまで一般的な目安であり、必ず医師の指示に従ってください。
  • Q5: 肝機能に影響はありますか?
    A: 小さな肝血管腫であれば、肝臓の実質細胞を破壊するわけではないため、肝機能に影響を与えることは基本的にありません。肝機能検査の値(AST, ALT, ビリルビンなど)が血管腫によって異常値を示すことは通常ありません。ただし、非常に巨大な血管腫で肝臓の大部分を占めるようなまれなケースでは、肝臓全体の機能に影響が出る可能性もゼロではありませんが、これは極めて稀な状況です。
  • Q6: スポーツや運動はしても大丈夫ですか?
    A: 小さな肝血管腫であれば、スポーツや運動を制限する必要は基本的にありません。通常の日常生活や運動は問題なく行えます。ただし、非常に巨大な(例えば10cmを超えるような)血管腫がある場合は、腹部に強い衝撃を受けるようなコンタクトスポーツ(ラグビー、格闘技など)や、腹部を強く圧迫するような運動(ウェイトリフティングなど)は、理論的に破裂のリスクをわずかに高める可能性も考えられます。このような場合は、医師と相談して、ご自身の血管腫のサイズや位置、リスクを考慮した上で、運動の種類や程度を決めるのが賢明です。

まとめと医療機関への相談

肝血管腫は、肝臓にできる最も頻度の高い良性腫瘍です。この記事で解説したように、

  • 多くの場合は無症状で、健康診断などで偶然発見されます。
  • 良性腫瘍であり、悪性化して肝臓がんになることは基本的にありません。肝臓がんとは画像検査などで明確に区別されます。
  • 原因は明確には分かっていませんが、先天性やホルモンの影響などが考えられており、ストレスやアルコールが直接の原因となるという証拠はありません
  • 多くの場合は小さく、治療の必要はなく、定期的な経過観察となります。
  • まれに大きくなり、周囲の臓器を圧迫して症状(腹部膨満感、痛みなど)が出ることがあります。
  • 自然に破裂するリスクは極めて低いですが、非常に巨大なものや外部からの強い衝撃があった場合には考慮すべきリスクとなります。
  • 治療が必要な場合は、手術、塞栓術、硬化療法などが選択肢となりますが、これは特別なケースに限られます。
  • 自分で肝血管腫を小さくする確立された方法はありません

肝血管腫は、発見された際に「腫瘍」という言葉から不安を感じやすいかもしれませんが、その性質を正しく理解すれば、多くの場合、過度に心配する必要がないことが分かります。

もし、健康診断などで肝血管腫を指摘されたり、腹部の症状があって検査を受けた結果肝血管腫が見つかったりした場合は、必ず医療機関(消化器内科など)を受診し、専門医の診断を受けることが最も重要です。医師は、画像検査の結果を詳しく評価し、それが本当に肝血管腫であるか、他の腫瘍の可能性はないか、大きさや位置、症状の有無などを総合的に判断した上で、今後の経過観察の方針や治療の必要性について説明してくれます。

自己判断で不安を抱え続けたり、根拠のない情報に惑わされたりせず、医療の専門家である医師に相談し、正確な情報と適切なアドバイスを得ることが、安心して過ごすための最善の方法です。ご自身の体の状態について疑問や不安があれば、遠慮なく主治医に質問してみましょう。

免責事項:
本記事は、肝血管腫に関する一般的な情報を提供することを目的としており、医学的な診断や治療方針を代替するものではありません。個々の症状や病状、体質は異なります。肝血管腫を指摘された場合や、関連する症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行われたいかなる行為についても、当方では責任を負いかねますのでご了承ください。

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