突発性難聴の初期症状と効果的な治療法|早期発見がカギ

突発性難聴とは?症状・原因・治療法を徹底解説

朝起きたら、あるいは仕事中に突然、片方の耳が聞こえにくくなった――。そんな経験はありませんか? もしそれが突然の出来事であれば、「突発性難聴」かもしれません。
突発性難聴は、ある日突然、原因不明の難聴が片耳に起こる病気です。発症後、治療開始までの期間が予後に大きく関わるため、早期に正確な情報を得て、迅速に医療機関を受診することが非常に重要となります。
この記事では、突発性難聴の症状から原因、診断方法、最新の治療法、そして回復の見込みや後遺症、日常生活で気をつけるべきことまで、専門的な知見に基づきながら、分かりやすく解説します。
耳の異変を感じたら、この記事を参考に、ぜひすぐに耳鼻咽喉科医にご相談ください。

目次

突発性難聴の概要と特徴

突発性難聴は、その名の通り「突然」発症する感音難聴です。感音難聴とは、音を脳に伝える神経や、音を感じ取る内耳(特に蝸牛という部分)の機能に障害が起こることで生じる難聴を指します。

この病気の最大の特徴は、その「突発性」と「原因不明(特発性)」という点にあります。明確な原因が特定できないにも関わらず、突然、それまで正常だった聴力が低下します。多くの場合、難聴は片側の耳に起こりますが、稀に両方の耳が同時に、あるいは時間差で影響を受けることもあります。

罹患率は年齢とともに上昇する傾向があり、働き盛りの世代から高齢者にかけて多く見られますが、若い世代や子供に起こることもあります。性別による明確な差は認められていません。

突発性難聴は、早期に適切な治療を開始すれば聴力が回復する可能性のある病気です。しかし、発症から時間が経過すると回復率が低下することが知られており、治療を始めるタイミングが予後を左右する非常に重要な要素となります。国の指定難病ではありませんが、早期診断と専門医による迅速な対応が求められる疾患です。

突発性難聴の主な症状

突発性難聴で経験する症状は、単に聞こえが悪くなるだけではありません。難聴に付随して、様々な不快な症状が現れることがあります。これらの症状は、内耳の障害に関連して起こることが多いです。

突然の難聴(片耳性が多い)

最も中心的な症状は、文字通り「突然」聞こえが悪くなることです。これは、数分、数時間、あるいは朝起きたら気づく、といったように、非常に短時間のうちに起こります。多くの場合、難聴は片側の耳に生じます。

  • 具体的な聞こえ方の変化:
    • 電話で話している相手の声が急に聞き取りにくくなった。
    • 音楽やテレビの音量が小さく感じるようになった。
    • 会話で相手の声がぼやけて聞こえる、または特定の子音が聞き取れない。
    • 高音や低音など、特定の周波数の音が聞こえにくくなった。
    • 両耳で聞くと、左右の音量や音質が明らかに違う。

難聴の程度は、全く聞こえなくなる「高度難聴」や「ろう」の状態から、特定の音だけが聞き取りにくい「軽度難聴」まで様々です。発症した難聴の程度も、予後を予測する上での一つの要素となります。

耳鳴り・耳の閉塞感

難聴とほぼ同時に、または難聴が起こる少し前から、耳鳴りや耳の閉塞感を感じることがよくあります。

  • 耳鳴り:
    • 「キーン」「ジー」「ブーン」といった機械音や電子音のような音が聞こえる。
    • 拍動性(ドクンドクンと脈打つような音)の耳鳴りも稀にあります。
    • 耳鳴りは難聴が重いほど強く感じやすい傾向がありますが、難聴が軽度でも耳鳴りが強い場合もあります。
    • 周囲が静かになると特に気になりやすく、睡眠を妨げることもあります。
  • 耳の閉塞感:
    • 耳の中に水が入ったような、あるいは膜が張ったような詰まった感じ。
    • 飛行機に乗った時のように耳抜きができないような不快感。
    • 自分の声が響いて聞こえる(自声強聴)場合もあります。

これらの症状は、内耳の蝸牛だけでなく、平衡感覚を司る前庭や聴神経にも異常が波及している可能性を示唆することもあります。

めまい・吐き気

突発性難聴の患者さんの約3割から半数程度に、めまいやそれに伴う吐き気が見られます。

  • めまいの種類:
    • 周囲や自分がぐるぐる回るような「回転性めまい」が典型的です。
    • 体がふわふわ浮いているような、あるいは傾いているような「浮動性めまい」の場合もあります。
  • めまいの特徴:
    • 通常、めまいは難聴の発症と同時期に現れます。
    • めまいは数日から1週間程度でピークを過ぎ、徐々に軽減していくことが多いですが、強いめまいは日常生活に大きな支障をきたします。
    • めまいがある場合は、内耳の平衡感覚を司る部分(前庭)も障害されている可能性が高く、一般的にめまいを伴わないケースと比較して聴力の回復がやや悪い傾向があると言われています。
  • 吐き気:
    • 強いめまいに伴って、吐き気や嘔吐を催すことがあります。

めまいは、難聴とともに突発性難聴の診断を強く疑う症状の一つです。

突発性難聴の初期症状チェック

もし以下の項目に一つでも当てはまる場合は、突発性難聴の可能性を考慮し、すぐに耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

チェック項目 詳細な確認ポイント
突然、片耳(または両耳)の聞こえが悪くなったか? 数分、数時間、遅くとも3日以内の間に、急に聴力の低下を感じたか?
電話で片耳で話すと聞き取りにくいか? いつも使っている方の耳でも、相手の声がぼやける、遠い、小さく感じるなどの変化があるか?
テレビや音楽の音量を今までより大きくしないと聞こえないか? 特に片耳だけで聞いたときに顕著な差があるか?
両耳で聞くと、左右で音量や音質に差を感じるか? 片耳ずつ交互に塞いで聞いてみると、左右で聞こえ方に違いがあるか?
耳鳴りを感じるか? 「キーン」「ジー」といった音が、特に静かな環境で気になるか?以前はなかった耳鳴りか?
耳が詰まったような感じ(閉塞感)があるか? 耳抜きをしても治らない、水が入ったような、膜が張ったような不快感があるか?
めまいを伴うか? ぐるぐる回るような回転性めまい、またはフワフワするような浮動性めまいが、難聴の発症と同時期に始まったか?
吐き気や嘔吐を伴うか? めまいが強い場合に、吐き気や実際に吐いてしまうことがあるか?

これらの症状は、突発性難聴以外の耳の病気(例えば、急性低音障害型感音難聴、メニエール病、外リンパ瘻、聴神経腫瘍など)でも起こり得ます。そのため、自己判断は禁物です。症状が現れたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科専門医の診断を受けることが最も重要です。

突発性難聴の原因

突発性難聴は「特発性」、つまり原因不明とされる病気です。これは、現代医学をもってしても、発症機序が完全に解明されていないことを意味します。しかし、長年の研究により、いくつかの有力な仮説や、発症に関連が指摘される要因が挙げられています。

原因不明(特発性)について

突発性難聴が原因不明とされる理由は、病変が非常にデリケートな内耳にあり、生きた状態でその発症過程を詳細に観察することが難しいこと、そして患者さんごとに病態が多様であることなどが挙げられます。多くの症例で特定の原因を断定できないため、診断基準上「原因不明の感音難聴」という定義が含まれています。

原因が特定できないからといって治療法がないわけではありません。これまでの臨床経験や研究に基づき、有効性が高いとされる治療法(主にステロイド療法)が確立されており、多くの患者さんで聴力の回復が期待できます。しかし、根本的な発症機序が不明であるため、再発予防や完全な治療法の開発にはまだ課題が残されています。

関連が指摘される要因(ウイルス感染、血流障害など)

原因不明とされながらも、多くの研究から突発性難聴の発症に関与している可能性が指摘されている要因がいくつかあります。

  • ウイルス感染説:
    • ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜの原因ウイルス)、麻疹ウイルスなどのウイルスが内耳に感染し、炎症や細胞障害を引き起こすという説が有力です。
    • 実際に、突発性難聴を発症する前に風邪のような症状があったり、血液検査で特定のウイルスの抗体価が上昇しているケースが見られます。
    • ウイルス感染によって内耳の有毛細胞(音を感じ取る細胞)や聴神経がダメージを受けると考えられています。
  • 内耳循環障害説:
    • 内耳は非常に細い血管から酸素や栄養を受け取っています。この血管の血流が悪くなることで、内耳の機能が低下するという説です。
    • 血管が痙攣したり詰まったりすることで、内耳に酸素や栄養が行き届かなくなり、有毛細胞などが壊死したり機能不全に陥ったりすると考えられています。
    • 動脈硬化、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がある方は、内耳の血管にも影響が出やすい可能性があり、発症リスクとの関連が指摘されています。
    • 急激な血圧変動や脱水なども、内耳の血流に影響を与える可能性があります。
  • 自己免疫疾患説:
    • 自己の免疫システムが誤って内耳の組織を攻撃してしまうことで炎症や障害が起こるという説です。
    • 関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど、他の自己免疫疾患を持つ方に突発性難聴が起こることがあり、関連性が指摘されています。
    • 両耳に発症する場合や、ステロイド治療への反応が乏しい場合に、自己免疫性内耳疾患として診断されることもあります。
  • その他:
    • 過労、睡眠不足、精神的ストレスなども、発症の誘因となる可能性が指摘されています。これらは自律神経の乱れを介して、内耳の血流悪化や免疫機能の変動に関与すると考えられています。
    • 急激な気圧変動(ダイビングや航空機搭乗時)や、強い音響曝露(ヘッドホンでの大音量など)も、稀に誘因となり得るとされていますが、これらは典型的な突発性難聴とは区別される場合もあります。

これらの要因は単独で作用することもあれば、複数組み合わさって発症に関与している可能性もあります。また、患者さん一人ひとりによって関わる要因が異なるため、一律に原因を特定するのが難しい現状があります。

ストレスとの関係性

突発性難聴の発症前に、大きな精神的ストレスや肉体的な疲労を感じていたという患者さんは少なくありません。医学的にも、ストレスが突発性難聴の発症に関与する可能性が指摘されています。

ストレスを受けると、体は「闘争か逃走か(fight or flight)」反応と呼ばれる生理的な変化を起こします。これは、危機を乗り越えるための体の適応反応ですが、慢性的なストレスは体に様々な悪影響を及ぼします。

  • 自律神経の乱れ: ストレスは交感神経を活性化させ、副交感神経とのバランスを崩します。これにより、血管が収縮しやすくなり、血圧が上昇したり、血流が悪くなったりすることがあります。内耳の非常に細い血管も例外ではなく、血流が悪くなることで細胞への酸素供給が滞り、機能障害を引き起こす可能性があります。
  • ホルモンバランスの変化: ストレスは、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌を増やします。これらのホルモンが免疫系や炎症反応に影響を与え、内耳に炎症を引き起こしたり、回復を妨げたりする可能性も考えられています。
  • 免疫機能の低下: 慢性的なストレスは免疫力を低下させることが知られています。これにより、通常なら問題にならないような軽度のウイルス感染でも、内耳に影響が出やすくなるのかもしれません。あるいは、自己免疫的な反応が起こりやすくなる可能性も指摘されています。

このように、ストレスは直接的に突発性難聴の原因となるわけではないかもしれませんが、体の防御システムを弱めたり、内耳の血流状態を悪化させたりすることで、突発性難聴を発症しやすい状態を作り出す誘因となり得ると考えられています。

突発性難聴の診断基準と検査

突発性難聴の診断は、患者さんの自覚症状、詳細な問診、そして客観的な聴力検査に基づいて行われます。特に、原因不明の「突然の」難聴であるという特徴が重要視されます。

診断基準

日本においては、厚生労働省の研究班によって定められた診断基準が広く用いられています。この基準は、突発性難聴を他の難聴疾患と区別するために設けられています。主な診断基準は以下の4つです。

  1. 突然の発症: 難聴が、数分、数時間、遅くとも3日以内という短期間のうちに生じること。
  2. 高度な感音難聴: 聴力検査で、ある程度以上の高度な(一般的には30dB以上の聴力低下が3連続した周波数で認められるなど)感音難聴が確認されること。
  3. 原因不明: 難聴を引き起こす明らかな原因(例えば、外傷、騒音曝露、耳垢塞栓、中耳炎など)が特定できないこと。
  4. 片耳性: 多くの場合、難聴が片側の耳に生じること(ただし、稀に両耳性のケースも存在することは認識されています)。

これらの基準を全て満たす場合に、「突発性難聴」と診断されます。問診では、難聴がどのように、いつから始まったのか、難聴以外の症状(耳鳴り、めまい、吐き気など)の有無、既往歴、服用中の薬、最近の体調、ストレスの有無などが詳しく聞かれます。

聴力検査

突発性難聴の診断において、聴力検査は最も基本的かつ重要な検査です。患者さんの自覚症状だけでは難聴の程度や種類を客観的に把握できないため、必ず行われます。

  • 標準純音聴力検査:
    • 最も一般的な聴力検査です。防音室に入り、様々な高さ(周波数)の「ピー」という音を聞き分け、聞こえたらボタンを押す、という形式で行われます。
    • 左右それぞれの耳について、低い音から高い音まで、どのくらいの小さな音量(dB:デシベル)まで聞こえるかを測定します。
    • この検査結果は「オージオグラム」というグラフに記録されます。オージオグラムを見ると、どの周波数でどの程度の難聴があるのか、難聴の形(どの音域が特に聞こえにくいか)が分かります。突発性難聴の場合、グラフ上で特定の周波数帯域で急激な聴力低下が見られることが多いです。
    • この検査は、突発性難聴の診断だけでなく、治療効果の判定や予後の予測にも用いられます。
  • 語音聴力検査:
    • 単語や文章を聞き取り、それを復唱する検査です。難聴の程度だけでなく、言葉の「聞き分け能力」を評価できます。
    • 感音難聴では、音が聞こえていても言葉として聞き取ることが難しい場合があります。この検査は、日常生活でのコミュニケーション能力を予測する上で有用です。

これらの聴力検査によって、難聴の程度、種類(感音難聴であるか)、そして左右差を客観的に評価し、診断基準への合致を確認します。

その他の検査

突発性難聴と診断するために必須ではありませんが、他の病気との鑑別や、病態の評価のために追加の検査が行われることがあります。

  • 耳鏡検査・内視鏡検査:
    • 外耳道や鼓膜の状態を目視で確認します。耳垢が詰まっていないか、鼓膜に炎症や穿孔がないかなどを調べ、伝音難聴の原因を除外します。
  • ティンパノメトリー:
    • 鼓膜や中耳の動きやすさを測定する検査です。中耳炎などによる伝音難聴がないかを確認します。
  • アブミ骨筋反射検査:
    • 大きな音を聞いたときに、アブミ骨筋という小さな筋肉が収縮する反射を測定します。聴力レベルや聴神経・脳幹の機能の一部を評価できます。
  • 聴性脳幹反応検査 (ABR/AABR):
    • クリック音などの刺激に対する脳幹の電気的な反応を記録する客観的な聴力検査です。意識の状態に関わらず聴力を推定できるため、乳幼児や検査に協力が難しい患者さん、聴神経の異常が疑われる場合などに行われます。
  • 内耳機能検査(平衡機能検査):
    • めまいを伴う場合に行われます。重心動揺計や眼振検査(フレンツェル眼鏡を用いたり、温度刺激を与えたりして眼球の動きを記録する)などを行い、平衡感覚を司る前庭系の機能を評価します。
  • 画像検査(MRIなど):
    • 突発性難聴と似た症状を引き起こす他の重篤な病気、特に聴神経腫瘍や脳血管障害などを除外するために行われます。MRIは、脳や聴神経の状態を詳細に映し出すことができるため、これらの病気の鑑別に非常に有用です。全ての突発性難聴患者さんに必須ではありませんが、聴神経腫瘍の可能性が比較的高いとされる片側性の感音難聴や、めまいを伴う場合などに考慮されます。
  • 血液検査:
    • ウイルス感染や自己免疫疾患が原因として疑われる場合、その可能性を調べるために行われることがあります。血糖値や脂質なども調べ、生活習慣病の関与を検討することもあります。

これらの検査を組み合わせて行うことで、突発性難聴を正確に診断し、他の疾患を除外し、適切な治療方針を決定します。

突発性難聴の治療法

突発性難聴の治療は、発症早期に集中的に行われることが重要です。主な治療法は薬物療法であり、特にステロイドが中心的に用いられます。

早期治療が重要な理由

突発性難聴において「早期治療」がこれほど強調されるのは、発症からの時間経過が聴力回復率に大きく影響するからです。一般的に、発症から1週間以内、遅くとも2週間以内に治療を開始することが望ましいとされており、この期間は「ゴールデンタイム」と呼ばれることもあります。

なぜ早期治療が効果的なのでしょうか。突発性難聴は、内耳の感覚細胞や神経が急激なダメージを受けて機能が低下する病気と考えられています。このダメージが、時間とともに不可逆的(元に戻せない状態)になる前に、集中的な治療で障害された部位の炎症を抑えたり、血流を改善したりすることで、細胞の機能を回復させる機会を最大限に活かすためです。

治療開始が遅れると、ダメージを受けた細胞が完全に機能停止したり壊死したりしてしまい、薬物療法による回復が難しくなる可能性が高まります。例えば、発症から数週間以上経過してから治療を開始した場合、1週間以内に開始した場合と比較して、聴力回復率は著しく低下することが多くの研究で示されています。

このため、「少し耳がおかしいな」「聞こえにくい気がするけれど、疲れているだけかな」などと自己判断せず、ためらわずにすぐに耳鼻咽喉科を受診し、専門医の診断を受けることが何よりも大切です。

ステロイド療法(点滴、内服、鼓室内注入)

ステロイド(副腎皮質ホルモン)は、突発性難聴の治療において最も広く用いられている薬剤であり、その有効性は多くの臨床試験で確認されています。ステロイドには、強力な抗炎症作用と免疫抑制作用があり、内耳の炎症を抑えたり、血流を改善したりすることで聴力回復を促すと考えられています。

ステロイドの投与方法には、主に以下の3つがあります。

  • 全身投与(点滴または内服):
    • 突発性難聴の標準的な治療法です。一般的に、発症早期には比較的高い用量のステロイドを短期間(例えば1週間程度)投与し、その後数日かけて徐々に減量していくという方法がとられます。
    • 点滴: 入院または外来の点滴室で行われます。血管に直接薬を入れるため、薬が全身に速やかに、かつ確実に行き渡るというメリットがあります。難聴の程度が重い場合やめまいが強い場合、または入院治療を選択した場合に、点滴治療が中心となります。
    • 内服: 自宅で内服薬を服用します。通院が難しい場合や、難聴の程度が比較的軽い場合、または点滴治療後の維持療法として選択されることがあります。
    • 副作用: 全身投与では、不眠、胃の不快感、血糖値の上昇、顔が丸くなる(ムーンフェイス)、易感染性などの副作用が現れる可能性があります。特に、糖尿病や高血圧、胃潰瘍などの持病がある方は注意が必要です。医師は患者さんの全身状態を考慮して、投与量や期間を調整します。自己判断での増量や急な中止は危険です。
  • 鼓室内注入療法:
    • 鼓膜に麻酔をした上で、細い針で鼓膜を介して中耳腔にステロイド薬を注入する方法です。注入された薬は、内耳の窓(正円窓や卵円窓)を通って内耳に直接到達すると考えられています。
    • メリット: 内耳に直接高濃度の薬を届けられるため、全身への副作用を最小限に抑えながら局所的に強力な効果を期待できます。
    • 適用: 全身ステロイド投与の効果が不十分であった場合や、糖尿病などで全身ステロイドを十分に使えない場合、または全身投与の副作用リスクが高い場合などに選択されることが多いです。
    • デメリット: 鼓膜穿孔(数日で自然に閉鎖することが多い)、鼓膜の痛み、注入時のめまいなどが起こる可能性があります。数回繰り返して行われるのが一般的です。

どの投与方法を選択するかは、難聴の程度、発症からの期間、めまいの有無、患者さんの全身状態や持病、ライフスタイルなどを総合的に考慮し、医師と相談して決定します。

その他の薬物療法(血管拡張薬、ビタミン剤など)

ステロイド療法と並行して、あるいは補助的に、他の種類の薬物が用いられることもあります。これらの薬は、内耳の環境を改善したり、神経の回復を助けたりする目的で使用されます。

  • 血管拡張薬:
    • 内耳の血流を改善することを目的とします。突発性難聴の原因の一つとして内耳の循環障害が考えられているため、血流を促進することで内耳細胞への酸素や栄養供給を増やし、機能回復を促すことを期待して用いられます。
    • 具体的には、アデノシン三リン酸(ATP製剤)、プロスタグランジンE1製剤などが用いられることがあります。
    • 副作用として、顔のほてりや動悸、頭痛などが出ることがあります。
  • 代謝賦活薬:
    • 内耳の細胞のエネルギー代謝を活発にすることを目的とする薬です。内耳の神経細胞や感覚細胞の機能を維持・回復させることを期待して用いられます。
    • 具体的には、コエンザイムQ10などが用いられることがあります。
  • ビタミン剤:
    • 特にビタミンB群(B1, B6, B12など)は、神経の機能維持や再生に関わるとされており、神経障害性の難聴や耳鳴りに対して用いられることがあります。突発性難聴で障害された聴神経や有毛細胞の回復を助ける目的で処方されることがあります。
  • 抗ウイルス薬:
    • ウイルス感染説に基づき、抗ヘルペスウイルス薬などが用いられることもありますが、全ての症例に有効であるとは限らず、その有効性についてはまだ議論の余地があります。ウイルス感染が強く疑われるケースで検討されることがあります。
  • めまいに対する薬:
    • めまいや吐き気が強い場合には、これらの症状を抑えるための薬(制吐剤、抗めまい薬など)が処方されます。

これらの薬物は、突発性難聴の病態や患者さんの状態に合わせて、ステロイドと組み合わせて使用されることが多いです。

最新治療について

突発性難聴に対して、従来の薬物療法以外の治療法も研究や臨床応用が進められています。

  • 高気圧酸素療法:
    • 通常の気圧より高い気圧の環境下で高濃度の酸素を吸入する治療法です。これにより、血液中に溶け込む酸素量を増やし、血流が悪くなっている内耳の組織に酸素を十分に供給することを目的とします。
    • 特に難聴の程度が重い症例や、ステロイドの効果が不十分な場合に検討されることがあります。発症から時間が経過していても効果が期待できる可能性が示唆されていますが、有効性についてはまだ確立されたコンセンサスが得られていない部分もあります。専門施設で行われる治療です。
  • 星状神経節ブロック:
    • 首にある星状神経節という交感神経の集まりに局所麻酔薬などを注射する治療法です。首や頭部、腕への血流を改善し、自律神経のバランスを整えることを目的とします。
    • 内耳の血流改善やストレス軽減効果を期待して、補助的な治療として行われることがあります。ペインクリニックや麻酔科、あるいは耳鼻咽喉科の一部施設で行われています。

これらの最新治療は、標準的な薬物療法で十分な効果が得られない場合や、特定の病態に対して追加的に考慮される治療法です。どの治療法が最適かは、個々の患者さんの状況や、主治医の判断によって異なります。

入院治療の適応

突発性難聴の治療は外来で行われることも多いですが、以下のような場合には入院治療が推奨されることがあります。

  • 難聴の程度が重い: 高度難聴やろうの状態に近い場合、集中的な治療が必要となるため入院が考慮されます。
  • めまいが強い: 強いめまいは日常生活に大きな支障をきたし、安静が必要となるため入院が適しています。吐き気や嘔吐が激しい場合も脱水などを防ぐため入院が考慮されます。
  • 点滴による全身ステロイド療法が必要: 高用量のステロイドを確実に投与するために、入院して点滴を受けるのが一般的です。
  • 全身状態が不良: 他の持病がある、体力が著しく低下しているなど、安静が必要な場合や全身管理が必要な場合に検討されます。
  • 精神的な負担が大きい: 突然の難聴やめまいによる不安が強い場合、入院して心身ともに安静にすることで回復を促すことがあります。
  • 外来での通院や安静が困難: 仕事が忙しい、自宅で安静にできる環境にないなど、外来治療では十分な治療効果や安静が得られにくい場合に、入院が推奨されることがあります。

入院治療のメリットは、何よりも心身ともに安静にできること、そして医師や看護師の管理のもとで確実に治療薬を投与できることです。これにより、治療効果を最大限に引き出し、副作用などにも迅速に対応することが可能となります。入院期間は、難聴の程度や治療への反応によりますが、通常1週間から2週間程度となることが多いです。

突発性難聴の予後と回復期間

突発性難聴を発症した場合、聴力がどの程度回復するか、そしてどのくらいの期間で回復するのかは、多くの患者さんにとって最大の関心事です。しかし、予後は個人差が大きく、残念ながら全ての人が完全に聴力を取り戻せるわけではありません。

治る可能性・回復率

突発性難聴の予後については、一般的に「3分の1ルール」という目安が知られています。これは、約3分の1の患者さんが完全に聴力を回復し、約3分の1の患者さんがある程度聴力が回復するものの軽度の難聴や耳鳴りが残る(軽快)、そして残りの約3分の1の患者さんでは残念ながら聴力の回復が乏しいか、あるいは悪化する(不変・悪化)というものです。ただし、これはあくまで統計的な傾向であり、個々の患者さんの予後を正確に予測することは困難です。

予後が良いとされる因子としては、以下のようなものがあります。

  • 発症から治療開始までの期間が短い: 前述の通り、発症から1週間以内の治療開始が最も予後が良いとされています。
  • 難聴の程度が軽い: 発症時の難聴が軽度であるほど、回復しやすい傾向があります。
  • 難聴のタイプ: 低音部のみが障害される「低音障害型」は、比較的予後が良いとされています。一方、高音部や全音域が障害される場合は、回復が難しい傾向があります。
  • めまいを伴わない: めまいを伴うケースは、伴わないケースと比較して聴力回復率が低い傾向があります。
  • 年齢が若い: 一般的に、高齢者よりも若い世代の方が回復しやすい傾向があります。
  • ステロイド療法への反応が良い: 治療開始後比較的早期に聴力の改善が見られる場合、その後の回復も期待しやすいです。

逆に、予後が悪いとされる因子は、発症から治療開始までの期間が長い、難聴が高度である、高音障害型や全音域型の難聴である、めまいを伴う、高齢である、糖尿病などの合併症がある、などが挙げられます。

重要なことは、たとえ予後不良因子があっても、早期に適切な治療を開始することで回復の可能性を高めることができるということです。諦めずに治療に専念することが大切です。

完治までの期間(何日くらいで治る?)

聴力が回復するまでの期間も個人差がありますが、一般的に治療開始から1週間〜1ヶ月程度の間に回復の傾向が見られることが多いです。

  • 初期の回復: 治療開始後、数日から1週間程度で聴力改善の兆候が現れることがあります。
  • 主な回復期: 多くの症例で、発症から1ヶ月以内に聴力の回復がほぼ止まるとされています。この期間でどれだけ回復するかが、最終的な予後を大きく左右します。
  • 緩やかな回復: 稀に、1ヶ月を過ぎても数ヶ月かけてゆっくりと聴力が改善していくケースも見られます。しかし、発症から3ヶ月以上経過すると、それ以降の自然回復や治療による大きな改善は難しくなる傾向があります。

治療期間中は、主治医の指示に従ってしっかりと薬を服用し、安静を保つことが重要です。定期的に聴力検査を行い、回復の状況を確認しながら治療方針が調整されます。

後遺症(難聴、耳鳴り)について

残念ながら、突発性難聴の治療を受けても、一部の患者さんには後遺症が残ることがあります。主な後遺症は「難聴」と「耳鳴り」です。

  • 難聴:
    • 聴力が完全に回復しなかった場合、様々な程度の難聴が後遺症として残ります。軽度の難聴でも、特定の周波数だけが聞こえにくい場合や、言葉の聞き分けが難しい(歪んで聞こえる、雑音に紛れて聞き取りにくいなど)場合があります。
    • 難聴の程度によっては、日常生活でのコミュニケーションに支障をきたすことがあります。特に、静かな環境では問題なくても、騒がしい場所での聞き取りに苦労することが多いです。
    • 残存する難聴に対しては、補聴器の装用が有効な場合があります。耳鼻咽喉科医と相談し、聴力に合った補聴器を選ぶことで、聞き取り能力を改善し、QOLを向上させることが期待できます。高度な難聴やろうの場合には、人工内耳が適応となるケースもあります。
  • 耳鳴り:
    • 難聴が回復しても、耳鳴りだけが残存する患者さんは少なくありません。耳鳴りの音や大きさは様々で、常に鳴っている場合もあれば、特定の状況(静かな場所など)で強くなる場合もあります。
    • 耳鳴りは医学的に「幻聴」の一種であり、内耳や聴神経がダメージを受けたことで、本来ないはずの音が脳で作り出されてしまうと考えられています。
    • 耳鳴り自体を完全に消す薬や治療法はまだ確立されていませんが、耳鳴りに慣れて気にならなくするための「耳鳴り順応療法(TRT療法)」や、耳鳴りを和らげるための対症療法があります。
    • 対処法:
      • 音響療法: 小さな音(自然音や音楽など)を流して耳鳴りを紛らわせる方法。耳鳴りが気になる静かな環境で特に有効です。
      • カウンセリング: 耳鳴りに対する不安や苦痛を軽減するための心理的なサポート。耳鳴りのメカニズムを理解し、上手に付き合っていく方法を学びます。
      • 薬物療法: 不安を抑える薬や睡眠導入剤、血流改善薬などが、耳鳴りの苦痛を和らげる目的で補助的に用いられることがあります。
      • 補聴器: 難聴がある場合、補聴器で音を補うことで耳鳴りが軽減されることがあります。一部の補聴器には、耳鳴りをマスキングする機能(耳鳴り治療器)が搭載されているものもあります。

耳鳴りがつらい場合は、我慢せずに耳鼻咽喉科医に相談し、適切な対処法や治療法についてアドバイスを受けることが大切です。

また、めまいが後遺症として残ることもあります。平衡機能が完全に回復しない場合、フワフワした浮動性めまいや、体の揺れを感じることがあります。この場合、平衡機能を改善するためのリハビリテーション(めまい体操など)が有効なことがあります。

突発性難聴の悪化を防ぐために「やってはいけないこと」

突発性難聴の治療期間中や、回復途上においては、病状の悪化や再発(稀ではありますが)を防ぐために、日常生活でいくつかの注意が必要です。特に、内耳の血流や神経機能に悪影響を与える可能性のある行為は避けるべきです。

耳の血流を悪くする行為(タバコ、無酸素運動など)

内耳への血流は非常にデリケートであり、血流が悪化すると病状の回復を妨げたり、悪化させたりする可能性があります。以下の行為は耳の血流を悪くする可能性が指摘されています。

  • 喫煙: タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させる作用があり、全身の血流を悪化させます。内耳の細い血管も収縮し、血流障害を引き起こす可能性が高まります。治療期間中は禁煙することが強く推奨されます。
  • 過度の飲酒: 少量の飲酒はリラックス効果をもたらす可能性もありますが、過度の飲酒は血圧を上昇させたり、脱水を引き起こしたりすることで、内耳の血流に悪影響を与える可能性があります。適量に留めるか、治療期間中は控えるのが賢明です。
  • カフェインの過剰摂取: カフェインにも血管収縮作用があるため、大量のコーヒーやエナジードリンクなどの摂取は避けた方が良いでしょう。
  • 過度な無酸素運動: 短時間で強い負荷をかける無酸素運動(筋力トレーニングなど)は、一時的に血圧を急上昇させることがあります。これにより内耳の血流に影響を与える可能性が指摘されています。ただし、適度な有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギングなど)は全身の血行促進に繋がるため、体調を見ながら行うことは良いとされています。どのような運動が良いか、主治医に相談すると安心です。
  • 冷え: 体が冷えると血管が収縮し、血行が悪くなります。特に首周りや耳を冷やさないように注意し、体を温かく保つように心がけましょう。
  • 睡眠不足・過労: 十分な睡眠と休息は、体の回復にとって不可欠です。睡眠不足や過労は自律神経の乱れを招き、血流悪化や免疫機能の低下に繋がり、病状の回復を妨げる可能性があります。治療期間中は、できるだけ安静に努め、十分な睡眠時間を確保しましょう。

過度なストレスや疲労

突発性難聴はストレスとの関連が指摘されている病気です。治療期間中や回復期に過度なストレスや疲労を抱えると、自律神経のバランスが再び崩れ、内耳の状態に悪影響を与えたり、耳鳴りなどの症状を悪化させたりする可能性があります。

  • 精神的ストレス: 仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、病気そのものに対する不安など、様々な精神的ストレスが回復を妨げる要因となり得ます。可能な範囲でストレスの原因を取り除いたり、ストレス解消法を見つけたりすることが大切です。
  • 肉体的疲労: 睡眠不足、長時間の労働、無理な運動などは肉体的な疲労を蓄積させます。体力を消耗すると、内耳を含む全身の回復力が低下します。

治療期間中は、仕事や家事の量を調整し、積極的に休息をとるようにしましょう。また、病状に対する不安は専門医や家族、友人など信頼できる人に相談することで軽減されることがあります。

自己判断での治療中断や放置

突発性難聴は、早期に適切な治療を開始することが予後を左右する重要な病気です。しかし、「少し症状が軽くなったから大丈夫だろう」「忙しいから後回しにしよう」と自己判断で治療を中断したり、医療機関を受診せずに放置したりすることは、絶対に避けるべきです。

  • 治療中断のリスク: ステロイド療法など、突発性難聴の治療薬は一定期間継続して服用することで効果を発揮します。症状が少し改善したからといって自己判断で薬を中止すると、十分な回復が得られなかったり、逆に症状が悪化したりする可能性があります。特にステロイドは、急に中止すると体の不調を引き起こすことがあるため、必ず医師の指示に従って減量・中止する必要があります。
  • 放置のリスク: 突発性難聴の症状を放置し、治療開始が遅れると、聴力が回復する可能性が著しく低下します。内耳の障害が不可逆的になってしまうと、その後の治療を行っても十分な効果が得られず、永続的な難聴や耳鳴りの後遺症が残るリスクが高まります。発症から数週間以上経過してからでは、治療を行っても回復が見込めない場合が多いです。

耳の聞こえに少しでも異変を感じたら、「様子を見よう」と思わずに、すぐに耳鼻咽喉科を受診することが最も大切です。専門医の診断を受け、適切な治療方針を立ててもらいましょう。

突発性難聴かもしれないと感じたら:すぐに医療機関を受診を

「もしかして突発性難聴かも?」と感じたら、何よりも優先して行うべきことは、すぐに耳鼻咽喉科を受診することです。発症からの時間経過が予後を大きく左右する病気だからこそ、迅速な対応が求められます。

  • なぜすぐに受診が必要か?:
    • 突発性難聴の治療は、発症から1週間以内、遅くとも2週間以内が最も効果が高い「ゴールデンタイム」とされています。この期間を過ぎると、内耳の障害が固定化し、治療を行っても聴力が回復する可能性が著しく低下してしまいます。
    • 突発性難聴以外の病気である可能性も否定できません。突然の難聴やめまいは、外リンパ瘻、メニエール病、聴神経腫瘍、さらには脳卒中などの命に関わる病気の症状である可能性も稀にあります。正確な診断を早期に受けることが、適切な治療につながり、場合によっては命を救うことにも繋がります。
  • 何科を受診すべきか?:
    • 耳の症状、特に難聴や耳鳴り、めまいは、耳鼻咽喉科の専門領域です。耳鼻咽喉科医は、耳の構造や機能に関する専門的な知識と、突発性難聴を含む様々な耳の病気を診断・治療する経験を持っています。必ず「耳鼻咽喉科」を受診してください。かかりつけ医や内科医に相談するよりも、直接耳鼻咽喉科を受診する方が時間のロスを防ぎ、早期の専門的な診断・治療に繋がりやすいです。
    • もし夜間や休日で耳鼻咽喉科の外来が開いていない時間帯に急な高度難聴や強いめまいが生じた場合は、救急外来での対応が可能か、地域の救急相談窓口に問い合わせてみることも検討しましょう。
  • 受診時に伝えるべきこと:
    • いつから、どのような症状(難聴、耳鳴り、耳閉感、めまい、吐き気など)が始まったのか。
    • 難聴は片耳か両耳か、どちらの耳か。
    • 難聴はどのように始まったのか(朝起きたら、急に、徐々になど)。
    • 最近の体調(風邪症状の有無など)、ストレスや疲労の状況。
    • これまでの病歴や現在服用中の薬。
    • アレルギーの有無。

これらの情報を正確に伝えることで、医師は適切な診断と治療方針を立てやすくなります。

「少しだけだし、もう少し様子を見よう」「疲れているだけだろう」という考えは、突発性難聴においては非常に危険です。数日の遅れが、その後の聴力に大きく影響する可能性があります。耳の異変を感じたら、「すぐ受診する」ことを強く意識してください。

突発性難聴についてよくある質問

突発性難聴に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q: 突発性難聴は子供にも起こりますか?

A: はい、突発性難聴は稀ですが子供にも起こることがあります。大人の場合と同様に突然難聴が生じますが、子供の場合は自分で症状をうまく伝えられないこともあります。テレビの音を大きくする、話しかけても反応しない、返事をしない耳がある、といった様子に気づいたら、突発性難聴を含む耳の病気を疑い、すぐに耳鼻咽喉科を受診させてください。診断や治療は、年齢や全身状態に合わせて行われます。

Q: 突発性難聴は再発しますか?

A: 一般的に、突発性難聴は一度治癒すると再発しない病気とされています。しかし、稀に反対側の耳に突発性難聴を発症したり、ごく稀に同じ耳に再度難聴が生じたりする可能性もゼロではありません。もし同様の症状を繰り返す場合は、メニエール病や自己免疫性内耳疾患など、突発性難聴とは異なる病気の可能性も考慮し、精密検査が行われることがあります。

Q: 両耳同時に突発性難聴になることはありますか?

A: 非常に稀ですが、「両耳性突発性難聴」という病態も存在します。これは突発性難聴全体の1〜2%程度とされています。両耳同時に、または片耳に発症した後比較的短期間にもう片方の耳にも難聴が生じます。両耳性の場合、背景に自己免疫疾患などの全身性の病気が隠れている可能性も考慮し、より詳しい検査が必要となることが多いです。

Q: 突発性難聴の治療は保険適用されますか?

A: はい、突発性難聴は病気として診断されれば、通常の公的医療保険が適用される病気です。そのため、医療費は保険の負担割合(通常3割)に応じて支払うことになります。入院治療や高気圧酸素療法なども、医師が必要と判断し保険適用のある施設で行われれば、保険診療となります。

Q: 聴力は完全に元に戻らなくても、日常生活に支障がない程度まで回復することはありますか?

A: はい、十分にあり得ます。突発性難聴では、聴力検査上のオージオグラムが完全に正常値に戻らなくても、日常生活での会話や音の聞き取りが問題ないレベルまで回復するケースは多く見られます。特に片耳が正常であれば、もう片耳に多少難聴が残っても、日常生活に大きな支障がないと感じる方もいらっしゃいます。どのようなレベルまで回復すれば日常生活に困らないかは個人差があり、難聴の程度や、どの周波数が聞こえにくいかによっても異なります。

Q: 耳鳴りが残った場合、どうすれば良いですか?

A: 突発性難聴の後遺症として耳鳴りが残ることは少なくありません。耳鳴り自体を完全に消す治療法はまだありませんが、耳鳴りによる苦痛を和らげ、上手に付き合っていくための方法はあります。耳鼻咽喉科医に相談し、耳鳴り順応療法(TRT療法)、音響療法、カウンセリングなどの専門的なアプローチや、必要に応じて薬物療法、補聴器の使用などを検討してください。耳鳴りは不安やストレスによって悪化しやすいため、心身のリラックスも大切です。

Q: 治療中に気をつけることはありますか?

A: 主治医の指示に従って、処方された薬を正確に服用することが最も重要です。ステロイドなど副作用が出やすい薬もあるため、体調の変化があればすぐに医師や薬剤師に相談してください。また、十分な睡眠をとり、過労やストレスを避け、禁煙を心がけるなど、内耳の血流を保ち回復を助ける生活習慣を維持することが推奨されます。

【まとめ】突発性難聴かもしれないと感じたらオンライン診療で!

突発性難聴は、突然発症する原因不明の感音難聴であり、早期治療が聴力回復の鍵となる病気です。難聴だけでなく、耳鳴りや耳閉感、めまいを伴うこともあります。診断は、詳細な問診と聴力検査が中心となり、必要に応じて他の検査が行われます。

治療の主体はステロイド療法であり、点滴、内服、鼓室内注入といった様々な方法で投与されます。血管拡張薬やビタミン剤などが補助的に用いられることもあります。重症例やめまいが強い場合は入院治療が検討されます。発症から時間が経つほど聴力回復率は低下するため、症状に気づいたら「すぐに」医療機関を受診することが何よりも重要です。

予後には個人差があり、約3分の1が完治、約3分の1が軽快、約3分の1が不変・悪化するとされています。残念ながら難聴や耳鳴りが後遺症として残ることもありますが、適切な対処法や補聴器などでQOLを維持・向上させることが可能です。治療期間中や回復期には、過労やストレスを避け、禁煙するなど、内耳の血流を保ち回復を助ける生活習慣を心がけましょう。自己判断での治療中断や放置は絶対に避け、必ず専門医の指示に従ってください。

耳の異変を感じたら、迷わず耳鼻咽喉科を受診しましょう。早期の正確な診断と適切な治療が、あなたの聴力を守るために不可欠です。

免責事項: 本記事は突発性難聴に関する一般的な情報を提供するものであり、個別の診断や治療法を推奨するものではありません。ご自身の症状については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。記事内の情報は医学的な見解に基づき執筆されていますが、医療は日々進歩しており、また病状には個人差があります。本記事の情報に基づいた自己判断による健康被害については責任を負いかねますのでご了承ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次