全身がかゆいと感じる時、その原因は一つだけとは限りません。ただの乾燥や一時的な刺激によるものから、体の内側に隠れた病気のサインである可能性まで、様々な要因が考えられます。かゆみは日常生活に大きな支障をきたし、QOL(生活の質)を著しく低下させることがあります。この記事では、全身のかゆみが起こる主な原因や、症状ごとの見分け方、考えられる病気、そしてご自身でできる対処法や、医療機関を受診する目安について詳しく解説します。つらいかゆみにお悩みの方は、ぜひ最後までお読みいただき、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
全身かゆみの原因はさまざま
全身のかゆみは、皮膚自体に原因がある場合と、皮膚以外の体の内部に原因がある場合があります。ここでは、比較的よく見られる原因から解説します。
乾燥性皮膚炎によるかゆみ
空気が乾燥する秋冬に特に増えるのが、皮膚の乾燥によるかゆみです。肌の表面にある角層は、外部からの刺激を防ぎ、内部の水分が蒸発するのを防ぐ「バリア機能」の役割を担っています。しかし、乾燥によってこのバリア機能が低下すると、わずかな刺激にも敏感になり、かゆみを感じやすくなります。
乾燥性皮膚炎によるかゆみは、特にすねや腕、背中など、皮脂腺が少ない部位に起こりやすい傾向があります。見た目には軽い粉ふき程度でも、強いかゆみを伴うことがあります。掻きむしると皮膚が傷つき、さらにバリア機能が低下するという悪循環に陥りやすいのが特徴です。高齢者の方に多く見られますが、若い方でも間違ったスキンケアや生活習慣によって乾燥が進み、かゆみを引き起こすことがあります。
アレルギー反応によるかゆみ
特定のアレルゲン(アレルギーの原因物質)に触れたり、吸い込んだり、食べたりすることで、免疫システムが過剰に反応し、かゆみを伴う皮膚症状が現れることがあります。アレルギーによるかゆみは、しばしば発疹(ぶつぶつやみみずばれなど)を伴います。
- 接触性皮膚炎(かぶれ): 特定の物質(植物、金属、化粧品、洗剤、薬剤など)が皮膚に触れることで起こります。全身にかゆみが出ている場合は、衣類に付着した洗剤残りや柔軟剤、全身に塗った化粧品や薬剤などが原因である可能性も考えられます。
- 蕁麻疹(じんましん): 突然、皮膚の一部または広範囲が赤く盛り上がり(膨疹)、強いかゆみを伴います。数時間以内に消えるのが特徴ですが、繰り返し現れることもあります。食物、薬剤、温度変化、圧迫、ストレスなど、様々な原因によって引き起こされます。
- アトピー性皮膚炎: 遺伝的な要因やアレルギー体質などが関連して起こる慢性的な皮膚の炎症です。強いかゆみを伴う湿疹が、体の様々な部位に左右対称に現れることが多いです。皮膚のバリア機能が低下しているため、乾燥やかゆみが生じやすくなっています。
- 食物アレルギー: 特定の食物を摂取した後、全身のかゆみや蕁麻疹、呼吸器症状、消化器症状などが現れることがあります。
ストレスや精神的な要因
精神的なストレスや不安は、自律神経のバランスを乱し、かゆみを引き起こしたり悪化させたりすることがあります。ストレスによって脳内のかゆみを感じる回路が活性化されたり、皮膚のバリア機能が低下したりすると考えられています。
精神的な要因によるかゆみは、特に発疹を伴わないことが多いですが、掻きむしりによって皮膚が傷つき、湿疹や色素沈着が生じることもあります(心因性掻痒症など)。また、かゆみがあること自体が新たなストレスとなり、さらにかゆみがひどくなるという悪循環に陥ることもあります。
薬剤が原因のかゆみ
内服薬や外用薬の中には、副作用としてかゆみを引き起こすものがあります。薬疹(やくしん)と呼ばれるもので、薬剤に対するアレルギー反応の一種です。全身にかゆみを伴う様々なタイプの皮疹が現れることがあります。薬を服用開始したり、新しい薬に変更したりしてから全身のかゆみが出た場合は、薬剤性の可能性を考慮する必要があります。
妊娠に伴うかゆみ
妊娠中はホルモンバランスの変化や皮膚の伸び、乾燥などにより、かゆみを感じやすくなることがあります。特に妊娠後期には、以下のような妊娠特有のかゆみを伴う皮膚疾患が現れることがあります。
- 妊娠性痒疹(ようしん): 特にお腹や手足に強いかゆみを伴う、蚊に刺されたようなぶつぶつが現れます。
- 妊娠性痒み性蕁麻疹様丘疹・局面(PUPPP: Pruritic Urticarial Papules and Plaques of Pregnancy): お腹の妊娠線に沿ってかゆみを伴う蕁麻疹様の盛り上がりや赤みが出現し、手足などに広がることもあります。
- 妊娠性胆汁うっ滞症: 妊娠中のホルモンの影響で肝臓からの胆汁の流れが悪くなり、体内に胆汁酸が溜まることで強いかゆみを引き起こします。特に手足のひらにかゆみが強く、夜間にかゆみが悪化するのが特徴です。発疹は伴わないことが多いですが、黄疸が現れることもあります。母体だけでなく胎児にも影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要な病気です。
その他の原因
上記以外にも、病原体(細菌、真菌、寄生虫など)による感染症が全身にかゆみを引き起こすこともあります。例えば、水虫が全身に広がる場合や、疥癬(かいせん)というダニの一種が皮膚に寄生する病気では、強いかゆみが全身に出現することがあります。
全身かゆみ|症状別の見分け方
全身のかゆみと一口に言っても、その現れ方は様々です。発疹の有無や、かゆみが強くなる時間帯、突然始まったかどうかなど、症状の特徴によって原因を絞り込む手がかりが得られます。
発疹(ぶつぶつ)があるかゆみ|これは何?
全身にかゆみがあり、同時に皮膚に何らかの「ぶつぶつ」「赤み」「盛り上がり」といった目に見える変化(発疹)を伴う場合、皮膚そのものの病気が原因である可能性が高いです。
- 湿疹・皮膚炎: 赤み、小さなぶつぶつ(丘疹)、水ぶくれ(小水疱)、皮膚の乾燥やカサつきなどが混じり合って現れ、強いかゆみを伴います。乾燥性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎などがこれにあたります。掻き続けると皮膚が厚くなったり、色素沈着を起こしたりすることもあります。
- 蕁麻疹: 境界がはっきりした、蚊に刺されたような赤く盛り上がった発疹(膨疹)が現れ、非常に強いかゆみを伴います。多くの場合、数時間以内に跡を残さず消えるのが特徴です。全身のどこにでも出現し、場所を変えながら繰り返し現れることがあります。
- 薬剤性発疹(薬疹): 薬剤に対するアレルギー反応として、様々な形の発疹が現れます。全身に紅斑(赤い斑点)、丘疹、膨疹などが同時に出現したり、時間が経つにつれて発疹の形が変化したりすることもあります。発熱やリンパ節の腫れなどを伴う重症の薬疹もあります。
- 感染症:
- 疥癬(かいせん): ヒゼンダニという非常に小さなダニが皮膚の角層に寄生して起こります。脇の下、お腹、股、手足の指の間など、皮膚の柔らかい部分に小さな赤いぶつぶつや、ダニが掘ったトンネル(疥癬トンネル)が見られることがあります。特に夜間に強いかゆみを感じるのが特徴で、同居する家族などにも感染することがあります。
- 伝染性軟属腫(水いぼ): 子供に多いウイルス感染症ですが、免疫力が低下した大人にも見られることがあります。光沢のある、わずかにへこんだ小さなぶつぶつができます。かゆみを伴うことがあり、掻きむしることで周りに広がることがあります。
- 真菌感染症(カビ): いわゆる「水虫」が体の他の部分(体部白癬など)に広がる場合や、マラセチア菌という常在菌が異常増殖して起こるマラセチア毛包炎などが、かゆみを伴う発疹の原因となることがあります。
発疹がある場合は、皮膚科を受診して診断を受けることが重要です。発疹の見た目や広がり方、他の症状の有無などから原因を特定し、適切な治療法が選択されます。
発疹なしでも全身がかゆい場合|病気が隠れている?
見た目には皮膚にほとんど異常(発疹や乾燥、赤みなど)がないにも関わらず、全身がかゆいという症状は、体の内臓や血液、神経などの病気が原因である可能性があります。このようなかゆみは「続発性掻痒症(ぞくはつせいそうようしょう)」や「症候性掻痒症(しょうこうせいそうようしょう)」と呼ばれ、隠れた全身疾患のサインとして現れることがあります。
発疹なしの全身かゆみで考えられる主な原因には、以下のようなものがあります。
- 乾燥(特に高齢者): 明らかな乾燥による湿疹がなくても、皮膚のバリア機能の低下によってかゆみを感じやすくなっていることがあります。
- 内臓疾患: 肝臓病、腎臓病、糖尿病、甲状腺の病気など。(詳細は後述)
- 血液疾患: 悪性リンパ腫、真性多血症、鉄欠乏性貧血など。
- 悪性腫瘍: 特定の癌(消化器癌、肺癌、脳腫瘍など)が原因でかゆみが生じることがあります。
- 神経疾患: 脳腫瘍や脳梗塞、脊髄疾患などによって、かゆみを感じる神経伝達に異常が生じる場合があります。
- 薬剤性: 特定の内服薬の副作用として、発疹を伴わないかゆみが出ることがあります。
- 精神疾患: うつ病や不安障害、統合失調症などに伴ってかゆみが生じることがあります。また、心因性掻痒症のように、精神的な要因のみでかゆみを感じる場合もあります。
発疹がないからといって軽視せず、全身のかゆみが続く場合は、医療機関を受診して原因を調べることが大切です。特に、かゆみ以外に全身の倦怠感、体重減少、発熱、黄疸、リンパ節の腫れなどの症状を伴う場合は、速やかに受診してください。
夜間にかゆみが強くなる|寝られないくらいつらい…
日中よりも夜間、温かい布団に入ると特にかゆみが強くなるという場合、いくつかの原因が考えられます。
- 疥癬(かいせん): 前述のダニによる感染症です。ダニの活動が夜間に活発になることや、体が温まることでかゆみを伝える物質(ヒスタミンなど)が放出されやすくなるため、夜間に耐え難いほどのかゆみが生じることが大きな特徴です。
- アトピー性皮膚炎: アトピー性皮膚炎のかゆみは、夜間に悪化しやすい傾向があります。体温の上昇や寝具による刺激、日中のストレスからの解放などが影響すると考えられています。
- 内臓疾患に伴うかゆみ: 肝臓病や腎臓病など、内臓疾患に伴うかゆみも夜間に強くなることがよく知られています。これは、かゆみの原因物質の血中濃度が夜間に高まることなどが関係していると考えられています。
夜間のかゆみがひどく、睡眠が妨げられている場合は、早めに医療機関に相談しましょう。特に疥癬は感染力が relatively 高く、同居する家族にうつす可能性があるため、疑わしい場合は速やかに診断と治療が必要です。
突然、全身がかゆくなった
特定のきっかけもなく、急に全身がかゆくなったという場合、以下のような原因が考えられます。
- 蕁麻疹: 最も多い原因の一つです。突然、かゆみを伴う膨疹が現れ、短時間で消えることを繰り返します。特定の食物や薬剤、環境の変化、ストレスなどが引き金となることがあります。
- アレルギー反応: 新しい食品を食べた、特定の物質に触れた、新しい薬を飲み始めたなど、直前に何か特定の行動や変化があった場合に、アレルギー反応として全身にかゆみが出ることがあります。アナフィラキシー反応の一部として全身のかゆみや蕁麻疹が現れることもあり、呼吸困難や意識障害などを伴う場合は緊急性が高い状態です。
- 薬剤性: 新しい薬剤を服用開始した直後や、ある程度の期間服用した後に突然かゆみが出現することがあります。
- ウイルス感染症: 風疹や麻疹、水痘(水ぼうそう)など、一部のウイルス感染症の初期症状として全身にかゆみを伴う発疹が現れることがあります。
突然のかゆみでも、発疹を伴う場合は皮膚科を、特定の原因(食物、薬剤など)が疑われる場合は内科やアレルギー科を受診すると良いでしょう。呼吸が苦しい、意識がもうろうとするなど、全身症状を伴う場合は迷わず救急医療機関を受診してください。
隠れた病気が原因の全身かゆみ
前述のように、発疹がないかゆみや、慢性的な全身のかゆみは、体の内側に病気が隠れているサインであることがあります。特に以下の病気は、かゆみを引き起こしやすいことが知られています。
肝臓病との関連性
肝臓は、体内の様々な物質を代謝・解毒する重要な臓器です。肝機能が低下すると、本来分解・排泄されるべき物質(特に胆汁酸など)が体内に蓄積し、かゆみを引き起こすと考えられています。
肝臓病に伴うかゆみの特徴:
- 発疹を伴わないことが多いです。
- かゆみの程度は様々ですが、非常に強くなることがあります。
- 特定の部位ではなく、全身にかゆみを感じることが多いです。
- 手足のひらや足の裏にかゆみが強く出る傾向があります。
- 夜間にかゆみが悪化することが多いです。
- かゆみ以外に、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、倦怠感、食欲不振、吐き気などの症状を伴うことがあります。
慢性肝炎、肝硬変、原発性胆汁性胆管炎(PBC)などの病気でかゆみが見られます。黄疸やかゆみ以外の症状がある場合は、早急に医療機関(内科など)を受診し、肝機能の検査を受ける必要があります。
腎臓病との関連性
腎臓は、体内の老廃物や余分な水分をろ過し、尿として排泄する役割を担っています。腎機能が低下すると、体内に老廃物が蓄積し(尿毒症物質)、これがかゆみを引き起こす原因の一つと考えられています。
腎臓病に伴うかゆみの特徴:
- 発疹を伴わないことが多いですが、乾燥や掻きむしりによる湿疹が見られることもあります。
- かゆみの程度は様々ですが、非常に強くなることがあります。
- 特に背中や胸、腕、足など、露出部に近い部分にかゆみを感じやすい傾向があります。
- 透析を受けている方に多く見られますが、透析導入前の慢性腎臓病の方にもかゆみは起こります。
- かゆみ以外に、むくみ(特に顔や足)、倦怠感、貧血、食欲不振などの症状を伴うことがあります。
慢性腎臓病に伴うかゆみは治療が難しい場合もありますが、適切な腎臓病の治療と、かゆみに対する対症療法によって改善が期待できます。むくみや疲労感など、腎臓病を疑わせる症状がある場合は、内科や腎臓内科を受診しましょう。
糖尿病との関連性
糖尿病自体が直接的に全身のかゆみを引き起こすわけではありませんが、糖尿病によって起こる様々な体の変化がかゆみの原因となることがあります。
- 皮膚の乾燥: 糖尿病によって神経障害が進むと、汗の分泌が低下し皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥はかゆみの原因となります。
- 神経障害: 糖尿病性の神経障害によって、手足などにしびれや痛み、そしてかゆみを感じることがあります。
- 感染症: 糖尿病の方は免疫機能が低下しやすく、細菌や真菌(カビ)による感染症にかかりやすい傾向があります。カンジダ症や白癬(水虫)、細菌性の毛嚢炎などが全身に広がると、かゆみを伴う発疹の原因となります。
- 腎症: 糖尿病が原因で腎臓病(糖尿病性腎症)が進むと、前述のように老廃物が蓄積し、かゆみを引き起こすことがあります。
糖尿病の治療をしっかり行い、血糖コントロールを良好に保つことが、かゆみの予防や改善につながります。皮膚の乾燥対策や、感染症を早期に発見・治療することも重要です。糖尿病と診断されている方で全身のかゆみが気になる場合は、かかりつけ医に相談しましょう。
甲状腺の病気との関連性
甲状腺ホルモンは体の代謝を調節する重要なホルモンです。甲状腺ホルモンの分泌異常も、全身のかゆみに関係することがあります。
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など): 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。代謝が活発になり、皮膚が温かく湿り気を帯びやすくなりますが、同時にかゆみを感じやすくなることがあります。発疹を伴わないことが多いです。動悸、体重減少、手の震え、暑がり、多汗などの症状を伴います。
- 甲状腺機能低下症(橋本病など): 甲状腺ホルモンが不足する病気です。全身の代謝が低下し、皮膚が乾燥しやすく、カサカサになります。この乾燥がかゆみを引き起こします。寒がり、むくみ、体重増加、気力の低下、便秘などの症状を伴います。
甲状腺の病気は血液検査で診断できます。全身のかゆみ以外に、上記のような甲状腺ホルモンの異常を疑わせる症状がある場合は、内科や内分泌内科を受診しましょう。
その他の全身疾患
上記以外にも、全身のかゆみを引き起こす可能性がある全身疾患は多数あります。
- 血液疾患:
- 悪性リンパ腫: リンパ球のがんです。原因不明の全身のかゆみ、特に入浴などで体が温まった時にかゆみが強くなる(温熱誘発性掻痒)ことがあるのが特徴です。発熱、寝汗、体重減少、リンパ節の腫れなどを伴うことがあります。
- 真性多血症: 血液中の赤血球が増加する病気です。入浴などで体が温まった時に全身が強くかゆくなることが特徴です。頭痛、めまい、倦怠感などの症状を伴うこともあります。
- 鉄欠乏性貧血: 鉄分不足による貧血でも、かゆみが生じることがあります。
- 悪性腫瘍: 一部の悪性腫瘍(胃癌、肺癌、脳腫瘍、多発性骨髄腫など)が、かゆみの原因物質を産生したり、神経を刺激したりすることでかゆみを引き起こすことがあります。
- 神経疾患: 脳腫瘍、脳梗塞、脊髄疾患、多発性硬化症、帯状疱疹後神経痛など。かゆみを伝える神経経路に異常が生じることでかゆみを感じます。特定の部位だけでなく、広範囲にかゆみを感じることもあります。
発疹がない全身のかゆみが続く場合や、かゆみ以外に全身の症状(体重減少、倦怠感、発熱、食欲不振、リンパ節の腫れなど)を伴う場合は、これらの病気の可能性も考慮し、医療機関で詳しい検査を受けることが非常に重要です。かかりつけ医に相談するか、まずは内科を受診すると良いでしょう。
全身かゆい時の適切な対処法
全身のかゆみが軽度で、明らかな病気が疑われない場合は、ご自身でできる対処法を試してみましょう。特に乾燥が原因の場合や、皮膚のバリア機能を回復させるためのケアは非常に重要です。
正しい保湿ケア
皮膚の乾燥はかゆみの大きな原因です。毎日適切な保湿を行うことで、皮膚のバリア機能を保ち、かゆみを軽減することができます。
- 保湿剤の選び方:
- ワセリン: 皮膚の表面に油膜を作り、水分の蒸発を防ぐ力が高いですが、ベタつきやすい傾向があります。保護力が高いので、乾燥がひどい場合や水仕事の後などにおすすめです。
- ヘパリン類似物質: 保湿作用に加え、血行促進作用や抗炎症作用も持ちます。皮膚の水分を保持する力を高め、バリア機能の改善を助けます。ローション、クリーム、軟膏など様々な形状があります。乾燥性皮膚炎によく用いられます。
- セラミド: 皮膚にもともと存在する成分で、角層の細胞と細胞の間を埋めて水分の蒸発を防ぐ働きがあります。加齢や乾燥によって減少するため、セラミド配合の保湿剤で補うことが有効です。
- 尿素: 硬くなった角質を柔らかくする作用と、水分を保持する作用があります。かかとなどのガサつきが気になる部分に適していますが、皮膚に刺激を感じる場合があるため、炎症がある部位や顔などには注意が必要です。
- グリセリン、ヒアルロン酸、コラーゲン: 水分を抱え込むことで皮膚を潤わせます。
- 保湿剤を塗るタイミング:
最も効果的なのは、入浴後できるだけ早い時間(5分以内が目安)です。皮膚が水分を含んで柔らかくなっているうちに保湿剤を塗ることで、水分を閉じ込め、浸透(角質層まで)を助けます。朝の洗顔後や、日中乾燥が気になった時にも塗ると良いでしょう。
- 保湿剤の塗り方:
清潔な手に適量を取り、体のシワに沿って優しく塗り広げます。ゴシゴシ擦り込む必要はありません。乾燥しやすいすねや腕、背中などは特に丁寧になじませましょう。塗り残しがないように、広範囲に薄く伸ばすより、部分ごとに量を調整しながら塗るのがおすすめです。
日常生活での注意点(入浴・衣服)
日頃の生活習慣を見直すことも、かゆみの対策には重要です。
- 入浴:
- お湯の温度はぬるめ(38~40℃程度)にしましょう。熱すぎるお湯は皮脂を取りすぎてしまい、乾燥を悪化させます。
- 長湯は避け、10~15分程度の入浴を心がけましょう。
- 体を洗う際は、刺激の少ない石鹸(弱酸性や敏感肌用など)を選び、よく泡立てて手で優しく洗いましょう。ナイロンタオルやブラシなどでゴシゴシ洗うのは禁物です。泡を皮膚の上に滑らせるように洗い、十分に洗い流してください。
- 石鹸を毎日全身に使う必要はありません。皮脂の多い部分(わきの下、股など)を中心に使い、乾燥しやすい部分は軽く流すだけでも十分です。
- 入浴後は、清潔なタオルで優しく水分を拭き取り、すぐに保湿剤を塗りましょう。
- 衣服:
- 肌に直接触れる下着や衣類は、綿や絹などの天然素材で、肌触りの良いものを選びましょう。化学繊維は摩擦や静電気で皮膚を刺激し、かゆみを引き起こすことがあります。
- 締め付けのきつい衣類は避け、ゆったりとしたデザインのものを選びましょう。
- 洗濯洗剤や柔軟剤が衣類に残っていると、皮膚を刺激することがあります。洗剤の使用量を守り、十分にすすぎを行うことが大切です。敏感肌用や無添加の洗剤を試してみるのも良いでしょう。
- 新しい衣類は、着用前に一度洗濯することをおすすめします。
- その他:
- 室内の空気が乾燥しないように、加湿器などで湿度を適切に保ちましょう(目安は50~60%)。
- 汗をかいたら、そのままにせず、優しく拭き取るかシャワーで洗い流しましょう。汗自体や、汗が蒸発する際の気化熱、汗に含まれる成分などがかゆみの原因となることがあります。
- 爪は短く切っておき、寝ている間に無意識に掻いて皮膚を傷つけないようにしましょう。
市販薬の選び方と使い方
軽度のかゆみであれば、市販薬である程度対処できる場合があります。ただし、症状や原因に合わせて適切な薬を選ぶことが重要です。
市販の外用かゆみ止めには、主に以下のような成分が含まれています。
成分の種類 | 主な働き | 適した症状 | 注意点 |
---|---|---|---|
抗ヒスタミン剤 | かゆみの原因物質(ヒスタミン)の働きを抑える | 比較的軽度のかゆみ、蕁麻疹、虫刺されなど | 炎症そのものを抑える作用は弱い |
ステロイド外用剤 | 皮膚の炎症を強力に抑える(かゆみも鎮める) | 湿疹、皮膚炎による強いかゆみ、炎症を伴うかゆみ | 強さのランクがあり、症状や部位によって使い分ける必要がある。長期・広範囲使用は医師に相談。 |
非ステロイド性抗炎症剤 | 炎症を抑える(ステロイドより作用はマイルド) | 比較的軽度〜中度の炎症、ステロイドを避けたい場合 | ステロイドに比べて効果が限定的なことがある |
局所麻酔剤 | 神経に作用してかゆみを感じにくくする | 掻きむしりたくなる強いかゆみ | 効果は一時的。使いすぎると皮膚への刺激になることも |
保湿成分 | 皮膚のバリア機能を補い、乾燥を防ぐ | 乾燥によるかゆみ | 炎症やかゆみが強い場合は、他の成分と併用するか、他の薬を優先する必要がある |
殺菌成分 | 細菌の繁殖を抑える | 掻きむしりによる二次感染予防 | 感染が疑われる場合は、医師の診断と治療が必要 |
血行促進成分 | 血行を良くし、皮膚の新陳代謝を助ける | 慢性的なかゆみ、しもやけなど | 炎症が強い場合は避ける |
ジフェンヒドラミン塩酸塩 | 抗ヒスタミン作用と局所麻酔作用を併せ持つことがある | 様々なかゆみに対応 | 製品によって配合量が異なる |
クロタミトン | 温感刺激と局所麻酔作用でかゆみを和らげる | 掻きむしりたくなる強いかゆみ | 温感刺激を感じることがある。炎症がある部位には注意 |
- 選び方のポイント:
- 発疹がなく、乾燥が主な原因の場合: 保湿成分が配合されたかゆみ止めや、ヘパリン類似物質配合の製品から試してみましょう。
- 赤みや小さなぶつぶつ(湿疹)がある場合: 炎症を抑える作用のあるステロイド外用剤や非ステロイド性抗炎症剤が有効なことがあります。ステロイドは効果が高いですが、長期連用は避けるべきです。
- 広範囲に突然現れた強いかゆみ(蕁麻疹など): 塗り薬の効果は限定的なことが多く、市販の抗ヒスタミン内服薬が有効な場合があります。
- 使い方:
- 使用上の注意や用法・用量をよく読んで正しく使いましょう。
- 一度に大量に塗るより、適量を必要な範囲に塗るのが基本です。
- 症状が改善しない場合や悪化する場合は、市販薬の使用を中止し、医療機関を受診してください。
市販薬はあくまで対症療法であり、原因を取り除くものではありません。原因がわからないかゆみや、症状が強い場合は、自己判断で市販薬を使い続けず、必ず医療機関に相談しましょう。
ストレスマネジメント
ストレスがかゆみを悪化させることがあるため、日頃からストレスを上手に管理することも大切です。
- リラクゼーション: 趣味に時間を使ったり、アロマセラピー、入浴、軽いストレッチやヨガなどで心身をリラックスさせましょう。
- 適度な運動: ウォーキングやジョギングなどの軽い運動は、ストレス解消になり、睡眠の質を高める効果も期待できます。
- 十分な睡眠: 睡眠不足はストレスを増やし、皮膚の健康にも悪影響を与えます。規則正しい生活を送り、質の良い睡眠を確保しましょう。
- ストレスの原因を見つける: 何がストレスになっているのかを考え、可能であればその原因を取り除くか、受け止め方を変える工夫をしてみましょう。
- 専門家への相談: ストレスが深刻で、自分一人で対処できない場合は、カウンセラーや医師に相談することも検討しましょう。
医療機関を受診する目安とタイミング
つらい全身のかゆみがある場合、どのような時に医療機関を受診すべきでしょうか。放置することで隠れた病気の発見が遅れたり、かゆみが慢性化して治療が難しくなったりすることもあります。
どんな時に病院へ行くべき?
以下のチェックリストに当てはまる場合は、医療機関を受診することを強くおすすめします。
症状・状況 | 受診の目安 |
---|---|
セルフケア(保湿など)を数週間〜1ヶ月以上続けても、かゆみが改善しない | 早めに受診を検討 |
かゆみが非常に強く、日常生活(睡眠、仕事など)に支障が出ている | 早めに受診 |
広範囲に及ぶ発疹がある、または発疹の見た目が気になる(水ぶくれ、ただれなど) | 早めに皮膚科を受診 |
発疹はないが、全身のかゆみが続く | 内臓疾患など隠れた病気の可能性も考慮し、早めに受診を検討 |
かゆみ以外に、以下の全身症状がある | 速やかに受診(内科も検討) |
– 体重減少、食欲不振 | |
– 強い倦怠感、疲労感 | |
– 発熱、寝汗 | |
– 黄疸(皮膚や白目が黄色い) | |
– リンパ節の腫れ | |
– むくみ | |
– 口渇、多飲多尿 | |
特定の薬剤を服用開始または変更してからかゆみが出た | 服用中止せず、処方した医師や薬剤師に相談し、受診を検討 |
妊娠中で、かゆみがひどい場合 | かかりつけの産婦人科医に相談 |
過去に経験したことのないような、急激で強いかゆみ | 早めに受診(特に蕁麻疹やアレルギーが疑われる場合) |
市販薬を使っても効果がない、またはかゆみが悪化した | 早めに受診 |
家族や周囲の人にも似たようなかゆみがある(感染症の可能性) | 早めに受診(皮膚科) |
受診は何科?
全身のかゆみの原因が皮膚にあるのか、それとも体の内部にあるのかによって、適切な診療科が異なります。
- まず皮膚科を受診するケース:
- かゆみに伴って発疹がはっきりしている場合(湿疹、蕁麻疹、かぶれなど)。
- 乾燥によるかゆみが強く、セルフケアで改善しない場合。
- 感染症(疥癬、水虫、水いぼなど)が疑われる場合。
皮膚科では、皮膚の状態を詳しく診察し、必要に応じて皮膚の一部を採取して検査(ダーモスコピー検査、皮膚生検など)を行ったり、アレルギー検査を行ったりして、皮膚そのものの病気を診断し、適切な治療(外用薬や内服薬の処方、光線療法など)を行います。
- 内科も検討または先に受診するケース:
- 発疹がなく、全身のかゆみが続く場合。
- かゆみ以外に、全身の症状(体重減少、倦怠感、黄疸、発熱、むくみなど)を伴う場合。
- 肝臓病、腎臓病、糖尿病、甲状腺の病気、血液疾患など、内臓や全身の病気が疑われる場合。
内科では、問診や身体診察に加え、血液検査や尿検査、画像検査(超音波検査、CT検査など)を行い、体の内部に隠れた病気がないかを調べます。かゆみがこれらの病気によるものと診断された場合は、その病気の治療を行うことで、かゆみも改善されることが期待できます。必要に応じて、専門医(消化器内科、腎臓内科、内分泌内科、血液内科など)へ紹介されることもあります。
迷う場合は、まずはかかりつけ医や近くの総合病院の内科または皮膚科に相談してみるのが良いでしょう。問診の結果、適切な診療科を案内してもらえます。
全身かゆみに関する補足情報
なぜかゆみが起こるのか(かゆみのメカニズム)
かゆみは「掻きたい」という衝動を引き起こす不快な感覚です。皮膚や体内の様々な刺激によって発生し、複雑な神経経路を介して脳に伝わります。
- かゆみを伝える物質: かゆみを引き起こす代表的な物質に「ヒスタミン」があります。アレルギー反応や炎症が起きると、肥満細胞などからヒスタミンが放出され、皮膚の神経を刺激してかゆみを発生させます。ヒスタミン以外にも、セロトニン、ブラジキニン、プロスタグランジン、特定の神経伝達物質(サブスタンスPなど)、そして近年注目されているIL-31(インターロイキン31)など、様々な物質がかゆみに関わっていることが分かっています。
- 神経経路: 皮膚で発生したかゆみ信号は、皮膚の表面近くにあるかゆみ受容体を持つ神経(かゆみ線維)によって感知され、脊髄を通って脳の特定の領域(視床、大脳皮質など)に伝達されます。脳でかゆみとして認識され、「掻く」という行動につながります。
- かゆみの種類:
- ヒスタミン性かゆみ: ヒスタミンによって引き起こされるかゆみで、蕁麻疹やアレルギー性のかゆみがこれにあたります。抗ヒスタミン剤が有効です。
- 非ヒスタミン性かゆみ: ヒスタミン以外の物質やメカニズムによって引き起こされるかゆみです。内臓疾患に伴うかゆみやアトピー性皮膚炎の一部のかゆみなどがこれにあたり、抗ヒスタミン剤の効果が限定的な場合があります。
掻破(そうは)による悪循環
かゆみを感じると、つい掻いてしまいたくなります。しかし、掻く行為(掻破)は一時的にかゆみを和らげるように感じますが、実際にはかゆみをさらに悪化させる原因となります。
- 皮膚の損傷: 掻くことで皮膚の表面が傷つき、バリア機能がさらに低下します。
- 炎症の悪化: 傷ついた皮膚では炎症が起こりやすくなり、炎症性の物質がかゆみを増強させます。
- かゆみを感じる神経の変化: 慢性的に掻き続けると、皮膚のかゆみを感じる神経が増えたり、刺激に敏感になったりして、わずかな刺激でも強いかゆみを感じやすくなる(神経過敏)ことがあります。
- 感染症: 掻きむしった傷口から細菌が侵入し、感染症を引き起こすことがあります。
- 皮膚の肥厚や色素沈着: 慢性的な刺激によって、皮膚が厚く硬くなったり、色が黒ずんだりすることがあります。
この「かゆみ→掻く→皮膚が傷つく→かゆみが悪化する→さらに掻く」という悪循環を掻破悪循環と呼びます。この悪循環を断ち切るためには、掻くのを我慢し、かゆみの原因に対する治療や適切なスキンケアを行うことが重要です。
全身のかゆみは我慢しないことの重要性
全身のかゆみは単なる不快な感覚ではなく、体からのサインである可能性があります。軽視して我慢し続けたり、自己判断で対処を続けたりすると、以下のような問題が生じることがあります。
- 隠れた重篤な病気の発見が遅れる: 発疹がないかゆみなど、全身疾患が原因である場合、かゆみを放置することで病気の診断や治療開始が遅れてしまう可能性があります。
- かゆみが慢性化し、治療が困難になる: 掻破悪循環によってかゆみが慢性化すると、皮膚や神経の状態が変化し、治療に時間がかかるようになったり、完全に治りにくくなったりすることがあります。
- QOLの著しい低下: 耐え難いかゆみは、睡眠障害、集中力の低下、イライラ、抑うつなど、心身に大きな負担をかけ、日常生活の質を著しく低下させます。
全身のかゆみが続く場合や、気になる症状がある場合は、一人で悩まず、早めに医療機関に相談することが大切です。適切な診断を受け、原因に合った治療を行うことで、つらいかゆみから解放される可能性があります。
【まとめ】全身のかゆみ、原因を知って適切に対処
全身のかゆみは、乾燥、アレルギー、ストレス、薬剤といった皮膚の要因だけでなく、肝臓病、腎臓病、糖尿病、甲状腺の病気、血液疾患、悪性腫瘍など、体の内側に隠れた重篤な病気が原因となっている可能性もあります。
発疹を伴うかゆみは皮膚の病気が、発疹がないかゆみは全身の病気が疑われる一つの目安となりますが、どちらの場合も原因は多岐にわたります。夜間にかゆみが強くなる、突然始まった、といったかゆみの特徴も、原因を探る重要な手がかりです。
軽度のかゆみであれば、正しい保湿ケアや生活習慣の見直し、市販薬の使用である程度改善することがあります。しかし、セルフケアで改善しない場合、かゆみが非常に強い場合、広範囲に及ぶ発疹がある場合、そして何よりかゆみ以外に全身の症状を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。皮膚科または内科で、かゆみの原因を正確に診断してもらい、適切な治療を受けることが、つらいかゆみから解放され、健康を取り戻すための最も重要なステップです。全身のかゆみを我慢せず、専門家の助けを借りましょう。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的アドバイス、診断、治療を提供するものではありません。個々の症状については、必ず医師や薬剤師にご相談ください。本記事の情報に基づいて行った行動によって生じたいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます。