リンパの腫れは、首や脇の下、足の付け根など、体のあちこちで起こりうる症状です。
触ってみるとグリグリとしたしこりのように感じたり、押すと痛みを伴ったりすることもあります。
このリンパの腫れに気づくと、「何か悪い病気ではないか」と不安に感じる方も多いでしょう。
しかし、リンパの腫れの原因は多岐にわたり、多くは体の防御反応によるものです。
この記事では、リンパの腫れがなぜ起こるのか、主な原因や場所別の特徴、そしてご自身でできる対処法や、どのような場合に医療機関を受診すべきかについて詳しく解説します。
この記事を参考に、ご自身のリンパの腫れの原因を知り、適切に対応できるようになりましょう。
リンパの腫れとは?リンパ節の役割
リンパ系は、血管系と並んで体内を巡る重要なネットワークです。
リンパ管、リンパ液、そしてリンパ節などから構成されており、体内の水分バランスを保ったり、老廃物や病原体を回収・処理したりする働きを担っています。
特に重要な役割を担っているのが「リンパ節」です。
リンパ節は、全身のリンパ管の途中に点在する豆粒ほどの小さな組織で、免疫細胞(リンパ球など)が集まっています。
体内に侵入した細菌やウイルス、古くなった細胞やがん細胞などをリンパ液とともに回収し、リンパ節でフィルターのようにろ過して無害化・処理する機能があります。
リンパ節が腫れるということは、この免疫機能が活発に働いているサインです。
体内に病原体などが侵入したり、炎症が起きたりすると、リンパ節内で免疫細胞が増殖し、病原体と戦う準備をします。
この際にリンパ節が大きくなり、腫れとして感じられるのです。
通常、リンパ節は触ってもほとんど分からないほど小さいですが、感染や炎症が起こると数ミリから数センチの大きさに腫れることがあります。
この腫れに伴って、痛みや熱感を伴う場合もあれば、痛みがない場合もあります。
リンパが腫れる主な原因【感染症、ストレスなど】
リンパが腫れる原因は多岐にわたりますが、最も一般的なのは感染症や炎症に対する体の反応です。
しかし、中には注意が必要な病気が隠れていることもあります。
ここでは、リンパの腫れの主な原因について詳しく見ていきましょう。
リンパ節炎とは?細菌・ウイルス感染が原因の場合
リンパ節炎は、リンパ節自体が炎症を起こして腫れる状態です。
これは、リンパ節が細菌やウイルスなどの病原体と戦っている証拠と言えます。
細菌感染が原因の場合、リンパ節は比較的急速に腫れ、強い痛みを伴うことが多いです。
腫れたリンパ節の皮膚が赤く熱を帯びることもあります。
原因となる細菌としては、風邪の原因菌としても知られるレンサ球菌や、皮膚の感染症の原因となるブドウ球菌などが挙げられます。
これらの細菌が、傷口や喉、歯茎などから体内に侵入し、近くのリンパ節に運ばれて炎症を引き起こすのです。
重症化すると、リンパ節内に膿(うみ)が溜まることもあります。
一方、ウイルス感染が原因の場合もリンパ節は腫れますが、細菌性に比べて痛みが少ないことが多い傾向があります。
全身のリンパ節がまとめて腫れることも少なくありません。
風邪やインフルエンザなどの一般的なウイルス感染のほか、伝染性単核球症(EBウイルスやサイトメガロウイルスなどが原因)、風疹、麻疹、HIV感染症など、様々なウイルスがリンパ節の腫れを引き起こします。
ウイルス性の場合、腫れは数週間から数ヶ月続くこともありますが、原因となっている感染症が治まれば、次第に腫れも引いていきます。
風邪や喉の炎症に伴うリンパの腫れ
日常的によく経験するリンパの腫れの原因として、風邪や喉の炎症が挙げられます。
風邪をひいたり、扁桃炎や咽頭炎を起こしたりすると、喉の周辺に存在するリンパ節(頸部リンパ節)が腫れることがよくあります。
これは、喉の粘膜に付着した細菌やウイルスがリンパ管を通じて頸部リンパ節に運ばれ、そこで免疫細胞がこれらの病原体と戦うために活発になるためです。
腫れたリンパ節は、触るとグリグリとして硬く感じられ、押すと痛みを伴うことが多いです。
同時に、喉の痛みや発熱、咳、鼻水といった風邪の典型的な症状も現れます。
この場合のリンパの腫れは、体が感染と戦っている正常な免疫反応であり、原因となっている風邪や喉の炎症が改善すれば、数日から1週間程度で自然に腫れも引いていくことがほとんどです。
しかし、痛みが強い場合や、飲み込みにくいなどの症状がある場合は、医療機関を受診して適切な治療を受けることが推奨されます。
ストレスとリンパの腫れの関係性
直接的に「ストレスがリンパ節を腫れさせる」わけではありませんが、慢性的なストレスは体の免疫機能に影響を与え、結果としてリンパの腫れを引き起こしたり、既存の腫れを悪化させたりする可能性があります。
ストレスがかかると、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。
これらのホルモンは、短期的には免疫反応を抑制する作用がありますが、慢性的なストレス下では免疫系のバランスを崩し、特定の免疫細胞の働きを低下させたり、逆に過剰な炎症反応を引き起こしたりすることがあります。
免疫機能が低下すると、本来なら抑え込めるはずの軽微な感染症に対しても体が過剰に反応してしまい、リンパ節が腫れやすくなることが考えられます。
また、自律神経の乱れによって血行が悪くなり、リンパ液の流れが滞ることも、リンパ節の腫れを感じやすくなる一因となるかもしれません。
心身の疲労やストレスが蓄積している時にリンパの腫れを感じる場合は、体の抵抗力が落ちているサインかもしれません。
十分な休息を取り、ストレスを適切に管理することが、体全体の健康維持につながります。
その他の原因となる病気(悪性腫瘍など)
リンパの腫れの原因として、感染症や炎症以外に、より重篤な病気が隠れている場合もあります。
特に注意が必要なのは、悪性腫瘍(がん)に関連したリンパ節の腫れです。
悪性腫瘍に関連するリンパ節の腫れには、主に二つのパターンがあります。
一つは「悪性リンパ腫」と呼ばれる、リンパ節自体から発生するがんです。
悪性リンパ腫によるリンパ節の腫れは、比較的急速に大きくなることがあり、多くの場合痛みを伴いません。
首、脇の下、足の付け根など、複数の場所のリンパ節が腫れることもあります。
全身症状として、原因不明の発熱、体重減少、大量の寝汗などを伴うこともあります。
もう一つは、他の臓器で発生したがんがリンパ管を通じて近くのリンパ節に転移し、リンパ節が腫れるケースです。
これを「リンパ節転移」と呼びます。
例えば、乳がんが脇の下のリンパ節に転移したり、胃がんや大腸がんが腹部や鎖骨上のリンパ節に転移したりすることがあります。
転移によるリンパ節の腫れも、初期には痛みがなく、硬く触れることが多いのが特徴です。
これらの悪性腫瘍によるリンパ節の腫れは、感染症による腫れとは異なり、自然に小さくなることはほとんどなく、時間とともに大きくなる傾向があります。
リンパ節の腫れに加えて、全身症状がある場合や、腫れが硬く痛みを伴わない場合は、早期に医療機関を受診して詳しい検査を受けることが非常に重要です。
その他の原因としては、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、サルコイドーシスといった特殊な炎症性疾患、薬剤の副作用などが挙げられます。
これらの病気でもリンパ節が腫れることがありますが、それぞれの病気に特有の症状を伴うことが多いです。
場所別のリンパの腫れとその特徴
リンパ節は全身に分布していますが、特に首、脇の下、足の付け根(鼠径部)などに集まっています。
リンパが腫れる場所によって、原因として考えられる疾患がある程度絞られることがあります。
首のリンパの腫れ(片側だけ痛む場合など)
首には、リンパ節が非常に多く集まっています(頸部リンパ節)。
そのため、首のリンパが腫れることは比較的よく経験します。
原因として最も多いのは、口や鼻、喉、耳など、顔や頭部の感染症や炎症です。
- 風邪、扁桃炎、咽頭炎: 喉の炎症が原因で、顎の下や首の横のリンパ節が腫れることがよくあります。多くは両側が腫れますが、炎症が片側だけ強い場合は片側だけ腫れて痛むこともあります。
- 虫歯、歯周病: 口の中の細菌感染が原因で、顎の下のリンパ節が腫れることがあります。
- 中耳炎、外耳炎: 耳の感染症が原因で、耳の前や後ろのリンパ節が腫れることがあります。
- 頭皮の湿疹や傷: 頭皮の炎症や感染が原因で、後頭部や耳の後ろのリンパ節が腫れることがあります。
- 伝染性単核球症: EBウイルスなどが原因で、首全体や複数のリンパ節が痛みを伴わずに大きく腫れることがあります。
- 結核性リンパ節炎: 頸部リンパ節がゆっくりと腫れ、痛みがないこともあります。
- 悪性腫瘍: 悪性リンパ腫や、喉頭がん、舌がん、甲状腺がんなどの頸部への転移によって、硬く、痛みのないしこりとして触れることがあります。片側だけが腫れることが多いです。
片側だけが腫れて痛む場合は、その側の局所的な感染や炎症(例えば片側の扁桃炎、虫歯など)が原因であることが多いです。
両側のリンパ節が腫れる場合は、全身性の感染症(風邪、伝染性単核球症など)や、より広範な炎症が原因として考えられます。
後頭部のリンパの腫れの原因
後頭部のリンパ節は、頭の後ろ側や耳の後ろあたりに位置しています。
この部分のリンパ節が腫れる主な原因は、頭皮や耳の後ろの領域の感染症や炎症です。
- 頭皮の湿疹、フケ、かぶれ: 頭皮の炎症や細菌感染が原因で腫れることがあります。
- シラミ: 頭皮にシラミが寄生している場合に、痒みや引っかき傷からの感染によりリンパ節が腫れることがあります。
- 風疹: 発疹が出現する前に、後頭部や耳の後ろのリンパ節が腫れることが特徴的な症状の一つです。子供がかかることが多いですが、大人がかかると重症化することもあります。
- アデノウイルス感染: 喉の痛みや発熱に加え、後頭部のリンパ節が腫れることがあります。
- 外耳炎: 耳の穴の入り口付近の炎症が原因で、耳の後ろのリンパ節が腫れることがあります。
後頭部のリンパの腫れは、頭部や顔面に原因があることが多いですが、まれに全身性の病気の一部として腫れることもあります。
特に子供の場合、風疹などの感染症を疑うサインになることがあります。
その他の部位(脇の下、足の付け根など)のリンパの腫れ
首や後頭部以外のリンパ節が腫れる場合も、原因となる感染や炎症がその部位の近くにあることが多いです。
- 脇の下(腋窩リンパ節): 腕や手、胸、乳房、背中上部などの感染症や炎症が原因となります。
- 腕や手の傷、虫刺され、湿疹: これらの部位からの細菌感染で脇の下のリンパ節が腫れることがあります。
- 猫ひっかき病: 猫に引っかかれたり噛まれたりした傷口からパスツレラ菌が侵入し、近くのリンパ節(特に脇の下や首)が腫れる感染症です。
- 乳腺炎: 授乳期の女性などが乳房に炎症を起こすと、脇の下のリンパ節が腫れることがあります。
- 乳がん: 乳房にできたがんが脇の下のリンパ節に転移すると、硬く痛みのないしこりとして触れることがあります。
- 足の付け根(鼠径リンパ節): 足、下腹部、外陰部、肛門周辺などの感染症や炎症が原因となります。
- 足や指の傷、虫刺され、水虫: 足の感染症から鼠径リンパ節が腫れることがあります。
- 性感染症(梅毒、性器ヘルペスなど): 外陰部や尿道などに感染が起きると、鼠径リンパ節が腫れることがあります。
- 下腹部や骨盤内の炎症: 婦人科系の病気や泌尿器系の病気などによって鼠径リンパ節が腫れることもあります。
- 悪性腫瘍: 足や下腹部、外陰部などのがんの転移によって、鼠径リンパ節が硬く腫れることがあります。
これらの部位のリンパの腫れも、多くは感染症や炎症による一過性のものですが、悪性腫瘍の可能性も考慮し、注意深く経過を見る必要があります。
特に、腫れが数週間以上続く場合や、時間とともに大きくなる場合は、必ず医療機関を受診しましょう。
部位別のリンパの腫れと主な原因を表にまとめると、以下のようになります。
腫れる部位 | 主な原因(感染症・炎症) | 注意すべき原因(悪性腫瘍など) |
---|---|---|
首(頸部) | 風邪、扁桃炎、咽頭炎、虫歯、歯周病、中耳炎、頭皮の湿疹、結核 | 悪性リンパ腫、頭頸部がんの転移 |
後頭部 | 頭皮の湿疹、シラミ、風疹、アデノウイルス感染、外耳炎 | まれに悪性リンパ腫や頭部のがんの転移 |
脇の下(腋窩) | 腕や手の傷・感染、乳腺炎、猫ひっかき病 | 悪性リンパ腫、乳がんの転移、皮膚がんの転移 |
足の付け根(鼠径) | 足の傷・感染、水虫、性感染症、下腹部・骨盤内の炎症 | 悪性リンパ腫、足や外陰部、下腹部のがんの転移 |
この表はあくまで一般的な傾向であり、これ以外の原因である可能性もあります。
自己判断せず、不安な場合は医療機関に相談することが大切です。
リンパの腫れへの対処法・治し方
リンパの腫れに気づいたとき、どのように対処すれば良いのでしょうか。
原因によって適切な対処法は異なりますが、まずはご自身でできるセルフケアや、医療機関での治療法についてご紹介します。
自宅でできるセルフケア(休息、水分補給など)
リンパの腫れが軽度で、風邪など明らかな原因があり、痛みも強くない場合は、まずは自宅でのセルフケアで様子を見ることができます。
リンパの腫れは体が感染や炎症と戦っているサインですから、体の免疫力を高めることが重要です。
- 十分な休息をとる: 体が病原体と戦うためにはエネルギーが必要です。無理をせず、十分な睡眠時間を確保し、体を休ませましょう。疲労は免疫力を低下させます。
- 水分を十分に摂る: 体内の水分が不足すると、リンパ液の流れも滞りやすくなります。水やお茶などでこまめに水分補給をすることで、リンパ液の循環をスムーズにし、老廃物や病原体の排出を助ける効果が期待できます。
- 栄養バランスの取れた食事: 免疫細胞が正常に働くためには、ビタミンやミネラルを始めとする様々な栄養素が必要です。偏食せず、バランスの取れた食事を心がけましょう。特にビタミンCや亜鉛などは免疫機能に関与すると言われています。
- 患部を安静にする: 腫れているリンパ節の周りに傷や炎症がある場合は、その部位を安静に保ち、刺激を与えないようにしましょう。
- 温めるか冷やすか: 腫れと痛みが強い急性期の炎症の場合は、冷たいタオルなどで患部を冷やすと、炎症を抑え痛みを和らげる効果が期待できます。しかし、慢性的な腫れで痛みが少ない場合は、温めることで血行が促進され、リンパ液の流れが改善されることもあります。ただし、どちらが良いかは状況によりますので、迷う場合は専門家に相談するか、無理に行わないようにしましょう。
これらのセルフケアは、体の自然な回復力を高めるための補助的なものです。
症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。
リンパマッサージの効果と注意点
「リンパマッサージで腫れが改善するのでは?」と考える方もいるかもしれません。
リンパマッサージは、リンパ液の流れを促進し、むくみの解消やリラクゼーション効果が期待できる方法として知られています。
しかし、リンパ節が炎症を起こして腫れている「リンパ節炎」の状態では、マッサージは基本的に推奨されません。
炎症がある部分を刺激すると、かえって炎症を悪化させたり、痛みを増強させたりするリスクがあるからです。
また、感染性のリンパ節炎の場合、マッサージによって病原体が全身に広がる可能性も否定できません。
リンパマッサージは、リンパ節が腫れていない状態や、手術などでリンパ節を切除した後のリンパ浮腫など、特定の目的で行われるものです。
リンパ節が腫れて痛みや熱感がある場合は、絶対に自己判断でマッサージをしないようにしましょう。
もしリンパの腫れがなく、むくみ改善やリラクゼーションのためにリンパマッサージを行いたい場合でも、正しい知識を持った専門家(理学療法士や trained masseur など)の指導のもとで行うことが安全です。
自己流で行う場合は、優しくなでる程度の軽いタッチで行い、強い圧迫は避けてください。
市販薬でリンパの腫れに対応できる?
リンパの腫れ自体を直接治す市販薬は基本的にありません。
市販薬で対応できるのは、リンパの腫れに伴う痛みや発熱といった症状を和らげるための対症療法に限られます。
- 解熱鎮痛剤: イブプロフェンやロキソプロフェン、アセトアミノフェンなどの成分を含む市販薬は、炎症を抑えたり、痛みを和らげたり、熱を下げる効果があります。風邪や喉の炎症によるリンパの腫れで痛みや熱がある場合に有効です。しかし、これはあくまで症状を一時的に抑えるものであり、原因となっている病気を治すものではありません。
- 抗炎症成分を含む塗り薬: 腫れている部分の皮膚に塗ることで、局所的な炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できるものもあります。
重要な注意点として、細菌感染が原因でリンパ節が腫れている場合、根本的な治療には抗生物質が必要です。
抗生物質は医師の処方がなければ入手できません。
市販薬で痛みを抑えている間に、原因となっている細菌感染が悪化する可能性もあります。
リンパの腫れの原因が不明な場合や、症状が重い場合は、市販薬に頼らず必ず医療機関を受診してください。
特に、抗菌薬(抗生物質)は自己判断で使用することは危険であり、医師の診断に基づいた適切な薬剤と期間での使用が不可欠です。
医療機関での治療法(抗生物質など)
リンパの腫れで医療機関を受診した場合、医師はまず問診や触診を行い、腫れの状態(大きさ、硬さ、痛み、可動性など)や、他の症状(発熱、喉の痛み、体重減少など)について詳しく確認します。
必要に応じて、以下のような検査が行われます。
- 血液検査: 感染や炎症の度合いを調べるための白血球数やCRP(C反応性タンパク)などの炎症反応の数値、特定のウイルス感染を調べる抗体検査などを行います。
- 画像検査: リンパ節の正確な大きさや内部の状態、周囲の臓器との関係などを調べるために、超音波検査(エコー)、CT検査、MRI検査などが行われることがあります。
- リンパ節生検: 腫瘍など悪性疾患の可能性が疑われる場合、腫れたリンパ節の一部、または全体を採取して組織を顕微鏡で調べる検査です。確定診断のために非常に重要な検査となります。
これらの検査結果に基づいて、リンパの腫れの原因が特定されます。
原因が分かれば、それに応じた治療が行われます。
- 細菌性リンパ節炎: 原因となっている細菌に効果のある抗生物質が処方されます。通常、数日から1週間程度で腫れや痛みが改善してきます。抗生物質は医師の指示された期間、しっかりと飲み切ることが大切です。
- ウイルス性リンパ節炎: ウイルス感染自体に特効薬がない場合が多いため、対症療法が中心となります。発熱や痛みに対しては解熱鎮痛剤が処方されます。原因となっているウイルス感染が治まれば、リンパの腫れも自然に引いていきます。
- 悪性腫瘍(悪性リンパ腫、転移など): 専門医(血液内科、外科、腫瘍内科など)による専門的な治療が必要となります。化学療法(抗がん剤)、放射線療法、手術などが病気の種類や進行度に応じて行われます。
このように、リンパの腫れの治療は原因によって全く異なります。
正確な診断を受けるためにも、気になるリンパの腫れがある場合は自己判断せず、医療機関を受診することが最も重要です。
リンパの腫れを放置しても大丈夫?病院受診の目安
「少し腫れているだけだし、そのうち治るだろう」とリンパの腫れを放置してしまう方もいるかもしれません。
確かに、多くの場合、リンパの腫れは感染症などに対する一時的な体の反応であり、自然に改善していきます。
しかし、中には放置すると重篤な結果を招く病気が隠れている可能性もあります。
どのような場合に病院に行くべきか、その目安を知っておきましょう。
リンパの腫れを放置するリスクと危険な兆候
軽微なリンパの腫れを放置すること自体が直接的に危険なわけではありません。
問題は、そのリンパの腫れの原因となっている病気です。
もしリンパの腫れが、前述したような悪性リンパ腫やがんの転移などの重篤な病気のサインである場合、放置することで病気が進行し、治療が難しくなるリスクがあります。
早期発見・早期治療が重要な病気を見逃してしまうことが、リンパの腫れを放置する最大のリスクと言えます。
特に注意が必要な「危険な兆候」は以下の通りです。
これらの兆候が一つでも見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 痛みを伴わないリンパ節の腫れ: 通常、感染や炎症によるリンパの腫れは痛みを伴いますが、悪性腫瘍による腫れは初期には痛みがほとんどないことが多いです。
- 硬く触れるリンパ節の腫れ: 悪性腫瘍による腫れは、ゴムのように硬い、あるいは石のように硬く触れることがあります。感染症による腫れは、比較的弾力があることが多いです。
- リンパ節の腫れが急速に大きくなる: 数日や1週間で目に見えて大きくなる場合は、感染症の可能性もありますが、悪性腫瘍の進行も考慮する必要があります。
- リンパ節の腫れが数週間(目安として2〜4週間)以上続く: 通常の感染症による腫れは、原因が治まれば比較的早く引いていきます。長期間続く場合は、単純な感染症ではない原因が考えられます。
- 腫れたリンパ節が周囲の組織に固定されていて動きにくい: 感染症による腫れは比較的動きやすいことが多いですが、悪性腫瘍の場合は周囲に浸潤し、固定されていることがあります。
- リンパの腫れに加え、全身症状を伴う: 原因不明の発熱(特に微熱が続く)、体重減少(意図しない)、大量の寝汗、強い倦怠感などの全身症状がある場合は、悪性リンパ腫やその他の全身性の病気のサインである可能性があります。
- 鎖骨の上のリンパ節の腫れ: 鎖骨の上のリンパ節(特に左側)の腫れは、腹部や胸部のがんが転移している可能性があり、特に注意が必要です(ウィルヒョウリンパ節転移)。
これらの危険な兆候は、必ずしも悪性疾患を示すものではありませんが、その可能性を疑って精密検査を行うべきサインです。
不安な場合は、これらの兆候がない場合でも医師に相談することをおすすめします。
何日で引く?病院に行くべきタイミング
リンパの腫れがどれくらいの期間で引くかは、その原因によって大きく異なります。
- 風邪や軽度の炎症によるもの: 原因となっている感染や炎症が改善すれば、通常は数日から1週間程度で腫れが引き始め、2〜3週間でほとんど触れなくなることが多いです。
- 伝染性単核球症などのウイルス感染: 腫れが数週間から数ヶ月続くこともありますが、徐々に小さくなっていきます。
- 細菌性リンパ節炎で抗生物質による治療を受けた場合: 治療開始から数日で腫れや痛みが改善してきます。治療が完了すれば、多くは比較的早く腫れが引きます。
- 悪性腫瘍によるもの: 自然に小さくなることはなく、放置すると時間とともに大きくなる傾向があります。
病院に行くべきタイミングの目安としては、以下の点が挙げられます。
- リンパの腫れが2週間以上続く場合: 特に原因がはっきりしない場合。
- リンパの腫れが触ると硬い、または痛みが全くない場合。
- リンパの腫れが時間とともに急速に大きくなる場合。
- リンパの腫れに加え、発熱(特に続く場合)、体重減少、大量の寝汗、強い倦怠感などの全身症状がある場合。
- 鎖骨の上にリンパの腫れがある場合。
- 腫れたリンパ節が周囲に固定されていて、動きにくい場合。
- 痛みが非常に強い、または赤く熱を帯びて化膿している兆候がある場合(細菌感染が疑われ、適切な治療が必要です)。
- その他、ご自身で見て触って、いつもと違う、気になる、不安だと感じた場合。
特に、子供のリンパの腫れは大人より起こりやすく、多くは感染症によるものですが、まれに特別な病気が隠れていることもあるため、気になる場合は小児科を受診しましょう。
リンパの腫れは何科を受診すべきか
リンパの腫れで病院を受診する場合、何科に行けば良いか迷うかもしれません。
腫れている場所や疑われる原因によって適切な診療科は異なりますが、まずはかかりつけ医や、一般的な診療を行っている以下の診療科を受診するのが良いでしょう。
腫れている場所 | 考えられる原因 | まず受診を検討する診療科 |
---|---|---|
首(頸部)、後頭部 | 風邪、喉・耳・口の炎症、頭皮の問題など | 内科、耳鼻咽喉科、歯科(虫歯や歯周病の場合) |
脇の下(腋窩) | 腕や手の傷・感染、乳房の問題など | 内科、皮膚科(皮膚の感染症)、乳腺外科(乳房関連) |
足の付け根(鼠径) | 足の傷・感染、性感染症、下腹部の問題など | 内科、皮膚科、泌尿器科(男性)、婦人科(女性)、性病科 |
全身のリンパ節 | ウイルス感染、悪性リンパ腫、膠原病など | 内科 |
まずは「内科」を受診するのが最も一般的でおすすめです。
内科医は全身の症状を診て、リンパの腫れの原因として一般的な感染症などを診断することができます。
もし内科医の判断で、より専門的な検査や治療が必要と判断されれば、適切な診療科(耳鼻咽喉科、外科、血液内科、皮膚科など)へ紹介してもらうことができます。
耳鼻咽喉科は首周りのリンパの腫れで、喉や耳、鼻に原因がある場合に専門的な診断が可能です。
歯科は虫歯や歯周病が原因の場合に有効です。
脇の下や足の付け根のリンパの腫れで、明らかに皮膚の感染症が原因と思われる場合は皮膚科、乳房に関連する場合は乳腺外科、性感染症が疑われる場合は泌尿器科や婦人科、性病科なども考えられます。
ただし、悪性リンパ腫やがんの転移など、より専門的な病気が疑われる場合は、内科医の判断で血液内科や腫瘍内科、外科などに紹介されることになります。
迷った場合は、まずはかかりつけ医や近くの内科を受診し、医師の指示に従うのがスムーズでしょう。
受診する際は、いつからリンパが腫れたか、腫れの大きさや痛み、他の症状(発熱、体重減少など)の有無、現在服用している薬などを正確に伝えるように準備しておくと、スムーズな診断につながります。
まとめ|リンパの腫れの原因を知り、適切に対処しましょう
リンパの腫れは、私たちの体が病原体や異物と戦っている、生体防御機能が働いているサインです。
多くの場合、風邪や喉の炎症、皮膚の感染症などに対する一時的な反応であり、原因が治まれば自然に改善していく心配のない症状です。
しかし、まれに悪性リンパ腫やがんの転移といった、早期発見・早期治療が重要な重篤な病気のサインとしてリンパ節が腫れることもあります。
そのため、リンパの腫れに気づいた際には、その原因を見極めることが大切です。
ご自身でできるセルフケアとしては、十分な休息や水分・栄養補給といった免疫力を高める基本的な対策が有効です。
ただし、リンパマッサージは炎症を悪化させる可能性があるため、腫れている部分には行わないように注意が必要です。
市販薬は痛みや熱などの症状を和らげる対症療法として使用できる場合がありますが、根本的な治療にはなりません。
リンパの腫れが以下のいずれかに当てはまる場合は、自己判断せず、医療機関を受診することを強くお勧めします。
- 痛みがなく硬く触れる
- 急速に大きくなる
- 2週間以上続く
- 鎖骨の上に腫れがある
- 発熱、体重減少、寝汗などの全身症状を伴う
- その他、気になる、不安だと感じる
まずはかかりつけ医や内科を受診し、必要に応じて専門科への紹介を受けましょう。
正確な診断と適切な治療を受けることが、リンパの腫れの原因となっている病気を確実に治すための最善の方法です。
リンパの腫れは体からのメッセージです。
体の声に耳を傾け、不安な場合は医療の専門家に相談するようにしましょう。
【免責事項】
この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療を推奨するものではありません。
ご自身の症状については、必ず医師や薬剤師などの医療専門家にご相談ください。
この記事の情報によって生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。