脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。健康な肝臓では、脂肪の重さは肝臓全体の約3~5%程度ですが、これが5%を超えると脂肪肝と診断されます。
肝臓は体の中でも非常に重要な臓器であり、栄養素の代謝、有害物質の解毒、胆汁の生成など、多くの働きを担っています。
脂肪が蓄積することで、これらの肝臓の機能が十分に発揮できなくなる可能性があります。
脂肪肝は、生活習慣病の一つとして近年増加しており、特に健康診断で指摘されることが多い病気です。しかし、多くの場合、自覚症状がほとんどないため、放置されやすい傾向にあります。
この点が脂肪肝の最も注意すべき点であり、知らず知らずのうちに病気が進行し、より重篤な肝臓病へ移行するリスクがあるのです。
この記事では、脂肪肝の原因、症状、検査、そして改善・治療法について詳しく解説します。
脂肪肝の正しい知識を身につけ、ご自身の健康管理にお役立ていただければ幸いです。
脂肪肝の原因とは
脂肪肝の主な原因は、中性脂肪が肝臓に蓄積することですが、その背景には様々な要因があります。
大きく分けて、アルコールの過剰摂取によるものと、それ以外の原因によるものに分類されます。
食べ過ぎ・飲み過ぎ・運動不足などの生活習慣
脂肪肝の最も一般的な原因は、食生活の乱れと運動不足です。
- 食べ過ぎ: 特に、糖質や脂質の多い食事を摂りすぎると、体内で余ったエネルギーが中性脂肪として蓄えられます。
この中性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積されるだけでなく、肝臓にも運ばれて蓄積されます。
甘い飲み物、お菓子、パン、麺類、揚げ物、肉の脂身などは、摂りすぎると脂肪肝のリスクを高めます。 - 飲み過ぎ: アルコールの摂りすぎは、後述するアルコール性脂肪肝の直接的な原因となります。
アルコールは肝臓で分解されますが、分解過程で脂肪の合成を促進し、分解を抑制する作用があるため、肝臓に脂肪がたまりやすくなります。 - 運動不足: 消費カロリーよりも摂取カロリーが多いと、余剰エネルギーが脂肪として蓄積されます。
運動不足は消費カロリーを減らすだけでなく、インスリンの働きを悪くする(インスリン抵抗性)こともあり、これが脂肪肝の一因となります。 - 偏った食生活: バランスの悪い食事も問題です。
特定の栄養素(例えば、果糖を多く含む食品や飲み物)の摂りすぎは、肝臓での脂肪合成を特に促進することが知られています。
また、極端なダイエットによる急激な体重減少も、一時的に肝臓に負担をかけ、脂肪肝を引き起こすことがあります。
これらの生活習慣は、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった他の生活習慣病とも深く関連しています。
これらの疾患を合併していると、脂肪肝のリスクがさらに高まることが分かっています。
アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝(NAFLD)
脂肪肝は、原因によって主に二つに分類されます。
- アルコール性脂肪肝: アルコールの過剰摂取が原因で起こる脂肪肝です。
一般的に、日本酒で1日3合以上、ビールで大瓶3本以上など、長期間にわたって多量のアルコールを摂取している方に多く見られます。
アルコールによって肝臓の機能が障害され、脂肪が蓄積します。
アルコール性脂肪肝を放置すると、アルコール性肝炎、肝硬変、肝がんへと進行するリスクがあります。 - 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD – Nonalcoholic Fatty Liver Disease): アルコール摂取量が少量(エタノール換算で1日男性30g未満、女性20g未満)あるいは全く飲まないにもかかわらず発症する脂肪肝です。
NAFLDの主な原因は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧といったメタボリックシンドロームに関連する生活習慣病です。- NAFLDはさらに、単純性脂肪肝(NAFL – Nonalcoholic Fatty Liver)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH – Nonalcoholic Steatohepatitis)に分類されます。
- 単純性脂肪肝(NAFL): 肝臓に脂肪が蓄積しているだけで、炎症や線維化(肝臓が硬くなること)がほとんどない状態です。
多くの場合、進行はせず、比較的予後は良好とされています。 - 非アルコール性脂肪肝炎(NASH): 脂肪蓄積に加えて、肝臓に炎症や線維化が起こっている状態です。
NASHは、放置すると数年~10数年のうちに肝硬変や肝がんへと進行するリスクが高く、注意が必要です。
NAFLDの約10~20%がNASHであると言われています。
NAFLD、特にNASHは近年、世界的に増加しており、肝硬変や肝がんの原因として、ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)と並んで重要視されています。
脂肪肝の症状とは
脂肪肝は、その診断名の「脂肪肝」という言葉の響きから、軽視されがちですが、その特徴的な症状の「なさ」こそが、最も危険な点と言えます。
ほとんど自覚症状がないのが特徴
脂肪肝の初期段階では、ほとんどの場合、目立った自覚症状はありません。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほど予備能力が高く、多少の障害があってもすぐに症状が現れにくい臓器です。
そのため、脂肪がかなり蓄積していても、本人は全く気づかないことがほとんどです。
健康診断や人間ドックで、肝機能の数値異常(AST、ALT、γ-GTPなど)や腹部超音波検査で脂肪肝を指摘されて、初めて自分が脂肪肝であることを知るケースが非常に多いです。
この「無症状」という特徴のため、病気が静かに進行してしまうリスクが高まります。
進行した場合に出る症状(疲れやすい・倦怠感など)
脂肪肝が進行し、特にNASHのように肝臓に炎症や線維化が起こり、肝臓の機能が低下し始めると、非特異的な症状が現れることがあります。
しかし、これらの症状も他の多くの病気でも見られるため、「脂肪肝の症状」としてすぐに認識されることは少ないです。
現れる可能性のある症状としては、以下のようなものがあります。
- 全身倦怠感: 体がだるい、疲れやすいといった症状です。
肝臓のエネルギー代謝機能が低下することで起こりうると考えられます。 - 右上腹部の圧迫感や鈍痛: 肝臓がある右季肋部(みぞおちの右下あたり)に、重い感じや軽い痛みを感じることがあります。
これは、脂肪によって肝臓が腫れて、周囲の組織を圧迫するために起こる可能性があります。 - 食欲不振: 肝臓の消化液(胆汁)生成などに関わる機能が低下すると、食欲が落ちることがあります。
これらの症状は、脂肪肝がかなり進行した場合や、合併症が現れた場合に起こりやすいものです。
症状が出てからでは、病状が進行している可能性が高いため、症状がないうちから定期的な健康診断を受け、早期発見に努めることが非常に重要です。
脂肪肝の検査・診断方法
脂肪肝は、多くの場合、健康診断をきっかけに発見されます。
診断のためには、いくつかの検査が行われます。
血液検査(異常なしの場合も)
健康診断の定番である血液検査では、肝臓の機能を示す項目(AST、ALT、γ-GTPなど)を測定します。
これらの数値が高い場合、肝臓に何らかの障害が起きている可能性が示唆され、脂肪肝を含む肝臓病が疑われます。
しかし、注意が必要なのは、初期の脂肪肝では、これらの肝機能を示す数値が正常範囲内であることも少なくないということです。
特に単純性脂肪肝の場合、血液検査だけでは異常が見られないこともあります。
このため、「血液検査で肝機能は異常なしだったから大丈夫」と安心してしまうのは危険な場合があります。
血液検査で脂肪肝が疑われる場合や、他の生活習慣病(糖尿病、脂質異常症など)がある場合には、より詳しい検査が必要となります。
画像検査(腹部超音波検査など)
脂肪肝の診断において、最も有用で広く行われているのが画像検査、特に腹部超音波(エコー)検査です。
- 腹部超音波検査: 超音波を使って肝臓の様子を観察します。
脂肪が蓄積した肝臓は、健康な肝臓と比べて白っぽく(高輝度)映る特徴があります。
超音波検査は体に負担が少なく、外来で簡便に行えるため、脂肪肝の診断に広く用いられます。
肝臓の大きさや形、脂肪の蓄積の程度、さらには胆嚢や膵臓といった周囲の臓器の状態も同時に確認できます。
また、肝硬変や肝がんといった合併症の早期発見にも役立ちます。 - CT検査・MRI検査: より詳細な肝臓の状態を確認するために行われることがあります。
CTやMRIでも脂肪の蓄積を確認できますが、超音波検査と比較して費用が高く、被曝のリスク(CTの場合)もあるため、初期診断よりは、病状の評価や他の病気との鑑別、合併症の確認などの目的で行われることが多いです。 - 肝臓の硬さ測定(肝線維化マーカー、エラストグラフィなど): NASHが疑われる場合や、肝硬変への進行リスクを評価するために行われます。
血液検査で特定のマーカーを測定したり、超音波やMRIを用いた特殊な検査(エラストグラフィ)で肝臓の硬さ(線維化の程度)を非侵襲的に測定したりする方法があります。 - 肝生検: 診断が難しい場合や、NASHであるかどうか、線維化の程度を正確に評価する必要がある場合に、最終的な診断として行われることがあります。
細い針を肝臓に刺して組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。
最も正確な情報が得られますが、体に負担がかかるため、限られた状況で行われます。
これらの検査を組み合わせて、脂肪肝の診断、原因(アルコール性か非アルコール性か)、病状の進行度(NAFLかNASHか、線維化の程度)などが評価されます。
脂肪肝を改善・治す方法
脂肪肝、特に単純性脂肪肝や軽度のNASHは、適切な対策を行うことで改善・完治が期待できる病気です。
治療の柱となるのは、生活習慣の改善です。
食事による改善(良い食べ物・悪い食べ物)
食事は脂肪肝の最大の原因の一つであり、改善策としても最も重要です。
目標は、体重を現在の体重の5~10%程度減らすことです。
これは、体重が減ることで肝臓の脂肪も効果的に減少することが分かっているためです。
- 摂取カロリーの適正化: まず、総摂取カロリーを見直しましょう。
自身の年齢、性別、活動量に見合った適正なカロリー量を把握し、食べ過ぎないように心がけます。
食事記録をつけることも有効です。 - バランスの取れた食事:
- 糖質: 特に果糖を多く含む清涼飲料水や加工食品、菓子類、パン、麺類、丼ものなどの単純糖質や精製された炭水化物の摂りすぎに注意が必要です。
これらは肝臓で脂肪に変わりやすいためです。
主食は玄米や全粒粉パンなど、食物繊維の豊富な複合糖質を選ぶのがおすすめです。 - 脂質: 揚げ物や肉の脂身、加工肉、洋菓子などに含まれる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂りすぎに注意しましょう。
魚に含まれるn-3系脂肪酸(DHA・EPA)や、オリーブオイルに含まれるオレイン酸などの不飽和脂肪酸を適量摂るように心がけます。 - タンパク質: 筋肉量の維持や肝臓の修復に必要です。
魚、鶏むね肉、大豆製品、低脂肪の乳製品などをバランス良く摂りましょう。 - 食物繊維: 野菜、きのこ、海藻、こんにゃく、全粒穀物、豆類などに豊富に含まれています。
食物繊維は血糖値の上昇を緩やかにし、満腹感を持続させる効果があり、脂肪肝の改善に役立ちます。
毎食、野菜や海藻などを積極的に摂りましょう。
- 良い食べ物の例:
- 野菜全般(特に緑黄色野菜やきのこ、海藻類)
- 魚類(青魚に含まれるDHA・EPAは肝臓の炎症を抑える効果も期待されます)
- 大豆製品(豆腐、納豆など)
- 鶏むね肉(皮なし)
- 玄米、雑穀米、全粒粉パン、蕎麦
- きのこ類、海藻類
- こんにゃく
- 果物(ただし、摂りすぎは果糖の過剰摂取につながるので適量に)
- 悪い食べ物の例(控えたいもの):
- 清涼飲料水、ジュース
- 菓子パン、ケーキ、クッキーなどの甘いお菓子
- フライドポテト、唐揚げなどの揚げ物
- インスタントラーメン、スナック菓子
- 肉の脂身、ベーコン、ソーセージなどの加工肉
- バター、生クリームなどの動物性脂肪が多いもの
- 食事の摂り方の工夫:
- ゆっくりよく噛んで食べる: 満腹感を感じやすくなり、食べ過ぎを防ぎます。
- 食べる順番: 食物繊維の多い野菜やきのこ類、海藻類から先に食べることで、血糖値の急激な上昇を抑えられます。
次にタンパク質、最後に糖質の多い主食という順番がおすすめです。 - 寝る前の食事を避ける: 寝る前に食事をすると、消費されなかったエネルギーが脂肪として蓄積されやすくなります。
- アルコール: アルコール性脂肪肝の場合はもちろん禁酒が必要です。
NAFLDの場合でも、アルコールは肝臓に負担をかけ、脂肪肝を悪化させる可能性があるため、できるだけ控えるか、少量にとどめることが望ましいです。
表:脂肪肝改善のための食事例
分類 | 良い食べ物(積極的に摂りたい) | 悪い食べ物(控えたい) | 理由・ポイント |
---|---|---|---|
主食(糖質) | 玄米、雑穀米、全粒粉パン、蕎麦、ライ麦パン | 白米の食べ過ぎ、菓子パン、インスタントラーメン、うどん(精製度が高いもの) | 食物繊維が豊富で血糖値の上昇が緩やか。精製された糖質は脂肪に変わりやすい。 |
タンパク質 | 魚(青魚含む)、鶏むね肉(皮なし)、大豆製品(豆腐、納豆)、卵 | 肉の脂身、加工肉(ベーコン、ソーセージ)、フライドチキン | 良質なタンパク質は肝臓の回復や筋肉維持に必要。脂身の多い肉は脂肪が多い。 |
脂質 | 魚、オリーブオイル、アボカド、ナッツ類(適量) | 揚げ物、バター、生クリーム、マーガリン、ショートニング | 不飽和脂肪酸を適量。飽和脂肪酸、トランス脂肪酸は肝臓に負担をかける。 |
野菜・海藻 | 全ての野菜、きのこ類、海藻類(わかめ、昆布など) | – | 食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富。血糖値コントロールや脂肪分解を助ける。 |
果物 | 適量(種類による) | 果糖の多いジュース、ドライフルーツ、缶詰 | ビタミン、ミネラルが豊富だが、果糖の摂りすぎは注意。ジュースは特に果糖過多になりやすい。 |
飲み物 | 水、麦茶、緑茶、コーヒー(適量) | 清涼飲料水、ジュース、アルコール | 加糖飲料は脂肪肝の大きな原因。アルコールは肝臓に負担。コーヒーは肝臓に良い影響の報告も。 |
運動による改善(肝脂肪の減らし方)
食事改善と並んで重要なのが運動です。
運動によってエネルギー消費を増やし、体脂肪(特に内臓脂肪)を減らすことが、肝臓の脂肪を減らすことにつながります。
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング、エアロビクスなどが代表的な有酸素運動です。
これらの運動は脂肪を燃焼させる効果が高く、肝臓の脂肪減少に特に有効です。- 頻度と時間: 週に3~5回、1回あたり30分以上行うのが理想的です。
「ややきつい」と感じる程度の強度で行うとより効果的です。
まとめて行うのが難しい場合は、10分程度の短い運動を複数回行っても効果があります。 - 継続が力: 一度運動習慣を身につけたら、継続することが重要です。
毎日少しずつでも良いので、体を動かす習慣をつけましょう。
- 頻度と時間: 週に3~5回、1回あたり30分以上行うのが理想的です。
- 筋力トレーニング: 筋肉量を増やすことで基礎代謝が向上し、安静時にも消費されるエネルギー量が増えます。
また、筋肉は糖を取り込む重要な組織であり、筋力トレーニングはインスリンの働きを改善する効果も期待できます。- スクワット、腕立て伏せ、腹筋などの自重トレーニングや、ダンベル、トレーニングチューブなどを使った運動も効果的です。
- 有酸素運動と組み合わせることで、より効率的に脂肪を減らし、リバウンドしにくい体を作ることができます。
- 日常生活での活動量増加: 運動する時間をまとまって取れない場合でも、日常生活の中で活動量を増やす工夫をしましょう。
- 階段を使う、一駅前で降りて歩く、車を使わずに自転車に乗る、休憩時間に軽いストレッチやウォーキングをする、家事や庭仕事を積極的に行うなど、意識的に体を動かす機会を増やします。
運動は、肝臓の脂肪を減らすだけでなく、インスリン抵抗性の改善、コレステロール値や血圧の改善、ストレス解消など、脂肪肝の原因となる他の生活習慣病の予防・改善にもつながるため、積極的に取り組むことが推奨されます。
その他の生活習慣の見直し
食事と運動に加えて、以下の生活習慣も見直すことが脂肪肝の改善に繋がります。
- 禁煙: 喫煙は全身の血管を収縮させ、血行を悪化させます。
また、炎症を引き起こす物質を増加させる可能性があり、肝臓への負担となるため、禁煙が推奨されます。 - 十分な睡眠: 睡眠不足は食欲を増進させるホルモンの分泌を促したり、インスリン抵抗性を悪化させたりすることが知られています。
規則正しい生活を送り、十分な睡眠時間を確保しましょう。 - ストレス管理: 過度なストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱し、生活習慣の乱れや暴飲暴食につながることがあります。
自分に合った方法でストレスを解消することも大切です。
病院での治療について
脂肪肝の治療の基本は、前述した食事療法と運動療法による生活習慣の改善です。
これにより、多くの単純性脂肪肝は改善します。
ただし、NASHのように炎症や線維化が進行している場合や、原因となる他の疾患(糖尿病、脂質異常症、高血圧など)がある場合は、医師の管理のもとで治療が行われます。
- 生活習慣改善の指導: 医師や管理栄養士から、より専門的で具体的な食事指導や運動指導を受けることができます。
- 原因疾患の治療: 糖尿病や脂質異常症、高血圧などを合併している場合は、これらの疾患に対する薬物療法が行われます。
これらの疾患を適切にコントロールすることは、脂肪肝、特にNASHの進行を抑える上でも非常に重要です。 - 脂肪肝に対する薬物療法: 現在、脂肪肝そのものを直接治療する特効薬は確立されていません。
しかし、NASHに対して、病状の進行を抑える効果が期待されるいくつかの薬剤(糖尿病治療薬の一部や、ビタミンEなど)が研究されており、病状に応じて使用されることがあります。
また、肝庇護剤(肝臓の細胞を保護する薬)が補助的に使用されることもあります。 - 減量手術: 高度な肥満があり、食事療法や運動療法だけでは体重減少が難しい場合に、脂肪肝改善の選択肢として減量手術が検討されることがあります。
重要なのは、自己判断で市販のサプリメントなどに頼るのではなく、必ず医師に相談し、適切な診断と治療方針に従うことです。
特にNASHが疑われる場合は、専門医による定期的なフォローアップが不可欠です。
脂肪肝は完治する?(可逆性について)
脂肪肝は、「可逆性がある(元の状態に戻りうる)」病気です。
特に、単純性脂肪肝の段階であれば、適切な生活習慣の改善(食事療法、運動療法)によって、蓄積した脂肪を減らし、肝臓を健康な状態に戻すことが十分に可能です。
体重が5~10%減少するだけで、肝臓の脂肪が大きく減少し、肝機能の数値も改善することが多くの研究で示されています。
つまり、早期に発見し、原因となっている生活習慣を改善できれば、「治す」ことができる病気なのです。
健康診断で脂肪肝を指摘されたとしても、悲観せず、前向きに改善に取り組むことが大切です。
しかし、注意が必要なのは、病状が進行し、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)から肝硬変まで進んでしまった場合です。
肝硬変は、肝臓の細胞が破壊され、硬い線維組織に置き換わってしまった状態であり、こうなると肝臓の機能は著しく低下し、残念ながら完全に元の状態に戻すことは非常に困難になります。
肝硬変まで進行してしまうと、様々な合併症(腹水、黄疸、肝性脳症、食道静脈瘤など)が現れるリスクが高まり、生命予後にも関わってきます。
したがって、脂肪肝の段階、特に炎症や線維化が軽度なうちに、積極的に改善に取り組むことが、肝硬変への進行を防ぎ、肝臓の健康を取り戻すための鍵となります。
脂肪肝を放置するリスク(NASH・肝硬変・肝がん)
「脂肪肝は、まあ、脂肪がたまってるだけでしょ?」と安易に考え、放置することは非常に危険です。
特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の一部である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へ進行した場合、その後のリスクは劇的に高まります。
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)への進行: 単純性脂肪肝(NAFL)の状態では炎症や線維化はほとんどありませんが、一部のNAFLD患者さんは、肝臓で炎症が起こり、細胞が破壊され、肝臓が硬くなる(線維化)NASHへと進行します。
なぜNASHに進行するのかはまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因、腸内細菌叢の変化、特定の脂肪酸の蓄積などが関与していると考えられています。
NASHは、沈黙のうちに進行することが多く、気づいた時には病状が進んでいることがあります。 - 肝硬変への進行: NASHを放置すると、肝臓の線維化がさらに進み、最終的に肝硬変へと進行します。
肝硬変は、肝臓全体が硬く縮んでしまい、肝臓本来の機能が著しく低下した状態です。
ここまで進行すると、肝臓の働きを補う治療はありますが、完全に健康な肝臓に戻すことは難しくなります。
肝硬変になると、全身倦怠感、むくみ、腹水、黄疸、肝性脳症(意識障害など)、食道・胃静脈瘤破裂による出血など、重篤な合併症が現れ、命に関わることもあります。 - 肝がんの発生: 脂肪肝、特にNASHや脂肪肝による肝硬変は、肝がんの強力なリスク因子です。
ウイルス性肝炎(B型、C型)が減少している現在、NAFLD/NASHは肝がんの原因として増加傾向にあります。
驚くべきことに、NASHによる肝がんの一部は、肝硬変を経ていない段階で発生することも報告されており、単純性脂肪肝であっても長期的な注意が必要な場合があることを示唆しています。
表:NAFLDの病態と進行リスク
病態 | 炎症 | 線維化 | 進行リスク(肝硬変・肝がん) |
---|---|---|---|
単純性脂肪肝(NAFL) | なし | なし | 低い |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH) | あり | あり | 高い |
NASHによる肝硬変 | あり | 著しい | 非常に高い |
このように、自覚症状がほとんどない脂肪肝であっても、特にNASHに進行している場合は、将来的に肝硬変や肝がんという命に関わる病気へと進行するリスクを抱えています。
このため、「ただの脂肪肝」と軽視せず、適切に対策を講じることが非常に重要なのです。
脂肪肝に関するよくある質問
脂肪肝について、患者さんや健康診断で指摘された方からよく聞かれる質問とその回答をまとめました。
痩せているのに脂肪肝になることはありますか?
はい、痩せている方でも脂肪肝になることはあります。
脂肪肝は肥満と強く関連していますが、必ずしも肥満の方だけがかかる病気ではありません。
特に、以下のようなケースでは痩せ型でも脂肪肝になることがあります。
- 隠れ肥満: 体重は標準でも、体脂肪率が高い、特に内臓脂肪が多い場合。
見た目は細くても、筋肉量が少なく、脂肪が体内に蓄積している状態です。 - 急激なダイエット: 短期間で過度な食事制限や運動を行い、急激に体重を減らすと、肝臓に負担がかかり一時的に脂肪肝になることがあります。
- 極端な偏食: 特定の栄養素(特に糖質や脂質)だけを過剰に摂取し、他の栄養素が不足している場合。
- 遺伝的要因: 体質的に脂肪を肝臓に蓄積しやすい方がいます。
- 糖尿病やインスリン抵抗性: 痩せている方でも糖尿病やインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなること)がある場合、肝臓に脂肪が蓄積しやすくなります。
- 特定の内服薬: ステロイド剤など、一部の薬の副作用として脂肪肝が起こることがあります。
痩せているからといって安心せず、健康診断で指摘された場合は、原因を詳しく調べる必要があります。
子供でも脂肪肝になるのでしょうか?
はい、子供でも脂肪肝、特に非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)になることがあります。
近年、子供の肥満が増加しており、それに伴って子供の脂肪肝も増加傾向にあります。
子供の脂肪肝も大人と同様に、食べ過ぎ(特に甘い飲み物やスナック菓子、ファストフードなど)や運動不足といった生活習慣が主な原因です。
子供の場合も、ほとんど症状がないことが多いため、学校健診や小児科での診察で偶然発見されることが多いです。
子供の脂肪肝も、放置すると将来的にNASHや肝硬変、肝がんへと進行するリスクがあると考えられています。
子供の脂肪肝の治療も、基本は食事療法と運動療法による生活習慣の改善です。
家族全体で食生活や運動習慣を見直すことが重要になります。
子供の脂肪肝が疑われる場合は、小児科医に相談しましょう。
健康診断で脂肪肝を指摘されたら、どうすれば良いですか?
健康診断で脂肪肝を指摘された場合は、必ず医療機関を受診し、医師に相談してください。
「ただの脂肪肝だろう」と自己判断で放置するのは危険です。
受診することで、以下の点が明らかになります。
- 脂肪肝の原因: アルコール性か非アルコール性か、原因となる生活習慣や他の疾患(糖尿病、脂質異常症など)がないかを確認します。
- 病状の評価: 脂肪肝の程度、炎症や線維化の有無(NASHの可能性)、肝硬変や肝がんへの進行リスクを評価します。
血液検査や腹部超音波検査などが改めて行われることが多いです。
必要に応じて、肝臓の硬さを測定する検査などが行われることもあります。 - 治療方針の決定: 検査結果に基づき、最適な改善・治療方針が立てられます。
多くの場合、まずは食事療法と運動療法を中心とした生活習慣の改善が推奨されます。
原因疾患があればその治療も行います。
NASHが疑われる場合や病状が進んでいる場合は、専門的な治療や定期的な経過観察が必要になります。
脂肪肝は早期に対策すれば改善する可能性の高い病気です。
健康診断での指摘を放置せず、専門家の指導のもとで適切な対応をとることが、将来の重篤な肝臓病を防ぐために最も重要です。
脂肪肝は高血圧、脂質異常症、糖尿病と関係がありますか?
はい、脂肪肝は高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症や高トリグリセリド血症)、糖尿病といった他の生活習慣病と非常に密接に関係しています。
これらの病気は、まとめて「メタボリックシンドローム」の構成要素でもあります。
- これらの疾患は、いずれも過食や運動不足、肥満といった共通の原因によって引き起こされやすいです。
- 特に、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)は、これらの疾患全てに関わる重要なメカニズムと考えられています。
インスリン抵抗性があると、血糖値が上がりやすくなるだけでなく、肝臓での脂肪合成が促進され、脂肪分解が抑制されるため、脂肪肝になりやすくなります。 - これらの疾患を合併していると、脂肪肝がNASHへ進行するリスクや、肝硬変・肝がんへと移行するリスクが高まることが知られています。
逆に言えば、脂肪肝の治療として行う生活習慣の改善(食事療法、運動療法)は、これらの合併している生活習慣病の改善にも繋がり、相乗効果が期待できます。
脂肪肝を指摘されたら、他の生活習慣病がないかも含めて全身の状態をチェックしてもらうことが重要です。
脂肪肝は治癒するのにどのくらいの期間がかかりますか?
脂肪肝が改善・治癒するまでの期間は、脂肪の蓄積の程度、炎症や線維化の有無、原因となっている生活習慣の度合い、そして何よりご自身の改善への取り組みによって大きく異なります。
- 軽度の脂肪肝(単純性脂肪肝): 食事療法と運動療法をしっかりと行い、体重を5~10%減量できれば、数ヶ月から半年程度で肝臓の脂肪が減少し、肝機能の数値が改善することが期待できます。
- 非アルコール性脂肪肝炎(NASH): NASHの場合、単純性脂肪肝よりも改善に時間がかかる傾向があります。
炎症や線維化の程度にもよりますが、生活習慣改善に加えて、必要に応じて薬物療法なども行い、数ヶ月から年単位での継続的な治療と経過観察が必要になります。
線維化が進んでいる場合は、完全に元の状態に戻すのは難しいこともあります。
いずれの場合も、継続が最も重要です。
一度改善しても、元の生活習慣に戻ってしまうと、再び脂肪肝になってしまう可能性があります。
長期的な視点で、健康的な生活習慣を維持していくことが大切です。
どのくらいの期間で改善が見込めるかについては、ご自身の病状や取り組み状況によって異なるため、必ず主治医に確認してください。
医療機関への相談を検討しましょう
この記事では、脂肪肝について、その原因から改善・治療法、そして放置するリスクまでを詳しく解説しました。
脂肪肝は多くの場合自覚症状がありませんが、将来的に肝硬変や肝がんといった重篤な病気へ進行する可能性がある、決して軽視できない病気です。
もし、あなたが健康診断や人間ドックで脂肪肝を指摘されたり、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧といった脂肪肝のリスクが高い生活習慣病をお持ちであったりする場合は、ぜひ一度、医療機関への相談を検討してください。
- 健康診断で指摘された方: 症状がなくても、必ず医療機関を受診し、脂肪肝の原因や病状の正確な評価を受けましょう。
- リスクが高い方: 肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病などを指摘されている方は、脂肪肝を合併している可能性が高いです。
一度、肝臓の状態を調べてもらうことをお勧めします。 - 全身倦怠感や右上腹部の不快感など、気になる症状がある方: 脂肪肝以外の病気の可能性も含めて、医師に相談しましょう。
専門医(消化器内科や肝臓専門医)は、適切な検査に基づいて脂肪肝の診断を行い、あなたの病状や体質に合わせた最適な改善・治療方法を提案してくれます。
また、生活習慣の改善について、より具体的なアドバイスや指導を受けることもできます。
早期に専門家のサポートを得ることで、脂肪肝の進行を防ぎ、肝臓の健康を守ることができます。
「沈黙の臓器」である肝臓からのサインを見逃さず、ご自身の健康を守るために、一歩踏み出してみてください。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。
個別の病状については、必ず専門の医療機関で医師の診断と指導を受けてください。
記事内容は、発表時点での情報に基づいており、医学的知見は常に更新される可能性があります。