起立性調節障害
朝、布団から起き上がることができない。立ち上がるとめまいや立ちくらみがして、時には意識を失ってしまう。体はだるく、頭痛や吐き気もひどい――。このような症状に心当たりはありませんか? それはもしかすると、「起立性調節障害(OD)」かもしれません。特に思春期の子どもたちに多く見られますが、大人になってから発症することもあります。
起立性調節障害は、自律神経の働きが乱れることで、立ち上がった際に脳や全身への血流が一時的に悪くなる病気です。そのため、様々な身体的・精神的な症状が現れ、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
この記事では、起立性調節障害の原因、具体的な症状、診断方法、そして自宅でできる生活改善から医療機関での治療法まで、詳しく解説していきます。もしあなたやあなたのご家族が同じような悩みを抱えているなら、ぜひ最後まで読んで、病気への理解を深め、適切な対応を見つける参考にしてください。
起立性調節障害とは?
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation; OD)は、自律神経機能の不全によって引き起こされる病気です。私たちの体には、立ち上がったときに重力で血液が下半身に溜まるのを防ぎ、脳への血流を維持するための仕組みが備わっています。この仕組みをコントロールしているのが自律神経(交感神経と副交感神経)です。
通常、健康な人であれば、寝ている状態から立ち上がると、下半身の血管が適度に収縮し、心拍数が増加することで血圧を維持し、脳への血流が低下しないように調整されます。しかし、起立性調節障害では、この自律神経による調節機能がうまく働かないため、立ち上がったときに血圧が十分に維持できなかったり、心拍数が異常に増加したりしてしまいます。
その結果、脳への血流量が一時的に減少し、立ちくらみやめまい、全身倦怠感、頭痛など、さまざまな不快な症状が現れるのです。特に思春期の子どもに多く発症する傾向があり、10歳から16歳くらいの子どもの約10%が何らかの起立時の調節障害を持っていると言われています。これは、この時期に体の成長に伴い、自律神経のバランスが一時的に不安定になりやすいためと考えられています。
起立性調節障害は、怠けや気の持ちようではなく、体に起きている具体的な機能障害です。適切な診断と治療によって症状の改善が見込める病気ですので、一人で悩まず、医療機関に相談することが大切です。
主な症状をチェックリストで確認
起立性調節障害の症状は多岐にわたり、個人差が大きいのが特徴です。ここでは、代表的な症状を全身症状と精神神経症状に分けてご紹介します。以下のチェックリストで、ご自身の症状が当てはまるか確認してみましょう。
全身症状
起立性調節障害の全身症状は、主に立ち上がったときに誘発されたり、悪化したりするものが中心です。
- 立ちくらみやめまい:
立ち上がった際にクラクラしたり、フワフワするような感覚。最も代表的な症状です。 - 失神や目の前が真っ暗になる:
立ちくらみがひどい場合に起こります。脳への血流が極端に減少した状態です。 - 強い全身倦怠感や疲労感:
朝起きても体がだるく、一日中疲れやすい状態が続きます。 - 頭痛:
特に午前中にひどくなる傾向があります。後頭部やこめかみあたりに鈍痛を感じることが多いです。 - 腹痛:
吐き気を伴うこともあります。午前中に症状が強く出やすい傾向があります。 - 動悸、息切れ:
立ち上がった際に心臓がドキドキしたり、息苦しさを感じたりします。 - 食欲不振:
特に朝食が食べられないことが多いです。 - 入浴時や嫌なことを見聞きした際に気持ちが悪くなる:
自律神経の刺激に対して過敏になっている状態です。 - 顔色が青白い:
血行が悪くなっているサインです。
精神神経症状
起立性調節障害は身体的な症状だけでなく、精神面や神経面にも影響を及ぼすことがあります。
- 午前中に調子が悪く、午後から夕方にかけて回復する:
起立性調節障害に非常に特徴的な症状パターンです。 - 朝なかなか起きられない:
起きようとしても体が鉛のように重く、起き上がることが困難です。 - 夜寝つけない、眠りが浅い:
昼夜逆転や睡眠リズムの乱れを伴うことがあります。 - 集中力や思考力の低下:
だるさや頭痛などから、学業や仕事に集中できないことがあります。 - イライラしやすい、感情の起伏が激しい:
体調の悪さが精神状態に影響を及ぼします。 - 吐き気や気分不良:
精神的なストレスによっても症状が悪化することがあります。
これらの症状のうち、いくつか当てはまる場合は、起立性調節障害の可能性が考えられます。特に、「朝起きられない」「午前中に調子が悪く、午後から回復する」「立ちくらみやめまいが頻繁にある」といった症状が顕著な場合は、一度医療機関に相談してみることをおすすめします。
原因は自律神経の調節不全
起立性調節障害の根本的な原因は、自律神経(交感神経と副交感神経)の働きがうまくいかないことにあります。自律神経は、私たちの意識とは無関係に、心臓の動き、血圧、体温、消化器の働きなどを調節している神経システムです。
交感神経と副交感神経のバランス
自律神経には、活動時に優位になる交感神経と、リラックス時や休息時に優位になる副交感神経があります。健康な状態では、この二つの神経がシーソーのようにバランスを取りながら、体の機能を適切に調節しています。
立ち上がった際には、重力によって血液が下半身に移動しようとするため、血圧が低下しやすくなります。これを防ぐために、通常は交感神経が瞬間的に働き、以下の調節を行います。
- 血管収縮:
下半身や内臓の血管を収縮させて、血液が下半身に溜まりすぎるのを防ぎます。 - 心拍数増加:
心臓の拍動を速めて、脳への血流を維持しようとします。
起立性調節障害では、この立ち上がり時の交感神経の働きが不十分であったり、逆に副交感神経が過剰に働いてしまったりすることで、これらの調節がうまくいきません。その結果、立ち上がっても血圧が十分に上がらず、心拍数も必要なほど増加しない(あるいは異常に増加しすぎるタイプもある)ため、脳への血流が減少し、様々な症状を引き起こします。
循環血液量の不足
起立性調節障害の患者さんの中には、体全体の循環血液量(体内の血液の総量)が相対的に少ない傾向があることも指摘されています。循環血液量が少ないと、立ち上がった際に下半身に移動する血液の量が、相対的に無視できない割合を占めてしまいます。
血管を収縮させて血液の移動を防ごうとしても、元々の血液量が少ないため、脳に必要なだけの血流を維持することが難しくなります。これも、起立時の血圧低下や症状悪化の一因と考えられています。
その他の要因(ストレス、遺伝など)
起立性調節障害は、自律神経の機能不全が主原因ですが、発症や症状の悪化には複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
- ストレスや心理的要因:
学校での人間関係、受験、家庭環境など、精神的なストレスは自律神経のバランスを大きく崩す要因となります。完璧主義や真面目な性格の子どもが、心身のストレスを抱え込みやすい傾向があるとも言われます。 - 遺伝や体質:
起立性調節障害になりやすい体質が遺伝的に受け継がれる可能性も指摘されています。家族に起立性調節障害やそれに類する症状を持つ人がいる場合、発症しやすいことがあります。 - 急激な成長:
思春期は体の成長が著しい時期ですが、自律神経の発達が体の成長に追いつかないことで、一時的にバランスが崩れやすくなります。これが思春期に発症が多い理由の一つと考えられています。 - 運動不足や生活習慣の乱れ:
運動不足は筋力(特に下半身の筋力)の低下を招き、立ち上がったときの血流を心臓に戻すポンプ機能が弱まります。また、夜更かしや朝食抜きの生活は体内時計を狂わせ、自律神経のリズムを乱します。 - 体調不良:
風邪や感染症にかかった後、起立性調節障害の症状が悪化したり、発症したりすることがあります。
これらの要因が単独あるいは複合的に影響し合い、自律神経の調節機能が破綻して起立性調節障害を発症すると考えられています。原因を特定することは難しい場合もありますが、これらの要因を理解し、改善していくことが治療に繋がります。
診断方法と基準
起立性調節障害の診断は、特徴的な症状の確認と、自律神経機能の検査を中心に行われます。他の病気との鑑別も非常に重要です。
問診
まず、医師が患者さん本人や保護者から、現在の症状
症状が出始めた時期
症状の経過
一日の中での症状の変動
立ち上がったときの具体的な様子
学校生活や社会生活への影響
睡眠や食事などの生活習慣
過去の病歴
家族歴などを詳しく聞き取ります。
特に、前述のチェックリストにあるような症状が、立ち上がったときに誘発・悪化するか、午前中に強く午後にかけて改善するか、といった特徴的なパターンがあるかどうかが重要なポイントとなります。
新起立試験
起立性調節障害の診断において、最も重要な検査の一つが新起立試験です。これは、自律神経の働きを客観的に評価するための検査です。
検査は通常、以下の手順で行われます。
- 安静臥位(仰向けに寝た状態)での測定:
検査前に10分間以上、仰向けに寝た状態で安静にします。この状態で、血圧、心拍数、心電図などを測定し、安静時の状態を記録します。 - 起立状態での測定:
合図とともに、患者さんは自分で立ち上がります。その後、10分間にわたって立ち続けたまま、血圧、心拍数、心電図などを定期的に測定します。 - 血圧・心拍数の変動評価:
立ち上がった直後から10分間の血圧と心拍数の変動パターンを、安静時と比較して評価します。
起立性調節障害の診断基準はいくつかありますが、一般的な基準(日本の小児起立性調節障害診断基準など)では、新起立試験における血圧や心拍数の特定の変動パターンが重視されます。例えば、以下のような所見が診断の参考になります。
タイプ | 診断基準の主な特徴(新起立試験10分後の変動) | 症状との関連 |
---|---|---|
体位性頻脈症候群 (POTS) | 収縮期血圧の低下は軽度またはなく、心拍数が安静時より30回/分以上増加(12~19歳では40回/分以上増加)する。心拍数が異常に速くなる。 | 立ちくらみ、動悸、息切れ、めまいなどが顕著。 |
起立時脳血流低下型 | 収縮期血圧の低下は軽度またはなく、心拍数の増加も軽度。立ち上がり時に脳血流が顕著に低下する(脳血流測定装置を用いた場合)。 | 立ちくらみ、めまい、失神が起こりやすい。体位性頻脈症候群との鑑別が重要。 |
神経調節性失神 | 立ち続けたり特定の誘因(痛み、恐怖など)で、急激な血圧低下と心拍数低下(または心拍数増加後低下)が起こり、失神に至る。 | 失神が最も特徴的。失神前に気持ち悪さや冷や汗などの前兆があることがある。 |
遷延性起立性低血圧 | 立ち上がってから3分以上経過した後に収縮期血圧が20mmHg以上低下する。 | 立ちくらみやめまいが、立ち上がってすぐではなく、少し時間が経ってから現れる。 |
※上記の基準は一般的な目安であり、診断はこれらの結果と問診、他の検査結果などを総合して医師が行います。
その他の検査
新起立試験以外にも、起立性調節障害や他の病気との鑑別、合併症の有無などを調べるために、必要に応じて以下の検査が行われることがあります。
- 心電図、心エコー:
不整脈や心臓の構造的な問題がないかを確認します。 - 採血:
貧血、甲状腺機能異常、炎症マーカーなどを調べ、他の病気がないかを確認します。自律神経の機能に関連するホルモンなどを測定することもあります。 - 頭部MRI/CT:
めまいや頭痛の原因として、脳に異常がないかを確認します。(通常は必要ありませんが、他の神経疾患が疑われる場合に行われることがあります) - ホルモン検査:
内分泌系の異常がないか確認します。
これらの検査を経て、総合的に起立性調節障害と診断されます。診断に迷う場合や、他の病気が疑われる場合は、専門医への紹介となることもあります。
治し方(治療法)について
起立性調節障害の治療は、生活習慣の改善(非薬物療法)と薬物療法を組み合わせ、患者さんの症状や重症度に合わせて個別に行われます。治療の目標は、症状を和らげ、日常生活や学業、社会生活への支障を軽減し、最終的には症状が消失することを目指します。
重要なのは、焦らず、根気強く治療に取り組むことです。効果が出るまでに時間がかかることもありますが、多くの場合、適切な治療によって症状は改善していきます。
非薬物療法(生活習慣の改善)
生活習慣の改善は、起立性調節障害の治療の基本であり、最も重要とも言えます。自宅で無理なく取り組めることから始め、自律神経の働きを整えることを目指します。
水分・塩分の摂取
循環血液量を増やし、起立時の血圧低下を防ぐために、十分な水分と適度な塩分の摂取が推奨されます。
- 水分:
1日に1.5リットル~2リットルを目安に、こまめに水分を摂りましょう。特に朝起きた時や、立ち上がる前にコップ一杯の水を飲む習慣をつけると効果的です。冷たい水よりも、常温や温かい飲み物の方が胃腸への負担が少ない場合があります。 - 塩分:
医師の指示がない限り、通常よりも少し多めの塩分(例えば1日に10g~12g程度。通常の食事より2g~4g程度増やすイメージ)を摂取することが推奨されることがあります。塩分は体内の水分を保持する働きがあるため、循環血液量を増やすのに役立ちます。ただし、腎臓病や高血圧などの持病がある場合は、塩分制限が必要なこともあるため、必ず医師に相談してください。 - 例:味噌汁やスープを飲む、梅干しを食べる、塩飴をなめるなど、無理なく塩分を摂取する方法を取り入れましょう。
適度な運動
運動不足は筋力低下を招き、起立時の血流調節を妨げます。体調に合わせて、無理のない範囲で適度な運動を取り入れることが大切です。
- 下半身の筋力強化:
ふくらはぎや太ももの筋肉は、立ち上がったときに血液を心臓に戻すポンプのような役割を果たします。ウォーキング、軽いジョギング、階段昇降、スクワットなどが効果的です。 - 継続すること:
一度にたくさんやるよりも、毎日少しずつでも継続することが重要です。体調の悪い日は無理せず休みましょう。 - 横になった状態での運動:
体調が悪い場合は、仰向けになったまま足踏みをしたり、自転車を漕ぐような動きをしたりするだけでも、血流改善に役立ちます。
規則正しい生活と睡眠
自律神経の働きを整えるためには、規則正しい生活リズムを作ることが非常に重要です。
- 起床・就寝時間を一定に:
休日でも平日と同じ時間に起きるように心がけましょう。体内時計を整えることで、自律神経のリズムも安定しやすくなります。 - 朝日の光を浴びる:
起床後すぐにカーテンを開けて自然光を浴びることで、体内時計がリセットされ、覚醒を促します。 - 朝食を食べる:
朝食を摂ることで胃腸が動き始め、全身の活動スイッチが入ります。食欲がない場合でも、ヨーグルトや果物など、食べやすいものから少量でも口にする習慣をつけましょう。 - 十分な睡眠時間の確保:
年齢に応じて必要な睡眠時間を確保します。ただし、寝すぎるとかえって症状が悪化することもあるため、適切な睡眠時間を見つけることが大切です。
その他の生活改善
- 立ち上がり方の工夫:
急に立ち上がらず、座った状態やかがんだ状態から、ゆっくりと段階を踏んで立ち上がるようにしましょう。可能であれば、立ち上がる前に足踏みをしたり、足首を動かしたりして、下半身の血流を促すと良いでしょう。 - 弾性ストッキングの活用:
医療用の弾性ストッキング(着圧ソックス)は、下半身の血管を圧迫して血液が溜まるのを防ぎ、血圧維持に役立ちます。医師に相談の上、適切なものを利用してみましょう。 - 入浴時の注意:
熱すぎるお湯での長時間の入浴や、急な立ち上がりは症状を悪化させることがあります。ぬるめのお湯に短時間浸かる、シャワーで済ませる、湯船からゆっくり立ち上がるなどの工夫が必要です。脱水予防のために、入浴前後に水分を摂ることも忘れずに。 - ストレスマネジメント:
ストレスは自律神経の乱れに直結します。自分に合ったストレス解消法を見つけ(趣味、リラクゼーション、軽い運動など)、積極的に取り入れましょう。
薬物療法
生活習慣の改善だけでは症状が十分に改善しない場合や、症状が重く日常生活に大きな支障が出ている場合は、医師の判断で薬物療法が行われます。使用される薬は、患者さんの症状や起立試験の結果などから、いくつかの種類があります。
- 昇圧剤(血圧を上げる薬):
- ミドドリン(メトリジン®など):
血管を収縮させる作用があり、起立時の血圧低下を改善します。起立性調節障害の治療薬として広く使われています。通常、1日2~3回服用します。 - 副作用として、立毛感(鳥肌)、頭痛、動悸などが挙げられますが、多くは一時的で軽度です。
- ミドドリン(メトリジン®など):
- 心拍数を抑える薬(β遮断薬など):
体位性頻脈症候群(POTS)のように、立ち上がった際に心拍数が異常に増加するタイプの患者さんに用いられることがあります。心臓の過剰な働きを抑え、動悸や息切れを和らげます。 - 循環血液量を増やす薬:
- フルドロコルチゾン(フロリネフ®など):
腎臓でのナトリウム(塩分)と水分の再吸収を促し、循環血液量を増やします。重症で他の治療法に反応しにくい場合に使用されることがあります。 - 副腎皮質ホルモン製剤のため、医師の厳重な管理のもとで使用されます。
- フルドロコルチゾン(フロリネフ®など):
- 精神的な症状に対する薬:
不安や抑うつ、不眠などの精神症状が強い場合や、症状によって引きこもりなどが生じている場合には、抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入剤などが併用されることがあります。これらの薬は、直接自律神経の調節を改善するわけではありませんが、合併している精神症状を和らげることで、全体的な状態の改善に繋がることがあります。
薬物療法は、医師の指示に従って正しく服用することが重要です。自己判断で量を調整したり、中止したりせず、疑問や不安があれば必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
漢方薬
起立性調節障害に対して、体質や症状に合わせて漢方薬が処方されることもあります。漢方薬は、体全体のバランスを整え、自律神経の乱れや血行不良などを改善することを目指します。
よく使用される漢方薬としては、以下のようなものがあります。(これらは一例であり、処方は個々の体質や症状によって異なります。)
- 五苓散(ごれいさん):
水分のバランスを整え、めまいや頭痛、吐き気などに用いられます。 - 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):
頭痛やめまい、吐き気、倦怠感など、起立性調節障害の様々な症状に幅広く用いられます。 - 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):
めまいや動悸、立ちくらみなどに用いられます。 - 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):
体力があまりなく、冷えや貧血傾向のある女性によく用いられ、血行を改善します。
漢方薬は効果が現れるまでに時間がかかる場合もありますが、西洋薬と比較して副作用が少ないとされています。漢方薬を希望する場合は、医師に相談してみましょう。
受診すべき診療科
起立性調節障害の症状は多岐にわたるため、「何科を受診すればいいの?」と迷うことがあるかもしれません。一般的には、以下の診療科が考えられます。
- 小児科:
思春期の子どもの場合、まずかかりつけの小児科医に相談するのが良いでしょう。起立性調節障害は小児科で比較的多く診られている病気です。 - 心療内科/精神科:
身体症状と精神症状の両方が見られる場合や、ストレスや心理的な要因が強く関与していると考えられる場合。特に、学校に行けない、引きこもりといった状況が顕著な場合は、心療内科や精神科が専門となります。 - 脳神経内科:
めまいや失神などの神経系の症状が目立つ場合や、他の神経疾患との鑑別が必要な場合。 - 内科:
大人の起立性調節障害の場合や、かかりつけ医として。 - 循環器内科:
動悸や息切れなど心臓に関連する症状が強い場合や、心臓の病気との鑑別が必要な場合。 - 起立性調節障害専門外来:
一部の医療機関では、起立性調節障害に特化した専門外来を設けています。専門的な診断や治療を受けたい場合に検討すると良いでしょう。
まずは、かかりつけ医や、普段から相談しやすい医師に症状を話してみるのが第一歩です。必要に応じて、適切な専門医を紹介してくれるでしょう。医療機関を受診する際は、症状が出始めた時期、具体的な症状(特に立ち上がったときの様子や時間帯による変動)、日常生活への影響などを具体的に伝えられるように準備していくとスムーズです。
子供(中学生など)の場合の対応
起立性調節障害は特に思春期に多いため、子ども本人の苦痛はもちろんのこと、保護者の方もどのように対応すれば良いか悩むことが多いでしょう。学校に行けない、勉強についていけない、友人との関係が悪化するなど、様々な問題が生じる可能性があります。
学校との連携
起立性調節障害による症状は、午前中に強く出る傾向があるため、朝の登校が困難になるケースが少なくありません。学校側も病気への理解があれば、無理のない範囲での登校や学習のサポートを受けることができます。
- 診断書の提出:
医師に診断書を作成してもらい、学校に提出することで、病気の状態や必要な配慮について学校側が理解しやすくなります。 - 登校形態の相談:
午前中は自宅で休養し、午後から登校するなど、体調に合わせた柔軟な登校形態を相談できないか学校に確認してみましょう。保健室での一時的な休養や、別室での学習なども選択肢となりえます。 - 学習のサポート:
体調不良で授業を欠席した場合の課題のフォローや、テスト期間中の配慮などについて、担任の先生やスクールカウンセラーと相談しましょう。 - 定期的な情報共有:
学校側と保護者、必要であれば医療機関も交えて、定期的に情報交換を行い、子どもの状態に合わせて対応を調整していくことが大切です。
学校側が起立性調節障害について十分な知識を持っていない場合もあるため、病気について分かりやすく説明したり、関連情報を提供したりすることも有効です。
親ができるサポート
起立性調節障害の子どもを持つ親御さんにとって、最も大切なのは子どもの苦しみを理解し、寄り添うことです。
- 病気への理解:
まずは親御さん自身が起立性調節障害という病気について正しく理解することが重要です。「怠けている」「気の持ちよう」といった誤解は、子どもをさらに追い詰めてしまいます。本人が辛いと感じている身体症状があることを認め、共感的な態度で接しましょう。 - 無理強いしない、焦らない:
朝起きられないことや学校に行けないことに対して、強く叱ったり、無理に行かせようとしたりするのは逆効果です。「大丈夫だよ」「今は休んでもいいんだよ」といった肯定的な言葉をかけ、安心させてあげることが大切です。すぐに改善しなくても、焦らず、長い目で回復を見守る姿勢が求められます。 - 治療への主体性を促す:
生活習慣の改善や服薬など、治療に取り組むのは子ども自身です。親が一方的に指示するのではなく、なぜ治療が必要なのか、具体的に何をすれば良いのかを子どもと一緒に考え、本人が納得して主体的に取り組めるようにサポートしましょう。 - できることを褒める:
症状が辛い中でも、少しでも頑張れたこと(例えば、朝少し早く起きられた、水を飲めた、短い時間でも外に出られたなど)を見つけて具体的に褒めてあげましょう。成功体験を積み重ねることで、自信を取り戻し、回復への意欲を高めることができます。 - 安心できる居場所を作る:
家庭が、子どもが安心して休める、自分の感情を出せる居場所であることが重要です。家族とのコミュニケーションを大切にし、子どもの話に耳を傾ける時間を作りましょう。 - 専門家への相談:
親御さん自身も、子どもの病気や対応に悩んだら、一人で抱え込まずに医師、スクールカウンセラー、学校の先生、保健師、家族などに相談しましょう。親が心身ともに健康でいることが、子どもを支える上で不可欠です。
起立性調節障害の子どものサポートは、身体的なケアだけでなく、精神的なケア、そして家庭と学校、医療機関が連携した総合的なアプローチが不可欠です。
大人の起立性調節障害
「起立性調節障害は子どもの病気」と思われがちですが、大人になってから発症したり、子どもの頃から続いて大人になっても症状が残ったりするケースも少なくありません。大人の起立性調節障害は、子供とは異なる難しさも伴います。
大人の場合も、基本的な症状(立ちくらみ、めまい、倦怠感、頭痛、午前中の体調不良など)は子供と同様ですが、以下のような点で違いが見られます。
- 診断の遅れ:
大人の場合、症状を「体調不良」「疲労」「ストレスのせい」などと考え、医療機関を受診せずに放置したり、適切な診療科にたどり着けなかったりすることがあります。 - 他の病気との鑑別:
大人の場合、低血圧、貧血、甲状腺疾患、自律神経失調症、うつ病、パニック障害など、起立性調節障害と似た症状を引き起こす様々な病気があるため、より慎重な鑑別診断が必要となります。 - 仕事や社会生活への影響:
症状が重い場合、通勤が困難、仕事中に体調が悪くなる、集中力低下で業務に支障が出るなど、社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。 - 治療へのアプローチ:
子供と同様に生活習慣の改善は重要ですが、仕事などの状況を踏まえた現実的なアプローチが必要になります。薬物療法も、大人の体格や合併症などを考慮して慎重に選択されます。 - 精神的な側面:
長期にわたる症状による苦痛、周囲からの理解が得られないことによる孤立感などから、うつ病や不安障害を合併しやすい傾向があります。
大人の起立性調節障害も、適切な診断と治療によって症状の改善が期待できます。症状に悩んでいる場合は、「年のせい」「体質だから」と諦めず、まずはかかりつけ医や内科、循環器内科、脳神経内科、心療内科などに相談してみましょう。特に、立ち上がったときのめまいや立ちくらみが頻繁にある場合は、起立性調節障害の可能性を伝えて、新起立試験などの検査を希望することも有効です。
経過と予後
起立性調節障害の経過と予後は、患者さんの年齢、重症度、治療への取り組み方などによって大きく異なりますが、一般的には予後は良好なことが多いです。
- 思春期の発症:
思春期に発症した場合、体の成長が進み自律神経機能が安定してくるにつれて、数年で症状が自然に改善するケースが多いです。多くの場合は高校生になる頃までには症状が軽減し、成人する頃にはほとんど気にならなくなることが期待できます。ただし、回復までの期間は個人差が大きく、数ヶ月で改善する人もいれば、数年以上かかる人もいます。 - 大人の発症:
大人の場合は、原因が多岐にわたることもあり、思春期の発症よりも回復に時間がかかることや、症状が慢性化するケースも見られます。しかし、適切な診断と治療、そして根気強い生活習慣の改善によって、症状をコントロールし、日常生活への支障を減らすことは十分に可能です。
治療の効果が出るまでには時間がかかることもありますが、焦らず、医師と相談しながら自分に合ったペースで治療を続けることが重要です。症状が改善しない場合でも、諦めずに医師と相談し、治療法を見直したり、他の専門医の意見を聞いたりすることも検討しましょう。
重要なのは、起立性調節障害は適切なケアによって必ず改善が見込める病気であるということです。悲観的になりすぎず、前向きに治療に取り組むことが回復への第一歩となります。
再発について
一度起立性調節障害の症状が改善しても、何かのきっかけで再び症状が現れる(再発する)可能性はあります。特に、以下のような状況で再発しやすいと考えられます。
- ストレスの増加:
受験、就職、人間関係の変化など、大きな精神的ストレスがかかったとき。 - 生活リズムの乱れ:
夜更かし、寝不足、不規則な食事など、生活習慣が崩れたとき。 - 体調不良:
風邪やインフルエンザなどの感染症にかかったとき。 - 急激な環境の変化:
進学、転職、引っ越しなど、生活環境が大きく変わったとき。 - 治療の中断:
症状が改善したからといって、医師の指示なく自己判断で薬を中止したり、生活習慣の改善をやめてしまったりした場合。
再発を防ぐためには、日頃から規則正しい生活を心がけ、適度な運動を継続し、ストレスを溜め込まないようにすることが大切です。また、症状が改善した後も、定期的に医師の診察を受けたり、体調の変化に注意を払ったりすることも重要です。
もし再発の兆候(立ちくらみが増えた、朝起きるのが辛くなったなど)が現れた場合は、放置せずに早めに医療機関に相談しましょう。症状が軽いうちに適切な対応をすることで、重症化を防ぎ、早期の回復に繋げることができます。
まとめ
起立性調節障害は、自律神経の機能がうまく働かず、特に立ち上がった際に脳への血流が一時的に低下することで様々な症状を引き起こす病気です。思春期に多く見られますが、大人も発症することがあります。
主な原因 | 自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスの乱れ、循環血液量の相対的な不足。ストレス、遺伝、急激な成長、生活習慣の乱れなども関与。 |
---|---|
代表的な症状 | 立ちくらみ、めまい、失神、全身倦怠感、頭痛、腹痛、動悸、息切れなど。特に午前中に強く、午後にかけて改善するパターンが特徴的。 |
診断 | 問診で症状を詳しく聞き、新起立試験で自律神経機能を評価する。必要に応じて心電図や採血などの検査も行う。 |
治療の基本 | 非薬物療法(生活習慣の改善)が最も重要。十分な水分・塩分摂取、適度な運動、規則正しい生活リズム、立ち上がり方の工夫など。 |
薬物療法 | 生活改善で不十分な場合、昇圧剤、心拍数を抑える薬などが用いられる。漢方薬も有効な場合がある。医師の指示に従うことが必須。 |
受診すべき診療科 | 小児科(子供)、心療内科、精神科、脳神経内科、内科など。症状や年齢によって適切な科が異なる。 |
経過と予後 | 思春期の発症は数年で改善することが多い。大人も適切な治療で改善が見込める。焦らず、根気強く取り組むことが大切。 |
再発 | ストレス、生活習慣の乱れ、体調不良などで再発することがある。再発の兆候があれば早めに医療機関に相談。 |
起立性調節障害は、見た目には分かりにくいため、周囲から誤解されやすく、本人や家族が辛い思いをすることがあります。しかし、これは決して怠けや気の持ちようではなく、体に起きている病気です。
もしあなたやあなたのご家族が、この記事で解説したような症状に悩んでいるなら、一人で抱え込まず、必ず医療機関に相談してください。適切な診断と、生活習慣の改善、そして必要に応じた薬物療法によって、症状は必ず改善が見込めます。
回復には時間がかかることもありますが、病気を正しく理解し、焦らず、一歩ずつ治療に取り組んでいくことが大切です。医療機関、学校、そしてご家族が連携し、本人をサポートしていくことで、より良い回復へと繋がるでしょう。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、病気の診断や治療を保証するものではありません。起立性調節障害の診断や治療については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。