自閉症(ASD)とは|症状・原因・周囲の接し方をわかりやすく解説

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、発達障害の一つとして知られています。
対人関係やコミュニケーションが苦手であったり、特定の物事に対して強いこだわりがあったりといった特性がみられます。
これらの特性は、脳機能の生まれつきの違いによるものと考えられており、育て方や本人の努力不足が原因ではありません。
近年、自閉症への理解は広まりつつありますが、その特性は人によって多様であり、「スペクトラム(連続体)」として捉えることが重要視されています。
この特性は、幼少期から現れ、大人になっても続くものです。
この記事では、自閉症スペクトラム障害の定義、具体的な特徴、原因、診断、そして利用できる支援について詳しく解説します。

自閉症という言葉は、1940年代にレオ・カナー博士とハンス・アスペルガー博士によってそれぞれ異なる形で報告されたのが始まりです。
カナー博士は、相互的な対人関係やコミュニケーションの質的な偏り、限定された反復的な行動様式などを特徴とする一群の子どもたちを「早期幼児自閉症」と呼びました。
一方、アスペルガー博士は、知的発達や言語発達に遅れはないものの、対人関係の困難さや特定の興味への強いこだわりを持つ子どもたちを報告し、「自閉性精神病質」と呼びました。

その後、研究が進み、自閉症は様々な状態を含む連続体であるという考え方が広まりました。
従来の診断基準では、「自閉性障害」「アスペルガー障害」「特定不能の広汎性発達障害」など、いくつかのカテゴリーに分けられていましたが、それぞれの境界線があいまいであることが課題でした。

こうした背景から、2013年に改訂されたアメリカ精神医学会による診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、これらのカテゴリーが統合され、「自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder: ASD)」という一つの診断名になりました。

「スペクトラム」という言葉が示すように、ASDの特性はグラデーションのように連続しており、一人ひとり異なり非常に多様です。
知的な発達に遅れがない方もいれば、知的障害を伴う方もいます。
言葉の遅れがない方もいれば、ほとんど話さない方もいます。
また、特性の現れ方や強さも様々です。

DSM-5における自閉症スペクトラム障害の診断基準は、主に以下の2つの領域における持続的な困難さによって定義されます。

  1. 社会的コミュニケーションと相互作用における持続的な障害
  2. 限定され反復する様式の行動、興味、活動

これらの特性が発達早期から現れ、社会生活や学業、職業生活において臨床的に意味のある機能障害を引き起こしている場合に診断されます。
この「スペクトラム」という考え方に基づき、ASDを持つ人々は画一的ではなく、非常に多様な特性を持っているという理解が広まっています。

目次

自閉症の主な特徴と特性

自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性は、前述の通り非常に多様であり、一人ひとりの個性によって現れ方も異なります。
しかし、大きく分けて「社会的コミュニケーションと相互作用の困難さ」と「限定され反復する様式の行動、興味、活動」という2つの核となる領域に特徴が見られます。
さらに、多くの場合、感覚の特性も伴います。

対人関係とコミュニケーションの困難さ

ASDのある方は、生まれつき他者との関係性の構築や、言葉や言葉以外の方法を使ったコミュニケーションに難しさを抱えやすい傾向があります。
これは、相手の気持ちや意図を読み取ること、状況に応じた適切なコミュニケーションをとること、暗黙の了解や社会的ルールを理解することなどが難しいことに起因することが多いです。

具体的な現れ方としては、以下のようなものがあります。

  • 非言語コミュニケーションの理解・使用の難しさ: 相手の表情、声のトーン、ジェスチャー、視線などから感情や意図を読み取ることが難しい場合があります。また、自分自身の非言語的な表現も独特であることがあります。例えば、視線が合いにくかったり、表情の変化が乏しかったり、声の抑揚が平板だったりすることがあります。
  • 相互的なやり取りの難しさ: 会話のキャッチボールが苦手なことがあります。自分の関心のあることばかり一方的に話し続けたり、逆に相手からの質問や投げかけにどう答えて良いか分からず沈黙してしまったりします。冗談、皮肉、比喩などが文字通りにしか理解できず、意図を誤解してしまうこともあります。
  • 社会的な状況の理解の難しさ: 集団の中での立ち振る舞いや、TPOに応じた言動を判断することが難しい場合があります。「場の空気を読む」といったことが苦手で、周囲から浮いてしまったり、トラブルになったりすることがあります。例えば、静かにすべき場所で大声を出してしまう、相手のプライベートに踏み込みすぎる質問をしてしまう、などが挙げられます。
  • 友人関係の構築や維持の困難さ: 友達を作ったり、友達との関係を続けたりすることに難しさを感じることがあります。これは、遊びや関心事の共有が難しかったり、対人関係における暗黙のルールや駆け引きが分からなかったりするためです。集団での遊びよりも、一人で好きな遊びに没頭することを好む傾向が見られることもあります。

これらの困難さは、本人が周囲との関わりを持ちたいと思っていても生じる場合があり、本人にとって大きなストレスや生きづらさにつながることがあります。

限定された興味・こだわりと反復行動

ASDのある方は、興味や関心が特定の物事や活動に非常に限定されやすく、それに対して強いこだわりを持つ傾向があります。
また、同じ行動や手順を繰り返したり、変化を極端に嫌がったりすることもあります。

具体的な現れ方としては、以下のようなものがあります。

  • 特定のものや活動への強い興味・没頭: 興味の対象が非常に狭く深く、その分野に関する知識を驚くほど詳細に記憶していることがあります。例えば、特定の種類の電車、恐竜、天気のパターン、アニメのキャラクターなど、興味の対象は多岐にわたります。この強い興味が、将来の専門性や才能につながることも少なくありません。
  • 同じ行動や手順への強いこだわり(変化への抵抗):日課や手順が決まっていることに安心感を覚え、それが少しでも崩れることに強い抵抗や不安を感じることがあります。
    毎日同じ道を通りたがる、食事の際に決まった食器や席を使いたがる、特定の順序で物事をこなさないと落ち着かない、などが例として挙げられます。
    予期せぬ変更や急な予定の変更は、本人にとって非常に強いストレスになります。
  • 反復的な体の動きや物の使用: 特に幼少期に見られることが多いですが、手をひらひらさせる(フラッピング)、体を揺らす、つま先立ちで歩くといった反復的な体の動きが見られることがあります。また、物を特定の順序で並べたり、同じ方法で物を使い続けたりといった反復的な物の使用が見られることもあります。これらは、自己刺激や不安の軽減といった目的があると考えられています。
  • 感覚刺激に対する並外れた興味: 特定の光の点滅、物の回転、特定の音、手触りなどに強い興味を示し、繰り返し観察したり触ったりすることがあります。

これらのこだわりや反復行動は、周囲から見ると独特で理解されにくいこともありますが、本人にとっては安心感を得たり、外界の情報を整理したりするための重要な行動である場合があります。

感覚の特性(過敏さ・鈍感さなど)

ASDのある方の多くは、感覚の感じ方にも独特な特性を持つことがあります。
これは、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)だけでなく、体の内部感覚(平衡感覚、固有受容感覚など)にも及びます。
感覚に対する反応が、他の人と比べて極端に「過敏」であったり、「鈍感」であったり、あるいは両方の特性を併せ持っていたりします。

  • 過敏さ: 特定の感覚刺激に対して、非常に強く不快に感じることがあります。
    • 聴覚過敏: 特定の音(ドライヤーの音、掃除機の音、赤ちゃんの泣き声、騒がしい場所での声など)が非常に不快に聞こえたり、耳を塞いだりすることがあります。周囲の小さな音も聞き分けてしまうため、必要な情報と不要な情報の区別が難しく、集中が妨げられることもあります。
    • 視覚過敏: 蛍光灯のちらつき、特定の色の光、まぶしい光などが不快に感じることがあります。細かい模様や多数の視覚情報があると混乱してしまうこともあります。
    • 触覚過敏: 特定の素材の服(ウール、タグなど)を着ることができなかったり、人に触られることを極端に嫌がったりします。また、特定の感触のもの(砂、粘土など)に触れるのを避けたり、逆に特定の感触のものばかり触りたがったりすることもあります。
    • 味覚・嗅覚過敏: 特定の味や匂いを極端に嫌がり、食べられるものが非常に限られる(偏食)ことがあります。
  • 鈍感さ: 特定の感覚刺激に対して、他の人よりも反応が薄いことがあります。
    • 痛覚鈍感: 怪我をしても痛みに気づきにくかったり、痛みを感じにくかったりすることがあります。
    • 特定の刺激への鈍感さ: 大きな音や強い光にも気づきにくかったり、反応しなかったりすることがあります。
    • 自己刺激行動: 十分な感覚入力が得られないために、体を揺らす、頭をぶつける、特定のものに触り続けるといった自己刺激行動によって感覚を補おうとすることがあります。
  • 感覚探索: 特定の感覚刺激を求め、繰り返しその刺激に触れようとすることがあります。例えば、物を舐める、強く押し付ける、くるくる回る、高いところから飛び降りる、といった行動が見られます。

これらの感覚の特性は、日常生活における様々な困難につながります。
例えば、特定の音や光が不快で外出が難しくなったり、服の素材が気になって着替えに時間がかかったり、偏食によって栄養バランスが偏ったりすることがあります。
感覚特性を理解し、適切な環境調整を行うことが、ASDのある方が快適に過ごすために非常に重要です。

自閉症の三大特徴について

かつて、自閉症はレオ・カナー博士が提唱した概念に基づき、主に以下の「三大特徴」として捉えられることが多かったです。

  1. 相互的な社会性の障害: 他者との心の通った交流が難しい。
  2. コミュニケーションの障害: 言葉や言葉以外の方法でのやり取りが難しい。
  3. 限局された反復的な行動・興味: 興味の対象が狭く、同じ行動を繰り返したり変化を嫌ったりする。

これらの三大特徴は、現在もASDの特性を理解する上で重要な視点ですが、DSM-5では「社会的コミュニケーションと相互作用」と「限定され反復する様式の行動、興味、活動」という2つの領域に整理統合されています。
これは、社会性とコミュニケーションの困難さが密接に関連しているため、一つの領域として捉える方がより実態に合っているという考えに基づいています。

しかし、一般的に「自閉症の三大特徴」として語られることも多く、この3つの視点から特性を理解しようとすることは、ASDのある方への理解を深める上で依然として有効です。

子供の自閉症に見られる特徴

子供の自閉症の特性は、発達の段階によって現れ方が異なります。
早期から気づかれることもあれば、集団生活が始まってから顕著になることもあります。

乳幼児期(~3歳頃)に見られる可能性のある兆候:

  • 名前を呼んでも振り向かない、反応が薄い
  • 目が合いにくい、視線を避ける
  • 指差しをしない、要求を伝えにくい
  • 言葉の発達が遅い、言葉が出てきてもオウム返しが多い
  • ごっこ遊びや模倣遊びに関心を示さない
  • 他の子供に関心がない、一人遊びを好む
  • 抱っこされるのを嫌がる、体に触れられるのを嫌がる
  • 特定の物(ミニカーのタイヤなど)を並べたり、回したりするのに没頭する
  • 変化を極端に嫌がる(家具の配置を変えるなど)
  • 特定の音や感触、匂いに過敏または鈍感に反応する
  • 物を人差し指でさして見せるのではなく、大人の手をとって要求する(クレーン現象)

幼児期~学童期に見られる特徴:

  • 集団行動への参加が難しい、ルール理解が難しい
  • 友達との適切な関わり方が分からない(一方的になる、距離感がつかめない)
  • 空気が読めない言動をしてしまう
  • 特定のことに異常なほど詳しく、それ以外のことに興味を示さない
  • 決まった手順や日課に強くこだわる
  • 曖昧な指示の理解が難しい、言葉を文字通りに受け取る
  • 冗談や比喩が通じない
  • 感情表現が乏しい、あるいは適切でない場面で強い感情表現をする
  • 変化にパニックになったり、強い不安を示したりする
  • 感覚過敏により、特定の場所や活動に参加できないことがある(騒がしい場所、給食の匂い、体操服の肌触りなど)
  • 運動が不器用なことがある(体の使い方がぎこちない)

これらの特徴は、多くの子供に見られる発達の一時的な過程である場合もありますが、ASDの診断においては、複数の特性が持続的に見られ、日常生活に困難が生じているかどうかが重要な判断基準となります。
早期に特性に気づき、適切な支援につなげることが、子供の成長と適応にとって非常に重要です。

大人の自閉症に見られる特徴

子供の頃からのASDの特性は、大人になっても続きます。
ただし、大人になるにつれて、社会的なルールやコミュニケーションのパターンを学習したり、自分なりの対処法を身につけたりすることで、表面上は目立たなくなる場合もあります。
しかし、職場や複雑な人間関係の中で、特性による困難さが顕在化し、生きづらさを感じたり、二次的な問題(不安障害、うつ病など)を引き起こしたりすることもあります。

大人のASDに見られる特徴としては、以下のようなものがあります。

  • 職場や人間関係における困難:
    • 上司や同僚との報連相がうまくいかない(必要な情報を伝え忘れる、逆に伝えすぎる)
    • 指示が曖昧だと理解できず、戸惑ったり間違えたりする
    • 臨機応変な対応が苦手で、想定外の出来事に対応できない
    • 雑談や飲み会といった非公式なコミュニケーションが苦痛
    • 同僚との距離感がつかめず、関係構築に苦労する
    • 顔の表情や声のトーンから相手の気持ちを読み取るのが苦手
    • 言葉の裏や皮肉が理解できない
    • 場の空気が読めない言動をしてしまう
    • 特定のルールや手順に強くこだわり、融通が利かないと思われやすい
  • 日常生活における困難:
    • ルーティンワークは得意だが、新しいことや変化への対応にストレスを感じる
    • 計画を立てたり、複数のタスクを同時並行で行ったりするのが苦手
    • 感覚過敏により、特定の場所(人混み、騒がしい店など)に行くのが辛い
    • 特定の音、光、匂いなどが気になって集中できない、疲れてしまう
    • 興味のあることには過度に没頭し、他のことがおろそかになりやすい
    • 睡眠障害や食習慣の偏りが見られることがある
  • メンタルヘルス:
    • 対人関係や環境の変化から強いストレスを感じやすく、不安や抑うつ状態になりやすい(二次障害)
    • 完璧主義になりすぎてしまい、物事が進まらなくなることがある
    • 自己肯定感が低くなりやすい

大人のASDは、「発達障害」という言葉の認知度が低かった時代に育った方の場合、子供の頃に診断されず、「変わった人」「わがまま」などと誤解されてきた歴史があります。
大人になってから自身の特性に気づき、診断を受けることで、それまでの生きづらさの原因が分かり、適切な対処法や支援につながるケースが増えています。
自身の特性を理解し、それを踏まえた上で社会とどのように関わっていくかを考えることが、より良い生活を送るために重要です。

自閉症と発達障害、自閉スペクトラム症の違い

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、「発達障害」という大きなカテゴリーに含まれる一群の疾患です。

発達障害とは:
発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、幼少期から日常生活や社会生活において困難が生じる様々な疾患の総称です。
主なものとして、自閉症スペクトラム障害(ASD)の他に、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)、知的障害などがあります。
これらの発達障害は、重複して見られることも少なくありません。
例えば、ASDとADHDの両方の特性を併せ持つ方も多くいます。

自閉症スペクトラム障害(ASD)とは:
前述の通り、ASDは主に「社会的コミュニケーションと相互作用の困難さ」と「限定され反復する様式の行動、興味、活動」を特徴とする発達障害です。
かつては「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」といった名称が使われていましたが、現在はDSM-5に基づいて「自閉症スペクトラム障害」として統一されています。

「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」といった旧称について:
これらはDSM-IV以前の診断基準で用いられていた名称です。

  • 自閉症: 知的障害や言語発達の遅れを伴うケースが多いとされていました。
  • アスペルガー症候群: 知的発達や言語発達に遅れはないが、対人関係やコミュニケーション、興味・行動の偏りが見られるとされていました。
  • 特定不能の広汎性発達障害: 上記のどちらにも完全に当てはまらないが、広汎性発達障害の特性が見られるケースに用いられていました。

これらの旧称で診断を受けた方が、診断名が変わるわけではありませんが、現在の主流の診断名は「自閉症スペクトラム障害」です。
スペクトラムという概念は、知的レベルや言語能力に関わらず、自閉症の核となる特性の連続性を示すものです。
したがって、知的な遅れがない方も、ある方も、言葉が流暢な方も、そうでない方も、皆ASDという一つの診断名の元で、その特性の多様性が理解されるようになっています。

要約すると、「発達障害」は最も大きな枠組みであり、その中にASDやADHDなどがあります。「自閉症スペクトラム障害(ASD)」は、発達障害の一つであり、特定の特性(コミュニケーション、こだわりなど)を持つ一群を指します。旧称であった「自閉症」や「アスペルガー症候群」は、現在の「自閉症スペクトラム障害」に含まれる概念と考えられます。

用語 定義・特徴 現在の診断基準(DSM-5)における位置づけ
発達障害 生まれつきの脳機能の発達の偏りによる、様々な特性を持つ疾患の総称(ASD, ADHD, LD, 知的障害など) 広範なカテゴリー
自閉症スペクトラム障害(ASD) 社会的コミュニケーション・相互作用の困難さ、限定され反復する行動・興味・活動を特徴とする発達障害。多様な特性を含む連続体。 発達障害に含まれる主要な診断名
自閉症(旧称) 知的遅れや言語遅れを伴うケースに多く用いられた 現在はASDに含まれる概念として捉えられる
アスペルガー症候群(旧称) 知的遅れや言語遅れを伴わないケースに多く用いられた 現在はASDに含まれる概念として捉えられる
広汎性発達障害(旧称) 上記を含む、関連する発達上の障害の総称 現在はASDに統合された概念

このように、用語の変遷はありますが、現在最も一般的に使われているのは「自閉症スペクトラム障害(ASD)」です。
大切なのは、診断名よりも、一人ひとりが持つ具体的な特性を理解し、その特性に合った支援を行うことです。

自閉症の原因として考えられていること

自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因については、長年の研究が行われていますが、特定の一つの原因物質や遺伝子が見つかっているわけではありません。
現在の科学的な理解では、複数の遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に相互作用して発症すると考えられています。

かつては、親の育て方や愛情不足が原因であると誤解された時期もありましたが、これは科学的に完全に否定されています。
ASDは、親子関係や育児の仕方が原因で起こるものではありません。

遺伝的な要因:
ASDの発症には、複数の遺伝子が関わっていることが示唆されています。
これまでに、ASDとの関連が疑われる様々な遺伝子の候補が報告されていますが、これらの遺伝子が単独でASDを引き起こすわけではなく、いくつかの遺伝子の組み合わせや、他の要因との相互作用によって影響を与えていると考えられています。
また、遺伝的な要因は、ASDの特性の現れ方や重症度にも影響を与える可能性があります。
家族の中にASDや他の発達障害を持つ方がいる場合、そうでない場合に比べてASDを発症するリスクがわずかに高まるという報告もありますが、必ず遺伝するわけではありません。

環境的な要因:
妊娠中の特定の環境的な要因が、ASDの発症リスクに影響を与える可能性も研究されています。
例えば、妊娠中の感染症(風疹など)、妊娠中の特定の薬剤の使用、周産期の問題(低出生体重、早産など)などが、ASDのリスクを高める可能性が指摘されています。
しかし、これらの要因が必ずASDを引き起こすわけではなく、あくまでリスク要因の一つとして考えられています。
また、どの環境要因がどのようにASDの発症に関わるのかについては、まだ解明されていない点が多く、今後の研究が待たれます。

脳機能・構造の違い:
ASDのある方の脳は、定型発達の方とは異なる機能や構造を持つことが、脳画像研究などから示されています。
脳の特定の部位の大きさや形状の違い、神経細胞間のつながり方(シナプス)の違いなどが報告されています。
これらの脳機能や構造の生まれつきの違いが、情報処理の仕方や感覚の感じ方、コミュニケーションの方法などに影響を与え、ASDの特性となって現れると考えられています。

まとめると、自閉症スペクトラム障害は、単一の原因ではなく、複数の遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合い、脳の発達に影響を与えることで発症すると考えられています。
まだ完全に解明されていない部分も多いですが、重要なのは、これは脳の生まれつきの特性であり、誰かの責任や努力不足によるものではないということです。
原因を特定することよりも、一人ひとりの特性を理解し、適切な支援を提供することに焦点を当てることが、本人や家族にとって最も重要です。

自閉症の診断方法と基準

自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断は、専門的な知識と経験を持つ医師(精神科医、児童精神科医、脳神経小児科医、神経内科医など)が行います。
診断は、単一の検査だけで決まるものではなく、様々な情報源からの情報を総合的に評価して行われます。

DSM-5による診断基準

現在、世界的に最も広く用いられている診断基準は、アメリカ精神医学会が出版するDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)です。
ASDの診断は、このDSM-5に示されている診断基準を満たすかどうかに基づいて行われます。

DSM-5におけるASDの診断基準は、主に以下の2つの領域に関連する症状と、その他の条件から構成されています。

A. 社会的なコミュニケーションと相互作用における持続的な障害(以下の3項目すべてを満たすこと)

  1. 社会的・情緒的な相互性の障害:
    • 例えば、通常の会話のやり取りが困難。
    • 興味、感情、情動の分かち合いが限定的。
    • 社会的な相互作用の開始や維持の困難。
    • 他者と興味や達成感を分かち合うことの失敗。
  2. 社会的相互作用で用いられる非言語コミュニケーション行動の障害:
    • 例えば、言葉と非言語的なコミュニケーションの統合が不十分(アイコンタクトとジェスチャーの使い方の不一致など)。
    • 視線、表情、身振り手振りといった非言語的なコミュニケーションの異常。
    • 非言語的なコミュニケーションの理解や使用の困難さ。
    • 表情の欠如や感情表現の乏しさ。
  3. 関係性の発展、維持、理解における障害:
    • 例えば、様々な社会的状況に合わせた行動の調整の困難さ。
    • 想像上の遊びを分かち合うことや友人を作ることの困難さ。
    • 同年代の仲間への興味の欠如。

B. 限定され反復する様式の行動、興味、活動(以下の4項目のうち2項目以上を満たすこと)

  1. 常同的または反復的な運動動作、物の使用、あるいは会話:
    • 例えば、単純な常同運動(手をひらひらさせるなど)。
    • 物の操作の常同性(おもちゃを特定の順序で並べるなど)。
    • エコラリア(オウム返し)や特異な言い回し(決まったフレーズを繰り返すなど)。
  2. 同一性への固執、非機能的な日課への融通のきかない執着、あるいは儀式的な行動様式:
    • 例えば、小さな変化に対する極度の苦痛。
    • 融通のきかない思考パターン。
    • 儀式的な挨拶の仕方。
    • 毎日同じルートを通ることに固執する。
    • 食事の際の手順への強いこだわり。
  3. 極めて限定され固執する興味で、強度または対象のいずれかにおいて異常なもの:
    • 例えば、特定の対象に異常に強い愛着や没頭。
    • 限定された興味に対する過度に固執した関心。
    • 年齢に不相応なほど狭く深い興味。
  4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、あるいは環境の感覚側面に対する並外れた興味:
    • 例えば、特定の痛みや温度に対する明らかな無関心。
    • 特定の音や素材に対する嫌悪的な反応。
    • 光や回転する物への過度な興味。
    • 特定の物体を触ったり嗅いだりすることへの過度な探求。

その他の診断条件:

  • C. 症状は発達早期から存在していること。(ただし、症状が完全に顕在化するのは、後になって社会的要望が明らかになってからであるかもしれない)
  • D. 症状は、社会、学業、職業、または他の重要な機能領域における現在の機能の障害を引き起こしていること。
  • E. これらの障害は、知的発達症(知的障害)または全般性発達遅延ではうまく説明されないこと。(ただし、ASDと知的発達症は併存して診断されることがある)

これらの診断基準は複雑であるため、専門家が慎重に評価を行います。
自己診断はせず、必ず専門医に相談することが重要です。

具体的な検査・評価方法

ASDの診断に用いられる具体的な検査や評価方法は多岐にわたります。
医師は、これらの情報を総合的に分析して診断を下します。

  1. 問診: 本人、保護者、家族などから、生育歴、現在の生活状況、困りごと、特性に関する具体的なエピソードなどを詳しく聞き取ります。特に、幼少期からの発達の様子(言葉の出方、人との関わり方、遊び方、こだわりなど)が重視されます。
  2. 行動観察: 診察室や、場合によっては普段の生活の場での本人の行動を観察します。他者とのやり取りの仕方、コミュニケーションのスタイル、特定の行動パターンなどを注意深く見ます。
  3. 発達検査・心理検査:
    • 知能検査(WISC-IV, WAIS-IVなど): 知的な発達の状態や認知機能の得意・不得意を評価します。ASDと知的障害の併存の有無や、認知特性の理解に役立ちます。
    • 自閉症に特化した評価尺度(ADOS-2, ADI-Rなど): ASDの診断のために開発された、標準化された評価ツールです。ADOS-2は対面での行動観察に基づく評価、ADI-Rは保護者への半構造化面接に基づく評価です。これらの検査結果は、診断の補助となります。
    • その他の心理検査: 性格検査、質問紙法による行動特性の評価(AQ, EQ, PQなど)などが行われることもあります。
  4. 医学的検査: 必要に応じて、脳波検査やMRIなどの画像検査、染色体検査などが行われることもありますが、これらはASDそのものを診断するためのものではなく、他の疾患との鑑別や合併症の有無を確認するために行われることが多いです。
  5. 情報収集: 学校の先生や他の関わっている専門家(保育士、心理士など)から、普段の様子に関する情報(連絡帳、記録など)を収集することもあります。

これらの評価を数回にわたって行うことも少なくありません。
特に子供の診断においては、発達の経過を見ながら慎重に判断することが重要です。
診断は、特性の理解と適切な支援に繋げるための出発点となります。
診断がつくこと自体が目的ではなく、診断を通じて本人の特性を理解し、より生きやすい環境を整えていくことが大切です。

自閉症の治療と具体的な支援

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、病気のように「治す」というよりは、生まれつきの脳機能の特性であるため、その特性を理解し、本人や周囲が特性とどのように向き合い、社会に適応していくかを考える「支援」や「療育」が中心となります。
早期からの適切な支援は、本人の潜在能力を引き出し、社会的な適応力を高める上で非常に重要です。

自閉症のレベル・重症度分類について

DSM-5では、社会的コミュニケーションの困難さ、および限定され反復する行動の限定性に基づいて、必要なサポートの度合いを示す「重症度レベル」が設定されています。
これは、ASDの「レベル」というよりは、「必要なサポートのレベル」を意味します。

  • レベル3:「非常に大きなサポートが必要」
    • 社会的コミュニケーションの困難さが著しく、口頭でのコミュニケーションが非常に限られているか、ほとんどない。
    • 行動の融通のきかなさが著しく、変化への対応が極めて困難。限定され反復する行動が日常生活に著しい支障をきたす。
  • レベル2:「大きなサポートが必要」
    • 社会的コミュニケーションの困難さが顕著で、口頭および非言語的なコミュニケーションの問題が明らか。
    • 行動の融通のきかなさや変化への対応の困難さが明らか。限定され反復する行動が頻繁にみられ、日常的な機能に支障をきたす。
  • レベル1:「サポートが必要」
    • 社会的コミュニケーションの困難さが見られるが、会話は可能。しかし、会話のキャッチボールや社会的状況に応じたコミュニケーションに問題がある。
    • 行動の融通のきかなさが他の人から見ても明らかで、特定の行動や手順への固執が見られる。変化への対応に困難がある。

この重症度レベルは、その時々の必要なサポートの度合いを示すものであり、固定されたものではありません。
また、このレベルは、本人の知的な能力や価値とは直接関係ありません。
レベル分類は、適切な支援計画を立てる上での一つの指標となります。

療育・教育的支援

療育とは、障害のある子供や発達に特性のある子供に対して、個別の課題に合わせた専門的なプログラムを通じて、発達を促し、社会的な適応力を高めるための支援です。
教育現場では、特性に配慮した教育や環境調整が行われます。

子供向けの主な療育・教育的支援:

  • 応用行動分析(ABA: Applied Behavior Analysis): 特定の行動とその前後の状況を分析し、適切な行動を増やし、不適切な行動を減らすことを目指す手法です。褒めること(強化)を効果的に活用し、コミュニケーションスキルや社会的なスキルを具体的に教えていきます。
  • TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children)プログラム: ASDのある方の特性を理解し、視覚的な構造化(時間や活動の流れ、場所などを視覚的に分かりやすく整理すること)を通じて、環境を予測可能にし、自立を促す包括的なプログラムです。本人にとって理解しやすい方法で情報を提供し、混乱や不安を軽減します。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST: Social Skills Training): 社会的な場面での適切な振る舞いやコミュニケーションの方法を、ロールプレイングなどを通じて具体的に学び、練習するトレーニングです。表情の読み取り方、会話の始め方・続け方、断り方などを練習します。
  • PEC(Picture Exchange Communication System): 言葉でのコミュニケーションが難しい子供に対し、絵カードを使って自分の要求や気持ちを伝える方法を教えるコミュニケーションシステムです。
  • 構造化された教育環境: 学校においては、時間割や活動場所を視覚的に提示したり、課題の進め方を明確にしたり、休憩場所を確保したりといった、特性に配慮した環境調整が行われます。
  • 特別支援教育: 個々のニーズに応じた教育を行うため、特別支援学級や通級による指導、通常の学級での合理的配慮などが提供されます。

大人向けの主な支援:

  • ソーシャルスキルトレーニング(SST): 子供向けと同様に、職場や地域での人間関係に必要なスキルを学びます。
  • ペアレントトレーニング: ASDのある子供を持つ保護者に対し、特性の理解や関わり方、ペアレントスキルを学ぶプログラムです。
  • ジョブコーチ支援: 就労を希望するASDのある方に対し、職場で必要とされるスキル習得や職場環境の調整をサポートします。
  • 就労移行支援事業所: 就職を希望する障害のある方に対し、就労に必要な知識やスキル向上のための訓練や、就職活動のサポートを行います。
  • 自立訓練事業所: 自立した日常生活を送るための訓練や助言、相談支援を行います。
  • グループホーム: 共同生活を通して、日常生活のサポートや地域での生活を支援します。
  • 相談支援事業所: 様々な福祉サービスを利用するための計画作成や、情報提供、相談などを行います。

支援の目標は、特性をなくすことではなく、本人自身が自分の特性を理解し、特性からくる困難さを軽減するための工夫を学び、周囲も特性への理解を深め、環境を調整することで、本人がその人らしく、より快適に、そして社会の一員として能力を発揮しながら生活できるようになることです。

医療的アプローチ

ASDそのものを直接的に「治す」薬は現在のところありません。
しかし、ASDのある方にしばしば見られる、特性に伴う困難さや合併する精神症状(不安、不眠、イライラ、多動性、強迫的な行動など)に対して、症状を和らげるために薬物療法が用いられることがあります。
これは対症療法であり、個々の症状に合わせて専門医が慎重に処方します。

また、ASDのある方には、てんかん、ADHD、不安障害、うつ病、摂食障害、睡眠障害、消化器系の問題などが合併しやすいことが知られています。
これらの合併症に対しては、それぞれの疾患に対する治療が行われます。
例えば、ADHDの症状が強い場合にはADHDの治療薬が処方されることもあります。

医療機関は、診断を行うだけでなく、特性に関する専門的な情報提供や、必要に応じた薬物療法の検討、他の支援機関との連携など、ASDのある方の生活をサポートする上で重要な役割を担います。
定期的に専門医の診察を受け、困りごとや体調について相談することが推奨されます。

自閉症に関するよくある疑問・関連情報

自閉症スペクトラム障害(ASD)に関して、多くの方が抱く疑問や、関連する情報について解説します。

自閉症の相談先・専門機関

ASDかもしれない、あるいはASDの診断を受けたがどうすれば良いか分からない、といった場合に相談できる専門機関はいくつかあります。
一人で抱え込まず、まずは相談してみることが大切です。

相談先・専門機関 役割・提供される支援
市区町村の障害福祉窓口 障害福祉サービスに関する情報提供、申請手続きの案内、相談支援事業所への紹介など。まずはこちらで、地域の利用できる支援制度について聞いてみるのが良いでしょう。
発達障害者支援センター 発達障害に関する専門的な相談支援機関です。本人や家族からの相談に応じ、発達支援、就労支援、社会資源の紹介、関係機関との連携調整などを行います。診断の有無に関わらず相談できる場合があります。
児童相談所(18歳未満の場合) 18歳未満の子供に関する様々な相談に応じ、必要に応じて医学的・心理的な診断や判定、療育などを行います。
精神保健福祉センター(18歳以上の場合) 精神的な健康に関する相談や、精神疾患、発達障害に関する相談に応じます。専門的な助言や情報提供、医療機関や支援機関の紹介を行います。
医療機関(精神科、児童精神科など) 診断、医学的な評価、薬物療法の検討、定期的な診察によるフォローアップを行います。セカンドオピニオンが必要な場合も、別の医療機関に相談できます。
かかりつけの医師 かかりつけの医師に相談し、専門医を紹介してもらうことも可能です。
保健センター(乳幼児健診など) 乳幼児健診などで発達の遅れや気になる点があれば相談できます。専門機関への紹介なども行います。
学校のスクールカウンセラー 子供の学校生活における困りごとや発達に関する相談に応じます。
民間の相談機関やNPO 発達障害に特化した相談支援やプログラムを提供している場合があります。

これらの機関はそれぞれ役割が異なります。
まずは市区町村の窓口や発達障害者支援センターに相談し、自分(または家族)の状況に合った適切な相談先を紹介してもらうのがスムーズでしょう。

利用できる支援制度

ASDの診断を受けた場合、その特性によって生じる困難を軽減し、より安定した生活を送るために様々な支援制度を利用できる場合があります。
利用できる制度は、年齢、障害の程度、お住まいの地域などによって異なります。

支援制度・サービス 内容
障害者手帳 障害の特性や程度を証明する手帳です。ASDの場合、療育手帳(主に知的障害を伴う場合)または精神障害者保健福祉手帳(ASD単独または他の精神疾患を伴う場合)の対象となることがあります。手帳を持つことで様々な福祉サービスを利用しやすくなります。
障害年金 障害によって生活や仕事に支障がある場合に支給される年金です。ASDの場合、一定の基準を満たせば対象となる可能性があります。
障害福祉サービス 障害のある方の自立した日常生活や社会生活を支援するためのサービスです。個々のニーズに基づいてサービス等利用計画が作成され、利用できるサービスが決まります。例:
居宅介護(ホームヘルプ):自宅での生活援助
行動援護:行動上の困難がある場合の外出支援など
自立訓練:自立した生活のための訓練
就労移行支援:就職を目指すための訓練やサポート
就労継続支援(A型/B型):一般企業での就労が難しい場合の働く場の提供
共同生活援助(グループホーム):共同生活の場と日常生活の支援
地域活動支援センター 障害のある方が交流したり、創作的活動や生産活動を行ったり、社会との交流を促進するための日中活動の場を提供します。
自立支援医療(精神通院医療) 精神疾患(ASDも含む)の治療のために医療機関に通院する場合の医療費の自己負担額を軽減する制度です。
特別児童扶養手当・障害児福祉手当 20歳未満の精神または身体に障害のある児童を養育している保護者等に支給される手当です。
ハローワークの専門援助部門 障害のある方の就職に関する相談、求職活動の支援、障害者雇用枠の紹介などを行います。
合理的配慮 障害のある方が、障害のない方と同等に教育や社会生活に参加できるよう、それぞれの状況に応じて行われる配慮や工夫のことです。学校や職場などで、個別の特性に応じたサポート(指示の出し方、休憩の取り方、作業場所の調整など)を求めることができます。

これらの制度やサービスを利用するためには、医師の診断書が必要であったり、申請手続きが必要であったりします。
まずは、前述の相談先(市区町村の窓口や発達障害者支援センターなど)に相談し、どのような支援制度が利用できるか、どのように手続きを進めれば良いかを確認することをおすすめします。
適切な支援を活用することで、ASDのある方とその家族の生活の質を高めることが可能です。

自閉症のレベル・重症度分類について(再掲・詳細)

前述のDSM-5による重症度分類について、もう少し詳しく説明します。
これは、単に障害の度合いを示すだけでなく、どのような環境調整や個別のサポートがどの程度必要かを検討するための指標として非常に重要です。

レベル3:「非常に大きなサポートが必要」(Requiring very substantial support)

  • 社会的コミュニケーションの特性: 口頭でのコミュニケーションのスキルが非常に限られているか、機能的に使用できる言葉がほとんどありません。他者との相互作用を開始することが極めて少なく、社会的やり取りへの反応も非常に限られています。ユニークな非言語的なコミュニケーション手段(例えば、特定の仕草や物の使用)を用いることがありますが、その使用は限定的で、他者との相互作用に十分に役立つものではありません。
  • 限定され反復する様式の行動特性: 行動の融通のきかなさが著しく、変化への対応が極めて困難です。決まった行動パターンや手順から抜け出すのが非常に難しく、突然の中断や予期しない変化に対して強い苦痛やパニック反応を示すことがあります。限定され反復する行動や固執した興味が、日常生活のほぼすべての側面において著しい支障をきたしており、支援なしにはこれらの行動を中断させたり、別の行動に切り替えたりすることが極めて難しい状態です。

レベル2:「大きなサポートが必要」(Requiring substantial support)

  • 社会的コミュニケーションの特性: 口頭および非言語的なコミュニケーションのスキルに顕著な問題が見られます。会話のやり取りを開始することは可能ですが、相互的な会話のやり取りは困難で、特定分野に偏った一方的な会話になりやすいです。非言語的なコミュニケーションも独特で、他者との適切な相互作用を行うには大きなサポートが必要です。
  • 限定され反復する様式の行動特性: 行動の融通のきかなさや変化への対応の困難さが明らかです。決まったパターンや手順から抜け出すのに困難があり、変化への抵抗や儀式的な行動が他の人からも容易に観察されます。限定され反復する行動や固執した興味が頻繁に現れ、幅広い状況において日常生活を妨げます。これらの行動を中断させたり、別の行動に切り替えたりするには、支援が必要な状態です。

レベル1:「サポートが必要」(Requiring support)

  • 社会的コミュニケーションの特性: 言葉でのコミュニケーションは可能であり、会話に参加することもできますが、社会的状況に応じた適切なコミュニケーションや、微妙なニュアンスの理解に困難があります。例えば、会話のキャッチボールがぎこちなかったり、相手の意図や気持ちを読み取るのが難しかったりします。友人を作ることに興味はあるかもしれませんが、関係を維持したり、社会的なルールを理解したりするのに困難があります。適切なサポートがあれば、自立した生活を送れる可能性が高いレベルです。
  • 限定され反復する様式の行動特性: 行動の融通のきかなさが他の人から見ても明らかで、特定の行動や手順への固執が見られます。変化への抵抗や儀式的な行動が見られますが、日常生活を著しく妨げるほどではない場合もあります。限定され反復する行動や固執した興味が、ある程度の頻度で見られますが、適切なサポートがあれば、これらを管理し、日常生活における支障を最小限に抑えることが可能です。

このレベル分類は、あくまで現在の機能と必要なサポートの度合いを示すものであり、個人の将来的な可能性を限定するものではありません。
また、同じレベルであっても、一人ひとりの具体的な特性や困りごとは異なります。
重要なのは、このレベルを参考にしながら、個別の支援計画を作成し、本人に最も適したサポートを提供することです。

自閉症スペクトラム障害についてよくある質問

自閉症スペクトラム障害は「わがまま」や「育て方」が原因ですか?

いいえ、自閉症スペクトラム障害(ASD)は、「わがまま」や親の育て方、愛情不足が原因で起こるものではありません。
ASDは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによる特性であり、遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
本人の努力や育て方の問題ではないことを理解することが非常に重要です。

ASDは治るのですか?

ASDは、病気のように完治するというものではありません。
これは、脳機能の生まれつきの特性であるためです。
しかし、適切な療育や支援、環境調整によって、特性からくる困難さを軽減したり、社会的なスキルを身につけたりすることで、生活の質を大きく向上させることができます。
早期からの適切な支援が、本人の可能性を広げ、より生きやすい環境を整える上で非常に重要です。

大人のASDでも診断や支援は受けられますか?

はい、大人のASDの方でも診断を受けることができますし、様々な支援制度を利用することが可能です。
ASDの診断は年齢に関わらず、専門医(精神科医など)が行います。
診断を受けることで、自身の特性を客観的に理解することができ、職場での合理的配慮を受けたり、就労支援や生活支援などの障害福祉サービスを利用したりする道が開けます。
生きづらさを感じている場合は、まずは精神科や発達障害者支援センターなどに相談してみることをおすすめします。

ASDの人は、特定の分野で才能を発揮することがありますか?

はい、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある方の中には、特定の分野に対して非常に強い興味を持ち、驚くほどの知識や集中力を発揮する方が多くいます。
この「限定され固執する興味」は、ASDの特性の一つですが、これが特定のスキルや才能(例:プログラミング、芸術、特定の学問分野など)として開花し、社会で活躍する強みとなることも少なくありません。
特性をマイナス面として捉えるだけでなく、プラスの側面として捉え、活かしていく視点が重要です。

ASDとADHDは併存しますか?

はい、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)は併存することがよくあります。
DSM-5では、ASDとADHDの両方を診断することが可能になりました。
両方の特性を持つ場合、対人関係やコミュニケーションの困難さに加えて、不注意や多動性・衝動性といった困難さも加わるため、より複雑な支援が必要となることがあります。

自閉症のレベル・重症度分類について(再掲・詳細)

前述のDSM-5による重症度分類について、もう少し詳しく説明します。
これは、単に障害の度合いを示すだけでなく、どのような環境調整や個別のサポートがどの程度必要かを検討するための指標として非常に重要です。

レベル3:「非常に大きなサポートが必要」(Requiring very substantial support)

  • 社会的コミュニケーションの特性: 口頭でのコミュニケーションのスキルが非常に限られているか、機能的に使用できる言葉がほとんどありません。他者との相互作用を開始することが極めて少なく、社会的やり取りへの反応も非常に限られています。ユニークな非言語的なコミュニケーション手段(例えば、特定の仕草や物の使用)を用いることがありますが、その使用は限定的で、他者との相互作用に十分に役立つものではありません。
  • 限定され反復する様式の行動特性: 行動の融通のきかなさが著しく、変化への対応が極めて困難です。決まった行動パターンや手順から抜け出すのが非常に難しく、突然の中断や予期しない変化に対して強い苦痛やパニック反応を示すことがあります。限定され反復する行動や固執した興味が、日常生活のほぼすべての側面において著しい支障をきたしており、支援なしにはこれらの行動を中断させたり、別の行動に切り替えたりすることが極めて難しい状態です。

レベル2:「大きなサポートが必要」(Requiring substantial support)

  • 社会的コミュニケーションの特性: 口頭および非言語的なコミュニケーションのスキルに顕著な問題が見られます。会話のやり取りを開始することは可能ですが、相互的な会話のやり取りは困難で、特定分野に偏った一方的な会話になりやすいです。非言語的なコミュニケーションも独特で、他者との適切な相互作用を行うには大きなサポートが必要です。
  • 限定され反復する様式の行動特性: 行動の融通のきかなさや変化への対応の困難さが明らかです。決まったパターンや手順から抜け出すのに困難があり、変化への抵抗や儀式的な行動が他の人からも容易に観察されます。限定され反復する行動や固執した興味が頻繁に現れ、幅広い状況において日常生活を妨げます。これらの行動を中断させたり、別の行動に切り替えたりするには、支援が必要な状態です。

レベル1:「サポートが必要」(Requiring support)

  • 社会的コミュニケーションの特性: 言葉でのコミュニケーションは可能であり、会話に参加することもできますが、社会的状況に応じた適切なコミュニケーションや、微妙なニュアンスの理解に困難があります。例えば、会話のキャッチボールがぎこちなかったり、相手の意図や気持ちを読み取るのが難しかったりします。友人を作ることに興味はあるかもしれませんが、関係を維持したり、社会的なルールを理解したりするのに困難があります。適切なサポートがあれば、自立した生活を送れる可能性が高いレベルです。
  • 限定され反復する様式の行動特性: 行動の融通のきかなさが他の人から見ても明らかで、特定の行動や手順への固執が見られます。変化への抵抗や儀式的な行動が見られますが、日常生活を著しく妨げるほどではない場合もあります。限定され反復する行動や固執した興味が、ある程度の頻度で見られますが、適切なサポートがあれば、これらを管理し、日常生活における支障を最小限に抑えることが可能です。

このレベル分類は、あくまで現在の機能と必要なサポートの度合いを示すものであり、個人の将来的な可能性を限定するものではありません。
また、同じレベルであっても、一人ひとりの具体的な特性や困りごとは異なります。
重要なのは、このレベルを参考にしながら、個別の支援計画を作成し、本人に最も適したサポートを提供することです。

【まとめ】自閉症スペクトラム障害(ASD)の理解と支援の重要性

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションと相互作用、および限定され反復する行動・興味・活動に特性を持つ、脳機能の生まれつきの違いによる発達障害です。
その特性は一人ひとり異なり、「スペクトラム」として非常に多様です。
子供から大人まで、それぞれのライフステージで特性による困難さが現れることがありますが、同時に、特定の分野での才能や優れた能力を発揮する方も多くいます。

重要なのは、ASDの特性を正しく理解し、その特性から生じる困りごとに対して適切な支援や環境調整を行うことです。
早期からの療育や教育的支援は、子供の成長と適応力を高める上で非常に効果的です。
大人になってから診断を受けた場合でも、自身の特性を理解し、利用できる支援制度やサービスを活用することで、より生きやすい社会生活を送ることが可能です。

ASDのある方への理解は社会全体で深まってきていますが、まだ誤解や偏見が存在することも事実です。
ASDは、本人の努力不足や育て方の問題ではなく、脳機能の特性であることを理解し、それぞれの個性として尊重することが、共生社会を実現するために不可欠です。

もし、ご自身やご家族にASDの特性があるかもしれないと感じたり、診断を受けて今後の支援について悩んだりしている場合は、一人で抱え込まず、市区町村の窓口、発達障害者支援センター、医療機関などの専門機関にぜひ相談してください。
適切な情報や支援に繋がることで、新しい道が開けるはずです。


免責事項:この記事は、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関する一般的な情報提供を目的としています。医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個別の症状や状況については、必ず専門の医師や医療機関にご相談ください。記事の内容は正確を期すよう努めていますが、情報の完全性や最新性を保証するものではありません。この記事の情報を利用されたことにより生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねますのでご了承ください。


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