股関節が痛い原因とは?立ち上がり・歩き始めの痛み、病気・対処法

「股関節痛い」と感じることは、多くの人が経験するつらい症状です。立ち上がる時、歩き始める時、階段を上り下りする時など、日常の様々な動作で痛みが生じ、生活の質を大きく低下させる可能性があります。この痛みは一時的な筋肉疲労の場合もあれば、骨や関節の病気が原因となっていることもあります。痛みを放置せず、その原因を正しく理解し、適切な対処法を知ることが非常に大切です。この記事では、股関節の痛みがなぜ起こるのか、どのような病気が考えられるのか、そして自分でできる対処法や、医療機関を受診すべき目安について、詳しく解説します。つらい股関節痛の原因を知り、改善への第一歩を踏み出しましょう。

目次

股関節の痛みの主な原因とは

股関節は、太ももの骨(大腿骨)の先端にある丸い部分(大腿骨頭)と、骨盤側のくぼみ(寛骨臼)が組み合わさってできています。この関節は、体重を支えたり、歩いたり走ったりする際に非常に重要な役割を果たしています。そのため、様々な原因によって痛みを引き起こしやすい部位でもあります。股関節の痛みの原因は大きく分けて、「股関節を構成する部位そのものの問題」と、「股関節以外の部分に原因がある場合」の2つが考えられます。

股関節を構成する部位の問題

股関節自体に問題がある場合、最も一般的な原因は変形や炎症です。関節の軟骨がすり減ったり、骨の形に異常があったり、関節を包む袋(関節包)やその内部で炎症が起きたりすることで痛みが誘発されます。

変形性股関節症

変形性股関節症は、股関節の軟骨が加齢や過負荷によってすり減り、関節の構造が変形していく病気です。進行性の疾患であり、初期には立ち上がりや歩き始めに痛みを感じる程度ですが、進行すると安静時にも痛むようになり、歩行が困難になることもあります。日本人の場合、生まれつき寛骨臼の被りが浅い「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」が原因で発症することが多く、特に女性に多く見られます。この病気は徐々に進行するため、早期に診断を受け、適切な治療や管理を行うことが重要です。

変形性股関節症の段階別症状(一般的な例)

段階 特徴 主な症状
初期 軟骨のわずかなすり減り 歩き始め、立ち上がり時の軽度の痛み。運動後のだるさ。
進行期 軟骨の減少、骨棘形成、関節の変形開始 歩行時の痛みが増加。階段の上り下りがつらい。可動域の制限。夜間痛が出現することも。
末期 軟骨の著しい破壊、関節の強い変形 安静時や夜間も強い痛み。歩行が非常に困難。足を引きずる。日常生活に大きな支障。

この病気は、レントゲン検査によって関節の隙間の狭さや骨棘(こつきょく:骨のとげ)の形成などを確認することで診断されます。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)は、大腿骨頭や寛骨臼の形状にわずかな異常があるために、股関節を特定の方向に動かした際に骨同士がぶつかり合う(インピンジメント)ことで痛みが生じる状態です。特に股関節を深く曲げたり、内側にひねったりする動作で痛みが誘発されやすく、スポーツを行う若い世代に多く見られます。繰り返しの刺激によって、次に述べる股関節唇損傷を合併することもあります。

股関節唇損傷

股関節唇は、寛骨臼の縁を取り囲む線維軟骨のリング状の組織で、股関節の安定性を高めたり、軟骨への負担を軽減したりする役割があります。この股関節唇が、スポーツでの繰り返しの負荷や、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)などによって損傷することがあります。損傷すると、股関節の付け根の痛みや、動かしたときのクリック音(カクカクという音)が生じることがあります。痛みが持続する場合や、ロッキング(関節が引っかかったように動かなくなる)などの症状がある場合は、専門医による診断が必要です。

関節リウマチ

関節リウマチは、全身の関節に炎症を引き起こす自己免疫疾患です。関節を覆う滑膜(かつまく)に炎症が起こり、進行すると軟骨や骨を破壊して関節が変形します。股関節も炎症のターゲットとなることがあり、痛み、腫れ、こわばりといった症状が現れます。朝起きた時に関節が動かしにくい「朝のこわばり」が特徴的な症状の一つです。股関節にリウマチ性の炎症が起こると、歩行時の痛みが強く出たり、股関節の動きが悪くなったりします。

感染性股関節炎・単純性股関節炎

  • 感染性股関節炎: 細菌などが股関節に侵入し、関節内で強い炎症を引き起こす病気です。高熱を伴うことが多く、股関節の激痛でまったく足を動かせなくなるのが特徴です。診断が遅れると関節が急速に破壊されるため、緊急で治療が必要な疾患です。小児では発熱と股関節の痛みで歩けなくなることがあり、注意が必要です。
  • 単純性股関節炎: 主に幼児から小学生に多く見られる病気で、風邪などの後に一時的に股関節に炎症が起こり、急に足を引きずったり、歩けなくなったりします。通常は安静にしていれば数日から1週間程度で改善することがほとんどですが、感染性股関節炎やその他の重い病気との鑑別が必要です。

股関節以外の原因

股関節の痛みを感じていても、その原因が股関節自体ではなく、周囲の筋肉や神経、さらには他の部位にあることも少なくありません。関連痛として股関節周辺に痛みを感じることがあります。

鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)

鼠径部痛症候群は、サッカーや陸上競技など、繰り返しキック動作や急な方向転換を行うスポーツ選手に多く見られる股関節や鼠径部(股の付け根)周辺の慢性の痛みです。股関節周辺の筋肉や腱の炎症、骨盤や股関節の不安定性などが複合的に関与していると考えられています。特に股関節を動かしたり、お腹に力を入れたりする動作で痛みが誘発されます。

腰椎疾患

腰椎(腰の骨)に問題がある場合も、股関節周辺に痛みが放散することがあります。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などによって腰の神経が圧迫されると、お尻から太もも、そして股関節や膝のあたりにかけて痛みやしびれが現れることがあります。この痛みは腰を反らせたり、長時間立っていたりすることで悪化することが多いです。股関節の動き自体には問題がないのに痛む場合は、腰椎が原因である可能性も考慮する必要があります。

筋肉や腱の問題

股関節の周囲には、股関節を動かしたり安定させたりするための多くの筋肉や腱があります。これらの筋肉や腱が、 overuse(使いすぎ)や急な負荷によって炎症を起こしたり、損傷したりすることで痛みが生じます。例えば、お尻の筋肉(殿筋)の炎症や、股関節の外側にある腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)の炎症(ランナー膝と関連することも)などが股関節周辺の痛みの原因となることがあります。また、股関節の前面を通る腸腰筋(ちょうようきん)の腱鞘炎なども、股関節の付け根の痛みの原因となります。

内臓の病気

非常に稀なケースですが、内臓の病気が股関節周辺に痛みを引き起こすこともあります。例えば、尿路結石や婦人科系の疾患、消化器系の炎症などが、関連痛として鼠径部や股関節周辺に痛みを感じさせることがあります。これらの場合は、股関節の動きには関係なく痛む、発熱や吐き気など他の症状を伴う、といった特徴が見られることがあります。

女性特有の原因

女性の場合、妊娠や出産に伴う骨盤のゆがみや関節の緩み、ホルモンバランスの変化などが股関節周辺の痛みの原因となることがあります。また、骨粗鬆症によって骨が弱くなると、わずかな衝撃で骨折(特に大腿骨頸部骨折)を起こしやすくなり、これが股関節の強い痛みの原因となります。その他、婦人科系の疾患(子宮内膜症や卵巣嚢腫など)によって鼠径部や股関節周辺に関連痛が生じることもあります。これらの痛みは生理周期によって変化したり、他の婦人科系の症状を伴ったりすることがあります。

股関節が痛い時に現れる代表的な症状

股関節痛いと感じる時、その症状は様々です。痛みの感じ方、痛む場所、痛むタイミングなどを詳しく観察することで、原因の特定に役立つことがあります。ここでは、股関節痛に伴ってよく見られる代表的な症状について解説します。

痛む場所と広がり(付け根、右だけ、左だけなど)

股関節の痛みは、単に股関節の「中心」が痛むとは限りません。最もよく訴えられるのは、股関節の前面、特に足の付け根(鼠径部)の痛みです。これは、変形性股関節症や股関節唇損傷、鼠径部痛症候群などでよく見られます。

また、お尻のあたりが痛む場合もあります。この場合、腰椎疾患による関連痛や、お尻の筋肉の問題(梨状筋症候群など)が考えられます。

股関節の外側が痛む場合は、股関節の外側の筋肉や腱の炎症(大転子部痛症候群など)や、腸脛靭帯の問題が原因の可能性があります。

さらに、痛みは股関節だけでなく、太ももの前面や側面、膝のあたりにまで広がることもあります。これは、痛みが神経を伝わって関連する他の部位に感じられる(放散痛)ためです。

痛みが右だけなのか、左だけなのか、あるいは両方なのかも重要な情報です。変形性股関節症や関節リウマチは両側に症状が出ることもありますが、片側のみに強い痛みが出ることもあります。外傷や特定の疾患の場合は、片側だけが痛むことが多いです。

痛むタイミング(歩き始め、階段、動作時など)

痛むタイミングは、原因疾患を推測する上で非常に重要な手がかりとなります。

  • 歩き始めや立ち上がり時の痛み: 座っていたり寝ていたりした状態から動き出すときに痛むが、しばらく動いていると痛みが和らぐ、という症状は、変形性股関節症の初期によく見られる特徴です。「始動時痛(しどうじつう)」と呼ばれます。
  • 階段の上り下り時の痛み: 階段を上る時や下りる時に特に痛む場合は、股関節にかかる体重や負荷が増加することで痛みが増強していると考えられます。変形性股関節症の進行期によく見られます。
  • 動作時の痛み: 特定の動作、例えば股関節を深く曲げる、内側にひねる、片足に体重をかけるなどで痛む場合は、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)や股関節唇損傷、筋肉や腱の問題などが考えられます。スポーツ中の痛みもこの範疇に入ります。
  • 長時間歩行後の痛み: 長時間歩いたり、立ちっぱなしだったりした後に痛みが増す場合は、股関節への累積的な負荷が原因と考えられます。変形性股関節症などでよく見られます。
  • 安静時の痛み、夜間痛: じっとしている時や寝ている時にも痛む場合は、炎症が強いか、病気が進行している可能性があります。変形性股関節症の進行期や末期、関節リウマチ、感染性股関節炎などで見られます。

歩行困難や足を引きずる

股関節の痛みが強くなると、体重をかけるのがつらくなり、正常に歩くことが難しくなります。痛みをかばうために、無意識のうちに痛い方の足への荷重を避けるようになり、足を引きずる(跛行:はこう)ような歩き方になることがあります。変形性股関節症が進行したり、痛みが強かったりする場合に顕著に見られます。歩行能力の低下は、日常生活の自立度にも大きく影響します。

可動域の制限

股関節の炎症や変形が進むと、股関節をスムーズに動かすことが難しくなります。特に、股関節を内側や外側にひねったり、脚を横に開いたり、靴下を履くために脚を曲げたりする動作が制限されることがあります。可動域の制限は、病気の進行度を示す重要な指標の一つです。

股関節の違和感や clicking(クリック音)

股関節を動かした時に、カクカク、ゴリゴリといった違和感や音(クリック音)がすることがあります。これは、股関節唇の損傷や、関節内の軟骨や滑膜の異常、骨の形状の問題などが原因で起こることがあります。痛みを伴わないこともありますが、痛みを伴う場合は股関節内の構造的な問題が隠れている可能性があります。

突然の痛み、激痛

股関節の痛みが突然始まり、非常に強い激痛を伴う場合は、注意が必要です。大腿骨頸部骨折(特に高齢者の転倒後)、感染性股関節炎化膿性股関節炎(関節内に膿が溜まる)など、緊急性の高い疾患の可能性があります。これらの場合、ほとんど歩くことができなくなり、発熱や全身倦怠感を伴うこともあります。このような症状が現れたら、速やかに医療機関を受診する必要があります。

自分でできる股関節痛の対処法

股関節の痛みが比較的軽度である場合や、医療機関を受診するまでの間の応急処置として、ご自身でできる対処法があります。ただし、これらの対処法は痛みの原因を根本的に解決するものではなく、症状の緩和や悪化予防を目的としたものです。痛みが強い場合や、症状が改善しない場合は、必ず専門医に相談してください。

安静にする・股関節への負担を減らす

痛む時は、まずは安静にすることが基本です。痛みの原因となっている動作や運動を避け、股関節への負担を減らしましょう。

  • 休息をとる: 長時間立ちっぱなしや歩行を避け、適度に休憩をとります。
  • 杖や歩行器の使用: 歩行時に痛みが強い場合は、杖や歩行器を使用して股関節への荷重を軽減することが有効です。杖は痛い方の足と反対側の手で持ちます。
  • 重いものを持たない: 重いものを持つと、股関節にかかる負担が増加します。できるだけ重いものを持つのは避けましょう。
  • 股関節に負担のかかる動作を避ける: 和式トイレの使用、正座、あぐらなど、股関節を深く曲げる動作は避けるようにします。

温める・冷やす

痛みの性質によって、温めるか冷やすかを選択します。

  • 冷やす: 痛みが急激に現れた場合、運動後や特定の動作の後にズキズキと痛む場合、腫れや熱感を伴う場合は、炎症が起きている可能性が高いです。このような場合は、患部を冷やすことが有効です。ビニール袋に氷水を入れて患部に当てるなどしますが、長時間冷やしすぎると凍傷の危険があるので、15〜20分程度にとどめ、休憩を挟みながら行いましょう。
  • 温める: 慢性的な痛み、特に朝のこわばりや、動かし始めの痛みが主体の場合は、温めることで血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎ痛みが軽減されることがあります。お風呂にゆっくり浸かる、ホットパックを使用するなどが良いでしょう。ただし、炎症が強い時期に温めると症状が悪化することがあるため注意が必要です。

痛みを和らげるストレッチや筋トレ

痛みが少し落ち着いてきたら、股関節周辺の筋肉を適切にストレッチしたり、筋力を強化したりすることが重要です。ただし、痛みが強い時に無理に行うと逆効果になるため、痛みのない範囲で行うことが大原則です。どのようなストレッチや筋トレが適切かは、痛みの原因によって異なるため、できれば専門家(理学療法士など)の指導のもとで行うのが理想です。

一般的な股関節周りのストレッチ(痛みのない範囲で優しく行う)

  • 股関節屈筋群(太ももの前面)のストレッチ: 仰向けになり、片方の膝を抱え込み、もう片方の脚はベッドから下ろして股関節の前面を伸ばす。
  • お尻の筋肉(殿筋群)のストレッチ: 仰向けになり、片方の足首をもう片方の膝の上に乗せ、膝を抱え込むように引き寄せる。
  • 内転筋群(太ももの内側)のストレッチ: 座って両足の裏を合わせ、膝を開いていく。

一般的な股関節周りの筋トレ(痛みのない範囲で軽い負荷から始める)

  • 大殿筋のトレーニング: うつ伏せになり、膝を伸ばしたまま片足を持ち上げる(尻上がり運動)。
  • 中殿筋のトレーニング: 横向きになり、下の脚を少し曲げ、上の脚を真上にゆっくりと持ち上げる(横向き足上げ)。
  • 股関節外旋筋のトレーニング: 横向きになり、膝を90度に曲げ、足首をつけたまま上の膝だけを開いていく。

体重管理

体重が増加すると、股関節にかかる負担もそれに比例して大きくなります。例えば、歩いている時には体重の約3倍、階段を下りる時には約6倍もの負荷が股関節にかかると言われています。そのため、適正体重を維持することは、股関節への負担を減らし、痛みを軽減するために非常に有効です。バランスの取れた食事と、股関節に負担の少ない運動(水中ウォーキングやサイクリングなど)を取り入れて、体重管理に取り組みましょう。

日常生活での工夫

日常生活の中で、股関節への負担を減らすためのちょっとした工夫が痛みの軽減につながります。

  • 椅子の高さを調整する: 低すぎる椅子やソファからの立ち上がりは股関節に負担がかかります。少し高めの椅子を選んだり、座面クッションを使ったりする工夫を。
  • 洋式トイレを使う: 和式トイレは股関節を深く曲げるため負担が大きいです。できるだけ洋式トイレを使いましょう。
  • 入浴で体を温める: 体全体を温めることで、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減されることがあります。ただし、炎症が強い急性期は避けてください。
  • 適切な靴選び: クッション性があり、かかとが安定している歩きやすい靴を選びましょう。ヒールの高い靴は股関節や膝に負担をかけやすいため避けるのが無難です。

股関節が痛い時、やってはいけないこと

股関節の痛みを早く治したいという一心で、かえって症状を悪化させてしまう行動をとってしまうことがあります。痛む時に特に避けるべき「やってはいけないこと」を知っておきましょう。

無理な運動やストレッチ

痛みが強い時に、痛みを我慢して運動を続けたり、無理な角度でストレッチを行ったりすることは絶対に避けましょう。炎症が悪化したり、関節や筋肉をさらに損傷したりする可能性があります。特に、急激な動きや強い衝撃が加わるような運動(ジャンプやランニングなど)は、痛みが完全に治まるまでは控えるべきです。ストレッチや筋トレを行う場合も、「痛みのない範囲で」「ゆっくりと」行うことが重要です。

長時間の同じ姿勢

長時間立ちっぱなし、座りっぱなしなど、同じ姿勢を続けることも股関節周辺の筋肉を緊張させ、痛みを増悪させることがあります。デスクワークなどで長時間座っている場合は、1時間に一度は立ち上がって軽く体を動かす、ストレッチするなど、意識的に姿勢を変えるようにしましょう。

自己判断によるマッサージ

痛い部分を揉んだり強く押したりするマッサージは、炎症を悪化させたり、筋肉や神経を傷つけたりする危険性があります。特に、痛みの原因が骨や関節にある場合は、マッサージは効果がないだけでなく、かえって状態を悪くする可能性があります。自己判断での強いマッサージは避け、行う場合は専門家の指示に従いましょう。

こんな症状が出たら要注意|病院受診の目安

股関節の痛みが続く場合や、特定の症状が現れた場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。早期に正確な診断を受け、適切な治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、回復を早めることができます。以下のような症状が見られる場合は、整形外科を受診することを強く推奨します。

痛みが改善しない・悪化する

ご自身で安静にしたり、冷やしたり温めたりといったセルフケアを試みても、痛みが数日経っても改善しない場合や、むしろ痛みが徐々に強くなってきている場合は、何らかの病気が隠れている可能性があります。特に、痛みが軽度から中等度であっても、日常生活に支障が出始めている場合は受診を検討しましょう。

突然の激痛で歩けない

前述したように、突然、耐えられないほどの激痛が股関節に走り、まったく体重をかけられず、歩くことができない場合は、骨折や重度の炎症など、緊急性の高い疾患が強く疑われます。この場合は、様子を見ずに救急を含め、速やかに医療機関を受診してください。

発熱や腫れを伴う

股関節の痛みに加えて、38℃以上の発熱があったり、股関節周辺が赤く腫れて熱を持っているような場合は、感染性股関節炎などの重い感染症や、急性の炎症性疾患(関節リウマチの急性増悪など)の可能性があります。これらの病気は進行が早く、放置すると関節に深刻なダメージを与えることがあるため、迅速な診断と治療が必要です。

安静時にも痛む

日中の活動時だけでなく、じっとしている時や夜寝ている時にも股関節が痛む場合は、炎症が強いか、病気が進行しているサインかもしれません。特に夜間痛は、変形性股関節症の進行期や、その他の炎症性疾患でよく見られる症状です。痛みのために眠れないといった場合は、専門医に相談しましょう。

女性で股の付け根に痛みがある場合

女性で股の付け根、特に鼠径部(そけいぶ)に痛みがある場合、股関節の問題だけでなく、前述したように婦人科系の疾患(子宮内膜症、卵巣のう腫など)や、尿路結石などの内臓の病気が原因となっている可能性も考えられます。これらの痛みは、股関節の動きとは無関係に生じたり、生理周期と関連したり、排尿時の痛みなどを伴ったりすることがあります。股関節の症状だけでなく、他の全身症状(発熱、腹痛、不正出血など)がある場合は、婦人科や泌尿器科なども含めて相談を検討する必要があるかもしれません。まずは整形外科を受診し、股関節に原因がないかを確認してもらうのが一般的です。

これらの目安に当てはまる症状がある場合は、自己判断で済ませず、整形外科医の診察を受けるようにしましょう。

股関節痛の診断と治療法

医療機関では、股関節痛の原因を特定し、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療方針を立てます。診断は様々な方法を組み合わせて行われ、治療法は痛みの原因や進行度によって異なります。

医療機関での診断方法(問診、触診、レントゲン、MRIなど)

医療機関を受診すると、まず医師による問診が行われます。いつから、どのような時に、どのような痛みがあるのか、痛む場所はどこか、他に症状はないか、既往歴や生活習慣など、詳しい情報を伝えます。痛みの状況を具体的に医師に伝えることが、正確な診断の第一歩となります。

次に、医師が股関節の動きや痛みの程度を調べる触診や身体診察を行います。股関節を様々な方向に動かしてみて、痛みが誘発されるか、可動域に制限がないかなどを確認します。また、足の長さの違いや歩き方(跛行)なども観察します。

原因を画像で確認するために、レントゲン(X線)検査は非常に重要な検査です。骨の変形、関節の隙間の狭さ(軟骨のすり減り)、骨棘(骨のとげ)、骨折の有無などを確認することができます。変形性股関節症の診断には欠かせない検査です。

レントゲンでは分からない軟骨、関節唇、筋肉、腱、靭帯などの軟部組織の状態を詳しく調べるためには、MRI(磁気共鳴画像)検査が行われることがあります。股関節唇損傷や大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)、筋肉や腱の損傷などを診断するのに有用です。

炎症の程度やリウマチなどの自己免疫疾患が疑われる場合には、血液検査が行われることもあります。炎症反応を示すCRP値や、リウマチ因子などの項目を調べます。

これらの検査結果を総合的に判断して、痛みの正確な原因を診断します。

保存療法(薬物療法、リハビリ、装具療法など)

股関節痛の治療は、病気の原因や進行度によって異なりますが、まずは手術をしない「保存療法」から始めるのが一般的です。

  • 薬物療法: 痛みを和らげるために、痛み止め(消炎鎮痛剤)が処方されます。内服薬のほか、湿布や塗り薬なども使用されます。炎症を抑える効果のある薬や、軟骨の保護・修復を助ける効果が期待される薬(あくまで補助的な役割)が使われることもあります。痛みの種類や原因に応じて、適切な薬が選択されます。
  • リハビリテーション: 股関節周辺の筋肉を強化したり、柔軟性を改善したりすることで、関節への負担を減らし、痛みを和らげ、歩行能力を維持・改善することを目指します。理学療法士の指導のもと、個々の状態に合わせたストレッチや筋力トレーニング、歩き方の指導などが行われます。自宅でできる運動指導も含まれます。
  • 装具療法: 股関節にかかる負担を軽減するために、杖や歩行器の使用が指導されることがあります。また、足底板(インソール)を使用して、足の長さの違いを補正したり、歩行時のバランスを整えたりすることもあります。
  • 注射療法: 痛みが強い場合には、股関節内に痛み止めや炎症を抑えるステロイド薬、あるいはヒアルロン酸製剤などを注射することがあります。これらの注射は、一時的な痛みの緩和に有効な場合があります。

保存療法は、病気の進行を遅らせたり、痛みをコントロールしたりすることを目的としますが、すり減ってしまった軟骨や変形した骨を元に戻すことはできません。

手術療法

保存療法で痛みが十分に改善しない場合や、病気が進行して日常生活に大きな支障が出ている場合は、手術療法が検討されます。股関節痛に対する主な手術療法としては、以下のようなものがあります。

  • 人工股関節置換術: 傷んだ股関節を人工の関節に置き換える手術です。変形性股関節症の末期など、関節の破壊が進んでいる場合に最も一般的に行われる手術です。これにより、強い痛みがなくなり、歩行能力が大幅に改善することが期待できます。
  • 骨切り術: 若い人の変形性股関節症や、臼蓋形成不全などが原因の場合に、自分の骨を切って関節の適合性を改善する手術です。人工関節置換術を先延ばしにしたい場合などに検討されることがあります。
  • 関節鏡手術: 小さな切開から内視鏡を関節内に挿入して行う手術です。股関節唇損傷や大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の一部など、比較的軽い病変に対して行われます。傷口が小さく、回復が早いのが特徴です。

どの手術を選択するかは、患者さんの年齢、病気の進行度、活動性、全身状態などを考慮して、医師と十分に話し合った上で決定されます。手術後は、通常リハビリテーションが重要となり、機能回復を目指します。

まとめ|股関節の痛みに悩んだら専門医へ相談を

股関節痛は、日常生活に大きな影響を与えるつらい症状です。その原因は多岐にわたり、単なる筋肉痛から、変形性股関節症や関節リウマチのような進行性の病気まで様々です。痛みを放置したり、自己判断で不適切な対処を続けたりすることは、病気を悪化させるリスクがあります。

この記事で解説したように、歩き始めの痛み、階段での痛み、安静時の痛み、突然の激痛、発熱や腫れを伴う痛みなど、痛みの性質や強さ、随伴症状によって、原因や緊急度は異なります。特に、痛みが続く場合や悪化する場合、日常生活に支障が出ている場合は、速やかに整形外科などの専門医を受診することが非常に重要です。

医療機関では、詳しい問診や身体診察に加え、レントゲンやMRIなどの画像検査、必要に応じて血液検査などを行い、痛みの原因を正確に診断します。診断に基づき、痛み止めの薬、リハビリテーション、装具療法といった保存療法や、病状によっては人工関節置換術などの手術療法が検討されます。早期に適切な診断と治療を受けることで、痛みをコントロールし、関節の機能維持を図り、活動的な生活を続けることが可能になります。

股関節の痛みに一人で悩まず、まずは専門医に相談し、適切なアドバイスと治療を受けることから始めましょう。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスや診断、治療を代替するものではありません。個々の症状については、必ず医師の診察を受けてください。

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