痔とは?種類(いぼ痔・切れ痔・痔ろう)や原因・症状の基礎知識

痔とは、肛門周辺に起こる病気の総称です。非常に多くの人が経験する身近な病気ですが、「おしりの悩み」という性質上、人になかなか相談できずに一人で抱え込んでしまうケースも少なくありません。しかし、痔は放置すると悪化したり、治療が長引いたりすることもあります。また、痔だと思っていた症状が、実は他のもっと重い病気である可能性もゼロではありません。

この記事では、痔がどのような病気なのか、その種類、原因、主な症状について詳しく解説します。さらに、自分でできる対策や、病院へ行くべき目安、そして適切な治療法についても触れていきます。おしりの不調に悩んでいる方が、自分の症状を理解し、適切に対処するための一助となれば幸いです。

痔とは

「痔」という言葉は、肛門やその周辺組織に生じる様々な疾患を指す総称です。具体的には、肛門のクッション部分が腫れたり、皮膚が切れたり、細菌感染によって膿がたまったり、そこからトンネルができてしまう病気などがあります。これらは、日常生活における様々な習慣や体の状態によって引き起こされます。

肛門の構造は非常にデリケートで、排泄という重要な役割を担っています。この部分には、たくさんの血管や神経が集中しており、便をスムーズに排出するためにクッションのような役割をする組織も存在します。しかし、便秘や下痢、長時間の座位などによって負担がかかると、これらの組織に炎症や損傷が生じ、痔として様々な症状が現れるのです。痔は命にかかわる病気ではない場合がほとんどですが、痛みやかゆみ、出血といった不快な症状は、QOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があります。適切な知識を持ち、早めに対処することが大切です。

目次

痔の種類

痔は、主に発生する場所や原因によって大きく3つの種類に分けられます。それぞれ症状や進行、治療法が異なります。

いぼ痔(内痔核・外痔核)とは

いぼ痔は、肛門にあるクッション組織が、うっ血(血の流れが悪くなって滞ること)によって腫れて「いぼ」のようになるものです。発生する場所によって、「内痔核(ないじかく)」と「外痔核(がいじかく)」に分けられます。

内痔核の症状と進行度(ゴルガー分類)

内痔核は、歯状線(しじょうせん)という肛門の内部にある境界線より直腸側(内側)にできるいぼ痔です。この部分は痛みに鈍感なため、初期には自覚症状がほとんどないこともあります。最も一般的な症状は、排便時の出血です。トイレットペーパーに血がついたり、便器が真っ赤になるほどの出血が見られることもあります。

内痔核は進行度によって、一般的に以下の4段階に分類されます。これをゴルガー分類と呼びます。

進行度(ゴルガー分類) 症状
1度(I度) 排便時に出血するが、いぼは肛門の外へ出てこない。
2度(II度) 排便時にいぼが肛門の外へ出るが、自然に肛門内へ戻る。
3度(III度) 排便時やいきんだ時にいぼが肛門の外へ出て、指で押し込まないと戻らない。
4度(IV度) いぼが常に肛門の外へ出ていて、指で押し込んでも戻らない、またはすぐに戻ってしまう。

進行するにつれて、いぼが肛門の外へ出る「脱出」が起こるようになります。3度や4度になると、常に脱出した状態になり、下着が汚れたり、化膿したりするリスクも高まります。痛みは少ないことが多いですが、脱出したいぼが締め付けられると激しい痛みを伴うこともあります(嵌頓痔核:かんとんじかく)。

外痔核の症状と原因

外痔核は、歯状線より外側、つまり肛門の皮膚に近い部分にできるいぼ痔です。この部分は痛みに敏感なため、比較的初期の段階から痛みを感じやすいのが特徴です。

最も典型的なのは、突然肛門のふちにしこりのような腫れと強い痛みが現れる「血栓性外痔核(けっせんせいがいじかく)」です。これは、肛門周辺の血管に血の塊(血栓)ができてしまうために起こります。長時間座っていた後や、激しい運動、いきみすぎなどが原因で起こることが多いです。血栓性外痔核は、強い痛みを伴いますが、数日から数週間で血栓が吸収されて自然に小さくなることもあります。

慢性的な外痔核は、肛門のふちが常に腫れたような状態になることがあり、排便時以外も違和感や鈍い痛みを感じることがあります。

切れ痔(裂肛)とは

切れ痔(医学的には裂肛:れっこう)は、その名の通り、肛門の出口付近の皮膚が切れてしまう状態です。主に、硬い便を無理に出そうとしていきんだり、慢性的な下痢によって肛門の皮膚が弱っているところに便が通過したりすることで起こります。

切れ痔の症状と原因

切れ痔の最も特徴的な症状は、排便時の激しい痛みです。切れた部分が刺激されるため、排便中に「ピリッ」「ズキッ」とした強い痛みを感じ、排便後もしばらく痛みが続くことがあります。また、排便時に少量の出血(多くは鮮やかな赤い血がトイレットペーパーにつく程度)が見られることもあります。

痛みが強いことから、排便を我慢してしまいがちになり、それがさらに便秘を悪化させ、次の排便時にまた切れてしまうという悪循環に陥りやすい病気です。慢性化すると、切れた部分が硬くなったり、そこに炎症が生じて「見張りいぼ」と呼ばれる皮膚のたるみができたりすることもあります。

原因としては、前述の通り、硬い便や下痢による物理的な刺激が主なものです。特に女性や高齢者、ダイエット中の方などで、便秘によって硬い便が出やすい人に多く見られます。

痔ろう(あな痔)とは

痔ろう(医学的には肛門周囲膿瘍:こうもんしゅういのうよう、または痔瘻:じろう)は、肛門の内部にある小さなくぼみ(肛門陰窩:こうもんいんか)に細菌が入り込み感染することで、肛門の周りに膿がたまり(肛門周囲膿瘍)、その膿が自然に破れるか、切開して排出された後に、肛門内の感染源と皮膚をつなぐトンネルができてしまう病気です。

痔ろうの症状と原因

痔ろうは、まず肛門周囲膿瘍として始まります。この段階では、肛門の周りが熱を持って腫れ、激しい痛みが生じます。また、発熱や倦怠感を伴うこともあります。膿瘍が破れたり、切開されたりすると、一時的に症状は楽になりますが、感染源である肛門内部と皮膚の外側がトンネル状につながった痔ろうが形成されます。

痔ろうができると、肛門の周りの皮膚に開いた穴から、下着を汚すほどの膿や分泌物が出てくるようになります。痛みは膿瘍の時ほど強くないことが多いですが、時々炎症を起こして再び腫れたり、痛みを感じたりすることもあります。

原因のほとんどは、下痢などによって細菌が肛門腺に入り込むことによる感染です。特に男性に多く、下痢をしやすい体質の人や、免疫力が低下している人などがリスクが高いとされています。

痔ろうは、薬で治ることはなく、基本的に手術が必要な病気です。放置すると、トンネルが複雑化したり、まれにがん化したりするリスクもあるため、早期に専門医の診察を受けることが重要です。

痔の主な症状

痔の種類によって症状は異なりますが、ここでは痔に共通する、またはよく見られる代表的な症状について詳しく解説します。これらの症状に心当たりがある場合は、痔の可能性があると考えられます。

排便時の痛み

痔の症状の中でも特に辛いのが痛みです。痛みの性質は痔の種類によって異なります。

  • 切れ痔: 排便中に鋭く「切れるような」「ガラスの破片が出るような」激しい痛みを感じます。排便後も数時間痛みが続くことがよくあります。
  • 外痔核: 特に血栓性外痔核の場合、排便に関係なく突然強い痛みを伴うしこりができます。排便時にはしこりが刺激されてさらに痛むことがあります。
  • 内痔核: 通常、痛みはほとんどありませんが、いぼが大きく腫れたり、肛門の外に脱出して締め付けられたり(嵌頓)すると、激しい痛みを伴います。
  • 痔ろう(肛門周囲膿瘍): 膿がたまっている間は、拍動性の強い痛みやズキズキする痛みを感じます。

痛みが強いと、排便を我慢してしまい、それが便秘を悪化させ、さらに痔の症状を悪化させるという悪循環に陥りやすいため注意が必要です。

出血(鮮血)

痔による出血は、多くの場合は鮮やかな赤い血(鮮血)です。これは、肛門の比較的出口に近い部分の血管から出血するためです。出血の程度も痔の種類や状態によって異なります。

  • 内痔核: 排便時に便の表面についたり、トイレットペーパーについたり、ポタポタと滴り落ちたり、ひどい場合はシャーッと噴き出すこともあります。痛みがない出血の場合、内痔核を強く疑います。
  • 切れ痔: 排便時に切れた部分から、少量の鮮血がトイレットペーパーにつくことが多いです。多くの場合、痛みを伴います。
  • 外痔核: 通常は出血しませんが、血栓性外痔核が破れたり、硬い便でこすれたりすると出血することもあります。
  • 痔ろう: 膿に血液が混じることはありますが、鮮血の出血はまれです。

痔による出血は命にかかわるほど大量になることは少ないですが、慢性的に出血が続くと貧血になる可能性があります。また、黒っぽい血や粘液が混じった血が出る場合は、痔以外の病気(大腸ポリープや大腸がんなど)の可能性も考えられるため、注意が必要です。

腫れ・脱出・異物感(おしりからぷにぷに)

肛門の周りや中に「何かある」「ぷにぷにしたものが出る」といった感覚も痔の代表的な症状です。

  • いぼ痔(内痔核・外痔核):
    • 内痔核: 進行すると、排便時にいぼが肛門の外に「脱出」するようになります(ゴルガー分類2度以上)。最初は自然に戻りますが、進行すると指で押さないと戻らなくなり(3度)、最後は常に外に出たままになります(4度)。脱出したいぼや、肛門内にあるいぼによって、肛門の中に何か残っているような「異物感」を感じることもあります。
    • 外痔核: 肛門のふちにしこりのような「腫れ」や「ぷにぷに」した感触として現れます。血栓性外痔核の場合は、突然硬く痛いしこりができます。
  • 痔ろう(肛門周囲膿瘍): 肛門の周りが熱を持って大きく腫れ、しこりのようになります。膿瘍が破れると、そこから膿が出てきます。

これらの症状は、見た目や触った感覚で気づくことが多いため、おしりを清潔にする際に確認してみると良いでしょう。

かゆみ

肛門周辺のかゆみ(肛門そう痒症)も、痔の症状としてよく見られます。

  • 内痔核: 脱出した内痔核から粘液が出て下着を汚し、それが刺激となってかゆみを引き起こすことがあります。
  • 切れ痔: 慢性化して皮膚の炎症やタグ(見張りいぼ)ができると、かゆみを伴うことがあります。
  • 痔ろう: 膿や分泌物によって肛門周辺の皮膚が汚れたり、炎症を起こしたりしてかゆみが生じることがあります。

かゆみがあるからといって、必ずしも痔が原因とは限りません。真菌(カビ)による感染や、アレルギー、清潔にしすぎることによる皮膚の乾燥などもかゆみの原因となります。しかし、他の痔の症状(痛み、出血、腫れなど)と一緒にかゆみがある場合は、痔が原因である可能性が高いと考えられます。かゆみによってかきむしってしまうと、皮膚が傷ついてさらに症状が悪化することもあるため注意が必要です。

痔になる原因

痔は、特定の原因が一つだけというわけではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発生することがほとんどです。特に、肛門に負担をかける日常生活の習慣が大きく関わっています。

便秘や下痢などの排便習慣

痔の最も大きな原因の一つが、便通の異常です。

  • 便秘: 硬くなった便が肛門を通過する際に、肛門の皮膚や粘膜を傷つけたり、いぼ痔を刺激したりします。また、硬い便を無理に出そうと強くいきむことで、肛門周辺の血管に圧力がかかり、うっ血(血行不良)を招いていぼ痔を悪化させます。
  • 下痢: 勢いよく排出される軟便や水様便は、肛門の粘膜や皮膚に負担をかけ、切れ痔の原因になります。また、下痢便には多くの細菌が含まれているため、肛門腺に細菌が入り込みやすく、痔ろう(肛門周囲膿瘍)の原因となるリスクが高まります。さらに、下痢を繰り返すことで肛門周辺の皮膚がただれ、かゆみを引き起こすこともあります。

便秘や下痢は、食生活の乱れ、水分不足、運動不足、ストレスなど、様々な要因によって引き起こされます。これらの便通異常を改善することは、痔の予防や治療において非常に重要です。

長時間同じ姿勢(座りっぱなし・立ちっぱなし)

長時間にわたって座っていたり、立ちっぱなしでいたりすることも、痔の原因となります。これは、同じ姿勢を続けることで、おしりや肛門周辺の血行が悪くなるためです。

  • 座りっぱなし: デスクワークなどで長時間座っていると、おしりが圧迫され、肛門周辺の血管がうっ血しやすくなります。これが内痔核の発生や悪化につながることがあります。
  • 立ちっぱなし: 販売業や調理師など、立ち仕事が多い人も、重力によって下半身に血液が滞りやすくなり、肛門周辺のうっ血を引き起こす可能性があります。

適度に休憩を挟んだり、軽い運動を取り入れたりして血行を促進することが大切です。

妊娠・出産

女性の場合、妊娠や出産も痔の原因となる重要な要因です。

  • 妊娠中:
    • 大きくなった子宮がお腹の中の血管を圧迫し、骨盤内や下半身の血行が悪くなります。これが肛門周辺のうっ血を招き、いぼ痔ができやすくなります。
    • 妊娠後期にはお腹の重みで腹圧が高まり、肛門への負担が増加します。
    • 妊娠中のホルモンバランスの変化によって、腸の動きが鈍くなり、便秘になりやすくなります。硬い便やいきみすぎは、切れ痔やいぼ痔の原因・悪化要因となります。
  • 出産時:
    • 赤ちゃんを押し出す際に強くいきむことで、肛門周辺に強い圧力がかかり、既存のいぼ痔が脱出したり、新しくいぼ痔ができたりすることがあります。

妊娠中や産後は痔の症状が出やすい時期ですが、適切なケアや治療によって改善することがほとんどです。

その他の原因(冷え、ストレスなど)

上記以外にも、痔の原因となりうる要因はいくつかあります。

  • 体の冷え: 特に下半身の冷えは、肛門周辺の血行不良を招き、うっ血を悪化させる可能性があります。
  • ストレス: ストレスは自律神経のバランスを乱し、腸の働きに影響を与え、便秘や下痢を引き起こすことがあります。また、ストレスによって痛みに過敏になることもあります。
  • 食生活: 香辛料などの刺激物の摂りすぎや、アルコールの過剰摂取は、肛門を刺激したり、下痢を誘発したりすることがあります。また、食物繊維や水分が不足した食事は便秘の原因となります。
  • 過度なダイエット: 食事量が極端に減ると、便の量が少なくなり、便秘になりやすくなります。
  • 排便時の習慣: トイレで長時間いきみすぎたり、スマホを見ながら長時間座ったりすることも、肛門への負担を増やします。

これらの原因を理解し、できる範囲で生活習慣を改善することが、痔の予防や改善につながります。

痔かどうか確かめるには?(症状チェック)

「自分のおしりの不調が痔なのかどうか知りたい」「どんな症状だったら病院に行くべき?」と感じている方も多いでしょう。ここでは、自分でできる簡単な症状チェックと、自己判断の限界について解説します。

自分でできる症状チェック

以下の項目に当てはまるものがないか、確認してみましょう。

  • 排便時に肛門が痛みますか?
    • 切れるような鋭い痛みがある → 切れ痔の可能性
    • ズキズキする、拍動性の痛みがある → 肛門周囲膿瘍(痔ろうの前段階)の可能性
    • 強い痛みではないが、鈍い痛みや違和感がある → 外痔核や慢性的な切れ痔の可能性
  • 排便時に出血がありますか?
    • トイレットペーパーに鮮やかな赤い血がつく → 内痔核、切れ痔の可能性
    • 便器が真っ赤になる、ポタポタ・シャーッと血が出る → 比較的進行した内痔核の可能性
    • 黒っぽい血や粘液が混じった血が出る → 痔以外の病気の可能性も
  • 肛門の周りに腫れやしこり、いぼのようなものがありますか?
    • 排便時やいきんだ時に、肛門から何か出てくる感じがする → 内痔核の可能性
    • 肛門のふちに硬くて痛いしこりができた → 血栓性外痔核の可能性
    • 常に肛門の周りに柔らかい、または硬い腫れがある → 外痔核、慢性的な切れ痔(見張りいぼ)、痔ろうの可能性
  • 肛門周辺がかゆいですか?
    • 他の症状(痛み、出血、腫れなど)と共にかゆみがある → 痔が原因の可能性
    • かゆみだけが強い → 肛門そう痒症(痔が原因の場合もある)の可能性
  • 肛門から膿や分泌物が出ますか?
    • 膿のようなものや、粘液が出て下着が汚れる → 痔ろうの可能性

これらのチェック項目はあくまで目安です。複数の症状が組み合わさって現れることもあります。

自己判断の限界と専門医への相談

自分で症状をチェックすることは、自分の体の状態を知る上で有効ですが、自己判断には限界があります。

  • 正確な診断は医師にしかできない: 痔の種類や進行度を正確に診断するには、専門医による視診や触診、場合によっては肛門鏡検査などが必要です。
  • 他の病気を見逃すリスク: 痔と似た症状(出血、痛み、腫れなど)を引き起こす病気は他にもあります。大腸ポリープ、大腸がん、炎症性腸疾患などがその例です。特に、便に血が混じる、便の形が変化する、原因不明の腹痛や体重減少があるといった場合は、大腸がんなどの重大な病気の可能性も考慮する必要があります。
  • 適切な治療法の選択: 痔の種類や進行度によって、最適な治療法は異なります。自己判断で誤った対処をしたり、市販薬でごまかしたりしていると、かえって症状を悪化させてしまうこともあります。

したがって、おしりに何らかの異常を感じたら、自己判断で済まさずに、一度専門医に相談することをお勧めします。特に、出血が続く場合や、痛みが強い場合、腫れが大きい場合、膿が出ている場合などは、迷わず受診しましょう。

痔の治療法

痔の治療法は、痔の種類、進行度、症状の程度、そして患者さんの全身状態やライフスタイルなどを考慮して決定されます。大きく分けて、薬物療法、生活習慣の改善(セルフケア)、そして手術があります。

薬物療法(市販薬・処方薬)

症状が比較的軽度な場合や、手術の必要がない痔(初期の内痔核、切れ痔、痛みの強い外痔核など)に対しては、薬による治療が中心となります。薬には、主に患部に直接塗ったり挿入したりするタイプ(外用薬)と、内服するタイプ(内服薬)があります。

塗り薬・座薬の効果と使い方

塗り薬(軟膏やクリーム)や座薬は、肛門の痛み、腫れ、かゆみ、出血などの症状を緩和する効果が期待できます。様々な種類の成分が配合されており、症状に合わせて使い分けられます。

成分の主な種類 主な効果 使用目的の例
ステロイド 炎症を抑える(腫れや痛みの軽減) 腫れや炎症が強い場合
局所麻酔薬 痛みを抑える 痛みが強い場合(切れ痔、外痔核など)
止血成分 出血を抑える 出血がある場合(内痔核、切れ痔など)
収斂・保護成分 患部を保護し、腫れや炎症を抑える 全般的な症状の緩和、粘膜の保護
血行促進成分 肛門周辺の血行を良くし、うっ血を改善する いぼ痔(内痔核・外痔核)による腫れやうっ血
殺菌・消毒成分 細菌の繁殖を抑え、感染を予防する 患部の清潔保持、感染予防

使い方:

  • 塗り薬: 患部に直接塗布します。軟膏は肛門の外側に、注入軟膏タイプは専用のノズルを使って肛門内に注入することも可能です。
  • 座薬: 肛門内に挿入します。体温で溶けて成分が広がり、内側の痔に効果を発揮します。

市販薬でも様々な種類が出ていますが、症状が改善しない場合や、どの薬を選べば良いか分からない場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。病院で処方される薬は、市販薬よりも成分の含有量が多い場合や、より特定の症状に特化した薬などがあります。

飲み薬の種類

飲み薬は、肛門の内側から痔の状態を改善したり、便通を調整したりする目的で処方されることがあります。

  • 痛み止め(鎮痛剤): 強い痛みを一時的に和らげます。
  • 炎症を抑える薬: 患部の炎症を抑え、腫れを軽減します。
  • 便秘薬(下剤): 便を柔らかくしたり、腸の動きを促進したりして、便秘を改善します。痔の大きな原因である便秘を解消することは、治療において非常に重要です。マグネシウム製剤、膨張性下剤、刺激性下剤など、様々な種類があり、症状や体質に合わせて処方されます。
  • 血行を良くする薬: 肛門周辺の血行を促進し、いぼ痔のうっ血を改善する効果が期待できます。

これらの飲み薬は、外用薬と組み合わせて使用されることが一般的です。

生活習慣の改善(セルフケア)

生活習慣の改善は、痔の予防だけでなく、治療においても非常に重要です。薬物療法と並行して行うことで、より高い治療効果が期待でき、再発予防にもつながります。

食事や水分摂取の改善

便通を整えるためには、食生活の見直しが欠かせません。

  • 食物繊維を摂る: 食物繊維は便のカサを増やし、便を柔らかくする効果があります。野菜、きのこ類、海藻類、果物、豆類、穀物などを積極的に摂りましょう。
  • 十分な水分を摂る: 水分不足は便を硬くする最大の原因の一つです。意識的に水分を摂り、便を柔らかく保ちましょう。
  • 発酵食品を摂る: ヨーグルト、納豆、キムチなどの発酵食品は、腸内環境を整え、便通改善に役立ちます。
  • 刺激物は控える: 香辛料を多く使った料理や、アルコールの摂りすぎは、肛門を刺激したり、下痢を引き起こしたりすることがあります。症状がある時は控えるのが無難です。
  • バランスの取れた食事: 偏食せず、栄養バランスの取れた食事を心がけることが、健康な排便につながります。

排便習慣の見直し

正しい排便習慣を身につけることも、肛門への負担を減らし、痔の悪化を防ぐ上で重要です。

  • 便意を感じたら我慢しない: 便意を我慢すると、便が硬くなり、出にくくなります。便意を感じたら、できるだけ早くトイレに行きましょう。
  • トイレに長時間こもらない: トイレで長時間座っていると、肛門がうっ血しやすくなります。スマホを見ながらなど、つい長居してしまう習慣はやめましょう。目安は3分以内です。
  • 強くいきみすぎない: 必要以上に力んでいきむと、肛門周辺に強い圧力がかかり、いぼ痔を悪化させたり、切れ痔を招いたりします。自然な便意に任せ、無理なく排出することを心がけましょう。
  • 適切な姿勢で排便する: 前かがみになり、少し膝を立てるような姿勢(洋式トイレなら足元に台を置くなど)の方が、直腸と肛門がまっすぐになり、排便しやすくなります。
  • おしりを清潔に保つ: 排便後は、優しく拭くか、ウォシュレットを適切に使用して清潔に保ちましょう。強くこすりすぎると、皮膚を傷つけてしまうことがあります。

入浴や座浴の効果

体を温めることは、痔の症状緩和に有効です。特にお風呂にゆっくり浸かることには、様々なメリットがあります。

  • 血行促進: 温かいお湯に浸かることで、肛門周辺の血行が良くなり、うっ血が改善されます。これにより、いぼ痔の腫れや痛みが和らぐ効果が期待できます。
  • 痛みの緩和: 温熱効果によって、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減されます。切れ痔や外痔核による痛みに有効です。
  • 清潔保持: お風呂に入ることで、肛門周辺を清潔に保つことができます。これは、感染予防にもつながります。

シャワーだけで済ませず、湯船にゆっくり浸かる習慣をつけましょう。座浴器を使って、お湯に浸かるのも効果的です。ただし、お湯が熱すぎるとかえって刺激になることがあるため、ぬるめのお湯(38~40℃程度)に10分~15分ほど浸かるのがおすすめです。

根治を目指す手術

薬や生活習慣の改善だけでは症状が改善しない場合や、進行した痔(ゴルガー分類3度・4度の内痔核、慢性の切れ痔、痔ろうなど)に対しては、手術が検討されます。手術によって、痔の原因となっている組織を取り除いたり、形を整えたりすることで、症状の根本的な改善(根治)を目指します。

手術の種類(例) 主な対象となる痔 手術の概要(簡易)
切除術(結紮切除術) 内痔核、外痔核、混合痔核 痔核を血管ごと縛って切り取る方法。最も一般的で再発が少ないとされる。
ALTA(アルタ)療法 内痔核(主に1~3度) 痔核に薬剤を注入し、繊維化・縮小させる方法。比較的痛みが少なく、日帰りや短期入院で行われることが多い。
PPH(円形自動縫合器) 比較的大きな内痔核 肛門内の粘膜を切除・縫合し、痔核を元の位置に戻す方法。痛みは比較的少ないが、再発や合併症のリスクも検討される。
シートン法、切開開放術 痔ろう 痔ろうのトンネルを切開したり、ゴムを通して徐々に締め付けたりすることで、トンネルを潰して治す方法。痔ろうは手術が必須。
側方内括約筋切開術 慢性の切れ痔 肛門を締め付ける筋肉(内括約筋)の一部を切開し、肛門の緊張を和らげる方法。
用手拡張術 軽度の慢性の切れ痔 肛門を指で広げて、肛門の緊張を和らげる方法。

どの手術方法を選択するかは、痔の種類や進行度、患者さんの体の状態、合併症のリスクなどを総合的に判断して決定されます。手術が必要な場合は、専門医から詳しい説明を受け、十分に納得した上で治療法を選択することが重要です。手術と聞くと抵抗があるかもしれませんが、専門医による適切な手術は、長年悩まされてきた辛い症状から解放される有効な手段となります。

痔は自然に治る?放置するリスクについて

「おしりのことだし、そのうち治るだろう」「病院に行くのは恥ずかしいから、しばらく様子を見よう」と考える方もいるかもしれません。しかし、痔を放置することには、様々なリスクが伴います。

基本的に痔は自然に治らない

一時的に症状が軽くなることはあっても、残念ながら痔が自然に完全に治ることは、ごく軽度のものを除けばほとんどありません。特に、いぼ痔や切れ痔は、原因となっている生活習慣(便秘、いきみすぎ、長時間座るなど)を改善しなければ、再発したり、症状が悪化したりを繰り返しやすい病気です。

そして、痔ろうに至っては、自然に治ることは絶対にありません。感染源である肛門内の穴と皮膚の外側の穴がトンネルでつながっている状態なので、手術でこのトンネルを閉鎖しない限り、膿が出続けたり、再燃を繰り返したりします。

放置することで悪化・合併症のリスク

痔を放置することで、以下のようなリスクが高まります。

  • 進行: 特に内痔核は、放置すると段階が進み(ゴルガー分類が上がる)、脱出がひどくなったり、元に戻らなくなったりすることがあります。切れ痔も、慢性化すると潰瘍や見張りいぼができたり、肛門が狭くなったり(肛門狭窄)して、治療が難しくなることがあります。
  • 慢性化: 症状が慢性的に続くことで、痛みやかゆみなどの不快感が日常化し、QOL(生活の質)が著しく低下します。
  • 貧血: 内痔核などからの出血が続くと、自覚症状がなくても貧血が進むことがあります。疲れやすさや息切れなどの症状が現れることがあります。
  • 嵌頓(かんとん): 脱出した内痔核が肛門に締め付けられて、強く腫れ上がり、激しい痛みを伴う状態です。血行が悪くなり、組織が壊死するリスクもあります。
  • 感染・化膿: 脱出した痔核や、切れた部分から細菌が入り込み、感染を起こして化膿することがあります。痔ろうも、膿瘍の段階で適切な処置をしないと、複雑なトンネルを形成してしまうことがあります。
  • まれにがんとの関連性: 痔そのものががんになるわけではありませんが、痔と大腸がんなど、他の重大な病気が合併している可能性があります。痔の症状だと思って放置していたら、実は大腸がんだったというケースもゼロではありません。特に、黒っぽい血や粘液が混じる出血、便の習慣の変化、体重減少などの症状がある場合は注意が必要です。

早期発見・早期治療の重要性

痔は、早期に発見して適切な治療を開始すれば、薬や生活習慣の改善といった比較的負担の少ない方法で症状が改善する可能性が高い病気です。しかし、放置して進行・慢性化させてしまうと、治療に時間がかかったり、手術が必要になったり、治療後の回復に時間がかかったりすることもあります。

おしりの不調は恥ずかしいと感じるかもしれませんが、専門医は日々多くの肛門疾患の患者さんを診ています。一人で悩まず、勇気を出して早めに専門医に相談することが、症状を長引かせないための最も重要なステップです。

痔を予防するには

痔は、原因となる生活習慣を改善することで、ある程度予防することが可能です。日頃から意識して取り組むことで、痔になるリスクを減らし、健康な肛門を保ちましょう。

日常生活でできる対策

日常生活の中で少し気をつけるだけで、痔の予防につながることがたくさんあります。

  • 長時間同じ姿勢を避ける: デスクワークや立ち仕事が多い場合は、1時間に1回は休憩を挟み、軽く体を動かしたり、ストレッチをしたりして、血行を促進しましょう。
  • 体を冷やさない: 特に下半身を冷やすと血行が悪くなります。夏場でも冷房の効きすぎに注意し、冬場は温かい服装を心がけましょう。腹巻きや膝掛けなども効果的です。
  • 適度な運動を取り入れる: ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、全身の血行を良くし、腸の働きを活性化させる効果があります。ただし、肛門に強い負担がかかるような激しい運動(長距離サイクリングなど)は、かえっていぼ痔を悪化させる可能性もあるため、注意が必要です。
  • ストレスを溜め込まない: ストレスは自律神経を乱し、便秘や下痢の原因になります。趣味を楽しんだり、休息を十分に取ったりするなど、自分なりの方法でストレスを解消しましょう。
  • おしりを清潔に保つ: 排便後は、優しく拭くか、ウォシュレットを適切に使用して清潔に保ちましょう。ただし、洗いすぎや拭きすぎは皮膚を傷つけたり乾燥させたりする原因になるので逆効果です。

食事と排便習慣の改善

前述の治療法のセルフケアと同様ですが、これらは予防においても非常に重要です。

  • 食物繊維と水分を十分に摂る: 便を柔らかく、スムーズに排出するために不可欠です。意識的に野菜、果物、海藻、きのこなどを食事に取り入れ、こまめに水分補給をしましょう。
  • 規則正しい排便習慣をつける: 毎日同じくらいの時間にトイレに行く習慣をつけましょう。朝食後に便意が起きやすいので、時間に余裕を持つようにすると良いでしょう。便意を感じたら我慢せず、トイレに行きましょう。
  • トイレでいきみすぎない、長居しない: 短時間で自然に排出することを心がけます。

これらの予防策を日々の生活に取り入れることで、痔になるリスクを減らし、健康な肛門を維持することができます。

病院へ行く目安と受診先

「おしりのことで病院に行くのは恥ずかしい」「どのタイミングで病院に行けばいいかわからない」と感じている方もいるかもしれません。しかし、症状を悪化させないため、また痔以外の病気を見逃さないためには、適切なタイミングで専門医を受診することが大切です。

どんな症状なら受診すべき?

以下の症状がある場合は、早めに専門医の診察を受けることを強くお勧めします。

  • 出血がある場合: 特に、出血が続く場合、量が多い場合、黒っぽい血や粘液が混じる場合。
  • 痛みが強い場合: 排便時だけでなく、日常的に強い痛みがある場合。
  • 腫れやしこりが大きい、または急にできた場合: 肛門の周りに硬く痛いしこりができた(血栓性外痔核の可能性)、肛門周囲が大きく腫れて熱を持っている(肛門周囲膿瘍の可能性)。
  • 肛門から膿や分泌物が出る場合: 痔ろうの可能性が高く、手術が必要になります。
  • 市販薬を使っても症状が改善しない、または悪化する場合: 適切な診断と治療が必要な状態かもしれません。
  • 症状がなくても不安がある場合: 検診の意味で一度専門医に診てもらうのも良いでしょう。

「このくらいで病院に行ってもいいのかな?」と迷うような軽微な症状でも、専門医に相談することで、症状が軽い段階で適切なアドバイスや治療を受けられ、重症化を防ぐことができます。恥ずかしがらずに受診しましょう。

肛門科・胃腸科など専門医の重要性

痔の診療を行っているのは、主に「肛門科」を標榜している医療機関です。その他、「胃腸科」「消化器外科」「外科」などでも診療している場合があります。

  • 肛門科専門医: 肛門科を専門としている医師は、肛門や直腸の疾患に関する知識と経験が豊富です。痔の種類や進行度を正確に診断し、その患者さんにとって最も適した治療法(薬物療法、日帰り手術、入院手術など)を提案してくれます。また、痔以外の肛門周辺の病気や、大腸の病気の可能性についても考慮して診察してくれるため、安心して任せることができます。
  • 胃腸科・消化器外科など: これらの科でも痔の診療は可能ですが、専門性は肛門科に劣る場合があります。ただし、消化器全体を診ているため、お腹の症状も同時に相談したい場合や、大腸の病気が心配な場合は、これらの科も選択肢になります。

可能であれば、肛門科を専門としている医療機関を受診することをお勧めします。インターネットで「(お住まいの地域名) 肛門科」と検索すると、専門の医療機関が見つかるでしょう。

まとめ

痔は非常に多くの人が経験する身近な病気ですが、その種類や原因、症状は様々です。いぼ痔、切れ痔、痔ろうの3つが代表的なものであり、それぞれ適切な対処法が異なります。

痔の主な原因は、便秘や下痢といった排便習慣の異常、長時間同じ姿勢でいること、そして女性の場合は妊娠・出産などが挙げられます。これらの原因によって肛門周辺に負担がかかり、痛み、出血、腫れ、脱出、かゆみなどの症状が現れます。

症状が軽度であれば、薬物療法や、食事・排便習慣の見直し、入浴といった生活習慣の改善(セルフケア)で症状を和らげたり、改善したりすることが可能です。しかし、痔は基本的に自然に治る病気ではなく、放置すると症状が悪化したり、治療が難しくなったり、まれに他の重篤な病気が隠れていたりするリスクがあります。特に痔ろうは手術が必須です。

「おしりの悩み」はなかなか人に相談しにくいものですが、一人で悩まず、少しでも気になる症状があれば、早めに専門医(肛門科など)を受診することが大切です。専門医による正確な診断と適切な治療によって、辛い症状から解放され、快適な日常生活を取り戻すことができます。この記事が、おしりの健康について考えるきっかけとなり、適切な対処につながれば幸いです。

【免責事項】

この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の症状に関する診断や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。記事の情報に基づいた行為によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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