インフルエンザは、毎年冬になると多くの人が感染する身近な感染症です。「いつから流行が始まるの?」「感染したら、いつまで学校や会社に行けないの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、インフルエンザの流行時期から、発症後の感染力、外出できる目安、そして予防策まで、「いつから」をキーワードに詳しく解説します。
インフルエンザへの適切な知識を身につけ、来るべき流行シーズンに備えましょう。
インフルエンザの流行はいつから始まる?例年の時期と基準
インフルエンザの例年の流行時期
インフルエンザは、季節性インフルエンザとして毎年冬季に流行を繰り返します。
一般的に、日本では12月頃から発生件数が増加し始め、翌年の1月から2月にかけてピークを迎えることが多いです。
その後、3月にかけて徐々に減少し、春先には収束に向かうのが例年の傾向です。
ただし、その年のウイルスの種類や流行の状況によって、流行開始時期やピーク時期は多少前後することがあります。
流行開始の定義と基準(定点あたりの報告数)
インフルエンザの流行は、全国約5,000カ所の「定点医療機関」からの患者報告数を集計することで把握されています。
厚生労働省は、この定点あたりの1週間の患者報告数が「1.00」を超えた場合に、地域的な流行が始まったと判断します。
この基準は、その地域におけるインフルエンザ患者の発生状況が、単発的な発生から継続的な広がりへと変化したことを示唆しています。
さらに、定点あたりの報告数が「10.00」を超えると注意報レベル、「30.00」を超えると警報レベルとなり、より広範囲での流行拡大や重症化リスクの増加が懸念されます。
これらの基準値は、インフルエンザサーベイランスと呼ばれる監視体制に基づいており、国民への注意喚起や医療機関での対応準備の目安となっています。
インフルエンザA型・B型の流行時期の違い
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型がありますが、例年流行の主体となるのはA型とB型です。
これらの型によって、流行のピーク時期に若干の違いが見られることがあります。
一般的に、インフルエンザA型が先に流行し、1月頃にピークを迎えることが多い傾向にあります。
A型は比較的感染力が強く、大規模な流行を引き起こしやすい特徴があります。
一方、インフルエンザB型は、A型の流行が一服した後の2月から3月にかけて流行のピークを迎える傾向があります。
B型はA型に比べて症状がやや軽い場合もありますが、子どもを中心に集団感染を引き起こすこともあります。
同じシーズン中にA型とB型の両方に感染する可能性もゼロではありません。
そのため、A型が流行した後も油断せず、引き続き感染予防策を続けることが重要です。
日本における過去のインフルエンザ流行
日本のインフルエンザ流行は、過去のデータを見ると毎年変動があります。
例えば、特定の年にA型の新型ウイルスが出現した場合は、例年より早く流行が始まったり、規模が大きくなったりすることがあります。
また、過去にはパンデミックと呼ばれる世界的な大流行が何度も発生しており、国内でも大きな影響が出ました。
例えば、2009年には新型インフルエンザ(H1N1pdm09)が世界的に流行し、日本では春先に流行が始まりました。
通常の季節性インフルエンザとは異なる時期に流行した例です。
近年では、COVID-19パンデミック中の感染対策の影響で、インフルエンザの流行規模が例年より小さくなったシーズンもありました。
しかし、感染対策の緩和に伴い、再び例年通りの、あるいはそれを上回る規模の流行が懸念されています。
過去の流行パターンを知ることは、その年の流行を予測し、適切な対策を講じる上で参考になりますが、ウイルスの変異や社会状況によって流行の仕方は変化することを理解しておく必要があります。
最新の情報は、厚生労働省や国立感染症研究所などの公式発表で確認することが推奨されます。
インフルエンザは発症後いつまで感染力がある?
インフルエンザにかかった場合、自分がいつまで他の人に感染させる可能性があるのかを知ることは、感染拡大を防ぐ上で非常に重要です。
インフルエンザの感染力が強い期間
インフルエンザウイルスの排出量、すなわち感染力の強さは、発症からの時間経過によって変化します。
一般的に、インフルエンザの感染力が最も強いのは、発症した日の前日から、症状が出てから3日目くらいまでと言われています。
特に、高熱が出ている間は、ウイルスが最も多く体外に排出されやすい状態です。
この期間は、咳やくしゃみによってウイルスを含んだ飛沫が飛び散りやすく(飛沫感染)、またウイルスが付着したものを触った手で目や鼻、口を触ることで感染が広がりやすくなります(接触感染)。
発症後4日目以降も感染力は残っていますが、徐々に低下していくと考えられています。
しかし、完全に感染力が消失するまでには、発症から7日から10日程度かかる場合もあります。
特に、子どもは大人よりもウイルスの排出期間が長い傾向があるため、注意が必要です。
インフルエンザの潜伏期間
インフルエンザウイルスに感染してから、熱や咳、全身のだるさといった症状が現れるまでの期間を「潜伏期間」といいます。
インフルエンザの潜伏期間は、典型的には1日から3日程度とされています。
この潜伏期間中にも、ウイルスの排出が始まっている可能性があります。
特に発症の直前(数時間〜1日前)からは感染力を持つと考えられており、症状が出る前に周囲の人に感染させてしまうリスクがある点に注意が必要です。
これが、インフルエンザが知らない間に広がってしまう一因でもあります。
潜伏期間が短いと、症状が現れてからすぐに感染を広げる可能性が高まります。
そのため、周囲でインフルエンザが流行し始めたら、症状がなくても手洗いやマスク着用などの予防策を徹底することが大切です。
インフルエンザにかかったらいつから外出できる?期間の目安
インフルエンザにかかった場合、いつから通常の生活に戻って良いのかは、多くの人が疑問に思う点です。
学校や会社など、場所によって対応が異なる場合もあります。
インフルエンザ発症後の一般的な外出目安
インフルエンザにかかった人がいつから外出しても良いかについては、感染力を考慮して判断する必要があります。
最も基本的な考え方は、熱が下がってからもしばらくは自宅で療養し、感染力が十分弱まってから外出するというものです。
一般的に、発症後少なくとも5日間は自宅での療養が推奨されます。
加えて、熱が下がった後も、少なくとも2日間(幼児においては3日間)は自宅で休むことが望ましいとされています。
これは、解熱後もしばらくは感染力が残っているためです。
例えば、月曜日に発症して火曜日に熱が下がった場合、木曜日(幼児なら金曜日)までは自宅で休むのが目安となります。
ただし、個人の回復状況や症状の程度には差があります。
全身のだるさや咳などの症状が続いている場合は、無理せず十分に回復するまで外出を控えることが大切です。
自己判断が難しい場合は、必ず医師に相談して指示を仰ぎましょう。
学校・幼稚園・保育園の出席停止期間
学校、幼稚園、保育園などの子どもたちが集まる場所では、インフルエンザの集団感染を防ぐために、学校保健安全法によって出席停止期間が明確に定められています。
インフルエンザによる出席停止期間は、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」とされています。
- 「発症した後5日を経過」:症状が現れた日を「0日目」として数え、そこから5日間(0日目、1日目、2日目、3日目、4日目)が経過し、5日目以降であること。
- 「解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過」:熱が完全に下がった日を「0日目」として数え、そこから2日間(幼児は3日間)が経過し、その後の日数であること。
この両方の条件を満たしてから初めて登校・登園が可能になります。
例えば、1月1日に発症し、1月3日に解熱した場合:
発症後5日経過:1月6日(1日発症=0日目、2日=1日目、3日=2日目、4日=3日目、5日=4日目、6日=5日目)
解熱後2日経過(小学生以上):1月5日(3日解熱=0日目、4日=1日目、5日=2日目)
この場合、両方の条件を満たすのは1月6日なので、1月6日から登校可能となります。
これが幼児(幼稚園・保育園児など)の場合は、解熱後3日経過が必要なので、1月6日(3日解熱=0日目、4日=1日目、5日=2日目、6日=3日目)となり、やはり1月6日から登園可能となります。
出席停止期間は、学校や園に提出する「治癒証明書」や「登園許可証」で確認されることが一般的です。
医療機関で診断を受けた際に、医師に指示を仰ぎ、必要な書類を用意しましょう。
会社への出勤停止期間
会社においては、学校のような明確な法律による「出勤停止期間」の定めはありません。
しかし、感染拡大を防ぐという観点から、多くの場合、学校保健安全法に準じて「発症後5日を経過し、かつ、解熱後2日を経過するまで」を自宅療養期間の目安としている企業が多いです。
会社の就業規則や内規でインフルエンザ罹患時の取り扱いが定められている場合があるため、会社の規定を確認することが重要です。
また、個人差はありますが、インフルエンザは解熱後も全身の倦怠感や咳、鼻水などの症状が続くことがあります。
無理をして出勤すると、体力的な負担が大きいだけでなく、周囲への感染リスクも完全にゼロではありません。
自身の回復状況や、業務内容、職場の環境なども考慮し、十分に回復してから復帰することが望ましいでしょう。
復帰にあたっては、医師の診断書や企業の指定する書類が必要になる場合もありますので、事前に人事担当者などに確認しておきましょう。
インフルエンザの予防策はいつから始めるべき?
インフルエンザにかからないためには、流行が始まる前に適切な予防策を講じることが非常に重要です。
インフルエンザワクチン接種の推奨時期
インフルエンザワクチンは、インフルエンザに感染した場合の重症化や合併症の発症リスクを軽減する効果が期待できます。
ワクチンの効果が現れるまでには、接種から通常2週間程度かかります。
また、ワクチンの効果が持続するのは約5ヶ月程度とされています。
このため、インフルエンザの流行が例年12月頃から始まることを考慮すると、遅くとも12月中旬までには接種を完了しておくことが推奨されます。
具体的には、10月下旬から11月中旬にかけて接種を受けるのが最も効果的と考えられています。
特に、高齢者、基礎疾患のある方、妊婦、乳幼児などはインフルエンザにかかると重症化しやすいリスクがあるため、早めの接種が強く推奨されます。
医療機関によっては予約が必要な場合や、ワクチンの供給量に限りがある場合もありますので、早めに医療機関に問い合わせて計画的に接種を受けましょう。
また、インフルエンザウイルスは毎年流行する型が予測されるため、ワクチンもその予測に基づいて製造されます。
そのため、毎年流行シーズン前に新しいワクチンを接種することが必要です。
その他のインフルエンザ予防策
インフルエンザ予防は、ワクチン接種だけでなく、日頃からの感染対策の積み重ねが大切です。
流行シーズンに入る前から、あるいは流行が始まったらすぐに、以下の予防策を徹底しましょう。
1. 正しい手洗い
インフルエンザウイルスは、手や指に付着した状態で、口、鼻、目などの粘膜に触れることで体内に入り込み感染します。
そのため、手洗いは最も基本的な、かつ効果的な予防策の一つです。
正しい手洗い方法:
- 流水で石鹸を十分泡立て、手のひら、手の甲、指の間、指先、爪の間、手首まで、念入りに洗います。
- 特に指先や爪の間は汚れが残りやすい部分なので、意識して洗いましょう。
- 洗い終わったら、清潔なタオルやペーパータオルで水分をしっかり拭き取ります。
- 洗う時間の目安は、石鹸を使って15秒以上、流水で15秒以上かけて、合計30秒程度行うのが理想です。
手洗いをするタイミング:
- 外出から帰宅した後
- 食事の前
- 咳やくしゃみ、鼻をかんだ後
- 公共の場所(電車、バス、商業施設など)に触れた後
- 調理をする前
2. 適切な湿度の維持
空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、ウイルスに感染しやすくなります。
また、インフルエンザウイルスは低温低湿の環境で長く生存すると言われています。
室内の湿度を50%~60%程度に保つことが、インフルエンザ予防に効果的です。
加湿器を使用したり、濡らしたタオルを干したりすることで湿度を調整しましょう。
ただし、加湿器の清掃を怠ると雑菌が繁殖し、かえって健康を害する場合があるので、こまめな手入れが必要です。
3. 咳エチケット
咳やくしゃみをする際は、ウイルスを含んだ飛沫が周囲に飛び散り、感染を広げる可能性があります。
自分が感染源にならないために、咳エチケットを心がけましょう。
咳エチケットのポイント:
- 咳やくしゃみをする時は、ティッシュなどで口と鼻をしっかり覆います。
- 使用したティッシュはすぐにゴミ箱に捨て、手を洗いましょう。
- ティッシュがない場合は、袖や肘の内側で口と鼻を覆います。
- 手のひらで口や鼻を覆うのは、手からウイルスが広がる可能性があるため避けましょう。
- 咳やくしゃみの症状がある場合は、積極的にマスクを着用しましょう。
4. マスクの着用
マスクは、咳やくしゃみによる飛沫の飛散を防ぐ効果があります。
自分が感染している可能性がある場合に、周囲に感染を広げないために有効です。
また、人混みなど感染リスクが高い場所では、自分がウイルスを吸い込むリスクを減らす効果も期待できます。
マスク着用のポイント:
- 顔の形にフィットさせ、鼻から顎までしっかり覆うように着用します。
隙間があると効果が低下します。 - 不織布マスクが推奨されます。
- 一度使用したマスクは、表面にウイルスが付着している可能性があるため、安易に触ったり再利用したりせず、適切に捨てましょう。
- マスクを外す際は、ゴムの部分を持って外すようにし、外した後は手洗いをしましょう。
5. 十分な休養と栄養
体の抵抗力(免疫力)が低下していると、インフルエンザにかかりやすくなります。
日頃からバランスの取れた食事を心がけ、十分な睡眠をとることで、免疫力を維持・向上させることが重要です。
疲労や睡眠不足は、免疫力を大きく低下させます。
6. 人混みや繁華街への外出を控える
インフルエンザが流行している時期は、人が多く集まる場所では感染リスクが高まります。
可能な限り、人混みを避けるようにしましょう。
やむを得ず人混みに行く場合は、マスクを着用するなどの対策を忘れずに行いましょう。
7. 適度な運動と体を温めること
適度な運動は全身の血行を促進し、免疫細胞の働きを活性化させることが期待できます。
また、体を冷やさないようにすることも大切です。
体温が低下すると免疫力が下がると言われています。
これらの予防策を組み合わせて実践することで、インフルエンザにかかるリスクを大幅に減らすことができます。
流行シーズン中は特に意識して取り組みましょう。
インフルエンザに関するその他の疑問
インフルエンザについては、他にも様々な疑問があるかもしれません。
ここでは、特によくある疑問について解説します。
一度インフルエンザにかかると免疫はつくのか?
インフルエンザにかかると、その時に感染したインフルエンザウイルスの型(例えば、A香港型2023-2024シーズン株)に対する免疫が体内にできます。
そのため、同じシーズン中に同じ型のウイルスに再び感染することは稀です。
しかし、インフルエンザウイルスは毎年少しずつ形を変える(抗原変異)性質を持っています。
また、インフルエンザA型、B型、さらにそれぞれの型の中にも複数の亜型や系統が存在します。
一度A型にかかったとしても、別の亜型のA型や、B型に対する免疫はできていないため、同じシーズン中に異なる型のインフルエンザに再びかかる可能性はあります。
インフルエンザワクチンは、そのシーズンに流行が予測される複数の型のウイルス(通常、A型2種類、B型2種類)に対応できるように作られています。
ワクチンを接種することで、これらの予測された型に対する免疫を獲得し、感染予防や重症化予防につなげることができます。
毎年インフルエンザにかかる可能性があるのは、ウイルスの変異によって過去に得た免疫が効きにくくなることや、複数の型のウイルスが同時に流行することなどが理由です。
インフルエンザが根絶できない理由
インフルエンザは、COVID-19のようにパンデミックを起こすこともありますが、麻疹や天然痘のように世界から根絶することが難しい感染症です。
その理由にはいくつかの要因があります。
- ウイルスの変異: インフルエンザウイルス、特にA型は常に少しずつ遺伝子を変化させていく性質(抗原ドリフト)や、異なるウイルスの遺伝子が混ざり合う性質(抗原シフト)を持っています。
これにより、人間の免疫から逃れたり、新たな型のウイルスが出現したりするため、過去の感染やワクチンによる免疫が効きにくくなります。 - 動物への感染: インフルエンザウイルスは、鳥や豚などの動物にも感染します。
これらの動物の体内でウイルスが変異したり、異なるウイルスが混ざり合ったりして、新たな人間に感染する能力を持ったウイルスが生まれることがあります。
これが新型インフルエンザの発生源となる可能性があります。
人から人への感染サイクルだけでなく、動物を介したウイルスの供給があるため、根絶が困難です。 - 不顕性感染や軽症: 感染しても症状が出ない(不顕性感染)人や、症状が非常に軽い人もいます。
これらの人は気づかないうちにウイルスを排出している可能性があり、感染拡大を防ぐのが難しくなります。 - 潜伏期間中の感染力: 前述の通り、症状が出る前の潜伏期間中にも感染力があるため、発症を確認してから対策を始めても、既にウイルスが広がっていることがあります。
- 広範な感染経路: 飛沫感染、接触感染といった、日常生活で起こりやすい感染経路が主なため、完全に遮断することが困難です。
これらの要因が複合的に作用するため、インフルエンザウイルスを地球上から根絶することは現状では極めて難しいと考えられています。
そのため、私たちは毎年、流行に備え、予防策を講じる必要があります。
インフルエンザの症状、風邪との違いは?
インフルエンザと一般的な風邪は、どちらも呼吸器系の感染症であり、症状が似ていることも多いですが、いくつか重要な違いがあります。
- 発症の仕方: 風邪は比較的ゆっくりと症状が現れることが多いのに対し、インフルエンザは急に38℃以上の高熱が出たり、悪寒を伴ったりするなど、突発的に全身症状が現れるのが特徴です。
- 全身症状: インフルエンザでは、鼻水や喉の痛みといった局所的な症状に加えて、全身の倦怠感、筋肉痛、関節痛、頭痛といった全身症状が強く現れることが多いです。
風邪でもこれらの症状が出ることはありますが、インフルエンザほど強くないことが一般的です。 - 合併症: インフルエンザは、肺炎、気管支炎、中耳炎、インフルエンザ脳症、心筋炎といった重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。
特に、高齢者や小さなお子さん、基礎疾患(慢性呼吸器疾患、心疾患、糖尿病など)がある方は重症化しやすいため注意が必要です。
風邪が重症化して肺炎などを起こすこともありますが、インフルエンザの方がそのリスクは高いと言えます。 - 原因ウイルス: 風邪の原因となるウイルスは200種類以上あるとされていますが、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって引き起こされます。
- 治療法: 風邪に対する特効薬はありませんが、インフルエンザにはウイルスの増殖を抑える抗インフルエンザ薬があります。
発症から48時間以内に服用を開始することで、症状の軽減や罹病期間の短縮効果が期待できます。
これらの違いから、急な高熱や強い全身症状が現れた場合は、インフルエンザの可能性を疑い、早めに医療機関を受診して診断を受けることが重要です。
インフルエンザの診断方法
インフルエンザが疑われる場合、医療機関では主に以下の方法で診断が行われます。
- 問診と診察: 医師が患者さんの症状(発熱の経過、全身のだるさ、関節痛など)や、周囲の流行状況などを詳しく聞き取り、喉の様子などを診察します。
- 迅速診断キット: インフルエンザの診断で最も一般的に用いられるのが、鼻や喉の粘液を採取してウイルス抗原を検出する迅速診断キットです。
この検査は、通常10分〜15分程度で結果が出ます。
ただし、発症からの時間が短すぎたり、ウイルスの量が少なかったりする場合は、感染していても陰性(偽陰性)と出る可能性があるため、結果が陰性でも臨床症状からインフルエンザと診断される場合や、時間をおいて再検査を行う場合があります。 - その他の検査: 必要に応じて、血液検査や胸部X線検査などが行われることもあります。
特に合併症が疑われる場合などに実施されます。
迅速診断キットは、インフルエンザ治療薬の効果が発症後48時間以内の服用で最も期待できるため、早期診断のために非常に有用です。
しかし、キットの結果だけでなく、医師の総合的な判断によって診断が下されることを理解しておきましょう。
インフルエンザの治療方法
インフルエンザと診断された場合、主に抗インフルエンザ薬による治療と対症療法が行われます。
抗インフルエンザ薬
インフルエンザウイルスの増殖を抑える薬で、症状が出現してから48時間以内に服用を開始すると、発熱期間の短縮や症状の軽減に効果が期待できます。
主な抗インフルエンザ薬には以下のような種類があります。
- オセルタミビル(タミフル®など): 内服薬。
1日2回、5日間服用します。
A型、B型の両方に有効です。
小児から成人まで広く使われています。 - ザナミビル(リレンザ®など): 吸入薬。
1日2回、5日間吸入します。
A型、B型の両方に有効です。
主に5歳以上の小児と成人が対象です。
吸入器の操作が必要です。 - ラニナミビル(イナビル®など): 吸入薬。
通常、成人・小児ともに1回で治療が完了します。
A型、B型の両方に有効です。
吸入器の操作が必要です。 - ペラミビル(ラピアクタ®など): 点滴薬。
通常、成人・小児ともに1回で治療が完了します。
A型、B型の両方に有効です。
内服や吸入が難しい場合などに用いられます。 - バロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ®など): 内服薬。
通常、成人・小児ともに1回で治療が完了します。
A型、B型の両方に有効です。
耐性ウイルスの問題が指摘されることもありますが、有効な選択肢の一つです。
どの薬を使用するかは、年齢、基礎疾患、症状、ウイルスの種類、地域の流行状況などを考慮して医師が判断します。
医師の指示通りに最後まで服用することが重要です。
自己判断で服用を中断したり、量を調節したりしないでください。
対症療法
抗インフルエンザ薬はウイルスの増殖を抑える薬であり、症状を直接抑える効果は限定的です。
そのため、熱や痛み、咳などの症状がつらい場合には、それぞれの症状を和らげるための対症療法も行われます。
- 解熱鎮痛薬: 高熱や頭痛、関節痛などに対して使用されます。
アセトアミノフェンなどが推奨されます。
ただし、インフルエンザの時にアスピリンなどのサリチル酸系の解熱鎮痛薬を使用すると、ライ症候群という重篤な病気を引き起こす可能性があるため、特に子どもには絶対に使用してはいけません。 - 鎮咳薬・去痰薬: 咳や痰を和らげるために使用されます。
- 鼻炎薬: 鼻水や鼻づまりを和らげるために使用されます。
対症療法も、使用する薬の種類や量は医師の指示に従ってください。
また、治療の基本として、十分な水分補給と安静が非常に重要です。
脱水を防ぎ、体がウイルスと戦うためのエネルギーを温存するためにも、しっかりと休息を取りましょう。
無理に活動すると、回復が遅れたり、合併症のリスクが高まったりする可能性があります。
インフルエンザの合併症と特に注意が必要な人
インフルエンザは単なる「重い風邪」ではなく、時に命に関わる重篤な合併症を引き起こすことがあります。
特に注意が必要なのは以下のような人たちです。
- 高齢者(65歳以上): 免疫機能が低下しているため、肺炎などの合併症を起こしやすく、重症化や死亡のリスクが高いです。
- 乳幼児(特に5歳未満): 免疫機能が未熟な上、気道が狭く炎症を起こしやすいため、重症化やインフルエンザ脳症を起こすリスクがあります。
- 基礎疾患のある人: 慢性呼吸器疾患(COPD、喘息など)、心疾患、腎疾患、糖尿病、免疫抑制状態にある人(ステロイド治療中、抗がん剤治療中、HIV感染者など)、神経疾患など、持病がある人はインフルエンザにかかると病状が悪化したり、肺炎などの合併症を起こしやすくなります。
- 妊婦: 妊娠中は免疫の状態が変化するため、インフルエンザにかかると重症化しやすいことが知られています。
また、妊娠中にインフルエンザにかかると、早産や低出生体重児のリスクが高まる可能性も指摘されています。
インフルエンザの主な合併症には以下のようなものがあります。
- 肺炎: ウイルス性肺炎や、細菌の二次感染による細菌性肺炎が多く見られます。
インフルエンザによる死亡の主な原因の一つです。 - インフルエンザ脳症: 特に乳幼児に起こりやすい重篤な合併症で、意識障害や痙攣などが起こり、後遺症が残ったり命に関わったりすることがあります。
- 気管支炎: 気管や気管支の炎症です。
- 中耳炎: 特に小児で起こりやすい合併症です。
- 心筋炎、心膜炎: 心臓の筋肉や膜に炎症が起こる稀ながら重篤な合併症です。
これらのリスクが高い人たちは、インフルエンザにかからないための予防策(ワクチン接種、手洗い、人混みを避けるなど)を徹底すること、そして、インフルエンザにかかった場合は早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが非常に重要です。
また、周囲の人も、これらのハイリスクの人たちにインフルエンザをうつさないように注意する必要があります。
妊婦や授乳婦のインフルエンザ
妊婦さんは、インフルエンザにかかると非妊娠時よりも重症化しやすいことが知られています。
そのため、妊娠中はインフルエンザワクチン接種が強く推奨されています。
妊娠週数に関わらず、接種可能です。
妊娠中にインフルエンザにかかってしまった場合、医師の判断のもとで抗インフルエンザ薬による治療が行われます。
妊娠経過や赤ちゃんの健康への影響を考慮して、安全性が確認されている薬が選択されます。
自己判断で市販の風邪薬などを服用することは避け、必ず医師に相談してください。
授乳中の場合も、抗インフルエンザ薬の中には授乳婦に使用できるものがあります。
服用する薬が母乳移行するかどうか、赤ちゃんへの影響はどうかなど、医師と相談して適切な治療法を選択します。
インフルエンザにかかった母親からの授乳自体は、マスク着用や手洗いなどの感染対策をしっかり行えば、一般的には問題ないとされていますが、体調が非常に悪い場合は一時的に搾乳に切り替えるなども検討できるでしょう。
【まとめ】インフルエンザの流行に備え、いつから予防を始める?
インフルエンザは、例年12月頃から流行が始まり、1月から2月にかけてピークを迎える季節性の感染症です。
流行の始まりは、定点あたりの患者報告数が1.00を超えた時点と定義されています。
A型が先に、B型が後から流行する傾向が見られます。
インフルエンザウイルスに感染してから症状が出るまでの潜伏期間は1〜3日程度です。
感染力が最も強いのは、発症した日の前日から症状が出てから3日目くらいまでと考えられています。
インフルエンザにかかったら、他の人への感染を防ぐために外出を控える必要があります。
学校では、発症後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児は3日)を経過するまでが出席停止期間として定められています。
会社もこれに準じることが多いですが、会社の規定を確認しましょう。
一般的な外出目安としても、同様に解熱後しばらくは自宅で休むことが推奨されます。
インフルエンザの予防策は、流行が本格化する前に始めることが重要です。
特にインフルエンザワクチンは、流行前の10月下旬から11月中旬にかけて接種を完了するのが効果的です。
その他の予防策として、流行シーズンに入ったら、あるいは始まる前から以下の対策を徹底しましょう。
- 正しい手洗い(外出後、食事前など)
- 適切な湿度(50-60%)の維持
- 咳エチケット
- マスクの着用(特に症状がある場合や人混み)
- 十分な休養と栄養
- 人混みを避ける
- 適度な運動と保温
- こまめな換気
インフルエンザは重症化するリスクもあるため、急な高熱や強い全身症状がある場合は、早めに医療機関を受診して診断と治療を受けることが大切です。
特に高齢者、小さなお子さん、基礎疾患のある方、妊婦さんは重症化しやすいので注意が必要です。
インフルエンザウイルスは変異しやすく、動物も宿主となるため根絶が困難な感染症です。
毎年流行の可能性があり、一度かかっても別の型に感染するリスクがあります。
これらの情報を参考に、今年のインフルエンザ流行シーズンに向けて、いつからどのような予防策を講じるかを計画し、適切に対応しましょう。
【免責事項】
本記事は、インフルエンザに関する一般的な情報提供を目的として作成されたものです。
個々の症状や健康状態に関するご相談は、必ず医療機関を受診し、医師の診断や指示に従ってください。
本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じた損害については、一切の責任を負いかねます。
情報は作成時点のものであり、時間経過や新たな知見によって変更される可能性があります。
最新の情報は、厚生労働省や国立感染症研究所などの公式機関の発表をご確認ください。