おたふく風邪(流行性耳下腺炎)は、子供がかかる病気というイメージが強いかもしれませんが、大人も感染することがあり、子供とは異なる特徴やリスクがあります。
特に初期症状は他の病気と区別がつきにくいため、早期に適切に対応することが重要です。
この記事では、おたふく風邪の初期症状に焦点を当て、子供と大人それぞれの特徴、熱がない場合のケース、他の病気との見分け方、そして感染が疑われる場合の適切な対処法について詳しく解説します。
おたふく風邪に関する正確な情報を知り、いざという時に慌てず対応できるよう、ぜひ参考にしてください。
おたふく風邪は、ムンプスウイルスというウイルスによって引き起こされる感染症です。正式には「流行性耳下腺炎」と呼ばれ、主に耳の下にある耳下腺が腫れるのが特徴です。唾液腺である耳下腺のほか、顎下腺や舌下腺といった他の唾液腺が腫れることもあります。
潜伏期間と感染経路
おたふく風邪の潜伏期間は比較的長く、ウイルスに感染してから症状が現れるまでに約2週間から3週間かかります。この期間は個人差があり、2週間よりも早く症状が出たり、3週間以上経ってから症状が出たりすることもあります。
感染経路は主に飛沫感染と接触感染です。
- 飛沫感染: 感染している人が咳やくしゃりをした際に飛び散るウイルスを含んだ飛沫を、近くにいる人が吸い込むことで感染します。
- 接触感染: 感染している人の鼻水や唾液などが付着した物に触れた後、その手で目や鼻、口を触ることで感染します。保育園や幼稚園、学校など、集団生活の場で広がりやすいのはこのためです。
発症の仕組み:耳下腺などの腫れ
体内に入ったムンプスウイルスは、まず上気道の粘膜で増殖します。その後、ウイルスは血液に乗って全身に運ばれ、特に耳下腺、顎下腺、舌下腺といった唾液を分泌する腺組織に感染します。これらの組織でウイルスが活発に増殖することで炎症が起こり、特徴的な腫れや痛みを引き起こします。耳下腺は耳の前下方にある大きな唾液腺で、ここに炎症が起きると、押したり口を動かしたりした時に強い痛みを感じることがあります。通常は片側から腫れ始め、数日後にもう片方も腫れることが多いですが、片側だけ腫れて終わるケースや、同時に両側が腫れるケースもあります。
おたふく風邪の主な初期症状
おたふく風邪の初期症状は、人によって、また年齢によっても様々です。典型的な症状としては、耳の下の腫れと痛み、そして発熱が挙げられます。しかし、これらの症状がすべて揃うわけではなく、中には特徴的な腫れがない、あるいは熱が出ないといった非典型的な経過をたどることもあります。
耳の下(耳下腺)の腫れと痛み
おたふく風邪の最も特徴的で多くの人が経験する初期症状は、耳の下(耳下腺)の腫れと痛みです。この腫れは、触ると少し硬く感じられ、押すと痛みを伴います。片側の耳下腺から腫れ始めることが多く、次第にもう片方も腫れてくることが典型的です。しかし、片側だけ腫れて終わるケースも少なくありません。
腫れは、最初は少しプクッとしている程度でも、数日のうちにゴルフボール大や鶏卵大にまで大きくなることがあります。腫れのピークは発症後2~3日目で、その後1週間から10日程度で徐々に引いていきます。この腫れのために、口を開けにくくなったり、食べ物を噛むときに痛みを感じたりすることもあります。特に、唾液の分泌を促すような酸っぱいものを食べたときに痛みが強くなる傾向があります。
耳下腺だけでなく、顎の下(顎下腺)や舌の下(舌下腺)といった他の唾液腺が腫れることもあります。これらの腺の腫れは、耳下腺の腫れほど目立たないこともありますが、同様に痛みを伴うことがあります。
発熱について:熱の高さと期間
おたふく風邪では発熱も比較的よく見られる初期症状の一つです。熱が出る場合の体温は、個人差が大きいですが、微熱程度のこともあれば、38℃以上の高熱が出ることもあります。発熱期間も様々で、数日で熱が下がる人もいれば、1週間近く熱が続く人もいます。
ただし、注意が必要なのは、おたふく風邪にかかっても必ずしも発熱するわけではないということです。特に子供の場合、熱が出ずに耳下腺の腫れだけが見られるケースや、腫れもほとんどなく無症状(不顕性感染)で終わるケースも少なくありません。後述する「熱なし・軽症例」については、特に子供でよく見られます。
発熱がある場合は、頭痛や全身のだるさといった症状を伴うことが多く、食欲不振につながることもあります。
その他の初期症状(頭痛、のどの痛みなど)
耳下腺の腫れや発熱に加えて、おたふく風邪の初期には以下のような非特異的な症状が見られることもあります。これらの症状は風邪や他の感染症でも見られるため、おたふく風邪だと気づきにくい場合があります。
- 頭痛: 特に発熱を伴う場合によく見られます。
- のどの痛み: 飲み込むときに痛みを感じることがあります。
- 倦怠感: 全身がだるく、疲れやすいと感じます。
- 食欲不振: 熱やのどの痛み、口を開けにくいことから食事が摂りにくくなることがあります。
- 筋肉痛: 体の節々が痛むことがあります。
- 吐き気や嘔吐: 特に大人の場合や、合併症である髄膜炎を併発した場合に見られることがあります。
- 腹痛: まれに膵炎を合併した場合などに腹痛が見られることがあります。
これらの症状は、耳下腺の腫れや発熱よりも先に現れることもあれば、同時に現れることもあります。複数の症状が組み合わさることで、おたふく風邪の可能性を考えるきっかけとなります。
子供のおたふく風邪 初期症状の特徴
子供がおたふく風邪にかかった場合、一般的には比較的軽い症状で済むことが多いとされています。しかし、子供の年齢や体質、免疫状態によって症状の程度は大きく異なります。
子供の腫れ方や痛みの程度
子供のおたふく風邪で最もよく見られる初期症状は、やはり耳の下の腫れです。これは親御さんが気づく最も特徴的なサインと言えるでしょう。子供の場合、腫れが出始める前に「耳が痛い」「あごが痛い」などと訴えることがあります。腫れは片側から始まることが多いですが、子供によっては両側がほぼ同時に腫れることもあります。
腫れの大きさは、先述の通り様々ですが、見た目にもはっきりとわかる程度になることがほとんどです。触ると少し硬く、子供が痛がることが多いです。特に、食事の時や口を大きく開けた時に痛みが強くなるため、食欲が落ちたり、食事を嫌がったりすることがあります。酸っぱいものや、しっかり噛む必要のある硬い食べ物は痛みを増強させやすいため、避けた方が良いでしょう。
子供は痛みをうまく言葉で表現できないこともあるため、「なんとなく機嫌が悪い」「食事中に口を触る」などの様子から、親御さんが耳下腺のあたりを確認して腫れに気づくこともあります。
子供の熱なし・軽症例
子供のおたふく風邪の特徴として、熱が出ないケースや、症状が非常に軽い(軽症例)ケースが少なくないことが挙げられます。全体の約30%〜40%は、耳下腺の腫れもほとんどなく、気づかないうちに感染している「不顕性感染」だと言われています。
熱が出なくても耳下腺が腫れることは十分にありますし、腫れも軽微で痛みもほとんどない、あるいは短期間で症状が消失してしまうといった経過をたどる子供もいます。これらの軽症例や不顕性感染の場合、周囲の大人はおたふく風邪にかかっていることに気づかないまま、他の人に感染を広げてしまうリスクがあります。特に、おたふく風邪の予防接種を受けていない子供や、一度接種していても免疫が十分にできていない子供は注意が必要です。
軽症であってもウイルスは排出されているため、感染対策は必要です。学校や幼稚園によっては、耳下腺の腫れが基準となるため、熱がなくても腫れがあれば出席停止となることが一般的です。
大人のおたふく風邪 初期症状の特徴
子供の頃におたふく風邪にかからなかった、あるいは予防接種を受けていない大人がおたふく風邪にかかると、子供に比べて症状が重くなりやすい傾向があります。また、重篤な合併症を引き起こすリスクも高まります。
大人の症状が重くなるリスク
大人がおたふく風邪にかかった場合、子供よりも発熱が高くなり、耳下腺の腫れや痛みが強く出ることが多いです。倦怠感や全身の筋肉痛なども強く現れ、日常生活に支障をきたすほどの症状になることも少なくありません。回復にも時間がかかり、症状が長引く傾向があります。
子供の頃におたふく風邪にかかった記憶がない、または予防接種を受けていないという大人は、感染リスクと重症化リスクを理解しておくことが重要です。特に思春期以降の男性は、後述する合併症のリスクが高まるため、より注意が必要です。
合併症について(睾丸炎、卵巣炎、髄膜炎など)
大人がおたふく風邪にかかった場合に最も注意すべきは、様々な合併症を引き起こすリスクが高いことです。合併症は、ムンプスウイルスが唾液腺以外の様々な臓器にも感染することで起こります。特に以下の合併症は成人男性や女性で問題となることがあります。
- 睾丸炎(精巣炎): 思春期以降の男性が罹患した場合の合併症として最もよく知られています。約20%~40%の男性が発症すると言われています。症状は、発熱(通常39℃以上)、睾丸の痛み、腫れです。通常は片側のみですが、両側に起こることもあります。睾丸炎は強い痛みを伴い、症状は1週間程度続くことが多いです。炎症が強く起こった場合、精子の形成に影響が出て、将来的に不妊の原因となる可能性も指摘されています。
- 卵巣炎: 成人女性が罹患した場合にまれに見られる合併症です。症状は、腹痛などです。睾丸炎ほど頻度は高くありませんが、不妊のリスクもゼロではありません。
- 無菌性髄膜炎: ムンプスウイルスが脳や脊髄を覆う髄膜に感染して炎症を起こす合併症で、おたふく風邪の合併症としては最も頻度が高いものの一つです(罹患者の約1%〜10%)。子供にも大人にも起こりますが、大人の方が症状が強く出やすい傾向があります。主な症状は、強い頭痛、首の後ろの硬直(項部硬直)、吐き気、嘔吐です。通常は予後良好で数日で回復することが多いですが、入院が必要となることもあります。
- 難聴: ムンプスウイルスが内耳に感染することで起こる合併症です。特に片側の耳に起こることが多く、突然の難聴として現れます。一度発症すると回復が難しく、永続的な難聴となるリスクがあります。頻度は低いですが、重要な合併症です。
- 膵炎: ムンプスウイルスが膵臓に感染して炎症を起こす合併症です。症状は、上腹部の強い痛み、吐き気、嘔吐などです。通常は軽症で済みますが、まれに重症化することもあります。
- 脳炎: 頻度は非常にまれですが、ムンプスウイルスが脳そのものに感染して炎症を起こすと、けいれん、意識障害などの重篤な症状を引き起こし、命に関わることもあります。
合併症の種類 | 主な症状 | 主な対象者 | 頻度(おたふく風邪罹患者全体に対し) | 特記事項 |
---|---|---|---|---|
睾丸炎(精巣炎) | 睾丸の痛み、腫れ、高熱 | 思春期以降の男性 | 約20%~40%(男性) | 不妊のリスクが指摘されている。 |
卵巣炎 | 腹痛 | 成人女性 | まれ | |
無菌性髄膜炎 | 強い頭痛、項部硬直、吐き気、嘔吐 | 子供、大人 | 約1%~10% | おたふく風邪の合併症で最も多い。 |
難聴 | 突然の聴力低下(片側が多い) | 子供、大人 | 比較的まれ | 永続的な難聴となることがある。 |
膵炎 | 上腹部痛、吐き気、嘔吐 | 子供、大人 | 比較的まれ | |
脳炎 | けいれん、意識障害など | 子供、大人 | 非常にまれ | 重篤化するリスクがある。 |
大人がおたふく風邪の初期症状、特に発熱や強い痛みを伴う場合は、これらの合併症を念頭に置き、早期に医療機関を受診することが極めて重要です。
おたふく風邪かどうかの判断・見分け方
耳の下が腫れて痛い、という症状は、おたふく風邪の可能性が高いサインではありますが、これだけで確定診断はできません。おたふく風邪の初期症状は、他の様々な病気でも見られることがあるため、自己判断は危険です。
おたふく風邪に似た症状の病気
おたふく風邪と間違えやすい、耳の下や首の腫れ、発熱などを伴う病気はいくつかあります。代表的なものとしては以下が挙げられます。
- 溶連菌感染症: のどの痛みや発熱、舌のブツブツ(いちご舌)、体に赤い発疹などが見られる細菌感染症です。まれに首のリンパ節が腫れることがあり、おたふく風邪と間違われることがあります。
- 伝染性単核球症: EBウイルスによって引き起こされる感染症で、主に発熱、のどの痛み(扁桃炎)、首のリンパ節の腫れが特徴です。全身の倦怠感も強く、唾液腺が腫れることは稀ですが、リンパ節の腫れがおたふく風邪の腫れと間違われることがあります。
- 化膿性耳下腺炎: 耳下腺に細菌が感染して炎症を起こす病気です。片側の耳下腺が赤く腫れ上がり、強い痛みと高熱を伴います。唾液腺から膿が出てくることもあります。おたふく風邪はウイルス性で両側が腫れることが多いのに対し、化膿性耳下腺炎は細菌性で片側の腫れが強いことが特徴ですが、初期には区別が難しい場合もあります。
- 頚部リンパ節炎: 風邪やのどの炎症などに伴って、首のリンパ節が腫れるものです。おたふく風邪の耳下腺の腫れよりも少し下の方(顎の下や首の横)が腫れることが多いですが、場所によっては耳下腺の腫れと区別がつきにくいことがあります。
- 耳下腺腫瘍: 耳下腺にしこりができる病気で、通常は痛みや発熱はありません。ゆっくりと大きくなるのが特徴です。おたふく風邪のように急激に腫れる病気とは異なりますが、初期の小さな腫れや、おたふく風邪の腫れが引かない場合に、腫瘍の可能性を考慮する必要があります。
これらの病気は、それぞれ原因となる病原体や治療法が異なります。正確な診断がなければ、適切な治療が遅れたり、不必要な薬を服用したりすることになりかねません。
自己判断は難しい理由
上記のように、おたふく風邪の初期症状は他の病気と似ていることが多く、見た目の症状だけで確実に区別することは専門家でも難しい場合があります。特に、発熱のみ、あるいは軽微な腫れのみといった非典型的な症状の場合、おたふく風邪だと気づかないまま放置してしまうリスクがあります。
自己判断が難しい主な理由は以下の通りです。
- 症状の多様性: おたふく風邪の症状は非常に多様であり、典型的な症状が揃わないことも多い。
- 類似疾患の存在: 耳の下や首の腫れ、発熱といった症状を伴う病気が他にも多数ある。
- 合併症のリスク: 特に大人の場合、自己判断で放置すると重篤な合併症を見逃す可能性がある。
- 確定診断には検査が必要: 確定診断のためには、血液検査で抗体を調べたり、PCR検査でウイルスを検出したりする必要がある場合がある。
したがって、おたふく風邪が疑われる症状が見られた場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けることが重要です。医師は、症状の経過、既往歴、予防接種歴などを総合的に判断し、必要に応じて検査を行い、適切な診断と治療方針を立ててくれます。
おたふく風邪が疑われる場合の対応
おたふく風邪の可能性が考えられる症状が現れたら、慌てずに適切に対応することが大切です。まずは医療機関を受診し、診断を受けることから始めましょう。
病院を受診する目安
どのような症状が現れたら病院を受診すべきでしょうか。おたふく風邪が疑われる場合、以下の症状を目安に医療機関(小児科や内科)を受診しましょう。
- 耳の下や顎の下が腫れてきた
- 腫れた部分に痛みがある
- 発熱がある(熱の高さに関わらず)
- 頭痛や吐き気、倦怠感が強い
特に、以下のような場合は、合併症の可能性も考慮し、早急に医療機関を受診することをお勧めします。
- 子供の場合:
- 高熱が続いている
- 水分が十分に摂れない
- ぐったりしていて元気がない
- 頭痛や嘔吐を繰り返す
- 首の動きがおかしい(硬いなど)
- 大人の場合:
- 症状が強く、日常生活に支障がある
- 高熱が続いている
- 強い頭痛や嘔吐がある(髄膜炎の可能性)
- 睾丸が痛む、腫れている(睾丸炎の可能性)
- 上腹部がひどく痛む(膵炎の可能性)
- 急に聞こえが悪くなった(難聴の可能性)
いつ頃からどのような症状が出ているのか、熱は何度くらいか、他に気になる症状はあるかなどを医師に伝えられるよう、メモしておくと良いでしょう。可能であれば、おたふく風邪の予防接種を受けたことがあるか、周囲におたふく風邪にかかった人がいるかなどの情報も伝えると、診断の助けになります。
医療機関での診断方法
医療機関では、まず医師による問診と視診・触診が行われます。
- 問診: 症状がいつから始まったか、どのような症状か、予防接種歴、おたふく風邪の罹患歴、周囲の流行状況などを詳しく聞かれます。
- 視診・触診: 耳の下や顎の下の腫れや赤みがないか、触った感触や痛みの程度などを確認します。のどの状態やリンパ節の腫れなども同時に診察することがあります。
これらの診察からおたふく風邪が強く疑われる場合、通常は臨床診断(症状や診察所見から診断すること)で経過観察となります。しかし、確定診断が必要な場合や、非典型的な症状の場合、あるいは合併症が疑われる場合は、以下のような検査が行われることがあります。
- 血液検査: ムンプスウイルスに対する抗体(IgM抗体など)があるかどうかを調べます。急性期にはIgM抗体が陽性になることが多く、診断の助けになります。ただし、発症早期ではまだ抗体が出現していないこともあるため、診断が難しい場合もあります。
- ウイルス検査(PCR検査など): 唾液や尿、髄液などから直接ムンプスウイルスの遺伝子を検出する検査です。より確実な診断が可能ですが、一般的な診療で routinely 行われるわけではありません。特に、集団感染の原因究明や合併症の確定診断などに用いられることがあります。
これらの検査結果や診察所見を総合的に判断して、医師がおたふく風邪であるかどうかの診断を確定します。自己判断せずに医療機関を受診することが、正確な診断と適切な対応につながります。
おたふく風邪の感染期間と過ごし方
おたふく風邪と診断された場合、周囲への感染を広げないための対策と、自宅での安静が重要になります。
感染力のある期間はいつまで?
おたふく風邪の感染力は、症状が現れる数日前から、耳下腺などの腫れが消失するまで続くとされています。特に、腫れが出現した直後から2~3日後にかけてが最も感染力が高い時期です。
症状が出る前の潜伏期間中にもウイルスを排出しているため、症状が出ていない人から感染することもあります。また、先述の無症状の不顕性感染者もウイルスを排出しているため、知らないうちに感染源となる可能性があります。
出席停止・出勤停止の基準
どのような症状が現れたら病院を受診すべきでしょうか。
おたふく風邪は学校保健安全法で第二種感染症に指定されており、学校や幼稚園、保育園などは出席停止となります。出席停止の期間は、「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の膨張が始まった後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」と定められています。
熱が下がっても、腫れが出始めてから5日間が経過しないと登校・登園できません。
また、5日経過してもまだ熱があったり、元気がなかったりする場合は、全身状態が良好になるまで自宅で安静にする必要があります。
会社によっては学校保健安全法の基準に準じて、同様の期間を出勤停止とする場合があります。職場の規定を確認しましょう。
自宅での過ごし方としては、まずは安静にすることが大切です。特に熱がある場合や全身倦怠感が強い場合は、無理せず横になって休みましょう。食事は、口を開けるのが辛い場合や飲み込むときに痛みがある場合があるため、おかゆやゼリー、スープなど、柔らかくて刺激の少ないものを選び、水分をこまめに摂るように心がけましょう。酸っぱいものや硬いもの、熱すぎるものや冷たすぎるものは避けた方が痛みが和らぎます。
痛みに対しては、医師から鎮痛剤が処方されることがあります。自己判断で市販薬を使用するのではなく、必ず医師に相談しましょう。
感染を広げないためには、外出を控え、他の人との接触を避けることが重要です。家族内での感染を防ぐためには、タオルや食器を共有しない、こまめな手洗い、マスクの着用なども有効です。
おたふく風邪の予防について
おたふく風邪は感染力の強い病気であり、特に大人がかかると重症化したり合併症を起こしたりするリスクが高まります。最も有効な予防策はワクチン接種です。
ワクチンの有効性
おたふく風邪の予防接種には、ムンプスウイルスに対するムンプスワクチンが用いられます。日本では任意接種となっていますが、おたふく風邪の発症予防や、かかった場合の重症化予防、そして特に大人が気をつけたい合併症(睾丸炎、難聴、髄膜炎など)のリスクを低減させる効果が期待できるため、接種が強く推奨されています。
ムンプスワクチンは、生後1歳から接種可能で、通常は1歳になったら1回目、小学校入学前年の1年間に2回目を接種することが推奨されています。2回接種することで、より高い免疫を獲得し、長期的な効果が期待できます。
ワクチンの効果:
- 発症予防: ワクチン接種によって、おたふく風邪にかかることを予防する効果があります。
- 重症化予防: 万が一おたふく風邪にかかったとしても、ワクチンを接種していれば症状が軽くなる傾向があります。
- 合併症予防: 特に大人が懸念する睾丸炎、難聴、髄膜炎などの重篤な合併症を防ぐ効果が期待できます。
ワクチンの副反応:
- ムンプスワクチンの副反応は通常軽微で、接種部位の腫れや痛み、発熱、耳下腺の軽度の腫れなどが見られることがありますが、数日で自然に回復することがほとんどです。まれに、無菌性髄膜炎や脳炎などの重篤な副反応が報告されていますが、その頻度は自然感染した場合に合併症を発症する確率よりもはるかに低いとされています。
子供の頃におたふく風邪にかかったかどうか不明な場合や、予防接種を受けたかどうかわからない大人の場合でも、抗体検査で免疫があるか確認したり、医師と相談してワクチン接種を検討したりすることができます。特に、子供を持つ親や、医療・教育関係者など、集団生活の場で人と接する機会が多い大人は、自身の感染予防だけでなく、周囲への感染拡大を防ぐためにもワクチン接種を検討する意義は大きいと言えます。
【まとめ】おたふく 初期症状を知って適切に対応しよう
おたふく風邪の初期症状は、耳の下の腫れと痛みが最も特徴的ですが、発熱やその他の全身症状を伴うこともあり、症状の出方には個人差があります。子供の場合は比較的軽症で済むことが多い一方、大人がかかると重症化しやすく、睾丸炎や無菌性髄膜炎、難聴といった重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。
おたふく風邪に似た症状の病気もいくつかあり、見た目の症状だけで自己判断することは難しく危険です。耳の下の腫れや発熱など、おたふく風邪が疑われる症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診し、医師の診断を受けることが重要です。特に大人の場合は、合併症のサインを見逃さないためにも、早めの受診を心がけましょう。
おたふく風邪と診断されたら、感染拡大を防ぐために安静にし、学校や仕事を休みましょう。回復するまでは、柔らかい食事を摂り、水分補給をしっかり行うことも大切です。
おたふく風邪に対する最も有効な予防策はワクチン接種です。特に子供や、子供の頃にかかったか不明な大人は、ワクチン接種を検討することで、自身の発症や重症化、そして合併症のリスクを減らすことができます。
この記事の情報が、おたふく風邪の初期症状への理解を深め、適切な対応をとる一助となれば幸いです。
免責事項
本記事は、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)の初期症状に関する一般的な情報提供を目的としています。個々の症状や健康状態は人によって異なります。記載された情報を参考に、ご自身の判断で治療を行ったり、医療機関の受診を遅らせたりすることは避けてください。おたふく風邪が疑われる症状が見られる場合は、必ず医師の診察を受け、適切な診断とアドバイスを受けてください。本記事の情報によって生じたいかなる損害についても、弊社は責任を負いかねます。