B型肝炎の原因・症状・感染経路から治療・予防まで【徹底解説】

b型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)によって引き起こされる肝臓の病気です。世界中で多くの人が感染しており、時に深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。しかし、感染経路や症状、適切な予防法や治療法について正しく理解することで、そのリスクを大幅に減らし、もし感染した場合でも適切な管理を行うことが可能です。この記事では、b型肝炎の原因から最新の治療、効果的な予防策までを分かりやすく解説します。ご自身や大切な人をb型肝炎から守るために、ぜひ最後までお読みください。

b型肝炎とは

b型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)が肝臓に感染することで起こる病気です。

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)感染によっておこる肝臓の病気です。B型肝炎ウイルスへの感染は、一過性の感染で終わる場合と、そのまま感染している状態が続いてしまう場合(キャリア)があります。(出典:大阪府「B型肝炎について」

感染すると、肝臓に炎症が起こり、肝細胞が破壊される可能性があります。感染の仕方によって、一過性の「急性b型肝炎」で終わる場合と、ウイルスが長期間体内に残り続ける「慢性b型肝炎」に移行する場合があります。特に慢性b型肝炎は、放置すると肝硬変や肝がんに進行するリスクがあるため、適切な診断と管理が非常に重要です。

B型肝炎は肝障害を起こすウイルス感染症です。急性疾患と慢性疾患を起こします。このウイルスは、感染者の血液や、その他にも体液に接触することで伝播します。推定で、2億5,700万人が慢性的にB型肝炎に感染しています(B型肝炎表面抗原が陽性と定義される者)。2015年には、肝硬変、肝がんを含む毎年88.7万人以上の人がB型肝炎の合併症によって死亡しました。(出典:厚生労働省検疫所「B型肝炎について(ファクトシート)」

目次

b型肝炎の原因と感染経路

b型肝炎の原因は、B型肝炎ウイルス(HBV)という特定のウイルスです。このウイルスは、主に血液や体液を介して人から人へ感染します。

B型肝炎ウイルス(HBV)とは

B型肝炎ウイルス(HBV)は、DNAウイルスに分類されるウイルスです。肝臓の細胞に感染し、そこで増殖します。ウイルスの表面にある「HBs抗原」や、内部にある「HBc抗原」、「HBe抗原」といったタンパク質は、診断において重要なマーカーとなります。また、HBVにはいくつかの遺伝子型(ジェノタイプAからJなど)があり、それぞれ地理的な分布や病気の経過、治療への反応性が異なることが知られています。日本ではジェノタイプCが多く見られますが、近年はジェノタイプAの感染も増加傾向にあります。

主なb型肝炎の感染経路

HBVは、感染者の血液や体液(精液、膣分泌液、唾液、汗など)に触れることで感染する可能性がありますが、特に重要な感染経路は以下の通りです。

母子感染によるb型肝炎

最も代表的な感染経路の一つが母子感染です。HBVに感染している母親から、出産時や出産後早期に赤ちゃんへウイルスが移行することで起こります。かつては母子感染によって多くのキャリアが生まれていましたが、現在では適切な予防策(ワクチン接種や抗体製剤の投与)によって、そのリスクを大幅に減らすことができるようになっています。

血液・体液を介した水平感染

母子感染以外の感染経路を水平感染と呼びます。これには、主に以下のものが含まれます。

  • 性行為による感染: HBVは性行為によっても感染します。感染者の血液や体液が、性器や口などの粘膜から体内に入ることが原因です。特に、不特定多数との性交渉や、コンドームを使用しない性交渉はリスクが高まります。
  • 医療行為による感染: かつては、消毒が不十分な注射器の使い回しや輸血などによって感染が広がりました。現在では、医療機関での衛生管理が徹底されており、輸血用血液は厳重な検査が行われているため、これらの経路での感染リスクは極めて低くなっています。
  • 日常的な接触による感染(リスクが高い行為):
    • 血液に触れる機会: 入れ墨やピアスの穴あけを非衛生的な環境で行う、カミソリや歯ブラシ、爪切りなど血液が付着する可能性のあるものを共用する、といった行為は感染リスクがあります。
    • 注射器の共用: 覚せい剤などの薬物注射器の回し打ちは、HBVだけでなくHIVやC型肝炎ウイルスなどの感染リスクも非常に高く、危険な行為です。
  • 家族内感染: 感染者と同居している家族が、傷口などからウイルスを含む血液や体液に触れることで感染する可能性がゼロではありません。しかし、後述するように日常的な接触での感染リスクは低いです。

これらの感染経路のうち、現在日本で新規に感染が起こる主な経路は、性行為による感染と、母親からの適切な予防策が取られなかった場合の母子感染です。

b型肝炎が感染しない経路(唾液、食器、キスなど)

b型肝炎は、非常に感染力が強いという誤解がありますが、日常生活における普通の接触ではほとんど感染しません。HBVが感染するためには、ある程度の量のウイルスが血液や体液を介して体内に入る必要があります。

具体的に感染しないと考えられている経路

  • 唾液: 唾液中にもウイルスは存在し得ますが、その量は血液と比べて非常に少ないため、通常のキスや食器の共用、同じ鍋をつつくといった行為で感染することはまずありません。
  • 汗や涙、尿: これらの体液からの感染リスクも極めて低いと考えられています。
  • 食器、タオル、衣類の共用: これらを共用するだけでは感染しません。
  • 入浴、プール: 一緒に入浴したりプールに入ったりしても感染しません。
  • 抱き合う、握手する: スキンシップ程度では感染しません。
  • 咳やくしゃみ: 空気感染はしません。
  • 蚊などの虫刺され: 昆虫がウイルスを媒介することはありません。

したがって、b型肝炎の感染者と日常生活を送る上で、過度に心配したり隔離したりする必要はありません。家族や友人との普通の交流は、安心して行うことができます。ただし、歯ブラシやカミソリなど、血液が付着する可能性があるものの共用は避けるようにしましょう。

b型肝炎の症状

b型肝炎の症状は、感染後の経過や個人の免疫状態によって大きく異なります。感染しても全く症状が出ない人もいれば、重い症状が出る人もいます。

急性b型肝炎の症状

HBVに感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、通常1ヶ月から6ヶ月程度とされています。この期間を経て発症する急性b型肝炎では、風邪のような初期症状が現れることがあります。

  • 全身の倦怠感(だるさ)
  • 食欲不振
  • 吐き気、嘔吐
  • 発熱
  • 腹痛(特に右の脇腹あたり)
  • 関節痛
  • 筋肉痛

これらの症状に続いて、特徴的な症状である黄疸(おうだん)が現れることがあります。

  • 黄疸: 皮膚や目の白目部分が黄色くなる症状です。これは、肝臓の機能が低下し、血液中のビリルビンという色素をうまく処理できなくなるために起こります。尿の色が濃くなったり、便の色が薄くなったりすることもあります。

黄疸が現れる頃には、倦怠感などの初期症状が改善することもあります。多くの場合、急性b型肝炎は数週間から数ヶ月で自然に治癒し、ウイルスは体から排除されます。しかし、劇症肝炎という非常に稀ですが命に関わる重篤な経過をたどる場合もあります。劇症肝炎では、肝臓の機能が急速に失われ、意識障害などの症状が現れます。

慢性b型肝炎の症状と肝臓への影響

HBVに感染した人のうち、ウイルスが体から排除されずに6ヶ月以上残り続ける状態を「慢性b型肝炎」と呼びます。特に乳幼児期に感染した場合、免疫機能が未熟なためウイルスを異物と認識しにくく、高率に慢性化します。成人になってから感染した場合、多くは急性肝炎として発症し自然治癒しますが、約5〜10%は慢性化すると言われています。

慢性b型肝炎の最大の特徴は、自覚症状がほとんどない場合が多いということです。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、ある程度ダメージを受けても症状が出にくい性質があります。そのため、感染していることに気づかないまま、病気が進行してしまうことがあります。

症状がないまま肝臓で炎症が続くと、肝細胞の破壊と再生が繰り返されます。この過程で肝臓が硬くなり、肝硬変へと進行する可能性があります。肝硬変になると、肝臓の機能が低下するだけでなく、腹水が溜まる、黄疸が悪化する、食道静脈瘤ができる、意識障害が起こるなどの症状が現れます(非代償性肝硬変)。さらに、慢性b型肝炎や肝硬変の状態が長く続くと、肝がんを発症するリスクが高まります。

このように、慢性b型肝炎は自覚症状が乏しいため、知らない間に肝臓の病気が進行していることがあるという点に注意が必要です。

b型肝炎の無症状キャリアについて

慢性b型肝炎の状態にある人の中で、特に肝臓の炎症がほとんどなく、肝機能検査(AST/ALT値など)も正常範囲内である状態を「無症状キャリア」と呼ぶことがあります。正式には「HBe抗原陽性での免疫寛容期」や「非活動性キャリア」といった専門的な分類がありますが、一般的にはウイルスを持っていても症状がなく、肝臓へのダメージが少ない状態を指します。

しかし、「無症状」であっても、体内にHBVが存在していることには変わりありません。免疫の状態やウイルスの活動性によっては、将来的に肝炎が活動化し、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへと進行するリスクを抱えています。特に思春期以降や高齢になってから、ウイルスが活動化することがあります。

無症状キャリアの人は、自分では気づかないうちにHBVを他の人に感染させてしまう可能性もあります。そのため、自身がキャリアであるかどうかを知ること、そして定期的に医療機関で検査を受け、肝臓の状態やウイルスの活動性をチェックすることが非常に重要です。定期的な検査を受けることで、病気の活動化や進行を早期に発見し、適切なタイミングで治療を開始することができます。

b型肝炎の診断と検査

b型肝炎の診断は、自覚症状の有無にかかわらず、主に血液検査によって行われます。血液検査でB型肝炎ウイルスの感染の有無や、ウイルスの状態、肝臓の機能などを調べます。

b型肝炎の診断方法

b型肝炎の診断は、以下のステップで行われます。

  1. 問診: 現在の症状、過去の病歴、感染の可能性のある出来事(輸血、手術、入れ墨、性交渉の経験など)、家族にb型肝炎の人がいるかなどを詳しく聞き取ります。
  2. 身体診察: 黄疸の有無や、肝臓の腫れ、圧痛などを確認します。
  3. 血液検査: HBV関連のマーカーや肝機能、ウイルス量などを調べます。これが最も重要な診断方法です。
  4. 画像検査: 必要に応じて、肝臓の状態を画像で確認します。
  5. 肝生検: 診断や病期を確定するために、肝臓の組織の一部を採取して調べることもあります。

血液検査によるb型肝炎の診断(HBs抗原、HBs抗体など)

b型肝炎の診断に用いられる主な血液検査項目は以下の通りです。これらの組み合わせによって、現在感染しているのか、過去に感染して治癒したのか、あるいはワクチンによって免疫ができているのかなどを判断します。

検査項目 意味 陽性の場合に考えられる状態
HBs抗原 HBVの表面にあるタンパク質。ウイルスが体内に存在していることを示す。 現在、HBVに感染している(急性または慢性b型肝炎、キャリア状態)
HBs抗体 HBs抗原に対する抗体。ウイルスを排除した、またはワクチンにより免疫があることを示す。 過去にHBVに感染して治癒した、またはb型肝炎ワクチンを接種して免疫を獲得した。感染防御力がある。
HBc抗体 HBVの内部にあるタンパク質(コア抗原)に対する抗体。過去または現在の感染を示す。 過去にHBVに感染したことがある。HBs抗原が陰性でHBc抗体が陽性の場合は、過去の感染や既往感染(治癒した状態)を示唆することが多い。
HBe抗原 HBVの増殖力や感染性の強さを示すマーカー。 ウイルスが活発に増殖している状態(免疫排除期など)。感染性が高い。
HBe抗体 HBe抗原に対する抗体。ウイルスの増殖が落ち着いていることを示す。 ウイルスの増殖が比較的抑えられている状態(非活動性キャリア期など)。感染性は比較的低いが、例外もある。
HBV-DNA量 血液中に存在するHBVのウイルスの量。 ウイルスの活動性を示す重要な指標。量が多いほど肝炎が進行しやすい傾向がある。治療効果の判定にも用いられる。
AST(GOT), ALT(GPT) 肝細胞に含まれる酵素。肝臓の炎症や障害があると数値が高くなる。 肝機能の状態を示す指標。数値が高いほど肝炎が活動している可能性が高い。

例えば、HBs抗原が陽性の場合は現在感染していると診断されます。さらにHBV-DNA量やAST/ALT値などを測定し、ウイルスの活動性や肝臓の炎症の程度を評価することで、急性b型肝炎なのか、活動性の高い慢性b型肝炎なのか、あるいは非活動性キャリアなのかを判断します。

b型肝炎の画像検査

血液検査でb型肝炎の診断や肝機能の状態が分かったら、必要に応じて画像検査が行われます。これは、肝臓の形や大きさ、硬さ、内部の異常(肝腫瘍など)を確認するために行われます。

  • 腹部超音波(エコー)検査: 簡便で体に負担が少なく、肝臓の形態や内部構造、表面の滑らかさなどを調べることができます。肝硬変の進行度や肝腫瘍の有無などを確認するためによく用いられます。
  • CT検査、MRI検査: 超音波検査よりも詳細な情報を得ることができ、肝臓の病変(肝がんなど)の発見や評価、血管の状態などを調べるのに有効です。
  • フィブロスキャン(肝臓硬度測定): 超音波を利用して肝臓の硬さを測定する検査です。肝臓の硬さは線維化(肝硬変への進行度)を示す指標となり、肝生検よりも負担が少ないため、病期の評価に用いられることがあります。

これらの画像検査の結果と血液検査の結果を総合して、b型肝炎の状態を詳しく評価し、治療方針を決定します。

b型肝炎の治療法

b型肝炎の治療目標は、ウイルスの増殖を抑え、肝臓の炎症を鎮めることで、肝硬変や肝がんへの進行を防ぎ、健康な生活を維持することです。治療法は、急性か慢性か、ウイルスの活動性などによって異なります。

急性b型肝炎の治療(対症療法)

急性b型肝炎の場合、多くは自然に治癒するため、特別な抗ウイルス療法は必要ありません。治療の中心は、症状を和らげ、体がウイルスと戦って自然に治癒するのをサポートする「対症療法」です。

  • 安静: 十分な休息をとり、肝臓への負担を減らします。
  • 栄養補給: 食欲がない場合でも、バランスの取れた食事や点滴によって必要な栄養を補給します。
  • 症状を和らげる薬: 吐き気や発熱などの症状に応じて、それぞれを和らげる薬が処方されることがあります。

ただし、劇症肝炎のように重症化した場合や、免疫抑制状態の人が急性肝炎を発症した場合は、抗ウイルス薬による治療が必要になることがあります。

慢性b型肝炎の治療(抗ウイルス療法など)

慢性b型肝炎の治療は、ウイルスの増殖を抑えることを目指す「抗ウイルス療法」が中心となります。治療の対象となるのは、主にウイルスの増殖が活発で肝炎が進行するリスクが高いと判断された患者さんです。無症状キャリアなど、ウイルスの活動性が低い場合は、定期的な経過観察が行われます。

慢性b型肝炎の主な抗ウイルス療法には、以下の2種類があります。

  1. 核酸アナログ製剤(飲み薬):
    • ウイルスのDNA合成酵素の働きを阻害し、HBVの増殖を強力に抑える薬です。
    • テノホビル、エンテカビルなどが代表的な薬剤です。
    • 原則として毎日服用する必要があり、長期間(多くの場合生涯)にわたって服用を継続する必要があります。
    • ウイルスの増殖を強力に抑えることで、肝炎の活動性を低下させ、肝硬変や肝がんへの進行を抑制する効果が期待できます。
    • 比較的副作用が少なく、飲みやすいというメリットがあります。しかし、服用を中断するとウイルスが再び増殖する可能性があるため、自己判断での中止は厳禁です。
  2. インターフェロン注射:
    • 体の免疫反応を活性化させ、ウイルスを排除しようとする治療法です。
    • 注射薬であり、週に1回(ペグインターフェロンの場合)または毎日(通常型インターフェロンの場合)投与します。投与期間は通常48週間です。
    • ウイルスを完全に排除できる可能性があるというメリットがありますが、発熱、倦怠感、頭痛、脱毛、精神症状(うつ病など)といった副作用が現れやすいというデメリットがあります。
    • 患者さんの状態(ウイルスのジェノタイプ、HBe抗原の状態、年齢、肝臓の状態など)によって、どちらの治療法が適しているかが判断されます。

これらの治療法によって、血液中のHBV-DNA量が検出限界以下になり、肝機能が正常値に戻ることを目指します。治療中も定期的に血液検査などで効果や副作用を確認しながら進めます。

b型肝炎は治癒する?自然治癒の可能性

急性b型肝炎の場合、成人の約90%以上はウイルスを体から排除し、自然に治癒すると言われています。治癒後はHBs抗体が陽性となり、再度HBVに感染することはほとんどありません。

しかし、慢性b型肝炎に移行した場合、自然にウイルスが完全に排除されることは非常に稀です。核酸アナログ製剤による治療は、ウイルスの増殖を強力に抑え、肝炎の進行を防ぐ効果がありますが、ウイルスを体から完全に消失させる「完全治癒」は難しいのが現状です。治療の目標は、ウイルス量をコントロールし、肝臓の炎症を長期にわたって抑えることで、病気の進行を止める、あるいは遅らせることになります。

インターフェロン治療の場合は、治療終了後にウイルスが排除されてHBs抗原が陰性化する「機能的治癒(functional cure)」に至る可能性があります。これは、ウイルスが完全に体からなくなったわけではありませんが、肝臓への悪影響がなくなり、感染性も極めて低くなる状態です。

したがって、慢性b型肝炎と診断された場合は、自然治癒に過度に期待せず、医師とよく相談して適切な治療や管理を受けることが重要です。

b型肝炎の予防

b型肝炎は、ワクチン接種によって非常に効果的に予防できる病気です。また、日常生活での注意も予防につながります。

b型肝炎ワクチンの効果と推奨される接種対象

b型肝炎ワクチンは、HBVの表面抗原であるHBs抗原を成分としており、これを接種することで体内にHBs抗体を作り出し、HBVへの免疫を獲得します。適切な回数接種すれば、95%以上の人に有効な免疫がつくとされており、感染をほぼ完全に防ぐことができます。

b型肝炎ワクチンは、2016年10月1日から生後1歳未満の全ての赤ちゃんを対象とした定期接種となりました。これにより、将来のb型肝炎のキャリアや発症者を大幅に減らすことが期待されています。

また、赤ちゃん以外にも、以下のようなHBV感染のリスクが高い人には、ワクチン接種が推奨されています。

  • 医療従事者: 血液や体液に触れる機会が多いため。
  • b型肝炎ウイルスキャリアの家族: 感染リスクが高いため。
  • 性的パートナーがb型肝炎ウイルスキャリアである人: 性行為による感染リスクが高いため。
  • 透析患者: 医療行為による感染リスクがあるため。
  • HBV感染の多い地域へ渡航する人:
  • 複数の性的パートナーがいる人: 性行為による感染リスクが高いため。
  • 薬物注射の経験がある人: 過去または現在の注射器共用による感染リスクがあるため。

これらの対象に該当する人は、医療機関でワクチン接種について相談することをお勧めします。

b型肝炎ワクチン接種のスケジュール(成人・小児)

b型肝炎ワクチンは、通常、複数回の接種が必要です。標準的な接種スケジュールは以下の通りです。

対象者 接種回数 標準的な接種間隔
小児 3回 1回目 → 27日以上の間隔をおいて2回目 → 1回目から139日以上の間隔をおいて3回目(標準的には生後0ヶ月、1ヶ月、6ヶ月頃)
成人 3回 1回目 → 4週間後に2回目 → 1回目から20〜24週間後に3回目(標準的には0ヶ月、1ヶ月、6ヶ月頃)

ワクチンの種類(製品)によって接種間隔が異なる場合がありますので、必ず医師や看護師の指示に従ってください。特に小児の場合、定期接種のスケジュールに沿って忘れずに接種することが重要です。

ワクチン接種によって免疫がついたかどうかは、接種完了から1ヶ月後以降に血液検査でHBs抗体が陽性になっているかを確認することで分かります。

b型肝炎のその他の予防策

ワクチン接種に加えて、日常生活でHBV感染を防ぐための対策も重要です。

  • 安全な性行為: 性行為による感染は主要な水平感染経路の一つです。コンドームを正しく使用することで、感染リスクを減らすことができます。
  • 血液や体液に直接触れる機会を減らす:
    • カミソリ、歯ブラシ、爪切りなど、血液が付着する可能性のあるものは個人専用とし、他者との共用を避ける。
    • 傷口がある場合は適切に覆う。
    • 入れ墨やピアスの穴あけは、衛生管理が徹底されている専門施設で行う。
    • 薬物注射器の共用は絶対にしない。
  • 医療機関での注意: 医療機関では標準予防策が実施されているため、通常は心配ありませんが、歯科治療や内視鏡検査などを受ける際には、使用する器具の消毒が適切に行われているかを確認することも安心につながります(現在の日本の医療機関では当然行われています)。
  • 感染者との生活: 前述のように、日常的な接触(食器の共有、入浴、キスなど)では感染しません。感染者であることを理由に差別したり隔離したりする必要はありません。ただし、血液が付着する可能性のあるものの共用は避けましょう。

これらの予防策を組み合わせることで、HBV感染のリスクを効果的に低減することができます。

b型肝炎の経過と予後

b型肝炎に感染した後の経過や予後、ウイルスの種類、治療の有無などによって大きく異なります。

b型肝炎キャリア(持続感染者)の管理

特に乳幼児期にHBVに感染し、慢性キャリアとなった人は、多くの場合、思春期頃までは肝炎が活動しない「免疫寛容期」と呼ばれる状態が続きます。この期間は肝機能が正常なことが多いですが、ウイルス量は多い傾向にあります。その後、免疫機能が成熟するにつれてウイルスを排除しようとする反応が起こり、「免疫排除期」に移行することがあります。この時期は肝臓の炎症が起こりやすく、肝機能障害が認められるようになります。さらにその後、ウイルスの増殖が落ち着き、肝炎が鎮静化する「非活動性キャリア期」に移行する場合もあります。

これらの病期は一生のうちに変化する可能性があり、無症状のキャリア状態であっても、将来的に肝炎が活動化したり、肝硬変や肝がんに進行したりするリスクを抱えています。

そのため、b型肝炎キャリアと診断された人は、たとえ現在無症状であっても、定期的に医療機関を受診し、肝機能検査、ウイルス量検査、画像検査(超音波など)を受けることが非常に重要です。定期的な検査によって、病期の変化や肝臓の状態を把握し、治療を開始すべきタイミングを逃さないようにします。

b型肝炎による肝硬変や肝がんのリスク

慢性b型肝炎は、長期にわたると肝臓の炎症が続き、肝臓が硬くなる肝線維化が進行します。これがさらに進むと肝硬変になります。肝硬変に至ると、肝臓の機能が低下し、全身倦怠感、黄疸、腹水、肝性脳症などの症状が現れるだけでなく、肝がんを発症するリスクが非常に高まります。

b型肝炎ウイルスに感染している人は、そうでない人に比べて肝がんになるリスクが数十倍から数百倍高くなると言われています。慢性肝炎が活動性である期間が長いほど、ウイルス量が多いほど、肝硬変が進んでいるほど、肝がんのリスクは高まります。

しかし、適切な抗ウイルス療法によってウイルスの増殖を抑え、肝臓の炎症を長期間コントロールすることで、肝硬変や肝がんへの進行リスクを減らすことが可能です。特に核酸アナログ製剤による治療は、肝硬変や肝がんの発症を抑制する効果があることが多くの研究で示されています。

b型肝炎の定期的な検査と健康管理

b型肝炎キャリアや慢性b型肝炎の患者さんにとって、定期的な検査と日頃の健康管理は、病気の進行を抑え、合併症(肝硬変、肝がん)を予防するために不可欠です。

定期的な検査項目

  • 血液検査: 肝機能検査(AST, ALT, アルブミンなど)、血液凝固能、血小板数、ウイルスマーカー(HBs抗原、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体、HBV-DNA量)、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-IIなど)などを定期的に測定します。
  • 画像検査: 腹部超音波検査を通常3〜6ヶ月に1回程度行い、肝臓の形態や肝腫瘍の有無を確認します。必要に応じてCTやMRIが行われることもあります。

これらの検査の頻度は、患者さんの病期、ウイルスの活動性、肝臓の状態などによって医師が判断します。無症状キャリアで肝機能も正常な場合でも、少なくとも年に1〜2回は検査を受けることが推奨されます。

日頃の健康管理

  • 過度な飲酒を避ける: アルコールは肝臓に負担をかけるため、b型肝炎の人は飲酒を控えるか、医師に相談して適量に留めるようにしましょう。
  • バランスの取れた食事: 肝臓の再生や機能維持に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
  • 十分な休息: 疲れを溜めないようにしましょう。
  • 喫煙を控える: 喫煙は肝がんのリスクを高めることが知られています。
  • 適切な体重管理: 肥満や糖尿病は、b型肝炎の病態を悪化させる可能性があります。
  • 他の薬剤やサプリメント: 肝臓に影響を与える可能性のある薬剤やサプリメントを使用する際は、必ず医師に相談しましょう。

これらの健康管理を心がけることで、肝臓の負担を軽減し、病気の進行を遅らせることにつながります。

乙型肝炎とb型肝炎の関係性

結論から言うと、「乙型肝炎」と「b型肝炎」は全く同じ病気です。

日本の医学界では、古くからウイルス性肝炎をウイルスの種類によって「甲型肝炎」「乙型肝炎」「丙型肝炎」「丁型肝炎」「戊型肝炎」と分類していました。このうち「乙型肝炎」が、英語で「Hepatitis B型肝炎」と呼ばれる病気に相当します。

現在は国際的な名称である「B型肝炎」という言葉が一般的に使われるようになっています。しかし、古い医学書や文献、あるいは特定の地域や専門分野では「乙型肝炎」という名称が使われていることもあります。

したがって、「乙型肝炎」という言葉を見聞きしても、それはB型肝炎ウイルスの感染によって起こる肝臓の病気のことだと理解して問題ありません。呼び方が違うだけで、原因ウイルスや病態は同じです。

b型肝炎についてよくある質問

b型肝炎に関して、患者さんやそのご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

b型肝炎は遺伝する?

b型肝炎ウイルス(HBV)自体が遺伝子の情報として子孫に伝わることはありません。しかし、HBVキャリアの母親から赤ちゃんへ、妊娠中、分娩時、あるいは分娩後にウイルスが移行する「母子感染」によって赤ちゃんが感染することはあります。これは遺伝ではなく、感染経路の一つです。また、感染者と同居している家族が、血液や体液を介して感染する「家族内感染」も起こり得ます。したがって、b型肝炎は遺伝病ではなく、感染症です。

b型肝炎にかかると結婚できない?妊娠できない?

b型肝炎キャリアであること、あるいは慢性b型肝炎であること自体を理由に、結婚や妊娠ができないということはありません。パートナーや家族への感染を防ぐための知識と予防策(ワクチン接種、日常生活での注意点など)を理解し、適切に対応すれば問題なく結婚生活や妊娠・出産は可能です。特に、HBVキャリアの女性が出産する場合、赤ちゃんへの母子感染を予防するための公費による対策が確立されています。

b型肝炎の給付金制度について教えてほしい。

過去に、集団予防接種等によってb型肝炎ウイルスに持続感染された方や、その方から母子感染や父子感染された方に対して、国が給付金を支給する制度があります。これは、特定の期間に行われた集団予防接種の際の注射器の使い回しなどが原因で感染が拡大したことに対する国の責任を認めたものです。給付金を受け取るためには、一定の要件を満たし、訴訟手続きを行う必要があります。詳細については、弁護士やb型肝炎給付金に関する相談窓口に問い合わせることをお勧めします。

職場でのb型肝炎に関する注意点は?

職場において、b型肝炎キャリアであることを理由に不当な扱いを受けることはあってはなりません。前述のように、HBVは通常の業務(デスクワーク、会議、食事など)で感染することはありません。感染リスクがあるのは、血液や体液に直接触れる可能性のある業務(医療従事者など)や、血液が付着する可能性のある器具(カミソリ、ハサミなど)の共用などです。多くの職場でこれらのリスクは低いため、過剰な心配は不要です。医療従事者など感染リスクの高い職種では、ワクチン接種や適切な感染予防策の遵守が重要です。

【まとめ】b型肝炎は正しく理解し、適切な予防と管理を

b型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)によって引き起こされる肝臓の病気です。主に血液や体液を介して感染しますが、日常的な接触ではほとんど感染しません。感染すると急性肝炎を発症したり、ウイルスが体内に残り続ける慢性b型肝炎に移行したりします。特に慢性b型肝炎は、自覚症状が乏しいまま肝硬変や肝がんへと進行するリスクがあるため、早期発見と適切な管理が非常に重要です。

b型肝炎の予防には、ワクチン接種が最も効果的です。日本では小児の定期接種が行われており、成人もリスクに応じて接種が推奨されています。また、性行為時のコンドーム使用や、血液が付着する可能性のある物の共用を避けるといった日常生活での注意も感染予防につながります。

もしHBVに感染していることが分かった場合でも、現在の医療ではウイルスの増殖を抑え、病気の進行を防ぐための有効な治療法があります。重要なのは、悲観せず、専門医の指導のもと、定期的な検査を受け、必要に応じて適切な治療を開始することです。

b型肝炎は、正しく理解し、適切な予防策と管理を行うことで、そのリスクを減らし、健康に生活することが可能な病気です。ご自身の感染状況が不明な方、感染の可能性がある方は、医療機関で検査を受けることを強くお勧めします。また、b型肝炎に関する不安や疑問がある場合は、一人で悩まず、医療機関や専門の相談窓口に相談しましょう。

免責事項
本記事は、b型肝炎に関する一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療を代替するものではありません。ご自身の健康状態や、b型肝炎に関する疑問、治療については、必ず医療機関を受診し、専門医にご相談ください。本記事の情報によって生じたいかなる損害についても、当方では一切の責任を負いかねます。

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