やけどを負ってしまったとき、多くの人がまず感じるのがヒリヒリとした痛みです。
このつらい痛みがいつまで続くのか、どうすれば和らぐのか、不安に思う方も多いでしょう。やけどの痛みの期間や程度は、やけどの「深さ」によって大きく異なります。
この記事では、やけどの痛みが続く期間を深度別に詳しく解説し、ご家庭でできる応急処置や市販薬での対処法、そして「こんな症状が出たら病院へ」という受診の目安まで、分かりやすくご紹介します。
適切な知識を身につけて、やけどの痛みに適切に対処し、回復を早めましょう。
やけどのヒリヒリはいつまで続く?
やけどの痛みがいつまで続くかは、受傷したやけどの重症度、具体的には「深度(深さ)」によって大きく異なります。
皮膚がどれだけ深く損傷したかによって、症状や治癒にかかる期間、そして痛みの感じ方が変わってきます。
このセクションでは、まずやけどの深度分類について解説し、それぞれの深度で痛みがどのくらい続くのか、具体的な目安をご紹介します。
ご自身のやけどがどの程度にあたるのかを知ることで、痛みの期間や適切な対処法、受診の必要性を判断する手助けになるでしょう。
やけどの痛みが続く期間は?深度別の目安
やけどの痛みは、皮膚に存在する痛覚神経が刺激されることによって生じます。
やけどの深度が浅いほど神経終末が残っているため痛みを強く感じやすく、逆に深い場合は神経自体が破壊されて痛みが感じにくくなることがあります。
したがって、痛みの感じ方そのものが、やけどの深さを判断する手がかりの一つにもなり得ます。
やけどの痛みが続く期間は、数時間で治まる軽いものから、数週間以上続く場合まで様々です。
正確な診断は医師によるものですが、ここでは一般的な目安について解説します。
やけどの深度(深さ)はどのように分類される?
やけどの深度は、皮膚がどれくらい深く損傷したかによって、主にⅠ度熱傷、Ⅱ度熱傷(浅達性Ⅱ度熱傷、深達性Ⅱ度熱傷)、Ⅲ度熱傷の3段階に分類されます。
この分類は、熱傷診療ガイドラインなど、専門的な診療指針に基づいています。
それぞれの深度で皮膚の損傷部位が異なり、これが痛みの程度、治癒期間、そして最終的な傷跡の残り方に大きく影響します。
皮膚は大きく分けて、表面の「表皮」、その下の「真皮」、さらに深い「皮下組織」から構成されています。
- 表皮: 外部からの刺激を防ぐバリア機能や、肌の水分を保持する役割を担います。痛覚神経はありません。
- 真皮: 血管、神経、コラーゲン、エラスチンなどが豊富に存在し、皮膚の弾力性や強度を保ちます。毛根や汗腺、皮脂腺といった皮膚付属器もあります。真皮の浅い部分(乳頭層)には痛覚神経終末が多く存在します。
- 皮下組織: 脂肪組織が主で、体を保護したりエネルギーを蓄えたりする役割があります。
やけどの深度は、これらの皮膚の層のどこまで損傷が及んだかで以下のように分類されます。
- Ⅰ度熱傷(表皮熱傷): 表皮のみの損傷。最も軽度なやけどです。
- Ⅱ度熱傷(真皮熱傷): 表皮に加え、真皮まで損傷が及んだ状態です。真皮の損傷の深さによって、さらに浅達性Ⅱ度熱傷と深達性Ⅱ度熱傷に分けられます。
- 浅達性Ⅱ度熱傷: 真皮の比較的浅い部分(乳頭層)までの損傷。毛根や汗腺などの付属器の一部が残っています。
- 深達性Ⅱ度熱傷: 真皮の深い部分(網状層)まで損傷。皮膚付属器のほとんどが破壊されています。
- Ⅲ度熱傷(皮下組織熱傷): 表皮、真皮の全層に加え、皮下組織まで損傷が及んだ状態です。場合によっては筋肉や骨にまで達することもあります。
この深度分類は、適切な治療法を選択し、予後を予測する上で非常に重要となります。特にⅡ度熱傷とⅢ度熱傷は、医療機関での専門的な治療が必要となることが多いです。
やけどの深度別の痛みの特徴と期間
やけどの痛みは、受傷直後の熱による細胞破壊と、それに続く炎症反応によって引き起こされます。
痛覚神経終末が刺激されることで、ヒリヒリ、ジンジン、ズキズキといった様々な痛みの感覚が生じます。
深度が浅いほど、痛覚神経が破壊されずに残っているため、痛みを強く感じやすい傾向があります。
逆に、深度が深くなると神経も破壊されてしまうため、痛みを感じなくなることがありますが、これは重症のサインです。
Ⅰ度熱傷(表皮熱傷)の痛みと期間
- 特徴:
- 見た目:皮膚は赤くなり(紅斑)、わずかに腫れることがあります。水ぶくれ(水疱)はできません。
- 痛み:触れると強くヒリヒリ、ジンジンとした痛みを感じます。熱感も伴います。
- 痛みの期間:
- 通常、受傷直後が痛みのピークで、適切な応急処置(冷却など)を行えば、数時間から1日程度で痛みが和らぎます。
- 長くても数日以内には痛みは消失します。
- 治癒には3~4日程度かかり、その後皮膚の表面が薄く剥がれることがあります(落屑)。傷跡は残りません。
- 具体例: 軽い日焼け、熱い飲み物を少しこぼした、アイロンに軽く触れた、カイロで低温やけどになりかけた初期段階など。
Ⅰ度熱傷の痛みは比較的短期間で治まりますが、適切な冷却を行うことで痛みを早期に和らげ、回復を早めることができます。
Ⅱ度熱傷(真皮熱傷)の痛みと期間
Ⅱ度熱傷は真皮まで損傷が及んでいるため、Ⅰ度熱傷よりも重症であり、痛みや治癒期間も異なります。
浅達性Ⅱ度熱傷と深達性Ⅱ度熱傷では、症状や痛みの感じ方、期間が大きく異なります。
- 浅達性Ⅱ度熱傷(SA)
- 特徴:
- 見た目:皮膚は鮮やかな赤色で、痛みを伴う水ぶくれ(水疱)ができます。水ぶくれを破ると、湿っていて赤い基底面が見えます。指で押すと白くなります(圧迫により血流が一時的に止まるため)。
- 痛み:非常に強いヒリヒリ、ジンジンとした痛みを伴います。痛覚神経終末が多く残っているため、痛みが激しいのが特徴です。空気に触れると痛みが強くなることがあります。
- 痛みの期間:
- 痛みのピークは受傷直後から数時間程度ですが、その後も数日間にわたって強い痛みが続きます。
- 通常、適切な治療を行えば数日~1週間程度で痛みは徐々に和らぎ、消失します。
- 治癒には1~2週間かかり、通常は目立つ傷跡を残しませんが、色素沈着が起こることはあります。
- 特徴:
- 深達性Ⅱ度熱傷(DA)
- 特徴:
- 見た目:皮膚は白っぽくなったり、まだら模様になったりします。水ぶくれができることもありますが、浅達性ほど張りはなく、破れにくい傾向があります。水ぶくれを破った底は白っぽい乾燥した感じに見えます。指で押してもあまり白く変化しません(血流が障害されているため)。
- 痛み:神経の損傷が深いため、痛みは浅達性ほど強くないか、ほとんど感じないこともあります。触覚も鈍くなります。「痛くないから大丈夫」と自己判断するのは非常に危険です。
- 痛みの期間:
- 痛みは比較的早く、数日以内に軽快することが多いです。これは痛覚神経が破壊されたためであり、治癒したわけではありません。
- 痛みが少ないからといって放置せず、必ず医療機関を受診する必要があります。
- 治癒には3~4週間以上かかり、多くの場合、目立つ傷跡(瘢痕)が残ります。植皮術などの外科的治療が必要になることもあります。
- 特徴:
Ⅱ度熱傷の場合、特に深達性Ⅱ度熱傷では痛みが少ないことが重症のサインであると認識することが重要です。
自己判断せず、必ず医療機関を受診しましょう。
Ⅲ度熱傷(皮下組織熱傷)の痛みと期間
- 特徴:
- 見た目:皮膚の全層が破壊され、炭化して黒くなったり、白っぽく乾燥して硬くなったりします。血管が破壊されているため、出血はありません。
- 痛み:神経、血管、皮下組織まで完全に破壊されているため、痛みはほとんど感じません。触覚もありません。
- 痛みの期間:
- 受傷直後から痛みを感じないことがほとんどです。しかし、周囲にはⅡ度熱傷が合併していることが多く、そちらの痛みを感じることはあります。
- Ⅲ度熱傷自体は自然治癒することはなく、植皮術などの外科的治療が必須です。
- 重症性: Ⅲ度熱傷は皮膚のバリア機能が失われ、感染のリスクが高く、体液の喪失も大きいため、命に関わる場合もあります。痛みの有無にかかわらず、速やかな救急搬送や医療機関への受診が必須です。
Ⅲ度熱傷は非常に重症であり、痛みが無いからと放置すると命に関わる危険があります。
直ちに救急車を呼ぶか、救命救急センターを受診してください。
やけどの深度別の痛みの目安(まとめ)
深度 | 損傷部位 | 見た目の特徴 | 痛みの強さ | 痛みの持続期間目安 | 水ぶくれ | 治癒期間目安 | 傷跡 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Ⅰ度熱傷 | 表皮のみ | 赤み、腫れ | 強いヒリヒリ、ジンジン | 数時間~数日 | なし | 3~4日 | 残らない |
浅達性Ⅱ度熱傷 | 表皮+真皮の浅い部分(乳頭層) | 鮮やかな赤色、痛みを伴う水ぶくれ | 非常に強い痛み | 数日~1週間 | あり | 1~2週間 | 残らない (色素沈着の可能性あり) |
深達性Ⅱ度熱傷 | 表皮+真皮の深い部分(網状層) | 白っぽい、まだら模様、感覚鈍麻、水ぶくれは破れにくい | 痛みが比較的少ない | 数日(神経破壊のため) | あり(破れにくい) | 3~4週間以上 | 残る |
Ⅲ度熱傷 | 表皮+真皮+皮下組織(さらに深い場合も) | 黒色、白色、硬い、感覚なし | ほとんど感じない | なし(神経破壊のため) | なし(破壊) | 自然治癒しない | 残る |
上記はあくまで目安であり、個人差や受傷原因によって異なります。
特に小さなお子さんや高齢者の場合、同じ深度でも重症化しやすい傾向があるため注意が必要です。
これは小児熱傷の診療指針でも指摘されています。
やけどのヒリヒリ痛みを和らげる応急処置
やけどをしてしまったら、適切な応急処置を速やかに行うことが、痛みの軽減、損傷の拡大防止、感染予防、そして傷の治りを左右する上で非常に重要です。
特に初期の冷却は、やけどの深さを浅く抑える効果も期待できます。
このセクションでは、ご家庭でできるやけどの応急処置について、ヒリヒリとした痛みを和らげる方法を中心に詳しく解説します。
流水での冷却が基本
やけどをしてしまったら、何よりもまず「冷やすこと」が最優先の応急処置です。
消防庁の熱傷の応急手当に関する資料など、多くの応急処置ガイドで推奨されているように、水道の流水(15~20℃程度)で、できるだけ早く、そして長時間冷却を行います。
- なぜ冷やす必要があるのか?
- 熱による組織損傷の進行を止める: やけどの熱は、皮膚の奥深くまで伝わり、損傷を進行させます。冷却することで、この熱を奪い、それ以上の細胞破壊を防ぎ、やけどの深さが進行するのを抑えます。
- 痛みを和らげる: 冷やすことで、痛覚神経の活動を鎮静化させ、炎症反応を抑える効果があります。これにより、ヒリヒリとしたつらい痛みを軽減できます。
- 腫れや炎症を抑える: 冷却は血管を収縮させ、炎症による腫れや赤みを抑える効果も期待できます。
- 具体的な冷却方法:
- 素早く: やけどをしてしまったら、一刻も早く冷却を開始します。
- 流水で: 可能であれば、清潔な水道の流水(15~20℃程度)を使用します。これは、温度が適切で、常に新鮮な水が傷口に当たるためです。熱いお湯や冷たすぎる水は避けてください。
- 衣服の上から?: やけどをした部分に衣服がある場合は、無理に脱がさず、そのまま流水をかけます。衣服に熱がこもっている可能性があるためです。衣服が皮膚に貼り付いている場合は、無理に剥がさず、その上から冷やし続け、医療機関で処置を受けましょう。
- 患部全体を: やけどした部分全体に、流水がまんべんなく当たるようにします。
- 子どもや高齢者の冷却: 体温調節機能が未発達な乳幼児や体力が低下している高齢者は、広範囲や長時間の冷却で低体温になる危険があります。厚生労働省の家庭内事故防止ハンドブックでも、子どもや高齢者の事故防止と対応について注意喚起されています。注意深く観察しながら冷却し、早めに医療機関を受診しましょう。
- 化学薬品によるやけど: 多量の流水で、少なくとも15分以上、可能であれば30分以上洗い流すことが重要です。原因物質の種類によっては、さらに長い時間洗い流す必要がある場合もあります。皮膚を保護する手袋などを使用し、二次的な被害を防ぎます。
- 油によるやけど: 油は水よりも沸点が高いため、皮膚に付着した油を冷やすのに時間がかかることがあります。無理に拭き取ろうとせず、流水でしっかりと冷やします。
冷やすのはいつまで?冷却時間と注意点
- 冷却時間: やけどの部位や範囲にもよりますが、痛みが和らぐまで、最低でも15分、できれば30分以上しっかりと冷却することが推奨されます。
広範囲の場合や痛みが非常に強い場合は、さらに長く続けても構いません。
冷却を続けることで、痛みの軽減効果が持続します。 - 冷却を中断する目安: 痛みが十分に和らぎ、流水から離してもすぐに強い痛みが戻ってこない状態になれば、冷却を終了しても良いでしょう。
しかし、少しでも痛みが残る場合は、可能な範囲で冷却を続けることをお勧めします。 - 冷却の際の注意点:
- 氷やアイスパックを直接当てない: 冷たすぎる温度は、かえって組織を傷つけ(凍傷)、血行を悪化させる可能性があります。氷を使う場合は、清潔なタオルやガーゼに包んで使用するか、氷水に患部を浸ける方法(ただし、傷口は清潔に保つ)が良いでしょう。
- 広範囲の冷却に注意: 広範囲(体表面積の10%以上など)のやけどに対して、全身を長時間冷却すると、体温が急激に低下し「低体温症」を引き起こす危険があります。これは非常に危険な状態です。広範囲のやけどの場合は、患部を冷却しながら、速やかに救急車を呼ぶか、医療機関を受診する必要があります。
- 清潔を保つ: 冷却に使う水は清潔なものが望ましいです。汚れた水を使用すると、傷口から感染するリスクが高まります。
- 無理に剥がさない: やけどした皮膚や衣服が患部に貼り付いている場合、無理に剥がすと傷を悪化させてしまいます。そのまま冷却し、医療機関で処置を受けましょう。
- 水ぶくれを破らない: 水ぶくれは傷口を保護し、感染を防ぐバリアの役割を果たしています。破ると感染リスクが高まるため、可能な限り破らないようにします。破れてしまった場合は、清潔なガーゼなどで保護し、医療機関を受診しましょう。
冷やしても痛い場合の対処法(市販薬など)
適切な冷却を30分以上行ってもなおヒリヒリとした痛みが続く場合は、市販薬で痛みを和らげることも可能です。
ただし、使用できる市販薬は軽度(主にⅠ度熱傷や軽度の浅達性Ⅱ度熱傷)に限られます。
水ぶくれが大きい場合や、皮膚の色がおかしい場合など、Ⅱ度熱傷以上の可能性がある場合は、自己判断で市販薬を使用せず、必ず医療機関を受診してください。
- 痛み止め(内服薬):
- 市販の解熱鎮痛薬が、やけどによる痛みに有効な場合があります。
- アセトアミノフェン: 比較的副作用が少なく、子どもにも使用しやすい成分です。痛みを和らげる効果があります。
- ロキソプロフェン、イブプロフェンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬): 痛みを和らげるだけでなく、炎症を抑える効果もあります。ただし、胃腸への負担や、出血傾向を高める可能性が指摘される場合もあります。
- 使用上の注意: 必ず製品の説明書をよく読み、用法・用量を守って使用してください。持病がある方や他の薬を服用している方は、医師や薬剤師に相談してから使用しましょう。アスピリン(アセチルサリチル酸)は、出血傾向を高める可能性があるため、やけどの痛み止めとしては推奨されないことがあります。
- やけど用軟膏/クリーム(外用薬):
- 冷却後、清潔にしたやけどの部位に塗布することで、痛みを和らげ、傷を保護する効果が期待できる市販薬があります。様々な種類がありますが、やけどの状態に合わせて選ぶ必要があります。
- 冷却成分含有タイプ: スーッとした使い心地で、一時的に痛みを和らげる効果が期待できます。メントールなどが含まれているものがあります。
- 非ステロイド性抗炎症成分含有タイプ: 炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。
- 抗菌成分含有タイプ: 傷口の感染を防ぐ効果が期待できます。ただし、やけどの傷口に自己判断で抗菌薬を塗布することについては、医師によって意見が分かれる場合があります。
- ワセリンなどの保護剤: やけどの傷を乾燥から守り、刺激を軽減することで痛みを和らげる効果があります。傷口を湿潤環境に保つことで、治癒を促進する効果も期待できます。ただし、深い傷や感染している傷には適しません。
- 市販薬選びの注意点:
- ステロイド成分: ステロイドが含まれる市販薬は、やけどの状態によっては適さない場合があります。特に深いⅡ度熱傷やⅢ度熱傷には使用してはいけません。使用する場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
- 傷の状態: 水ぶくれが破れている場合は、清潔な状態を保つことが最も重要です。自己判断でいろいろな薬を塗布せず、医療機関で適切な処置を受けましょう。
- アロエなど民間療法: アロエを塗るなどの民間療法は、科学的根拠が乏しく、かえって感染やアレルギーのリスクを高める可能性があるため、推奨されません。
- 湿潤療法用の創傷被覆材(絆創膏タイプ):
- やけどの傷を乾燥させず、適度な湿潤環境に保つことで、痛みを和らげ、早くきれいに治す方法として「湿潤療法」があります。日本皮膚科学会の創傷管理の指針でも詳しく解説されているように、市販されているハイドロコロイド創傷被覆材(キズパワーパッド®のようなもの)などが利用できます。
- 効果: 傷口から出る浸出液を利用して傷を潤わせ、神経終末が空気に触れるのを防ぐことで痛みを軽減し、細胞の働きを活性化させて治癒を促進します。
- 使用上の注意: 感染している傷、深くえぐれている傷、広範囲のやけどには適しません。必ず製品の説明書をよく読み、清潔な状態で使用してください。適切に使用しないと、かえって感染を引き起こす可能性があります。
いずれの市販薬を使用する場合も、必ず製品の説明書をよく読み、用法・用量を守って使用してください。
症状が改善しない、悪化する、または気になる症状が現れた場合は、使用を中止し、速やかに医療機関を受診しましょう。
冷やしてないと痛いのはなぜ?やけどの痛みの原因
やけどの痛みが、特に冷却をやめた後や、空気に触れた際に強くヒリヒリと感じるのは、やけどによる皮膚組織の損傷と、それに伴う体の様々な反応が複合的に関わっているためです。
- 炎症反応と化学物質の放出: やけどによって皮膚の細胞が熱で破壊されると、体は損傷した組織を修復しようと「炎症反応」を起こします。この炎症の過程で、傷ついた細胞や周囲の細胞から、ヒスタミン、ブラジキニン、プロスタグランジン、サイトカインなどの様々な化学物質が放出されます。これらの物質は、血管を拡張させて血流を増やし、免疫細胞を集める働きをすると同時に、近くにある痛覚神経の終末を刺激し、痛みの信号を脳に送ります。冷却は、これらの炎症性物質の放出を抑える効果があるため、痛みが和らぐのです。
- 神経終末の露出: 特にⅠ度や浅達性Ⅱ度熱傷では、表皮が剥がれたり、水ぶくれが破れたりすることで、真皮の浅い部分に存在する痛覚神経の終末が露出します。健康な皮膚では表皮がバリアとなって神経終末を保護していますが、このバリアが失われることで、空気の流れ、温度変化、軽い接触といったわずかな刺激に対しても神経終末が過敏に反応し、強いヒリヒリとした痛み(「ズキズキ」や「ジンジン」とも表現される)を感じます。冷やしている間は、冷たさが神経の活動を鈍らせたり、空気に触れるのを防いだりすることで痛みが和らぎますが、冷やすのをやめると再び神経が刺激されやすくなるため痛みが戻ってきます。
- 傷の乾燥: 傷口が乾燥すると、露出した神経終末が直接空気に触れることになり、痛みが強くなります。適切な湿潤環境を保つことで、露出した神経終末が乾燥や外部刺激から保護され、痛みが軽減されます。湿潤療法が痛みを和らげる効果があるのはこのためです。
- 熱の残留: 冷却が不十分だったり、やけどの深さが深かったりすると、皮膚組織に熱が残存し、細胞損傷や炎症が続きます。これが痛みが長引く原因となることがあります。
- 心理的要因: 痛みは身体的な刺激だけでなく、不安、恐怖、ストレスといった心理的な要因によっても感じ方が変わることがあります。やけどの痛みに対する不安や恐怖心が強いほど、痛みをより強く感じたり、痛みが長引いたりすることがあります。リラックスしたり、痛みに意識を向けすぎないようにしたりすることも、痛みの軽減につながる場合があります。
これらの要因が複合的に作用することで、やけどのヒリヒリとした痛みは発生し、適切な処置や治癒が進むまで続くことになります。
特に神経終末の露出と炎症反応が、冷却をやめた後の痛みの主な原因と考えられます。
こんな症状は要注意!病院を受診する目安
ご家庭での応急処置や市販薬での対応は、主にⅠ度熱傷や、水ぶくれが小さく範囲も狭い軽度の浅達性Ⅱ度熱傷に限られます。
以下のような症状が見られる場合や、該当する場合は、やけどの重症度が高い可能性があり、必ず医療機関を受診する必要があります。
自己判断は危険です。
どのような場合に医療機関を受診すべきかの基準については、熱傷診療ガイドラインや消防庁の資料でも重要な点として挙げられています。
どんな時に病院に行くべき?
以下のいずれかに該当する場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
- Ⅱ度熱傷以上の可能性が高い場合:
- 水ぶくれが大きい、または広範囲にできている: 大きな水ぶくれは真皮まで損傷が及んでいる可能性が高く、感染リスクも高まります。
- 水ぶくれを破ると底が白っぽい: これは真皮の深い部分(深達性Ⅱ度熱傷)まで損傷が及んでいる可能性を示唆します。
- 皮膚が白っぽい、まだら、あるいは黒くなっている: 特に痛みが少ない、または全くない場合、深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷といった重症やけどの可能性が非常に高いです。神経が破壊されているサインかもしれません。
- 熱源が高温(沸騰した液体、火、油など)で、受傷時間が長かった場合: 熱源の温度が高かったり、皮膚に接触していた時間が長かったりすると、組織の奥深くまで熱が伝わりやすく、重症化しやすいです。
- やけどの範囲が広い場合:
- 手のひらサイズの10%以上(成人の場合): 成人で体表面積の10%以上のⅡ度熱傷、または5%以上のⅢ度熱傷は、原則として専門的な治療が必要な中等症〜重症やけどとみなされます。体液の喪失や感染のリスクが高まります。
- 顔、手、足、関節、陰部など、機能上重要な部位や見た目に関わる部位のやけど: これらの部位のやけどは、治癒後の機能障害(拘縮など)や見た目の問題(瘢痕)を起こしやすいため、専門医による慎重な治療が必要です。
- 乳幼児や高齢者のやけど: 乳幼児や高齢者は、皮膚が薄く、体温調節機能や免疫機能が未熟・低下しているため、比較的軽い範囲や深さのやけどでも重症化しやすいです。小児熱傷の診療指針でも、小児のやけどの重症度判断と専門医療機関への搬送基準が示されています。全身の1%程度(手のひらサイズ)のやけどでも、医療機関の受診を検討しましょう。
- 痛みが強い、または痛みが全くない場合:
- 適切な応急処置(冷却など)を行っても強い痛みが長時間続く: これは、やけどの深さが予想よりも深いか、炎症が強い可能性があります。
- 本来痛いはずのやけどなのに、全く痛みが感じられない: これは、Ⅲ度熱傷や深達性Ⅱ度熱傷のように神経が破壊されている可能性があり、非常に危険なサインです。
- 感染の兆候が見られる場合: やけどの傷口は細菌感染を起こしやすいです。
- 傷の周りが赤く腫れてくる、熱を持つ。
- ズキズキとした痛みが強くなる。
- 傷口から黄色や緑色の膿(うみ)が出てくる、悪臭がする。
- 発熱がある。
- リンパ節が腫れる。
- 化学薬品や電気によるやけど: これらの原因によるやけどは、見た目よりも組織の奥深くまで損傷が及んでいることが多く、特殊な合併症(不整脈、腎不全など)を引き起こすリスクもあります。必ず医療機関を受診してください。
- 煙を吸い込んだ可能性のある場合(気道熱傷): 火災現場などで煙を吸い込んだ場合、気道が熱傷を起こしている可能性があります。咳、声枯れ、息苦しさ、喘鳴(ぜんめい)、痰にススが混じるなどの症状に注意が必要です。これは命に関わる危険な状態であり、速やかに救急車を呼ぶ必要があります。
- 持病がある方: 糖尿病、心臓病、腎臓病、免疫不全などの持病がある方は、やけどの治りが悪かったり、感染や合併症を起こしやすかったりするため、必ず医療機関を受診しましょう。
- 自己判断に迷う場合: 少しでもやけどの重症度が心配な場合や、応急処置で対応できるか判断に迷う場合は、迷わず医療機関を受診してください。
受診は何科?
やけどの受診は、やけどの程度や範囲によって異なります。
- 軽度なやけど(主にⅠ度熱傷、範囲の狭い浅達性Ⅱ度熱傷): 皮膚科を受診するのが一般的です。皮膚科医は皮膚の専門家であり、やけどの診断や適切な外用薬の処方、傷の管理を行ってくれます。
- 中等度〜重症のやけど(広範囲のⅡ度熱傷、深達性Ⅱ度熱傷、Ⅲ度熱傷): 形成外科や救急科(ER)を受診する必要があります。形成外科は、やけどの傷跡をきれいに治したり、皮膚移植などの外科的な治療を行ったりする専門科です。広範囲や重症のやけどの場合は、全身管理が必要となることもあり、救急病院の救命救急センターなどが適しています。
- やけど専門の病院: 重症のやけどの場合、やけど専門の治療施設や救命救急センターを備えた総合病院を受診することが最も望ましいです。
受診する医療機関に迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談したり、地域の救急相談窓口(#7119など)に電話して指示を仰ぐのも良い方法です。
受診前に電話で症状を伝え、適切な診療科や病院を確認することをお勧めします。
特に化学薬品や電気によるやけど、煙を吸い込んだ可能性がある場合は、一刻を争う事態となることもありますので、迷わず救急車を呼びましょう。
まとめ|やけどの痛みが長引く場合は医療機関へ
やけどのヒリヒリとした痛みは、やけどの深さ(深度)によって続く期間が大きく異なります。
Ⅰ度熱傷なら数時間から数日で痛みが和らぎますが、浅達性Ⅱ度熱傷では数日~1週間程度、深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷では神経破壊により痛みが少ない、あるいは感じないこともあり、これは重症のサインです。
やけどの深度分類や重症度判断の基準については、熱傷診療ガイドラインなどで専門的に定められています。
やけどをしてしまった場合の最初の応急処置は、清潔な流水で患部を十分に冷却することです。
これは消防庁の熱傷の応急手当に関する資料でも重要視されています。
これにより、痛みが軽減され、やけどの深さが進むのを抑える効果が期待できます。
痛みが続く場合は、市販の痛み止めや、やけど用の軟膏、湿潤療法用の被覆材などで対処できることもありますが、やけどの状態をよく見て慎重に選びましょう。
湿潤療法については、日本皮膚科学会の創傷管理の指針でも推奨されています。
以下のいずれかに該当する場合は、ご家庭での対処にとどめず、速やかに医療機関を受診してください。
- 水ぶくれが大きい、または広範囲にある
- 水ぶくれの底が白っぽい、または皮膚自体が白っぽい、まだら、黒くなっている
- 痛みが非常に強いのに長時間続く、または全く痛みを感じない
- やけどの範囲が広い(特に顔、手、足、関節、陰部など機能的に重要な部位、乳幼児や高齢者の場合)
- 感染の兆候がある(赤み、腫れ、痛み増強、膿、発熱など)
- 化学薬品や電気によるやけど
- 煙を吸い込んだ可能性がある(咳、息苦しさなど)
- 持病がある方
- 自己判断に迷う場合
特に深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷では、見た目よりも重症であることや、痛みが少ないことなどが特徴であり、放置すると治癒に時間がかかったり、重い傷跡が残ったり、全身状態が悪化したりする危険があります。
乳幼児や高齢者のやけどが重症化しやすい点については、小児熱傷の診療指針や厚生労働省の家庭内事故防止ハンドブックでも注意喚起されています。
やけどの痛みが長引く場合や、上記のような重症を示唆するサインがある場合は、自己判断せず、必ず医師の診察を受けましょう。
皮膚科や形成外科での早期の適切な診断と治療が、痛みの軽減、傷の早期回復、そして後遺症(傷跡など)を最小限に抑えることにつながります。
免責事項: 本記事の情報は一般的な知識として提供されており、個々のやけどに対する診断、治療、医学的なアドバイスではありません。
やけどを負った際は、必ずご自身の状況を医療専門家(医師や薬剤師など)に相談し、その指示に従ってください。
本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じたいかなる結果についても、一切の責任を負いかねます。