妊娠初期の腹痛は、多くの妊婦さんが経験する症状の一つです。
妊娠したこと自体を実感する最初のサインとして感じる方もいれば、「何か異常があるのでは?」と不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
チクチク、ズキズキ、ギューギュー、引っ張られるような痛みなど、その感じ方も人それぞれで、「これは大丈夫な痛み?」「すぐに病院に行った方がいい?」と迷うことも少なくありません。
妊娠初期の腹痛は、多くの場合、妊娠による体の変化に伴う生理的なものですが、流産や子宮外妊娠などの異常が原因となっている可能性も考えられます。
この記事では、妊娠初期に起こりうる腹痛の主な原因や種類、痛みの特徴ごとの解説、そして最も気になる「危険な腹痛」を見分けるサインについて、医師監修のもと詳しく解説します。
さらに、自分でできる対処法や、どのような場合に医療機関を受診すべきかについてもご紹介します。この記事が、妊娠初期の腹痛に関する不安を解消し、安心してマタニティライフを過ごすための一助となれば幸いです。
妊娠初期の腹痛の原因や対処法について、さらに詳しくは、こちらの記事も参考にしてください。
妊娠初期の腹痛 なぜ起こる?主な原因
妊娠初期に腹痛が起こる原因は様々ですが、その多くは妊娠によってお母さんの体が大きく変化することに伴う生理的なものです。
しかし、中には注意が必要な病気が隠れている可能性もゼロではありません。まずは、腹痛の主な原因を理解することから始めましょう。
子宮が大きくなることによる生理的な痛み
妊娠初期、特に妊娠4週~7週頃から、受精卵が着床し、赤ちゃんが成長を始めるとともに、子宮は少しずつ大きくなり始めます。
この子宮の成長に伴って、周囲の組織が引っ張られたり、子宮自体が収縮したりすることで腹痛を感じることがあります。これは、赤ちゃんを迎えるために体が変化している証拠であり、ほとんどの場合は心配のない生理的な痛みです。
子宮収縮による腹痛(チクチク、ギューギュー)
子宮は筋肉でできた臓器であり、妊娠中は大きくなるだけでなく、時には収縮を繰り返します。妊娠初期に見られる軽い子宮収縮は、生理的なものとされており、多くの場合、一時的なものです。この収縮による痛みは、「チクチク」「シクシク」といった軽い痛みや、「生理痛のようなギューッとした感じ」として感じられることがあります。多くの場合、しばらく安静にしていると落ち着きます。
この子宮の収縮は、妊娠のごく初期、まだお腹の大きさが目立たない時期から起こりえます。特に、体を動かした後や、立ちっぱなしで疲れた時などに感じやすいという方もいます。痛みの程度は比較的軽く、持続時間も短いことが特徴です。もし、痛みが強くなったり、規則的なものになったりする場合は注意が必要ですが、一時的な軽い収縮であれば、通常は生理的な反応と考えられます。
円靭帯が引っ張られる痛み(牽引痛、左だけ/右だけ)
子宮は、お腹の中でいくつかの靭帯によって支えられています。その中でも「円靭帯(えんじんたい)」と呼ばれる靭帯は、子宮の左右両側から伸びており、子宮が大きくなるにつれてこの靭帯が引っ張られます。円靭帯は鼠径部(足の付け根に近い部分)につながっているため、この靭帯が引っ張られることで、お腹の左右どちらか一方、あるいは両方の下腹部や鼠径部に痛みを感じることがあります。
円靭帯による痛みは、「引っ張られるような」「つっぱるような」「チクチク」とした感じであることが多いです。特に、寝返りを打ったり、急に立ち上がったり、くしゃみや咳をしたりするなど、お腹に力が入ったり急な動きをしたりした際に痛みが走りやすいという特徴があります。この痛みは、多くの場合一時的で、痛む場所も左右どちらか一方に偏ることがあります。「左側だけ痛い」「右側だけズキッとした」といった訴えは、円靭帯の牽引痛である可能性が高いです。この痛みも、子宮の成長に伴う生理的なものであり、妊娠が進むにつれて体が慣れてくるか、靭帯が十分に伸びて痛みが和らぐことが多いです。
ホルモンバランスの変化による消化器系の不調
妊娠すると、女性ホルモンの分泌量が大きく変化します。特に、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が増えることで、お母さんの体には様々な変化が起こります。このプロゲステロンには、妊娠を維持するために子宮の収縮を抑える働きがありますが、同時に腸の動きを鈍らせる作用もあります。このホルモンバランスの変化が、消化器系の不調を引き起こし、腹痛の原因となることがあります。
便秘やガス溜まりによる腹痛
プロゲステロンの作用により、腸の蠕動(ぜんどう)運動が低下すると、便が腸内に停滞しやすくなり、便秘になりやすくなります。便秘によって溜まった便が腸を圧迫したり、腸内でガスが発生しやすくなったりすることで、腹部の膨満感や痛みを感じることがあります。この痛みは、「お腹が張る」「差し込むような痛み」「ゴロゴロする」といった感じであることが多いです。食後や特定の時間帯に悪化することもあります。
便秘は、妊娠初期だけでなく妊娠期間を通して多くの妊婦さんが経験する症状です。ホルモンの影響に加え、つわりによる食生活の変化や、運動不足なども便秘の原因となります。便秘による腹痛は、排便があると和らぐことが一般的です。
消化不良による腹痛
つわりによって食欲が変化したり、特定の食べ物を受け付けなくなったり、あるいは消化の悪いものを食べてしまったりすることで、消化不良を起こすこともあります。消化不良によって胃や腸に負担がかかると、腹痛や吐き気、胃もたれなどの症状が現れることがあります。
特に、妊娠初期は体が急激な変化に慣れていないため、少しの食事の変化や体の疲れが消化器系の不調に繋がりやすい時期です。消化不良による腹痛は、食事との関連が考えられる場合が多く、食後にみぞおちのあたりが痛くなったり、お腹全体がもやもやしたりするような痛みとして感じられることがあります。
その他の原因
上記以外にも、妊娠初期の腹痛の原因となりうるものはいくつかあります。
- 着床痛: 受精卵が子宮内膜に着床する際に起こる痛みが、ごく稀に感じられることがあります。チクチクとした短い痛みとして感じられることがありますが、これは妊娠の兆候の一つであり、病的なものではありません。ただし、全ての人が感じるわけではなく、医学的に明確に定義されている症状ではありません。
- 膀胱炎: 妊娠中はホルモンの影響や、子宮が膀胱を圧迫することなどにより、膀胱炎にかかりやすくなります。膀胱炎では、下腹部の痛みや不快感に加え、排尿時の痛み、頻尿、残尿感などの症状が現れます。腹痛だけではなく、排尿に関する症状がある場合は膀胱炎の可能性も考えられます。
- 子宮や卵巣の病気: 妊娠前から存在していた子宮筋腫や卵巣嚢腫などが、妊娠によって刺激されたり大きくなったりすることで痛みを引き起こすことがあります。また、卵巣嚢腫が捻じれてしまう「卵巣嚢腫捻転」は、激しい腹痛を伴う緊急性の高い病気です。
- 妊娠に関係のない消化器疾患: 盲腸(虫垂炎)や胃腸炎、胆石症など、妊娠とは直接関係のない消化器系の病気が妊娠中に起こることもあります。これらの病気による腹痛は、妊娠による生理的な腹痛とは異なる特徴を持つことが多いです。
これらの原因のうち、生理的な腹痛と、そうでない病気による腹痛を見分けることが非常に重要になります。次に、痛みの種類ごとに、それが何を意味する可能性があるのかを詳しく見ていきましょう。
妊娠初期の腹痛 どんな種類がある?痛みの特徴別解説
妊娠初期の腹痛は、その感じ方や痛む場所によって原因が異なることがあります。ここでは、妊婦さんがよく訴える腹痛の種類ごとに、考えられる原因やその特徴について詳しく解説します。
下腹部の痛み(チクチク、ズキズキ)
妊娠初期に最も多く感じられるのが、下腹部の痛みです。この痛みは、生理的なものから注意が必要なものまで様々ですが、痛みの性質である「チクチク」や「ズキズキ」といった表現は、原因を探る上で重要なヒントになります。
チクチクとした痛み
下腹部全体や特定の場所が「チクチク」あるいは「シクシク」と軽く痛む場合、多くは子宮が大きくなることによる生理的な痛みや、円靭帯の牽引痛であることが考えられます。
- 特徴: 痛みの程度は比較的軽く、持続時間も短いことが多いです。歩いたり座ったり、体勢を変えた際に一時的に強くなることもありますが、安静にすると和らぎます。出血を伴わないことが一般的です。
- 考えられる原因: 子宮の成長、円靭帯の牽引、着床痛(稀)。
- 対応: まずは安静にして様子を見ましょう。痛みがすぐに治まるようであれば、生理的な痛みである可能性が高いです。
ズキズキとした痛み
「ズキズキ」「キリキリ」といった、比較的強く感じる痛みの場合、注意が必要です。痛みの強さや持続時間、他の症状の有無によって、生理的な痛みか病的な痛みかを判断します。
- 特徴: 痛みが比較的強く、持続時間が長い場合があります。痛む場所が一点に集中していたり、段々と痛みが強まったりする場合は注意が必要です。
- 考えられる原因: 生理的な子宮収縮(強めの場合)、便秘やガス溜まり(差し込むような痛み)、あるいは初期流産や子宮外妊娠、卵巣の問題など、注意が必要な病気の可能性もゼロではありません。
- 対応: 痛みが強い場合や、時間とともに悪化する場合は、すぐに医療機関に相談しましょう。
左側だけ/右側だけの腹痛
お腹の左右どちらか一方だけに痛みを感じる場合、特に妊娠初期にはよく見られます。これも原因は様々ですが、円靭帯の牽引痛である場合が多いです。
左側だけの痛み
左側の特に下腹部や鼠径部が痛む場合、以下のような原因が考えられます。
- 円靭帯の牽引痛: 左側の円靭帯が引っ張られることで起こります。急な動きで痛みが出やすいのが特徴です。
- 便秘: S状結腸など、左側にある腸に便が溜まっていることで痛むことがあります。
- 卵巣の問題: 左側の卵巣に嚢腫などがあり、それが原因で痛むこともあります。特に卵巣嚢腫捻転の場合は激痛を伴います。
右側だけの痛み
右側の特に下腹部や鼠径部が痛む場合、以下のような原因が考えられます。
- 円靭帯の牽引痛: 右側の円靭帯が引っ張られることで起こります。
- 盲腸(虫垂炎): 右下腹部の痛みの代表的な原因です。妊娠中でも起こりうる病気です。痛みが時間とともに移動したり(初期はみぞおちなど)、吐き気や発熱を伴ったりすることがあります。
- 卵巣の問題: 右側の卵巣に嚢腫などがあり、痛むことがあります。卵巣嚢腫捻転は激痛です。
- 胆石症: 妊娠中は胆石ができやすくなったり、症状が出やすくなったりすることがあります。通常は右上腹部の痛みですが、関連痛として右下腹部に感じることもあります。
左右どちらか一方の痛みが一時的で軽度であれば、円靭帯の牽引痛など生理的な可能性が高いです。しかし、痛みが強い、持続する、他の症状を伴う場合は、片側だけの痛みでも注意が必要です。
生理痛のような腹痛
妊娠初期に「生理が始まる前のような」「生理痛に似た」腹痛を感じる妊婦さんは少なくありません。これは、子宮が収縮する際に感じる痛みが、生理痛のメカニズムに似ているためです。
- 特徴: 下腹部が「重い」「ギューッとする」「しくしくする」といった生理痛に似た痛み。
- 考えられる原因: 生理的な子宮収縮。しかし、痛みが強くなったり、出血を伴ったりする場合は、初期流産の可能性も考慮する必要があります。
- 対応: 安静にして様子を見ましょう。痛みが落ち着けば問題ないことが多いですが、出血があったり痛みが続いたりする場合はすぐに医療機関に連絡しましょう。
引っ張られるような腹痛
特に急な体勢の変化や動きをした際に、「お腹の中が引っ張られる」「つっぱる」ような痛みを感じる場合、多くは円靭帯の牽引痛です。
- 特徴: 特定の動きや体勢で瞬間的に痛みが走る。痛む場所は下腹部の左右どちらか、あるいは両側や鼠径部。
- 考えられる原因: 円靭帯の牽引。
- 対応: 急な動きを避け、痛みが起きたらその場で動きを止め、お腹を優しく支えるようにしましょう。多くの場合、すぐに痛みは和らぎます。
下痢を伴う腹痛
腹痛と共に下痢の症状がある場合、食べ過ぎや冷え、ストレスによる一時的な消化不良の可能性もあれば、感染性胃腸炎や食中毒の可能性も考えられます。
- 特徴: お腹の痛みと共に、水っぽい便が出る。吐き気や嘔吐、発熱などを伴うこともある。
- 考えられる原因: 感染性胃腸炎、食中毒、冷え、ストレス、妊娠による消化機能の変化。
- 対応: 脱水症状を起こさないように、水分補給をしっかりと行いましょう。症状が強い場合や、発熱、血便などがある場合は医療機関を受診してください。妊娠中は使える薬に制限があるため、自己判断で市販薬を服用するのは避けましょう。
夜間に目が覚めるほどの腹痛
痛みの強さは、危険性を判断する上で重要な指標の一つです。夜間に眠りを妨げられるほどの強い痛みは、生理的な痛みではない可能性が高く、注意が必要です。
- 特徴: 痛みが強く、安静にしていても改善しない。夜中に痛みで目が覚めてしまう。
- 考えられる原因: 子宮外妊娠、卵巣嚢腫捻転、切迫流産・初期流産、盲腸など、緊急性の高い病気の可能性も考えられます。
- 対応: 痛みが強い場合は、時間帯に関わらずすぐに医療機関に連絡し、指示を仰ぎましょう。夜間や休日であれば、救急外来の受診が必要となる場合もあります。
痛みの種類や特徴を理解することは大切ですが、最も重要なのは「いつもと違う」と感じるかどうかです。ご自身の体の変化に注意を払い、少しでも気になることがあれば迷わず医療機関に相談することが大切です。
要注意!危険な妊娠初期の腹痛を見分けるサイン
妊娠初期の腹痛の多くは生理的なものですが、中には早期の対応が必要な病気のサインである場合もあります。流産や子宮外妊娠などの異常が原因となっている可能性も考えられますため、危険な腹痛を見分けるサインを知っておくことは、お母さんと赤ちゃんの健康を守る上で非常に重要です。
出血を伴う腹痛(初期流産の可能性)
妊娠初期の腹痛で最も注意すべきサインの一つが、出血を伴う場合です。腹痛に出血が加わると、切迫流産や初期流産の可能性が考えられます。
- 特徴: 下腹部の痛みと共に、性器からの出血がある。出血の色は鮮血や茶褐色など様々で、量も少量から生理時程度まで幅があります。痛みは生理痛のような鈍痛から、周期的な強い痛みまで色々です。
- 考えられる原因: 切迫流産、進行流産(初期流産)。
- 対応: 出血を伴う腹痛がある場合は、出血量に関わらず、また痛みの程度に関わらず、すぐに医療機関に連絡し、受診しましょう。安静を指示されることがほとんどですが、状況によっては緊急の処置が必要になることもあります。
我慢できないほどの激痛
経験したことのないような、非常に強い腹痛(激痛)は、緊急性の高い病気のサインである可能性が高いです。
- 特徴: 立っていられないほど、あるいは痛みで声が出てしまうほどの強い痛み。
- 考えられる原因: 子宮外妊娠の破裂、卵巣嚢腫捻転、盲腸炎(虫垂炎)の悪化など。これらの病気は、迅速な診断と治療が必要です。
- 対応: 我慢できないほどの激痛がある場合は、救急車を呼ぶか、すぐに自分で医療機関の救急外来を受診してください。
痛みが続く・強くなる場合
一時的な軽い痛みであれば生理的なものである可能性が高いですが、痛みが長時間続いたり、時間とともに痛みが強くなったりする場合は注意が必要です。
- 特徴: 安静にしても痛みが治まらない。あるいは、時間が経つにつれて痛みの程度が増している。
- 考えられる原因: 生理的な痛みが強い場合もありますが、切迫流産や子宮外妊娠、あるいは妊娠とは関係のない病気が進行している可能性も考えられます。
- 対応: 痛みが続く、あるいは強くなる場合は、診療時間内であればかかりつけ医に連絡し、指示を仰ぎましょう。夜間や休日であれば、救急外来に相談することも検討してください。
腹痛以外の症状(発熱など)がある場合
腹痛だけでなく、他の症状を伴う場合も注意が必要です。
- 特徴: 腹痛に加えて、発熱、吐き気や嘔吐、悪寒、冷や汗、めまい、おりものの異常(量、色、臭い)、排尿時の痛みなどがある。
- 考えられる原因: 感染症(膀胱炎、胃腸炎など)、卵巣嚢腫捻転(吐き気を伴うことが多い)、盲腸炎(発熱や吐き気を伴うことがある)、敗血症など。
- 対応: 腹痛にこれらの症状が加わる場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。
初期流産はどんな痛み?
初期流産(妊娠12週未満の流産)は、腹痛と出血を伴うことが典型的です。痛み方は個人差がありますが、一般的には以下のような特徴があります。
- 生理痛より強い痛み: 生理痛に似た、下腹部のギューッとする痛みや周期的な痛みを感じることが多いですが、生理痛よりも痛みが強い、あるいは鎮痛剤が効かないほどの痛みになることがあります。
- 周期的な痛み: 子宮が内容物を外に出そうとする際に収縮するため、陣痛のように痛みの波がくることがあります。強い痛みが来ては遠のき、また来る、といった繰り返しです。
- 出血を伴う: 多くの場合、腹痛に先行するか、同時に出血が始まります。出血は最初は少量でも、時間とともに量が増えたり、レバー状の塊(凝血塊や胎嚢など)が混じったりすることがあります。
- 痛みの持続: 生理的な腹痛が一時的なのに対し、流産による痛みはある程度持続したり、強弱を繰り返しながら続いたりすることがあります。
ただし、出血がなくても腹痛が強い場合や、痛みが続く場合は、初期流産以外の注意が必要な病気の可能性も考えられます。不安な時は、症状が軽い場合でも医療機関に相談することが大切です。
ここでは、生理的な腹痛と注意が必要な腹痛の特徴を比較してみましょう。
特徴 | 生理的な腹痛 | 注意が必要な腹痛 |
---|---|---|
痛みの強さ | 比較的軽い(チクチク、シクシク、軽いギューッ) | 強い(ズキズキ、キリキリ、我慢できない激痛) |
痛みの性質 | 一時的、急な動きで出る、安静で和らぐ | 持続する、時間とともに強くなる、周期的な波がある、安静でも改善しない |
痛む場所 | 下腹部全体、左右どちらか、鼠径部 | 一点集中、特定の場所 |
出血 | なし | あり(少量~多量、鮮血、茶褐色など) |
その他の症状 | なし | 発熱、吐き気、嘔吐、悪寒、めまい、おりものの異常、排尿時の痛みなど |
対応 | 安静にして様子見、セルフケア | すぐに医療機関に相談・受診(緊急の場合は救急外来) |
この表はあくまで目安であり、全てのケースに当てはまるわけではありません。少しでも気になる点があれば、自己判断せず、必ず医療機関に相談することが重要です。
妊娠初期の腹痛 自分でできる対処法・緩和策
妊娠初期の腹痛で、すぐに医療機関を受診する必要がないと判断できる場合や、受診までの間に少しでも痛みを和らげたい場合に、自分でできる対処法や緩和策をご紹介します。ただし、これらの対処法はあくまで「生理的な腹痛」が疑われる場合に限ります。危険なサインがある場合は、これらの対処よりも医療機関への受診を優先してください。
まずは安静にする
腹痛を感じたら、まずは無理をせず安静にすることが最も大切です。座るか、横になるなど、楽な姿勢で体を休ませましょう。
- 効果: 安静にすることで、子宮への血流が改善されたり、子宮の収縮が落ち着いたりすることが期待できます。また、お腹の筋肉の緊張が和らぐことでも痛みが軽減されることがあります。
- 具体的な方法: ソファやベッドに横になり、体を締め付ける服装は避けてゆったりと過ごしましょう。可能であれば、お腹を圧迫しないように横向きになるのがおすすめです。
体を温める
体を温めることで、血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが緩和されることがあります。特に、冷えが原因と考えられる腹痛や、生理痛に似た鈍痛には効果が期待できます。
- 効果: 血行促進、筋肉の弛緩、リラックス効果。
- 具体的な方法:
- お腹を温める: 腹巻きを着用する、温かいタオルを当てる、カイロを貼る(ただし、熱すぎると低温やけどの危険があるため、衣類の上から貼るなど注意が必要)。
- 体を温める飲み物: 白湯やノンカフェインのハーブティーなどを飲む。
- 入浴: 体調が良ければ、ぬるめのお湯にゆっくり浸かるのも良いでしょう。ただし、熱すぎるお湯や長湯は体に負担をかける可能性があるため注意が必要です。
- 注意点: 発熱を伴う腹痛の場合は、体を温めすぎると逆効果になることもあります。また、出血がある場合は、温めることで血行が良くなり出血が増える可能性も考えられるため、温めるのは避けた方が良いでしょう。不安な場合は医師に相談してください。
食生活の工夫(便秘解消など)
便秘やガス溜まりによる腹痛が疑われる場合は、食生活を見直すことが大切です。
- 効果: 腸内環境の改善、便通の促進、ガス溜まりの軽減。
- 具体的な方法:
- 水分をこまめに摂取する: 便を柔らかくするために、意識して水分を摂りましょう。
- 食物繊維を多く摂る: 野菜、果物、きのこ類、海藻類、穀類などを積極的に食事に取り入れましょう。ただし、急に大量に摂るとガスが発生しやすくなることもあるため、少量から始めるのが良いでしょう。
- 発酵食品を摂る: ヨーグルト、納豆、味噌などの発酵食品は、腸内環境を整えるのに役立ちます。
- 適度な運動: 体調が良い日は、軽い散歩など無理のない範囲で体を動かすことで、腸の動きが活発になります。
- 規則正しい生活: 毎朝同じ時間にトイレに行く習慣をつけるなど、生活リズムを整えることも大切です。
- 注意点: つわりで食事が偏りがちな時期ですが、可能な範囲でバランスの取れた食事を心がけましょう。医師から食事制限の指示がある場合は、それに従ってください。
ストレスを避ける
ストレスは、自律神経の乱れを引き起こし、体の様々な不調の原因となります。腹痛も例外ではありません。精神的な緊張がお腹の張りに繋がることもあります。
- 効果: 心身のリラックス、自律神経の安定、筋肉の緊張緩和。
- 具体的な方法:
- 休息を十分に取る: 疲労はストレスを増大させます。十分な睡眠時間を確保しましょう。
- リラックスできる時間を作る: 好きな音楽を聴く、読書をする、アロマを楽しむなど、ご自身がリラックスできる時間を作りましょう。
- 軽い運動: 体調が良ければ、ストレッチやマタニティヨガなど、無理のない範囲で体を動かすこともストレス解消に繋がります。
- 不安を解消する: 腹痛の原因が分からず不安な場合は、抱え込まずにパートナーや家族、友人、あるいは医療機関に相談しましょう。
これらの対処法は、生理的な腹痛に対しては有効な場合があります。しかし、痛みが強い場合や、ご紹介した危険なサインがある場合は、これらの対処に時間をかけるのではなく、速やかに医療機関を受診することが重要です。
妊娠初期の腹痛 いつ受診すべき?受診の目安
妊娠初期の腹痛で最も悩むのが、「病院に行くべきか、もう少し様子を見るべきか」という判断です。ここでは、どのような場合に医療機関を受診すべきか、具体的な目安をご紹介します。迷った場合は、まずかかりつけの産婦人科に電話で相談してみるのが最も確実な方法です。
緊急性の高い腹痛の場合(すぐに受診)
以下の症状がある場合は、緊急性が高いため、時間帯に関わらずすぐに医療機関(産婦人科、あるいは救急外来)を受診してください。
- 出血を伴う激しい腹痛: 特に出血量が多い場合や、レバー状の塊が出る場合。初期流産や子宮外妊娠破裂などの可能性が考えられます。
- 我慢できないほどの激痛: 安静にしても全く改善しない、立っていられないほどの強い痛み。
- 痛みが急速に悪化している: 時間とともに痛みがどんどん強くなっている場合。
- 腹痛に加えて以下の症状がある場合:
- 多量の出血
- 意識が朦朧とする、めまい、冷や汗(貧血の可能性)
- 高熱(38℃以上)
- 激しい吐き気や嘔吐
- 性器からの悪臭のあるおりもの
- 強い腰痛
- 排尿時の激しい痛みや血尿
これらの症状は、母体や赤ちゃんにとって危険な状態を示唆している可能性があります。迷わず、すぐに医療機関に連絡し、指示を仰いでください。夜間や休日の場合は、休日・夜間診療を行う医療機関や救急外来の受診が必要となることがあります。
心配な腹痛の場合(診療時間内に相談)
緊急性は高くないかもしれないが、痛みが気になる、不安がある、といった場合は、診療時間内にかかりつけの産婦人科に電話で相談したり、受診したりしましょう。
- 出血を伴う腹痛(少量の場合): 少量でも出血を伴う腹痛は、切迫流産の可能性が考えられます。自己判断せず、医療機関に相談してください。
- 痛みが続く・強弱を繰り返す: 我慢できないほどではないが、痛みが長時間続いたり、痛みの波があったりする場合。
- 安静にしても改善しない痛み: 安静にしたり温めたりしても痛みが和らがない場合。
- 痛みの性質がいつもと違う: これまで経験したことのない種類の痛みや、不安を感じる痛みの場合。
- 腹痛以外の症状がある(比較的軽度): 軽い吐き気や食欲不振、微熱などを伴う場合。
これらの場合は、緊急性は低いかもしれませんが、医師の診察を受けて原因を特定し、適切なアドバイスをもらうことが安心に繋がります。
いつもと違うと感じたら医師に相談を
最も重要な受診の目安は、「いつもと違うと感じたら」という感覚です。妊娠中は体の変化に敏感になります。ご自身の体調を最もよく理解しているのはご自身です。「この痛みは大丈夫だろうか?」と少しでも不安を感じたり、「これまでの腹痛とは何かが違う」と感じたりした場合は、迷わずかかりつけの産婦人科に電話で相談しましょう。
医療機関に連絡する際は、以下の情報を具体的に伝えられるように準備しておくとスムーズです。
- 妊娠週数
- いつから腹痛があるか
- 痛みの場所(下腹部全体、右側だけ、左側だけなど)
- 痛みの種類(チクチク、ズキズキ、ギューギュー、引っ張られるようなど)
- 痛みの強さ(我慢できるか、できないか、夜眠れるかなど)
- 痛みの変化(続いているか、強くなっているか、弱くなっているかなど)
- 出血の有無(ある場合は量、色、塊の有無)
- 腹痛以外の症状(発熱、吐き気、おりものの変化など)
- これまでの経過や既往歴
医師や看護師は、これらの情報を元に、受診の必要性や緊急度を判断してくれます。自己判断で様子を見すぎて、受診が遅れてしまうことだけは避けたいものです。
【まとめ】妊娠初期の腹痛は生理的なものが多いが、注意が必要なケースも
妊娠初期の腹痛は、子宮が大きくなることやホルモンバランスの変化に伴う生理的なものである場合が多く、過度に心配する必要はありません。チクチクとした痛みや、急な動きで起こる引っ張られるような痛みは、多くの場合、時間の経過と共に自然に和らいでいきます。安静にしたり、体を温めたり、便秘を解消するような工夫をしたりすることで痛みが緩和されることもあります。
しかし、腹痛の中には、切迫流産、子宮外妊娠、卵巣の問題、あるいは妊娠とは関係のない病気が隠れている可能性もゼロではありません。妊娠初期の腹痛の原因や対処法についての情報も参考にしながら、特に、出血を伴う腹痛、我慢できないほどの激痛、痛みが続く・強くなる、発熱などの他の症状を伴う場合は、注意が必要なサインです。これらのサインがある場合は、迷わず速やかに医療機関を受診してください。
妊娠初期は、体の変化に加えてつわりなどの不快な症状が現れやすく、精神的にも不安定になりやすい時期です。腹痛が加わるとさらに不安が増すことでしょう。この記事でご紹介した情報を参考に、ご自身の痛みが生理的なものか、注意が必要なものかの目安を知っていただくことは大切です。
しかし、最終的な判断は、ご自身の感覚と医療専門家の意見に委ねるべきです。「いつもと違う」「何か変だな」「不安だ」と感じたら、どんな些細なことでもかまいません。かかりつけの産婦人科医や助産師に相談しましょう。早めに相談することで、安心が得られたり、もしもの場合にも早期に対応できたりします。
お腹の中で赤ちゃんが育っていく大切な時期です。不安を抱え込まず、体の声に耳を傾けながら、安心してマタニティライフを過ごしてください。
免責事項
本記事は、妊娠初期の腹痛に関する一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する診断や治療を推奨するものではありません。読者の皆さまご自身の健康状態については、必ず医師またはその他の医療専門家にご相談ください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果に関しても、当方では一切の責任を負いかねます。