いびきは多くの人が経験する現象ですが、「疲れているだけ」「よくあること」と軽視されがちです。しかし、習慣的に大きないびきをかいたり、いびきが途中で止まったりする場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの病気が隠れている可能性があります。SASを放置すると、高血圧や心筋梗塞、脳卒中などの重篤な病気につながるリスクが高まります。いびきが気になる、家族にいびきを指摘されたという方は、一度専門の医療機関を受診することをおすすめします。この記事では、いびきで病院を受診すべき目安、何科に行けば良いか、検査・治療法、費用、病院の選び方について詳しく解説します。
いびきで病院を受診すべきか?判断の目安
いびきは、睡眠中に空気の通り道(気道)が狭くなることで、呼吸の際に粘膜が振動して発生する音です。一時的ないびきは、風邪による鼻づまりや疲労、飲酒などが原因で起こることがあります。しかし、毎晩のようにいびきをかく場合や、いびきの音が非常に大きい、いびきが途中で止まって静かになり、しばらくしてから大きな呼吸(あえぎ呼吸)をするなどの場合は、注意が必要です。
危険ないびき(睡眠時無呼吸症候群)のサイン
単なるいびきと異なり、病的な「危険ないびき」は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の代表的な症状です。SASとは、睡眠中に10秒以上の呼吸停止が1時間あたり5回以上起こり、そのために熟眠できず、日中の異常な眠気を伴う状態を指します(出典:千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学)。SASでは、睡眠中に何度も呼吸が止まる、または浅くなる状態が繰り返されます。この呼吸停止や低呼吸によって体内の酸素濃度が低下し、様々な健康問題を引き起こします。
SASの主なサインには、いびき以外にも以下のようなものがあります。
- 家族や同居人に、睡眠中に息が止まっている、または呼吸が乱れていると指摘される
- 大きないびきをかく(特に断続的で不規則ないびき)
- 日中の強い眠気(会議中や運転中など、活動的な状況でも我慢できないほどの眠気)
- 起床時の頭痛
- 朝起きたときに喉が痛い、または渇いているといった症状も、睡眠中に口呼吸になっているサインであり、いびきをかく方に多く見られます(出典:友広会マガジン)。
- 熟睡感がない、夜中に何度も目が覚める
- 集中力や記憶力の低下
- 倦怠感、疲労感
- 性格の変化(イライラしやすくなるなど)
- 夜間の頻尿
- 勃起障害(ED)
これらのサインが複数当てはまる場合は、SASの可能性が高いため、速やかに医療機関を受診することを強く推奨します。特に日中の強い眠気は、居眠り運転など重大な事故につながる危険性があるため、放置してはいけません。
いびきを放置するリスク
「たかがいびき」と放置していると、深刻な健康リスクにさらされる可能性があります。特に睡眠時無呼吸症候群の場合、睡眠中に体が酸素不足になり、心臓や血管に大きな負担がかかります。
SASを放置することで起こりうる主なリスクは以下の通りです。
- 高血圧:SAS患者の多くが高血圧を合併しており、治療によって血圧が改善することが多いです。
- 糖尿病:SASはインスリン抵抗性を高め、血糖コントロールを悪化させる要因となります。
- 不整脈:特に致死性の高い不整脈のリスクが高まるとされています。
- 心筋梗塞・狭心症:心臓への負担が増大し、虚血性心疾患の発症リスクが上昇します。
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血):脳血管障害のリスクも高まります。
- 交通事故・産業事故:日中の強い眠気による集中力低下や居眠りが原因で、事故を起こす危険性が著しく増加します。
- メタボリックシンドロームの悪化:肥満、高血圧、脂質異常症、高血糖などが複合的に悪化します。
- QOL(生活の質)の低下:日中の眠気や倦怠感により、仕事や日常生活に支障が出ます。
これらのリスクを回避し、健康寿命を延ばすためにも、危険ないびきやSASのサインが見られる場合は、早期に病院で適切な診断と治療を受けることが極めて重要です。
いびきは病院の何科を受診すべき?
いびきや睡眠時無呼吸症候群の診察や治療を行っている診療科は複数あります。ご自身のいびきの状況や、考えられる原因、合併症などによって、適した診療科が異なります。
主な診療科としては、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、そして睡眠外来(または睡眠センター)があります。
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科は、鼻、喉、耳といった器官の専門家です。いびきの原因の多くは、これらの部位の形態的な問題による気道の狭窄です。
- 適しているケース:
- 鼻炎や副鼻腔炎による鼻づまりがひどい場合。
- 扁桃腺やアデノイドが大きい(特に子供のいびきで多い原因)。
- 舌や軟口蓋の形状に問題がある可能性がある場合。
- 鼻や喉の手術療法を検討したい場合。
耳鼻咽喉科では、内視鏡などを使って鼻や喉の奥の状態を詳しく観察し、いびきの原因となっている形態的な問題がないかを確認します。必要に応じて、簡易検査や連携施設での精密検査を手配し、診断に応じて鼻や喉の治療(薬物療法や手術)を行います。
呼吸器内科
呼吸器内科は、肺や気管支など、呼吸器系の疾患全般を専門としています。睡眠時無呼吸症候群は、呼吸調節の異常や気道の閉塞によって引き起こされるため、呼吸器内科で専門的な診断・治療が行われます。
- 適しているケース:
- いびきだけでなく、日中の強い眠気や息苦しさなど、呼吸に関する症状が顕著な場合。
- SASの可能性が高いと自己判断している、または他の医療機関で指摘された場合。
- CPAP療法などの呼吸管理を主体とした治療を希望する場合。
- 高血圧や糖尿病などの合併症がある、またはそれらのリスクが高い場合。
呼吸器内科では、睡眠中の呼吸状態や酸素濃度を評価するための検査(簡易検査、PSG検査)を実施し、SASの診断を行います。診断確定後は、CPAP療法を中心に、患者さんの状態に合わせた治療計画を立て、継続的な管理を行います。
睡眠外来
睡眠外来(または睡眠センター)は、いびきや睡眠時無呼吸症候群だけでなく、不眠症、むずむず脚症候群、ナルコレプシーなど、様々な睡眠障害を専門的に診る診療科です。複数の診療科の専門医(呼吸器内科医、耳鼻咽喉科医、精神科医、神経内科医、歯科医師など)が連携して診療にあたる施設もあります。
- 適しているケース:
- いびき以外の複雑な睡眠に関する悩みを抱えている場合。
- 他の診療科を受診したが、診断や治療が困難だった場合。
- より専門的かつ総合的なアプローチで診断・治療を受けたい場合。
- 稀な睡眠障害の可能性も考慮したい場合。
睡眠外来では、詳細な問診に加えて、専門的な睡眠検査(PSG検査)を積極的に行い、正確な診断を目指します。診断に基づき、CPAP療法、口腔内装置、手術療法、生活習慣指導、薬物療法など、幅広い選択肢の中から最適な治療法を提案・提供します。睡眠障害全般に精通しているため、いびき以外の問題も同時に解決できる可能性があります。
どの科を選べば良いか
ご自身のいびきの状況や症状に応じて、どの科を選ぶべきか判断に迷うこともあるでしょう。以下は、科を選ぶ際の参考になるポイントです。
いびきの特徴や随伴症状 | おすすめの診療科 |
---|---|
主に鼻づまりや喉の痛み、形態的な問題(子供のいびき) | 耳鼻咽喉科 |
大きないびき、睡眠中の呼吸停止、日中の強い眠気 | 呼吸器内科 または 睡眠外来 |
いびき以外の様々な睡眠に関する悩み(不眠など) | 睡眠外来 |
特定の原因が不明、または複数の原因が考えられる | まずは 呼吸器内科 または 睡眠外来 を検討 |
かかりつけ医がいる場合 | かかりつけ医に相談し、紹介状を書いてもらう |
迷う場合は、まずは総合病院の呼吸器内科や耳鼻咽喉科を受診してみるのも良いでしょう。また、近年は「いびき・睡眠外来」を標榜しているクリニックも増えています。こうした専門クリニックも選択肢に入れると良いでしょう。
重要なのは、「どこの科に行けば良いかわからないから」と受診を先延ばしにしないことです。まずは一歩踏み出して、医療機関に相談することが大切です。
病院でのいびき・睡眠時無呼吸症候群の検査
いびきが睡眠時無呼吸症候群(SAS)によるものか、その重症度を診断するためには、専門的な検査が必要です。主な検査には、簡易検査と精密検査(PSG検査)があります。
簡易検査(自宅でできる検査)
簡易検査は、自宅で手軽に行える検査です。専用の小型機器を装着して、一晩眠るだけで検査ができます。
- 検査内容:
- 鼻や口の呼吸センサーで、呼吸の状態(気流)やいびき音を記録します。
- 指先に装着するセンサーで、血液中の酸素飽和度(SpO2)を測定します。
- 胸部にベルトを装着し、呼吸に伴う胸やお腹の動きを測定することもあります。
- メリット:
- 普段通りの自宅の環境で検査できるため、入院の必要がなく、心理的な負担が少ないです。
- 比較的簡便で、導入しやすい検査です。
- デメリット:
- 測定項目が限られているため、精密検査に比べて診断精度が劣る場合があります。
- 軽症の場合や、いびき以外の複雑な睡眠障害が疑われる場合には、簡易検査だけでは十分な情報が得られないことがあります。
簡易検査は、SASの可能性が高い方をスクリーニングしたり、重症度をある程度把握したりするのに有用です。簡易検査でSASが疑われた場合や、より正確な診断が必要な場合には、精密検査に進むのが一般的です。
精密検査(PSG検査)
精密検査は、ポリソムノグラフィー(Polysomnography: PSG)検査と呼ばれ、睡眠中の様々な生理的な情報を同時に測定する最も詳しい検査です。通常は、病院や検査施設に一泊入院して行われます。
- 検査内容:
- 脳波:睡眠の深さや覚醒の状態を判断します。
- 眼球運動:レム睡眠などを判断します。
- 筋電図:体の動きや、睡眠中の異常行動(歯ぎしり、手足の動きなど)を評価します。
- 呼吸:鼻や口の気流、胸やお腹の動き、いびき音を測定します。
- 血液中の酸素飽和度:パルスオキシメーターで測定します。
- 心電図:心拍数や不整脈の有無を確認します。
- 体位:どのような体位で寝ているかを記録します。
- ビデオ撮影:睡眠中の体動や異常行動を目視で確認します(プライバシーに配慮)。
- メリット:
- 睡眠の状態や呼吸の状態を詳細かつ多角的に評価できるため、SASの診断や重症度判定において最も正確な情報が得られます。
- いびき以外の睡眠障害(不眠症、むずむず脚症候群など)の合併や鑑別診断にも有用です。
- デメリット:
- 検査機器を体にたくさん装着する必要があり、普段通りに眠りにくいと感じる人もいます。
- 一泊入院が必要となることが多いため、時間的な制約や準備が必要です。
PSG検査の結果に基づいて、睡眠中の無呼吸や低呼吸の回数、酸素飽和度の低下の程度などを評価し、SASであるかどうかの診断と重症度(軽症、中等症、重症)の判定を行います。この診断結果が、その後の治療法を選択する上で非常に重要となります。
いびき・睡眠時無呼吸症候群の病院での治療法
睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、いびきや無呼吸を改善し、健康リスクを低減するための治療が行われます。SASの重症度や原因、患者さんの状態に合わせて、様々な治療法が選択されます。
CPAP(シーパップ)療法
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法は、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に対して、現在最も広く行われている標準的な治療法です。
- 治療内容:
- 鼻または口に装着したマスクを通じて、設定された一定の圧力をかけた空気を気道に送り込みます。
- この空気圧によって、睡眠中に狭くなったり塞がったりしそうになる気道を物理的に広げ、無呼吸や低呼吸を防ぎます。
- 効果:
- 睡眠中の無呼吸やいびきが劇的に改善されます。
- 睡眠の質が向上し、日中の眠気や倦怠感が軽減されます。
- 酸素飽和度が改善され、心臓や血管への負担が減り、高血圧や心血管疾患のリスクを低減することが期待できます。
- 対象者:
- AHI(無呼吸低呼吸指数:1時間あたりの無呼吸および低呼吸の合計回数)が20以上の中等症~重症のSAS患者に対して、保険適用となります。AHIが5以上20未満の軽症~中等症の場合でも、日中の眠気などの症状が強い場合には保険適用となることがあります。
- メリット:高い治療効果が得られる、多くのSAS患者に適用できる。
- デメリット:毎晩マスクを装着する必要がある、持ち運びの手間(旅行など)、マスクや空気圧に慣れるまで時間がかかる場合がある、定期的な通院(月に1回程度)が必要。
CPAP装置は基本的にレンタルとなり、SASの診断と医師の管理のもとで使用することで保険が適用されます。治療開始後は、CPAPの使用状況を確認し、必要に応じて空気圧の調整などを行うために、定期的に通院する必要があります。
口腔内装置(マウスピース)
口腔内装置は、マウスピースとも呼ばれ、寝るときに口の中に装着する装置です。主に軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群や、いびきを改善する目的で用いられます。
- 治療内容:
- 歯科医師と連携して作製されるカスタムメイドの装置です。
- 下顎を前方に少し突き出した位置に維持することで、舌が喉の奥に沈み込むのを防ぎ、気道を広く保ちます。
- 効果:
- いびきの音量を軽減したり、無呼吸や低呼吸の回数を減らしたりする効果があります。
- 睡眠の質や日中の症状が改善されることがあります。
- 対象者:
- 軽症から中等症のOSA患者。
- 重症でもCPAP療法の使用が困難な場合。
- いびきのみが問題で、SASではないと診断された場合(この場合は保険適用外となることが多い)。
- 残っている歯の本数が少なくないなど、装置を固定できる条件を満たす方。
- メリット:比較的簡便で持ち運びやすい、CPAPに比べて違和感が少ないと感じる人もいる。
- デメリット:重症のSASには効果が限定的、顎関節に負担がかかることがある、定期的な調整が必要、保険適用にはSASの診断と耳鼻咽喉科医または呼吸器内科医からの紹介、および連携する歯科医師による作製が必要な場合が多い。
口腔内装置は、睡眠医療を専門とする医師の診断に基づき、連携する歯科医師によって作製されます。顎関節への影響などを考慮しながら、適切な装置を作製・調整することが重要です。
手術療法
いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因となっている、鼻や喉などの形態的な異常がある場合に、手術療法が検討されることがあります。主に耳鼻咽喉科で行われます。
- 治療内容:
- 扁桃腺・アデノイド摘出術:子供のいびき・SASの主要な原因の一つである扁桃腺やアデノイドの肥大に対して行われる手術です。大人でも適応になる場合があります。
- 鼻中隔湾曲症矯正術、下鼻甲介切除術など:鼻づまりがいびきの原因となっている場合に行われる手術です。
- 軟口蓋形成術(UPPPなど):喉の奥の軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ)のたるみが気道閉塞の原因となっている場合に行われる手術です。
- 舌根縮小術、顎顔面手術:舌根が大きい、あるいは顎が小さいなど、より深い部分の構造的な問題に対して行われることがあります。
- 効果:
- 原因となっている形態的な問題を解消することで、気道を広くし、いびきや無呼吸を改善します。
- 対象者:
- 特定の形態的な異常が明確な方。
- CPAP療法や口腔内装置で十分な効果が得られない、または使用が困難な方。
- 小児のいびき・SASで扁桃腺やアデノイド肥大が原因の場合。
- メリット:原因を根本的に解決できる可能性がある、毎晩装置を装着する必要がなくなる。
- デメリット:手術による侵襲がある、効果が限定的な場合や再発の可能性がある、全てのいびき・SASに有効ではない。
手術療法は、患者さんの状態や希望、リスクなどを総合的に判断して慎重に選択されます。手術の種類によって、効果や適応、リスクが異なるため、担当医と十分に相談することが重要です。
生活習慣の改善指導
いびきや睡眠時無呼吸症候群の多くの患者さんにとって、生活習慣の改善は非常に重要です。単独で行う場合もあれば、CPAP療法や口腔内装置、手術療法と組み合わせて行う場合もあります。
- 主な指導内容:
- 減量:肥満は首回りの脂肪が増え、気道を狭くする大きな原因です。適正体重に戻すことで、いびきや無呼吸が改善されることがあります。
- 禁煙:喫煙は気道の炎症やむくみを引き起こし、いびきやSASを悪化させます。
- 節酒:アルコールは上気道の筋肉を弛緩させ、気道を狭くします。寝る前の飲酒は控えましょう。
- 寝姿勢の工夫:仰向けで寝ると舌が落ち込みやすく、気道が狭くなることがあります。横向きで寝る方がいびきをかきにくい場合があります。抱き枕などを使うと横向きを維持しやすくなります。
- 睡眠時間の確保・規則正しい生活:睡眠不足や不規則な生活は、いびきや無呼吸を悪化させることがあります。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい生活を心がけましょう。
- 薬の見直し:一部の睡眠薬や安定剤は、気道を広げる筋肉の働きを弱め、いびきや無呼吸を悪化させることがあります。服用中の薬がある場合は医師に相談しましょう。
生活習慣の改善は、いびきやSASの症状を軽減するだけでなく、全身の健康状態を向上させる上でも非常に有効です。医師や管理栄養士などから、具体的なアドバイスやサポートを受けることができます。
いびき治療にかかる病院の費用
いびきや睡眠時無呼吸症候群の検査や治療にかかる費用は、病気と診断されるかどうか、どのような検査や治療法を選択するかによって、保険適用になるか自費診療になるかが変わってきます。
保険適用されるケース
睡眠時無呼吸症候群(SAS)と正式に診断された場合の検査や治療は、原則として医療保険が適用されます。
- 対象:
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された場合の、診断のための検査(簡易検査、PSG検査)。
- SASと診断された場合の治療(CPAP療法、一部の口腔内装置、原因となっている一部の手術)。
- 費用:
- 健康保険が適用されるため、自己負担割合(通常3割)に応じた費用となります。
- 簡易検査:自己負担額は3割で、概ね3,000円~4,000円程度(初診料等除く)。
- 精密検査(PSG検査):入院が必要となるため、自己負担額は3割で、概ね15,000円~30,000円程度(入院費、食事代、初診料等除く)。
- CPAP療法:CPAP装置はレンタルとなり、毎月、診療費・機器管理料として自己負担額は3割で概ね5,000円程度がかかります。
- 口腔内装置:SASと診断され、保険診療として認められている口腔内装置の場合、自己負担額は3割で概ね15,000円~30,000円程度(作製費用)。
- 手術療法:手術の種類や入院日数によって大きく異なりますが、高額療養費制度の対象となる場合があります。
保険適用でCPAP療法を継続するためには、月に1回程度の定期的な通院が必要となり、その都度診療費がかかります。また、検査費用や治療費用以外に、初診料や再診料、処方箋料などが別途かかることを考慮しておきましょう。具体的な費用については、受診する医療機関や加入している健康保険によって異なる場合があるため、事前に確認することをおすすめします。
保険適用外(自費診療)のケース
いびきがあるものの、睡眠時無呼吸症候群と診断されなかった場合や、保険適用外の治療法を希望する場合には、自費診療となります。
- 対象:
- いびきのみで、SASの診断基準を満たさない場合。
- 美容目的で行われるいびき関連の手術。
- 保険適用外の特殊な治療法や装置。
- 健康保険を使用せずに検査や治療を希望する場合。
- 費用:
- 全額自己負担となるため、費用は医療機関によって大きく異なります。
- 簡易検査やPSG検査も自費で行う場合は、保険適用の場合の3倍以上の費用がかかる可能性があります。
- 自費診療の口腔内装置や手術療法は、数十万円以上になることもあります。
単なるいびきでも、音が大きいことで同室者に迷惑をかけるなど、社会的な問題となる場合があります。この「社会的いびき」に対して、保険適用外でいびき軽減のための治療を行う医療機関もあります。いびきの治療を検討する際は、ご自身のいびきがSASによるものなのか、単なるいびきなのかによって、保険適用となるかが変わることを理解しておくことが重要です。まずは医師に相談し、診断を受けてから、保険適用となる治療と自費診療となる治療について詳しく説明を受けましょう。
いびき治療を受ける病院の選び方
いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療を受ける病院を選ぶ際には、いくつかのポイントがあります。適切な診断と効果的な治療を受けるためには、専門性や設備、通いやすさなどを考慮することが大切です。
専門医がいるか
いびきや睡眠障害の診療経験が豊富な専門医がいるかどうかは、病院選びの重要な基準です。
- 確認ポイント:
- 睡眠医療認定医など、睡眠医学に関する専門資格を持つ医師がいるか。
- いびきや睡眠時無呼吸症候群の診療実績が豊富か。
- 所属学会(日本睡眠学会など)や専門分野。
専門性の高いいびき・睡眠外来や、睡眠医療に詳しい呼吸器内科医や耳鼻咽喉科医がいる病院を選ぶことで、より正確な診断と、ご自身の状態に合った最適な治療計画を立ててもらえる可能性が高まります。病院のウェブサイトなどで医師の経歴や専門分野を確認したり、受付に問い合わせてみたりすると良いでしょう。
検査・治療設備
いびきやSASの診断・治療に必要な設備が整っているかも重要なポイントです。
- 確認ポイント:
- 簡易検査(アプノモニターなど)が可能か。
- 診断確定のために必要な精密検査(PSG検査)設備があるか、またはPSG検査が可能な連携施設があるか。
- SASと診断された場合に、CPAP療法に対応しているか(装置のレンタル、管理、定期的なフォローアップ体制)。
- 口腔内装置の作製に対応しているか、または連携する歯科医師がいるか。
- 必要に応じて手術療法の選択肢があるか(耳鼻咽喉科的処置など)。
簡易検査からPSG検査、そしてCPAP療法や他の治療法まで、一連の検査・治療を同じ病院内で完結できる体制が整っていると、複数の病院を受診する手間が省けてスムーズです。ご自身のいびきの状況(SASの可能性の高さ、症状の重さ)に応じて、必要な検査や治療に対応できる病院を選びましょう。
アクセス・通いやすさ
いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療は、多くの場合、定期的な通院が必要になります(特にCPAP療法の場合)。そのため、病院のアクセスや通いやすさも重要な考慮事項です。
- 確認ポイント:
- 自宅や職場から通院しやすい場所にあるか(公共交通機関、駐車場など)。
- 診療時間や曜日が、ご自身の都合に合っているか。
- 予約は取りやすいか。
- オンライン診療に対応しているか(CPAPの定期的なフォローアップなどで利用できる場合がある)。
CPAP療法では、通常月に1回程度の通院が求められます。無理なく通院を続けられる距離や、ご自身のライフスタイルに合った診療時間を提供している病院を選ぶことが、治療を継続する上で非常に大切です。また、近年はオンライン診療を活用できる医療機関も増えています。遠方の場合や、多忙で通院時間が取りにくい場合は、オンライン診療に対応しているかも確認してみると良いでしょう。
女性のいびきと病院受診
いびきや睡眠時無呼吸症候群は男性に多い病気というイメージがあるかもしれませんが、女性もいびきに悩まされており、SASを発症することもあります。特に女性特有の要因が関係している場合があります。
女性特有の原因
女性のいびきやSASには、男性とは異なる、あるいは女性に多く見られる原因があります。
- 更年期・閉経:閉経後は女性ホルモン(エストロゲンや特にプロゲステロン)の分泌が減少します。プロゲステロンには上気道の筋肉の緊張を保つ働きがあるため、減少すると気道が弛緩しやすくなり、いびきや無呼吸が増加する傾向があります。閉経後にSASの発症率が高まることが知られています。
- 妊娠:妊娠中は体重増加や体液貯留により、気道が狭くなりやすくいびきをかきやすくなることがあります。また、ホルモンバランスの変化も影響することがあります。妊娠中のSASは、妊娠高血圧症候群などのリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
- 顎が小さい・狭い:遺伝的に顎が小さい、または狭い構造の場合、舌を収めるスペースが不足し、舌が喉の奥に落ち込みやすくいびきや無呼吸の原因となることがあります。これは女性に比較的多く見られる傾向があります。
女性がいびき外来を受診するメリット
いびきや睡眠の悩みを抱える女性が専門の外来を受診することには、いくつかのメリットがあります。
- 女性特有の原因への理解:睡眠外来など専門の医療機関では、更年期や妊娠など、女性のライフステージやホルモンバランスの変化が睡眠に与える影響を理解した上で診療を行います。
- 症状の捉え方の違いへの対応:女性の場合、SASの典型的な症状である大きないびきや日中の強い眠気よりも、不眠、疲労感、頭痛などの非典型的な症状を訴えることが多いとされています。専門医はこうした性差を考慮し、丁寧に問診や検査を行います。
- 受診のハードルの低下:いびきを恥ずかしいと感じ、医療機関への受診をためらってしまう女性も少なくありません。特に男性が多い待合室などに抵抗がある場合もあります。女性医師がいるか、女性患者への配慮があるかなどを確認できると、受診のハードルが下がるかもしれません。
- 合併症のリスク評価:女性もSASを放置すると、高血圧、糖尿病、心血管疾患などのリスクが高まります。特に閉経後の女性はこれらのリスクが上昇するため、早期に診断を受けて適切な管理を始めることが重要です。
女性のいびきも、単なる習慣ではなく、健康に関わる重要なサインである可能性があります。気になる症状がある場合は、遠慮なく専門の医療機関に相談しましょう。
まとめ:いびきが気になるならまずは病院へ相談しよう
いびきは多くの人が経験する現象ですが、特に習慣的に大きないびきをかく場合や、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘される場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの病気が隠れている可能性を疑う必要があります。SASとは、睡眠中に10秒以上の呼吸停止が1時間あたり5回以上起こり、日中の眠気などの症状を伴う状態です(出典:千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学)。SASを放置すると、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、交通事故など、様々な健康リスクや社会生活上のリスクが高まることが分かっています。
危険ないびき(睡眠時無呼吸症候群)のサインとして、日中の強い眠気、起床時の頭痛、熟睡感がない、集中力低下などがあれば、単なるいびきではなく病気の可能性が高いです。また、朝起きたときに喉の痛みや渇きを感じるのもサインの一つです(出典:友広会マガジン)。
いびきで病院を受診する際は、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、睡眠外来などが選択肢となります。鼻や喉の形態的な問題が疑われる場合は耳鼻咽喉科、睡眠中の呼吸異常やCPAP療法が必要な場合は呼吸器内科、より専門的で総合的な診断・治療を希望する場合は睡眠外来が適していることが多いですが、症状に合わせて適切な科を選びましょう。迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談するか、呼吸器内科や睡眠外来を標榜するクリニックを探してみるのも良いでしょう。
病院では、自宅でできる簡易検査や、より詳しい精密検査(PSG検査)を行って、いびきの原因や睡眠時無呼吸症候群の有無、重症度を診断します。診断に基づいて、CPAP療法、口腔内装置(マウスピース)、手術療法、生活習慣の改善指導など、患者さんの状態に合った治療法が選択されます。
睡眠時無呼吸症候群と診断された場合の検査や治療(CPAP療法、一部の口腔内装置や手術)は、健康保険が適用されます。費用は自己負担割合に応じて決まりますが、CPAP療法では毎月定額の診療費がかかることを理解しておきましょう。単なるいびきの場合は自費診療となることが多いため、事前に病院に費用について確認しておくことをおすすめします。
適切な診断と治療を受けるためには、睡眠医療に詳しい専門医がいるか、必要な検査・治療設備が整っているか、そしてアクセス・通いやすさなども考慮して病院を選ぶことが大切です。
いびきは、単なる音の問題ではなく、あなたの健康に関わる重要なサインかもしれません。特に危険ないびきのサインがある場合は、自己判断で放置せず、まずは勇気を出して病院に相談してみましょう。早期に診断を受けて適切な治療を開始することが、健康維持と質の高い生活を送るために非常に重要です。
【免責事項】
この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の病気の診断や治療法を推奨するものではありません。ご自身のいびきや健康状態については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。記事内の情報に基づいて行った行為によって生じた損害等について、当方は一切責任を負いかねます。