無気肺の症状を見逃さない!原因・診断・治療・予防策を解説

無気肺は、肺の一部または全部が虚脱してしぼんでしまい、十分に空気を取り込めない状態を指します。これにより、酸素と二酸化炭素の交換がうまくいかなくなり、体に様々な影響を及ぼす可能性があります。無気肺は手術後や長期間寝たきりの状態など、様々な状況で起こりうる比較的身近な病態ですが、その症状や原因は多岐にわたります。無気肺の症状は軽微で見過ごされがちなものから、重篤な呼吸困難を引き起こすものまで幅広く、早期に気づき適切な対応をとることが重要です。この記事では、無気肺の主な症状を中心に、その原因や診断、治療法、予防策について詳しく解説します。

目次

無気肺とは?

無気肺(Atelectasis)とは、肺を構成する肺胞という小さな袋が、空気を取り込めずにしぼんでしまい、肺の一部または全体が虚脱した状態を指します。通常、肺胞は呼吸によって膨らんだり縮んだりすることで、空気中の酸素を血液中に取り込み、血液中の二酸化炭素を排出するガス交換を行っています。しかし、無気肺が起こると、肺胞がしぼんでしまうため、その部分でのガス交換ができなくなります。

肺は、気管支という空気の通り道を通じて外部とつながっています。気管支は木の枝のように細かく枝分かれし、その先端に肺胞がついています。健康な状態では、この気管支を通じて空気が肺胞まで届き、肺全体が膨らみます。

無気肺が発生すると、影響を受けた肺の部分は小さく密になり、レントゲンなどの画像検査で白く映ることがあります。無気肺が起こる範囲は、肺の一部のごく小さな領域から、肺の一葉全体、さらには片側の肺全体に及ぶこともあります。影響を受ける範囲が広がるほど、呼吸機能への影響も大きくなり、重篤な症状を引き起こす可能性が高まります。

無気肺は、肺炎や気胸など他の呼吸器系の病気と合併して起こることも少なくありません。また、手術後や寝たきりの状態、特定の病気がある場合など、様々な要因がリスクを高めると考えられています。無気肺を理解するためには、その症状だけでなく、どのような原因で発生するのか、そしてどのように診断され治療されるのかを知ることが重要です。

無気肺の主な症状

無気肺の症状は、影響を受けた肺の範囲や、無気肺が起こった速さ、そしてその方の全身状態によって大きく異なります。全く症状が現れない軽度のものから、生命に関わる重篤な呼吸困難を引き起こすものまで様々です。ここでは、無気肺の主な症状について、様々なケースに分けて詳しく見ていきましょう。

症状がない場合もある?無気肺の初期症状

比較的小さな範囲の無気肺や、肺の他の部分が健康で十分に機能している場合、自覚症状がほとんど現れないことがあります。特に、ゆっくりと進行するタイプの無気肺では、体が徐々に状態に適応するため、症状に気づきにくいことがあります。

例えば、健康診断で行われた胸部レントゲン検査で偶然発見されるケースも少なくありません。このような無症状の無気肺は、特に治療が必要ない場合もありますが、原因によっては注意が必要なこともあります。

無気肺の初期症状とされるものも、非常に軽微で、風邪や一時的な体調不良と見間違えやすいことがあります。例えば、軽い咳や、なんとなく息苦しさを感じる程度で、すぐに改善することもあります。しかし、これらの初期症状は、後に無気肺が進行したり、他の病気が隠れていたりするサインである可能性も否定できません。

したがって、特にリスクのある方(手術後、寝たきり、特定の基礎疾患がある方など)は、たとえ軽微な症状であっても見過ごさず、注意深く経過を観察することが重要です。

代表的な症状(咳、呼吸困難、喘鳴など)

無気肺がある程度の範囲に及ぶ場合や、比較的急速に発生した場合には、以下のような代表的な症状が現れることがあります。

  • 咳(せき): 痰がからむ湿性の咳や、乾いた咳など様々です。無気肺により、気道に分泌物(痰など)が溜まりやすくなるため、それを排出しようとして咳が出やすくなります。また、気道が狭くなることでも咳が誘発されることがあります。
  • 呼吸困難(こきゅうこんなん): 息切れや、息を吸う・吐くのがつらいと感じる状態です。無気肺によって肺の機能する部分が減少し、体に必要な酸素を十分に取り込めなくなるために起こります。特に、少し体を動かしただけで息切れを感じるようになることがあります。
  • 喘鳴(ぜんめい): 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった、呼吸をするたびに聞こえる音です。これは、無気肺の原因が気管支の狭窄(狭くなること)である場合に起こりやすい症状です。気管支が狭くなると、空気がそこを通過する際に笛のような音が発生します。
  • 胸痛(きょうつう): 無気肺自体が直接的な痛みの原因となることは少ないですが、無気肺に伴って胸膜(肺を覆う膜)が炎症を起こしたり、周辺の臓器が圧迫されたりすることで胸痛を感じることがあります。また、咳がひどい場合にも肋間筋などの痛みを伴うことがあります。
  • 発熱(はつねつ): 無気肺によって肺の換気が悪くなると、細菌が増殖しやすくなり、肺炎などの感染症を合併することがあります。この場合、発熱がみられることがあります。

これらの症状は、無気肺のサインであると同時に、他の呼吸器疾患や心疾患など様々な病気でも見られる症状です。自己判断はせず、これらの症状が現れた場合は医療機関を受診し、原因を特定することが大切です。

広範囲な無気肺や重症の場合の症状

無気肺が肺の広い範囲に及んだり、基礎疾患がある方、体力がない方などに発生したりした場合は、より重篤な症状が現れることがあります。

  • 高度な呼吸困難: 安静時でも強い息切れを感じたり、会話が困難になるほど息が苦しくなったりします。肺のガス交換能力が著しく低下しているサインです。
  • チアノーゼ: 血液中の酸素が不足し、唇や指先などが青紫色になる状態です。これは、酸素を十分に体に供給できていない重篤なサインです。
  • 頻脈(ひんみゃく): 心臓が酸素不足を補おうとして、心拍数を速めることがあります。
  • 血圧変動: 重症の場合、血圧が低下することもあります。
  • 意識障害: 脳への酸素供給が不足すると、意識レベルが低下したり、傾眠傾向になったりすることがあります。
  • 全身倦怠感: 体全体の酸素不足や炎症により、強いだるさを感じることがあります。

これらの重篤な症状は、迅速な医療介入が必要であることを示しています。このような状態になった場合は、救急車を呼ぶなどして、一刻も早く医療機関を受診することが重要です。

術後の無気肺に注意すべき兆候

手術後に無気肺が起こることは比較的よく見られます。術後無気肺は、特に腹部や胸部の手術後に起こりやすく、手術に伴う様々な要因が関与しています。

術後無気肺の主な原因:

  • 麻酔の影響: 全身麻酔は、肺の機能を一時的に抑制し、深い呼吸や咳をしにくくさせます。
  • 術後の痛み: 手術の傷口の痛みにより、深呼吸や咳をすることをためらってしまい、換気が不十分になることがあります。
  • 臥床(寝たきり): 長時間同じ体勢で寝ていると、肺の下部に分泌物が溜まりやすく、肺が圧迫されて膨らみにくくなります。
  • 使用する鎮痛薬: 一部の鎮痛薬は呼吸を抑制することがあります。
  • 気管内挿管: 挿管の刺激や、挿管チューブによる気道粘膜への影響が関与することがあります。

術後無気肺に注意すべき兆候:

手術後、以下のような兆候が見られた場合は、術後無気肺の可能性があるため注意が必要です。

  • 浅く速い呼吸: 痛みを避けるために、無意識のうちに浅い呼吸を繰り返すことがあります。
  • 咳の回数が減る、あるいは咳をしない: 痛くて咳ができない、または咳をするのを避けてしまうことがあります。
  • 発熱: 術後早期に発熱が見られた場合、無気肺やそれによる肺炎の可能性があります。
  • SpO2(経皮的酸素飽和度)の低下: パルスオキシメーターで測定される血中の酸素濃度が低下している場合があります。
  • 胸部レントゲンでの異常: 術後の定期的なレントゲン検査で無気肺が発見されることがあります。
  • なんとなく元気がない、食欲がない: 全身状態の悪化を示唆するサインかもしれません。

術後無気肺は、肺炎への移行や呼吸不全を招く可能性があるため、早期発見と対策が非常に重要です。医療従事者は術後早期から無気肺の予防に努めますが、患者さん自身やご家族もこれらの兆候に注意し、異変を感じたらすぐに医療スタッフに伝えることが大切です。

無気肺の原因

無気肺は、空気の通り道である気管支が詰まる「閉塞性無気肺」と、気管支が詰まっていなくても肺が虚脱する「非閉塞性無気肺」の大きく二つに分けられます。それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。

1. 閉塞性無気肺

気管支が何らかの原因で物理的に塞がれることによって、それより末梢の肺胞に空気が送られなくなり発生します。

  • 粘液栓(ねんえきせん): 痰などの分泌物が固まって気管支を詰まらせることが最も多い原因の一つです。特に、肺炎、気管支炎、喘息などの呼吸器疾患がある場合や、脱水、咳をする力が弱い場合(高齢者、術後、寝たきりなど)に起こりやすくなります。
  • 異物(いぶつ): 小さな子供や高齢者で、食物や小さなものが気管支に入り込んで詰まることがあります(誤嚥)。
  • 腫瘍(しゅよう): 肺がんなど、気管支内に発生した腫瘍が気道を塞いだり、気管支の外から気道を圧迫したりすることで無気肺を引き起こすことがあります。
  • リンパ節腫脹: 肺門部(肺の付け根部分)のリンパ節が炎症や腫瘍などで腫れて、隣接する気管支を外から圧迫することで無気肺の原因となることがあります。
  • 気管支の炎症や瘢痕: 繰り返される炎症によって気管支の壁が厚くなったり、傷跡(瘢痕)ができたりして気道が狭窄・閉塞することがあります。
  • 血液塊: 外傷などによって気道内で出血し、血液が固まって気管支を詰まらせることがあります。

2. 非閉塞性無気肺

気管支に物理的な閉塞がなくても、肺が膨らむことが妨げられることによって発生します。

  • 外部からの圧迫:
    • 胸水(きょうすい): 肺と胸壁の間(胸腔)に液体が溜まると、肺が圧迫されてしぼんでしまいます。
    • 気胸(ききょう): 胸腔に空気が溜まると、肺が圧迫されて虚脱します。
    • 胸郭の変形: 重度の脊椎側弯症などにより胸郭が変形し、肺が十分に広がれない場合があります。
    • 腹部膨満: 腹水や腸管ガスの貯留などにより、横隔膜が持ち上げられ、肺が十分に膨らむスペースが狭くなることがあります。
  • 肺のサーファクタント不足: サーファクタントは肺胞の表面張力を低下させ、肺胞がしぼむのを防ぐ物質です。新生児呼吸窮迫症候群などでサーファクタントが不足すると無気肺が起こります。成人でも特定の病態(急性呼吸窮迫症候群など)でサーファクタント機能が低下することがあります。
  • 神経筋疾患: 筋力が低下する病気(筋ジストロフィー、重症筋無力症など)や、脊髄損傷などにより、呼吸筋の動きが悪くなり、深呼吸や咳ができなくなることで無気肺を起こしやすくなります。
  • 臥床(がしょう): 長期間寝たきりの状態では、重力の影響で肺の下部に血液や分泌物が偏りやすく、換気が不十分になりがちです。また、体位変換が少ないと特定の部位に無気肺が起こりやすくなります。
  • 浅い呼吸: 術後の痛みや麻酔の影響、あるいは精神的な要因などにより、意識的に深い呼吸ができない状態が続くと無気肺が発生することがあります。
  • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS): 肺炎や敗血症などで肺全体に炎症が起こり、肺胞が傷ついてしぼんでしまう病態です。

術後無気肺の原因のまとめ:

術後無気肺は、上記で挙げた閉塞性および非閉塞性の原因が複合的に関与して発生します。麻酔や術後の痛みによる浅い呼吸や咳の抑制は非閉塞性無気肺の原因となりますが、これにより分泌物が溜まりやすくなり、粘液栓による閉塞性無気肺を引き起こすこともあります。長時間の臥床も非閉塞性無気肺のリスクを高めます。

このように、無気肺の原因は非常に多様であり、多くの場合、複数の要因が重なって発生します。原因を特定することは、適切な治療法を選択するために非常に重要です。

無気肺の原因を分かりやすくまとめた表を作成します。

分類 原因の例 特徴
閉塞性無気肺 粘液栓(痰)、異物、腫瘍(肺がんなど)、リンパ節腫脹(圧迫)、気管支狭窄/閉塞(炎症、瘢痕)、血液塊 気管支が物理的に塞がれることで、その先の肺がしぼむ。特定の肺区域や肺葉に起こることが多い。
非閉塞性無気肺 胸水、気胸、胸郭変形、腹部膨満(横隔膜挙上)、神経筋疾患(呼吸筋力低下)、サーファクタント不足、臥床、浅い呼吸(痛み、麻酔)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS) 気道の閉塞がなくても、肺を圧迫する要因や肺が膨らむ力を妨げる要因により肺がしぼむ。びまん性に起こることも、特定の部位に起こることもある。
術後無気肺 麻酔の影響、術後の痛み、臥床、鎮痛薬、気管内挿管の影響 閉塞性・非閉塞性の両方のメカニズムが複合的に関与する。特に術後早期に注意が必要。

無気肺の診断方法(レントゲンなど)

無気肺が疑われる場合、医師はまず患者さんの症状や既往歴、手術の有無などを詳しく問診します。次に、胸部の聴診を行い、呼吸音の異常(呼吸音の減弱など)を確認します。これらの情報をもとに、無気肺の可能性が高いと判断された場合、診断を確定したり、原因を特定したりするために様々な検査が行われます。

1. 胸部レントゲン検査

最も一般的で簡便な診断方法です。無気肺を起こしている部分は、空気が含まれていないため周囲よりも密度が高くなり、レントゲン写真上で白く(または灰色に濃く)写ります。健康な肺は空気が多く含まれるため黒く写ります。

レントゲン検査では、無気肺の存在、どの部分に起こっているか、おおよその範囲などを確認できます。ただし、小さな無気肺や、心臓や骨などの影に隠れている無気肺は、レントゲンでは分かりにくいこともあります。また、無気肺の原因を直接特定することは難しい場合が多いです。

2. 胸部CT検査

胸部レントゲン検査よりもさらに詳細な画像情報が得られる検査です。体の断面を細かく撮影できるため、レントゲンでは見えにくい小さな無気肺や、複雑な形状の無気肺も検出することができます。また、気管支の閉塞(腫瘍、異物、粘液栓など)や、胸水、気胸、リンパ節の腫脹など、無気肺の原因となっている病変をより明確に描き出すことができます。

CT検査は、レントゲン検査で診断が確定できない場合や、無気肺の原因を詳しく調べる必要がある場合、あるいは重症度を正確に評価する必要がある場合などに用いられます。

3. その他の検査

無気肺の原因や合併症を調べるために、以下のような検査が行われることがあります。

  • 血液検査: 炎症の程度を調べるためのCRPや白血球数、感染症の有無、全身状態などを評価します。
  • 動脈血液ガス分析: 血液中の酸素や二酸化炭素の濃度を測定し、呼吸機能の低下の程度を評価します。重症の場合に行われます。
  • 気管支鏡検査: 内視鏡(気管支鏡)を気管支内に入れて直接観察する検査です。気管支の内部に異物がないか、腫瘍があるか、粘液栓で詰まっていないかなどを直接確認できます。また、必要に応じて組織を採取したり、粘液栓や異物を除去したりする治療も同時に行うことができます。原因不明の無気肺や、閉塞性無気肺が強く疑われる場合に行われます。
  • 超音波検査: 胸水貯留の有無や程度を確認するのに有用な場合があります。
  • 肺機能検査: 肺全体の換気能力などを評価しますが、急性期の無気肺の診断よりも、慢性的な呼吸機能障害の評価に用いられることが多いです。

これらの検査を組み合わせて行うことで、無気肺の診断を確定し、その原因や重症度を評価し、最適な治療法を選択するための情報を得ることができます。

無気肺は治るのか?治療法と対処法

無気肺は、原因に対する適切な治療と、肺を再膨張させるためのリハビリテーションなどを行うことで改善、あるいは治癒することが期待できる病態です。治療法は、無気肺の原因、範囲、患者さんの全身状態などによって異なります。

治療の基本方針:

無気肺の治療は、主に以下の二つの柱から成り立ちます。

  1. 原因の除去または対処: 無気肺を引き起こしている根本的な原因を取り除くか、その影響を軽減させます。
  2. 肺の再膨張を促進: しぼんでしまった肺を再び膨らませるための様々な方法を行います。

具体的な治療法と対処法:

  • 原因に対する治療:
    • 粘液栓: 去痰薬の使用、水分摂取の促進、体位ドレナージ、物理療法(スクイージング、バイブレーターなど)により痰の喀出を促します。必要に応じて気管支鏡で直接吸引・除去することもあります。
    • 異物: 気管支鏡を用いて異物を除去します。
    • 腫瘍: 手術、放射線療法、化学療法など、腫瘍の種類や進行度に応じた治療を行います。気管支鏡で腫瘍の一部を切除し、気道を確保することもあります。
    • 胸水/気胸: 胸腔ドレナージ(チューブを胸腔に入れて液体や空気を排出する)などを行います。
    • 感染症(肺炎など): 抗生物質などの薬物療法を行います。
    • 基礎疾患の治療: 喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全などの基礎疾患が悪化している場合は、その治療を行います。
  • 肺の再膨張を促進するための対処法:
    • 呼吸リハビリテーション:
      • 深呼吸訓練: ゆっくりと深く息を吸い込み、数秒間息を止めてからゆっくりと吐き出す深呼吸は、肺の隅々まで空気を送り込み、肺胞を広げるのに役立ちます。
      • 咳の励行: 意識的に咳をすることで、気道に溜まった分泌物を排出し、閉塞を防ぎ、肺を広げる効果が期待できます。痛みが強い場合は、痛みをコントロールしながら行います。
      • 体位ドレナージ: 無気肺がある肺を下にして横向きになるなど、特定の体位をとることで、重力を利用して分泌物の排出を助け、無気肺の改善を促します。
    • 早期離床と体位変換: 特に術後や寝たきりの方では、できるだけ早くベッドから起き上がったり、定期的に体位を変えたりすることが、肺の換気を改善し無気肺を予防・改善する上で非常に重要です。
    • 物理療法: 胸部を圧迫する(スクイージング)や、振動を与える(バイブレーション)ことで、痰の移動を助け、喀出を促す手技です。
    • 薬物療法: 去痰薬は痰を柔らかくして出しやすくする効果があります。気管支拡張薬は、気管支を広げて空気の通りを良くすることで、無気肺の改善に役立つ場合があります。
    • 酸素療法: 無気肺により血液中の酸素が不足している場合、酸素を吸入することで体に必要な酸素を供給します。
    • 非侵襲的陽圧換気(NPPV): マスクなどを用いて、外部から圧力をかけた空気を送ることで、肺を膨らませるのを助ける治療法です。特に、自力での呼吸が弱く、深い呼吸が難しい場合などに用いられることがあります。

無気肺が改善するかどうかは、原因が何か、無気肺の範囲はどのくらいか、そしてどれだけ早く適切な治療や対処が開始できるかによって大きく左右されます。粘液栓や術後無気肺のような一時的な原因によるものは、比較的早期に改善することが多いですが、腫瘍や慢性的な気管支の病変によるものは、原因の治療に時間がかかったり、完全に元に戻らなかったりすることもあります。

重要なのは、無気肺のサインに気づいたら速やかに医療機関を受診し、原因を特定した上で、医師や理学療法士、看護師などの指導のもと、適切な治療やリハビリテーションに取り組むことです。

無気肺の予防策

無気肺は、特定の状況下で発生しやすい病態ですが、日頃からいくつかの予防策を講じることで、そのリスクを減らすことが可能です。特にリスクが高いのは、手術を受ける方、高齢者、寝たきりの方、喫煙者、慢性的な呼吸器疾患がある方などです。

以下に、無気肺の主な予防策を挙げます。

  • 深呼吸訓練と咳の励行:
    • 意識的に大きく息を吸い込み、数秒間息を止めてからゆっくりと吐き出す深呼吸は、肺の隅々まで空気を送り込み、肺胞を広げるのに役立ちます。
    • また、しっかりと咳をすることで、気道に溜まりやすい分泌物を排出し、気管支の閉塞を防ぎます。
    • 特に手術前には、これらの訓練を指導されることが多く、術後にも積極的に行うことが推奨されます。インセンティブ・スパイロメトリーなどの補助器具を使用することも効果的です。
  • 早期離床と活発な体位変換:
    • 可能な限り早くベッドから離れ、歩いたり座ったりすることは、肺の換気を改善し、分泌物が溜まるのを防ぎます。
    • ベッド上安静が必要な場合でも、数時間おきに体の向きを変える(体位変換)ことで、特定の部位に圧力がかかり続けるのを防ぎ、肺の血流や換気を均等に保つことができます。
  • 十分な水分摂取:
    水分を十分に摂取することで、痰などの気道分泌物が固くなりにくく、排出しやすくなります。
  • 禁煙:
    喫煙は気道の炎症を引き起こし、分泌物を増加させるため、無気肺のリスクを高めます。禁煙は、無気肺だけでなく様々な呼吸器疾患の予防に繋がります。
  • 基礎疾患の管理:
    喘息、COPD、気管支拡張症などの慢性的な呼吸器疾患がある方は、これらの病気を適切に管理することが、気道の状態を良好に保ち、無気肺を予防する上で重要です。
  • 栄養管理:
    十分な栄養を摂ることは、全身の体力や免疫力を維持し、呼吸筋の機能低下を防ぐ上で大切です。
  • 適切な鎮痛:
    術後の痛みは深呼吸や咳の妨げになるため、痛みを適切にコントロールすることが無気肺の予防に繋がります。医師や看護師と相談し、痛みを我慢せず適切な鎮痛薬を使用することが重要です。
  • 誤嚥の予防:
    食事中にむせやすい方や、飲み込みに問題がある方(嚥下障害)は、食事の姿勢や形態に注意し、誤嚥を防ぐことが、異物や食物による気管支閉塞(無気肺の原因)の予防になります。

これらの予防策は、無気肺のリスクが高い方だけでなく、全ての方にとって呼吸器系の健康を維持するために有用です。特に手術を受ける予定がある方や、病気で寝ていることが多い方は、積極的にこれらの予防策に取り組むことをお勧めします。

まとめ:無気肺の症状に気づいたら早期の受診を

無気肺は、肺の一部または全部がしぼんでしまい、ガス交換がうまくできなくなる状態です。小さな無気肺では自覚症状がないことも少なくありませんが、範囲が広がったり、基礎疾患があったりする場合には、咳、呼吸困難、喘鳴、発熱などの様々な症状が現れることがあります。特に手術後や長期間の臥床は無気肺のリスクを高めるため、これらの状況にある方は注意が必要です。

無気肺の原因は、気管支の閉塞(粘液栓、異物、腫瘍など)や、外部からの肺への圧迫(胸水、気胸など)、あるいは呼吸筋の機能低下や浅い呼吸など、多岐にわたります。診断は主に胸部レントゲンやCTなどの画像検査によって行われ、必要に応じて血液検査や気管支鏡検査などが追加されます。

無気肺の治療は、原因を取り除くことと、しぼんだ肺を再び膨らませることを目指します。原因に応じた治療に加え、深呼吸訓練や咳の励行、体位変換、早期離床といった呼吸リハビリテーションが非常に重要です。これらの適切な治療や対処により、無気肺は改善または治癒することが期待できます。

無気肺を予防するためには、術前からの呼吸訓練、早期離床、水分摂取、禁煙、基礎疾患の管理などが効果的です。

もし、咳が続く、息切れを感じる、呼吸をするたびに音がする、発熱があるなど、無気肺を疑わせる症状が現れた場合は、症状が軽微であっても放置せず、速やかに医療機関(呼吸器内科など)を受診することが非常に重要です。早期に診断を受け、適切な治療や対処を開始することで、無気肺の進行や重症化を防ぎ、より良い経過をたどることが期待できます。

【免責事項】

本記事の情報は一般的な知識を提供するものであり、医学的な判断や治療を代替するものではありません。個々の症状については、必ず医師の診断を受けてください。本記事の情報に基づいて行った行為の結果について、当方は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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