咳をすると胸が痛いという症状は、多くの人が経験する可能性のあるものです。単なる咳のしすぎによる一時的な筋肉痛であることもあれば、肺炎や胸膜炎、さらには心臓病など、医療機関での診察が必要な病気が原因となっていることもあります。厚生労働省のウェブサイトでも、咳による胸の痛みの原因や病気について解説されており、早めの対処が必要な場合があることが示唆されています[^1]。
この記事では、咳で胸が痛くなる様々な原因や考えられる病気、痛む場所別の可能性、ご自宅でできる対処法、そして病院を受診する目安や何科にかかるべきかについて、詳しく解説します。この症状に対する不安を解消し、適切な対応をとるための一助となれば幸いです。
咳で胸が痛くなる主な原因
咳をすることで胸に痛みを感じる場合、その原因は大きく分けて二つ考えられます。一つは、咳という行為そのものが体に与える物理的な負担によるもの。
もう一つは、呼吸器系やその周辺組織で発生している炎症やその他の病的な変化によるものです。これらの原因が単独で起こることもあれば、複数が組み合わさっていることもあります。
咳のしすぎによる筋肉や肋骨への負担
強く、あるいは長く続く咳は、体の様々な部分に大きな負担をかけます。特に胸やお腹の筋肉、そして肋骨周辺には繰り返し強い力が加わるため、筋肉痛や疲労骨折のような症状を引き起こすことがあります。
- 胸壁の筋肉痛: 咳をする際には、胸やお腹の筋肉(肋間筋や腹筋など)を使います。長時間の咳や強い咳は、これらの筋肉を過度に収縮させるため、筋肉痛を生じさせます。まるで激しい運動をした後のような痛みが、咳をするたびに、あるいは咳をしていない時にも感じられることがあります。
- 肋骨の疲労骨折やひび: 非常に強い咳が続くと、肋骨にひびが入ったり、稀に折れたりすることがあります。これは特に高齢者や骨粗鬆症がある方に起こりやすいですが、若い方でも可能性はあります。咳をするたびに、特定の場所が強く痛むのが特徴です。
- 肋間神経痛: 肋骨と肋骨の間には肋間神経という神経が走っています。咳による繰り返しの刺激や、筋肉の炎症がこの神経を刺激し、ピリピリ、チクチクとした痛みを引き起こすことがあります。
これらの原因による痛みは、咳が収まれば自然と改善することが多いですが、痛みが強い場合や長引く場合は、医療機関での診察が必要になることもあります。
呼吸器系や周辺組織の炎症
咳は、気道や肺に異物や病原体が入った際に、それらを排除しようとする体の防御反応です。しかし、この咳が長引いたり、痛みを伴ったりする場合は、気道や肺、あるいは胸膜といった周辺組織に炎症が起きている可能性があります。
- 気管支や肺の炎症: 風邪やインフルエンザ、細菌やウイルスの感染によって、気管支や肺に炎症が起こると、咳がひどくなり、胸の痛みを伴うことがあります。炎症が強い場合は、発熱、痰、息苦しさなどの症状も現れます。
- 胸膜の炎症(胸膜炎): 肺を包む胸膜に炎症が起こると、深呼吸をしたり咳をしたりする際に、鋭い痛みが胸に走ることがあります。これは、炎症を起こした胸膜同士が擦れ合うために生じます。発熱や息苦しさを伴うこともあります。
- 心臓や大血管の病気: 日本循環器学会のガイドライン[^2]では、急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞)は突然の胸痛を主症状とする緊急疾患であり、咳を伴う胸痛が初期症状となる場合があることに触れられています。特に左胸の痛みや、締め付けられるような痛み、冷や汗、息苦しさなどを伴う場合は、緊急性の高い病気の可能性も考慮し、迅速な対応が必要です。
- 消化器系の病気: 日本消化器病学会のガイドライン[^3]によると、逆流性食道炎に伴う慢性的な咳は、胃酸による食道の刺激や、微量の胃内容物が気道へ逆流すること(マイクロアスピレーション)などが原因で起こると考えられています。この場合、食後や横になった時に症状が悪化しやすい傾向があります。
炎症が原因の場合、原因となっている病気を特定し、適切な治療を行うことが痛みを改善するために重要です。自己判断で済まさず、症状が続く場合は医療機関を受診しましょう。
咳で胸が痛い場合に考えられる病気
咳によって胸が痛む症状は、原因によって様々な病気が考えられます。ここでは、咳のしすぎによるものと、呼吸器系やその他の病気によるものに分けて、具体的にどのような病気の可能性があるのかを見ていきましょう。
咳のしすぎで起こりやすい病気
長引く咳や強い咳が主な原因となって胸の痛みを引き起こす病気です。炎症などが直接の原因というよりは、物理的なストレスが関与しています。
肋骨骨折・ひび
特に高齢者や骨が弱くなっている方(骨粗鬆症など)に起こりやすいですが、若い方でも強い咳が続くと肋骨にひびが入ったり、折れたりすることがあります。「疲労骨折」の一種と考えられます。
- 症状: 咳をするたびに、特定の肋骨のあたりが非常に強く痛むのが特徴です。押すと痛む場所がはっきりしていることが多いです。ひびの場合は軽い痛みのこともありますが、骨折の場合はかなりの激痛を伴います。深呼吸や体の向きを変えるだけでも痛むことがあります。
- 診断: レントゲン検査で確認できることが多いですが、ひびの場合はレントゲンに写りにくいこともあります。痛みの部位や症状から診断されることもあります。
- 治療: 安静が基本です。痛み止めを服用したり、湿布を貼ったりして痛みを和らげます。骨がずれていなければ、自然に治癒します。咳を抑えるために咳止めが処方されることもあります。
肋間神経痛
肋骨の間を通る肋間神経が刺激されて起こる痛みです。原因は様々ですが、咳による筋肉の緊張や炎症、姿勢の悪さ、ストレスなども関与すると考えられています。
- 症状: 突然、肋骨に沿って片側の胸や背中に、電気が走るような、あるいはチクチク、ピリピリ、ズキズキとした痛みが起こります。咳やくしゃみ、深呼吸、体の向きを変える動作で痛みが強くなることがあります。痛みは短時間で治まることもあれば、持続することもあります。
- 診断: 他の病気(心臓病、胸膜炎など)を除外した上で、症状や痛みの特徴から診断されることが多いです。
- 治療: 痛み止め(内服薬や湿布)、神経ブロック注射などが用いられます。原因となっている可能性のある姿勢の改善やストレス軽減も重要です。
筋肉の炎症
咳のしすぎによって、胸やお腹の筋肉(肋間筋、大胸筋、腹筋など)に炎症や強い疲労が生じる状態です。
- 症状: 胸の比較的広い範囲が、鈍い痛みやだるさを伴います。咳をする時に特に痛みが強くなります。触ると筋肉が張っていたり、圧痛があったりすることもあります。
- 診断: 咳の既往や痛みの部位、特徴から診断されることが多いです。他の重い病気を除外することが重要です。
- 治療: 安静と痛み止め(湿布や内服薬)が中心です。温めたり軽くストレッチしたりすることで痛みが和らぐこともあります。原因となっている咳を治療することも重要です。
呼吸器系の主な病気
咳や痰、発熱など、呼吸器症状が主で、その結果として胸の痛みを伴う病気です。炎症が関与していることが多いです。
肺炎・気管支炎
細菌やウイルスなどの感染によって、肺や気管支に炎症が起こる病気です。
- 症状:
- 肺炎: 発熱、咳、痰(色が付いていることが多い)、息苦しさ、胸の痛みなどが主な症状です。胸の痛みは、炎症が胸膜に及んでいる場合に生じやすく、深呼吸や咳で痛みが強くなることがあります。全身の倦怠感も強いことが多いです。
- 気管支炎: 咳と痰が主な症状です。発熱はあっても肺炎ほど高熱にならないこともあります。胸の痛みは、咳のしすぎによる筋肉痛や、気管支の炎症自体による不快感として感じられることがあります。
- 診断: 聴診、胸部レントゲン検査、血液検査、痰の検査などで診断されます。
- 治療: 原因菌に応じた抗生物質(細菌性肺炎・気管支炎の場合)や抗ウイルス薬が用いられます。咳止め、痰を出しやすくする薬なども併用されます。安静と水分補給も重要です。
胸膜炎・気胸
肺を取り囲む胸膜や、肺そのものに起こる比較的まれな病気ですが、咳や胸の痛みの原因となります。
- 胸膜炎: 様々な原因(肺炎からの波及、結核、自己免疫疾患など)で胸膜に炎症が起こる病気です。
- 症状: 深呼吸や咳をする際に、胸に鋭い痛みが走るのが特徴的です。痛む場所は炎症が起きている部位によります。発熱や息苦しさを伴うこともあります。胸水が溜まると、痛みは和らぐこともありますが、息苦しさが増すことがあります。
- 診断: 胸部レントゲン検査、CT検査、超音波検査、血液検査、胸水検査などで診断されます。
- 治療: 原因疾患に対する治療が主体となります。痛み止めや炎症を抑える薬が使われます。胸水が多い場合は、抜いて症状を和らげることもあります。
- 気胸: 肺に穴が開き、肺の中の空気が胸腔(肺と胸壁の間の空間)に漏れ出し、肺がしぼんでしまう病気です。痩せ型の若い男性に多いですが、高齢者や肺の病気(COPDなど)がある方にも起こります。
- 症状: 突然の胸の痛みと息苦しさが主な症状です。痛みは通常片側の胸に起こり、咳をしたり深呼吸をしたりすると痛むことがあります。痛みの強さは様々です。
- 診断: 胸部レントゲン検査やCT検査で診断されます。
- 治療: 軽症の場合は安静で自然に治ることもありますが、症状が強い場合や肺のしぼみが大きい場合は、胸腔ドレーンという管を入れて空気を抜き、肺を膨らませる治療が必要です。再発しやすい病気でもあります。
その他の感染症(コロナなど)
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)、インフルエンザ、RSウイルス感染症など、様々なウイルスや細菌による呼吸器感染症が、咳や胸の痛みを引き起こすことがあります。
- 症状: 咳、発熱、倦怠感、頭痛、関節痛、喉の痛み、鼻水など、全身の症状を伴うことが多いです。胸の痛みは、咳のしすぎによる筋肉痛であったり、気管支や肺の炎症が軽い場合に生じたりすることがあります。肺炎を合併した場合は、痛みが強くなることがあります。
- 診断: 症状や流行状況に加え、PCR検査や抗原検査、インフルエンザ迅速検査などで診断されます。
- 治療: 対症療法が中心となります(解熱剤、咳止めなど)。原因に応じた抗ウイルス薬が使われることもあります。
その他の可能性のある病気
呼吸器系以外の病気が、咳や胸の痛みを引き起こすこともあります。これらの病気は緊急性が高い場合もあるため、注意が必要です。
心臓の病気
日本循環器学会のガイドライン[^2]では、急性冠症候群は突然の胸痛を主症状とする緊急疾患であり、咳を伴う胸痛が初期症状となる場合があることに触れられています。狭心症や心筋梗塞などの心臓病は、胸の痛みの原因として最も注意が必要な病気の一つです。
- 症状: 典型的には、胸の真ん中や左胸に、締め付けられるような、圧迫されるような痛みが数分から10数分(特に15分以上続く場合は注意)続きます。肩や腕、顎などに痛みが広がることもあります。息切れ、冷や汗、吐き気などを伴うこともあります。運動時や労作時に痛みが出やすいのが狭心症、安静時にも痛みが続き、より症状が重いのが心筋梗塞です。咳が心臓病の直接の症状であることは稀ですが、心不全などが原因で咳が出ている場合に、胸の痛みを伴う可能性はあります。糖尿病患者さんや高齢者では、典型的な胸痛がなく、咳だけが目立つ非典型的な症状で現れることもあるため注意が必要です。
- 診断: 心電図、心臓超音波検査、血液検査(心筋トロポニンなど)、冠動脈造影検査などで診断されます。
- 治療: 薬物療法(ニトログリセリンなど)、カテーテル治療、バイパス手術など、病状に応じた治療が行われます。心臓病が疑われる症状がある場合は、ためらわずに救急車を呼ぶか、すぐに医療機関を受診してください。
消化器系の病気
食道や胃の病気が、咳や胸の痛みを引き起こすこともあります。
- 逆流性食道炎: 胃酸が食道に逆流し、食道に炎症を起こす病気です。
- 症状: 胸焼け(胸の真ん中が熱く感じる痛み)、呑酸(酸っぱいものがこみ上げる)、胃もたれなどが主な症状ですが、慢性的な咳(日本消化器病学会のガイドライン[^3]によると、特に夜間や横になった時、前屈姿勢で悪化しやすい)、喉の違和感、声枯れなどを伴うこともあります。胸の痛みは、胸焼けのような不快感や、食道が刺激されることによる痛みとして感じられることがあります。咳発作時にみぞおちの痛みが強まる場合も、逆流性食道炎の可能性が考えられます[^3]。
- 診断: 問診に加え、内視鏡検査(胃カメラ)や食道pH測定などで診断されます。
- 治療: 胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)や、食道の運動を改善する薬が用いられます。食事や生活習慣の改善も重要です。
このように、咳で胸が痛いという症状の背景には、様々な病気が隠れている可能性があります。痛みの特徴や、咳以外の症状(発熱、息苦しさ、痰、動悸など)の有無、痛む場所などをよく観察し、適切な対応をとることが大切です。
痛む場所別の原因
咳をした時に胸のどこが痛むかによって、原因となる可能性のある病気が絞られることがあります。ただし、あくまで目安であり、痛む場所だけで自己判断はせず、症状全体を見て判断することが重要です。
咳で左胸が痛い場合
左胸の痛みは、心臓病との関連が懸念されるため、特に注意が必要です。
- 心臓病: 狭心症や心筋梗塞など。締め付けられるような痛み、息苦しさ、冷や汗などを伴う場合は緊急性が高いです。咳が直接の原因となることは少ないですが、心不全などで咳が出ている場合に痛む可能性があります。特に締め付けられるような痛みが15分以上続く場合は、日本循環器学会のガイドライン[^2]でも危険なサインとされています。
- 肋骨骨折・ひび: 左側の肋骨に咳による疲労骨折やひびが入った場合。押したり咳をしたりすると特定の場所が強く痛みます。
- 肋間神経痛: 左側の肋間神経が刺激された場合。ピリピリ、チクチクとした痛みが肋骨に沿って走ります。
- 胸膜炎・気胸: 左側の肺や胸膜に炎症や穴が開いた場合。深呼吸や咳で鋭い痛みが走ります。息苦しさを伴うことが多いです。
- 筋肉の炎症: 左側の胸や腹部の筋肉が咳のしすぎで炎症を起こした場合。鈍い痛みが比較的広い範囲に起こります。
左胸の痛みは、心臓病の可能性を常に頭に入れ、特に症状が強い場合や、締め付けられるような痛みを伴う場合は、速やかに医療機関を受診することが非常に重要です。
咳で胸の真ん中が痛い場合
胸骨の裏側あたり、胸の真ん中が痛む場合、気道や食道に関連する病気が考えられます。
- 気管支炎・肺炎: 気管や気管支、肺の炎症が、胸の真ん中あたりの不快感や痛みを引き起こすことがあります。咳や痰を伴います。
- 逆流性食道炎: 食道が刺激されることによる痛みや胸焼け感として、胸の真ん中が痛むことがあります。特に食後や横になった時に悪化しやすいです。日本消化器病学会のガイドライン[^3]でも、胸骨後部の灼熱感は逆流性食道炎の特徴的な症状とされています。
- 心臓病: 狭心症や心筋梗塞の痛みが、胸の真ん中に現れることも少なくありません。締め付けられるような痛みが特徴です。
- 気管、縦隔の病気: 気管や胸の真ん中の空間(縦隔)の病気も原因となる可能性はありますが、比較的稀です。
咳でみぞおちが痛い場合
みぞおちは胃に近い部分ですが、呼吸器系の炎症が原因で痛みを感じることもあります。
- 消化器系の病気: 胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎など。食後や空腹時など、食事に関連して痛みが変化することが多いです。咳や痰を伴うこともあります(逆流性食道炎など)。逆流性食道炎では、咳発作時に心窩部(みぞおち)の痛みが強まることがあります[^3]。
- 肺炎・気管支炎: 特に下葉の肺炎など、肺の炎症がみぞおち付近に痛みを放散させることがあります。咳や息苦しさを伴います。
- 肋骨骨折・ひび: 下部の肋骨が咳で損傷した場合、みぞおち付近が痛むように感じられることがあります。
- 筋肉の炎症: 咳のしすぎで腹筋やみぞおち周辺の筋肉が炎症を起こした場合。
咳で肋骨(あばら)周辺が痛い場合
肋骨に沿った痛みや、押すと特定の肋骨が痛む場合は、物理的な負担によるものが多いです。
- 肋骨骨折・ひび: 咳による疲労骨折やひび。特定の場所が強く痛みます。
- 肋間神経痛: 肋骨に沿って走るピリピリ、チクチクとした痛み。
- 筋肉の炎症: 肋骨の間にある肋間筋などの炎症。広範囲に鈍い痛みが出やすいです。
- 胸膜炎: 胸膜の炎症が肋骨の裏側あたりに鋭い痛みを引き起こすことがあります。深呼吸や咳で痛みが強くなります。
痛む場所は手がかりになりますが、痛みの性質(鋭い痛みか鈍い痛みか、持続するか断続するかなど)や、他の症状(発熱、息苦しさ、痰など)の有無も合わせて考慮することが、原因を特定する上で重要です。
咳で胸が痛い時の対処法
咳で胸が痛い場合、痛みの原因によって対処法は異なります。まずはご自宅でできる応急処置や、症状を和らげる市販薬について解説しますが、これらの対処法はあくまで一時的なものであり、症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。
自宅でできる応急処置
痛みの原因が咳のしすぎによる筋肉や肋骨への負担である可能性が高い場合に有効な対処法です。ただし、重篤な病気が隠れている可能性もあるため、無理は禁物です。
安静にする
最も基本的な対処法です。体を休ませることで、咳の回数を減らし、胸にかかる負担を軽減できます。
- 十分な睡眠: 睡眠は体の回復力を高めます。咳が出にくい体勢で横になるなど工夫しましょう。
- 活動量を減らす: 激しい運動や、胸に負担がかかるような作業は避けましょう。
- 会話を控える: 大きな声を出したり、長く話し続けたりすることも咳を誘発し、胸に負担をかけることがあります。
痛む場所を冷やす
咳のしすぎによる筋肉の炎症や、肋骨の打撲(咳による圧迫など)が原因で熱を持っている場合、患部を冷やすことが痛みの軽減につながることがあります。
- 冷湿布: 痛む部分に冷湿布を貼ります。
- 氷嚢: 氷水を入れたビニール袋や氷嚢をタオルで包み、患部に当てます。
- 注意点: 冷やしすぎは血行を悪くし、回復を遅らせる可能性もあります。冷やすのは炎症や痛みが強い急性期に限るのが一般的です。また、冷やすことで痛みが悪化する場合や、原因が炎症でない場合は、温める方が良い場合もあります(ただし、自己判断はせず医師に相談してください)。
適切な姿勢をとる
咳が出にくい、あるいは胸が楽になる姿勢をとることで、痛みを和らげることができます。
- 横向きに寝る: 仰向けよりも、横向きに寝る方が気道が確保されやすく、咳が出にくいことがあります。楽な方の側面を下にして寝てみましょう。
- 上半身を起こして寝る: 枕を高くしたり、背もたれを使ったりして、上半身を少し起こした姿勢で寝ることで、気道への刺激が減り、咳が軽減されることがあります。
- 座る姿勢: 背筋を伸ばし、少し前かがみになるような姿勢が楽なこともあります。クッションなどを利用して、最も楽な姿勢を見つけましょう。
これらの応急処置は、症状の緩和に役立つ可能性がありますが、症状が続く場合や、悪化する場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
症状を和らげる市販薬
薬局やドラッグストアで購入できる市販薬で、咳や痛みを一時的に和らげることができます。ただし、市販薬で対応できるのは、症状が比較的軽い場合に限られます。また、原因に応じた薬を選ぶ必要があり、自己判断での服用は危険な場合もあります。薬剤師や登録販売者に相談の上、使用しましょう。
市販薬として考えられるのは主に以下の種類です。
種類 | 主な成分例 | 効果の期待される症状 | 注意点 |
---|---|---|---|
内服鎮痛剤 | イブプロフェン、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン | 筋肉痛、肋間神経痛、肋骨周辺の痛み | 胃腸への負担、他の薬との飲み合わせ、副作用。 |
貼り薬(湿布) | ロキソプロフェンナトリウム、ケトプロフェンなど | 患部の炎症を抑え痛みを和らげる(筋肉痛、肋骨周辺の痛み) | 皮膚のかぶれ、日光過敏症(一部成分)。 |
咳止め薬 | デキストロメトルファンなど | 咳を鎮める | 痰を伴う咳には不向きな場合あり。眠気を誘う成分も。原因疾患の治療ではない。 |
市販薬を使用する際の注意点:
- 原因不明の痛みには使用しない: 重篤な病気(心臓病など)が原因の場合、市販薬で痛みを和らげてしまうと、病気の発見が遅れてしまう可能性があります。原因がはっきりしない痛みや、痛みが強い場合は、市販薬に頼らず医療機関を受診しましょう。
- 副作用の確認: 薬には副作用があります。添付文書をよく読み、用法・用量を守って使用してください。他の薬を服用している場合や、持病がある場合は、飲み合わせや影響について薬剤師に相談してください。
- 症状が改善しない場合: 数日使用しても症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、市販薬での対応の範囲を超えている可能性があります。速やかに医療機関を受診してください。
- 咳止め薬の選択: 痰を伴う湿った咳の場合は、咳止め薬よりも、痰を出しやすくする去痰薬の方が適している場合があります。また、咳の原因が感染症の場合は、原因疾患の治療が必要です。
市販薬はあくまで一時的な症状緩和のために使用し、根本的な原因の治療は医療機関で行うことが重要です。
医療機関を受診する目安と何科を受診すべき?
咳で胸が痛い症状がある場合、ご自宅での対処法や市販薬で様子を見ても良い場合と、すぐに医療機関を受診すべき場合があります。適切なタイミングで適切な診療科を受診することが、早期発見・早期治療につながります。
すぐに受診が必要な危険な症状
以下の症状が見られる場合は、重篤な病気の可能性があり、緊急性が高いと考えられます。ためらわずに救急車を呼ぶか、速やかに救急外来を受診してください。
- 強い息苦しさや呼吸困難: 呼吸が速い、浅い、肩で息をしているなど、明らかに呼吸が苦しそうな場合。
- 胸の痛みが非常に強い、あるいは急激に強くなった場合: 特に締め付けられるような痛みや、背中にまで響くような痛み。
- 高熱(38.5℃以上など)が続いている場合: 肺炎などの重い感染症の可能性。
- 血痰が出る場合: 咳と一緒に血が混じった痰が出る場合。
- 顔色や唇の色が悪い(チアノーゼ)場合: 体内の酸素が不足しているサイン。
- 意識が朦朧としている、呼びかけへの反応が鈍い場合: 全身状態が悪化しているサイン。
- 日本循環器学会のガイドライン[^2]でも危険なサインとして挙げられている、締め付けられるような胸の痛みが15分以上続き、冷や汗や吐き気を伴う場合: 心筋梗塞などの可能性。
- 突然の強い胸の痛みと息苦しさ(特に痩せ型の若い男性): 気胸の可能性。
病院を受診するタイミング
緊急性の高い症状がない場合でも、以下のような場合は医療機関を受診することを推奨します。
- 咳と胸の痛みが数日(目安として3日〜1週間)以上続いている、あるいは徐々に悪化している場合。
- 市販薬を使用しても症状が改善しない場合。
- 咳や痛みのために、日常生活(睡眠、食事など)に支障が出ている場合。
- 発熱や痰(特に色が付いている場合)、倦怠感など、咳や痛み以外の症状を伴う場合。
- 過去に呼吸器系や心臓に病気がある方で、症状が出ている場合。
- 不安が強い場合。
迷った場合は、地域の相談窓口(救急安心センター事業 #7119など)に相談するか、医療機関に電話で問い合わせてみましょう。
症状による適切な診療科の選び方
咳で胸が痛いという症状は様々な原因が考えられるため、どの診療科を受診すれば良いか迷うことがあります。以下を参考に、症状に合わせて受診する科を選んでみましょう。
呼吸器内科
咳、痰、息苦しさ、胸の痛みなど、呼吸器症状が主な場合。風邪、気管支炎、肺炎、胸膜炎、気胸、喘息、COPDなどの診断・治療を行います。
- こんな症状の時に: 長引く咳、痰が絡む咳、発熱を伴う咳、息苦しさ、深呼吸や咳で痛む胸の痛み(特に鋭い痛み)、喫煙歴がある方の咳や息切れ。
循環器内科
左胸の痛みや、締め付けられるような胸の痛みがあり、心臓病の可能性が疑われる場合。狭心症、心筋梗塞、心不全、不整脈などの診断・治療を行います。
- こんな症状の時に: 左胸や胸の真ん中の締め付けられるような痛み、圧迫感、動悸、息切れ、冷や汗、吐き気、坂道や階段を登るなどの労作で痛みが出る。特に痛みが15分以上続く場合[^2]。
整形外科
咳のしすぎによる肋骨や筋肉、神経の痛みが主な場合。肋骨骨折・ひび、肋間神経痛、筋肉痛などの診断・治療を行います。
- こんな症状の時に: 咳をすると特定の肋骨やその周辺が強く痛む、押すと痛む場所がはっきりしている、ピリピリ、チクチクとした神経痛のような痛み。
その他の診療科
症状によっては、他の診療科が適切な場合もあります。
- 消化器内科: みぞおちの痛みや胸焼け感が強く、食後や横になった時に悪化するなど、消化器系の症状が疑われる場合。逆流性食道炎など。夜間や前屈みで咳が悪化し、胸焼けや呑酸を伴う場合[^3]。
- 耳鼻咽喉科: 咳の原因が鼻や喉の炎症(副鼻腔炎、咽頭炎、喉頭炎など)である場合。鼻水、鼻づまり、喉の痛みなどが強い場合。
受診する科に迷った場合:
最初に、症状を総合的に診てくれる内科やかかりつけ医を受診するのが良いでしょう。必要に応じて、専門医(呼吸器内科医や循環器内科医など)を紹介してもらえます。
咳で胸が痛いに関するよくある質問
咳で胸が痛む症状について、よくある疑問とその回答をまとめました。
咳で胸が痛いのに熱はないのはなぜ?
咳で胸が痛い場合でも、必ずしも熱が出るとは限りません。熱がない場合でも、以下のような原因が考えられます。
- 咳のしすぎによる筋肉痛や肋骨の損傷: 強い咳や長時間の咳が原因で、胸の筋肉や肋骨に負担がかかり痛む場合、炎症性の発熱を伴わないことが多いです。
- 肋間神経痛: 神経の刺激による痛みであり、炎症を伴わない場合は熱は出ません。
- 軽い気管支炎や上気道炎: 炎症が限定的であれば、咳や喉の痛み、胸の痛みがあっても、発熱しないか微熱程度で済むことがあります。
- 逆流性食道炎: 消化器系の病気が原因の咳や痛みであるため、発熱は伴いません[^3]。
- 胸膜炎のごく初期や原因による: 胸膜炎でも、原因や病期によっては熱が出ないこともあります。
熱がないからといって軽視せず、痛みの性質や他の症状、痛む場所などを考慮して判断することが重要です。痛みが強い場合や長引く場合は、熱がなくても医療機関を受診しましょう。
咳のしすぎで胸が痛い時の市販薬は?
咳のしすぎによる筋肉痛や肋骨周辺の痛みに対しては、市販の鎮痛剤や貼り薬(湿布など)が痛みの緩和に役立つことがあります。
種類 | 主な成分例 | 効果の期待される症状 | 注意点 |
---|---|---|---|
内服鎮痛剤 | イブプロフェン、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン | 筋肉痛、肋間神経痛、肋骨周辺の痛み | 胃腸への負担、他の薬との飲み合わせ、副作用。 |
貼り薬(湿布) | ロキソプロフェンナトリウム、ケトプロフェンなど | 患部の炎症を抑え痛みを和らげる(筋肉痛、肋骨周辺の痛み) | 皮膚のかぶれ、日光過敏症(一部成分)。 |
咳止め薬 | デキストロメトルファンなど | 咳を鎮める | 痰を伴う咳には不向きな場合あり。眠気を誘う成分も。原因疾患の治療ではない。 |
市販薬を使用する際の注意点:
- 原因不明の痛みには使用しない: 重篤な病気(心臓病など)が原因の場合、市販薬で痛みを和らげてしまうと、病気の発見が遅れてしまう可能性があります。原因がはっきりしない痛みや、痛みが強い場合は、市販薬に頼らず医療機関を受診しましょう。
- 副作用の確認: 薬には副作用があります。添付文書をよく読み、用法・用量を守って使用してください。他の薬を服用している場合や、持病がある場合は、飲み合わせや影響について薬剤師に相談してください。
- 症状が改善しない場合: 数日使用しても症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、市販薬での対応の範囲を超えている可能性があります。速やかに医療機関を受診してください。
- 咳止め薬の選択: 痰を伴う湿った咳の場合は、咳止め薬よりも、痰を出しやすくする去痰薬の方が適している場合があります。また、咳の原因が感染症の場合は、原因疾患の治療が必要です。
市販薬はあくまで一時的な症状緩和のために使用し、根本的な原因の治療は医療機関で行うことが重要です。
咳で肋骨が痛いのは病気ですか?
咳で肋骨が痛む場合、それは何らかの「病態」や「状態」であると考えられます。単なる筋肉痛であれば、それは「筋肉痛」という状態です。しかし、より具体的な診断名としては、以下のような病気が考えられます。
- 肋骨骨折・ひび: 強い咳による肋骨の損傷は、立派な「病気」(外傷性疾患)です。特に高齢者や骨粗鬆症の方はリスクが高いです。
- 肋間神経痛: 肋間神経が刺激されて起こる痛みは、「肋間神経痛」という病気(神経系の疾患)です。
- 筋肉の炎症: 咳のしすぎによる筋肉の炎症も、「筋炎」といった病態として捉えられます。
このように、咳で肋骨が痛い場合、それは単なる一時的な不調ではなく、何らかの医学的な診断がつく病気や病態である可能性が高いです。痛みが続く場合や強い場合は、自己判断せず、整形外科などで診察を受け、診断を確定してもらうことが重要です。
まとめ:咳で胸が痛い時は原因に応じた対応を
咳をすると胸が痛いという症状は、日常生活でよく経験されるものですが、その原因は単なる咳のしすぎによる筋肉痛から、肺炎や胸膜炎、稀には心臓病など、様々な病気が考えられます。痛む場所や痛みの性質、そして咳以外の症状(発熱、息苦しさ、痰、動悸など)の有無によって、疑われる病気は異なります。厚生労働省のウェブサイトでも、症状に悩んでいる人は参考にし、重要な病気を見逃すことのないよう注意を促しています[^1]。
この記事では、咳で胸が痛くなる主な原因や、考えられる病気、痛む場所別の可能性、ご自宅でできる対処法、市販薬、そして医療機関を受診する目安や適切な診療科について解説しました。以下の表に、原因や病気ごとの主な特徴や対応をまとめました。
原因・病気 | 主な痛みの特徴 | 伴いやすい他の症状 | 受診すべき主な診療科 | 危険なサイン(すぐに受診) |
---|---|---|---|---|
咳のしすぎによる負担 | 筋肉痛、肋骨周辺の痛み、神経痛 | なし、または咳だけ | 整形外科、内科 | 痛みが非常に強い、押すと激痛、変形がある(稀) |
肺炎・気管支炎 | 胸の真ん中や広範囲の痛み、深呼吸で痛む | 発熱、痰、息苦しさ、倦怠感 | 呼吸器内科、内科 | 高熱、強い息苦しさ、血痰、顔色不良 |
胸膜炎 | 深呼吸や咳で鋭く痛む | 発熱、息苦しさ | 呼吸器内科、内科 | 強い息苦しさ、痛みの増悪 |
気胸 | 突然の強い痛み、深呼吸で痛む | 強い息苦しさ | 呼吸器内科、救急外来 | 強い痛みと強い息苦しさ、顔色不良 |
心臓病 | 左胸や胸の真ん中の締め付けられる痛み | 息切れ、冷や汗、吐き気、動悸 | 循環器内科、救急外来 | 締め付けられる痛みが15分以上続く[^2]、強い締め付けられる痛み、持続する痛み、冷や汗、息苦しさ |
逆流性食道炎 | 胸焼けのような痛み、みぞおちの痛み | 呑酸、胃もたれ、慢性の咳(夜間や前屈みで悪化[^3]) | 消化器内科、内科 | 食事が全く摂れない、体重減少、吐血(稀) |
ご自宅で安静にする、痛む場所を冷やす、市販薬で痛みを和らげるなどの対処法は、症状が軽い場合には有効なこともありますが、あくまで一時的なものです。特に、強い息苦しさ、高熱、血痰、我慢できないほどの強い痛みなどが見られる場合は、命に関わる病気の可能性もあるため、ためらわずに救急車を呼ぶか、速やかに医療機関を受診することが非常に重要です。
緊急性の高い症状がない場合でも、咳や胸の痛みが数日以上続く場合、症状が徐々に悪化する場合、他の症状を伴う場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。迷った場合は、まずはかかりつけ医や内科を受診することをお勧めします。
ご自身の症状をよく観察し、この記事の情報が、適切な判断と行動につながる一助となれば幸いです。
References (参考文献)
- [^1]: 厚生労働省. 咳による胸の痛み。考えられる理由や病気について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html
- [^2]: 日本循環器学会. 急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞)診療ガイドライン. (2022). https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2022_fukuda.pdf
- [^3]: 日本消化器病学会. 逆流性食道炎診療ガイドライン. (2022). https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/gerd_2022.pdf
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じた損害等について、一切の責任を負いかねますのでご了承ください。