整体や整骨院に通いたいと考えたとき、「健康保険は使えるのだろうか?」と疑問に思う方は多いでしょう。費用を抑えられるなら、ぜひ保険を活用したいですよね。しかし、整体と整骨院(接骨院)では、そもそも保険適用のルールが大きく異なります。また、同じ整骨院でも、どんな症状で、どのような施術を受けるかによって、保険が使える場合と使えない場合があります。
この記事では、「整体 保険適用」という疑問に対し、整体と整骨院・接骨院の違いから、それぞれの保険適用の原則、保険が使える具体的なケース、そして注意すべき不正請求のリスクまでを分かりやすく解説します。正しい知識を身につけて、安心して施術所を選び、不必要な費用負担やトラブルを避けましょう。
結論から言うと、整体院で施術を受ける際に、健康保険を適用することは原則としてできません。整体は、日本の法律上、医療行為とはみなされていないため、公的な医療保険である健康保険の給付対象外となっています。
整体院で提供される施術は、基本的に全額自己負担となる「自由診療」です。これは、整体院の施術内容や提供されるサービスの質が低いという意味では決してありません。あくまで、法的な位置づけや資格制度に基づいたルールであると理解してください。
もし、整体院で「保険が使えます」と案内された場合は、例外的なケースを除き、注意が必要です。これについては後ほど詳しく解説します。
なぜ整体は保険適用されないのか
整体が健康保険の適用対象外となる理由は、その法的な位置づけと、施術を行う人の資格にあります。健康保険が適用される医療行為やそれに準ずる行為は、医師や看護師、理学療法士、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師といった、法律で定められた国家資格を持つ人が、その資格の範囲内で行うものに限られます。
整体の施術は、これらの法的に定められた医療行為や医療類似行為とは異なり、民間療法として位置づけられています。そのため、健康保険の適用対象にはならないのです。
整体と整骨院・接骨院の違い
整体とよく混同されがちなのが、整骨院や接骨院です。「○○整体院」や「○○整骨院」といった名称を見かけることがありますが、これらは根本的に異なるものです。この違いを理解することが、保険適用について正しく理解する上で非常に重要です。
項目 | 整体院 | 整骨院・接骨院 |
---|---|---|
法的な位置づけ | 民間療法 | 医療類似行為(柔道整復) |
施術者の資格 | 国家資格は必須ではない(民間資格が主流) | 柔道整復師(国家資格)が必須 |
保険適用 | 原則不可(自由診療) | 特定の急性外傷に対して可能(療養費) |
主な目的 | 慰安、リラクゼーション、疲労回復、慢性症状の改善、姿勢調整など | 骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷(肉ばなれ)など、急性外傷の治療・機能回復 |
施術内容の多様性 | 多様(特定の流派や独自の手技など) | 柔道整復術(整復、固定、手技、電気療法など) |
整体の定義と資格
整体は、特定の法的な定義があるわけではありません。広く捉えると、手技を用いて体のバランスを整えたり、筋肉をほぐしたりすることで、不調を改善したり健康維持を図ったりする民間の療法全般を指すことが多いです。カイロプラクティックなど、海外由来の手技を取り入れている場合もあります。
整体の施術を行うために、法律で定められた国家資格は必要ありません。民間のスクールや養成機関で技術を学び、民間の資格を取得して開業するケースが一般的です。そのため、施術者の技術レベルや知識、施術内容には多様性があり、院によって提供されるサービスも大きく異なります。
法的な根拠がないため、診断や治療を謳うことはできません。あくまで、リラクゼーションや疲労回復、体のコンディショニング、慢性的な不調に対する慰安的な手技などを提供する場として位置づけられています。
整骨院・接骨院の定義と資格
一方、整骨院や接骨院は、柔道整復師という国家資格を持つ人が開設・施術を行う施術所です。柔道整復師は、骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷(肉ばなれなど)といった急性または亜急性期の外傷に対して、手術をしない方法(非観血的療法)で治療を行う専門家です。これらは「柔道整復術」と呼ばれ、法律(柔道整復師法)に基づいた医療類似行為として認められています。
柔道整復師になるためには、文部科学大臣または厚生労働大臣が指定した学校または養成施設で3年以上学び、国家試験に合格する必要があります。解剖学、生理学、運動学、病理学などの医学知識に加え、柔道整復術の実技を習得します。
整骨院・接骨院では、この柔道整復術の範囲内であれば、健康保険の一部適用が認められています。これは「療養費」と呼ばれ、患者は自己負担分(通常1割~3割)を支払い、残りは柔道整復師が患者に代わって保険者(健康保険組合や市区町村など)に請求する「受領委任払い」という仕組みが一般的です。
つまり、整体が民間療法であるのに対し、整骨院・接骨院は国家資格に基づく医療類似行為を行う施術所であり、この違いが保険適用の可否を分ける最大の理由なのです。
整骨院・接骨院で保険適用されるケース
では、整骨院・接骨院では具体的にどのような場合に健康保険(療養費)が適用されるのでしょうか。保険適用には、症状の種類と施術の条件が定められています。
保険適用される症状の具体例
整骨院・接骨院で健康保険の対象となるのは、主に以下のような急性または亜急性期の外傷性の負傷です。
骨折、脱臼、打撲、捻挫(肉ばなれ等)
- 骨折: 骨が折れた状態。応急処置を除き、医師の同意が必要です。
- 脱臼: 関節から骨が外れた状態。応急処置を除き、医師の同意が必要です。
- 打撲: 体を強く打ち付けたことで、皮下組織や筋肉などが損傷した状態。いわゆる「打ち身」。
- 捻挫: 関節に無理な力が加わり、靭帯や関節包などの軟部組織が損傷した状態。足首や手首、首などを捻った場合など。
- 挫傷(肉ばなれ等): 筋肉が急激な収縮や伸張によって損傷した状態。太ももやふくらはぎの「肉ばなれ」など。
これらの症状は、「いつ、どこで、何をしていて怪我をしたのか」という負傷原因が明確であり、比較的新しい怪我であることが保険適用の条件となります。
保険適用される施術の条件
上記の症状に加えて、健康保険が適用されるためには、いくつかの施術に関する条件を満たす必要があります。
負傷原因がはっきりしていること
最も重要な条件の一つが、負傷原因が明確であることです。「いつから」「どこが」「何をしていて痛くなったのか」を具体的に柔道整復師に伝える必要があります。例えば、「階段を踏み外して足首を捻った」「スポーツ中に太ももを痛めた」「転倒して手をついて手首を打った」など、原因が特定できる怪我が対象です。
原因が分からない痛みや、日常生活の中で「なんとなく痛くなってきた」といった症状は、原則として保険適用外となります。
慢性的な症状や疲労は適用外
長期間にわたって続いている肩こりや腰痛、神経痛(五十肩、腰椎椎間板ヘルニアなど病気からくる痛み)、単なる疲労などは、健康保険の適用対象外です。これらは「慢性的な症状」や「病気による症状」とみなされ、柔道整復師の専門分野である外傷性の負傷とは区別されます。
慢性的な肩こりや腰痛などに対して整骨院で施術を受ける場合は、自由診療となります。保険が使えるのは、あくまで急性の外傷(いつ、どこで、何をして怪我をしたか明確なもの)に限られることを理解しておきましょう。
骨折・脱臼で保険を使う場合の注意点
骨折または不全骨折(ひび)、脱臼で整骨院・接骨院にかかる場合、応急手当を除いて、あらかじめ医師の同意が必要です。これは、骨折や脱臼は医学的な診断や管理が必要な場合があるため、医師との連携を義務付けているためです。
応急手当として整骨院で施術を受けた後、継続して施術を受ける場合は、整形外科などを受診し、医師の同意を得る必要があります。この同意は、口頭でも構いませんが、同意書などを求められる場合もあります。
また、既に医療機関(病院や診療所)で骨折や脱臼の治療を受けている場合、同一の負傷に対して整骨院でも保険を使って施術を受けることは原則としてできません。これは、医療機関での治療と柔道整復師による施術の保険給付が重複するためです。
これは、医療機関での治療と柔道整復師による施術の保険給付が重複するためです。
保険適用外となるケースと自由診療
整骨院・接骨院であっても、健康保険が適用されないケースは多々あります。これらの場合は、施術費用が全額自己負担となる自由診療として提供されます。
肩こりや慢性腰痛は保険適用外
前述の通り、多くの人が悩む肩こりや慢性的な腰痛は、病気や長年の体の使い方の癖、姿勢など、外傷とは異なる原因で生じることがほとんどです。そのため、整骨院・接骨院でこれらの症状に対して施術を受ける場合、原則として健康保険は使えません。
ただし、「荷物を持ち上げようとして急に腰を痛めた(ぎっくり腰)」や「寝違えて首を痛めた」など、原因が明確な急性の腰痛や首の痛みは、捻挫や挫傷とみなされ保険適用となる場合があります。線引きが難しい場合もあるため、まずは相談してみることが大切です。
疲労回復や慰安目的の施術
単なる疲労回復、リラクゼーション、慰安を目的としたマッサージや施術は、健康保険の対象外です。例えば、「仕事で疲れたから」「気分転換に」「体がだるいから」といった理由で整骨院に通う場合、保険は使えません。
また、健康維持や体調管理、姿勢の改善などを目的とした施術も、多くの場合保険適用外となります。
医療機関での治療との重複
既に病院や診療所で同一の負傷(例えば、同じ足首の捻挫)について医師の診察や治療を受けている期間中に、整骨院・接骨院でその捻挫に対する施術を受ける場合、健康保険の二重利用となりますので、原則として保険は使えません。
ただし、医師の同意を得た上で、医師の指示や連携のもとで柔道整復師による施術を保険適用で受けることが可能な場合もあります。これは稀なケースであり、事前に医師と柔道整復師の間で十分な情報共有と合意が必要です。通常は、どちらか一方を選択することになります。
このように、整骨院・接骨院で健康保険が使えるのは非常に限定的なケースです。それ以外の多くの施術は自由診療となります。自由診療の場合、施術内容や料金設定は施術所が独自に定めます。保険診療では受けられない長時間のマッサージや、最新の機器を用いた施術など、多様なサービスが提供されていることもあります。
整体でも保険が使えると案内されたら?
ここまで解説したように、整体院は健康保険の適用対象外です。しかし、中には整体院を名乗りながら「保険が使えます」と案内したり、整骨院・接骨院であっても保険適用外の症状で保険請求を行ったりするケースが存在すると言われています。
不正請求の可能性と注意点
整体院が健康保険を扱うこと自体がルール違反ですが、整骨院・接骨院でも、本来保険適用外である症状(肩こり、慢性腰痛など)を、保険適用される傷病名(捻挫、打撲など)に偽って保険請求する不正請求が行われることがあります。
療養費の不正請求とは
柔道整復師の施術にかかる療養費は、患者からの申請に基づき、健康保険組合などが審査して柔道整復師に支払われます。この際、実際には保険適用外の施術であったにもかかわらず、偽りの傷病名や施術内容、施術日数を記載して請求する行為が不正請求にあたります。
具体的な不正請求の例としては、以下のようなものがあります。
- 保険適用外の慢性的な肩こりや腰痛を「肩部捻挫」「腰部打撲」など急性外傷として請求する。
- 実際には受けていない施術日数を水増しして請求する。
- 健康保険の対象外である慰安目的の施術を、保険診療として請求する。
- 同一の負傷で複数の施術所や医療機関に同時にかかっているにもかかわらず、それぞれで保険請求を行う。
- 交通事故による怪我など、自賠責保険や労災保険の対象となるケースを、健康保険に二重で請求する。
こうした不正請求は、健康保険制度を脅かすだけでなく、結果として患者自身にも影響を及ぼす可能性があります。
患者自身も罰せられる可能性
不正請求が行われている施術所を利用した場合、患者自身もその不正に加担したとみなされ、罰せられる可能性があります。
- 健康保険給付金の返還請求: 不正に支払われた療養費は、患者を通じて保険者から返還を求められることがあります。例えば、自己負担分1~3割だけを支払い、残りの7~9割を保険で賄っていた場合、不正請求された残りの金額全額の返還を求められる可能性があります。
- 悪質な場合は詐欺罪: 患者が不正請求であることを知りながら、積極的に協力していたと判断された場合、詐欺罪などに問われる可能性もゼロではありません。
このような事態を避けるためにも、患者自身が保険適用のルールについて正しい知識を持つことが重要です。
もし、通っている整骨院や接骨院、あるいは整体院と称する施術所で、保険適用について不審な点を感じたら、以下のような点に注意しましょう。
- 負傷原因や症状を明確に伝えているか?: いつ、どこで、何をして痛めたのか、具体的な原因の説明を求められているか確認しましょう。原因が曖昧なまま、保険適用できると言われた場合は注意が必要です。
- 領収書や明細書の内容を確認する: 受領委任払いの場合、通常は自己負担分のみを窓口で支払い、後日保険者から療養費支給申請書の写しや明細書が送られてくることがあります。ここに記載されている傷病名や施術日数が、自分の症状や通院状況と合っているか必ず確認しましょう。もし、慢性的な肩こりなどで通っているのに「〇〇捻挫」と記載されていたり、実際には通っていない日の日付が入っていたりする場合は、不正請求の疑いがあります。
- 保険者(健康保険組合や市区町村など)に問い合わせる: 不明な点や疑問があれば、遠慮なく自分が加入している健康保険の保険者に問い合わせてみましょう。専門の部署で、柔道整復師の施術にかかる療養費について詳しく説明してくれます。
正しい知識を持ち、不審な点があれば確認することが、自分自身を守り、健康保険制度を健全に保つためにも非常に大切です。
まとめ:整体の保険適用を正しく理解しよう
整体と整骨院・接骨院は、法的な位置づけ、施術者の資格、そして健康保険適用の可否において、全く異なるものです。
- 整体院: 民間療法であり、施術者の国家資格は不要。施術費用は原則として全額自己負担(自由診療)。
- 整骨院・接骨院: 柔道整復師という国家資格者による施術所。骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷といった急性または亜急性期の外傷に対し、負傷原因が明確であれば健康保険(療養費)が適用される場合がある。ただし、慢性的な症状や疲労、慰安目的の場合は保険適用外となり自由診療となる。
「整体 保険適用」という疑問に対しては、残念ながら整体院では原則保険は使えません。もし「保険が使える整体」と案内された場合は、その施術所が柔道整復師の資格を持つ人が開設する整骨院・接骨院であるか、あるいは不適切な保険請求を行っている可能性がないか、慎重に確認する必要があります。
肩こりや慢性的な腰痛など、日常生活での不調や疲労に対して施術を受けたい場合は、整体院や、整骨院・接骨院での自由診療を選択することになります。一方、スポーツ中や日常生活での急な怪我(捻挫、打撲など)の場合は、整骨院・接骨院で保険適用となる可能性があります。
自分の症状に合わせて、適切な施術所を選択することが大切です。迷った場合は、まずは症状を具体的に伝えて相談してみましょう。また、保険適用となるかどうかは、施術を受ける前に必ず確認し、納得した上で施術を受けるようにしましょう。不正請求に関わらないためにも、療養費の支給申請書や明細書は確認するように心がけてください。
正確な知識を持って施術所を選ぶことで、体の不調を改善し、費用面での不安なく健康的な毎日を送ることができるでしょう。
免責事項: 本記事で提供する情報は、一般的な知識に基づくものであり、個別の症状や状況に対する医学的なアドバイスや診断を意図したものではありません。特定の症状については、必ず医療機関を受診し、医師や柔道整復師等の専門家の診断・指導を受けてください。また、健康保険の適用範囲や手続きについては、加入している健康保険組合や管轄の地方厚生局にご確認ください。