熱中症は、高温多湿な環境に体が適応できず、体温調節機能がうまく働かなくなることで起こる、命に関わる危険な病気です。めまいや立ちくらみといった軽い症状から、意識障害やけいれんといった重い症状までさまざまですが、症状に気づいたら迅速かつ適切な対処(治し方)を行うことが非常に重要です。放置すると命に関わる重篤な状態に陥る可能性があります。この記事では、熱中症の症状の見分け方から、自宅や現場でできる応急処置、症状別の対処法、回復期間、そしてやってはいけないことまで、熱中症の正しい治し方について詳しく解説します。いざという時に落ち着いて行動できるよう、ぜひ参考にしてください。
熱中症の症状は、その重症度によってI度(軽症)、II度(中等症)、III度(重症)に分類されます。症状に気づいたら、まずはどのくらいの重症度かを見極めることが、その後の対処法や医療機関を受診すべきかどうかの判断に繋がります。
熱中症の軽症(I度)の症状
熱中症のI度(軽症)は、比較的軽い症状が現れる段階です。この段階で適切な処置を行えば、比較的早く回復することが期待できます。主な症状は以下の通りです。
- めまいや立ちくらみ: 急に立ち上がったときに目の前が暗くなったり、ふらついたりします。脳への血流が一時的に滞ることで起こります。
- 大量の汗: 体温を下げようとして、体に通常よりも多くの汗をかきます。ただし、高齢者や脱水が進んだ状態では汗をかきにくくなることもあります。
- 筋肉痛や筋肉の硬直(こむら返り): 体から塩分(ミネラル)が失われることで、足や腕などの筋肉に痛みやけいれんが起こることがあります。いわゆる「熱けいれん」です。
- 手足のしびれ: 同様にミネラルバランスの崩れや血行の変化によって、手足にしびれを感じることがあります。
- 全身の倦怠感や脱力感: なんとなく体がだるい、力が入らないといった症状です。
- 顔のほてり: 体温が上昇しているサインの一つで、顔が赤く火照ったように感じます。
軽症の段階では、意識はしっかりしており、自分で水分を摂ることも可能な場合が多いです。体温は正常なこともありますが、少し高い場合もあります。この段階で気づくことが、重症化を防ぐために非常に重要です。
熱中症の中等症(II度)の症状
熱中症のII度(中等症)になると、体温調節機能の異常がさらに進み、体内の機能に影響が出始めます。この段階では、速やかに医療機関を受診するなどの対応が必要です。主な症状は以下の通りです。
- 強い頭痛: ズキズキとした痛みが続くことがあります。
- 吐き気や嘔吐: 胃腸の働きが悪くなったり、脳の嘔吐中枢が刺激されたりして、吐き気を感じたり実際に吐いてしまったりします。
- だるさがひどくなる: 全身の倦怠感が強くなり、自力で動くのが困難になることがあります。
- 意識がぼんやりする、判断力が鈍る: 呼びかけに対する反応が遅くなったり、場所や時間などが分からなくなったりします。しかし、完全に意識を失うわけではありません。
- 体温が高くなる: 体温が38℃以上になることが多く、触ると熱く感じます。しかし、脱水が非常に進んでいる場合は汗をかかず、皮膚が乾燥していることもあります。
中等症の症状が現れた場合は、速やかに応急処置を行いつつ、医療機関への搬送を検討する必要があります。自力での移動が難しい場合や、症状が改善しない場合は、躊躇なく救急車を呼びましょう。
熱中症の重症(III度)の症状
熱中症のIII度(重症)は、命に関わる非常に危険な状態です。体温調節機能が完全に破綻し、脳や内臓などの重要な臓器に障害が現れます。直ちに救急車を呼び、専門的な治療を受ける必要があります。主な症状は以下の通りです。
- 意識障害: 呼びかけに全く反応しない、返事がない、身体を揺さぶっても目を開けないなど、意識を完全に失っている状態です。朦朧としている場合も重症に含まれます。
- けいれん: 全身または手足がピクピクとひきつけを起こします。これは脳の機能障害のサインです。
- 高い体温: 体温が40℃以上になることが多く、非常に危険な状態です。皮膚は熱く乾燥していることが多いですが、汗をかいている場合もあります。
- まっすぐ歩けない、立てない: 脳や神経系の機能が障害され、平衡感覚や運動能力が失われます。
- 呼びかけや刺激への反応がおかしい、または無い: 瞳孔の開き方がおかしい、痛覚への反応がないなど、脳機能の重篤な障害を示唆します。
重症の熱中症は、脳や腎臓、肝臓などの臓器に不可逆的なダメージを与える可能性があり、多臓器不全に至ることもあります。一刻も早く体温を下げることと、医療機関での専門治療が必要です。迷っている時間はありません。
医療機関を受診すべき目安
熱中症の症状が出た場合、どのタイミングで医療機関を受診すべきか迷うことがあるかもしれません。以下のいずれかに当てはまる場合は、迷わず医療機関を受診するか、救急車を要請しましょう。
症状の目安 | 対応 |
---|---|
意識障害がある(呼びかけに反応しない、おかしい) | 直ちに救急車を要請 |
けいれんがある | 直ちに救急車を要請 |
体温が40℃以上ある | 直ちに救急車を要請 |
自力で水分が摂れない(吐き気で飲めないなども含む) | 医療機関を受診または救急車を要請 |
症状が中等症(頭痛、吐き気、だるさ、意識ぼんやり) | 医療機関を受診または救急車を要請 |
応急処置をしても症状が改善しない(軽症の場合も含む) | 医療機関を受診 |
高齢者、乳幼児、持病(心臓病、糖尿病、高血圧など)がある人が発症した場合 | 医療機関を受診または救急車を要請(重症化リスクが高いため、早めの判断が重要) |
迷った場合 | 医療機関に電話で相談するか、受診 |
特に、意識障害やけいれん、高体温(40℃以上)といった重症のサインが見られた場合は、一刻を争います。ためらわずに「119番」に電話し、熱中症の疑いがあることを伝えましょう。
熱中症になったらすぐに行うべき応急処置
熱中症の症状に気づいたら、重症度に関わらず、まずはその場でできる応急処置を速やかに行うことが大切です。応急処置をいかに早く、的確に行えるかが、その後の症状の経過を大きく左右します。
応急処置の基本ステップ
熱中症の応急処置は、以下の3つの基本ステップに沿って行います。
- 安全な場所への移動: 熱中症になった人を、暑い環境から移動させます。日陰や風通しの良い場所が理想ですが、最も良いのはエアコンが効いた涼しい室内です。涼しい場所へ移動させることで、それ以上体温が上昇するのを防ぎます。
- 体を冷やす: 服装を緩めたり脱がせたりして、体からの熱の放散を助けます。さらに、外部から体を冷やして体温を積極的に下げます。特に効果的なのは、太い血管が体の表面近くを通っている部分を冷やすことです。
- 水分と塩分(電解質)の補給: 意識がはっきりしており、自分で飲める状態であれば、失われた水分と塩分を補給します。水だけではなく、塩分などのミネラルも同時に補給できるものが適しています。
これらのステップを速やかに行い、症状が改善するかどうか注意深く観察します。症状が改善しない場合や、悪化する場合は、迷わず医療機関を受診または救急車を要請しましょう。
涼しい場所への移動と体を冷やす方法
応急処置で最も重要なのは、体温をできるだけ早く下げることです。
まず、熱中症になった人を直射日光の当たる場所や暑い環境から、涼しい場所へ移動させます。近くにエアコンが効いた室内があればそこへ、なければ風通しの良い日陰を選びます。
次に、体温を下げるために以下の方法で体を冷やします。
- 衣服を緩める: 締め付けているベルトやネクタイを緩め、体を締め付けている衣服(特に合成繊維のもの)はボタンを外したり脱がせたりして、熱が体から逃げやすくします。体を露出させることで、汗の蒸発を促し、気化熱によって体温を下げる効果も期待できます。
- 体に水をかける、濡らしたタオルを当てる: 体に水をかけたり、濡らしたタオルを当てたりすることで、その水分が蒸発する際に体の熱を奪ってくれます。タオルはこまめに交換するか、再度水で濡らしましょう。
- 氷や保冷剤で冷やす: 首の付け根(頸動脈)、脇の下(腋窩動脈)、足の付け根(大腿動脈)など、太い血管が皮膚に近い部分を通っている場所を重点的に冷やします。これらの場所を冷やすことで、効率的に体内の血液を冷やし、全身の体温を下げることができます。氷や保冷剤をタオルや布で包んで直接皮膚に長時間当てすぎないように注意しましょう(凍傷の危険があります)。
- 扇風機やうちわで風を送る: 体に風を送ることで、汗や体にかけた水の蒸発を促し、気化熱による冷却効果を高めます。濡らした体に風を送るのは非常に効果的です。
これらの方法を組み合わせて、できる限り早く体温を下げるように努めます。意識障害がある場合は、体を冷やすことが最優先です。
効果的な水分・塩分補給の方法
意識がはっきりしている場合は、失われた水分と塩分を補給することが重要です。水だけを大量に飲むと、体内の塩分濃度がさらに薄まってしまい、「低ナトリウム血症」などの電解質異常を引き起こす危険があります。これはかえって症状を悪化させる可能性があります。
水分・塩分補給には、以下のものが適しています。
- 経口補水液: 水分と塩分、糖分がバランス良く含まれており、体に素早く吸収されるため、熱中症の水分補給に最も適しています。ドラッグストアや薬局、コンビニなどで手軽に購入できます。自宅で作ることも可能ですが、市販のものの方が成分バランスが正確で安心です。
- スポーツドリンク: 経口補水液ほどではありませんが、水分と電解質が含まれているため有効です。ただし、糖分が多く含まれている製品もあるため、飲みすぎには注意が必要です。
水分補給の方法:
- 少量ずつこまめに飲む: 一度に大量に飲むと、胃に負担がかかったり、かえって吐き気を誘発したりすることがあります。数分おきに一口、二口と、少量ずつ時間をかけてゆっくり飲むようにしましょう。
- 体温に近い温度のものが良い: 冷たすぎる飲み物は胃腸に負担をかけることがあります。少し冷えている程度(10℃前後)か、体温に近い温度のものがおすすめです。
注意点:
- 意識がない人には絶対に飲ませない: 意識障害がある人に無理に水分を飲ませようとすると、誤って水分が気管に入ってしまい、誤嚥性肺炎を引き起こす危険があります。意識がない場合は、水分補給ではなく、体を冷やすことを優先し、救急車の到着を待ちます。
- アルコールやカフェインを含む飲み物は避ける: アルコールやカフェインには利尿作用があり、かえって体から水分を奪ってしまう可能性があります。これらは熱中症の水分補給には適しません。
応急処置として水分・塩分補給を行った後も、回復するまで水分と塩分をこまめに補給し続けることが大切です。
熱中症の症状別の具体的な治し方・対処法
熱中症の症状は様々ですが、それぞれの症状に合わせてより具体的な対処法を知っておくと、落ち着いて対応できます。ここでは、熱中症でよく見られる症状別の治し方・対処法について解説します。
熱中症による頭痛の治し方・対処法
熱中症による頭痛は、脱水による脳の血流変化や、体温上昇による血管の拡張などが原因と考えられます。頭痛を感じたら、まずは応急処置の基本である「涼しい場所への移動」「体を冷やす」「水分・塩分補給」を行います。
- 涼しい場所で安静にする: 静かで涼しい場所で横になり、安静にすることが重要です。明るい光や騒音を避け、リラックスできる環境を作りましょう。
- 頭部を冷やす: 熱冷まシートや濡らしたタオルなどを額や後頭部に当てることで、頭部の不快感を和らげることができます。応急処置として首筋などを冷やすことも、全身の体温を下げるのに役立ち、結果的に頭痛の緩和につながることがあります。
- こまめな水分・塩分補給: 脱水が頭痛の原因になっている場合、経口補水液などで適切に水分と塩分を補給することで、頭痛が改善することが期待できます。
- 市販薬の利用: 症状が軽い場合は、アセトアミノフェンなどの成分を含む市販の解熱鎮痛薬が効果的なこともあります。ただし、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一部は、脱水を悪化させる可能性も指摘されているため、使用する際は薬剤師に相談するか、熱中症による頭痛に使えるか確認しましょう。症状が重い場合や、応急処置をしても頭痛が改善しない、悪化する場合は、医療機関を受診してください。
熱中症による吐き気の対処法
熱中症による吐き気や嘔吐は、胃腸の血流低下や、体温上昇による脳の嘔吐中枢の刺激によって起こります。吐き気がある場合は、無理に水分を飲ませようとせず、以下の点に注意して対処します。
- 安静にする: 体を起こしていると吐き気が強くなることがあるため、横になり安静にします。楽な姿勢で休みましょう。
- 少量ずつ水分を補給する: 意識がはっきりしていても、吐き気がある場合は水分をうまく飲めないことがあります。吐き気を誘発しないように、経口補水液やスポーツドリンクを、スプーンやストローなどで、ごく少量(一口程度)ずつ、時間をかけてゆっくりと飲ませます。吐き気が強い場合は、数分おきに一口程度から始め、様子を見ながら量を増やしていきます。
- 吐いてしまった場合: 吐き気が強く嘔吐してしまった場合は、脱水が進んでいるサインです。吐いた後は一時的に症状が落ち着くことがありますが、再び水分を少量ずつ補給し、様子を見ます。
- 医療機関を受診: 嘔吐が続く場合や、水分が全く摂れない場合、意識がぼんやりしてきた場合などは、すぐに医療機関を受診するか、救急車を要請してください。点滴による水分・電解質補給が必要になることがあります。
熱中症で寒気を感じる場合の対処法
熱中症なのに寒気を感じるのは、体温調節機能がうまく働かなくなり、脳が体温が低いと勘違いして震えを起こさせたり、皮膚の血管を収縮させたりするためです。これは、体が深部体温を維持しようとする防御反応であると同時に、熱中症が進行しているサインである可能性も示唆しています。
寒気を感じる場合でも、基本的な応急処置は変わりません。
- 涼しい場所への移動と体を冷やす: 寒気を感じていても、体温計で測ると体温が高い場合があります。体を冷やすことをやめないでください。首、脇の下、足の付け根など、太い血管の部分を重点的に冷やし、体全体の熱を効果的に下げるように努めます。体を温めるようなことは絶対にしてはいけません。
- 水分・塩分補給: 意識がはっきりしていれば、経口補水液などで水分と塩分を補給します。
寒気は、熱中症が中等症以上に進行しているサインである可能性も否定できません。寒気を感じる場合は、自己判断せずに医療機関に相談するか、症状が改善しない場合は受診を検討することが重要です。特に意識状態がおかしい場合は、重症化の可能性が高いのですぐに救急車を要請してください。
熱中症の夜になってから症状が出た場合
日中に屋外や暑い場所にいた後、夜になってから熱中症の症状が現れることがあります。これは、日中の体温上昇や脱水、体力の消耗などが、夜間になって顕在化するためと考えられます。
夜になってから熱中症の症状(頭痛、吐き気、だるさ、めまいなど)に気づいた場合も、基本的な対処法は日中と同じです。
- 涼しい環境を確保: 寝室をエアコンなどで涼しくします。湿度も下げるとなお良いでしょう。
- 体を冷やす: 濡らしたタオルやアイスパックなどで、首筋や脇の下などを冷やします。
- 水分・塩分補給: 意識がはっきりしていれば、枕元に経口補水液などを用意しておき、目が覚めた時や気づいた時にこまめに水分を摂ります。
- 経過観察: 夜間は一人で過ごすことも多いため、意識障害などが起こると発見が遅れる危険があります。症状が続く場合や悪化する兆候が見られる場合は、夜間休日診療を利用するか、躊躇なく救急車を要請してください。特に一人暮らしの方や高齢者は注意が必要です。
夜間の発症は発見が遅れがちになるため、日中に少しでも体調に異変を感じた場合は、夜間に備えてあらかじめ水分補給をしっかり行っておくなどの対策も重要です。
熱中症になったら「やってはいけないこと」
熱中症になったとき、良かれと思ってしたことが、かえって症状を悪化させてしまう場合があります。以下に、熱中症になったら「やってはいけないこと」を挙げます。
- 水だけを大量に飲むこと: 体内の塩分濃度が薄まり、「低ナトリウム血症」を引き起こす危険があります。水分補給は、必ず塩分も一緒に摂れる経口補水液やスポーツドリンクで行いましょう。
- アルコールやカフェインを含む飲み物を摂ること: これらは利尿作用があるため、体から水分を奪い、脱水を悪化させる可能性があります。
- 意識がない人に無理に水分を飲ませること: 誤嚥(ごえん)を起こし、気管に水分が入って窒息したり、誤嚥性肺炎を引き起こしたりする危険があります。意識がない場合は、体を冷やすことを最優先し、救急車を待ちましょう。
- 「根性」で我慢すること、無理に動こうとすること: 熱中症は体力や気力の問題ではなく、体の機能が物理的に限界を超えている状態です。無理をすると症状が急速に悪化し、重篤な状態に陥る危険があります。すぐに涼しい場所で安静にすることが必要です。
- 体を急激に冷やしすぎること: 特に子供や高齢者の場合、急激な体温低下は体に負担をかけることがあります。氷や保冷剤は直接皮膚に当てず、タオルなどで包んで使用し、様子を見ながら行いましょう。ただし、重症の熱中症(特に高体温)の場合は、速やかな体温冷却が最優先されることもありますので、救急隊員の指示などに従ってください。
- 自己判断で放置すること: 軽症だと思っても、応急処置で改善しない場合や、症状が進行している場合は、必ず医療機関に相談するか受診しましょう。特に中等症以上の症状が見られる場合は、迷わず救急車を呼ぶ必要があります。
- 入浴すること: 体力消耗している状態で入浴すると、血圧が変動したり、再び体温が上昇したりして、症状が悪化する可能性があります。回復するまでは、体を清潔にする際は濡れタオルで拭く程度に留めましょう。
- 食事を無理に摂らせること: 吐き気がある場合や食欲がない場合は、無理に食事を摂らせる必要はありません。水分・塩分補給を優先し、食事が摂れるようになるまで待ちましょう。
これらの「やってはいけないこと」を理解し、正しい対処法を実践することが、熱中症からの回復、そして重症化の予防に繋がります。
熱中症はどのくらいで治る?回復期間
熱中症からの回復にかかる期間は、発症した熱中症の重症度や個人の健康状態、年齢などによって大きく異なります。一概に「〇日で治る」とは言えませんが、目安となる一般的な回復期間を知っておくことは、回復に向けた過ごし方や、医療機関を受診すべきかどうかの判断に役立ちます。
熱中症の回復にかかる一般的な期間
熱中症の重症度別の一般的な回復期間の目安は以下の通りです。
重症度 | 症状 | 一般的な回復期間の目安 |
---|---|---|
I度(軽症) | めまい、立ちくらみ、筋肉痛、倦怠感など | 数時間 ~ 1日程度 |
II度(中等症) | 頭痛、吐き気、意識がぼんやりするなど | 数日 ~ 1週間程度 |
III度(重症) | 意識障害、けいれん、高体温(40℃超)など | 数週間 ~ 数ヶ月以上 (後遺症が残ることも) |
- 軽症(I度): 応急処置を適切に行えば、数時間から1日程度で症状が改善し、回復することが多いです。ただし、体のだるさなどが数日続くこともあります。
- 中等症(II度): 医療機関での治療(点滴など)が必要になることが多く、症状が落ち着くまでには数日かかります。全身の倦怠感などが回復するまでには、1週間程度かかることもあります。回復後もしばらくは無理せず安静に過ごすことが重要です。
- 重症(III度): 救急搬送され、集中治療が必要になるケースがほとんどです。体温を下げるための治療や、臓器へのダメージに対する治療が行われます。命を取り留めたとしても、意識障害や腎臓、肝臓などの臓器に後遺症が残る可能性があり、回復には数週間から数ヶ月以上、場合によってはそれ以上の期間が必要になります。社会復帰にはリハビリテーションが必要となることもあります。
これはあくまで一般的な目安であり、回復期間には個人差が大きいことを理解しておく必要があります。
熱中症の症状が長引く、治らない原因
熱中症の症状が一般的な回復期間よりも長引いたり、なかなか治らなかったりする場合があります。その原因としては、以下のようなことが考えられます。
- 体内の水分や電解質バランスが十分に回復していない: 応急処置や短期間の治療だけでは、体内の水分や塩分、ミネラル(カリウムなど)のバランスが完全に元に戻らないことがあります。これがだるさや倦怠感の原因となることがあります。
- 自律神経の乱れ: 熱中症によって体温調節機能だけでなく、心拍や血圧などを調整する自律神経の働きも乱れることがあります。この自律神経の乱れが、めまいや立ちくらみ、倦怠感、睡眠障害などの症状として現れ、長引くことがあります。
- 臓器へのダメージ: 中等症や重症の熱中症では、一時的または永続的に臓器にダメージを受けることがあります。特に腎臓や肝臓、脳への影響は、回復に時間がかかったり、後遺症として症状が残ったりする原因となります。
- 無理な活動再開: 症状が少し落ち着いたからといって、すぐに普段通りの生活や運動を始めてしまうと、体が完全に回復していないため、再び体調を崩したり、症状がぶり返したりすることがあります。
- 他の疾患の合併や影響: 熱中症によって、隠れていた病気が顕在化したり、持病が悪化したりすることがあります。また、熱中症そのものの症状だと思っていたものが、実は別の疾患の症状である可能性もゼロではありません。
- 精神的な影響: 重症の熱中症になった経験がトラウマとなり、精神的な不調(不安、抑うつなど)が回復を遅らせることもあります。
熱中症の症状が長引く場合は、単なる回復の遅れではなく、何らかの合併症や後遺症、または別の原因が隠れている可能性も考えられます。症状が1週間以上続く場合や、一度改善した症状が再び悪化する場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けるようにしましょう。必要に応じて、血液検査や画像検査などが行われることがあります。
熱中症回復後の注意点と再発予防策
熱中症から回復した後も、油断は禁物です。体力が完全に回復していなかったり、体温調節機能がまだ不安定だったりする可能性があるため、しばらくは体調管理に気を配る必要があります。また、一度熱中症になった人は、体が暑さに慣れていない、または暑さへの抵抗力が低下している場合があり、再発しやすい傾向があります。熱中症の再発を防ぐための予防策をしっかり実践することが重要です。
熱中症回復後の体調管理
熱中症から回復した直後は、体がまだ本調子ではないことが多いです。以下の点に注意して体調管理を行いましょう。
- 十分な休息をとる: 症状が改善しても、体力が完全に回復するには時間がかかります。無理な外出や激しい運動は避け、自宅でゆっくり過ごすなど、十分な休息をとりましょう。睡眠もしっかり確保することが大切です。
- 急な運動は避ける: 体力が回復しても、いきなり負荷の高い運動を始めるのは危険です。軽い散歩などから始め、徐々に運動強度や時間を増やしていくようにしましょう。暑い時間帯の運動は避け、涼しい時間帯や室内で行うなどの配慮が必要です。
- バランスの良い食事: 体力回復のために、バランスの取れた食事を心がけましょう。特に、失われたミネラル分(カリウム、マグネシウムなど)を含む食材(野菜、果物、海藻類など)を意識して摂取すると良いでしょう。食欲がない場合は、消化の良いものから少量ずつ始めます。
- 水分・塩分補給の意識を継続: 回復後も、日常的に水分・塩分をこまめに補給する習慣を続けましょう。喉が渇いたと感じる前に飲むのが理想です。特に暑い日や運動する際は、意識的に水分補給を行います。
- 体調の変化に注意する: 回復したと思っても、再びめまいやだるさ、頭痛などの症状が現れることがあります。少しでも体調に異変を感じたら、無理せずすぐに休憩し、涼しい場所で体を冷やすなどの対処を行いましょう。
熱中症の再発を防ぐための予防策
一度熱中症になった経験がある人は、再発しやすいことを念頭に置き、普段から予防を心がけることが非常に重要です。
- 暑さを避ける:
- 涼しい服装: 吸湿性・速乾性の良い素材を選び、ゆったりとした風通しの良い服を着ましょう。屋外では帽子や日傘で直射日光を防ぎます。
- 外出を控える: 日中の最も暑い時間帯( generally 10時~14時頃)の外出や激しい運動はできるだけ避けましょう。やむを得ず外出する場合は、こまめに休憩を挟み、日陰を選んで歩くなどの工夫が必要です。
- エアコンの活用: 室温を適切に管理するために、エアコンや扇風機を効果的に使いましょう。我慢せずに使用することが大切です。ただし、冷やしすぎにも注意が必要です。
- こまめな水分・塩分補給:
- 喉が渇く前に飲む: 喉が渇きを感じた時点ですでに脱水は始まっています。時間を決めて、意識的に水分を摂る習慣をつけましょう。
- 汗をかいたら塩分も: 大量の汗をかいた場合は、水分だけでなく塩分も失われています。スポーツドリンクや経口補水液、塩飴などで塩分も一緒に補給することが大切です。
- 休憩をしっかり取る: 長時間屋外にいる場合や運動をする場合は、定期的に休憩を取り、体を休ませましょう。涼しい場所で休憩し、水分補給を行います。
- 体調管理: 睡眠不足や疲労は、熱中症のリスクを高めます。日頃から十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事で体調を整えましょう。体調が優れないときは、無理をしないことが最も重要です。
- 暑さ指数(WBGT)を確認する: 環境省などが発表している暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)は、熱中症の危険度を示す指標です。WBGTが高い日は、外出や運動を控えるなどの対策を取りましょう。
- 「暑熱順化」を行う: 梅雨明けなど急に暑くなる時期に備え、体が暑さに慣れるように、梅雨時期などから軽い運動をしたり、シャワーだけでなく湯船に浸かるなどして、汗をかく習慣を身につけておくことも予防に繋がります。
これらの予防策を日頃から実践することで、熱中症の再発リスクを減らし、安全に夏を過ごすことができます。
熱中症に関するよくある質問
ここでは、熱中症に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
子供や高齢者の熱中症で注意することは?
子供や高齢者は、体温調節機能が未熟であったり衰えていたりするため、熱中症になりやすく、また重症化しやすい傾向があります。
- 子供: 大人よりも地面からの照り返しの影響を受けやすく、体温も上がりやすいです。身長が低いため、地面に近い熱い空気の影響を受けやすいためです。遊びに夢中になって水分補給や休憩を忘れることもあります。屋外で遊ぶ際は、保護者がこまめに水分補給や休憩を促し、体調の変化に注意することが重要です。車内への置き去りは絶対にしないでください。
- 高齢者: 暑さや喉の渇きを感じにくくなることがあります。また、体の水分量が少なくなりがちです。エアコンの使用をためらったり、水分補給を忘れたりすることもあります。周囲の人が積極的に声をかけ、室温や湿度を確認し、こまめな水分補給を促すことが大切です。持病がある場合は、熱中症で症状が悪化するリスクも高いため、特に注意が必要です。
スポーツドリンクと経口補水液はどちらが良い?
どちらも熱中症時の水分・塩分補給に有効ですが、経口補水液の方がより効果的です。
特徴 | 経口補水液 | スポーツドリンク |
---|---|---|
塩分濃度 | スポーツドリンクより高い | 経口補水液より低い |
糖分濃度 | スポーツドリンクより低い(水分・塩分の吸収を助ける程度) | 経口補水液より高い |
吸収速度 | 体への吸収が速い | 経口補水液より遅い |
適している場面 | 脱水症状が進んでいる場合、体調が悪い場合 | 軽度の脱水、予防、運動時 |
その他 | 医療機関でも推奨される | 糖分過多に注意(特に飲みすぎると高血糖や下痢の原因に) |
熱中症によってすでに脱水症状が現れている場合や、吐き気などで食事が十分に摂れない場合は、経口補水液の方が素早く水分と電解質を補給できるため適しています。一方、予防目的や、軽い運動で少し汗をかいた程度の水分補給にはスポーツドリンクでも十分です。
意識がない人が熱中症になったら?
意識がない場合は、絶対に水分を飲ませてはいけません。誤嚥の危険があり、かえって命に関わります。
意識がない人への対応は、以下の通りです。
- 直ちに救急車を要請する(119番)。
- 安全な場所(涼しい場所)へ移動させる。
- とにかく体を冷やすことを最優先する。衣服を緩め、濡らしたタオルを当てたり、氷や保冷剤で首、脇の下、足の付け根などを集中的に冷やしたりする。体に水をかけ、扇風機などで風を送ることも効果的。
- 回復体位にして、吐瀉物などで窒息しないように気をつける。
- 救急隊の到着を待ち、指示に従う。
意識がない状態は重症のサインです。速やかに救命処置を行い、専門的な医療につなぐことが何より重要です。
熱中症対策グッズは効果がある?
冷却スプレー、冷感タオル、携帯扇風機、塩飴など、様々な熱中症対策グッズが販売されています。これらは、適切に使用すれば熱中症の予防や応急処置の補助として有効です。
- 冷却スプレー・冷感タオル: 体に直接使用することで、一時的に皮膚表面を冷やし、涼しさを感じさせてくれます。気化熱による冷却効果も期待できます。
- 携帯扇風機: 体に風を送ることで、汗の蒸発を促し、気化熱による冷却効果を高めます。濡らした体に風を送るとより効果的です。
- 塩飴: 汗で失われた塩分を手軽に補給できます。ただし、水分も同時に補給することが重要です。
これらのグッズはあくまで補助的なものであり、最も重要なのは「暑さを避ける」「こまめに水分・塩分を補給する」「休憩をしっかり取る」といった基本的な予防策と、発症した場合の「涼しい場所への移動」「体を冷やす」「水分・塩分補給」といった応急処置であることを忘れてはいけません。グッズに頼りすぎるのではなく、賢く活用することが大切です。
熱中症と熱射病、日射病はどう違う?
「熱中症」は、暑さによって体調が悪くなる状態全般を指す広い概念です。かつては「日射病」や「熱射病」、「熱失神」、「熱けいれん」といった個別の病名が使われていましたが、これらはすべて熱中症に含まれる症状や病態として整理されるようになりました。
- 日射病: 比較的軽症の場合に使われることが多かった言葉で、主に直射日光に当たることで起こるめまいや頭痛などを指す傾向がありました。現在の熱中症のI度〜II度の一部に相当すると考えられます。
- 熱射病: 最も重症な状態に使われることが多かった言葉で、体温調節機能が破綻し、意識障害や高体温(40℃以上)が見られる状態を指しました。これは現在の熱中症のIII度(重症)に相当します。熱射病は、直射日光だけでなく、蒸し暑い室内など、あらゆる暑熱環境で起こり得ます。
つまり、現在「熱中症」という言葉が、かつての熱失神、熱けいれん、日射病、熱疲労、熱射病といった病態をすべて含んだ総称として使われています。重症度に応じてI度、II度、III度に分類され、特にIII度はかつての熱射病にあたり、最も危険な状態であると認識されています。
【まとめ】熱中症の正しい治し方を理解して、迅速な対応を
熱中症は、適切に対処すれば重症化を防ぐことができる一方で、対応が遅れると命に関わる非常に危険な病気です。熱中症の治し方の基本は、「涼しい場所への移動」「体を冷やす」「水分・塩分補給」という応急処置をいかに早く、的確に行うかにかかっています。
まずは、めまいや立ちくらみ、だるさといった軽症のサインを見逃さないことが重要です。これらのサインに気づいたら、すぐに涼しい場所へ移動し、衣服を緩めて体を冷やし、経口補水液などで水分と塩分を補給しましょう。
頭痛や吐き気、寒気といった中等症以上の症状が見られる場合や、応急処置をしても症状が改善しない場合は、迷わず医療機関を受診するか、救急車を要請する必要があります。特に、意識がおかしい、けいれんがある、体温が非常に高いといった重症のサインが見られたら、一刻も早い救急搬送が必要です。
熱中症は回復にも時間がかかることがあり、症状が長引く場合は他の原因が隠れている可能性もあるため、専門医に相談することが大切です。また、一度熱中症になった人は再発しやすい傾向があるため、回復後も油断せず、日頃からの体調管理や予防策を徹底しましょう。
この記事で解説した熱中症の症状、重症度の判断基準、応急処置、症状別の対処法、そしてやってはいけないことを理解しておけば、いざという時に落ち着いて対応できるはずです。ご自身のため、そして大切な人のために、正しい知識を身につけておきましょう。
免責事項:この記事は熱中症に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状や状況は異なります。熱中症の症状が現れた場合は、必ず医師の診断を受け、その指示に従ってください。この記事の情報に基づいて行われた行動の結果については、一切の責任を負いかねます。