アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと慢性的な湿疹を特徴とする皮膚の病気です。
乳幼児期に発症することが多いですが、成人になってから発症したり、再燃したりすることもあります。
多くの人が悩まされているアトピー性皮膚炎ですが、その原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
皮膚の構造や機能の問題、免疫系の異常、そして生活環境などが関与します。
この記事では、アトピー性皮膚炎の主な原因や悪化因子について詳しく解説し、適切な対策のヒントを探ります。
アトピーの主な原因
アトピー性皮膚炎の原因は、生まれ持った体質的な要因と、後天的な環境要因が複雑に絡み合っています。
大きく分けて、「体質的な原因(アトピー素因・遺伝)」「皮膚のバリア機能低下」「免疫機能の異常」の3つが、アトピー性皮膚炎の発症に深く関わっていると考えられています。
これらの原因が相互に影響し合い、症状が現れるのです。
体質的な原因(アトピー素因・遺伝)
アトピー素因とは、アレルギー性の病気にかかりやすい体質のことを指します。
具体的には、アレルギー反応に関わる「IgE抗体」という物質を体内で作りやすい、血液中にIgE抗体が多く存在するといった特徴があります。
アトピー性皮膚炎の患者さんは、このアトピー素因を持っていることが多く、ダニやハウスダスト、花粉といった身近な物質に対してもアレルギー反応を起こしやすい傾向があります。
また、アトピー素因は遺伝的な影響も受けやすいと考えられています。
両親や兄弟にアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎といったアレルギー疾患を持つ人がいる場合、本人もアトピー性皮膚炎を発症するリスクが高まると言われています。
しかし、必ずしも遺伝するわけではなく、遺伝的な体質に加えて、後述する様々な環境要因が重なることで発症に至るのです。
皮膚のバリア機能低下
健康な皮膚は、外部からの様々な刺激物質(アレルゲン、細菌、化学物質など)が体内に入るのを防ぎ、また体内からの水分が蒸発するのを防ぐ「バリア機能」を持っています。
しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では、このバリア機能が生まれつき低下していることがわかっています。
バリア機能が低下している皮膚は、いわば「隙間だらけ」の状態です。
この隙間から外部からの刺激物質が容易に侵入し、体内で過剰な免疫反応を引き起こして炎症やかゆみを発生させます。
同時に、皮膚内部の水分がどんどん蒸発してしまい、乾燥を招きます。
乾燥した皮膚はさらにバリア機能が低下するという悪循環に陥り、症状が悪化しやすくなります。
セラミドや天然保湿因子の不足
皮膚のバリア機能にとって最も重要な役割を果たしているのが、「角層」と呼ばれる皮膚の一番外側の層です。
角層細胞の間は「細胞間脂質」で満たされており、この細胞間脂質の主成分が「セラミド」です。
セラミドはレンガの間のセメントのような役割を果たし、角層細胞同士をしっかりつなぎ止め、水分を保持し、外部からの侵入を防いでいます。
また、角層細胞の中には「天然保湿因子(NMF)」と呼ばれるアミノ酸などを主成分とする物質があり、これが細胞内に水分を抱え込んで皮膚の潤いを保っています。
アトピー性皮膚炎の患者さんでは、これらのセラミドや天然保湿因子が不足している、あるいはうまく機能しないといった異常があることが多くの研究で示されています。
特に皮膚のバリア機能に重要な遺伝子(例: フィラグリン遺伝子)の変異が関連していることも明らかになっています。
これらの成分の不足や機能不全が、皮膚のバリア機能低下の根本的な原因の一つと考えられています。
水分不足
前述のように、皮膚のバリア機能が低下すると、皮膚内部の水分が外部へ逃げ出しやすくなります。
これにより、皮膚は乾燥した状態になります。
単に乾燥しているだけでなく、乾燥した皮膚はさらにバリア機能が弱くなり、外部刺激に対してより敏感になります。
乾燥は皮膚のかゆみを引き起こす大きな要因でもあります。
乾燥によって皮膚の神経が過敏になり、わずかな刺激でもかゆみを感じやすくなります。
かゆいから掻く、掻くことで皮膚が傷つきバリア機能がさらに低下して乾燥が進む、といった悪循環に陥り、症状がますます悪化してしまいます。
アトピー性皮膚炎の治療において、保湿ケアが非常に重要なのは、この水分不足とそれに伴うバリア機能低下を防ぎ、改善するためです。
免疫機能の異常
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下だけでなく、免疫系の異常も関与していると考えられています。
健康な免疫システムは、体内に侵入した病原体などから体を守るために働きます。
しかし、アトピー性皮膚炎では、この免疫システムが過剰に反応してしまい、本来無害であるはずの物質(アレルゲンなど)に対しても攻撃を仕掛けてしまうことがあります。
この過剰な免疫反応には、様々な免疫細胞やサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)が関わっています。
特に、アレルギー反応に関わる「Th2細胞」という免疫細胞が活性化しやすく、この細胞が産生するインターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)などのサイトカインが、IgE抗体の産生を促したり、皮膚の炎症を引き起こしたりします。
また、これらのサイトカインは皮膚のバリア機能に関わる遺伝子の働きを抑制することもわかっており、バリア機能低下と免疫異常が互いに影響し合っていることが示唆されています。
このような免疫系の異常により、アレルゲンなどの刺激に対して皮膚で炎症が起こり、かゆみや湿疹といったアトピー性皮膚炎の症状が現れるのです。
近年開発されているアトピー性皮膚炎の新しい治療薬(生物学的製剤など)は、このような特定のサイトカインの働きをピンポイントで抑えることで、炎症を鎮める効果が期待されています。
アトピーの悪化因子
アトピー性皮膚炎の症状は、様々な外部・内部の要因によって悪化することが知られています。
これらの要因を「悪化因子」と呼びます。
悪化因子は人によって異なりますが、自分の悪化因子を特定し、それらを避ける、あるいは適切に対処することが、症状のコントロールにおいて非常に重要です。
主な悪化因子には、「アレルゲン(外部からの刺激)」「環境因子」「ストレスや睡眠不足」、そして「急に悪化する原因」などがあります。
アレルゲン(外部からの刺激)
アレルゲンとは、アレルギー反応を引き起こす物質のことです。
アトピー性皮膚炎の患者さんはアレルギー体質であるため、様々なアレルゲンに対して過敏に反応し、皮膚の炎症が悪化することがあります。
アレルゲンには、吸入性アレルゲン、食物アレルゲン、接触性アレルゲンなどがあります。
ダニ、ハウスダスト、花粉、カビなど
吸入性アレルゲンは、呼吸とともに体内に取り込まれるアレルゲンです。
代表的なものに、ダニ、ハウスダスト、花粉、ペットのフケや毛、カビの胞子などがあります。
- ダニ・ハウスダスト: 家の中に常に存在し、寝具やカーペット、ソファなどに多く生息しています。
ダニの糞や死骸がハウスダストの主要な成分となり、アトピー性皮膚炎の症状を一年中悪化させる原因となります。
特に小さなお子さんのアトピーに関与しやすいと言われています。 - 花粉: スギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサなど、季節によって様々な花粉が飛散します。
花粉が皮膚に付着したり、吸入されたりすることで、顔や首などの露出部分の皮膚炎を悪化させることがあります(花粉症皮膚炎)。 - カビ: 湿気の多い場所(浴室、結露しやすい窓際など)に発生しやすく、胞子が空気中に浮遊します。
カビの種類によってはアレルギーの原因となり、アトピー性皮膚炎を悪化させることがあります。
これらのアレルゲンへの対策としては、こまめな掃除や換気、寝具の洗濯・乾燥、空気清浄機の使用などが有効です。
特定の食べ物
食物アレルギーは、特定の食べ物を摂取した際にアレルギー反応が起こるものです。
特に乳幼児期のアトピー性皮膚炎においては、食物アレルギーが症状の悪化に深く関与していることがあります。
代表的な食物アレルゲンとしては、卵、牛乳、小麦、大豆、ピーナッツなどがあります。
食物アレルギーが疑われる場合は、自己判断で原因食物を除去するのではなく、必ず専門医に相談し、適切な検査(血液検査、皮膚プリックテストなど)と指導を受けることが重要です。
不適切な食物制限は、栄養バランスの偏りや成長障害を招くリスクがあります。
一方で、成人型アトピー性皮膚炎では、食物アレルギーが直接的な症状悪化の原因となることは比較的少ないとされています。
しかし、体調によっては影響する場合もあるため、気になる場合は医師に相談してみましょう。
環境因子
私たちの周りの環境も、アトピー性皮膚炎の症状に大きな影響を与えます。
気候や湿度、衣服の種類、衛生状態などが関わります。
汗や乾燥
汗は、それ自体が皮膚への刺激となることがあります。
特にアトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は敏感なため、汗に含まれる成分や、汗が蒸発する際に皮膚表面に残る物質などが刺激となり、かゆみや炎症を引き起こしやすくなります。
運動後や暑い季節には、汗をかいたら放置せず、優しく拭き取る、シャワーを浴びるなどのケアが大切です。
一方、空気の乾燥は、皮膚の水分を奪い、バリア機能をさらに低下させます。
特に冬場の乾燥した空気や、エアコンによる空気の乾燥は、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる代表的な環境因子です。
加湿器を使ったり、こまめに保湿剤を塗布したりすることが重要です。
摩擦や引っかき
衣服の素材や締め付け、物理的な摩擦も皮膚への刺激となり、アトピー性皮膚炎を悪化させます。
ウールや化学繊維など、チクチクする素材の衣類は避け、肌触りの良い綿などの素材を選ぶのが良いでしょう。
また、ベルトや下着の締め付けなども注意が必要です。
そして、かゆみがあるために皮膚を掻きむしってしまう「引っかき」は、皮膚を傷つけ、炎症をさらに悪化させる最大の悪循環です。
掻くことでバリア機能が破壊され、細菌感染などを起こしやすくなります。
かゆみを抑えるための適切な治療やかゆみ止めの使用、爪を短く切る、就寝時に手袋をするなどの対策が必要です。
ストレスや睡眠不足
精神的なストレスや睡眠不足も、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因となり得ます。
ストレスは自律神経やホルモンバランスに影響を与え、免疫系の働きを乱す可能性があります。
また、ストレスによってかゆみを強く感じたり、掻きむしる行動が増えたりすることもあります。
睡眠不足も体の抵抗力を弱め、皮膚の回復を妨げます。
規則正しい生活を送り、十分な睡眠時間を確保することが大切です。
適度なリラクゼーションや趣味などでストレスを解消することも、症状の安定につながります。
急に悪化する原因
アトピー性皮膚炎の症状は、普段は比較的落ち着いていても、あるきっかけで急に悪化することがあります。
このような「急な悪化」の背景にも、様々な原因が考えられます。
例えば、季節の変わり目は気温や湿度の変化が大きく、皮膚がその変化に対応しきれずに乾燥したり、汗をかきやすくなったりすることで症状が悪化しやすい時期です。
特に春先や秋口に注意が必要です。
また、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかった後や、体調を崩した際に免疫バランスが変化して症状が悪化することがあります。
溶連菌感染症などが関与する場合もあります。
引っ越しや転職、人間関係の変化といった大きな環境変化や精神的なショックも、強いストレスとなり急な症状悪化の引き金となることがあります。
さらに、これまで使用していなかった化粧品やボディソープ、洗剤などが皮膚に合わず、接触性皮膚炎を起こしてアトピー性皮膚炎の症状と合併する形で悪化することも考えられます。
特定の医薬品の服用や、不適切なスキンケア(洗いすぎ、こすりすぎなど)も急な悪化の原因となり得ます。
急な悪化が見られた場合は、その原因を特定するために、最近の生活の変化や体調、使用しているものなどを振り返り、専門医に相談することが重要です。
原因を特定できれば、それに応じた対策や治療を行うことで、症状を速やかに落ち着かせることができます。
アトピーの原因:年代・部位別
アトピー性皮膚炎は、発症する年齢や症状が現れる体の部位によって、関与しやすい原因や特徴が異なる場合があります。
赤ちゃんのアトピー 原因
赤ちゃん(乳児期)に発症するアトピー性皮膚炎は、多くの場合、皮膚のバリア機能がまだ十分に発達していないことが大きな要因です。
皮膚が薄くデリケートなため、外部からの刺激物質(アレルゲンや乾燥など)が容易に侵入し、炎症を起こしやすくなっています。
赤ちゃんのアトピーで特に注意が必要な原因の一つに、食物アレルギーがあります。
卵、牛乳、小麦などの食物アレルゲンを摂取した後に症状が悪化したり、湿疹が出たりすることがあります。
また、ダニやハウスダストなどの環境アレルゲンも、這い回るなどして皮膚に触れる機会が多いため、症状に関与しやすいと考えられています。
症状は、顔(頬、額、頭など)や首、手足の関節の外側などに赤くてジクジクした湿疹として現れることが多いのが特徴です。
かゆみが強く、機嫌が悪くなったり、眠りが浅くなったりすることもあります。
適切なスキンケア(洗浄・保湿)とアレルゲン対策が、赤ちゃんの症状管理には不可欠です。
食物アレルギーが疑われる場合は、必ず専門医の指導のもと対応することが重要です。
大人のアトピー 原因
成人になってから発症する、あるいは子供の頃から続いて大人になっても治らないアトピー性皮膚炎では、乳幼児期とは異なる原因や特徴が見られることがあります。
大人のアトピーは、ダニやハウスダスト、カビ、花粉といった吸入性アレルゲンや、金属アレルギーなどの接触性アレルギーが関与している場合が多く見られます。
また、仕事や人間関係による精神的なストレス、過労、睡眠不足といった生活習慣の乱れも、症状の悪化に深く関わっていることが多いのが特徴です。
皮膚の乾燥が原因で症状が悪化することも、大人ではしばしば見られます。
加齢に伴う皮膚の機能低下や、誤ったスキンケア(洗いすぎ、こすりすぎ)が乾燥を招き、バリア機能をさらに低下させることがあります。
症状は、顔、首、胸、背中、肘や膝の関節の内側などに現れることが多く、皮膚が厚くゴワゴワになったり(苔癬化)、色素沈着を起こしたりすることがあります。
乳幼児期に比べて難治性となるケースもあり、多角的な視点からの原因の特定と、治療や対策の継続が必要となります。
顔のアトピー 原因
顔は、皮膚が薄く非常にデリケートな部位であり、外部環境の影響を受けやすいため、アトピー性皮膚炎の症状が出やすい場所の一つです。
顔のアトピーの原因としては、以下のようなものが考えられます。
- 環境アレルゲン: 花粉やハウスダストなどが顔に付着しやすく、アレルギー反応を起こして炎症を悪化させます。
- 物理的な刺激: 紫外線、汗、乾燥、マスクや衣類による摩擦などが、皮膚への直接的な刺激となります。
- 化粧品やヘアケア製品: 使用している化粧品や洗顔料、シャンプー、コンディショナーなどが合わない場合、接触性皮膚炎を起こしたり、皮膚のバリア機能を低下させたりして症状が悪化することがあります。
- ストレス: 顔は精神的な影響が出やすい部位でもあり、ストレスによって症状が悪化することがあります。
- マラセチア菌: 皮膚の常在菌であるマラセチア菌が、脂漏性皮膚炎と合併する形で顔のアトピーを悪化させることがあります。
顔は人目につきやすい部位であるため、症状があると精神的な負担も大きくなりがちです。
原因となりうる刺激を避け、優しく丁寧なスキンケアを行うことが大切です。
首のアトピー 原因
首も顔と同様に、アトピー性皮膚炎の症状が出やすい部位です。
首のアトピーの原因としては、以下のような要因が考えられます。
- 汗や摩擦: 汗をかきやすい部位であり、衣服の襟元やネックレスなどによる摩擦が皮膚への刺激となります。
- 環境アレルゲン: 顔と同様に、花粉やハウスダストなどが付着しやすい部位です。
- ヘアケア製品や衣類: シャンプーやリンスが首に流れ落ちる、衣類の素材が合わないなどが刺激となることがあります。
- 紫外線: 紫外線も首の皮膚にダメージを与え、炎症を悪化させることがあります。
首の皮膚はシワになりやすく、掻きむしりによる皮膚の肥厚(苔癬化)や色素沈着が目立ちやすい部位でもあります。
顔と同様に、刺激を避け、適切なスキンケアと保湿を行うことが重要です。
アトピーの原因別対策
アトピー性皮膚炎の治療と管理において最も重要なのは、自分のアトピーがどのような原因や悪化因子によって引き起こされているのかを理解し、それに応じた対策を講じることです。
主な対策としては、日々の「スキンケア(保湿・洗浄)」、「環境整備(アレルゲン対策)」、「食事と生活習慣の見直し」、そして「専門医への相談と治療」があります。
スキンケア(保湿・洗浄)
スキンケアは、アトピー性皮膚炎の治療の基本中の基本です。
皮膚のバリア機能を回復させ、乾燥を防ぎ、外部刺激から皮膚を守ることを目的とします。
正しい洗浄
皮膚を清潔に保つことは大切ですが、洗いすぎは禁物です。
熱すぎるお湯は皮膚の天然保湿因子を奪い、乾燥を招きます。
ぬるめのお湯(38℃前後)で入浴し、石鹸は洗浄力の強すぎない、弱酸性や低刺激性のものを選びましょう。
石鹸を十分に泡立てて、泡で優しく洗うようにし、タオルでゴシゴシこするのは避けます。
石鹸成分が皮膚に残らないよう、しっかりと洗い流すことも大切です。
効果的な保湿
洗浄後の皮膚は水分が蒸発しやすい状態です。
入浴後やシャワー後は、タオルで水分を優しく押さえるように拭き取り、すぐに保湿剤を塗布しましょう。
保湿剤は、ワセリン、ヘパリン類似物質、セラミド配合クリーム、尿素配合クリームなど、様々な種類があります。
症状の程度や部位、季節によって適切な保湿剤を選びます。
医師や薬剤師に相談して、自分に合ったものを見つけましょう。
保湿剤は、炎症がある部位にも、炎症がない部位にも、皮膚全体にたっぷりと塗布するのがポイントです。
指先に乗るくらいの量を出し、皮膚のシワやキメに沿って優しくなじませるように塗り広げます。
皮膚が白くなるくらいしっかりと塗るのが目安です。
朝晩の洗顔・入浴後だけでなく、日中も乾燥を感じたらこまめに塗り直しましょう。
環境整備(アレルゲン対策)
アレルゲンがアトピー性皮膚炎を悪化させている場合は、日常生活の中からアレルゲンを除去・低減することが重要です。
ダニ・ハウスダスト対策
家の中で最も多いアレルゲンであるダニやハウスダストは、こまめな掃除で減らすことができます。
特に寝具はダニの温床となりやすいため、防ダニ加工の寝具を使ったり、週に一度は掃除機をかけたり、定期的に丸洗いしたりするのが効果的です。
部屋全体の掃除も重要で、フローリングの場合は拭き掃除を組み合わせるとより効果的です。
換気をしっかり行い、室内の湿度を50%程度に保つこともダニの繁殖を抑える上で大切です。
花粉・カビ対策
花粉の季節には、窓を閉めて花粉の侵入を防ぎ、洗濯物は部屋干しにするなどの対策が有効です。
外出時はマスクやメガネを着用し、帰宅したら服についた花粉を払い落とし、うがい・手洗い、顔を洗うことも症状緩和に役立ちます。
カビ対策としては、浴室やキッチンなどの水回りを清潔に保ち、除湿機を使ったり、換気を徹底したりして湿度をコントロールすることが重要です。
衣類や寝具
肌に直接触れる衣類や寝具は、肌触りが良く、吸湿性・通気性に優れた綿などの天然素材がおすすめです。
ウールや化学繊維は刺激になりやすいため避けましょう。
新しい衣類は一度洗ってから着用すると、糊や染料などの刺激物を落とすことができます。
洗剤や柔軟剤も、無添加や低刺激性のものを選ぶと良いでしょう。
食事と生活習慣
バランスの取れた食事と規則正しい生活習慣は、体の健康を維持し、皮膚の状態を整えるためにも重要です。
食事
特定の食物アレルギーがある場合は、医師の指導のもと、原因食物を適切に管理する必要があります。
しかし、アレルギーがないにも関わらず、自己判断で特定の食品を制限することは、栄養不足を招き、かえって体調を崩す可能性があるため危険です。
栄養バランスの取れた食事を心がけ、体の内側から健康な皮膚を作ることを意識しましょう。
生活習慣
十分な睡眠は、皮膚の修復や再生に不可欠です。
毎日同じ時間に寝起きし、質の良い睡眠を確保するよう努めましょう。
ストレスはアトピー性皮膚炎の悪化因子の一つです。
適度な運動、リラクゼーション、趣味など、自分なりの方法でストレスを解消することが大切です。
タバコや過度のアルコール摂取は皮膚に悪影響を与える可能性があるため、控えるのが望ましいです。
専門医への相談と治療
アトピー性皮膚炎は慢性的な病気であり、症状をコントロールするためには専門的な診断と治療が不可欠です。
自己判断で市販薬を使用したり、民間療法に頼ったりするのではなく、必ず皮膚科医に相談しましょう。
医師は、患者さんの症状、経過、アトピー素因の有無などを詳しく診察し、適切な診断を行います。
必要に応じて、アレルギーの原因を特定するための検査(血液検査で特異的IgE抗体を調べたり、パッチテストを行ったり)を実施することもあります。
診断に基づいて、症状の程度や部位、年齢などに合わせた適切な治療方針が立てられます。
アトピー性皮膚炎の主な治療法には、以下のようなものがあります。
- 外用薬: 炎症を抑えるステロイド外用薬や、免疫抑制作用を持つタクロリムス外用薬、PDE4阻害薬(ジファミラスト)などがあります。
症状の程度に合わせて強さや種類を選択し、適切な量と期間使用することが重要です。 - 内服薬: かゆみを抑える抗ヒスタミン薬や、炎症が強い場合に短期間使用するステロイド内服薬、免疫抑制薬(シクロスポリンなど)があります。
近年では、生物学的製剤やJAK阻害薬といった、アトピー性皮膚炎の病態に深く関わる物質の働きをブロックする新しいタイプの飲み薬や注射薬も登場しており、重症のアトピー性皮膚炎に対して効果が期待されています。 - 光線療法: 特定の波長の紫外線を皮膚に当てる治療法です。
炎症やかゆみを抑える効果があります。 - スキンケア指導: 日々のスキンケア方法について、保湿剤の選び方や塗り方、正しい洗浄方法などの具体的な指導を受けられます。
- 悪化因子への対策指導: アレルゲン対策や生活習慣の改善についてのアドバイスを受けられます。
これらの治療法は、症状の程度や個々の患者さんの状態に合わせて組み合わせて行われます。
定期的に通院し、医師の指示に従って治療を継続することが、症状を安定させ、再燃を防ぐために非常に重要です。
治療法の種類 | 主な目的 | 使用される主な薬剤/方法 | 特徴 |
---|---|---|---|
外用薬 | 炎症を抑える、皮膚のバリア機能を補う | ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、ジファミラスト軟膏 | 症状のある部位に直接塗布。強さや種類を症状に合わせて使い分ける。 |
内服薬 | かゆみを抑える、全身の炎症を抑える | 抗ヒスタミン薬、ステロイド内服薬、シクロスポリン、JAK阻害薬 | 全身的な症状や強いかゆみに効果がある。医師の指示に従い正しく服用。 |
注射薬 (生物学的製剤) | 特定のサイトカインの働きをブロックする | デュピルマブなど | 重症のアトピーに対して高い効果が期待できる。自己注射可能な場合も。 |
光線療法 | 炎症やかゆみを抑える | PUVA療法、ナローバンドUVB療法 | 週に数回、医療機関で実施。特定の波長の光を照射する。 |
スキンケア指導 | 皮膚のバリア機能を維持・回復 | 保湿剤の選び方、塗り方、正しい洗浄方法など | 日々のケアが基本。継続することが重要。 |
悪化因子対策 | 症状を悪化させる原因を排除・低減 | アレルゲン除去、環境整備、生活習慣改善 | 症状の安定に不可欠。個々の患者に合わせて行う。 |
アトピーは治る?(経過と見通し)
アトピー性皮膚炎は、多くの場合、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら慢性的に経過する病気です。
特に乳幼児期に発症したアトピーは、成長とともに自然に改善したり、軽快したりするケースが多く見られます。
これは、皮膚のバリア機能が発達したり、免疫系が成熟したりするためと考えられています。
小学校入学頃までに症状が軽くなるお子さんも少なくありません。
しかし、思春期以降も症状が続いたり、一度軽快した後に成人してから再び悪化したりするケースもあります。
成人型アトピー性皮膚炎は、子供の頃から続いている場合も、大人になって初めて発症する場合もあり、症状が重かったり、治りにくかったりすることがあります。
「アトピー性皮膚炎は完治するのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。
ここでいう「治る」とは、一般的には、症状がほとんどなくなり、再燃しても軽度で済む状態を維持できること(寛解)を指します。
残念ながら、体質的な素因がある限り、完全にアトピー性皮膚炎という病気そのものがなくなるわけではありません。
しかし、適切なスキンケアを継続し、悪化因子を避ける努力をし、そして医師の指示に従って必要な治療を行うことで、症状をしっかりとコントロールし、ほとんど症状がない、あるいは軽度の症状で日常生活を健やかに送れる状態を目指すことは十分に可能です。
アトピー性皮膚炎は、長期的な視点での管理が重要です。
症状が良くなったからといって自己判断で治療をやめてしまうと、すぐに再燃してしまうことがあります。
医師と相談しながら、症状の波に合わせて治療を調整し、日々のケアを継続していくことが、アトピー性皮膚炎と上手に付き合っていくための鍵となります。
決して一人で悩まず、専門医と二人三脚で根気強く向き合っていくことが大切です。
免責事項:
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の症状や病状に対する医学的なアドバイスを提供するものではありません。
アトピー性皮膚炎の診断や治療については、必ず医師の診察を受け、その指示に従ってください。
本記事の情報に基づいた行為によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。