右下腹部の痛み|考えられる原因・病気と受診目安を解説

右下腹部の痛みは、多くの人が一度は経験する可能性のある症状です。チクチクとした軽い痛みから、思わずうずくまってしまうような激痛まで、その程度や性質は様々です。この痛みは、単なる一時的な不調であることもあれば、治療が必要な病気のサインであることもあります。右下腹部には、腸や尿管、女性の場合は卵巣や子宮など、重要な臓器が集まっているため、痛みの原因を特定することが大切です。しかし、自分で原因を判断するのは難しく、誤った対処をしてしまう可能性もゼロではありません。この記事では、右下腹部の痛みについて、考えられる原因や病気、痛み方の特徴、そして医療機関を受診すべき目安など、知っておくべき情報をお伝えします。痛みに不安を感じている方が、適切な行動をとるための手助けになれば幸いです。

目次

右下腹部に痛みを感じる原因となる主な臓器

右下腹部に位置し、痛みの原因となりうる主な臓器には、以下のようなものがあります。

  • 大腸: 特に盲腸、虫垂、上行結腸、S状結腸の一部などがこの領域に位置しています。
  • 小腸: 回腸の末端部分が右下腹部にあります。
  • 尿管: 腎臓から膀胱へ尿を運ぶ管のうち、右側のものが右下腹部を通ります。
  • 卵巣・卵管(女性): 女性の場合、右側の卵巣や卵管が右下腹部にあります。
  • 腹壁: 腹部の筋肉や神経などが原因で痛みが生じることもあります。

これらの臓器に何らかの異常(炎症、感染、結石、腫瘍など)が生じると、右下腹部に痛みとして感じられることがあります。痛みの原因を正確に診断するためには、痛みの性質、程度、持続時間、随伴症状などを詳しく調べる必要があります。

右下腹部痛で考えられる主な病気

右下腹部の痛みは、様々な病気が原因で起こり得ます。ここでは、代表的な病気をいくつかご紹介します。

消化器系の病気

右下腹部には大腸や小腸の一部があるため、消化器系の病気が痛みの原因としてよく見られます。

虫垂炎(盲腸)

虫垂炎は、盲腸の先端にある虫垂に炎症が起こる病気です。一般的に「盲腸」と呼ばれますが、正確には虫垂の炎症です。
初期にはみぞおちのあたりやへその周りが漠然と痛み始め、その後、数時間から半日程度で痛みが右下腹部に移動するのが特徴的です。右下腹部を押すと痛む(圧痛)、押さえていた手を離したときに痛みが強まる(反跳痛)といった所見がみられることが多いです。
吐き気や嘔吐、食欲不振、微熱を伴うこともあります。炎症が進むと、虫垂が破裂して腹膜炎を引き起こし、命に関わる状態になることもあります。虫垂炎が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。診断には、問診、身体診察、血液検査(炎症反応)、腹部超音波検査、CT検査などが行われます。治療は、炎症の程度によって抗菌薬による治療か、手術(虫垂切除術)が行われます。

大腸憩室炎

大腸憩室とは、大腸の壁の一部が袋状に外側に飛び出したものです。この憩室に便などが詰まり、炎症を起こした状態を大腸憩室炎といいます。
大腸憩室は加齢とともにできやすくなり、特にS状結腸に多いとされていますが、上行結腸など右側の大腸にもできることがあります。右側の大腸憩室に炎症が起きると、右下腹部に痛みを引き起こします。
症状は虫垂炎と似ており、右下腹部痛のほか、発熱、腹部の張り、吐き気などを伴うことがあります。診断にはCT検査が有用です。治療は、炎症の程度に応じて抗菌薬の投与や安静、食事制限が行われます。重症の場合や再発を繰り返す場合は手術が必要になることもあります。

炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)

クローン病や潰瘍性大腸炎は、腸に慢性的な炎症が起こる原因不明の病気です。これらの病気は国の指定難病となっています。
クローン病は口から肛門までの消化管のあらゆる場所に炎症が起こる可能性があり、特に回腸の末端(右下腹部あたり)や大腸に炎症が起こりやすい特徴があります。炎症が起こると、右下腹部痛、下痢、発熱、体重減少、倦怠感などの症状が現れます。腸管の狭窄や閉塞、膿瘍(うみ)、痔瘻(じろう)などの合併症を引き起こすこともあります。
潰瘍性大腸炎は主に大腸の粘膜に炎症が起こり、びらんや潰瘍ができます。左側の大腸に病変が多いですが、大腸全体に炎症が広がることもあり、その場合は右下腹部にも痛みが現れることがあります。主な症状は血便、下痢、腹痛、発熱などです。
これらの病気の診断には、内視鏡検査(大腸カメラ)、画像検査(CT、MRI)、血液検査、便検査などが行われます。治療は、炎症を抑えるための薬物療法(ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤など)が中心ですが、病状によっては手術が必要になることもあります。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(IBS)は、検査では特別な異常が見つからないにも関わらず、腹痛や腹部の不快感を伴って、便秘や下痢などの便通異常が慢性的に続く病気です。ストレスや不安などの精神的な要因が症状を悪化させることが知られています。
腹痛は下腹部の広い範囲で起こることが多く、右下腹部が痛むこともあります。痛みの特徴としては、排便によって痛みが和らぐことが多い点が挙げられます。また、腹部の張りやゴロゴロといった症状を伴うこともよくあります。
診断は、特徴的な症状が一定期間続いているか、器質的な病気がないかを確認することで行われます。治療は、食事療法、生活習慣の改善、ストレス管理、そして症状に応じた薬物療法(整腸剤、下痢止め、便秘薬、腹痛を和らげる薬など)が行われます。

その他の大腸疾患

  • 虚血性腸炎: 大腸に血液を送る血管の血流が悪くなることで、大腸の粘膜に炎症や潰瘍ができる病気です。高齢者に多く見られます。突然の腹痛(特に左下腹部が多いが右側にも起こりうる)、血便、下痢が主な症状です。
  • 感染性腸炎: 細菌やウイルスなどの病原体が原因で腸に炎症が起こる病気です。食中毒なども含まれます。腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱などの症状が現れます。原因となる病原体によっては、右下腹部に強い痛みを引き起こすこともあります。
  • 大腸がん: 進行した大腸がんが腹痛の原因となることもありますが、初期には自覚症状が乏しいことが多いです。右側の大腸がんは、進行するとお腹にしこりを触れたり、貧血の原因になったりすることもあります。右下腹部の痛みが続く場合や、便通異常、血便などが続く場合は、医療機関で相談することが重要です。

女性特有の病気

女性の場合、卵巣や子宮に関連する病気が右下腹部痛の原因となることがあります。

卵巣・子宮の病気(卵巣茎捻転、子宮外妊娠、卵巣腫瘍など)

  • 卵巣茎捻転: 卵巣が、それにつながる卵管や血管を巻き込むようにねじれてしまう病気です。多くの場合、卵巣の腫瘍(良性・悪性に関わらず)が存在する場合に起こりやすくなります。ねじれによって卵巣への血流が途絶え、突然の非常に強い痛みが生じます。吐き気や嘔吐を伴うことも多く、緊急手術が必要となることがあります。
  • 子宮外妊娠(異所性妊娠): 受精卵が子宮内膜以外の場所に着床してしまう妊娠です。最も多いのは卵管への着床です。妊娠初期に起こり、不正出血や下腹部痛が現れます。着床部が破裂すると、腹腔内に出血し、激しい腹痛とショック症状を引き起こす非常に危険な状態となります。妊娠の可能性がある場合で、右下腹部痛や不正出血がある場合は、速やかに産婦人科を受診する必要があります。
  • 卵巣出血: 卵巣から出血が起こるもので、排卵期や黄体期に起こりやすいとされています。卵巣のある下腹部に突然の痛みが起こります。通常は自然に治まりますが、出血量が多い場合は医療的な処置が必要となることもあります。
  • 卵巣嚢腫: 卵巣にできる良性の腫瘍で、内部に液体などが溜まった袋状のものです。小さい場合は無症状ですが、大きくなると周囲の臓器を圧迫して腹部膨満感や排尿困難などの症状が現れることがあります。また、卵巣茎捻転の原因となることがあります。
  • 子宮内膜症: 本来子宮の内側にあるはずの子宮内膜組織が、子宮以外の場所(卵巣、腹膜など)にできてしまう病気です。生理痛がひどくなったり、生理期間以外にも下腹部痛や腰痛、性交痛などを引き起こしたりします。病変が右下腹部にあれば、その部位に痛みが現れます。

骨盤内炎症性疾患

骨盤内炎症性疾患(PID)は、子宮、卵管、卵巣、骨盤腹膜などに細菌感染が広がることで起こる炎症性の病気です。性感染症(クラミジアや淋菌など)が原因となることが多いですが、性感染症以外の細菌が原因となることもあります。
下腹部痛(片側または両側)、発熱、おりものの増加や変化、不正出血などが主な症状です。炎症が右側の卵巣や卵管に及ぶと、右下腹部に痛みが強く現れます。治療には抗菌薬が用いられますが、重症の場合は入院が必要となることもあります。不妊症や子宮外妊娠の原因となる可能性もあるため、早期の診断と治療が重要です。

泌尿器系の病気

右下腹部には右側の尿管が通っているため、泌尿器系の病気が痛みの原因となることもあります。

尿管結石

腎臓で作られた結石が尿管に移動し、尿の流れを妨げることで起こる病気です。結石が尿管を通過しようとすると、非常に激しい痛みを引き起こします。痛みは突然始まり、わき腹から下腹部、太ももの内側にかけて広がる特徴があります(放散痛)。右側の尿管に結石があれば、右下腹部に強い痛みが現れます。痛みの波があり、「差し込むような痛み」と表現されることが多いです。血尿(目に見える場合と顕微鏡でわかる場合がある)や吐き気、嘔吐を伴うこともあります。
診断には、尿検査、腹部レントゲン検査、腹部超音波検査、CT検査などが行われます。小さな結石であれば、水分をたくさん摂って自然に排出されるのを待つこともありますが、痛みが強い場合や結石が大きい場合は、鎮痛剤の使用、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)や内視鏡手術などの治療が必要となります。

膀胱炎

膀胱に細菌感染が起こることで炎症が生じる病気です。女性に比較的多く見られます。主な症状は、排尿時の痛み、頻尿、残尿感、尿の濁りなどです。通常は下腹部全体の違和感や鈍痛として感じられますが、人によっては右下腹部に痛みとして感じられることもあります。発熱を伴うことは少ないですが、炎症が腎臓にまで及ぶと腎盂腎炎となり、高熱や腰背部痛が現れます。
診断は、尿検査によって行われます。治療は、原因菌に応じた抗菌薬の内服が一般的です。

その他の原因

上記以外にも、右下腹部痛を引き起こす原因は存在します。

ストレスによる腹痛

精神的なストレスや不安が、自律神経の働きを乱し、腸の動きに影響を与えることで腹痛を引き起こすことがあります。過敏性腸症候群のように、特定の病気が背景になくても、ストレスが原因で腹痛を感じることはあります。痛みの性質は様々で、チクチクしたり、重い感じがしたりすることがあります。他の身体症状(頭痛、肩こりなど)を伴うこともあります。原因がストレスによるものか判断するには、器質的な病気がないことを確認した上で、ストレスとの関連性を考慮する必要があります。

腹壁の筋肉痛や帯状疱疹

お腹の壁(腹壁)の筋肉痛や神経の炎症が痛みの原因となることもあります。

  • 筋肉痛: 激しい運動や咳、くしゃみなどで腹筋を酷使した場合などに、腹部の筋肉に痛みが生じることがあります。体の動きと関連して痛みが強くなるのが特徴です。
  • 帯状疱疹: 水ぼうそうと同じウイルスが原因で、神経に沿って炎症が起こる病気です。初期にはピリピリ、チクチク、ズキズキといった神経痛のような痛みが現れ、数日後に痛みのある部位に沿って帯状に赤い発疹や水ぶくれが現れます。腹部に帯状疱疹ができた場合、発疹が現れる前に右下腹部に痛みが現れることがあります。発疹を確認することが診断の手がかりとなります。

痛み方の種類(チクチク、ズキズキ、押すと痛い、つるような痛み)から探る原因

痛みの感じ方によって、ある程度原因を推測できることがあります。ただし、これはあくまで目安であり、正確な診断には医療機関での診察が必要です。

チクチク・たまにある痛み

比較的軽度で、持続的ではないチクチクとした痛みや、たまに感じる痛みの場合、以下のような原因が考えられます。

  • 機能性の腹痛: 過敏性腸症候群やストレスによる腹痛など。腸の動きの異常などが原因と考えられます。
  • 軽い炎症: 虫垂炎の初期や、大腸憩室の軽い炎症など。炎症が軽度なうちは、痛みが強くなる前の段階かもしれません。
  • 婦人科的な原因: 生理周期に関連した痛み、排卵痛、子宮内膜症による軽い痛みなど。
  • 腹壁の軽い筋肉痛: 軽い負荷や体勢による筋肉の違和感など。

痛みが一時的であったり、特定の動作や体勢で和らいだりする場合は、緊急性の低いことが多いですが、痛みが続く場合や強くなる場合は注意が必要です。

ズキズキする痛み

比較的強い痛みで、脈打つようなズキズキとした痛みの場合、以下のような原因が考えられます。

  • 炎症の進行: 虫垂炎や大腸憩室炎など、炎症がある程度進んだ状態。炎症によって組織が腫れたり、周囲を刺激したりすることで強い痛みが生じます。
  • 膿瘍(うみ)の形成: 炎症が進行して膿が溜まっている場合。
  • 腫瘍の存在: 腫瘍が周囲の組織を圧迫したり、炎症を伴ったりしている場合。

ズキズキする痛みは、炎症や組織の損傷を示唆する可能性があるため、安易に自己判断せず、医療機関を受診することが推奨されます。

押すと痛む場合

痛む部位を指で押したり、軽く叩いたりしたときに痛みが強くなる(圧痛)場合、その部位の臓器に炎症が起きている可能性が高いです。特に、押さえていた手を急に離したときに痛みが強まる(反跳痛)場合は、腹膜に炎症が及んでいる可能性があり、虫垂炎や腹膜炎などの緊急性の高い病気が疑われます。
右下腹部の特定の場所(例えば、右下腹部のマックバーニー点という場所)を押したときの痛みが強い場合、虫垂炎の可能性が高まります。

つるような痛み

差し込むような、または痙攣(けいれん)するような激しい痛みの場合、以下のような原因が考えられます。

  • 臓器の収縮や閉塞: 尿管結石による尿管の痙攣、腸閉塞による腸の収縮など。臓器の内容物(尿や便)がスムーズに流れず、それを排出しようとして臓器が激しく収縮することで痛みが起こります。
  • 卵巣茎捻転: 卵巣がねじれることによる血流障害。血流が途絶えることで、臓器が壊死(えし)し始め、激しい痛みを引き起こします。

つるような痛みは、突然発生することが多く、耐え難いほどの激痛となることもあります。このような痛みを感じた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。

緊急性の高い右下腹部痛の症状と受診の目安

右下腹部痛がある場合、以下のような症状を伴うときは、病状が急速に進行している、あるいは重篤な病気の可能性があり、緊急性が高いと考えられます。これらの症状が現れた場合は、ためらわずに救急病院を受診するか、救急車を要請することを検討してください。

発熱や吐き気を伴う場合

発熱は体内で炎症や感染が起きているサインです。吐き気や嘔吐は、腹痛の原因が消化器系にある場合や、痛みが非常に強い場合にしばしば見られる症状です。右下腹部痛に加えて、高熱(38℃以上)や、水分も摂れないほどの激しい吐き気・嘔吐がある場合は、虫垂炎の進行、大腸憩室炎、骨盤内炎症性疾患、感染性腸炎などの可能性が高く、速やかな医療処置が必要です。

痛みが時間とともに強くなる場合

痛みが始まった当初は軽度でも、時間が経つにつれて徐々に、あるいは急速に痛みが強くなっていく場合は、病状が悪化しているサインです。特に、安静にしていても痛みが和らがず、どんどん耐え難い痛みになっていく場合は危険です。虫垂炎が進行して腹膜炎を起こしかけている場合や、卵巣茎捻転など、緊急手術が必要となる可能性のある病気が疑われます。痛みの変化に注意深く観察することが重要です。

出血やその他の異常がある場合

腹痛だけでなく、以下のような症状を伴う場合は、原因によっては緊急性の高い状況が考えられます。

  • 不正出血: 特に女性の場合、妊娠の可能性がある時期に右下腹部痛と不正出血がある場合は、子宮外妊娠の可能性があり、命に関わる状態になることもあります。
  • 血尿: 右下腹部痛に血尿を伴う場合は、尿管結石の可能性が高いです。通常は緊急性は低いですが、痛みが非常に強い場合や発熱を伴う場合は医療機関を受診すべきです。
  • 下血や粘血便: 炎症性腸疾患や感染性腸炎、大腸憩室炎など、大腸の病変が考えられます。多量の下血がある場合は緊急性が高いです。
  • 腹部の張りや呼吸困難: 腸閉塞や腹膜炎などにより、腹部にガスや液体が溜まり、腹部が著しく張る場合があります。痛みが強く、呼吸が苦しくなる場合は、重篤な状態が疑われます。
  • 顔色が悪い、冷や汗、意識が朦朧とする: ショック症状のサインです。腹腔内出血(子宮外妊娠破裂など)や重症感染症など、命に関わる状態の可能性があります。

以下の表は、緊急性の高い右下腹部痛の症状と、考えられる代表的な病気をまとめたものです。

症状 考えられる病気(代表例) 緊急性
右下腹部痛 + 発熱(高熱)+ 吐き気/嘔吐 虫垂炎(進行)、大腸憩室炎、骨盤内炎症性疾患 高い
右下腹部痛 + 痛みが急速に強まる 虫垂炎(腹膜炎移行)、卵巣茎捻転 高い
右下腹部痛 + 妊娠の可能性 + 不正出血 子宮外妊娠 非常に高い
右下腹部痛 + 突然の激痛 + 吐き気/嘔吐 卵巣茎捻転、尿管結石、虫垂炎(発症初期) 高い
右下腹部痛 + 血尿 + 差し込む痛み 尿管結石 中程度
右下腹部痛 + 多量の下血 虚血性腸炎、憩室出血、炎症性腸疾患 高い
右下腹部痛 + 腹部の張り + 呼吸困難 腸閉塞、腹膜炎 高い
右下腹部痛 + ショック症状(顔色不良等) 腹腔内出血(子宮外妊娠破裂など)、重症感染症、重症膵炎など 非常に高い

これらの症状が一つでも当てはまる場合は、迷わずに医療機関を受診しましょう。特に「非常に高い」緊急性の場合は、救急車を呼ぶこともためらわないでください。

右下腹部痛は何科を受診すべき?

右下腹部痛を感じたとき、何科を受診すればよいか迷うことがあるかもしれません。痛みの原因によって専門科が異なるため、症状に合わせて適切な科を選ぶことがスムーズな診断と治療につながります。

  • 消化器内科: 腹痛の原因として最も多いのは消化器系の病気です。虫垂炎、大腸憩室炎、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、感染性腸炎など、多くの消化器疾患は消化器内科で対応できます。特に、食後の痛み、下痢や便秘などの便通異常、吐き気や嘔吐を伴う場合は、まず消化器内科を受診するのが一般的です。
  • 婦人科: 女性の場合、卵巣や子宮に関連する病気が原因となっている可能性を考慮する必要があります。生理周期に関連した痛み、不正出血、おりものの異常などを伴う場合は、婦人科を受診しましょう。妊娠の可能性がある場合は、子宮外妊娠などの可能性もあるため、速やかに婦人科を受診する必要があります。
  • 泌尿器科: 排尿時の痛み、頻尿、残尿感、血尿などを伴う場合は、尿管結石や膀胱炎などの泌尿器系の病気が考えられます。これらの症状がある場合は、泌尿器科を受診するのが適切です。
  • 外科: 虫垂炎や腸閉塞、卵巣茎捻転など、手術が必要となる可能性のある病気が疑われる場合や、痛みが非常に強く緊急性が高い場合は、外科や救急科の受診が必要となることがあります。
  • 救急外来: 突然の激痛、高熱、意識の変調など、緊急性の高い症状がある場合は、時間や曜日に関わらず救急外来を受診してください。

迷う場合は、まずはかかりつけ医や、地域の総合病院の受付に相談してみるのも良いでしょう。症状を伝えて、適切な診療科を案内してもらうことができます。

右下腹部痛の診断と検査方法

医療機関を受診すると、まず医師による問診と身体診察が行われます。その後、必要に応じて原因を特定するための様々な検査が行われます。

  • 問診: いつから痛みがあるか、痛みの性質(チクチク、ズキズキ、差し込むなど)、痛みの程度、痛む場所の変化、痛みが強くなる・和らぐ状況、食事や排便との関連、随伴症状(発熱、吐き気、下痢、便秘、血尿、不正出血など)、既往歴、アレルギー、服用中の薬などについて詳しく聞かれます。女性の場合は、生理周期や妊娠の可能性についても確認されます。
  • 身体診察: 医師がお腹のどのあたりが痛むかを確認し、触診を行います。お腹を優しく押したり、軽く叩いたりして、痛みの部位や程度、腹部の硬さ、腫れがないかなどを調べます。特に、右下腹部の圧痛や反跳痛の有無は虫垂炎などの診断に重要な所見となります。
  • 血液検査: 炎症の程度を示す白血球の数やCRP(C反応性タンパク)、貧血の有無、腎機能や肝機能などを調べます。虫垂炎や大腸憩室炎など、炎症性の病気がある場合に白血球やCRPが高値を示すことが多いです。
  • 尿検査: 尿中の白血球や赤血球、細菌などを調べます。尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎)や尿管結石の診断に有用です。
  • 便検査: 下痢を伴う場合、感染性腸炎を疑って病原菌の有無を調べることがあります。
  • 画像検査: 腹部の状態を視覚的に確認するために行われます。
    • 腹部超音波検査(エコー): 腹部に超音波を当てて臓器の状態を調べます。虫垂の腫れ、卵巣の腫れやねじれ、子宮の状態、腹水の有無などを比較的簡便に調べることができます。放射線被ばくがないため、妊婦さんなどにも行われます。
    • CT検査: X線を使って体の断面画像を撮影する検査です。虫垂の腫れ、大腸の憩室炎、尿管結石の位置、腹腔内の炎症や出血などを詳細に調べることができます。緊急時にも迅速に行われることが多いです。
    • レントゲン検査: 腹部のガスの溜まり具合や便の貯留、結石の有無(写りにくいものもある)などを調べます。腸閉塞の診断などに有用です。
    • MRI検査: 強い磁力と電波を使って体の断面画像を撮影する検査です。CT検査よりも軟部組織の描写に優れており、骨盤内の病変(卵巣や子宮の異常など)を調べるのに用いられることがあります。
  • 内視鏡検査(大腸カメラなど): 炎症性腸疾患や大腸憩室炎、大腸がんなどが疑われる場合に行われます。肛門から内視鏡を挿入し、大腸の粘膜を直接観察します。必要に応じて組織の一部を採取(生検)して詳しく調べることもあります。
  • 腹腔鏡検査: 診断が困難な場合や、卵巣茎捻転など緊急性の高い婦人科疾患が疑われる場合に行われることがあります。お腹に小さな穴を開けて内視鏡を挿入し、腹腔内の臓器を直接観察する検査であり、そのまま治療(手術)に移行することも可能です。

これらの検査を組み合わせて行うことで、痛みの原因を特定し、適切な治療法を選択します。

右下腹部痛の治療法

右下腹部痛の治療は、その原因によって全く異なります。診断に基づいて、原因疾患に対する治療が行われます。

  • 薬物療法:
    • 抗菌薬(抗生物質): 虫垂炎、大腸憩室炎、感染性腸炎、骨盤内炎症性疾患、膀胱炎など、細菌感染が原因の場合に用いられます。
    • 鎮痛剤: 痛みを和らげるために処方されます。原因によっては痛みを抑えることで様子を見ることもありますが、安易に痛み止めで痛みを隠してしまうと、病状の進行を見逃す危険性もあるため、医師の指示に従って使用することが重要です。
    • 整腸剤、下痢止め、便秘薬: 過敏性腸症候群や感染性腸炎など、便通異常を伴う場合に用いられます。
    • 抗炎症剤、免疫抑制剤: 炎症性腸疾患など、慢性的な炎症を抑えるために用いられます。
    • 痙攣止め: 尿管結石による激しい痛みや、腸の痙攣による痛みを和らげるために用いられることがあります。
  • 手術療法:
    • 虫垂切除術: 虫垂炎の治療として、炎症を起こした虫垂を手術で切除します。最近では、お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術が一般的です。
    • 卵巣・子宮関連の手術: 卵巣茎捻転、子宮外妊娠、卵巣嚢腫など、婦人科系の緊急性の高い病気や、薬物療法では治せない病気に対して手術が行われます。
    • 大腸憩室炎の手術: 炎症が重度の場合や再発を繰り返す場合などに、病変のある大腸の一部を切除することがあります。
    • 尿管結石の治療: 体外衝撃波で結石を砕いたり、内視鏡を使って結石を取り出したりする処置や手術が行われます。
    • 腸閉塞の手術: 腸がねじれたり、詰まったりして内容物が流れなくなった場合に、原因を取り除くための手術が行われます。
  • 保存的治療:
    • 安静: 軽度の炎症や、特定の病気(例: 軽症の大腸憩室炎)の場合、安静にして自然に回復するのを待つことがあります。
    • 食事療法: 腸に負担をかけないよう、消化の良い食事にしたり、絶食したりすることがあります。
    • 水分補給: 脱水を防ぐために十分な水分摂取が推奨されます。尿管結石の場合は、結石の自然排出を促すために水分を多く摂ることが重要です。
  • その他の治療:
    • ストレス管理: ストレスが原因と考えられる腹痛(過敏性腸症候群など)の場合、カウンセリングやリラクゼーションなどが有効な場合があります。
    • 理学療法: 腹壁の筋肉痛が原因の場合、ストレッチやマッサージが有効なことがあります。

痛みの原因や病状によって最適な治療法は異なります。必ず医師の指示に従い、自己判断での治療は避けてください。

右下腹部 痛みに関するよくある質問

右下腹部の痛みについて、患者さんからよく聞かれる質問とその回答をご紹介します。

女性のお腹の右下が痛いのは病気ですか?

女性のお腹の右下が痛い場合、病気の可能性はあります。右下腹部には盲腸や大腸、尿管といった男女共通の臓器のほかに、右側の卵巣や卵管、子宮の一部など女性特有の臓器があります。そのため、虫垂炎や尿管結石といった病気に加えて、卵巣嚢腫、卵巣茎捻転、子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、子宮外妊娠など、女性特有の病気が原因となっていることもあります。
特に、突然の激痛、強い吐き気、発熱、不正出血などを伴う場合は、緊急性の高い病気の可能性も考えられます。症状が続く場合や、いつもと違う痛みを感じる場合は、自己判断せず、婦人科や消化器内科など適切な医療機関を受診して相談することをおすすめします。

右下腹部がズキズキするのは盲腸ですか?

右下腹部がズキズキと痛む場合、虫垂炎(盲腸)の可能性は十分に考えられます。虫垂炎は炎症が進行するにつれて痛みが強くなり、ズキズキとした持続的な痛みになることがあります。また、右下腹部を押すと痛む(圧痛)ことや、押さえていた手を離すと痛みが強まる(反跳痛)ことも特徴的です。
ただし、右下腹部のズキズキする痛みがすべて虫垂炎であるとは限りません。大腸憩室炎や、女性では卵巣の炎症など、他の病気でもズキズキした痛みが生じることがあります。痛みの始まりがみぞおちやへその周りから右下腹部に移動した、発熱や吐き気を伴うといった典型的な症状がある場合は虫垂炎の可能性が高いですが、確定診断のためには医師の診察と検査が必要です。自己判断せず、医療機関を受診しましょう。

右下腹部がズキズキするのはストレスですか?

右下腹部がズキズキする痛みが、ストレスによって引き起こされる可能性もゼロではありません。ストレスは自律神経を介して腸の動きに影響を与え、腹痛や便通異常を引き起こすことがあります。特に過敏性腸症候群のように、ストレスが症状を悪化させる機能性の腹痛では、ズキズキとした痛みを感じることもあります。
しかし、ストレスによる腹痛と、虫垂炎や大腸憩室炎など器質的な病気による腹痛を見分けるのは、ご自身では困難です。器質的な病気の場合は適切な治療を受けないと悪化する危険性があります。痛みが続く場合や、発熱や吐き気など他の症状を伴う場合は、まずは医療機関を受診して、痛みの原因に病気が隠れていないかを確認してもらうことが大切です。病気が否定された上で、ストレスとの関連が考えられる場合に、ストレス軽減のための対策や治療が行われます。

右下腹部にはどんな臓器がありますか?

右下腹部には、主に以下のような臓器の一部が位置しています。

  • 大腸: 盲腸、虫垂、上行結腸、S状結腸の一部
  • 小腸: 回腸の末端
  • 尿管: 右側の尿管
  • 卵巣・卵管: 女性の場合、右側の卵巣と卵管
  • 腹壁: 腹部の筋肉や神経

これらの臓器のいずれかに異常が生じると、右下腹部に痛みを感じることがあります。痛みの原因を特定するためには、これらの臓器に関連する様々な病気を考慮して検査・診断が進められます。

まとめ:右下腹部痛を感じたら専門医に相談しましょう

右下腹部の痛みは、比較的よくある症状ですが、その原因は非常に多岐にわたります。虫垂炎や大腸憩室炎といった消化器系の病気、尿管結石や膀胱炎といった泌尿器系の病気、そして女性であれば卵巣や子宮に関連する病気など、様々な可能性が考えられます。また、痛み方の性質(チクチク、ズキズキ、つるような痛みなど)や、発熱、吐き気、出血といった他の症状を伴うかどうかによっても、疑われる病気や緊急性が異なります。

自己判断で原因を決めつけたり、市販の痛み止めで済ませてしまったりすると、病状の進行を見逃してしまう危険性があります。特に、痛みが強い場合、時間とともに痛みが強くなる場合、発熱や吐き気、出血などを伴う場合は、緊急性の高い病気のサインかもしれません。このような場合は、ためらわずに医療機関を受診することが非常に重要です。

右下腹部痛を感じたら、まずは消化器内科、女性であれば婦人科、泌尿器系の症状があれば泌尿器科など、疑われる原因に応じた専門医に相談しましょう。突然の激痛など緊急性の高い症状がある場合は、時間に関わらず救急外来を受診してください。

医師は、問診や身体診察、そして必要に応じて血液検査、尿検査、画像検査(超音波、CTなど)などを行い、痛みの正確な原因を診断します。診断に基づいて、原因疾患に応じた適切な治療法(薬物療法、手術療法など)が選択されます。

右下腹部の痛みは、体の重要なサインである可能性があります。痛みに向き合い、適切なタイミングで専門医の診察を受けることが、自身の健康を守る上で最も大切な行動です。この記事で解説した情報が、皆さんの不安を少しでも和らげ、適切な医療に繋がる一助となれば幸いです。

【免責事項】
この記事の情報は、一般的な知識を提供するものであり、医学的なアドバイスや診断、治療を推奨するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。自己判断による治療や対処は危険を伴う可能性があります。

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