月経移動の5ステップガイド|ピルで生理をずらす方法と費用・副作用を解説

旅行や試験、結婚式といった、人生の大切なイベント。「そんな日に生理が重なってしまったらどうしよう…」と、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。体調が万全でないと、せっかくの機会を心から楽しめないかもしれません。

しかし、諦める必要はありません。ピルを使った月経移動という方法なら、安全かつ計画的に生理日をずらすことが可能です。

この記事では、月経移動を考えているあなたが抱えるであろう、あらゆる疑問にお答えします。

  • 月経移動の基本的な仕組み
  • 「早める」「遅らせる」2つの方法の具体的な手順と選び方
  • 使われるピルの種類や気になる副作用
  • どれくらいの費用がかかるのか
  • どこで(産婦人科?オンライン診療?)相談すればいいのか

これらの情報を網羅的に、そして医療のプロの視点から、やさしく丁寧に解説していきます。この記事を読めば、あなたに合った月経移動の方法がわかり、安心して大切な日に向けた準備を始められるはずです。

目次

月経移動とは?ピルで生理日を調整する仕組み

月経移動とは、ホルモン剤の一種である「ピル」を服用することで、月経(生理)が始まる日を人為的に早めたり、遅らせたりすることを指します。大切な予定と月経が重なるのを避けるために行われる、医療的な方法です。

では、なぜピルで月経日をコントロールできるのでしょうか。その鍵を握るのが、「女性ホルモン」です。

女性ホルモンの働きを利用して月経周期をコントロール

私たちの月経周期は、主に2つの女性ホルモンによってコントロールされています。

  1. エストロゲン(卵胞ホルモン): 排卵に向けて子宮内膜(赤ちゃんのためのベッド)を厚くする働きがあります。
  2. プロゲステロン(黄体ホルモン): 排卵後、厚くなった子宮内膜を維持し、妊娠しやすい状態を保つ働きがあります。

妊娠が成立しなかった場合、このプロゲステロンの分泌が急激に減少します。すると、維持できなくなった子宮内膜が剥がれ落ち、血液とともに体外へ排出されます。これが「月経」の正体です。

月経移動で使われるピルには、このプロゲステロンと同じような働きをする「黄体ホルモン」が含まれています。ピルを服用することで、体内のホルモンバランスを外部からコントロールし、「子宮内膜を剥がれさせるタイミング(=月経が始まる日)」を意図的に調整するのが、月経移動の基本的な仕組みなのです。

月経移動の5ステップガイド|計画的に準備を進めよう

月経移動を成功させるためには、計画的な準備が何よりも大切です。ここでは、具体的な方法を5つのステップに分けて、わかりやすく解説していきます。

ステップ1:2つの方法「早める」と「遅らせる」を理解する

月経移動には、月経を「早める」方法と「遅らせる」方法の2種類があります。どちらを選ぶかによって、ピルを飲み始めるタイミングやメリット・デメリットが異なります。まずは、それぞれの特徴を理解しましょう。

月経を早める方法 月経を遅らせる方法
概要 一つ前の月経周期でピルを飲み、予定日より早く月経を起こす 次の月経予定日の前からピルを飲み、月経が来るのを遅らせる
メリット ・大切な予定の期間中にピルを飲む必要がない
・イベント中の副作用の心配がない
・月経移動の成功率が高い
・急な予定にも対応しやすい
デメリット ・調整に失敗することがある
・避けたい日より前に出血がある
・早めの受診が必要
・大切な予定の期間中もピルを飲み続ける必要がある
・イベント中に副作用が出る可能性がある
・飲み忘れに注意が必要

ステップ2:「早める」方法の具体的な手順とメリット・デメリット

月経を早める方法は、大切なイベントの期間中にピルを服用したくない方におすすめです。

【手順】月経を早める場合のピルの飲み方

  1. 受診タイミング: ずらしたい月経の一つ前の月経が始まる前に、産婦人科やオンライン診療を受診し、ピルを処方してもらいます。
  2. 服用開始: ずらしたい月経の一つ前の月経が始まった日を1日目として、5日目までにピルの服用を開始します。
  3. 服用継続: 最低でも10日間、毎日1錠を同じ時間に服用し続けます。
  4. 服用中止: 10~14日間服用した後、ピルの服用を中止します。
  5. 月経開始: 服用を中止してから2〜3日後に、予定より早まった月経が始まります。

これにより、本来の月経予定日よりも前に月経を終わらせておくことができます。

【シナリオ例】大事な資格試験を控えた大学生Bさんの場合
Bさん:「来月の20日から3日間、大事な資格試験があるんです。でも、生理予定日がちょうど21日頃で…。試験に集中したいので、生理をずらせませんか?」
医師:「なるほど。試験の1ヶ月以上前なので、生理を早める方法が選択できますね。この方法なら、試験期間中にピルを飲む必要がないので、副作用の心配なく集中できますよ。今月の生理が始まったら、5日目までにこのピルを飲み始めて、10日間続けてください。そうすれば、試験の1週間くらい前には生理が終わっている計算になります。」

ステップ3:「遅らせる」方法の具体的な手順とメリット・デメリット

月経を遅らせる方法は、成功率が高く、より確実に月経を避けたい方におすすめです。急な予定にも対応しやすいのが特徴です。

【手順】月経を遅らせる場合のピルの飲み方

  1. 受診タイミング: 次の月経予定日の5〜7日前までに医療機関を受診し、ピルを処方してもらいます。
  2. 服用開始: 次の月経予定日の約5日前からピルの服用を開始します。
  3. 服用継続: 月経を避けたい期間の最終日まで、毎日1錠を同じ時間に服用し続けます。
  4. 服用中止: イベントが終わり、ピルの服用を中止します。
  5. 月経開始: 服用を中止してから2〜3日後に、遅れていた月経が始まります。

【多くの方が見落としがちなポイント】

「遅らせる」方法は確実性が高い反面、月経を避けたい旅行中やイベント期間中もピルを飲み続ける必要があります。そのため、吐き気などの副作用がそのタイミングで出てしまう可能性もゼロではありません。もし副作用が心配な場合は、診察時に医師に相談し、念のために吐き気止めなどを一緒に処方してもらうと、より安心して過ごせます。また、環境が変わると飲み忘れもしやすくなるため、スマートフォンのリマインダー機能を活用するなど、工夫をしましょう。

ステップ4:自分に合った方法を選ぶ【早める vs 遅らせる】

「結局、自分はどっちを選べばいいの?」と迷う方も多いでしょう。選ぶ際のポイントは主に2つです。

① 予定が決まっている時期で選ぶ

  • イベントまで1ヶ月以上の余裕がある場合: 「早める」「遅らせる」どちらも選択可能です。
  • イベントまで1ヶ月を切っている場合: 「遅らせる」方法一択になります。「早める」方法は、一つ前の月経周期を利用するため、直前の対応はできません。

② 副作用の懸念や確実性で選ぶ

  • イベント中に副作用が出るのが絶対に嫌な人: 「早める」方法がおすすめです。イベント期間中にピルを服用しないため、副作用の心配がありません。ただし、調整に失敗する可能性が「遅らせる」方法よりは少し高い点は理解しておく必要があります。
  • とにかく確実に月経を避けたい人: 「遅らせる」方法がおすすめです。成功率が高く、計画通りに調整しやすいのが最大のメリットです。ただし、イベント中に副作用が出る可能性や、飲み忘れのリスクはあります。

自分の状況や優先順位に合わせて、最適な方法を選びましょう。

ステップ5:使用するピルの種類を知る

月経移動には、主に「中用量ピル」と「低用量ピル」が使われます。

中用量ピル|月経移動で主に使われるピル

月経移動を希望して医療機関を受診した場合、一般的に処方されるのが中用量ピルです。(代表的な薬剤名:プラノバールなど)

  • 特徴: 低用量ピルに比べて含まれるホルモン量が多い。
  • メリット: ホルモン量が多いため、月経周期を強力にコントロールでき、月経移動の成功率が高い。
  • デメリット: ホルモン量が多い分、低用量ピルよりも吐き気や頭痛といった副作用が出やすい傾向がある。

初めて月経移動を行う場合や、確実性を求める場合には、この中用量ピルが第一選択となります。

低用量ピル|普段から服用している人向けの選択肢

普段から避妊や月経困難症(ひどい生理痛など)の治療のために低用量ピルを服用している場合は、そのピルを使って月経移動が可能です。

  • 方法: 通常、21日間実薬(ホルモンが含まれる錠剤)を服用した後、7日間の休薬期間(偽薬を飲むか、何も飲まない期間)に月経が来ます。この休薬期間を設けずに、今のシートの実薬を飲み終えたら、そのまま次のシートの新しい実薬を飲み始めることで、月経を遅らせることができます。(連続服用)
  • 注意点: 連続服用できる日数はピルの種類によって異なります。必ず自己判断で行わず、かかりつけの医師に相談・確認してから行いましょう。

この方法なら、追加で中用量ピルを処方してもらう必要がなく、経済的な負担も少なくて済みます。

実践のためのヒントとコツ

ここでは、実際に月経移動を始めるにあたって役立つ、3つの具体的なヒントとコツをご紹介します。

ヒント1:受診先はライフスタイルに合わせて選ぶ(産婦人科 vs オンライン診療)

ピルは医師の処方が必要な薬です。処方してもらうには、主に「産婦人科(対面診療)」と「オンライン診療」の2つの選択肢があります。

  • 選択肢①:産婦人科(対面診療)
    • メリット: 医師に直接会って診察(問診、血圧測定、必要に応じて内診など)を受けられるため、安心感が大きい。気になることをその場で詳しく質問できます。
    • デメリット: 病院へ行く手間と時間がかかる。待ち時間が発生することもある。
  • 選択肢②:オンライン診療
    • メリット: スマートフォンやPCを使って、自宅など好きな場所から受診できる。通院の手間や交通費がかからず、待ち時間も少ない。
    • デメリット: 医師による触診や内診はできない。ピルは郵送で届くため、手元に届くまで数日かかる。

【会話例】オンライン診療でのやり取り
患者:「来月、新婚旅行で沖縄に行くんですが、ちょうど生理が重なりそうで…。初めてピルを使うので少し不安です。」
医師:「ご結婚おめでとうございます。旅行、楽しみですね。初めてのピル、ご不安ですよね。オンラインですが、何でも聞いてください。月経移動は『遅らせる』方法が確実性が高くておすすめですよ。月経予定日の5日前から飲み始めて、旅行が終わるまで続けてください。副作用で吐き気が出ることがありますが、多くの場合は数日で慣れます。もし心配なら、吐き気止めも一緒にお送りしましょうか?」
患者:「そうなんですね!吐き気止めももらえると安心です。お願いします。」

【どちらを選ぶべきかの判断基準】

  • 対面診療がおすすめな人:
    • ピルの服用が初めてで、直接医師に相談したい人
    • 婦人科系の病気(子宮筋腫など)が心配な人
    • 血圧測定など、基本的な検査をしっかり受けたい人
  • オンライン診療がおすすめな人:
    • 仕事や学業で忙しく、通院する時間がない人
    • 近くに産婦人科がない人
    • 対面での診察に抵抗がある人

ヒント2:費用の全体像を把握しておく(保険適用外です)

月経移動は、病気の治療ではないため、健康保険が適用されず、全額自己負担の「自費診療」となります。事前に費用の目安を知っておくと安心です。

費用の内訳と目安

費用は主に「診察料」と「ピル代」で構成されます。

  • 診察料(初診料/再診料): 2,000円~3,000円程度
  • ピル(中用量ピル)代: 1錠あたり200円~300円程度
  • 総額の目安: 処方される日数にもよりますが、合計で3,000円~7,000円程度が一般的です。

オンライン診療と対面診療の費用比較表

項目 対面診療(産婦人科) オンライン診療
診察料 2,000円~3,000円 0円~2,500円(サービスによる)
ピル代 2,000円~4,000円 2,000円~4,000円
配送料 なし 500円前後
交通費 実費 なし
合計目安 4,000円~7,000円 + 交通費 3,000円~7,000円

※料金は医療機関やサービスによって異なります。あくまで目安としてお考え下さい。

ヒント3:【意外な盲点】副作用対策は「服用タイミング」と「事前相談」が鍵

ピルの副作用が心配な方も多いと思いますが、正しい知識を持つことで冷静に対処できます。

よくある副作用と対処法

ピルを飲み始めると、体がホルモンバランスの変化に慣れるまで、一時的に以下のような症状が出ることがあります。

  • 吐き気、嘔吐
  • 頭痛
  • 乳房の張り、痛み
  • むくみ
  • 不正出血(少量の出血)

これらの多くは、2〜3日服用を続けるうちにおさまることがほとんどです。

【対処法のコツ】

  • 吐き気対策: 胃の中に食べ物があると吐き気を感じにくくなります。食後の服用や、就寝前の服用にすると、寝ている間に気持ち悪さのピークが過ぎるため、症状を感じにくくなります。
  • 症状が続く場合: 我慢せずに、ピルを処方してもらった医師に相談しましょう。吐き気止めなどを処方してもらえる場合があります。

重大な副作用「血栓症」のリスクと初期症状

頻度は非常に稀ですが、ピルの服用で最も注意すべき副作用が「血栓症(血管の中に血の塊ができて詰まる病気)」です。命に関わることもあるため、初期症状を知っておくことが極めて重要です。

日本産科婦人科学会では、血栓症の危険なサインを「ACHES(エイクス)」という言葉で注意喚起しています。

  • Abdominal pain (激しい腹痛)
  • Chest pain (激しい胸痛、息苦しさ)
  • Headache (激しい頭痛)
  • Eye / speech problems (見えにくい、視野が狭い、舌がもつれる)
  • Severe leg pain (ふくらはぎの痛み・むくみ・赤み)

これらの症状が一つでも現れた場合は、直ちにピルの服用を中止し、救急医療機関を受診してください。

【注意】ピルを服用できない人(禁忌)の条件

安全上の理由から、以下に該当する方は原則としてピルを服用することができません。これを「禁忌」といいます。

  • 過去に血栓症にかかったことがある方
  • 乳がん、子宮体がん、またはその疑いがある方
  • 原因不明の不正性器出血がある方
  • 35歳以上で1日15本以上タバコを吸う方
  • 重度の高血圧、糖尿病、心臓病、肝臓病などがある方
  • 手術前4週間以内、または手術後2週間以内の方
  • 妊娠中、授乳中、またはその可能性がある方

これらは一例です。問診の際には、ご自身の健康状態や既往歴、喫煙習慣などを必ず正直に医師に伝えてください。

月経移動に関するよくある質問(Q&A)

ここでは、月経移動に関して特に多く寄せられる質問にお答えします。

Q. イベントの何日前までに受診すれば間に合いますか?

A. 選びたい方法によって異なりますが、何よりも「余裕を持った早めの受診」が鉄則です。

  • 月経を「早める」場合: ずらしたい月経の一つ前の月経が始まる前、つまり避けたいイベントの1ヶ月以上前には受診が必要です。
  • 月経を「遅らせる」場合: 次の月経予定日の最低でも5〜7日前までに受診してください。オンライン診療で郵送してもらう場合は、配送にかかる日数も考慮し、10日〜2週間ほどの余裕があると安心です。

Q. ピルを飲み忘れたらどうすればいいですか?

A. 気づいた時点ですぐに対処することが大切です。

  • 1錠の飲み忘れ: 気づいた時点ですぐに飲み忘れた1錠を服用し、その日の分のピルも通常通りの時間に服用してください。(結果的に1日に2錠飲むことになります)
  • 2錠以上の飲み忘れ: 月経移動が失敗し、不正出血が始まる可能性が高いです。自己判断で服用を続けず、ピルを処方してもらった医師に速やかに電話などで相談し、指示を仰いでください。

それが難しい場合どうすれば?

もし、深夜や休日で処方医にすぐに連絡が取れない場合は、一旦ピルの服用を中止し、出血が始まった場合はそのまま次の月経周期として捉えます。そして、診療時間になったら必ず医師に連絡して、今後の対応について相談しましょう。無理に飲み続けるとホルモンバランスが乱れ、かえって体調を崩す原因にもなりかねません。

Q. 月経移動ピルに避妊効果はありますか?

A. いいえ、月経移動で主に使われる「中用量ピル」には、避妊効果は保証されていません。

低用量ピルは避妊目的で承認されていますが、中用量ピルはあくまで月経周期を調整するための薬です。ホルモン量は多いですが、飲み方が異なるため、低用量ピルと同等の確実な避妊効果は期待できません。避妊が必要な場合は、ピルを服用している期間中も必ずコンドームなど他の避妊法を併用してください。

(※普段から低用量ピルを連続服用して月経移動する場合は、正しく服用を続けていれば避妊効果は維持されます。)

Q. 市販薬で月経移動はできますか?

A. いいえ、できません。

月経移動に必要な中用量ピルや低用量ピルは、医師の診察と処方が必要な「医療用医薬品」です。薬局やドラッグストアで市販薬として購入することはできません(2024年現在)。インターネット上の個人輸入サイトなどで販売されていることもありますが、偽造薬や粗悪品のリスクが非常に高く、健康被害につながる恐れがあるため、絶対に手を出さないでください。月経移動を希望する場合は、必ず医療機関を受診しましょう。

まとめ|月経移動は計画的な準備で大切なイベントを万全に

今回は、ピルを使った月経移動について、その仕組みから具体的な方法、費用、副作用までを詳しく解説しました。

  • 月経移動はピルを使って安全に生理日を調整する方法
  • 「早める」「遅らせる」の2つの方法があり、予定や考え方に合わせて選べる
  • 成功の鍵は「余裕を持った計画的な受診」
  • 費用は保険適用外の自費診療で、3,000円~7,000円が目安
  • 副作用や禁忌事項を正しく理解し、安全に行うことが大切

大切な日を万全のコンディションで、心から楽しむために、月経移動はとても有効な選択肢です。少しでも不安や疑問があれば、一人で悩まず、まずは産婦人科やオンライン診療で気軽に相談してみてください。専門家である医師が、あなたに最適な方法を一緒に考えてくれるはずです。

【免責事項】
本記事は月経移動に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。ピルの処方や服用方法については、必ず医師の診察を受け、その指示に従ってください。

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