もしかして男性更年期障害?【症状チェック】原因と7つの対策、治療法まで解説

「なんだか最近、疲れが取れない」「仕事や趣味へのやる気が出ない」「理由もなくイライラしてしまう…」
40代を過ぎてから、こうした原因不明の心身の不調に悩まされていませんか?年齢のせいだと片付けてしまいがちですが、それは男性の更年期障害のサインかもしれません。

女性の更年期は広く知られていますが、実は男性にもホルモンバランスの変化によって心身にさまざまな影響が出る時期があります。しかし、その事実はまだ十分に認知されておらず、一人で悩みを抱え込んでいる方が少なくありません。

この記事では、医療の専門的な知見に基づき、男性の更年期障害(LOH症候群)について、網羅的に、そして分かりやすく解説します。

  • あなたの症状が男性更年期障害に当てはまるかどうかがわかるセルフチェックリスト
  • なぜ不調が起こるのか、その根本的な原因
  • 日常生活で今日から始められる具体的な対策・改善方法
  • 専門の医療機関で行われる検査や治療法(ホルモン補充療法など)

この記事を読み終える頃には、あなたの悩みの正体が明確になり、次の一歩を踏み出すための具体的な道筋が見えているはずです。漠然とした不安を解消し、再び活力ある毎日を取り戻すために、ぜひ最後までお付き合いください。

目次

男性更年期障害(LOH症候群)とは?テストステロン低下が主な原因

男性の更年期障害は、医学的には「LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれます。その主な原因は、男性ホルモンである「テストステロン」が、加齢や強いストレスなどによって減少することにあります。

テストステロンは、単に「男性らしさ」を司るだけでなく、私たちの心と身体の健康を維持するために、非常に重要な役割を担っています。このホルモンが基準値を下回ることで、心身のバランスが崩れ、さまざまな不調として現れるのです。

女性の更年期障害との違い

女性の更年期障害は、閉経を挟んだ前後約10年間に、女性ホルモン(エストロゲン)が“急激に”減少することで起こります。そのため、症状が現れる時期や終わる時期が比較的明確です。

一方、男性の場合は40代以降、テストステロンが“緩やかに”減少していくのが特徴です。このため、不調の始まりや終わりがはっきりせず、症状の現れ方にも大きな個人差があります。全ての男性が重い症状を経験するわけではありませんが、誰にでも起こりうる可能性があるという点が、女性の更年期とは異なります。

男性更年期障害(LOH症候群) 女性の更年期障害
主な原因ホルモン テストステロン(男性ホルモン)の低下 エストロゲン(女性ホルモン)の低下
ホルモン低下の仕方 40代以降、緩やかに低下 閉経前後(50歳前後)に急激に低下
発症時期 40代以降、時期は不明確で個人差大 閉経を挟んだ約10年間(45〜55歳頃)
特徴 症状の始まりや終わりが曖昧 閉経という明確なイベントと関連

男性ホルモン「テストステロン」の重要な役割

「テストステロン」と聞くと、筋肉や性機能といったイメージが強いかもしれません。しかし、その働きは多岐にわたり、心身の活力を支える源ともいえるホルモンです。

  • 身体への作用
    • 筋肉量の増加と筋力の維持
    • 骨を丈夫にし、骨密度を維持する(骨粗しょう症の予防)
    • 内臓脂肪の蓄積を抑え、メタボリックシンドロームを予防する
    • 血液を作る働きを促す(造血作用)
  • 精神への作用
    • やる気、意欲、競争心などを高める
    • 決断力や集中力を維持する
    • 幸福感や気分の安定に関わる
  • 性機能への作用
    • 性欲(リビドー)の維持・向上
    • 勃起機能(EDの予防)
    • 精子の形成

このように、テストステロンは私たちが社会で活躍し、生き生きとした生活を送るために不可欠な存在です。この重要なホルモンが低下することが、さまざまな不調の引き金となるのです。
(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット

【セルフチェック】男性更年期障害でみられる主な症状

男性更年期障害の症状は非常に多彩で、人によって現れ方が異なります。そのため、「ただの疲れ」「歳のせい」と見過ごされやすいのが難しい点です。ご自身の状態を客観的に把握するために、以下の3つの側面からサインを確認してみましょう。

身体にあらわれるサイン

  • ☑ 原因不明の強い倦怠感、疲労感が続く
  • ☑ 顔のほてり、のぼせ、異常な量の汗をかく
  • ☑ 手足が冷えやすい
  • ☑ 睡眠が浅い、途中で目が覚める、寝つきが悪い(不眠)
  • ☑ めまい、耳鳴り、立ちくらみ
  • ☑ 動悸や息切れがする
  • ☑ 頭痛、肩こり、腰痛、関節痛がひどい
  • ☑ 筋力が落ちた、筋肉痛になりやすい
  • ☑ お腹周りの脂肪が増えた(内臓脂肪型肥満)
  • ☑ 頻尿、残尿感がある

特に、十分休んでも取れない慢性的なだるさは、多くの人が最初に自覚する代表的な症状です。

心・精神面にあらわれるサイン

  • ☑ 何事にも興味がわかない、やる気が出ない(意欲低下)
  • ☑ 気分が落ち込み、憂うつな気分が続く
  • ☑ 理由もなく不安な気持ちになる、焦燥感がある
  • ☑ ささいなことでイライラする、怒りっぽくなった
  • ☑ 集中力や記憶力が低下したと感じる
  • ☑ 以前楽しめていたことが楽しめない
  • ☑ 人に会うのが億劫になった

これらの精神症状は、周囲から「性格が変わった」「怠けている」と誤解されやすく、本人をさらに苦しめることがあります。うつ病との鑑別が重要になるケースも少なくありません。

性機能にあらわれるサイン

  • ☑ 性欲が明らかに減った(性欲減退)
  • ☑ 勃起しにくい、維持できないことがある(ED・勃起障害)
  • ☑ 朝立ちの回数が減った、または全くなくなった
  • ☑ 射精時の快感が減った
  • ☑ 性行為の回数が減った

性機能に関する変化は、テストステロン低下の非常に分かりやすい指標です。パートナーとの関係にも影響しうるデリケートな問題ですが、重要な身体からのサインと捉えることが大切です。

AMSスコアを用いたセルフチェックリストと注意点

医療機関では、男性更年期障害の重症度を客観的に評価するため、「AMSスコア(加齢男性症状調査票)」という質問票が世界的に用いられています。以下の17の質問について、ご自身の状態に最も近いものを選び、点数を合計してみてください。

【AMSスコア質問票】
各項目について、「なし(1点)」「軽い(2点)」「中等度(3点)」「重い(4点)」「非常に重い(5点)」で採点してください。

  • 1. 総合的に調子が思わしくない(健康状態、本人自身の感じ方)
  • 2. 関節や筋肉の痛み(腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み)
  • 3. ひどい発汗(思いがけず突然汗が出る、緊張や運動とは関係なく汗が出る)
  • 4. 睡眠の悩み(寝つきが悪い、ぐっすり眠れない、浅い眠り、早く目が覚める、疲労感)
  • 5. よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
  • 6. いらいらする(あたり散らす、ささいなことに腹を立てる、落ち着きがなくなる)
  • 7. 神経質になる(緊張しやすい、精神的に落ち着かない、びくびくする)
  • 8. 不安感(パニック状態になる)
  • 9. 体の疲労や行動力の低下(全般的な行動力の低下、余暇活動に興味がない、達成感がない、自分を追い立てないと何もする気にならない)
  • 10. 筋力の低下
  • 11. 憂うつな気分(落ち込み、悲しい、涙もろい、意欲がわかない、気分のむら、無用な人間だと感じる)
  • 12. 「人生の山は通り過ぎた」と感じる
  • 13. 力尽きた、燃え尽きたと感じる
  • 14. ひげの伸びが遅くなった
  • 15. 性的能力の衰え
  • 16. 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少
  • 17. 性欲の低下(セックスが楽しくない、セックスしたいと思わない)

【評価】

  • 合計26点以下: 正常
  • 合計27~36点: 軽度の症状あり(経過観察またはセルフケア推奨)
  • 合計37~49点: 中等度の症状あり(専門医への相談・治療を推奨)
  • 合計50点以上: 重度の症状あり(専門医による治療が必要)

【注意点】
このスコアはあくまで自己診断の目安です。点数が高い場合でも、他の病気が隠れている可能性もあります。正確な診断のためには、このスコアの結果と、後述する血液検査によるテストステロン値の測定などを合わせて、医師が総合的に判断する必要があります。

男性更年期障害の主な原因|テストステロンはなぜ低下するのか?

テストステロンの低下は、一つの原因だけで起こるわけではありません。「加齢」という避けられない要因に、「ストレス」や「生活習慣」といった現代社会特有の要因が複雑に絡み合って発症します。

加齢による生理的なホルモン減少

男性のテストステロン値は、20代をピークとして、その後は年間1~2%ずつ緩やかに減少し続けます。これは誰にでも起こる自然な生理現象です。
しかし、この減少のスピードには個人差が大きく、もともとの分泌量が少ない人や、何らかの要因で減少ペースが速まった場合に、40代後半から50代にかけて症状として自覚されやすくなります。

精神的・社会的ストレスの影響

現代社会における最大の原因ともいえるのが、精神的なストレスです。
仕事上のプレッシャー、リストラや異動、複雑な人間関係、家庭内の問題、親の介護といった慢性的なストレスにさらされると、私たちの身体は「コルチゾール」というストレスホルモンを大量に分泌します。

このコルチゾールを産生する指令を出す脳の部位(視床下部・下垂体)は、テストステロンの分泌を指令する部位と共通しています。そのため、ストレス状態が続くと、テストステロンの産生システムがうまく機能しなくなり、分泌量が大きく低下してしまうのです。

生活習慣の乱れ(睡眠不足・運動不足・食生活)

日々の何気ない生活習慣も、テストステロン値に大きく影響します。

  • 睡眠不足: テストステロンは、主に深い睡眠中に分泌されます。慢性的な睡眠不足や睡眠の質の低下は、分泌量を著しく減少させる直接的な原因となります。
  • 運動不足: 筋肉はテストステロンを産生する精巣の働きを活性化させます。運動不足で筋肉量が減ると、テストステロンも作られにくくなります。
  • 肥満(特に内臓脂肪): 内臓脂肪細胞には「アロマターゼ」という酵素が存在し、これはテストステロンを女性ホルモン(エストロゲン)に変えてしまう働きがあります。肥満はテストステロン低下の大きな原因です。
  • 不健康な食生活: 栄養バランスの悪い食事、過度な飲酒、喫煙なども、テストステロンの産生に悪影響を及ぼします。

これらの「加齢」「ストレス」「生活習慣の乱れ」という3つの要因が重なり合うことで、テストステロンの低下が加速し、男性更年期障害の症状が引き起こされるのです。

ステップバイステップガイド:症状改善への7つのステップ

つらい症状を改善し、活力ある毎日を取り戻すためには、正しい知識に基づいた行動が不可欠です。ここでは、セルフケアから専門治療まで、7つのステップに分けて具体的な方法を解説します。

ステップ1:まずは現状を正しく知る(セルフチェック)

最初の一歩は、自分の心と身体の状態を客観的に把握することです。先ほどご紹介した「AMSスコア」を試してみましょう。

「最近なんだか調子が悪いな」という漠然とした不調を、具体的な項目でチェックすることで、問題点が明確になります。点数が高かった項目は、あなたの身体が発している重要なサインです。この結果をメモしておくと、後のステップや医療機関への相談時に非常に役立ちます。

ステップ2:食生活を見直す【テストステロン向上計画】

テストステロンは、私たちが口にする食べ物から作られます。バランスの良い食事を基本としながら、特に以下の栄養素を意識的に摂取してみましょう。

  • 亜鉛: テストステロンの合成に不可欠なミネラル。
    • 食材例: 牡蠣、レバー、赤身肉、うなぎ、チーズ、ナッツ類
  • ビタミンD: テストステロン値を高める効果が報告されています。
    • 食材例: 鮭、さんま、いわしなどの青魚、きのこ類、卵黄
  • 良質なタンパク質: 筋肉の材料となり、テストステロン産生をサポートします。
    • 食材例: 鶏むね肉、赤身肉、卵、大豆製品(豆腐、納豆)
  • アリシン: テストステロンの分解を防ぎ、維持に役立つとされます。
    • 食材例: 玉ねぎ、にんにく、ニラ

逆に、糖質の多い菓子パンや清涼飲料水、加工食品、過度なアルコールは、肥満を招きテストステロンを低下させるため、控えるように心がけましょう。

ステップ3:適度な運動を習慣にする【筋トレ+有酸素】

運動は、テストステロン値を高める最も効果的かつ即効性のある方法の一つです。ポイントは「筋力トレーニング」と「有酸素運動」を組み合わせることです。

  • 筋力トレーニング: スクワットやデッドリフトなど、下半身や背中といった大きな筋肉をターゲットにしたトレーニングは、テストステロンの分泌を強力に促進します。週2〜3回、「ややきつい」と感じる強度で行うのが理想です。
  • 有酸素運動: ウォーキングやジョギング、水泳などは、ストレス解消や内臓脂肪の減少に効果的です。1回30分程度を目安に、楽しみながら続けられるものを選びましょう。

【多くの方が見落としがちなポイント】
運動は重要ですが、やりすぎは禁物です。オーバートレーニングは身体に過度なストレスを与え、逆にストレスホルモンであるコルチゾールを増やし、テストステロンを低下させてしまう可能性があります。特にトレーニング初心者は、疲労が残らない範囲で、休息日をしっかり設けることが成功の鍵です。筋肉を「育てる」時間も大切にしましょう。

ステップ4:質の高い睡眠を確保する【7時間睡眠の重要性】

テストステロンは、主に夜、深い眠り(ノンレム睡眠)の間に分泌されます。つまり、睡眠の質と量はテストステロン値に直結します。

  • 7時間以上の睡眠を目指す: 個人差はありますが、多くの研究で7〜8時間の睡眠が推奨されています。
  • 就寝前のルーティンを作る: 就寝1〜2時間前からは、スマートフォンやPCのブルーライトを避けましょう。ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、ストレッチをする、読書をするなど、心身をリラックスさせる時間を作ります。
  • 寝室環境を整える: 寝室は「眠るためだけの場所」と位置づけ、快適な温度・湿度を保ち、光や音を遮断しましょう。自分に合った寝具への投資も有効です。

ステップ5:ストレスと上手に向き合う【リラックス法を見つける】

慢性的なストレスはテストステロンの大敵です。ストレスをゼロにすることは不可能でも、上手に付き合う方法を見つけることはできます。

  • 意識的に「何もしない時間」を作る
  • 自然に触れる: 公園を散歩する、森林浴をする
  • 趣味に没頭する: 音楽を聴く、映画を観る、模型を作るなど
  • 人と話す: 信頼できる友人や家族と悩みを共有する
  • マインドフルネス・瞑想: 呼吸に集中し、「今ここ」に意識を向けることで、心を落ち着かせます。

【シナリオ例①:仕事のプレッシャーで悩むBさんの場合】
Bさん(48歳・管理職)は、最近部下へのイライラが抑えられず、夜も仕事のことが頭から離れず眠りが浅いことに悩んでいました。「これも責任感の表れだ」と自分を奮い立たせていましたが、休日は疲れ果てて何もする気が起きません。

彼は思い切って、平日の夜に15分だけ、スマートフォンをリビングに置き、寝室で瞑想アプリを試すことにしました。最初は雑念ばかりでしたが、続けるうちに、自分の呼吸に意識を向けることで、頭の中の騒音から少し距離を置けるようになりました。週末には、目的もなく近所の川沿いを1時間ほど散歩する習慣をプラス。この「意識的なオフ時間」を作ることで、Bさんは徐々に心の余裕を取り戻し、イライラが減っていくのを感じ始めました。

ステップ6:専門の医療機関に相談する【勇気ある一歩】

セルフケアを試しても症状が改善しない、あるいは日常生活に支障が出るほどつらい場合は、決して一人で抱え込まず、専門の医療機関を受診しましょう。

【何科を受診すべき?】
主な相談先は以下の通りです。

  • 泌尿器科 / メンズヘルス外来: 男性ホルモンや性機能の専門家であり、診断から治療まで一貫して対応可能です。第一選択と考えて良いでしょう。
  • 精神科 / 心療内科: 意欲低下や気分の落ち込み、不安感といった精神症状が特に強い場合に適しています。うつ病など他の病気との鑑別も行ってくれます。

どこに行けばよいか迷う場合は、まずはかかりつけ医に相談し、適切な専門医を紹介してもらうのも良い方法です。


【シナリオ例②:クリニックでの会話例】
患者(Cさん、52歳): 「先生、最近ずっと身体がだるくて、仕事にも集中できないんです。歳のせいかと思ってたんですが、妻に心配されて…。もしかして、男性の更年期障害でしょうか?」

医師: 「おつらいですね。Cさんと同じような症状で来られる方、最近とても多いですよ。まずはお話を詳しく聞かせてください。それから、原因をはっきりさせるために、いくつか検査をしてみましょう。大丈夫ですよ、原因が分かれば、きちんと対処法がありますからね。」

Cさん: 「検査…ですか?」

医師: 「はい。まずは簡単な質問票(AMSスコア)で症状の程度を確認します。それから、一番大事なのが血液検査です。採血をして、男性ホルモンの一種である『フリーテストステロン』の値を測ります。この数値が低いかどうかで、男性更年期障害かどうかを客観的に判断できるんです。午前中に測るのが一番正確なので、次回午前中にいらしてください。」

Cさん: 「血液検査で分かるんですね。少し安心しました。よろしくお願いします。」

ステップ7:専門的な治療法を検討する【ホルモン補充療法】

検査の結果、フリーテストステロン値の低下が確認され、症状が重いと判断された場合、「男性ホルモン補充療法(TRT: Testosterone Replacement Therapy)」が治療の選択肢となります。

これは、不足しているテストステロンを注射や塗り薬(ジェル剤)で体外から補充する治療法です。テストステロン値を正常範囲に戻すことで、倦怠感、意欲低下、性機能障害といったさまざまな症状の劇的な改善が期待できます。

  • 治療方法: 2〜4週間に1回の筋肉注射、または毎日皮膚に塗るジェル剤が主流です。
  • 保険適用: 血液検査で基準値を下回り、特徴的な症状がある場合に保険適用となります。
  • 副作用・リスク: 治療中は定期的な血液検査で効果と副作用をチェックします。多血症(血液が濃くなる)や睡眠時無呼吸の悪化などの可能性があります。また、前立腺がんや乳がんのある方はこの治療を受けられません。そのため、治療開始前と治療中には、前立腺がんの腫瘍マーカー(PSA)のチェックが必須となります。

治療については、医師と十分に相談し、メリットとデメリットを理解した上で決定することが重要です。

男性更年期障害に漢方薬やサプリメントは効果がある?

ホルモン補充療法には抵抗がある方や、症状が比較的軽い場合には、漢方薬やサプリメントが補助的な選択肢となることがあります。

症状緩和が期待される漢方薬

漢方では、男性更年期障害を「腎虚(生命エネルギーの不足)」や「気虚(元気の不足)」といった状態で捉え、体全体のバランスを整えることを目指します。

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう): 胃腸の働きを助け、気力・体力を補う。疲労倦怠感や意欲低下に。
  • 八味地黄丸(はちみじおうがん): 体を温め、「腎」を補う。足腰の冷えや痛み、頻尿、性欲減退に。

漢方薬は個人の体質()に合わせた処方が不可欠です。自己判断で選ばず、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談しましょう。

テストステロン維持を補助するサプリメント成分

  • 亜鉛、ビタミンD: 食事で不足しがちな場合に、サプリメントで補うのは有効です。科学的根拠も比較的豊富です。
  • マカ、トンカットアリ、テストフェン: 伝統的に滋養強壮に用いられてきたハーブ類。テストステロンへの影響が期待されていますが、効果の科学的根拠はまだ限定的です。

漢方薬・サプリメント利用時の注意点

サプリメントはあくまで「食品」であり、医薬品ではありません。治療効果を謳うような過大な広告には注意が必要です。また、医薬品との飲み合わせやアレルギー、過剰摂取による健康被害のリスクも伴います。利用する際は、信頼できるメーカーの製品を選び、必ず主治医や薬剤師に相談してからにしましょう。

男性更年期障害に関するよくある質問(Q&A)

ここでは、患者様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. うつ病との違いは何ですか?

A1. 意欲低下や気分の落ち込みなど症状が非常に似ているため、しばしば混同されます。根本的な違いは原因にあります。

  • 男性更年期障害: 主にテストステロンの低下が原因。身体症状(ほてり、発汗、筋力低下など)や性機能の低下を伴うことが多い。
  • うつ病: 主に脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)の不調が原因。「自分を責める気持ち(自責感)」が強い傾向がある。

ただし、両者を合併しているケースも少なくありません。正確な鑑別診断には、血液検査によるフリーテストステロン値の測定が不可欠です。自己判断は危険ですので、必ず専門医の診断を仰ぎましょう。

Q2. 放置するとどうなりますか?

A2. 単に「生活の質(QOL)が下がる」だけでは済みません。テストステロンの低下を長期間放置すると、さまざまな健康リスクが高まることが分かっています。

  • 生活習慣病: 内臓脂肪が増え、メタボリックシンドローム、2型糖尿病のリスクが上昇します。
  • 心血管疾患: 動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
  • 骨粗しょう症: 骨がもろくなり、骨折しやすくなります。
  • 認知機能の低下
  • 抑うつ状態の悪化や社会生活への支障

「歳のせい」と軽視せず、早期に対処することが、将来の深刻な病気を防ぐことにも繋がるのです。

Q3. 治療にかかる費用はどれくらいですか?

A3. 保険診療か自由診療かで大きく異なります。

  • 保険適用の場合(3割負担):
    • 初診・再診料、血液検査代、薬剤費などを合わせ、月々数千円〜1万円程度が目安です。
    • テストステロン注射の場合、1回あたり2,000円〜3,000円程度が一般的です。
  • 自由診療の場合:
    • 全額自己負担となり、クリニックによって料金設定はまちまちです。治療開始前に、費用体系についてしっかり確認することが重要です。

Q4. パートナーや家族として何ができますか?

A4. 本人にとって、ご家族やパートナーの理解とサポートは何よりの力になります。

  • 病気への理解: イライラや気分の落ち込みを「性格の変化」や「怠慢」と決めつけず、ホルモンの影響による「病気の症状」である可能性を理解してあげてください。その姿勢が本人の安心感に繋がります。
  • 話を聞く: 本人が一人で悩みを抱え込まないよう、非難せずに話を聞いてあげる時間を作りましょう。
  • 受診を後押しする: 本人が医療機関に行くのをためらっている場合、「一緒に病院を探してみようか」「私も心配だから一度相談しに行ってみない?」と、優しく受診を促してあげてください。
  • 生活習慣のサポート: バランスの良い食事を一緒に考えたり、週末に散歩に誘ったりするなど、生活改善をサポートすることも有効です。

実践のためのヒントとコツ

最後に、明日から実践できる具体的なヒントを3つご紹介します。

1. 「週末テストステロン向上ルーティン」を作る

平日は忙しくても、週末に心と身体をリセットする習慣を作りましょう。

例:

  • 土曜の午前中: 近くのジムや公園でスクワットを中心とした筋トレを30分行う。
  • 土曜の午後: 趣味の時間に没頭する。友人と会って話す。
  • 日曜の朝: 夫婦や家族で30分ほどウォーキングに出かける。
  • 日曜の夜: 早めに入浴し、読書などをしてリラックス。23時までには就寝する。

このルーティンを毎週繰り返すことで、生活リズムが整い、ホルモンバランスも安定しやすくなります。

2. 意外な盲点!「完璧主義」を手放す

「何事も完璧にこなさなければ」という真面目で責任感の強い人ほど、慢性的なストレスを抱えやすく、テストステロンが低下しやすい傾向にあります。これは心理的なプレッシャーがストレスホルモン「コルチゾール」を分泌させ、テストステロンの産生を邪魔するためです。
「8割できれば上出来」「人に任せられることは任せる」「断る勇気を持つ」など、少し肩の力を抜く意識を持つことが、意外にもテストステロン値を守るための重要なストレスケアになります。

3. 自分に合った「かかりつけ医」を見つけるヒント

良い医師との出会いは、治療の成功を大きく左右します。

  • 専門医を探す: 日本泌尿器科学会や日本Men’s Health医学会のウェブサイトでは、専門医のリストを公開していることがあります。
  • 事前に質問をまとめる: 受診する際は、「いつから、どんな症状で困っているか」「AMSスコアの結果」「現在飲んでいる薬」「治療で何を目指したいか」などをメモしていくと、スムーズに話ができます。
  • コミュニケーションを重視する: あなたの話をしっかり聞いてくれ、治療の選択肢やメリット・デメリットを丁寧に説明してくれる医師を選びましょう。「この先生になら相談しやすい」と感じられるかどうかが大切です。

まとめ:男性更年期障害は一人で抱え込まず専門家への相談を

男性更年期障害は、40代以降の男性であれば誰にでも起こりうる、テストステロンの低下を原因とした心身の不調です。その症状は、原因不明の倦怠感や意欲低下、性機能の悩みなど多岐にわたります。

  • 症状は身体・精神・性機能の3つのサインとして現れる。
  • 原因は加齢・ストレス・生活習慣の乱れが複雑に絡み合っている。
  • 対策の基本は食事・運動・睡眠・ストレスケアの改善。
  • セルフケアで改善しない場合は、迷わず専門医(泌尿器科など)へ
  • 血液検査で診断が確定でき、ホルモン補充療法などの有効な治療法がある

つらい症状を「歳のせい」と諦める必要はありません。正しい知識を持って適切に対処すれば、再び活力に満ちた日々を取り戻すことは十分に可能です。

もしあなたが今、原因不明の不調に悩んでいるのなら、決して一人で抱え込まないでください。まずはこの記事で紹介したセルフチェックを行い、生活習慣を見直すことから始めてみましょう。そして、症状がつらいと感じるなら、勇気を出して専門の医療機関の扉を叩いてみてください。それが、あなたの未来の健康への最も確実な一歩となるはずです。


免責事項
本記事は、男性更年期障害に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。個別の症状や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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