月経が近づくと、なぜかイライラしたり、気分が落ち込んだり、お腹や頭が痛くなったり…。こうした心と体の不調は「PMS(月経前症候群)」かもしれません。多くの女性が経験する悩みでありながら、「毎月のことだから仕方ない」「病気じゃないから我慢するしかない」と一人で抱え込んでいませんか?
PMSの症状は人それぞれで、その対処法も一つではありません。しかし、正しい知識を持って自分に合った対策を行えば、つらい症状を和らげることは十分に可能です。
この記事では、PMSの基本的な知識から、今日からすぐに始められる食事や運動などのセルフケア、そして婦人科で行われる専門的な治療法まで、PMS対策を網羅的に解説します。ご自身の症状やライフスタイルに合った最適な方法を見つけ、つらい月経前の期間をもっと穏やかに過ごすための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。
PMS(月経前症候群/Premenstrual Syndrome)とは、月経が始まる3〜10日ほど前から起こり、月経開始とともに軽快または消失する、さまざまな精神的・身体的な不調のことです。
そのはっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、女性ホルモンの変動が大きく関わっていると考えられています。具体的には、排卵後から月経前にかけて分泌される「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という女性ホルモンの急激な変化が、脳内の神経伝達物質の働きに影響を与えることが主な要因とされています。
特に、気分の安定に関わる「セロトニン」という神経伝達物質が、このホルモン変動によって一時的に低下することが知られています。セロトニンが減少すると、イライラや気分の落ち込み、不安感といった精神的な症状が現れやすくなるのです。
つまり、「自分の気持ちが弱いから」ではなく、「ホルモンバランスの変動」という身体の仕組みが、PMSの引き金になっていることを理解することが、適切な対策への第一歩となります。
【参考情報】
日本産科婦人科学会では、PMSを「月経前3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で,月経開始とともに軽快ないし消失するもの」と定義しています。
出典: 日本産科婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)」
あなたの症状は?PMSセルフチェックリスト
PMSの症状は200種類以上あるとも言われ、人によってその現れ方は千差万別です。まずはご自身の症状を客観的に把握するために、以下のリストでセルフチェックをしてみましょう。
これらの症状が「いつも月経前になると現れて、月経が始まると楽になる」という周期性を持っているかどうかが、PMSを判断する上で非常に重要なポイントです。
身体的な症状
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□ 下腹部が痛む、または張る感じがする
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□ 頭痛や頭が重い感じがする
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□ 乳房が張って痛い
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□ 手足や顔がむくみやすい
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□ 体が重く、だるさを感じる、疲れやすい
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□ 腰痛がある
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□ 便秘になったり、逆にお腹がゆるくなったりする
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□ ニキビや吹き出物など肌荒れがひどくなる
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□ 甘いものや塩辛いものが無性に食べたくなるなど、食欲が異常に増す、または減る
精神的な症状
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□ 理由もなくイライラして、つい人にあたってしまう
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□ 気分が落ち込み、憂うつになる
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□ 急に悲しくなったり、涙もろくなったりする
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□ 普段より怒りっぽくなる
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□ 将来のことなどが急に心配になり、不安感が強くなる
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□ 仕事や勉強に集中できない、注意力が散漫になる
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□ 普段なら気にならない些細なことに過敏に反応してしまう
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□ 日中、強い眠気に襲われる、または夜なかなか寝付けない(不眠)
これらの症状をカレンダーや手帳、スマートフォンのアプリなどに記録しておくと、自分の不調のパターンが見えやすくなります。この記録は、後述するセルフケアの効果を確認したり、婦人科を受診する際に医師へ症状を正確に伝えたりする上で、大変役立ちます。
PMSより重い症状?PMDD(月経前不快気分障害)との違い
PMSの症状の中でも、特にイライラや抑うつ、不安感といった精神的な症状が極端に強く、日常生活や社会生活に深刻な支障をきたしている場合は、「PMDD(月経前不快気分障害/Premenstrual Dysphoric Disorder)」という診断がつくことがあります。
PMDDはPMSの重症型と位置づけられ、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では「抑うつ障害群」の一つ、つまり精神疾患として分類されています。
【PMSとPMDDの主な違い】
PMS(月経前症候群) | PMDD(月経前不快気分障害) | |
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主な症状 | 身体的症状・精神的症状が混在 | 特に精神的症状が著しく重い |
症状の重さ | 不快感はあるが、日常生活はなんとか送れる | 症状が重く、日常生活・社会生活・人間関係に深刻な支障をきたす |
診断 | 婦人科での問診が中心 | 精神科の診断基準に基づき、慎重に診断される |
例えば、「気分の落ち込みが激しくて会社や学校に行けない」「怒りをコントロールできず、家族やパートナーとの関係を壊してしまう」といった状態であれば、PMDDの可能性があります。
自己判断はせず、もしPMDDかもしれないと感じたら、婦人科はもちろん、心療内科や精神科への相談も視野に入れることが重要です。
【参考情報】
日本女性心身医学会では、PMDDについて「著しい抑うつ気分,不安,緊張,情緒不安定性といった精神症状が主体」であり、「社会生活機能の著しい障害を伴う」ものとしています。
出典: 日本女性心身医学会「月経前不快気分障害(PMDD)」
PMS対策の全体像|セルフケアと病院での治療
つらいPMSの症状を改善するための対策は、大きく分けて**「セルフケア」**と**「病院での治療」**の2つの柱があります。
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セルフケア: まずは日常生活の中で自分自身で取り組める対策です。食事や運動、生活習慣の見直し、市販薬やサプリメントの活用などが含まれます。症状が比較的軽い場合は、セルフケアだけで大きく改善することも少なくありません。
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病院での治療: セルフケアを試しても症状が改善しない場合や、日常生活に支障が出るほどつらい場合は、我慢せずに婦人科を受診しましょう。専門家による診断のもと、低用量ピルや漢方薬、その他の薬物療法など、より専門的な治療を受けることができます。
まずはセルフケアから始めてみて、ご自身の症状の重さやライフスタイルに合わせて、必要であれば病院での治療を検討するという流れが一般的です。次の章から、それぞれの対策について具体的に見ていきましょう。
今すぐできるPMS対策【セルフケア編】
ここでは、日常生活の中で今日からでも始められる5つのセルフケア方法を具体的に紹介します。セルフケアの基本は、ホルモンバランスの乱れによって影響を受けやすい心と体のバランスを、自分自身で整えてあげることです。無理のない範囲で、ご自身に合ったものから試してみてください。
ステップ1:食事で対策|症状を和らげる栄養素と控えるべき食べ物
PMSの時期は、食生活を少し見直すだけで症状が和らぐことがあります。特定の栄養素を意識して摂り、逆に症状を悪化させる可能性のある食べ物は控えるように心がけましょう。
【積極的に摂りたい栄養素と食材の例】
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カルシウム & マグネシウム: 神経の興奮を鎮め、イライラや気分の落ち込みを和らげる効果が期待できます。
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食材: 牛乳・ヨーグルトなどの乳製品、豆腐・納豆などの大豆製品、小魚、ほうれん草、ナッツ類、海藻類
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ビタミンB6: 気分の安定に関わる神経伝達物質「セロトニン」の合成を助けます。
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食材: カツオ、マグロ、サケ、鶏肉、レバー、バナナ、さつまいも
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トリプトファン: セロトニンの材料となる必須アミノ酸です。
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食材: 豆腐・味噌などの大豆製品、牛乳・チーズなどの乳製品、赤身肉、ナッツ類
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食物繊維: 便秘の改善に役立ちます。
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食材: 玄米、きのこ類、海藻類、ごぼうなどの根菜類
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【PMS期間中に控えたい食事・飲み物】
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カフェイン: コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどに含まれ、神経を興奮させる作用があるため、イライラや不安感を助長することがあります。
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アルコール: 気分の変動を大きくしたり、むくみを悪化させたりする可能性があります。
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塩分の多い食品: スナック菓子、加工食品、インスタント食品などは塩分が多く、むくみの原因になります。
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精製された砂糖: 白砂糖を多く含むお菓子やジュースは、血糖値を急激に上昇させた後、急降下させます。この血糖値の乱高下が、気分の浮き沈みやだるさを引き起こす一因となります。
ステップ2:運動で対策|おすすめの有酸素運動やストレッチ
適度な運動は、PMS対策として非常に効果的です。運動には血行を促進する効果があり、むくみや冷え、痛みの緩和に繋がります。また、脳内で「幸福ホルモン」とも呼ばれるβ-エンドルフィンが分泌されるため、気分の落ち込みやイライラを解消し、リフレッシュする効果も期待できます。
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おすすめの運動:
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有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳など、一定のリズムで行う運動は、セロトニンの分泌を促し、精神的な安定に繋がります。1回30分程度、週に2〜3回を目安に続けてみましょう。
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ヨガやストレッチ: 筋肉の緊張をほぐし、心身をリラックスさせる効果があります。特に腹式呼吸を意識しながら行うことで、自律神経のバランスが整い、不安感や腹痛、腰痛の緩和に役立ちます。
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PMS期間中は無理は禁物です。激しい運動はかえって体にストレスを与えてしまうこともあります。自分が「気持ちいいな」と感じられる程度の強度の運動を、楽しみながら続けることが大切です。
ステップ3:生活習慣で対策|睡眠・入浴・ストレス管理のコツ
規則正しい生活リズムは、ホルモンバランスや自律神経を整える基本です。特に「睡眠」「入浴」「ストレス管理」の3つは、PMS対策において重要なポイントです。
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睡眠: 質の良い睡眠は、心と体の回復に不可欠です。毎日なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きる習慣をつけましょう。寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は、ブルーライトが脳を覚醒させてしまうため、控えるのがおすすめです。
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入浴: シャワーだけで済ませず、38〜40℃程度のぬるめのお湯にゆっくりと浸かりましょう。副交感神経が優位になり、心身がリラックスモードに切り替わります。血行が促進されることで、むくみや痛みの緩和にも繋がります。好きな香りの入浴剤やアロマオイルを使うのも良いでしょう。
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ストレス管理: PMS期間中は、普段よりもストレスを感じやすくなります。意識的にリラックスする時間を作りましょう。深呼吸や瞑想、アロマテラピー(ラベンダーやカモミールなど)、好きな音楽を聴く、温かいハーブティーを飲むなど、自分なりのリラックス方法を見つけておくことが大切です。
【多くの方が見落としがちなポイント】
朝起きたら、まずカーテンを開けて太陽の光を浴びる習慣をつけましょう。朝日を浴びることで、乱れがちな体内時計がリセットされ、夜の自然な眠りを促すメラトニンの分泌が整います。また、セロトニンの合成も活性化されるため、日中の気分の安定にも繋がる、簡単で効果的な方法です。
ステップ4:サプリメントで対策|成分の選び方と注意点
食事だけで必要な栄養素を十分に補うのが難しい場合は、サプリメントの活用も有効な選択肢の一つです。PMS症状の緩和に役立つとされる成分には、以下のようなものがあります。
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チェストベリー(チェストツリー): ホルモンバランスを整える働きがあるとされ、ヨーロッパでは古くから婦人科系の不調に使われてきたハーブです。
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大豆イソフラボン: 女性ホルモン「エストロゲン」と似た構造を持ち、ホルモンバランスの乱れをサポートする働きが期待されています。
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ビタミンB6、カルシウム、マグネシウム: 前述の通り、精神的な症状の緩和に役立つ栄養素です。
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γ-リノレン酸: 月見草オイルなどに含まれ、ホルモンバランスの調整に関わる物質の材料となります。
【注意点】
サプリメントはあくまで食事の補助です。過剰に摂取しても効果が高まるわけではなく、かえって健康を害する可能性もあります。製品に記載されている目安量を必ず守りましょう。また、持病がある方や他の薬を服用している方、妊娠・授乳中の方は、自己判断で摂取せず、必ず事前に医師や薬剤師に相談してください。
ステップ5:市販薬で対策|症状別の選び方(鎮痛剤・漢方薬)
セルフケアを試しても改善しないつらい症状には、市販薬を上手に利用するのも一つの手です。
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痛み(頭痛・腹痛・腰痛)が主な症状の場合:
イブプロフェンやロキソプロフェンナトリウムなどを主成分とする鎮痛剤(解熱鎮痛薬)が有効です。「痛くなったらどうしよう」と我慢せず、痛みを感じ始めたら早めに服用するのが、効果的に痛みを抑えるコツです。 -
イライラやむくみなど、複数の症状がある場合:
漢方薬が体質改善に役立つことがあります。PMSによく用いられる漢方薬には、以下のようなものがあります。自分の体質や症状に合ったものを選びましょう。-
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん): 体力があまりなく、冷え性でむくみやすい方向け。
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加味逍遙散(かみしょうようさん): 比較的体力があり、イライラやのぼせ、肩こりが気になる方向け。
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桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん): 比較的体力があり、のぼせや下腹部痛が気になる方向け。
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西洋ハーブ医薬品:
日本で唯一、PMSの効能・効果が認められている西洋ハーブ医薬品として、チェストベリーを有効成分とする「プレフェミン」があります。これは「要指導医薬品」に分類されるため、購入の際には薬剤師による説明を受ける必要があります。
どの薬を選べばよいか迷った場合は、ドラッグストアの薬剤師に相談してみましょう。
専門医に相談するPMS対策【病院での治療編】
セルフケアを2〜3ヶ月続けても症状が改善しない場合や、症状が重く日常生活に支障が出ている場合は、我慢せずに婦人科を受診してください。PMSは「病気ではない」と思われがちですが、適切な治療によって症状を大幅に改善できる疾患です。一人で抱え込まず、専門家の力を借りることも、とても重要なPMS対策です。
ステップ6:婦人科を受診する|タイミングと診断の流れ
「これくらいのことで病院に行っていいのかな?」とためらう必要はありません。以下のような状態であれば、受診を検討するタイミングです。
【受診をおすすめする目安】
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セルフケアや市販薬では症状がコントロールできない
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イライラや気分の落ち込みがひどく、人間関係に支障が出ている
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痛みやだるさで、会社や学校を休みがちになっている
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自分でも感情のコントロールが難しいと感じる
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PMDDの可能性があると感じる
【診断の流れ】
婦人科でのPMSの診断は、主に問診が中心となります。そのため、事前に症状を記録した「PMSダイアリー」(いつから、どんな症状が、どのくらいの強さで現れ、いつ楽になるかなどを記録したもの)を持参すると、医師に症状をスムーズかつ正確に伝えることができ、診断の助けになります。最低でも2周期(2ヶ月)分の記録があると理想的です。
問診の他に、似たような症状を引き起こす他の病気(甲状腺機能の異常、うつ病、子宮内膜症など)の可能性がないかを確認するために、必要に応じて血液検査や内診、超音波(エコー)検査などが行われることもあります。
【多くの方が見落としがちなポイント&シナリオ・会話例】
婦人科の受診は、単に薬をもらうためだけではありません。専門家である医師に話を聞いてもらい、「それはPMSの症状ですね。つらかったでしょう」と共感・肯定してもらうだけでも、気持ちが楽になるという方は非常に多いです。一人で悩みを抱え込むストレスが、さらに症状を悪化させることもあります。
<診察室での会話例>
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医師: 「こんにちは。今日はどうされましたか?」
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患者: 「生理の前になると、すごくイライラしてしまって…。あと、頭痛と体のだるさもひどくて、仕事に集中できません。毎月こんな感じなので、何とかしたいと思って来ました。」
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医師: 「そうですか、つらいですね。その症状はいつ頃から始まって、生理が始まると楽になりますか?」
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患者: 「はい、だいたい生理の1週間くらい前から始まって、生理が来ると嘘みたいに楽になります。」
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医師: 「なるほど。症状を記録したものはありますか?拝見すると、症状の周期性がよくわかりますね。これはPMSの典型的なパターンです。まずは生活習慣で工夫できることから始めて、必要であればお薬で症状を和らげる方法もありますよ。一緒に考えていきましょう。」
ステップ7:専門的な治療を受ける|代表的な治療法
婦人科では、症状の重さや種類、本人の希望、ライフスタイルなどを考慮して、以下のような治療法が提案されます。
治療法①:低用量ピル(LEP)によるホルモン療法
低用量ピル(LEP:Low dose Estrogen Progestin)は、PMS治療の代表的な選択肢の一つです。ピルに含まれるホルモンが排卵を抑制し、PMSの原因となる女性ホルモンの急激な変動をなくすことで、症状を根本から改善します。
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メリット:
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PMS/PMDD症状の改善効果が高い
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月経困難症(生理痛)や過多月経も同時に改善する
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月経周期が安定する
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ニキビの改善
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避妊効果(保険適用のLEPではなく、自費の低用量ピル(OC)の場合)
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デメリット/副作用:
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服用開始初期の吐き気、頭痛、不正出血などのマイナートラブル(多くは数ヶ月で慣れます)
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ごく稀に血栓症(血管の中に血の塊ができる病気)のリスクがある(特に喫煙者や肥満の方は注意が必要)
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毎日決まった時間に服用する必要がある
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医師からメリットとデメリットについて十分な説明を受け、理解した上で服用を検討することが大切です。
治療法②:漢方薬による体質改善アプローチ
低用量ピルに抵抗がある方や、ピルが体質に合わない方、複数の症状が複雑に絡み合っている方などには、漢方薬がよく用いられます。漢方医学では、一人ひとりの体質(「証」と呼ばれます)を見極め、心と体のバランスを全体的に整えることで、症状を根本から改善することを目指します。
市販薬の項でも紹介しましたが、医療機関ではより個人の状態に合わせて以下のような漢方薬が処方されます。
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当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん): 虚弱体質で冷えや貧血、むくみが強い方に。
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加味逍遙散(かみしょうようさん): イライラ、不安感、のぼせ、不眠など精神症状が強い方に。
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桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん): 比較的体力があり、血行不良(お血)によるのぼせや下腹部痛、肩こりがみられる方に。
漢方薬は効果が現れるまでに少し時間がかかる場合がありますが、副作用が比較的少なく、体質改善に繋がるのが大きなメリットです。
【シナリオ・会話例】
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医師: 「治療法としては、ホルモンバランスの波をなくす低用量ピルが効果的ですが、いかがですか?」
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患者: 「ピルは副作用とか血栓症のリスクが少し怖くて…。毎日飲むのも忘れそうで、ちょっと抵抗があります。」
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医師: 「そうですよね、ご心配な気持ちはよくわかります。ピルに抵抗があるようでしたら、まずはお一人お一人の体質に合わせて心と体のバランスを整える漢方薬から試してみるという方法もありますよ。例えば、イライラや不安感が強いとのことなので、『加味逍遙散』というお薬が合うかもしれません。効果が出るまで少し時間はかかりますが、体質から見直していくアプローチです。」
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患者: 「漢方薬なら、試してみたいです。」
治療法③:SSRIなど精神症状に対する薬物療法
特に精神症状が重いPMDD(月経前不快気分障害)の場合、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類の抗うつ薬が非常に有効です。
SSRIは、脳内で不足しているセロトニンの濃度を高めることで、気分の激しい落ち込みや抑えられないイライラ、強い不安感などを和らげます。PMS/PMDDの治療では、症状が現れる黄体期(月経前の約2週間)だけ服用する方法と、毎日継続して服用する方法があり、医師が症状に合わせて判断します。
この治療は、婦人科医と精神科・心療内科医が連携して行うこともあります。
PMS対策に関するよくある質問
ここでは、PMS対策について多くの女性が抱える疑問にお答えします。
Q1. PMSと妊娠初期症状の見分け方は?
A1. PMSと妊娠初期症状は、眠気、乳房の張り、気分のムラ、下腹部痛など、非常に似ている症状が多いため、見分けるのは難しいことがあります。
最も確実な違いは「月経が来るかどうか」です。
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PMS: 症状は月経が始まると、数日以内に軽快・消失します。
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妊娠初期症状: 月経予定日を過ぎても月経が来ず、症状が継続します。
もし月経予定日を1週間以上過ぎても月経が来ない場合は、妊娠の可能性を考え、市販の妊娠検査薬を使用してみてください。
また、基礎体温を記録している場合は、それも判断材料になります。PMSでは月経が始まると体温が下がりますが、妊娠している場合は高温期が続きます。
Q2. ピルに抵抗がある場合の代替案は?
A2. はい、ピルが唯一の治療法ではありません。ピルに抵抗がある場合や、健康上の理由(重度の偏頭痛がある、血栓症のリスクが高いなど)で服用できない場合には、いくつかの代替案があります。
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漢方薬: 前述の通り、個々の体質に合わせて心身のバランスを整える漢方薬は、非常に良い選択肢です。ピルのようなホルモン剤を使わずに、イライラ、むくみ、冷え、痛みなど様々な症状に対応できます。
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サプリメント: 科学的根拠が示されている成分(チェストベリーなど)を含むサプリメントを試すのも一つの方法です。ただし、効果には個人差があります。
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対症療法: 痛みが強い場合は鎮痛剤、精神症状が強い場合はSSRIなど、特定の症状に焦点を当てた薬物療法も選択できます。
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セルフケアの徹底: 食事、運動、睡眠などの生活習慣を徹底的に見直すことで、症状が大きく改善する方もいます。
どの選択肢がご自身にとって最適か、まずは婦人科医に「ピル以外の方法で治療したい」という希望を伝え、相談してみることが大切です。
Q3. 年齢によってPMSの症状は変わりますか?
A3. はい、PMSの症状は年齢とともに変化する傾向があります。
一般的に、10代〜20代では、腹痛、頭痛、乳房の張りといった身体的な症状が前面に出やすいと言われています。
一方、30代〜40代になると、身体的な症状に加えて、イライラ、気分の落ち込み、不安感といった精神的な症状がより強く現れるようになる方が多いようです。これは、年齢に伴う社会的役割の変化(仕事、結婚、出産、育児など)によるストレスが影響している可能性も考えられます。
さらに40代半ば以降になると、PMSの症状に加えて、更年期障害の初期症状(ほてり、のぼせ、発汗、動悸など)が重なって現れることもあり、不調の原因が複雑になる場合があります。
ご自身の症状が年齢とともに変化してきたと感じたら、その時々の状態に合った対策を見つけるためにも、一度婦人科で相談してみることをお勧めします。なお、PMSの症状は、月経がなくなる閉経とともに消失します。
Q4. パートナーや家族にPMSのつらさを理解してもらうには?
A4. PMSのつらさは目に見えないため、本人以外には理解されにくいという側面があり、それがさらなるストレスになることもあります。周囲の理解を得るためには、少し工夫が必要です。
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感情的にならず、冷静に事実を伝える: イライラしている最中に「私のつらさをわかってよ!」とぶつけるのではなく、体調が良い時に、「実は、生理前になるとホルモンの影響で、自分でもコントロールが難しいくらいイライラしたり、落ち込んだりすることがあるんだ」と、事実として冷静に伝えましょう。
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具体的に「してほしいこと」を伝える: 「ただ察してほしい」というのは難しい注文です。「この時期はすごく疲れやすくなるから、家事を少し手伝ってもらえると助かる」「イライラしやすくなっているから、もしキツいことを言っても、少しだけ受け流してほしい」など、具体的にどうしてほしいかを伝えると、相手も行動しやすくなります。
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客観的な情報を見せる: 日本産科婦人科学会や厚生労働省のウェブサイト、あるいはこの記事のような客観的な情報源を一緒に見てもらうのも有効です。「多くの女性が経験することで、医学的にも説明されている現象なんだ」ということが伝わると、理解を得やすくなります。
大切なのは、一人で抱え込まずに、「助けが必要だ」というサインを出すことです。勇気がいるかもしれませんが、信頼できるパートナーや家族に話すことは、心の負担を軽くするための重要な一歩です。
実践のためのヒントとコツ
最後に、PMSと上手に付き合っていくための、日常生活ですぐに活かせる3つのヒントとコツをご紹介します。
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「PMSダイアリー」で自分を客観視する
セルフチェックの項でも触れましたが、「PMSダイアリー」をつけることは、最も効果的な対策の一つです。日付、症状(心・体)、食事内容、運動の有無、睡眠時間、その日の気分などを簡単に記録するだけでOKです。「またイライラしてきた…」と感情に飲み込まれそうになった時も、「ああ、そろそろPMSの時期だからだな」と客観的に自分を捉えられるようになり、冷静さを取り戻す助けになります。対策の効果測定にも役立ちます。 -
スケジュールに「ご自愛デー」を組み込む
ダイアリーをつけて自分のPMSの周期がわかってきたら、症状が重くなりやすい時期を予測し、あらかじめその期間のスケジュールに「ご自愛デー」や「余白の時間」を組み込んでおきましょう。大切な予定や負担の大きい仕事はなるべく避け、マッサージに行く、好きな映画を観る、ゆっくりお風呂に入るなど、意識的に自分をいたわる時間を作るのです。事前に備えることで、心に余裕が生まれます。 -
【意外なコツ】パートナーや家族を「PMS対策のチームメイト」にする
PMSのつらさを理解してもらうだけでなく、一歩進んで、パートナーや家族を「PMS対策のチームメイト」に巻き込んでしまうという考え方です。例えば、「この時期は塩分を控えたいから、一緒に和食中心のメニューにしない?」「天気が良いから、気分転換に一緒にウォーキングに行こうよ」など、対策を二人(家族)の共同作業にしてしまうのです。これにより、孤立感がなくなり、相手も「どうサポートすれば良いか」が明確になります。一緒にこの記事を読んで知識を共有するのも、素晴らしいチームビルディングになります。
まとめ:自分に合ったPMS対策を見つけてつらい時期を乗り越えよう
この記事では、PMSのセルフケアから病院での専門的な治療法まで、さまざまな対策について詳しく解説しました。
PMSは多くの女性が経験するごく自然な身体の変化に伴う不調ですが、決して**「我慢しなければいけないもの」ではありません。**
まずは、食事・運動・生活習慣の見直しといったセルフケアを基本としながら、ご自身の症状やライフスタイルに合わせて、市販の漢方薬やサプリメントを試したり、つらい症状が続く場合は、婦人科で低用量ピルや処方漢方薬といった専門的な治療を受けたりと、あなたにはたくさんの選択肢があります。
最も大切なのは、自分の心と体の声に耳を傾け、自分に合った対策を根気強く見つけていくことです。毎月のことだからと諦めずに、ぜひ今日からできることから始めてみてください。
一人で悩んでつらい時は、決して抱え込まず、気軽に婦人科のドアを叩いてみてください。専門家は、あなたの力強い味方になってくれるはずです。
【免責事項】
本記事は、PMS(月経前症候群)に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。症状の診断・治療については、必ず医療機関を受診し、専門医の指導に従ってください。市販薬やサプリメントを使用する際も、必要に応じて医師または薬剤師にご相談ください。