睡眠障害は何科?不眠・過眠など原因別の病院選びガイド

睡眠に関する悩みは、多くの人が経験することです。寝つきが悪かったり、夜中に何度も目が覚めたり、日中強い眠気に襲われたりといった症状は、単なる一時的な不調ではなく、「睡眠障害」と呼ばれる病気の一種かもしれません。しかし、いざ病院を受診しようと思っても、「睡眠障害は何科を受診すればいいのだろう?」と迷ってしまう方も少なくありません。内科、精神科、心療内科、脳神経内科など、選択肢が複数あり、自分の症状に合った適切な診療科を見つけることが重要です。この記事では、睡眠障害の症状から考えられる受診先、各診療科の特徴、病院選びのポイントなどを詳しく解説し、あなたの悩みを解決するお手伝いをします。

睡眠障害 何科?適切な受診先と判断基準

睡眠障害は、その症状や原因によって様々なタイプに分けられます。そして、それぞれのタイプによって、適した診療科が異なります。自分がどのような睡眠の悩みを抱えているのかを整理することが、適切な受診先を見つける第一歩となります。

目次

睡眠障害の症状から考える受診科

まずは、ご自身の具体的な症状から、どの診療科が適しているかを考えてみましょう。ただし、自己判断はせずに、あくまで目安としてください。最終的な診断や受診科の判断は、医師が行います。

寝つきが悪い・眠りが浅い(不眠症)の場合

最も一般的な睡眠障害の一つである不眠症は、以下のような症状が現れます。

  • 入眠困難: 寝床についてもなかなか寝付けない(目安として30分~1時間以上)。
  • 中途覚醒: 夜中に何度も目が覚め、その後なかなか寝付けない。
  • 早朝覚醒: 希望する起床時間よりも早く目が覚めてしまい、その後眠れない。
  • 熟眠障害: 睡眠時間は十分に取れているはずなのに、眠りが浅く休息感が得られない。

これらの不眠症状は、ストレスや不安、悩みといった精神的な要因が大きく関わっていることが多いです。また、生活リズムの乱れ、寝室環境の問題、カフェインやアルコールの摂取習慣なども影響します。

精神的な要因が強い不眠症の場合、精神科心療内科が適していることがあります。これらの科では、問診を通じてストレスの原因を探ったり、心理的なアプローチ(認知行動療法など)や、必要に応じて睡眠薬などの薬物療法を行います。

また、身体的な疾患(痛み、かゆみ、呼吸器疾患など)が原因で不眠になっている場合は、その疾患を専門とする科(例:痛みなら整形外科やペインクリニック、呼吸器疾患なら呼吸器内科など)や、まずは一般内科に相談することも考えられます。一般内科では、全身の状態を把握し、適切な専門医への紹介を行ってくれる場合があります。

日中に強い眠気がある(過眠症など)の場合

夜しっかり寝ているはずなのに、日中に耐えがたい眠気を感じ、仕事中や授業中、運転中などに居眠りをしてしまうといった症状は、「過眠症」の可能性があります。過眠症にはいくつかの種類があります。

  • ナルコレプシー: 日中に突然強い眠気に襲われ、短時間の居眠りを繰り返す。情動脱力発作(感情が高ぶった際に体の力が抜ける)や金縛り、幻覚などを伴うこともあります。
  • 特発性過眠症: 十分な睡眠時間を取っているにも関わらず、慢性的に日中の強い眠気があり、居眠りしても眠気が解消されにくい。
  • 反復性過眠症(クライネ・レビン症候群): 数日から数週間にわたって過眠期と正常期を繰り返す稀な疾患。過眠期には1日数時間しか起きられず、食事やトイレ以外は眠り続けることもあります。
  • 他の睡眠障害や身体疾患に伴う過眠: 睡眠時無呼吸症候群による睡眠不足、むずむず脚症候群による睡眠の中断、うつ病や甲状腺機能低下症などの疾患が原因で日中に眠気が出ている場合など。
  • 薬剤による過眠: 風邪薬や抗ヒスタミン薬、精神安定剤など、特定の薬剤の副作用として眠気が出ることがあります。

過眠症の場合、特にナルコレプシーや特発性過眠症といった脳や神経機能の異常が関わる可能性のある疾患については、脳神経内科専門の睡眠外来が適しています。これらの科では、詳細な問診や、睡眠ポリグラフ検査(PSG)や反復睡眠潜時検査(MSLT)といった専門的な検査を行って診断を確定し、適切な治療法(薬物療法など)を選択します。

睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合(大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘されたことがあるなど)は、耳鼻咽喉科呼吸器内科、または専門の睡眠外来が適しています。

薬剤の副作用や他の身体疾患が原因の可能性がある場合は、かかりつけの医師や一般内科に相談するのが良いでしょう。

いびきや呼吸停止を指摘される(睡眠時無呼吸症候群)の場合

一緒に寝ている家族やパートナーから「大きないびきをかいている」「寝ている間に呼吸が止まっている」と指摘されたことがある場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。SASは、睡眠中に気道が閉塞するなどして呼吸が一時的に止まる、または浅くなる状態が繰り返される病気です。これにより体内の酸素濃度が低下し、脳が覚醒して呼吸を再開させようとするため、睡眠が分断されてしまいます。

SASの主な症状は、

  • 大きないびき(特に、いびきの途中で一度止まり、その後大きな呼吸とともに再開する)
  • 睡眠中の呼吸停止(無呼吸)
  • 日中の強い眠気
  • 起床時の頭痛やだるさ
  • 集中力の低下
  • 夜間の頻尿

などです。SASは、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病や、心筋梗塞、脳卒中といった心血管疾患のリスクを高めることがわかっています。放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が非常に重要です。

SASが疑われる場合、まずは耳鼻咽喉科呼吸器内科、または専門の睡眠外来を受診するのが適しています。耳鼻咽喉科では、鼻や喉の形態的な問題(アデノイド、扁桃肥大、鼻炎など)がSASの原因となっていないかなどを診察します。呼吸器内科では、肺や気管支の状態を含めた呼吸機能全体を評価します。

専門の睡眠外来では、SASに特化した詳細な検査(簡易睡眠検査や終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG))を行い、診断を確定します。治療法としては、CPAP(持続陽圧呼吸療法)やマウスピース、手術、生活習慣の改善指導など、様々な選択肢があります。

足の不快感で眠れない(むずむず脚症候群など)の場合

寝床に入ったり、座ってじっとしている時に、主に足に不快な感覚(むずむずする、虫が這う、ピリピリする、かゆい、痛いなど)が現れ、足を動かさずにはいられなくなる症状は、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、RLS)の可能性があります。この不快感は、足を動かすとしばらく和らぎますが、じっとしていると再び現れるため、寝付くのを妨げ、不眠の原因となります。

また、睡眠中に自分の意志とは関係なく足がぴくつく、または周期的に動く症状は、周期性四肢運動障害(PLMD)と呼ばれます。PLMDはむずむず脚症候群と合併することが多く、自分では気づきにくい場合もありますが、睡眠を妨げ、日中の眠気の原因となることがあります。

これらの疾患は、脳内の神経伝達物質(特にドーパミン)の機能異常や、鉄分不足などが原因と考えられています。

むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害が疑われる場合、脳神経内科精神科、または専門の睡眠外来が適しています。これらの科では、問診で症状の特徴を詳しく聞き取り、血液検査(鉄分濃度など)や、必要に応じて睡眠ポリグラフ検査(PLMDの診断に有効)などを行い診断します。治療としては、鉄剤の補給や、神経系に作用する薬剤などが用いられます。

睡眠障害で受診できる主な診療科

睡眠障害は非常に多様な症状と原因を持つため、様々な診療科で対応しています。ここでは、睡眠障害の診療を主に担当する代表的な診療科について、その特徴を詳しく解説します。

精神科・心療内科の特徴

  • 【特徴】
    精神科や心療内科は、主に心の健康や精神的な問題に焦点を当てた診療科です。睡眠障害の中でも、特にストレス、不安、うつ病、適応障害など、精神的な要因が原因で起こる不眠症の診療を得意としています。心療内科は、精神的な問題が身体症状として現れる心身症も扱います。
  • 【対応する睡眠障害】
    • 精神疾患に伴う不眠症・過眠症
    • ストレスや不安、環境の変化による不眠症
    • 概日リズム睡眠障害(生活リズムの乱れによるもの)
  • 【主な診療内容】
    • 詳細な問診(ストレスの状況、精神状態、生活習慣などを詳しく聞き取ります)
    • 心理検査
    • 心理療法(認知行動療法、精神療法など)
    • 薬物療法(抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などを処方します)
  • 【このような方におすすめ】
    • ストレスや悩みがあり、眠れない状態が続いている方
    • 気分の落ち込みや不安を感じており、同時に睡眠に問題がある方
    • 過去に精神疾患の治療を受けたことがある方
    • 心理的なアプローチ(カウンセリングなど)も検討したい方
  • 【注意点】
    睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、精神的な要因以外の明確な身体的な原因が疑われる場合は、他の専門科への受診や併診が必要になることがあります。

脳神経内科の特徴

  • 【特徴】
    脳神経内科は、脳、脊髄、末梢神経、筋肉などの神経系に関する病気を専門に診る診療科です。睡眠障害の中では、特に神経系の機能異常が原因で起こる疾患の診断・治療を得意としています。
  • 【対応する睡眠障害】
    • ナルコレプシー
    • 特発性過眠症
    • むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
    • 周期性四肢運動障害
    • レム睡眠行動障害(夢の内容に合わせて大声を出したり体を動かしたりする)
    • てんかんやパーキンソン病など、神経疾患に伴う睡眠障害
  • 【主な診療内容】
    • 詳細な問診(症状の現れ方、タイミングなどを詳しく聞き取ります)
    • 神経学的診察
    • 脳波検査、MRIなどの画像検査(他の脳疾患を除外するため)
    • 睡眠ポリグラフ検査(PSG)
    • 反復睡眠潜時検査(MSLT)
    • 薬物療法(神経系に作用する薬剤などを処方します)
  • 【このような方におすすめ】
    • 日中に強い眠気があり、突然眠ってしまうことがある方
    • 寝入りばなに金縛りや幻覚を経験することがある方
    • 寝ている間に足がむずむずしたり、勝手に動いたりする方
    • 寝ている間に大きな声を出したり、暴れたりすることがある方
    • すでに神経系の病気(てんかん、パーキンソン病など)で治療を受けており、睡眠に問題がある方
  • 【注意点】
    脳神経内科でも一般的な不眠症の相談は可能ですが、SASのように呼吸器系の問題が主な原因である場合は、専門外となる場合があります。

一般内科の特徴

  • 【特徴】
    一般内科は、内臓の病気や全身の健康状態を幅広く診る「かかりつけ医」としての役割を担うことが多い診療科です。睡眠障害についても、まず相談する窓口として非常に適しています。
  • 【対応する睡眠障害】
    • 生活習慣病(高血圧、糖尿病など)に伴う睡眠障害
    • 呼吸器疾患(喘息など)や循環器疾患(心不全など)に伴う睡眠障害
    • 痛みを伴う疾患(関節炎など)に伴う不眠症
    • 薬剤の副作用による睡眠障害
    • 診断がついていない様々な睡眠に関する悩み
  • 【主な診療内容】
    • 詳細な問診(症状、既往歴、生活習慣、服用中の薬などを確認します)
    • 身体診察
    • 血液検査、尿検査、レントゲン検査など(他の病気の有無を確認するため)
    • 必要に応じて簡易睡眠検査の手配
    • 専門医への紹介状の発行
    • 基本的な睡眠衛生指導
  • 【このような方におすすめ】
    • 「何科に行けばいいか全く分からない」と迷っている方
    • まずは身近な医師に相談したい方
    • 持病があり、それが睡眠に影響している可能性がある方
    • 特定の原因がはっきりしない、漠然とした睡眠の悩みがある方
  • 【注意点】
    一般内科では、専門的な睡眠検査(PSGなど)や、ナルコレプシー、複雑なむずむず脚症候群、SASに対する高度な治療(CPAP調整など)を行う設備や専門知識がない場合があります。専門的な診断や治療が必要な場合は、他の専門医への紹介となります。

専門の睡眠外来の特徴

  • 【特徴】
    専門の睡眠外来は、睡眠障害全般を専門的に診断・治療するために設立された医療機関や、総合病院内の専門部門です。睡眠に関する知識と経験が豊富な医師(日本睡眠学会認定医など)や技師、看護師などが連携して診療にあたります。
  • 【対応する睡眠障害】
    • 不眠症(難治性不眠を含む)
    • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
    • 過眠症(ナルコレプシー、特発性過眠症など)
    • むずむず脚症候群・周期性四肢運動障害
    • 概日リズム睡眠障害(交代勤務や海外渡航によるもの、非24時間型睡眠覚醒症候群など)
    • レム睡眠行動障害
    • 睡眠関連てんかん
    • 小児の睡眠障害
    • あらゆる種類の睡眠障害
  • 【主な診療内容】
    • 詳細かつ専門的な問診
    • 睡眠日誌や質問票を用いた評価
    • 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
    • 反復睡眠潜時検査(MSLT)
    • アクチグラフィー(腕に付けて日常の活動と睡眠パターンを記録する機器)
    • CPAP療法、マウスピース療法、薬物療法、認知行動療法、高照度光療法など、多岐にわたる専門的な治療
  • 【このような方におすすめ】
    • 自分の睡眠障害がどのタイプか分からない方
    • 複数の睡眠障害が合併している可能性がある方
    • 他の診療科を受診したが改善が見られない方
    • 専門的な検査や治療が必要だと考えられる方(いびきが非常に大きい、日中の眠気が非常に強い、足を動かさずにはいられないなど)
    • より正確な診断と最適な治療法を求めている方
  • 【注意点】
    専門の睡眠外来は、一般の医療機関に比べて数が限られています。予約が取りにくかったり、待ち時間が長かったりする場合があります。また、大学病院などに設置されていることが多いため、かかりつけ医からの紹介状が必要な場合もあります。

どこに受診すべきか迷ったら

自分の症状からある程度見当はついても、最終的にどこに受診すべきか迷うことは珍しくありません。そんな時は、以下のステップを参考にしてみてください。

まずはかかりつけ医に相談

最もおすすめの最初のステップは、日頃から健康状態を把握してもらっている「かかりつけ医」に相談することです。かかりつけ医がいない場合は、お近くの一般内科を受診しましょう。

  • なぜかかりつけ医(一般内科)が最初におすすめなのか?
    • 全身状態の把握: 睡眠障害の原因には、生活習慣病や他の身体的な病気が隠れていることがあります。かかりつけ医はあなたの既往歴や服用中の薬などを把握しており、全身の状態を踏まえて総合的に判断できます。
    • 他の病気の除外: 睡眠障害と似た症状を示す他の病気がないかを確認できます。
    • 適切な専門医への紹介: 詳しい問診や簡単な検査を行った上で、専門的な診断や治療が必要だと判断した場合、適切な専門の医療機関や医師(精神科、脳神経内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来など)へ紹介状を書いてもらえます。これにより、最初から専門外の科に行ってしまい、たらい回しになるのを避けることができます。
    • 安心感: 慣れ親しんだ医師であれば、症状を話しやすいという方も多いでしょう。

まずはかかりつけ医に、いつから、どのような症状があるのか、他に気になる点はないかなどを具体的に伝えましょう。

専門医への紹介

かかりつけ医(または最初に受診した一般内科医)が必要と判断した場合、専門の医療機関や医師への紹介状が発行されます。この紹介状は、あなたのこれまでの病歴や現在の状態、かかりつけ医の所見などが記載されており、専門医がスムーズに診療を行う上で非常に役立ちます。

紹介された専門医のもとで、さらに詳しい問診や専門的な検査が行われ、確定診断と治療計画が立てられます。

自分で専門医を探して直接受診することも可能ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 自分の判断が必ずしも正しいとは限らない。
    症状の裏に隠れた原因を見落とす可能性がある。
  • 紹介状がない場合、初診時に「特定療養費」として別途費用がかかることがある(主に200床以上の病院)。
  • 専門医の予約が取りにくい場合がある。

症状が比較的軽く、ストレスや生活習慣の乱れが明らかである場合は、まず精神科や心療内科を直接受診するのも一つの方法です。しかし、いびきや日中の強い眠気、足の不快感など、特定の身体的な症状が顕著な場合は、その症状に関係する専門科(耳鼻咽喉科、呼吸器内科、脳神経内科など)や、最初から専門の睡眠外来を検討することも有効です。

最終的にどこに受診するかは、症状の重さ、疑われる原因、そしてご自身の希望(まずは身近なところで相談したい、最初から専門的に診てほしいなど)を考慮して決めると良いでしょう。迷ったら、まずはかかりつけ医に相談するのが最も確実で安心できる方法と言えます。

睡眠障害の検査・診断について

睡眠障害の診断は、患者さんの訴えを聞くだけでなく、様々な検査や評価を組み合わせて総合的に行われます。どのような検査があるのかを知っておくと、受診する際の不安を軽減できるでしょう。

問診や質問票

睡眠障害の診断において、最も基本となるのが詳細な問診です。医師は、以下の点について詳しく聞き取ります。

  • 睡眠に関する具体的な症状: 寝つきの悪さ、夜中に目が覚める回数、早朝覚醒の有無、睡眠時間、日中の眠気の程度やタイミング、いびきや呼吸停止の指摘の有無、寝ている間の体の動きなど。
  • 症状が始まった時期や経過: いつ頃から睡眠に問題を感じ始めたのか、症状は悪化しているのか、改善する時期はあるのかなど。
  • 生活習慣: 睡眠・覚醒リズム、食事、運動、カフェインやアルコールの摂取、喫煙習慣、仕事内容(特に交代勤務や不規則な勤務)、寝室環境(光、音、温度など)。
  • 既往歴や現在の病気: 現在治療中の病気や過去にかかった病気、アレルギーなど。
  • 服用中の薬: 処方薬、市販薬、サプリメントなど、全ての服用薬。薬の副作用が睡眠に影響することがあります。
  • 精神状態: ストレスの有無、不安や気分の落ち込みなど。
  • 家族歴: 家族に睡眠障害の人がいるか。

また、問診を補うために、睡眠に関する詳細な質問票への記入を求められることがあります。これにより、より客観的に睡眠の状態や症状の程度を評価することができます。

睡眠日誌

睡眠日誌は、患者さん自身に毎日の睡眠パターンを記録してもらうものです。最低でも1週間、可能であれば2週間程度記録することで、ご自身の睡眠リズムや問題点を客観的に把握するのに役立ちます。

睡眠日誌に記録する主な項目:

  • 寝床に入った時間
  • 寝付くまでにかかった時間
  • 夜中に目が覚めた回数と時間
  • 最終的に目が覚めた時間
  • 寝床から出た時間
  • 昼寝をした場合はその時間と長さ
  • 日中の眠気の程度(段階で評価することが多い)
  • 疲労感や気分
  • カフェインやアルコールの摂取量と時間
  • 運動の有無と時間
  • 寝る前にしたこと(入浴、読書、スマートフォンなど)

睡眠日誌は、医師が診断や治療方針を検討する上で非常に重要な情報源となります。記録する際は、できるだけ正直に、正確に記録するように心がけましょう。

睡眠ポリグラフ検査(PSG)など

睡眠日誌や問診だけでは診断が難しい場合や、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、周期性四肢運動障害といった特定の睡眠障害が強く疑われる場合には、専門的な生理検査が行われます。最も代表的な検査が終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)です。

終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)とは?
PSGは、医療機関に一泊入院または外来(簡易装置を持ち帰って自宅で測定)して行われる検査です。睡眠中の様々な生理的な活動を同時に記録し、睡眠の状態や異常を詳細に評価します。

  • 記録される主な項目:
    • 脳波: 睡眠段階(レム睡眠、ノンレム睡眠の深さ)や覚醒状態を判定します。
    • 眼球運動: レム睡眠を判定するのに用います。
    • 筋電図: 手足の動きや顎の筋肉の緊張を記録し、睡眠中の体の動きや歯ぎしりなどを調べます。
    • 心電図: 睡眠中の心拍数や不整脈の有無を調べます。
    • 呼吸: 鼻と口の気流、胸郭と腹部の動きを記録し、無呼吸や低呼吸の有無やパターンを調べます。
    • 血中酸素飽和度: 指先にセンサーを付けて、睡眠中の血液中の酸素濃度を測定します。SASの重症度を判定するのに重要です。
    • いびき音: マイクでいびきの音を記録します。

PSGの結果を分析することで、睡眠の質や量、睡眠中の呼吸状態、体の動きなどを客観的に評価し、様々な睡眠障害の診断を確定することができます。

その他の専門的な検査:

  • 簡易睡眠検査: PSGよりも簡略化された検査で、主にSASのスクリーニングに用いられます。自宅で装置を装着して測定できるものもあります。
  • 反復睡眠潜時検査(MSLT): PSGの翌日に行われる検査で、日中の眠気の程度を客観的に評価します。決められた時間に短い仮眠を複数回取り、寝付くまでの時間(睡眠潜時)を測定します。ナルコレプシーなどの過眠症の診断に重要です。
  • 覚醒維持検査(MWT): 日中の眠気に抵抗して覚醒を維持する能力を評価する検査です。椅子に座って、眠らないようにどれくらい起きていられるかを測定します。
  • アクチグラフィー: 腕時計型の小型装置を腕に装着し、体の動きを記録することで睡眠・覚醒パターンを数日〜数週間にわたって測定します。概日リズム睡眠障害などの診断に役立ちます。

これらの検査は、全ての患者さんに行われるわけではなく、医師が必要と判断した場合に行われます。検査を受けることで、自分の睡眠状態をより深く理解し、適切な治療に繋げることができます。

睡眠障害の治療法

睡眠障害の治療法は、その原因やタイプ、重症度によって異なります。単一の治療法だけでなく、複数の治療法を組み合わせて行われることも一般的です。

薬物療法

薬物療法は、睡眠障害の症状を緩和するために用いられます。使用される薬剤は、睡眠障害の種類によって異なります。

  • 不眠症:
    • 睡眠薬: 寝つきを良くする薬、夜中に目が覚めるのを減らす薬、早く目が覚めるのを改善する薬など、様々なタイプの睡眠薬があります。非ベンゾジアゼピン系、ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などがあり、患者さんの症状や体質に合わせて選択されます。依存性や副作用(眠気の持ち越し、ふらつきなど)に注意が必要な薬もあるため、医師の指示通りに服用することが重要です。
    • 抗うつ薬・抗不安薬: 精神的な問題が不眠の原因となっている場合に、これらの薬剤が処方されることがあります。
  • 過眠症:
    • 覚醒を維持する薬: ナルコレプシーや特発性過眠症による日中の強い眠気を改善するために、モダフィニルやペモリンなどの覚醒剤が用いられることがあります。
    • レム睡眠を抑制する薬: ナルコレプシーに伴う情動脱力発作や金縛り、レム睡眠行動障害などに対して、三環系抗うつ薬やSSRIなどが用いられることがあります。
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS):
    SASの根本治療は、CPAP療法やマウスピース療法、手術などですが、症状緩和のために特定の薬剤が補助的に用いられることもあります。ただし、これは一般的ではありません。
  • むずむず脚症候群・周期性四肢運動障害:
    • ドーパミン受容体作動薬: 脳内のドーパミン機能異常を補うために使用されます。
    • 鉄剤: 鉄欠乏が原因の場合に補給します。
    • その他の薬剤: 必要に応じて、抗てんかん薬などが用いられることもあります。

薬物療法は症状を一時的に緩和する効果がありますが、根本的な原因の解決には繋がらない場合もあります。医師とよく相談し、漫然と服用を続けるのではなく、必要に応じて非薬物療法や生活習慣の改善と並行して行うことが重要です。

認知行動療法(CBT-I)

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia: CBT-I)は、主に慢性的な不眠症に対して効果が確立されている非薬物療法です。睡眠に関する誤った考え方(認知)や、不眠を悪化させるような行動パターンを修正することで、不眠を改善することを目指します。

CBT-Iの主な構成要素:

  • 睡眠制限療法: 寝床で過ごす時間を、実際に眠れている時間に近づけることで、睡眠効率を高めます。最初は短い睡眠時間から始め、徐々に睡眠時間を増やしていきます。
  • 刺激制御療法: 寝床と「眠る」という行為を結びつけ、寝床で眠れない時間を減らすようにします。眠れない時は一度寝床から出て、眠気を感じてから再び寝床に戻るといったルールを設定します。
  • 認知療法: 睡眠に関する不安や心配、誤った信念(「一晩眠れないと健康に重大な影響が出る」「睡眠薬がないと眠れない」など)を修正し、より現実的で健康的な考え方を身につけます。
  • リラクゼーション法: 筋弛緩法や腹式呼吸、瞑想など、心身をリラックスさせる方法を学び、寝る前の緊張を和らげます。
  • 睡眠衛生教育: 規則正しい生活、寝室環境の調整、寝る前の習慣など、健康的な睡眠のための基本的な知識を学び、実践します。

CBT-Iは、薬物療法に比べて効果が現れるまでに時間がかかる場合がありますが、効果が持続しやすいというメリットがあります。薬に頼らずに不眠を改善したい方や、薬物療法が効果不十分な場合などに有効な選択肢となります。専門的なトレーニングを受けた心理士や医師によって行われます。

生活習慣の改善指導

すべての睡眠障害において、健康的な生活習慣を身につけること(睡眠衛生と呼ばれます)は治療の基本となります。薬物療法や専門的な治療と並行して、またはそれらを行う前に、必ず指導が行われます。

睡眠衛生の主なポイント:

  • 規則正しい生活: 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるように心がけます(週末も大きく崩さない)。体内時計を整えることが重要です。
  • 寝室環境の調整: 寝室を暗く、静かで、快適な温度(一般的に18〜22℃程度)に保ちます。
  • 寝る前の習慣: 寝る前にカフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなど)やアルコールの摂取、喫煙を控えます。寝る直前の激しい運動や、スマートフォン、パソコンなどの強い光を浴びることも避けます。
  • 寝床の使い方: 寝床は眠るためだけに使用します。寝床で考え事をしたり、本を読んだり、テレビを見たりするのを避けます(刺激制御療法にも関連します)。
  • 適度な運動: 日中の適度な運動は睡眠の質を高めますが、寝る直前の激しい運動は逆効果になることがあります。
  • 食事: 寝る直前の食事は避け、消化の良いものを適量とります。
  • 日中の過ごし方: 日中に長時間寝過ぎないようにします(特に不眠症の場合)。

これらの生活習慣の改善は、即効性はありませんが、継続することで睡眠の質を長期的に改善し、睡眠障害の再発予防にも繋がります。

睡眠障害の病院選びのポイント

睡眠障害で病院を受診する際に、どのような点に注意して選べば良いのでしょうか。いくつかのポイントを以下に示します。

専門性(睡眠専門医がいるか)

最も重要なポイントの一つは、その医療機関に睡眠障害に関する専門的な知識や経験を持つ医師がいるかどうかです。

  • 日本睡眠学会認定医: 睡眠医療に関する一定の基準を満たした医師に与えられる資格です。このような認定医がいる医療機関は、睡眠障害の診療に力を入れている可能性が高いと言えます。日本睡眠学会のウェブサイトなどで認定医がいる医療機関を検索できる場合があります。
  • 睡眠外来の設置: 総合病院などに「睡眠外来」という専門外来が設置されている場合は、睡眠障害の診断・治療に必要な体制が整っている可能性が高いです。

ただし、専門医や専門外来でなくても、一般内科や精神科などで睡眠障害の診療経験が豊富な医師も多くいます。まずは、かかりつけ医に相談し、信頼できる医師に紹介してもらうのが良い方法です。

検査設備の有無

疑われる睡眠障害の種類によっては、専門的な検査が必要になります。特に睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシー、周期性四肢運動障害などが疑われる場合は、睡眠ポリグラフ検査(PSG)の設備がある医療機関を選ぶ必要があります。

  • PSG検査の設備: 医療機関のウェブサイトで検査項目を確認したり、事前に電話で問い合わせたりして、PSG検査が可能かどうかを確認しましょう。簡易睡眠検査のみ対応している医療機関もあります。
  • 入院施設: PSG検査は一泊入院が必要な場合が一般的です(簡易検査は自宅で可能)。入院設備があるかも確認しておくと良いでしょう。

ご自身の症状から必要と思われる検査設備があるかどうかを、病院選びの際に確認しましょう。

アクセスや通いやすさ

睡眠障害の治療は、生活習慣の改善指導や薬の調整などで、継続的に通院が必要となる場合があります。そのため、自宅や職場からのアクセスが良いか、診療時間帯が自分の都合に合うかといった「通いやすさ」も重要なポイントです。

  • 立地と交通手段: 最寄りの駅からの距離、駐車場があるかなどを確認しましょう。
  • 診療時間: 自分のライフスタイルに合った診療時間であるかを確認しましょう。土日や夜間に診療を行っている医療機関もあります。
  • オンライン診療: 最近では、睡眠障害の診療(特に不眠症やCPAP療法の管理など)でオンライン診療を導入している医療機関も増えています。通院が難しい場合や、まずは気軽に相談したい場合に有効な選択肢となります。ただし、オンライン診療ではPSGのような対面での検査はできません。

これらの点を考慮して、無理なく継続して通院できる医療機関を選ぶことが、治療を成功させる上で大切です。

睡眠障害の病院選びチェックリスト例:

項目 確認事項
専門性 睡眠専門医(日本睡眠学会認定医など)がいるか?
睡眠外来があるか?
検査設備 睡眠ポリグラフ検査(PSG)は可能か?
簡易睡眠検査は可能か?
その他、必要な検査(MSLT、アクチグラフィーなど)は可能か?
治療法 薬物療法以外に、CBT-IやCPAP療法、マウスピース療法など専門的な治療に対応しているか?
アクセス・通いやすさ 自宅や職場からの立地は?
診療時間帯は合うか?(平日昼間、夜間、土日など)
オンライン診療は可能か?
その他 予約の取りやすさは?
口コミや評判はどうか?(あくまで参考程度に)

睡眠障害は放置せず専門医に相談を

睡眠障害は、「たかが眠りの悩み」と軽く考えられがちですが、放置すると心身の健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。

睡眠障害を放置することによるリスク:

  • 日中のパフォーマンス低下: 集中力や注意力が低下し、仕事や学業の効率が悪くなります。
  • 事故のリスク増加: 強い眠気は、自動車運転中や危険を伴う作業中の事故に繋がる可能性があります。
  • 精神的な問題の悪化: 不眠はうつ病や不安障害のリスクを高めたり、既存の精神疾患の症状を悪化させたりすることがあります。
  • 身体的な健康問題: 睡眠時無呼吸症候群は、高血圧、糖尿病、不整脈、心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患のリスクを大幅に増加させます。また、不眠も免疫機能の低下や生活習慣病の発症・悪化に関与すると考えられています。
  • QOL(生活の質)の低下: 睡眠の問題は、日中の活動や人間関係にも影響を及ぼし、生活全体の質を低下させてしまいます。

このように、睡眠障害は単なる不快な症状ではなく、全身の健康に関わる重要な問題です。適切な診断と治療を受けることで、症状が改善し、これらのリスクを軽減することができます。

繰り返しになりますが、「睡眠障害 何科」と迷ったら、まずは信頼できるかかりつけ医(または一般内科)に相談することをおすすめします。そこで症状を詳しく伝え、必要であれば専門の医療機関へ紹介してもらいましょう。症状によっては、最初から精神科心療内科脳神経内科耳鼻咽喉科呼吸器内科、あるいは専門の睡眠外来を受診することも有効です。

ご自身の症状やライフスタイルに合わせて、最適な受診先を選び、早めに専門医に相談することが、健康的な睡眠を取り戻し、快適な日常生活を送るための第一歩です。一人で悩まず、医療の力を借りることをためらわないでください。

免責事項
本記事は、睡眠障害に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。個々の症状については、必ず医師の診察を受け、専門家の指示に従ってください。本記事の情報によって生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いかねます。

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