扁桃腺(口蓋扁桃)は、喉の奥の両側にあるリンパ組織の集まりです。細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入しようとするのを防ぐ、免疫機能の一部を担っています。しかし、この扁桃腺が慢性的に炎症を起こしたり、大きくなりすぎたりすると、様々な症状の原因となります。
繰り返す扁桃炎、いびきや睡眠時無呼吸症候群、扁桃周囲膿瘍などの病気に対し、扁桃腺を摘出する手術(扁桃摘出術)が有効な治療法として選択されることがあります。手術によってこれらの症状が改善されるという大きなメリットがある一方で、扁桃腺摘出術にはいくつかのデメリットやリスクも伴います。
本記事では、扁桃腺を取ることで生じる可能性のあるデメリットに焦点を当て、手術に伴うリスクや術後の体の変化・後遺症について詳しく解説します。扁桃腺摘出術を検討されている方、手術について不安を感じている方は、ぜひご一読いただき、手術への理解を深めるためにお役立てください。ただし、ご自身の病状や手術の適応については、必ず専門医と十分に話し合って判断することが重要です。
扁桃腺摘出術の主なリスク・合併症
扁桃腺摘出術は耳鼻咽喉科領域で比較的よく行われる手術ですが、体への侵襲を伴う以上、いくつかのリスクや合併症が存在します。ここでは、手術を受けるにあたって特に理解しておきたい主なリスクについて説明します。
術後の痛みや不快感
扁桃腺摘出術後、最も多くの人が経験するのが「痛み」です。扁桃腺があった場所は傷口となり、炎症や腫れが生じるため、強い痛みを伴います。
- 痛みの種類と程度:
喉の奥がヒリヒリしたり、ズキズキしたりする痛み。
唾液を飲み込むとき(嚥下時)に特に強い痛みを感じる。
耳に響くような痛み(関連痛)を感じることが多い。これは、喉と耳が同じ神経でつながっているためです。 - 痛みの経過:
手術直後から痛みが出始め、術後2~3日をピークに徐々に軽減していくのが一般的です。
しかし、痛みが完全に消失するまでには、個人差はありますが1週間から2週間程度かかることが多いです。
特に、術後1週間頃に傷口のカサブタが剥がれる時期に、再び痛みが強くなることがあります。 - 食事への影響:
痛みが強いため、術後は食事が困難になります。手術直後はゼリーやプリンなどの冷たい流動食から始め、徐々に柔らかいものに変えていきます。
硬いものや刺激物(辛いもの、熱いもの)は、傷口を刺激して痛みや出血の原因となるため、しばらくの間避ける必要があります。
痛みが強い間は、食事が十分に摂れず、体重が減少したり、体力が落ちたりすることもあります。
痛みに対しては、医師から処方される鎮痛剤でコントロールすることが基本となります。しかし、完全に痛みをゼロにするのは難しく、特に嚥下時の痛みは日常生活を送る上で大きなストレスとなる可能性があります。この術後の痛みは、手術を受ける上で最も覚悟が必要なデメリットの一つと言えるでしょう。
術後出血のリスク
扁桃腺摘出術の最も重要な合併症の一つが「出血」です。手術中に血管を丁寧に止血しますが、術後に再び出血する可能性があります。
- 出血の時期:
早期出血: 手術直後から24時間以内に出血するものです。比較的早く発見・対処しやすい傾向があります。
晩期出血: 術後数日(特に1週間〜2週間後頃)に起こる出血です。この時期は、手術でできた傷口表面のカサブタが剥がれ落ちる頃にあたります。カサブタと一緒に血管の末端が露出することで出血する可能性があり、時に多量に出血することがあります。晩期出血は、自宅療養中に突然起こることがあり、緊急性が高くなるケースもあるため、注意が必要です。 - 出血時の対応:
少量の出血であれば、安静にしたり、氷などで患部を冷やしたりすることで止まることもあります。
しかし、口の中に血液が溜まる、咳き込む、吐血するなど、出血量が多い場合は、速やかに医療機関に連絡し、再止血術が必要になることがあります。
特に夜間や休日など、医療機関へのアクセスが難しい状況での晩期出血は、患者さんや家族にとって大きな不安となります。
出血のリスクは、術後しばらくの間は常に考慮しておく必要があります。医師や看護師から出血時の注意点や緊急連絡先について十分な説明を受け、万が一の事態に備えておくことが大切です。飲酒や激しい運動、熱い入浴など、血行を促進する行為は術後しばらく避ける必要があります。
全身麻酔に伴うリスク
扁桃腺摘出術は、通常、全身麻酔で行われます。全身麻酔は、手術中の痛みをなくし、患者さんの体を動かないようにするために不可欠ですが、麻酔自体にもいくつかのリスクが伴います。
- 一般的な副作用:
麻酔からの覚醒後、一時的に吐き気や嘔吐、頭痛、めまい、寒気、だるさなどを感じることがあります。
人工呼吸のためのチューブを挿入するため、喉の痛みやかすれ声がしばらく続くことがあります。
歯が欠けたり、唇や舌を傷つけたりする可能性も稀にあります。 - 重篤な合併症(稀):
非常に稀ですが、麻酔薬に対するアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こることがあります。
元々心臓や肺に病気がある場合、麻酔や手術のストレスにより、不整脈、心筋梗塞、肺炎などの呼吸・循環器系の合併症を起こすリスクがあります。
意識が戻りにくい、神経系の合併症(手足のしびれなど)なども極めて稀ですが可能性はゼロではありません。
全身麻酔に伴うリスクは、患者さんの全身状態や既往歴によって異なります。麻酔科医は手術前に患者さんの状態を詳しく評価し、安全に麻酔が行えるかどうかを判断します。全身麻酔のリスクはゼロではありませんが、現代の麻酔技術は非常に進歩しており、重篤な合併症が起こる確率は極めて低くなっています。しかし、リスクがあることを理解し、既往歴やアレルギーの有無などを正確に医師に伝えることが重要です。
扁桃腺を取った後の体の変化・後遺症
扁桃腺を摘出した後、術後の痛みや出血などの短期的なリスクが落ち着いたとしても、長期的に体の状態が変化したり、何らかの後遺症が残ったりする可能性はあります。ここでは、術後に起こりうる体の変化や後遺症について解説します。
免疫力への影響は?風邪をひきやすくなる?
扁桃腺は免疫器官であるため、「扁桃腺を取ると免疫力が下がって風邪をひきやすくなるのではないか」と心配される方は少なくありません。
- 扁桃腺の免疫における役割:
扁桃腺は、口や鼻から侵入してくる細菌やウイルスを最初にキャッチし、免疫細胞に情報を伝達することで、体の初期防衛ラインとして働いています。特に小児期は、様々な病原体に初めて遭遇する機会が多く、扁桃腺の免疫における役割が大きいと考えられています。 - 摘出後の免疫への影響:
扁桃腺を摘出しても、体には他にもリンパ節、脾臓、骨髄などの多くの免疫器官が存在します。これらの器官が扁桃腺の役割をある程度補うため、手術によって全身の免疫力が劇的に低下し、健康な人が突然重い感染症にかかりやすくなる、といった可能性は低いとされています。
特に成人では、他の免疫器官が十分に発達しているため、扁桃腺摘出による免疫への影響はさらに限定的と考えられています。
ただし、手術そのもののストレスや、術後の回復期間中に一時的に体力が落ち、風邪などの軽い感染症にかかりやすくなる可能性はあります。
また、扁桃炎を繰り返していた人が手術を受ける場合、扁桃腺という炎症の温床がなくなることで、かえって風邪をひきにくくなる、体調が安定するといったメリットを感じる人もいます。
結論として、扁桃腺摘出がその後の深刻な免疫不全や、風邪をひきやすい体質に劇的に変えてしまう可能性は、医学的には低いと考えられています。しかし、個々の体の状態や年齢によって影響は異なりうるため、担当医の見解を確認することが重要です。
声が変わる可能性
扁桃腺を摘出することで、声質が変わる可能性も指摘されています。
- 声の変化の理由:
声は、声帯で作られた音が、喉や口、鼻腔といった空間(共鳴腔)を通ることで響きとなり、個性的な声として聞こえます。
扁桃腺は、この共鳴腔の一部である口の奥の両側に位置しています。扁桃腺を摘出すると、この空間の形状や響き方が変化するため、声質に影響が出る可能性があります。 - 起こりうる声の変化:
最も多いのは「鼻声(閉鼻声)」のように聞こえる、声がこもるといった変化です。これは、口の奥の空間が広くなったことで、声の響き方が変わるためと考えられます。
稀に、空気が鼻に漏れるような「開鼻声(かいびせい)」になる可能性もゼロではありませんが、これは口蓋帆(のどちんこの近くにある部分)の機能に影響が出た場合に起こり、非常に稀な後遺症です。 - 個人差と回復:
声の変化の程度には非常に個人差があります。ほとんど変化を感じない人もいれば、自分自身や周囲が変化に気づくほど変わる人もいます。
特に、子供の場合は成長過程にあるため、術後の声の変化が顕著に出やすいことがあるとされています。
多くの場合、時間とともに声の出し方や響き方に体が慣れてくるため、徐々に気にならなくなる傾向があります。しかし、完全に元の声に戻るとは限りません。 - 声を使う職業への影響:
歌手、俳優、教師、アナウンサーなど、日常的に声を使う職業の方は、声質の変化が仕事に影響を与える可能性があるため、術前に耳鼻咽喉科医と十分に相談し、リスクを理解しておくことが特に重要です。
声の変化は、生活の質に関わる可能性のある後遺症です。手術を検討する際には、このような変化が起こりうることを理解しておきましょう。
口蓋扁桃摘出後のアデノイド肥大リスク
特に子供の場合、口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)を摘出した後に、鼻の奥にあるもう一つのリンパ組織である「アデノイド」が代償性に大きくなる(肥大する)リスクが指摘されることがあります。
- 扁桃とアデノイドの関係:
口蓋扁桃とアデノイド(咽頭扁桃)は、どちらもワルダイエル扁桃輪と呼ばれる喉の免疫組織の一部です。
子供の頃は、口蓋扁桃とアデノイドの両方が大きいことがよくあります。 - 摘出後の代償性肥大:
口蓋扁桃を摘出することで、免疫機能の一部を失うため、残されたアデノイドがその役割を補おうとして大きくなる可能性が考えられています。これを代償性肥大と言います。
アデノイドが大きくなると、鼻の空気の通り道が狭くなり、鼻閉(鼻づまり)やいびき、口呼吸、睡眠時無呼吸といった症状を再び引き起こす原因となることがあります。
また、耳管(鼻の奥と耳をつなぐ管)の開口部がアデノイドで塞がれることで、滲出性中耳炎(鼓膜の奥に水が溜まる状態)を繰り返したり、難聴を引き起こしたりすることもあります。 - リスクの程度:
口蓋扁桃摘出後に全ての子どもがアデノイド肥大を起こすわけではありません。元々アデノイドが大きい子供や、口蓋扁桃とアデノイドの両方が原因で症状が出ていた子供で、口蓋扁桃のみを摘出した場合にリスクが高まる可能性があります。
アデノイドは思春期頃には自然に小さくなる傾向がありますが、それまでの間に症状が続く場合は、アデノイドの切除術が追加で必要になることもあります。
小児期に扁桃腺摘出術を検討する場合は、アデノイドの状態も同時に評価し、アデノイド肥大のリスクについても医師と話し合っておくことが重要です。場合によっては、口蓋扁桃とアデノイドを同時に切除する手術(アデノイド・口蓋扁桃同時摘出術)が選択されることもあります。
その他の稀な後遺症(味覚障害、舌の違和感、口内炎など)
扁桃腺摘出術の後遺症として、発生頻度は低いものの、以下のような症状が起こる可能性もゼロではありません。多くは一時的なものですが、理解しておきましょう。
- 味覚障害: 扁桃腺の近くには、舌の後方に分布する味覚に関わる神経(舌咽神経など)があります。手術操作によりこれらの神経が一時的に影響を受け、味覚が変わったり、味が分からなくなったりする可能性がごく稀にあります。多くは時間とともに回復しますが、持続する場合もあります。
- 舌の違和感やしびれ: 手術中に舌を圧迫したり、麻酔による体位によって舌の神経にごく一時的な影響が出たりすることで、舌に違和感やしびれを感じることがあります。通常は数日から数週間で改善します。
- 口内炎: 術後の乾燥や傷口への刺激、あるいは術後の食事制限による栄養バランスの変化などにより、口内炎ができやすくなることがあります。
- 嚥下困難感: 術後の腫れや傷口の違和感、痛みのために、食べ物や飲み物を飲み込みにくく感じることがしばらく続きます。これは術後の回復に伴い改善していくのが通常ですが、稀に嚥下機能の評価やリハビリが必要になるケースもあります。
- 瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく): 傷口が治癒する過程で、周囲の組織が硬くなり(瘢痕化)、突っ張るような違和感や、口を開けにくく感じるなどの症状が出ることがあります。程度は様々ですが、多くは軽度で、時間とともに軽減します。
これらの後遺症は、前述の痛みや出血、声の変化、アデノイド肥大などと比較すると発生頻度は非常に低いものです。しかし、可能性として存在することは理解しておき、もし術後にこのような症状が続く場合は、我慢せずに担当医に相談することが大切です。
扁桃腺摘出を検討する前に知っておくべきこと
扁桃腺摘出術は、慢性的な扁桃腺の炎症や肥大による症状を改善するための有効な手段ですが、デメリットやリスクを伴います。手術を検討する際には、メリットとデメリットを慎重に比較検討し、自身の状況に合った最善の選択をすることが重要です。
扁桃腺を取るべきケース(メリットとの比較)
扁桃腺摘出術が推奨されるのは、扁桃腺が原因で日常生活に支障が出ている場合や、将来的に重篤な合併症を引き起こすリスクが高い場合です。手術のメリットは、これらの問題を根本的に解決できる点にあります。
手術のメリット | 手術のデメリット |
---|---|
繰り返す扁桃炎の予防(年間4~5回以上の発熱を伴う扁桃炎がある場合など) | 術後の強い痛み、食事困難 |
扁桃周囲膿瘍の予防(過去に扁桃周囲膿瘍になったことがある場合) | 術後出血のリスク(特に晩期出血) |
いびきや睡眠時無呼吸症候群の改善(扁桃腺肥大が原因の場合、特に小児) | 全身麻酔に伴うリスク |
溶連菌感染後の合併症(リウマチ熱、急性糸球体腎炎)のリスク低減(繰り返す場合) | 免疫への影響(限定的とされるが懸念される場合がある) |
慢性的な喉の不調(微熱、だるさ、関節痛など)の改善(慢性扁桃炎が疑われる場合) | 声質の変化(特に小児や声を使う職業の人) |
口臭の改善(扁桃に膿栓(臭い玉)が溜まりやすい場合) | 小児における術後のアデノイド肥大リスク |
生活の質の向上(繰り返す発熱や不調がなくなることで) | 稀な後遺症の可能性(味覚障害、舌の違和感、嚥下困難感など) |
入院期間や療養期間が必要 |
上記のように、手術には明確なメリットがありますが、デメリットも無視できません。手術を受けるべきかどうかは、「手術によるメリットが、デメリットやリスクを上回るか」という観点から、個々の状況を総合的に判断して決定されます。
例えば、年に数回扁桃炎を繰り返してその都度寝込んでしまい、仕事や学業に大きな影響が出ている場合は、手術による扁桃炎の根治というメリットは非常に大きいと言えます。一方で、扁桃炎になることはほとんどなく、単に扁桃腺が大きいだけで特に症状がないという場合は、無理に手術をする必要性は低いと考えられます。
特に小児の場合、扁桃腺やアデノイドの大きさは成長とともに変化することや、アデノイド肥大のリスクなどを考慮して、より慎重に判断されることが多いです。
デメリットを理解し、医師と十分相談することの重要性
扁桃腺摘出術を検討する上で最も重要なことは、手術に伴うデメリットやリスクを正しく理解し、担当の医師と十分に話し合うことです。
- なぜ医師との相談が重要か:
ご自身の扁桃腺の状態や、症状の原因が本当に扁桃腺にあるのかどうかは、医師の診察や検査によって初めて正確に判断できます。
手術の適応があるかどうか、手術によってどの程度の効果が期待できるか、そしてご自身の全身状態や年齢、既往歴などを踏まえた場合、どのようなリスクがどの程度考えられるのかは、専門的な知識を持つ医師でなければ判断できません。
メリットだけでなく、今回解説したデメリット(痛み、出血、麻酔のリスク、後遺症など)について、ご自身のケースではどの程度懸念されるのか、またそれに対してどのような対策が取られるのかを具体的に確認することができます。 - 相談時に確認すべきこと:
なぜ手術が必要と判断されたのか(具体的な病名や症状、扁桃腺の状態など)
手術によってどのような症状の改善が期待できるか
手術をしないという選択肢や、手術以外の治療法はないか
手術の具体的な内容(全身麻酔か局所麻酔か、切除方法など)
手術時間、入院期間の目安
術後の痛みはどの程度か、痛みを和らげる方法は?
術後出血のリスクはどの程度か、出血した場合の対応は?
全身麻酔のリスクについて
術後の免疫への影響について、風邪をひきやすくなるのか?
声質の変化の可能性について、どの程度考えられるか?
小児の場合は、アデノイド肥大のリスクについて
その他、味覚障害などの稀な後遺症の可能性について
術後の食事制限や、社会復帰(仕事、学校)までの期間の目安
手術費用について
他に不安なこと、疑問に思うこと全て
これらの点を遠慮なく質問し、納得のいく説明を受けることが非常に重要です。疑問や不安を抱えたまま手術に臨むのではなく、リスクとメリットを十分に理解した上で、医師とともに最善の治療方針を決定しましょう。必要であれば、他の医師の意見を聞くセカンドオピニオンも検討することも可能です。
子供と大人でリスクや後遺症に違いはある?(表で比較)
扁桃腺摘出術におけるリスクや術後の影響は、年齢によって若干異なる傾向があります。特に免疫機能や体の成長・発達の観点から、子供と大人では注意すべき点が異なります。
以下に、子供と大人で特に違いが見られる点について表形式でまとめました。
項目 | 子供(主に小児期) | 大人(主に思春期以降) |
---|---|---|
手術の主な適応 | 繰り返す扁桃炎、扁桃腺・アデノイド肥大による睡眠時無呼吸症候群、いびき、鼻閉、中耳炎など | 繰り返す扁桃炎、扁桃周囲膿瘍の既往、慢性扁桃炎による全身症状、扁桃腺肥大による睡眠時無呼吸症候群など |
免疫への影響 | 扁桃腺の免疫における役割が比較的大きいとされるが、全身の免疫機能への深刻な影響は稀。術後の体調変化に注意。 | 他の免疫器官が十分に発達しており、全身の免疫機能への影響は限定的とされる。 |
声質の変化 | 口の中の空間構造の変化が声質に影響しやすい可能性があり、変化が顕著に出ることがある。成長とともに慣れる傾向。 | 子供と比較すると変化は少ない傾向だが、共鳴腔の変化により声質が変わる可能性はゼロではない。 |
アデノイド肥大 | 口蓋扁桃摘出後にアデノイドが代償性に肥大し、鼻閉などの症状を再発させるリスクがある。同時に切除することもある。 | アデノイドは思春期以降に自然に小さくなるため、口蓋扁桃摘出後のアデノイド肥大が問題となることはほとんどない。 |
術後の痛み | 大人と同様に強い痛みを伴う。痛みの表現が難しい場合や、食事摂取がより困難になる場合がある。鎮痛剤の使用などでコントロール。 | 強い痛みを伴う。嚥下時の痛みが特徴的。鎮痛剤でコントロールする。 |
術後出血 | 大人と同様にリスクがある。小児でも晩期出血の可能性があり、注意が必要。 | 大人でも晩期出血のリスクがあり、時に緊急処置が必要となる場合がある。 |
全身麻酔 | 全身麻酔の管理は大人とは異なる注意が必要だが、経験豊富な麻酔科医によって安全に行われる。術後の麻酔による副作用は同様に起こりうる。 | 全身麻酔に伴うリスクは、年齢や既往歴による。術後の麻酔による副作用は同様に起こりうる。 |
回復期間 | 大人より比較的早い回復が期待できる場合もあるが、痛みの感じ方や食事の進み具合による個人差が大きい。療養期間が必要。 | 痛みが続く期間は子供よりやや長い傾向がある。社会復帰までには通常1~2週間程度の療養が必要。 |
このように、年齢によってリスクの現れ方や注意すべき点が異なります。特に子供の扁桃腺摘出については、保護者の方がこれらの点を十分に理解し、医師と話し合った上で判断することが大切です。
扁桃腺摘出術について よくある質問
扁桃腺摘出術に関して、患者さんやそのご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Q: 手術時間はどのくらいですか?
A: 扁桃腺摘出術自体は、通常30分から1時間程度で終了します。ただし、これは手術室に入室してから退出するまでの時間ではなく、麻酔をかけてから手術が終わるまでの時間です。麻酔導入や覚醒の時間を含めると、手術室に滞在する時間はもう少し長くなります。 - Q: 入院期間はどのくらいですか?
A: 入院期間は、施設や患者さんの状態によって異なりますが、一般的には術後1週間程度の入院が必要です。これは、術後の痛みや食事の状態を管理すること、そして特に術後1週間前後に起こりやすい晩期出血に備えるためです。最近では、全身状態が安定していれば数日で退院できる場合もありますが、術後1〜2週間は自宅での安静が必要となります。 - Q: 手術費用はどのくらいかかりますか?
A: 扁桃腺摘出術は、健康保険が適用される手術です。手術費用は、入院期間、病室の種類(個室か大部屋か)、追加で必要となる処置や検査などによって異なります。高額療養費制度の対象となる場合が多く、自己負担額には上限が設けられます。詳細な費用については、入院予定の医療機関の医療事務担当者に確認することをおすすめします。 - Q: 術後の食事はどうなりますか?
A: 手術直後は喉の痛みが非常に強いため、ゼリー、プリン、アイスクリームなどの冷たい流動食から始めます。痛みの状態を見ながら、お粥や柔らかく煮たうどん、豆腐、ヨーグルトなど、刺激の少ない柔らかい食事に徐々に慣らしていきます。硬いもの、熱いもの、辛いもの、酸っぱいもの、炭酸飲料などは、傷口を刺激するため術後しばらくは避ける必要があります。普通食に戻れるまでには、通常1週間から2週間程度かかります。 - Q: 社会復帰(仕事や学校)はいつから可能ですか?
A: 術後の回復には個人差がありますが、術後1~2週間程度で痛みが軽減し、食事が普通に摂れるようになれば、多くの人は仕事や学校に復帰できます。ただし、激しい運動や重労働は、術後2週間~1ヶ月程度は避ける必要があります。声を使う仕事の場合は、医師と相談して復帰時期を決める必要があります。
まとめ:扁桃腺摘出のデメリットを理解し、納得のいく選択を
扁桃腺摘出術は、繰り返す扁桃炎や扁桃腺肥大による様々な症状に悩む人々にとって、症状を改善し、生活の質を向上させるための有効な治療法です。しかし、他の外科手術と同様に、痛み、出血、麻酔のリスクといった短期的な合併症や、免疫、声質の変化、稀な後遺症といった長期的な影響(デメリット)も伴います。
手術を受けるかどうかを判断する際には、これらのデメリットを十分に理解した上で、手術によって得られるメリット(繰り返す炎症からの解放、いびきや無呼吸の改善など)と比較検討することが不可欠です。特に、ご自身の年齢、全身の健康状態、ライフスタイルなどを考慮し、ご自身のケースではどのようなリスクが考えられるのか、どのような効果が期待できるのかを具体的に把握することが重要です。
最も大切なことは、担当の耳鼻咽喉科医と十分にコミュニケーションを取り、疑問や不安を全て解消することです。医師は、あなたの症状や扁桃腺の状態を詳細に評価し、手術の必要性やリスク、期待できる効果について専門的な見地から説明してくれます。メリットとデメリットを天秤にかけ、医師とともに、あなたにとって最善の治療方針を選択してください。
本記事で解説した内容が、扁桃腺摘出術を検討されている方の不安を少しでも軽減し、手術についてより深く理解するための助けとなれば幸いです。
免責事項: 本記事は、扁桃腺摘出術に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、医学的な診断や個別の治療方針を示すものではありません。ご自身の病状や治療については、必ず専門の医療機関で医師にご相談ください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。