急性胃腸炎の治し方|早く回復するための自宅での対処法

急性胃腸炎は、突然の吐き気や嘔吐、下痢、腹痛といったつらい症状が現れる身近な病気です。
多くの場合、安静と適切なセルフケアで数日のうちに回復しますが、症状が重い場合や脱水が進むと医療機関での治療が必要になることもあります。

この記事では、急性胃腸炎の正しい治し方や、自宅でできる対処法、早く回復するための食事や水分補給のポイントについて詳しく解説します。
つらい症状を乗り越え、スムーズに回復するための参考にしてください。

目次

医師監修:急性胃腸炎の正しい治し方と対処法

急性胃腸炎の治療の基本は、ウイルスや細菌が体外に排出されるのを待ちながら、つらい症状を和らげる「対症療法」と、体の回復力を高めるための「安静・休養」です。
特定のウイルスに対する特効薬は基本的にありません。
医師が監修する治し方としては、何よりもまず脱水を防ぐための適切な水分補給、そして弱った胃腸を休ませるための食事療法が重要視されます。
症状に応じて、吐き気止めや整腸剤などの薬が処方されることもありますが、これはあくまで症状を和らげる目的です。
自身の判断で市販薬を使用したり、無理に食事を摂ったりせず、体の声に耳を傾けながら回復を目指すことが大切です。

急性胃腸炎とは?主な原因と症状

急性胃腸炎は、胃や腸の粘膜が炎症を起こすことで、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が急に現れる病気です。
原因の多くはウイルスや細菌による感染です。

ウイルス性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)

ウイルス性胃腸炎は、急性胃腸炎の中で最も一般的です。
原因となる主なウイルスには、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどがあります。

  • ノロウイルス: 特に冬場に流行しやすく、感染力が非常に強いのが特徴です。主な症状は、突然の吐き気、嘔吐、下痢、腹痛です。発熱は軽度か、ほとんど見られないこともあります。汚染された食品(特に二枚貝など)や、感染した人の便や吐物、あるいはそれらが乾燥して airborne になったものを吸い込むことによって感染します。
  • ロタウイルス: 乳幼児に多く見られ、冬から春にかけて流行します。激しい嘔吐と水のような下痢が特徴で、白色っぽい便が出ることもあります。発熱を伴うことも多く、脱水症状を引き起こしやすいウイルスです。ワクチンで予防できる病気でもあります。
  • アデノウイルス: 比較的症状が軽いことが多いですが、嘔吐や下痢、発熱のほか、風邪のような症状(咳や鼻水)、結膜炎などを伴うこともあります。特定の型は胃腸炎の原因となります。

ウイルス性胃腸炎は、人から人への感染力が強いため、家庭内や集団生活の場で広がりやすい傾向があります。

細菌性胃腸炎(食中毒など)

細菌性胃腸炎は、細菌やその出す毒素が付着した食品や水を摂取することによって起こることが多く、「食中毒」として知られています。
夏場に発生しやすい傾向がありますが、原因となる細菌によって年間を通して発生します。
主な原因菌には、カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌(O157など)、病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオなどがあります。

  • カンピロバクター: 生や加熱不足の鶏肉、加熱殺菌されていない井戸水などから感染することが多いです。発熱、倦怠感に続き、腹痛、下痢、血便を伴うこともあります。
  • サルモネラ: 生卵や加熱不足の肉などが原因となることが多いです。激しい腹痛、下痢、高熱、吐き気、嘔吐などの症状が出ます。
  • 腸管出血性大腸菌(O157など): 牛肉の生食や加熱不足、汚染された井戸水、不十分な手洗いを介した二次感染などにより感染します。初期は軽い下痢や腹痛で始まり、次第に激しい腹痛と血便を伴う下痢(出血性大腸炎)となるのが特徴です。重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)などを引き起こし、命に関わることもあります。
  • 黄色ブドウ球菌: 食品中で増殖し、毒素(エンテロトキシン)を産生します。この毒素を摂取すると、食品を食べてから比較的短い時間(数時間以内)で激しい吐き気と嘔吐、腹痛、下痢が起こります。熱はあまり出ないことが多いです。
  • 腸炎ビブリオ: 主に夏場に、生の魚介類を食べることで感染します。激しい腹痛と下痢が特徴で、発熱を伴うこともあります。

細菌性胃腸炎では、原因菌の種類によって症状の程度や潜伏期間が異なります。
ウイルス性に比べて腹痛や発熱が強い傾向が見られることもあります。

主な症状(嘔吐、下痢、腹痛、発熱など)

急性胃腸炎でよく見られる症状は以下の通りです。
これらの症状は、原因や個人差によって現れ方や程度が異なります。

  • 吐き気・嘔吐: 胃の炎症や、病原体を体外に排出しようとする防御反応として起こります。発症初期に強く現れることが多く、数時間から一日程度で落ち着く傾向があります。嘔吐が続くと脱水のリスクが高まります。
  • 下痢: 腸の炎症や機能異常により、便の水分量が増加します。水っぽい便や、回数が増えるなど様々です。下痢は嘔吐よりも長引くことが多く、数日から一週間以上続くこともあります。下痢が続くと体から水分や電解質が失われ、脱水やミネラルバランスの乱れにつながります。
  • 腹痛: 胃や腸の炎症、蠕動運動の異常によって起こります。差し込むような痛みや、お腹全体が張るような痛みなどがあります。
  • 発熱: 病原体と戦う体の反応として起こることがあります。ウイルス性では軽度なことが多いですが、細菌性では高熱を伴うこともあります。
  • 全身倦怠感: 体力の消耗や脱水、炎症反応により、体がだるく感じられます。
  • 食欲不振: 胃腸の機能が低下しているため、食欲がなくなります。

これらの症状が複数同時に現れることが多いですが、症状の現れ方で原因ウイルスや細菌を特定することは難しく、診断には医師の診察や検査(便の検査など)が必要となります。

急性胃腸炎の基本的な治し方・セルフケア

急性胃腸炎にかかった際、自宅でできる基本的なセルフケアは、回復を早め、つらい症状を和らげる上で非常に重要です。
主なポイントは、脱水予防のための水分補給、胃腸を休ませるための食事療法、そして十分な安静です。

最も重要な水分補給:脱水を防ぐ

嘔吐や下痢によって体から水分と電解質(ナトリウムやカリウムなど)が大量に失われるため、脱水を防ぐことが急性胃腸炎のセルフケアで最も重要です。
脱水が進むと、症状が悪化したり、腎臓への負担が増えたりするなど、全身状態に影響を及ぼす可能性があります。

飲むべき水分補給のタイミングと種類(経口補水液など)

水分は、嘔吐が少し落ち着いてきたら、または下痢が続いている間を中心に、こまめに摂取することが大切です。

  • 飲むべきタイミング:
    • 吐き気や嘔吐がある場合:無理に飲まず、吐き気が少し落ち着いてから、スプーン1杯程度のごく少量から始め、吐き戻さないか確認しながら徐々に量を増やします。
    • 下痢が続いている場合:排便のたびに水分と電解質が失われるため、排便後に意識的に水分を摂取します。
    • 喉が渇いたと感じる前:脱水は喉の渇きを感じる前から始まっています。喉の渇きを感じる前に、定期的に少量ずつ飲むのが理想です。
  • 飲むべき水分と種類: 水分だけでなく、失われた電解質も同時に補給できるものが推奨されます。
    • 経口補水液: これが最も推奨されます。水、糖質、電解質が適切なバランスで配合されており、体への吸収効率が良いのが特徴です。市販の経口補水液(例: OS-1、アクアライトORSなど)を利用するのが便利です。
    • 薄めたスポーツドリンク: 経口補水液がない場合は、スポーツドリンクを水で2倍程度に薄めたものも代用できます。ただし、糖分が多いものは下痢を悪化させる可能性があるため、注意が必要です。
    • ミネラルウォーターや麦茶、番茶: これらも水分補給になりますが、電解質の補給はできません。経口補水液や薄めたスポーツドリンクと組み合わせて飲むのが良いでしょう。
    • 野菜スープや味噌汁: 塩分(ナトリウム)やカリウムも含まれており、水分補給と電解質補給になります。具材は消化の良いものを。

水分摂取の注意点

  • 一度に大量に飲まない: 一度にたくさん飲むと、胃に負担がかかり、吐き気を誘発したり、胃腸の調子をさらに悪くしたりすることがあります。コップ一杯を一気に飲むのではなく、スプーンやストローを使って、少量(例: 50ml程度)を10~15分おきに飲むように心がけましょう。
  • 冷たい飲み物は避ける: 冷たい飲み物は胃腸を刺激し、症状を悪化させる可能性があります。常温、または人肌程度に温めて飲むのが良いでしょう。
  • ジュースや炭酸飲料は避ける: 糖分が多い飲み物は、腸管に水分を引き込み下痢を悪化させる可能性があります。また、炭酸飲料は胃を刺激することがあります。回復期後半になってから、少量ずつ様子を見ながら試すようにしましょう。
  • 牛乳や乳製品は避ける: 一時的に乳糖を分解する酵素の働きが弱まっていることがあり、下痢を悪化させる可能性があります。症状が完全に落ち着くまで避けるのが無難です。

胃腸を休める食事療法

症状が強い時期は、無理に食事をせず、胃腸を徹底的に休ませることが回復への近道です。
症状が落ち着いてきたら、消化の良いものから少量ずつ食事を再開します。

発症直後の絶食期間

嘔吐や下痢がひどく、食欲が全くない場合は、無理に食事を摂る必要はありません。
12時間から24時間程度、固形物は一切摂らずに胃腸を休ませることが推奨されます。
この間は、前述の通り、水分補給に専念します。
絶食と聞くと不安に感じるかもしれませんが、体の回復に必要なエネルギーは、蓄えや、必要であれば水分補給で摂取する糖分から得られます。

回復期に食べるべき消化の良い食事

嘔吐が落ち着き、お腹のゴロゴロ感が減ってきたら、少量から食事を再開します。
この時期は、胃腸に負担をかけない消化の良いものを選ぶことが重要です。

推奨される食事例:

  • 主食: おかゆ(最初は重湯から始め、三分粥、五分粥、全粥と徐々に進める)、よく煮込んだうどん(具はシンプルに)、食パン(トーストしてパサパサにしたもの)。
  • 主菜: 鶏むね肉(脂肪の少ない部分をひき肉や細かく切って、よく煮込む)、白身魚(蒸したり、煮たりする)、豆腐、卵(卵豆腐、茶碗蒸しなど)。
  • 副菜: よく煮て柔らかくした野菜(にんじん、大根、かぶ、じゃがいもなど。繊維の多い葉物野菜やきのこ類は避ける)、すりおろしりんご、熟したバナナ。
  • 汁物: 具なしの味噌汁、野菜を煮込んだスープ(具は柔らかく)。

調理法は、「煮る」「蒸す」が基本です。
油を使わず、味付けは薄味にします。

食事を再開するタイミングと進め方

  • タイミング: 嘔吐が完全に止まり、お腹の強い痛みがなくなり、少しでも「何か食べたいな」と感じたら再開のサインです。
  • 進め方:
    • 最初は少量から始めます。例えば、重湯をスプーン数杯から。
    • 問題がなければ、ゆっくりと時間をかけて食べます。早食いは胃腸に負担をかけます。
    • 量が増やせそうであれば、徐々に増やしていきます。
    • 数時間様子を見て、症状が悪化しなければ、おかゆやうどん、柔らかく煮た野菜など、次の段階の食事に進みます。
    • 体調を見ながら、数日かけて徐々に通常の食事に戻していきます。焦らず、ゆっくりと段階を踏むことが大切です。

避けるべき食べ物・飲み物

回復期には、胃腸への刺激が強いものや消化に時間のかかるものは避けるべきです。

避けるべきものの例:

  • 脂っこいもの: 揚げ物、炒め物、肉の脂身、バター、生クリームなど。脂肪は消化に時間がかかり、胃腸に大きな負担をかけます。
  • 刺激物: 香辛料(唐辛子、カレー粉)、カフェイン(コーヒー、紅茶、エナジードリンク)、炭酸飲料、アルコールなど。これらは胃腸の粘膜を刺激し、症状を悪化させる可能性があります。
  • 繊維の多いもの: 生野菜、きのこ類、海藻類、こんにゃくなど。食物繊維は消化されにくく、弱った胃腸には負担となります。
  • 冷たいもの: 飲み物と同様、食べ物も冷たいものは避けた方が無難です。
  • 甘すぎるもの: ケーキ、お菓子、ジュースなど。糖分が多いものは下痢を悪化させる可能性があります。
  • 生もの: 刺身、寿司、生卵など。病原体が付着しているリスクがあり、回復途中の胃腸には負担が大きいです。
  • 乳製品: 牛乳、ヨーグルト、チーズなど(前述の通り、一時的に避けるのが無難)。

これらの食べ物や飲み物は、症状が完全に落ち着き、通常の食事が摂れるようになってからも、しばらくは少量から様子を見ながら試すのが良いでしょう。

十分な安静と休養

体の回復力を最大限に引き出すためには、十分な安静と休養が必要です。
無理に動いたり、仕事や学校に行ったりせず、自宅でゆっくりと休みましょう。
特に、睡眠は体の修復機能を高めるために重要です。
症状が落ち着いてきても、すぐに元の生活に戻るのではなく、倦怠感がなくなるまでは無理をしないように心がけてください。
体力回復には時間がかかることがあります。

急性胃腸炎を早く治すには?薬の効果は?

急性胃腸炎の症状はつらいですが、多くの場合、特別な治療をしなくても数日で自然に回復します。
しかし、「早く治したい」と思うのは当然のことです。
ここでは、薬の役割と限界について説明します。

ウイルス性胃腸炎に特効薬はない理由

急性胃腸炎の最も一般的な原因であるノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスに対する特効薬は、現在のところありません
これは、ウイルスが人間の細胞に入り込んで増殖するため、ウイルスだけを攻撃する薬の開発が難しいことや、ウイルスの種類が多岐にわたることなどが理由です。

そのため、ウイルス性胃腸炎の治療は、前述の通り、症状を和らげる対症療法と、体の免疫力による回復を待つことが基本となります。

対症療法に用いられる主な薬(整腸剤、吐き気止めなど)

医療機関を受診した場合、症状に合わせて以下のような薬が処方されることがあります。
これらは病原体を直接排除する薬ではなく、あくまでつらい症状を緩和し、患者さんの負担を軽減するためのものです。

  • 吐き気止め(制吐剤): 吐き気や嘔吐がひどく、水分補給が難しい場合に用いられます。脳の嘔吐中枢に作用して吐き気を抑えるタイプや、胃腸の運動を調整するタイプなどがあります。使用することで水分や電解質を補給しやすくなり、脱水予防につながります。
  • 下痢止め(止瀉薬): 下痢の回数が非常に多い場合に、医師の判断で使用されることがあります。ただし、ウイルスや細菌、毒素を体外に排出するという下痢の防御反応を止めてしまうため、病原体の排出が遅れたり、症状が長引いたり、細菌性胃腸炎の場合は重症化したりするリスクがあります。そのため、ウイルス性胃腸炎や細菌性胃腸炎が疑われる場合には、安易な使用は推奨されません。使用する際は、必ず医師の指示に従ってください。
  • 整腸剤: 腸内環境を整えることを目的とした薬です。乳酸菌やビフィズス菌などの生きた細菌(プロバイオティクス)や、腸内の善玉菌のエサとなる成分などが含まれています。下痢によって乱れた腸内フローラを改善し、腸の働きを正常に戻す手助けをすることが期待されます。急性期から回復期にかけて処方されることがあります。

ビオフェルミンなどの整腸剤について

ビオフェルミンは、代表的な整腸剤の一つで、乳酸菌などを配合しています。
急性胃腸炎による下痢や腹部膨満感、便秘など、お腹の不調全般に用いられます。

整腸剤の目的は、病原体を直接攻撃することではなく、腸内細菌のバランスを整え、腸の動きを正常に近づけることです。
これにより、下痢の期間が短縮されたり、腹部症状が和らいだりする効果が期待されます。
特に、下痢によって善玉菌が減少し、腸内フローラが乱れた状態を改善するのに役立ちます。

ただし、整腸剤の効果の現れ方には個人差があります。
また、重症の場合や特定の原因菌による胃腸炎では、整腸剤だけでは不十分なこともあります。
医師の指示に従って適切に使用することが重要です。

医療機関を受診すべき目安となる症状

急性胃腸炎の症状はつらいですが、ほとんどの場合は自然に改善します。
しかし、中には医療機関での診察や治療が必要なケースもあります。
特に以下のような症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診することを検討しましょう。

  • 水分が全く摂れない、または飲んでもすぐに吐いてしまう: 脱水が急速に進む危険性があります。点滴による水分・電解質補給が必要になることがあります。
  • 強い腹痛が続く、または悪化する: 虫垂炎(盲腸炎)や腸重積など、他の病気の可能性も考える必要があります。
  • 便に血液が混じっている(血便): 細菌性胃腸炎や、腸管出血性大腸菌などの重症な感染症の可能性があります。
  • 高熱(38.5℃以上など)が続く: 特に細菌性胃腸炎の場合に高熱が出やすい傾向があります。
  • 尿量が著しく減った、またはほとんど出ない: 脱水がかなり進んでいる兆候です。
  • 顔色が悪く、ぐったりしている、意識が朦朧としている: 重度の脱水や、全身状態が悪化しているサインです。特に乳幼児や高齢者は、症状が急速に進行しやすいため注意が必要です。
  • 呼吸が速い、または浅い: 脱水や体調不良によるアシドーシスなどの可能性があります。
  • 嘔吐や下痢が2日以上続く、または改善の兆しが見られない: 長引く場合は他の原因が考えられたり、脱水のリスクが高まったりします。
  • 持病(心臓病、腎臓病、糖尿病など)がある、または免疫抑制剤などを服用している: 重症化しやすい可能性があるため、早めに医師に相談しましょう。
  • 乳幼児や高齢者: 一般的に脱水しやすく、症状が重くなりやすい傾向があります。様子がおかしいと感じたら、早めに受診しましょう。

これらの症状は、脱水が進んでいる、重症化している、または他の病気を合併している可能性を示唆しています。
自己判断せず、医療機関で適切な診断と治療を受けることが大切です。

急性胃腸炎はうつる?感染を広げないための対策

急性胃腸炎の多くは、ウイルスや細菌による感染性の胃腸炎であり、人から人へうつる可能性があります。
特にノロウイルスなどは感染力が非常に強く、少しの注意不足で家族や周りの人に感染を広げてしまうことがあります。
感染を広げないための対策は非常に重要です。

感染経路の多くは「経口感染」です。
これは、病原体が付着した手で口に触れたり、病原体が付着した食品を食べたり、病原体が付着した飛沫を吸い込んだりすることによって、病原体が体内に入り込む感染経路です。
特に、患者さんの便や吐物には大量の病原体が含まれています。

感染を広げないための具体的な対策は以下の通りです。

  • 徹底した手洗い: これが最も重要で基本的な対策です。
    • 石鹸を使い、流水で十分に洗いましょう。指の間、爪の間、手の甲、手首まで丁寧に洗います。
    • 特に、トイレに行った後、おむつ交換の後、食事の前、調理の前には必ず行いましょう。
    • 可能であれば、二度洗いが推奨されます。一度目の手洗いで表面の汚れやウイルス・細菌を落とし、二度目でより確実に洗い流します。
    • アルコール消毒は一部のウイルス(特にノロウイルス)には効果が限定的です。手洗いが基本となります。
  • 吐物や便の適切な処理: 患者さんの吐物や便には大量のウイルスや細菌が含まれています。
    • 処理する際は、使い捨ての手袋、マスク、エプロンを着用しましょう。
    • 新聞紙などで覆い、水分を吸わせてから、ビニール袋に密封して捨てます。
    • 処理した場所や周辺は、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)で消毒します。家庭用塩素系漂白剤を適切に薄めて使用します。(目安:環境消毒には濃度0.02%、吐物や便には0.1%)換気を十分に行い、ゴム手袋をして作業しましょう。
    • 処理後は、手袋を外して石鹸と流水で丁寧に手洗いします。
  • タオルの共用を避ける: 患者さんのタオルは、他の家族と分けて使用しましょう。
  • 入浴の順番: 患者さんが最後に風呂に入るようにするか、シャワーで済ませるのが良いでしょう。風呂の残り湯にはウイルスが残っている可能性があるため、洗濯には使わず捨てるのが望ましいです。
  • 食品の取り扱いに注意:
    • 調理前には必ず手洗いを行います。
    • 特に二枚貝などを調理する際は、中心部まで十分に加熱(85~90℃で90秒以上)しましょう。
    • 患者さんが調理を行うのは避けましょう。
  • 衣類や寝具の消毒: 吐物や便が付着した衣類や寝具は、すぐに処理します。
    • 可能であれば、85℃以上の熱湯に1分間以上つけるか、塩素系漂白剤で消毒してから洗濯しましょう。
  • 室内の換気: 部屋の換気を行うことで、空気中に漂うウイルスや細菌の量を減らすことができます。
  • 体調管理:
    • 免疫力が低下していると感染しやすくなります。十分な睡眠やバランスの取れた食事を心がけ、体調を整えておくことも大切です。
  • ワクチン接種:
    • ロタウイルスにはワクチンがあります。乳幼児を対象とした定期接種となっているため、対象となるお子さんは接種を検討しましょう。ノロウイルスに対する有効なワクチンは、現在のところ実用化されていません。

これらの予防策を日頃から実践し、自分自身だけでなく、家族や周りの人たちを感染から守りましょう。

急性胃腸炎はどのくらいで治る?期間の目安

急性胃腸炎にかかった際、「いつまでこのつらい症状が続くのだろう」と不安になる方も多いでしょう。
急性胃腸炎が治るまでの期間は、原因や症状の重さ、個人の免疫力などによって異なりますが、一般的な目安があります。

大人の一般的な回復期間(1日〜3日など)

大人の場合、ウイルス性胃腸炎の症状のピークは発症後24時間以内であることが多く、通常1日から3日程度で自然に軽快していくことが一般的です。

  • 嘔吐: 発症初期に最も強く現れ、比較的早く(数時間~1日程度で)落ち着くことが多い症状です。
  • 下痢: 嘔吐よりも長引く傾向があり、数日から1週間程度続くことがあります。完全に通常の便に戻るまでにはさらに時間がかかることもあります。
  • 腹痛や吐き気、全身倦怠感: これらは症状が軽い場合は1~2日で改善しますが、炎症が強い場合は数日続くことがあります。

細菌性胃腸炎の場合、原因菌によっては症状がやや長引いたり、腹痛や発熱が強かったりすることもあります。
サルモネラやカンピロバクターなどでは、症状が1週間以上続くこともあります。

半日や一日で治ることはある?

急性胃腸炎の症状が半日や一日で劇的に改善し、治ったように感じることもあります
特に、黄色ブドウ球菌の毒素による胃腸炎(毒素型食中毒)などは、摂取後数時間で激しい嘔吐や下痢が起こりますが、原因物質(毒素)が体外に排出されれば、比較的短時間で症状が落ち着くことがあります。

また、ウイルス性胃腸炎でも、ごく軽い場合や、個人の免疫力が強い場合は、症状が短期間で治まることもあります。

しかし、症状が落ち着いたように見えても、まだ胃腸の機能が完全に戻っていなかったり、体内に病原体が残っていたりする場合があります。
そのため、症状が治まったからといってすぐに普段通りの生活や食事に戻すのではなく、しばらくは胃腸に負担をかけない生活を続け、完全に回復するまで油断しないことが重要です。
下痢が止まっても、便中にウイルスや細菌がしばらく排出される(排菌)期間があることにも注意が必要です。

回復期から通常生活への戻し方

急性胃腸炎のつらい症状が落ち着き、回復期に入ったら、慌てずに徐々に通常の生活に戻していくことが大切です。
無理をすると、再び症状が出たり、回復が遅れたりすることがあります。

  • 食事:
    • 症状が治まっても、すぐに普段通りの食事に戻すのは避けましょう。
    • 数日間は、前述の「回復期に食べるべき消化の良い食事」を中心に、胃腸に負担をかけないメニューを続けます。
    • 徐々に、少量ずつ、通常の食事に戻していきます。新しい食品を試す際は、少量から始め、体調の変化がないか確認しましょう。
    • 脂っこいもの、刺激物、生もの、乳製品、アルコール、炭酸飲料などは、完全に体調が戻るまで避けるのが賢明です。
  • 水分補給:
    • 下痢が止まっても、引き続き水分補給は意識的に行いましょう。特に、まだ便が柔らかい場合や、発熱があった場合は、体が水分を失っている可能性があります。
    • 常温の水やお茶を中心に飲みましょう。
  • 活動レベル:
    • 症状が落ち着いても、体力が完全に回復するには時間がかかります。
    • 仕事や学校への復帰後も、無理のない範囲で活動し、十分な休息を取るように心がけましょう。激しい運動はしばらく控える方が無難です。

仕事や学校への復帰目安

仕事や学校への復帰は、本人の体調が十分に回復していることが第一の目安です。

  • 一般的な目安:
    • 発熱がなくなり、嘔吐や下痢が治まって、食事が普通に摂れるようになってから、体調を見ながら復帰するのが一般的です。
    • 全身の倦怠感が取れて、ある程度体力が戻ってきたと感じられることも重要なサインです。
  • 感染性の胃腸炎の場合(特に学校や集団生活の場):
    • 原因がウイルス性胃腸炎(特にノロウイルス、ロタウイルス)の場合、症状がなくなっても、しばらくの間(通常は数日から1週間程度、長い場合は数週間)便中にウイルスが排出されることがあります(不顕性感染者からも排出される可能性)。この期間は、感染を広げる可能性があります。
    • 学校保健安全法では、学校感染症として特定の胃腸炎(伝染性紅斑、溶連菌感染症など)に登校基準が定められている場合がありますが、ノロウイルスなどの一般的な急性胃腸炎には、明確な「学校に来てはいけない期間」が定められていないことが多いです。
    • しかし、集団感染を防ぐという観点から、「嘔吐・下痢などの主要症状が消失し、全身状態が良いこと」を復帰の目安とする場合が多いです。具体的な基準は、学校や職場の規定、自治体の感染症対策などによって異なる場合がありますので、確認することをお勧めします。
    • 復帰後も、手洗いなどの感染対策を徹底することが重要です。

無理な早期復帰は、自身の回復を遅らせるだけでなく、周囲への感染リスクを高めることにもつながります。
医師に相談したり、学校や職場の規定を確認したりして、慎重に判断しましょう。

急性胃腸炎の予防方法

急性胃腸炎は、かかると非常につらい病気ですが、日頃からの予防策を実践することで、感染リスクを減らすことができます。
特に、感染性胃腸炎は、衛生管理を徹底することが予防の鍵となります。

主な予防方法は以下の通りです。

  • 手洗い: これが最も基本的で効果的な予防策です。
    • 食事前、調理前、トイレに行った後、外出から帰宅した後、感染者のケアをした後など、石鹸を使い、流水で丁寧に洗いましょう。特に指の間や爪の間は洗い忘れやすいので注意が必要です。
  • 食品の加熱:
    • 特に、貝類(カキなど)や肉類は、中心部まで十分に加熱することが重要です。(目安:85~90℃で90秒以上)
    • 生食する可能性のある野菜や果物も、よく洗いましょう。
  • 調理器具の衛生管理:
    • 調理に使ったまな板や包丁、ふきんなどは、使用後に洗剤でよく洗い、熱湯消毒や塩素系漂白剤での消毒を行うとより効果的です。
    • 特に、生肉や魚を扱った後の調理器具は、他の食材に病原体が移らないよう、十分に洗浄・消毒しましょう。
  • 感染者との接触に注意:
    • 急性胃腸炎にかかっている人の吐物や便の処理をする際は、手袋やマスクを着用し、処理後は丁寧に手洗いを行います。
    • 感染者と同じタオルや食器の共有は避けるのが望ましいです。
  • 清掃と消毒:
    • 感染者が使用したトイレや洗面所、ドアノブなど、よく触れる場所は、定期的に清掃し、必要に応じて塩素系漂白剤などで消毒しましょう。
  • 体調管理:
    • 免疫力が低下していると感染しやすくなります。十分な睡眠やバランスの取れた食事を心がけ、体調を整えておくことも大切です。
  • ワクチン接種:
    • ロタウイルスにはワクチンがあります。乳幼児を対象とした定期接種となっているため、対象となるお子さんは接種を検討しましょう。ノロウイルスに対する有効なワクチンは、現在のところ実用化されていません。

これらの予防策を日頃から実践し、自分自身だけでなく、家族や周りの人たちを感染から守りましょう。

まとめ|つらい症状は無理せず受診を

急性胃腸炎は、突然の嘔吐や下痢、腹痛といったつらい症状を引き起こす病気です。
多くの場合、原因はウイルスや細菌による感染です。
特定のウイルスに対する特効薬は基本的にありませんが、適切なセルフケアと安静によって、通常は数日で回復します。

急性胃腸炎の治し方の基本は、以下の3点です。

  • 脱水を防ぐためのこまめな水分補給(特に経口補水液)
  • 弱った胃腸を休ませるための食事療法(症状が強い時期は絶食、回復期は消化の良いものを少量から)
  • 十分な安静と休養

これらのセルフケアを丁寧に行うことが、回復を早めるために非常に重要です。

ただし、症状が重い場合や、水分が全く摂れない、強い腹痛が続く、血便が出る、高熱が出るといった症状が見られる場合は、脱水が進行していたり、重症化したり、他の病気の可能性があったりするため、無理をせずに医療機関を受診しましょう。
特に乳幼児や高齢者は重症化しやすいため、注意が必要です。

急性胃腸炎は人から人へうつる病気です。
感染を広げないためには、手洗いの徹底や、吐物・便の適切な処理といった感染対策が欠かせません。

治るまでの期間は個人差がありますが、大人の場合、通常1日から3日程度で症状のピークを越え、下痢はもう少し長引く傾向があります。
症状が落ち着いた後も、体調を見ながら徐々に通常の生活に戻していくことが大切です。

つらい症状に一人で耐えず、この記事で紹介した治し方や対処法を参考に、適切なケアを行ってください。
そして、受診の目安となる症状がある場合は、迷わず医療機関を受診し、医師の指示に従いましょう。

【免責事項】
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。
ご自身の症状に関する診断や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の判断に従ってください。
記事の内容によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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