急性胃腸炎と胃腸炎、ココが違う!症状・原因を分かりやすく解説

胃腸炎は、私たちの日常で比較的よく耳にする病気の一つです。
突然の吐き気や腹痛、下痢に襲われ、「胃腸炎かな?」と感じた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「急性胃腸炎」という言葉を聞くと、何か特別な病気のように感じる方もいるかもしれません。

実は、「胃腸炎」と「急性胃腸炎」は、病気そのものを指す言葉としては、ほとんど同じと考えて差し支えありません。
ただし、「急性」という言葉がつくことで、その病気の特徴をより具体的に表しています。では、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?本記事では、消化器専門医の視点から、胃腸炎と急性胃腸炎の関係性、それぞれの原因、症状、そして適切な対処法や治療法について、分かりやすく解説します。この情報を通じて、皆様がご自身の、あるいはご家族の胃腸の不調に対して、落ち着いて対応できるようになることを願っています。

目次

そもそも胃腸炎とは?胃炎・腸炎との関係

「胃腸炎」とは、その名の通り、胃と腸に炎症が起きる病気の総称です。
この炎症は、胃だけ、あるいは腸だけに起きる場合も含めて「胃腸炎」と呼ぶことがよくあります。医学的には、胃の炎症を「胃炎」、腸の炎症を「腸炎」と呼びます。

胃炎とはどのような病気?

胃炎は、胃の粘膜に炎症が生じる状態です。
原因は多岐にわたりますが、最も多いのはピロリ菌という細菌の感染です。ピロリ菌に長期間感染していると、慢性的な胃炎を引き起こし、胃潰瘍や胃がんのリスクを高めることが知られています。他にも、ストレス、痛み止めとして使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用、過度の飲酒や喫煙、食中毒、アレルギーなどが原因で胃炎が起こることもあります。胃炎の主な症状には、胃もたれ、みぞおちの痛み、吐き気、食欲不振などがあります。

腸炎とはどのような病気?

腸炎は、小腸や大腸といった腸の粘膜に炎症が生じる状態です。
腸炎の原因も様々で、ウイルスや細菌などの感染が最も一般的です。感染性腸炎は、汚染された飲食物を摂取したり、感染者との接触によって病原体が体内に入り込むことで発生します。感染性以外の原因としては、クローン病や潰瘍性大腸炎といった免疫の異常によって腸に慢性的な炎症が起こる病気(炎症性腸疾患)、薬剤の副作用、放射線治療の影響、虚血性腸炎(腸への血流が悪くなることによる炎症)などがあります。腸炎の主な症状は、下痢、腹痛、血便、発熱などです。

胃腸炎は胃と腸の両方に炎症

「胃腸炎」という言葉は、厳密には胃と腸の両方に炎症が起きている状態を指しますが、実際には胃炎と腸炎を区別するのが難しかったり、両方に症状が出ている場合が多いため、胃と腸のどちらか一方、あるいは両方に炎症が起きている状態をまとめて「胃腸炎」と呼ぶことが一般的です。
特に、後述する「急性胃腸炎」の多くは、ウイルスや細菌が原因で、胃と腸の両方に急性の炎症を引き起こすため、「胃腸炎」という言葉がよく使われます。

「急性」胃腸炎の特徴とは?慢性との違い

「急性胃腸炎」という言葉は、胃腸炎の中でも特に「急激に発症し、比較的短期間で症状が改善する」という特徴を持つ病態を指します。
「急性」という言葉は、病気の発症から経過までの時間的な性質を表しており、慢性的な経過をたどる「慢性胃腸炎」と区別するために使われます。

「急性」が示す一時的な炎症

急性胃腸炎は、文字通り「急性」に発症します。
つまり、前日まで元気だった人が、突然、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛といった強い症状に見舞われるのが特徴です。これらの症状は、原因や個人の体調によって異なりますが、多くの場合、数日から1週間程度でピークを過ぎ、徐々に回復していきます。この「急激な発症」と「比較的短期間での回復」が、「急性胃腸炎」の最も重要な特徴です。多くの場合、ウイルスや細菌といった病原体の感染によって引き起こされます。

慢性胃腸炎との比較

一方で、「慢性胃腸炎」は、急激な発症ではなく、症状が長期間(一般的には数週間から数ヶ月以上)にわたって続いたり、良くなったり悪くなったりを繰り返したりする状態を指します。
慢性胃腸炎の原因は、ピロリ菌感染による慢性胃炎、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、過敏性腸症候群(IBS)など、急性胃腸炎とは異なる場合が多く、治療法も異なります。

特徴 急性胃腸炎 慢性胃腸炎
発症 急激 緩徐または持続的
症状の経過 短期間(数日〜1週間程度)で改善 長期間(数週間〜数ヶ月以上)持続/再発
主な原因 ウイルス、細菌などの感染性 ピロリ菌、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、薬剤など
症状の程度 比較的強い症状が出やすい 軽度〜中等度の症状が多い
治療法 対症療法、自然治癒が多い 原因に応じた治療、体質改善など

このように、「急性」という言葉は、病気の発症様式と経過を表す重要なキーワードです。
「胃腸炎」という広い概念の中に、「急性胃腸炎」と「慢性胃腸炎」がある、と理解すると分かりやすいでしょう。一般的に「胃腸炎にかかった」という場合、多くは「急性胃腸炎」を指すことが多いです。

急性胃腸炎の主な原因

急性胃腸炎は、さまざまな原因によって引き起こされます。
その中でも最も多いのは、ウイルスや細菌といった病原体による感染です。

ウイルス性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)

ウイルス性胃腸炎は、急性胃腸炎の最も一般的な原因です。
特に冬場に流行することが多く、感染力が非常に強いのが特徴です。主な原因ウイルスには以下のようなものがあります。

  • ノロウイルス: 非常に感染力が強く、少量のウイルスでも感染します。冬期に多く発生し、保育園、学校、高齢者施設などでの集団発生の原因となりやすいです。吐き気、嘔吐、下痢、腹痛が主な症状で、発熱は軽度か見られないこともあります。潜伏期間は24〜48時間程度です。
  • ロタウイルス: 乳幼児に重症の胃腸炎を引き起こしやすいウイルスです。白色っぽい下痢が特徴で、嘔吐、発熱も見られます。冬期から春先にかけて流行します。感染力が強く、予防接種があります。潜伏期間は1〜3日程度です。
  • アデノウイルス: 一年を通じて感染が見られます。胃腸炎の他にも、風邪や結膜炎の原因にもなります。ロタウイルスと同様に乳幼児に多く見られ、下痢が比較的長く続くことがあります。潜伏期間は3〜10日程度です。
  • サポウイルス、アストロウイルスなど: ノロウイルスやロタウイルスほど頻繁ではありませんが、これらのウイルスも胃腸炎の原因となります。

これらのウイルスは、感染者の便や嘔吐物に含まれるウイルスが口に入ることで感染します(経口感染)。
汚染された食品(特に二枚貝など)や水、ウイルスが付着した物に触れた手を介して感染が広がります。

細菌性胃腸炎(サルモネラ菌、カンピロバクターなど)

細菌性胃腸炎は、ウイルス性に次いで多い原因です。
こちらは夏場に多く発生する傾向があり、「食中毒」として報告されることが多いです。主な原因細菌には以下のようなものがあります。

  • サルモネラ菌: 鶏卵や食肉などに含まれることがあり、十分に加熱されていない食品の摂取が原因となります。激しい腹痛、下痢、発熱、吐き気、嘔吐といった症状が出ます。潜伏期間は6〜48時間程度です。
  • カンピロバクター: 鶏肉に多く存在し、生や加熱不十分な鶏肉料理の摂取が主な原因です。サルモネラ菌と同様の症状が出ますが、下痢に血が混じることがあります。潜伏期間は2〜5日とやや長めです。
  • 病原性大腸菌: 腸管出血性大腸菌(O157など)、毒素原性大腸菌など、いくつかの種類があります。特にO157は、ベロ毒素という強い毒素を出し、出血性の下痢や溶血性尿毒症症候群(HUS)といった重篤な合併症を引き起こすことがあります。主に牛の糞便などに含まれ、加熱不十分な肉や汚染された水、野菜などから感染します。潜伏期間は3〜8日程度です。
  • 腸炎ビブリオ: 主に海水に生息し、夏場に生の魚介類を食べることで感染します。激しい腹痛と水様性の下痢が特徴です。潜伏期間は数時間〜3日程度と比較的短いです。
  • 黄色ブドウ球菌: 食品中で増殖する際に毒素(エンテロトキシン)を産生し、この毒素を摂取することで発症します。症状は吐き気、嘔吐、腹痛が中心で、下痢はあまり強くありません。毒素を摂取してから症状が出るまでの時間が非常に短い(1〜5時間)のが特徴です。

細菌性胃腸炎は、病原体が付着した食品を十分に加熱せずに食べたり、調理中に他の食品を汚染したりすることで発生します。
衛生管理が非常に重要になります。

その他の原因(ストレス、薬剤など)

感染性胃腸炎が最も多い原因ですが、感染以外の要因で胃腸に急性の炎症や症状が出現することもあります。

  • 薬剤: 抗生物質の中には、腸内細菌のバランスを崩し、下痢を引き起こすものがあります。また、一部の抗がん剤や免疫抑制剤なども胃腸の粘膜に影響を与え、吐き気や下痢の原因となることがあります。
  • ストレス: ストレスは直接的に急性胃腸炎を引き起こすわけではありませんが、自律神経の乱れを通じて胃酸の分泌を増やしたり、腸の動きを異常にしたりすることで、吐き気、腹痛、下痢などの症状を引き起こすことがあります。また、ストレスによって免疫力が低下し、感染性の胃腸炎にかかりやすくなる可能性も指摘されています。
  • アレルギー: 特定の食品に対するアレルギー反応として、急性の吐き気、嘔吐、腹痛、下痢といった症状が出ることがあります。
  • 毒物: キノコや植物の誤食、化学物質の摂取などによって、胃腸に急性の炎症や機能障害が起きることがあります。
  • 虚血性腸炎: 比較的まれですが、高齢者などで腸への血流が一時的に悪くなることで、急性の腹痛や下痢(時に血便)を引き起こすことがあります。

このように、急性胃腸炎の原因は多岐にわたりますが、多くはウイルスや細菌による感染が原因であることを理解しておくことが重要です。
原因によって、感染力や症状の経過、必要な対処法が異なる場合があります。

急性胃腸炎の典型的な症状

急性胃腸炎にかかると、胃や腸の炎症によってさまざまな不快な症状が現れます。
症状の種類や程度は、原因となった病原体、個人の体調、年齢などによって異なりますが、一般的に以下のような症状が見られます。

吐き気・嘔吐

急性胃腸炎の初期に非常によく見られる症状です。
特にウイルス性胃腸炎(ノロウイルスなど)の場合、突然の強い吐き気や繰り返し起こる嘔吐が特徴的です。これは、体内に入り込んだ病原体やその毒素を体外に排出しようとする、体の防御反応の一つと考えられています。嘔吐が続くと、水分や電解質が失われやすいため、脱水に注意が必要です。

下痢

下痢も急性胃腸炎の主要な症状の一つです。
病原体が腸の粘膜に炎症を引き起こしたり、毒素を出したりすることで、腸での水分の吸収がうまくいかなくなったり、腸の動きが異常に活発になったりして起こります。下痢の回数や便の性状(水っぽい、泥状、粘液が混じる、血が混じるなど)は原因によって異なります。例えば、細菌性胃腸炎では血便が見られることもあります。下痢が続くと、脱水や電解質バランスの異常を起こしやすくなります。

腹痛

お腹の痛みもよく見られる症状です。
腸管の炎症や、下痢に伴う腸の過剰な収縮によって起こります。痛みの場所や種類(キリキリ、シクシク、差し込むような痛みなど)も個人差があり、原因によっても異なります。強い痛みが持続する場合は、他の病気の可能性も考慮する必要があります。

発熱

発熱が見られることもあります。
これは、体が病原体と戦っている証拠です。ウイルス性胃腸炎では比較的軽度の発熱(微熱程度)や発熱がないことも多いですが、細菌性胃腸炎では比較的高熱が出やすい傾向があります。

その他の症状(頭痛、全身倦怠感など)

上記の主な症状に加えて、以下のような全身症状が見られることもあります。

  • 頭痛: 発熱に伴う場合や、脱水によって起こる場合があります。
  • 全身倦怠感: 体が病原体と戦うためにエネルギーを使ったり、脱水や栄養不足によって起こります。体がだるく、起き上がるのも辛く感じることがあります。
  • 筋肉痛・関節痛: 体の免疫反応として、筋肉や関節に痛みを感じることがあります。
  • 食欲不振: 吐き気や腹痛、全身倦怠感などの影響で、食欲が低下します。
  • 脱水症状: 嘔吐や下痢によって体内の水分や電解質が失われると、口の渇き、尿量の減少、めまい、立ちくらみ、顔色の悪さ、意識の低下といった脱水症状が現れることがあります。特に小さな子どもや高齢者では脱水が進行しやすいため、注意が必要です。

下痢がない急性胃腸炎もある?

急性胃腸炎といえば、多くの人が「下痢」を思い浮かべるかもしれませんが、必ずしも下痢が必須の症状ではありません。
特に発症初期には、吐き気や嘔吐、腹痛が主な症状で、下痢は後から出てくるか、あるいは比較的軽度で済むケースもあります。原因によっては、嘔吐が強く、下痢はほとんど見られないこともあります(例:一部のウイルス感染)。また、ストレスや薬剤などが原因の場合も、下痢よりも胃の症状(吐き気、みぞおちの痛み)が強く出ることがあります。症状は多様であることを理解し、下痢がないからといって胃腸炎ではないと決めつけないことが大切です。

胃腸炎・急性胃腸炎の治療法と対処法

急性胃腸炎の治療は、原因によって多少異なりますが、多くの場合は、症状を和らげながら体の回復を待つ「対症療法」が中心となります。原因を取り除く治療(原因療法)が必要な場合もありますが、自己判断は禁物です。

基本となる対症療法

急性胃腸炎の症状は、体に入った病原体や毒素を排出し、体を守るための反応でもあります。
そのため、基本的には体の回復力を助け、症状によって失われた水分や栄養を補給することが最も重要になります。

  • 安静: 症状が強い時期は、無理をせず十分に休息をとることが大切です。体を休めることで、病気と闘うエネルギーを温存できます。
  • 水分・電解質補給: 嘔吐や下痢によって失われた水分や電解質を補うことが、脱水を防ぎ、回復を早めるために最も重要です。
  • 食事: 症状が落ち着いてきたら、胃腸に負担をかけない消化の良い食事を少量ずつ摂るようにします。

最も重要な水分・電解質補給

脱水は急性胃腸炎で最も注意すべき合併症です。
特に、嘔吐や下痢が続いている場合は、こまめな水分補給が不可欠です。

  • 何を飲むか: 水やお茶だけでなく、スポーツドリンクや経口補水液(OS-1など)がおすすめです。これらは水分と一緒に体に必要な電解質(ナトリウム、カリウムなど)も含まれているため、効率よく水分と電解質を補給できます。特に経口補水液は、脱水時の体液に近い成分比率で作られており、体への吸収が良いとされています。市販のジュースや炭酸飲料は糖分が多く、かえって下痢を悪化させたり、電解質が不足したりすることがあるため、避けた方が無難です。
  • どう飲むか: 一度にたくさん飲むと、吐き気を誘発したり、嘔吐してしまったりすることがあります。スプーンや小さなコップで、少量(例:5〜10ml程度)を頻繁に(例:5〜10分おきに)口に含むようにしましょう。嘔吐がひどい場合は、しばらく水分摂取を中止し、落ち着いてからごく少量ずつ再開するという方法もあります。症状が落ち着いてきたら、飲む量や間隔を徐々に増やしていきます。
  • 脱水のサイン: 口の渇き、尿量の減少(色が濃くなる)、めまい、立ちくらみ、皮膚の弾力性の低下(つまんでも元に戻りにくい)、元気がない、泣いても涙が出ない(子ども)などのサインが見られたら、脱水が進んでいる可能性があります。特に小さな子どもや高齢者では進行が早いため、注意深く観察し、疑わしい場合は早めに医療機関を受診しましょう。

消化の良い食事と絶食期間の目安

症状が強い時期、特に嘔吐が続いている間は、固形物を無理に食べる必要はありません。一時的に絶食し、胃腸を休ませることが大切です。水分補給を中心に乗り切りましょう。

嘔吐が治まり、お腹の調子が少し落ち着いてきたら、少しずつ食事を再開します。
最初は、胃腸に負担のかからない、消化の良いものから始めましょう。

  • 初期(嘔吐が止まり、下痢がやや落ち着いてきたら): お粥(重湯から始め、徐々に固さを戻す)、具なしの味噌汁の上澄み、すりおろしりんご、ゼリー、ヨーグルト(体調による)など。
  • 回復期(下痢が改善傾向になったら): 柔らかく煮たうどん、白身魚の煮付け、鶏むね肉のささみ(脂身なし)、卵豆腐、豆腐、湯通しした野菜(じゃがいも、にんじんなど)、食パン(耳なし)など。
  • 避けるべき食品: 脂っこいもの(揚げ物、中華料理、ラーメンなど)、食物繊維が多いもの(きのこ、海藻、ごぼう、こんにゃくなど)、香辛料が多いもの(カレー、唐辛子など)、冷たいもの、生もの(刺身、生野菜)、アルコール、カフェインを含む飲料(コーヒー、紅茶、緑茶)、牛乳などの乳製品(一時的に乳糖不耐症になることがある)。これらの食品は胃腸に負担をかけたり、下痢を悪化させたりする可能性があります。

食事は少量ずつ、よく噛んでゆっくり食べることが大切です。症状を見ながら、食べられるものを増やしていきましょう。焦って普通の食事に戻すと、症状がぶり返すことがあります。

薬物療法について

急性胃腸炎に対する薬物療法は、原因や症状に応じて検討されますが、対症療法を補う目的で使われることが多いです。自己判断で市販薬を使用する際は注意が必要です。

  • 吐き気止め: 吐き気や嘔吐がひどい場合に処方されることがあります。ただし、体の防御反応である嘔吐を完全に止めることは、病原体や毒素の排出を妨げる可能性があるため、医師の判断が必要です。
  • 整腸剤: 腸内細菌のバランスを整え、下痢を改善する効果が期待できます。比較的安全に使用できます。
  • 下痢止め: 下痢を抑える薬です。しかし、感染性の胃腸炎の場合、下痢を止めることで病原体や毒素が体内に留まり、かえって回復を遅らせたり、重症化させたりする可能性があります。特に細菌性胃腸炎の場合や、O157などの感染が疑われる場合には、安易に使用すべきではありません。使用する際は、必ず医師の指示に従ってください。
  • 解熱鎮痛剤: 発熱や腹痛が強い場合に処方されることがあります。ただし、NSAIDsなどの一部の痛み止めは、胃腸への負担をかけることがあるため、医師に相談が必要です。
  • 抗生物質: 細菌性胃腸炎の場合に、原因菌の種類によっては抗生物質が有効なことがあります。しかし、ウイルス性胃腸炎には抗生物質は効果がありません。原因が細菌性であるかどうかの診断と、適切な抗生物質の選択は医師が行う必要があります。自己判断で抗生物質を使用したり、途中で服用をやめたりすることは、耐性菌の発生につながるリスクがあるため、絶対に避けましょう。

このように、急性胃腸炎の治療は、水分補給と食事療法といったセルフケアが基本となりますが、症状が重い場合や特定の原因が疑われる場合は、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが非常に重要です。

こんな症状は要注意!病院に行くべき目安

多くの急性胃腸炎は、自宅での安静や水分・食事補給で自然に回復に向かいますが、中には医療機関での診察が必要なケースや、緊急性の高いケースも存在します。ご自身の、あるいはご家族の症状をよく観察し、以下のサインが見られた場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。

医療機関の受診を検討すべきサイン

  • 水分が全く摂れない、または飲んでもすぐに吐いてしまう: 脱水が急速に進む危険性があります。経口での水分補給が困難な場合は、点滴が必要になることもあります。
  • 強い腹痛が持続する、あるいは悪化する: 単なる胃腸炎の痛みだけでなく、他の病気(虫垂炎、腸閉塞、膵炎など)の可能性も考慮する必要があります。
  • 便に血が混じっている(血便): 特に多量の血便や、ゼリー状の粘液が混じるような便の場合、細菌性胃腸炎や他の重篤な腸の病気の可能性があります。
  • 高熱が続く: 一般的なウイルス性胃腸炎では微熱程度であることが多いですが、38.5℃以上の高熱が続いたり、全身状態が悪化したりする場合は、細菌感染など他の原因や合併症の可能性も考慮が必要です。
  • 尿量が著しく少ない、または全く出ない: 重度の脱水を示唆するサインです。
  • 顔色が悪い、ぐったりしている、意識がもうろうとしている: 全身状態が悪化しており、緊急性の高い状態です。
  • 症状が長引く(数日経っても改善しない、あるいは悪化する): 一般的な急性胃腸炎は通常数日でピークを越えますが、長引く場合は他の原因や合併症を考慮する必要があります。
  • 持病がある方: 糖尿病、腎臓病、心臓病、免疫不全など、持病がある方が胃腸炎にかかると、病状が悪化したり、脱水によって持病に悪影響が出たりすることがあります。かかりつけ医に相談しましょう。
  • 妊婦の方: 妊娠中は体調が変化しやすく、脱水などが母体や胎児に影響を与える可能性もあります。早めに医師に相談しましょう。

これらのサインが見られた場合は、内科や消化器内科を受診しましょう。
休日や夜間であれば、救急外来の受診も検討してください。受診の際には、いつからどのような症状が出ているか、水分や食事はどのくらい摂れているか、普段飲んでいる薬や持病の有無などを具体的に伝えられるように準備しておくとスムーズです。

小さな子どもや高齢者の場合は特に注意

小さな子どもや高齢者は、成人よりも脱水を起こしやすく、重症化しやすい傾向があります。注意深く観察し、異変を感じたら早めに医療機関を受診することが非常に重要です。

  • 子どもの場合: 機嫌が悪く泣き止まない、呼びかけに反応が鈍い、目がくぼんでいる、唇や舌が乾いている、皮膚の弾力がない、おしっこの回数や量が著しく少ない、熱性けいれんを起こした、などが受診の目安です。子どもは症状をうまく伝えられないため、保護者が注意深く観察する必要があります。
  • 高齢者の場合: 脱水によって意識障害を起こしたり、腎臓の機能が悪化したりすることがあります。普段よりも元気がない、食欲がない、ぼんやりしている、立ち上がれない、といった様子が見られたら注意が必要です。

胃腸炎・急性胃腸炎に関するよくある質問 (FAQ)

急性胃腸炎は何日で治る?

急性胃腸炎の回復期間は、原因となった病原体や個人の体調によって異なりますが、多くの場合、症状のピークは発症から24〜48時間以内であり、その後は徐々に症状が軽快し、数日〜1週間程度で回復することが多いです。例えば、ノロウイルス胃腸炎は比較的症状が強く出ますが、通常1〜2日で回復に向かいます。ロタウイルス胃腸炎は下痢が長引き、1週間程度続くこともあります。細菌性胃腸炎も種類によって回復期間が異なります。症状が1週間以上続く場合や、一時的に改善した後に再び悪化する場合は、他の原因や合併症の可能性も考慮し、医療機関に相談しましょう。

急性胃腸炎は他の人にうつる?

感染性の急性胃腸炎(ウイルス性や細菌性)は、他の人にうつる可能性が非常に高いです。特にウイルス性胃腸炎は感染力が強く、少量のウイルスでも感染が成立します。主な感染経路は、患者の便や嘔吐物に含まれる病原体が、直接的または間接的に口に入る「経口感染」です。例えば、

  • 汚染された食品や水を摂取する。
  • 患者が触れたものに触れた後、手を洗わずに口や鼻に触れる(接触感染)。
  • 患者の嘔吐物が飛び散った空気を吸い込む(飛沫感染、エアロゾル感染)。

これらの感染を防ぐためには、以下の対策が重要です。

  • 手洗い: 食事前、トイレの後、調理前には石鹸を使って流水で十分に手を洗いましょう。指の間、爪の間、手首まで丁寧に洗うことが大切です。
  • 食品の取り扱い: 特に二枚貝や肉類は中心部まで十分に加熱しましょう。生食はリスクを伴います。調理器具(まな板、包丁など)は使用後すぐに洗浄・消毒しましょう。
  • 患者のケア: 患者の便や嘔吐物を処理する際は、使い捨ての手袋やマスクを使用し、処理後は石鹸でしっかりと手洗いしましょう。嘔吐物の処理には、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤を使った消毒が有効です。(アルコール消毒はノロウイルスなど一部のウイルスには効果が低い場合があります)
  • タオルの共有を避ける: 家族内でもタオルの共有は避け、個人専用のものを使用しましょう。

症状が改善した後も、しばらくは便の中にウイルスや細菌が排出されていることがあります。
回復後も数日間は引き続き感染対策に気を配ることが大切です。

ストレスで胃腸炎になることはある?

ストレスが直接の原因となって「感染性」の急性胃腸炎になるわけではありません。しかし、ストレスは間接的に胃腸の機能に影響を与え、吐き気、腹痛、下痢、胃もたれといった症状を引き起こすことがあります。これは、ストレスによって自律神経のバランスが乱れ、胃酸の分泌や腸の動きが異常になるためと考えられています。

また、慢性的なストレスは体の免疫力を低下させる可能性があります。免疫力が低下すると、ウイルスや細菌といった病原体に対する抵抗力が弱まり、感染性の胃腸炎にかかりやすくなったり、かかった場合の症状が重くなったり、回復が遅れたりすることが考えられます。

したがって、「ストレス性の胃腸炎」という言葉は、感染による炎症というよりは、ストレスによって引き起こされる機能性の胃腸症状を指すことが多いです。しかし、ストレスが症状の一因となったり、感染リスクを高めたりする可能性はあるため、日頃からストレスを適切に管理することも、胃腸の健康を保つ上で重要です。

ノロウイルスと急性胃腸炎はどう違う?

ノロウイルスは、急性胃腸炎を引き起こす原因となるウイルスの「種類の一つ」です。つまり、「ノロウイルス」は病原体の名前、「急性胃腸炎」はその病原体によって引き起こされる病気の「病態名」です。

急性胃腸炎の原因は、ノロウイルスの他にも、ロタウイルス、アデノウイルスといったウイルスや、サルモネラ菌、カンピロバクター、病原性大腸菌といった細菌など、様々なものがあります。これらの病原体によって胃や腸に急性の炎症が起こり、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛といった症状が現れた状態を総称して「急性胃腸炎」と呼びます。

したがって、「ノロウイルスと急性胃腸炎はどう違う?」という疑問に対しては、「ノロウイルスは急性胃腸炎の多くの原因のうちの一つである」と答えるのが正しい理解です。ノロウイルスによる急性胃腸炎は、特に冬場に多く発生し、急激な吐き気や嘔吐が特徴的ですが、症状は原因によって多様です。

まとめ:急性胃腸炎と胃腸炎の違いを理解し、適切に対処しましょう

胃腸炎と急性胃腸炎は、一般的にはほぼ同じ病態を指し、急激な吐き気、嘔吐、下痢、腹痛といった症状を特徴とする胃や腸の炎症です。その多くは、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス、あるいはサルモネラ菌やカンピロバクターなどの細菌といった病原体の感染によって引き起こされます。

「急性」という言葉は、病気が急激に発症し、比較的短期間(数日〜1週間程度)で回復に向かうという時間的な経過を示しており、症状が長期間続く慢性胃腸炎とは区別されます。

急性胃腸炎にかかった場合の最も重要な対処法は、吐き気や下痢による脱水を防ぐためのこまめな水分・電解質補給と、胃腸を休ませるための安静、そして消化の良い食事です。多く場合はこれらの対症療法で自然に回復しますが、症状が重い場合や、水分が全く摂れない、強い腹痛、血便、高熱、脱水症状が見られる場合、あるいは小さな子どもや高齢者の場合は、迷わず医療機関を受診することが大切です。

感染性の急性胃腸炎は周囲の人にうつりやすいため、手洗いの徹底や食品の適切な管理など、感染対策をしっかり行うことも重要です。

ご自身の症状や状況をよく観察し、適切なセルフケアを行いながら、必要に応じて早めに専門家に相談しましょう。正しい知識を持って適切に対処することで、辛い症状を乗り越え、速やかな回復を目指すことができます。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。記事の内容によって生じたいかなる損害についても、当方は責任を負いかねます。

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