血尿の原因と治し方|病院に行くべきサインと対処法

血尿を見つけて驚きや不安を感じている方もいるかもしれません。尿の色が赤っぽい、ピンク色をしている、よく見ると小さな血の塊があるなど、その見え方は様々です。
また、痛みなどの他の症状を伴う場合もあれば、血尿以外に全く症状がない場合もあります。

血尿は、体のどこかに異常があるサインである可能性が高く、原因は多岐にわたります。膀胱炎のような比較的軽い病気から、尿路結石による痛み、あるいは深刻な病気であるがんの初期症状として現れることもあります。そのため、「そのうち治るだろう」と自己判断で放置することは非常に危険です。

この記事では、血尿が出たときに考えられる様々な原因、それぞれの原因に応じた「治し方」、そしてすぐに医療機関を受診すべきサインや放置した場合のリスクについて詳しく解説します。血尿に気づいたあなたが、落ち着いて適切な対応をとるための知識を提供できれば幸いです。まずはこの記事を読み、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。そして、必ず専門医である泌尿器科医に相談し、正確な診断と適切な治療を受けるようにしましょう。

血尿とは、文字通り尿の中に血液が混じっている状態を指します。その見え方によって、「肉眼的血尿」と「顕微鏡的血尿」の二つに大きく分けられます。

肉眼的血尿は、ご自身の目で見て尿の色が赤色やピンク色、茶褐色などに変化していることがはっきりとわかる血尿です。少量でも尿全体に色がつくため、視覚的にインパクトが大きく、発見した際に不安を感じやすいでしょう。肉眼的血尿は、尿の中に比較的多くの赤血球が含まれていることを示唆しています。

一方、顕微鏡的血尿は、見た目には普通の尿と変わらず、色がついていない血尿です。これは、尿検査(尿を顕微鏡で調べる検査)を行った際に初めて発見されるものです。尿1マイクロリットルあたり5個以上の赤血球が認められる場合に顕微鏡的血尿と診断されるのが一般的です。自覚症状がないため、健康診断や他の病気の検査で偶然発見されるケースが多くあります。

肉眼的血尿、顕微鏡的血尿のどちらであっても、尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)や、男性であれば前立腺などに何らかの異常があるサインである可能性があります。肉眼で見える血尿の方が原因が重篤であるとは限りませんが、より多くの出血があることを示している場合が多いです。どちらの血尿であっても、見つかった場合は必ず医療機関を受診し、原因を特定するための詳しい検査を受けることが重要です。

目次

血尿の原因として考えられる病気

血尿は、尿が作られて体外に排出されるまでの経路(尿路)のどこかに問題があることを示しています。原因となる病気は非常に多岐にわたり、年齢や性別、他の症状の有無によって可能性のある病気が絞られていきます。ここでは、血尿の主な原因として考えられる病気をいくつかご紹介します。

膀胱炎や尿道炎などの感染症

尿路感染症は、血尿の最も一般的な原因の一つです。特に女性に多い膀胱炎は、細菌が尿道から侵入し、膀胱内で増殖することで炎症を起こす病気です。典型的な症状として、排尿時の痛み(排尿痛)、何度もトイレに行きたくなる(頻尿)、排尿後もすっきりしない感じ(残尿感)などがあり、これらの症状に伴って血尿が現れることがよくあります。通常は肉眼でわかる血尿が出ることが多いですが、軽度の場合は顕微鏡的血尿にとどまることもあります。

男性に多い尿道炎も、細菌やクラミジアなどの性感染症の原因菌が尿道に感染して炎症を起こす病気です。排尿時の痛みや尿道のかゆみ・違和感、膿(うみ)が出るなどの症状が一般的ですが、炎症が強い場合には血尿を伴うこともあります。

腎臓に細菌感染が及んだ腎盂腎炎(じんうじんえん)でも血尿が見られることがあります。腎盂腎炎は、高熱や悪寒、腰の痛みなどを伴う、より重い感染症です。

これらの感染症による血尿は、原因菌を特定し、適切な抗生物質などで治療することで改善します。

尿路結石(腎臓結石、尿管結石、膀胱結石)

尿路結石は、尿の成分が固まって石のような塊ができ、尿路の中で詰まったり移動したりすることで様々な症状を引き起こす病気です。結石ができる場所によって、腎臓結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石などと呼ばれます。

結石が尿路を移動する際に粘膜を傷つけたり、尿の流れを妨げたりすることで、激しい痛み(特に尿管結石による疝痛発作)や吐き気、冷や汗などを伴うことがあります。この際に、傷ついた粘膜からの出血が血尿として現れます。尿管結石の痛みは「七転八倒の苦しみ」と表現されるほど強いことが多いですが、痛みの程度にかかわらず血尿が出ることが特徴です。結石による血尿は、肉眼的血尿である場合が多いですが、顕微鏡的血尿にとどまることもあります。

結石の大きさや場所によって治療法が異なり、自然に排石されるのを待つ場合もあれば、薬物療法や体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、内視鏡手術などが必要になることもあります。

腎臓病(糸球体腎炎など)

腎臓病の中にも、血尿を主な症状とするものがあります。特に糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)は、腎臓の血液をろ過する部分(糸球体)に炎症が起きる病気で、様々な原因で発症します。

糸球体腎炎による血尿は、顕微鏡的血尿である場合が多いですが、風邪などの感染症にかかった後などに一時的に肉眼的血尿が現れることもあります(これをIgA腎症などでよく見られる「肉眼的血尿発作」と呼びます)。血尿以外に、尿にタンパクが混じる(タンパク尿)、体のむくみ、高血圧などの症状を伴うこともあります。

腎臓病による血尿は、痛みなどの自覚症状が少ない場合があるため、健康診断などで偶然発見されるケースも少なくありません。腎臓病は進行すると腎機能が低下し、慢性腎臓病に至る可能性もあるため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。治療は病気の種類や進行度によって異なり、免疫抑制剤の使用や生活習慣の改善などが行われます。

尿路悪性腫瘍(膀胱がん、腎盂がん、尿管がん)

血尿が出た場合に最も注意が必要な原因の一つが、尿路にできた悪性腫瘍、つまり「がん」です。特に膀胱がんは、血尿を初期症状として発見されることが最も多いがんです。腎臓で作られた尿が膀胱に溜まるため、膀胱は発がん性物質の影響を受けやすく、がんが発生しやすい部位です。喫煙は膀胱がんの最大のリスク因子とされています。

膀胱がんや、腎臓内の尿が集まる部分(腎盂)にできる腎盂がん、腎臓と膀胱をつなぐ管(尿管)にできる尿管がんは、比較的早期の段階で血尿が現れることがあります。これらの「尿路上皮がん」による血尿の特徴は、痛みを伴わない(無痛性)ことが多い点です。また、血尿が出たり止まったりを繰り返すこともあります。痛みがなく、一時的に血尿が消えると「治ったのかな?」と思ってしまいがちですが、これは非常に危険なサインです。痛みのない血尿は、特にがんの可能性を疑って、すぐに医療機関を受診する必要があります。

がんの治療は、病気の種類や進行度によって手術、放射線療法、化学療法などが選択されます。早期に発見し治療を開始することが、良好な予後につながります。

前立腺の病気(男性の場合)

男性特有の原因として、前立腺の病気が血尿を引き起こすことがあります。前立腺は膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲んでいます。

前立腺肥大症は、加齢とともに前立腺が大きくなり、尿道を圧迫することで排尿困難、頻尿、残尿感などの症状を引き起こす病気です。肥大した前立腺の血管が破れやすくなるため、血尿を伴うことがあります。特にいきんだりすると血尿が出やすい傾向があります。

前立腺炎は、前立腺に炎症が起こる病気で、排尿時の痛みや頻尿、下腹部や会陰部の不快感などを伴います。炎症によって前立腺が腫れたり、血管がもろくなったりすることで血尿が見られることがあります。

前立腺がんでも血尿が出ることがありますが、早期には自覚症状がないことが多く、進行してから排尿困難や血尿などの症状が現れる場合があります。前立腺がんの診断には、PSA検査(血液検査)や生検が必要です。

前立腺の病気による血尿は、原因疾患の治療(薬物療法、手術など)によって改善されます。

女性特有の血尿原因

血尿の原因の多くは男女共通ですが、女性に特有の、あるいは女性で起こりやすい原因もあります。前述の膀胱炎は、女性の方が尿道が短く細菌が膀胱に侵入しやすいため、男性に比べて圧倒的に多く発生します。

血尿のように見えるものの、実際には月経血が混じっている偽性血尿も、女性特有の注意点です。月経中やその前後に尿が赤く見える場合は、生理的な出血である可能性が高いですが、それでも念のため確認することが大切です。

また、非常に稀ですが、子宮や卵巣などの生殖器系の病気が尿路を圧迫したり影響を及ぼしたりして、間接的に血尿を引き起こす可能性も考えられます。しかし、通常、血尿は尿路や腎臓の病気で起こることがほとんどです。

その他の血尿原因(薬剤性、ストレス、運動後など)

上記以外にも、血尿の原因となる可能性のあるものがあります。

薬剤性の血尿としては、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬、抗血小板薬など)を服用している場合に、些細なきっかけで尿路からの出血が増加し、血尿として現れることがあります。また、一部の抗がん剤なども膀胱の粘膜を刺激し、血尿を引き起こす可能性があります。

激しい運動、特にマラソンなどの長距離走やコンタクトスポーツを行った後に、一時的に血尿が見られることがあります。これは、運動によって腎臓や膀胱に物理的な刺激が加わったり、筋肉が破壊されることで生じる成分が腎臓に負担をかけたりすることが原因と考えられています。通常は一時的なもので、安静にしていれば数日で改善することが多いですが、繰り返す場合や症状が強い場合は医療機関を受診すべきです。

ストレスと血尿の関係

直接的にストレスが血尿を引き起こす医学的な機序は確立されていませんが、ストレスによって体の免疫力が低下したり、自律神経のバランスが乱れたりすることで、間接的に血尿につながる可能性が指摘されることがあります。例えば、ストレスによって膀胱炎になりやすくなったり、既存の尿路の病気の症状が悪化したりすることが考えられます。また、精神的なストレスが痛みの感じ方や体の不調として現れることもあります。血尿の原因が特定できない場合に、精神的な要因が関与している可能性もゼロではありませんが、まずは器質的な疾患(体の異常)がないかをしっかりと調べることが最優先です。

痛みを伴わない血尿の原因

前述のように、血尿が出ているのに全く痛みを伴わない(無痛性血尿)場合は、特に注意が必要です。痛みを伴う血尿が膀胱炎や尿路結石など比較的緊急性の高い病気を示すことが多いのに対し、痛みのない血尿は以下のような、より深刻な病気のサインである可能性があります。

  • 尿路悪性腫瘍(膀胱がん、腎盂がん、尿管がん): これらが無痛性血尿の最も警戒すべき原因です。早期発見が非常に重要です。
  • 腎臓病の一部: 糸球体腎炎など、腎臓自体の病気による血尿は痛みを伴わないことが多いです。
  • 前立腺肥大症: 症状の一つとして血尿が出る場合がありますが、常に痛みがあるわけではありません。

痛みがなくても血尿が出た場合は、必ず泌尿器科を受診し、精密検査を受けるようにしてください。痛くないからと放置してしまうことが、病気の発見を遅らせることにつながります。

高齢者の血尿に潜むリスク

高齢者、特に男性の場合、血尿が見られたときには若い人に比べて悪性腫瘍(がん)の可能性が高まる傾向があります。加齢とともに膀胱がんや前立腺がんなどの発生リスクが上昇するためです。

高齢者の血尿の原因として考えられる主なものは以下の通りです。

  • 膀胱がん
  • 前立腺がん
  • 前立腺肥大症
  • 尿路感染症(高齢者は抵抗力が低下しやすいため)
  • 腎臓病
  • 尿路結石(若い人に比べて痛みが強くない場合がある)

高齢者の血尿は、加齢による生理的な変化と区別がつきにくかったり、他の持病の影響があったりする場合もあります。また、自覚症状をうまく伝えられなかったり、痛みがなくても「歳だから仕方ない」と自己判断してしまったりすることもあるかもしれません。

高齢者の血尿は、たとえ少量であっても、痛みがなくても、放置せずに必ず医療機関を受診し、特に悪性腫瘍の可能性を念頭に置いた検査を受けることが非常に重要です。

血尿の「治し方」は原因となる病気によって異なる治療

血尿そのものは症状であり、病気そのものではありません。したがって、血尿を「治す」ためには、血尿を引き起こしている根本的な原因疾患を特定し、その病気に応じた適切な治療を行う必要があります。原因が特定されれば、泌尿器科医が患者さんの全身状態や病気の進行度などを考慮して、最適な治療計画を立てます。

膀胱炎・尿道炎の治療法

膀胱炎や尿道炎などの尿路感染症が原因である場合、治療の中心は抗生物質の内服です。通常、数日から1週間程度の抗生物質を服用することで、原因となっている細菌を死滅させ、炎症を鎮めます。抗生物質の種類は、原因菌の種類や患者さんの状態によって選択されます。症状が比較的軽い場合は、短期間の服用で改善が見られますが、医師の指示された期間はしっかりと薬を飲み切ることが重要です。途中で自己判断で服用をやめてしまうと、菌が完全に死滅せず、再発したり抗生物質が効きにくい耐性菌が増殖したりするリスクがあります。

抗生物質による治療と並行して、水分を十分に摂取することも推奨されます。水分を多く摂ることで尿量が増え、膀胱内の細菌を洗い流す効果が期待できます。また、安静にすることも回復を助けます。

症状が重い場合や、腎盂腎炎に進行している場合は、入院して点滴による抗生物質治療が必要になることもあります。

尿路結石の治療法

尿路結石の治療法は、結石の大きさ、場所、数、および患者さんの症状や全身状態によって異なります。

  • 自然排石を促す: 結石が比較的小さい(一般的に10mm未満)場合は、自然に尿と一緒に体外へ排石されるのを待つことが可能です。この間、水分を十分に摂取することや、尿管の痙攣を抑えたり結石の排出を助けたりする薬(排石促進薬など)が処方されることがあります。痛みが強い場合は、鎮痛剤を使用します。
  • 体外衝撃波結石破砕術(ESWL): 体の外から衝撃波を当てて、結石を細かく砕き、自然排石されやすくする治療法です。非侵襲的で体への負担が少ないのが特徴ですが、結石の種類や大きさによっては効果が限定的であったり、複数回の治療が必要になったりすることもあります。
  • 内視鏡手術: 結石が大きく自然排石が難しい場合や、ESWLで効果が得られない場合、痛みが非常に強い場合などに行われます。
    • 経尿道的尿管鏡的結石破砕術(TUL): 尿道から細い内視鏡(尿管鏡)を挿入し、結石がある場所まで進めて、レーザーや超音波などで結石を砕き、取り出す方法です。
    • 経皮的腎・尿管鏡的結石破砕術(PNL/MPCNL): 背中から腎臓まで管を通して内視鏡を挿入し、腎臓や尿管上部の大きな結石を砕き、取り出す方法です。
  • 開腹手術: 現在ではほとんど行われませんが、非常に大きな結石や複雑な結石の場合に選択されることもあります。

結石による血尿は、結石が原因でできた傷が治れば改善しますが、根本原因である結石を取り除く治療が必要です。

腎臓病の治療法

腎臓病による血尿の治療は、原因となっている腎臓病の種類や病態、重症度によって大きく異なります。自己免疫疾患による糸球体腎炎、糖尿病腎症、高血圧性腎硬化症など、様々な原因があります。

  • 原因疾患に対する治療: 例えば、IgA腎症など免疫の異常が関与している場合には、ステロイドや免疫抑制剤が使用されることがあります。高血圧が腎臓に負担をかけている場合は、降圧剤による厳格な血圧コントロールが行われます。糖尿病が原因であれば、血糖コントロールが最も重要です。
  • 腎機能の保護: 腎臓病の進行を抑えるために、食事療法(タンパク質や塩分の制限など)や生活習慣の改善(禁煙、適度な運動など)が重要になります。
  • 対症療法: むくみに対しては利尿薬、貧血に対しては造血ホルモン製剤など、現れている症状に応じた治療が行われます。
  • 腎代替療法: 腎機能が著しく低下し、末期腎不全となった場合には、透析療法(血液透析、腹膜透析)腎移植が必要になります。

腎臓病による血尿は、腎臓自体の病気を示すサインであり、血尿だけを止める治療ではなく、腎臓の病気を根本的に治療・管理することが血尿の改善につながります。腎臓病の治療は専門的な知識が必要なため、腎臓病専門医の診断と継続的な管理が不可欠です。

尿路悪性腫瘍(がん)の治療法

尿路にがんが発見された場合の治療は、がんの種類(膀胱がん、腎盂がん、尿管がんなど)、進行度(病期)、悪性度、患者さんの全身状態や年齢など、様々な要因を考慮して決定されます。

  • 手術: がんを物理的に切除するのが最も一般的な治療法です。
    • 膀胱がん: 筋層に達していない早期のがん(表在性がん)の場合は、尿道から内視鏡を挿入し、電気メスなどでがんを切除する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が行われます。再発しやすいため、術後に膀胱内に抗がん剤やBCG(弱毒化された結核菌)を注入する治療(膀胱内注入療法)が行われることもあります。筋層に達している進行がんや悪性度の高いがんの場合は、膀胱を摘出する膀胱全摘除術が行われます。膀胱全摘除術を行った場合は、尿の出口を新しく作る手術(尿路変向術)が必要になります。
    • 腎盂がん・尿管がん: がんができている側の腎臓と尿管を一緒に摘出する腎尿管全摘除術が標準的な治療です。早期の場合は、内視鏡を用いた部分切除が可能になることもあります。
    • 腎がん: 腎臓の一部または全てを摘出する腎部分切除術腎摘除術が行われます。
  • 放射線療法: がん細胞に放射線を当てて死滅させる治療法です。膀胱がんなどで手術が難しい場合や、骨などに転移したがんに対する痛みの緩和などに用いられます。
  • 化学療法: 抗がん剤を点滴などで投与し、がん細胞を死滅させる治療法です。進行したがんや転移がある場合に行われます。
  • 免疫療法: 免疫チェックポイント阻害薬など、患者さん自身の免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。進行したがんに対して近年用いられるようになってきました。

尿路がんによる血尿は、がんの治療によってがんが消失すれば改善します。しかし、がんの治療は複雑であり、早期発見と専門医による適切な治療選択が極めて重要です。

前立腺の病気の治療法

前立腺の病気による血尿の治療は、原因が前立腺肥大症、前立腺炎、前立腺がんのどれかによって異なります。

  • 前立腺肥大症: 軽度であれば、生活習慣の改善(体を冷やさない、アルコールやカフェインを控えるなど)や、排尿をスムーズにする薬(α1ブロッカーなど)、前立腺を小さくする薬(5α還元酵素阻害薬など)による薬物療法が行われます。薬物療法で効果がない場合や、尿閉(尿が出せなくなる)などの症状がある場合は、内視鏡を用いて尿道を圧迫している前立腺の一部を削り取る経尿道的前立腺切除術(TURP)などの手術が行われます。
  • 前立腺炎: 原因が細菌感染の場合は、抗生物質による治療が行われます。細菌感染が特定できない慢性前立腺炎の場合は、症状を和らげるための薬(α1ブロッカー、抗炎症薬など)や、生活指導(入浴、適度な運動など)が行われます。
  • 前立腺がん: 治療法はがんの進行度や悪性度、患者さんの年齢や全身状態によって多様です。
    • 比較的早期で進行がゆっくりと考えられる場合は、積極的に治療せず経過観察を行う監視療法が選択されることがあります。
    • がんを切除する手術療法(ロボット支援手術を含む)
    • 放射線を当ててがんを治療する放射線療法(外照射、小線源療法など)
    • 男性ホルモンの働きを抑えるホルモン療法
    • 進行したがんに対する化学療法免疫療法

前立腺の病気による血尿は、原因となっている病気の治療が進めば改善することが期待できます。

原因が特定できない場合の対応

精密検査を受けても、血尿の明確な原因が特定できない場合もあります。これを「原因不明の血尿」または「特発性血尿」と呼びます。特に顕微鏡的血尿の場合に多く見られます。

原因が特定できない場合でも、それが全く問題ないということではありません。検査のタイミングによっては、一時的に出血が止まっているだけで、将来的に病気が明らかになる可能性もあります。特に、当初は原因不明とされていても、数年後にがんなどの病気が見つかるケースも報告されています。

そのため、原因不明の血尿と診断された場合でも、安心せずに定期的な経過観察や再検査が非常に重要になります。医師の指示に従い、定期的に尿検査や、必要に応じて超音波検査などの画像検査を受けるようにしましょう。何か自覚症状(痛み、排尿の変化など)が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。

水分摂取で血尿は治る?

「水分をたくさん飲めば血尿が治る」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、これは血尿の原因によっては有効である可能性があるものの、血尿そのものを直接的に治すわけではありません

水分を十分に摂取して尿量を増やすことは、以下のような場合に効果が期待できます。

  • 膀胱炎などの尿路感染症: 尿量が増えることで、膀胱内の細菌を体外へ排出しやすくし、炎症の早期改善を助ける可能性があります。
  • 尿路結石: 小さな結石の場合、尿量が増えることで自然排石を促す効果が期待できます。また、尿が薄まることで結石の成分が析出しにくくなり、新しい結石ができるのを予防する効果も期待できます。

しかし、水分摂取だけでは、がんや進行した腎臓病、大きな結石など、他の原因による血尿は治せません。むしろ、原因によっては水分摂取がかえって体に負担をかける場合(重度の腎臓病など)もあります。

したがって、血尿が出たときに自己判断で水分を大量に摂取するのではなく、まずは医療機関を受診し、原因を特定することが最も重要です。原因が分かった上で、医師から水分摂取に関する適切なアドバイスを受けるようにしましょう。

血尿が出たらすぐに病院を受診すべきサイン

血尿は、原因が様々であるため、「様子を見ても大丈夫な血尿」と「すぐに病院に行くべき危険な血尿」があります。特に以下のような症状を伴う血尿が見られた場合は、緊急性が高い病気の可能性も考えられるため、迷わず速やかに医療機関(泌尿器科)を受診してください。

  • 激しい痛みを伴う血尿: 特に脇腹から下腹部、股のあたりにかけての突き刺すような激痛(疝痛発作)を伴う場合は、尿管結石が強く疑われます。痛みが非常に強い場合は、夜間や休日であっても救急外来の受診を検討しましょう。
  • 発熱や悪寒を伴う血尿: 高熱や震えを伴う場合は、腎盂腎炎など腎臓に炎症が及んだ重い尿路感染症の可能性があります。
  • 排尿困難や尿が出ない状態を伴う血尿: 尿道結石や前立腺の病気などが原因で、尿の通り道が塞がれている可能性があります。尿が出ない状態が続くと、腎臓に負担がかかり、急性腎不全を引き起こす危険があります。
  • 全身の倦怠感、むくみ、息切れなどを伴う血尿: 腎臓病が進行している可能性が考えられます。
  • 肉眼でわかる大量の血尿や血の塊が出る場合: 出血量が多い場合は、精密検査がすぐに必要です。
  • 抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を服用中の血尿: 薬の影響で出血が止まりにくくなっている可能性があるため、主治医に相談が必要です。
  • 痛みを伴わない血尿(特に喫煙者や高齢者): 尿路悪性腫瘍(がん)のサインである可能性が最も懸念されるケースです。症状がなくても、あるいは血尿が一時的に消えても、必ず精密検査を受けてください。

これらのサインに当てはまる場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。

血尿を放置するとどうなる?起こりうるリスク

血尿は体からの重要なサインであり、放置することは非常に危険です。血尿の根本原因が何であるかによりますが、放置した場合に起こりうるリスクは様々です。

最も怖いリスクは、血尿の原因ががんであるにもかかわらず、放置することで病気が進行してしまうことです。膀胱がんや腎盂がん、尿管がんは、早期に発見すれば内視鏡手術などで比較的体への負担が少なく治療できる可能性がありますが、進行してしまうとより大がかりな手術や、放射線療法、化学療法などが必要となり、治療の負担が増すだけでなく、治癒率も低下してしまいます。がんが他の臓器に転移してしまうと、さらに治療は困難になります。痛みがなくても血尿を放置することは、がんの発見を遅らせることに直結します。

血尿の原因が腎臓病である場合も、放置することで腎機能が徐々に低下し、慢性腎臓病へと進行してしまうリスクがあります。慢性腎臓病が進行すると、最終的には透析療法腎移植が必要となる末期腎不全に至る可能性があります。腎臓病は一度悪くなった腎機能を完全に回復させることは難しいため、血尿というサインに気づき、早期に適切な治療や管理を開始することが、腎機能の維持にとって非常に重要です。

尿路結石を放置すると、結石が大きくなったり、尿路を完全に塞いでしまったりすることがあります。尿路が完全に塞がれると、尿の流れが滞り、腎臓に負担がかかり、水腎症を引き起こしたり、腎機能が低下したりする可能性があります。また、結石に細菌感染が合併すると、重症の尿路感染症(腎盂腎炎など)を引き起こし、生命に関わる状態になることもあります。

尿路感染症(膀胱炎など)を放置すると、炎症が慢性化したり、菌が腎臓にまでさかのぼって腎盂腎炎になったりするリスクがあります。特に高齢者や免疫力が低下している人では、感染症が急速に悪化する危険があります。

このように、血尿を放置することは、原因となっている病気の悪化を招き、体の機能障害や、時には生命の危機に繋がる可能性があります。「たかが血尿」と思わずに、必ず原因を調べるための検査を受けるようにしましょう。

血尿はどれくらいで治る?原因別の目安

血尿が治るまでの期間は、その原因となっている病気の種類や重症度、患者さんの全身状態、そして行われる治療によって大きく異なります。

  • 膀胱炎・尿道炎: 抗生物質による治療を開始すれば、数日〜1週間程度で炎症が治まり、血尿も改善することがほとんどです。ただし、完全に症状がなくなるまでにはもう少し時間がかかる場合もあります。
  • 尿路結石: 自然排石を待つ場合は、結石が排出されるまでの期間によって血尿が続きます。数日から数週間かかることもあります。体外衝撃波や内視鏡手術で結石を取り除く治療を行った場合は、治療後数日間〜1週間程度は血尿が出ることがありますが、次第に改善していきます。
  • 腎臓病: 腎臓病による血尿は、病気の種類や活動性によります。急性期の糸球体腎炎などでは、治療によって血尿が比較的短期間で改善することもありますが、慢性的な腎臓病による顕微鏡的血尿の場合は、病気が存在する限り続くこともあります。治療の目的は腎臓病の進行を抑えることであり、必ずしも血尿をゼロにすることだけではありません。
  • 尿路悪性腫瘍(がん): がんによる血尿は、がんが切除されるか、あるいは放射線療法や化学療法などによってがんが縮小・消失するまで続く可能性があります。治療が成功すれば血尿は改善しますが、進行がんであった場合は、病状によっては血尿が完全に止まらないこともあります。
  • 前立腺の病気: 前立腺肥大症や前立腺炎による血尿は、原因に対する薬物療法や手術によって、数週間〜数ヶ月かけて改善していくことが多いです。前立腺がんによる血尿も、がん治療の経過によって改善が見られます。
  • その他の原因: 薬剤性の血尿は、原因となっている薬剤の調整や中止(医師の指示のもと)によって改善しますが、基礎疾患によっては薬剤中止が難しい場合もあります。運動後の血尿は、通常は安静にしていれば数日で自然に消えます。

このように、血尿が治るまでの期間は原因によって大きく異なり、すぐに治るものから、根気強い治療や経過観察が必要なものまで様々です。血尿が出た場合は、期間を気にするよりも、まずは原因を特定するために医療機関を受診することが第一歩です。

血尿を繰り返す原因と再発予防策

一度血尿が治まっても、再び血尿が見られることがあります。血尿を繰り返す原因としては、根本的な病気が完治していない、あるいは病気が再発しやすい性質を持っていることなどが考えられます。

血尿を繰り返し起こしやすい病気としては、以下のようなものがあります。

  • 膀胱炎: 特に女性は解剖学的な構造から膀胱炎を繰り返しやすく、慢性化することもあります。
  • 尿路結石: 体質的に結石ができやすい人や、食生活などの生活習慣に問題がある人は、一度結石が排出されても再び結石ができてしまい、血尿や痛みを繰り返すことがあります。
  • 尿路悪性腫瘍(がん): 特に膀胱がんは再発しやすい性質があります。TURBTでがんを切除しても、同じ場所や他の場所に再びがんが発生することが少なくありません。そのため、術後も定期的な検査(膀胱鏡検査など)が不可欠です。
  • 腎臓病: 慢性的な腎臓病の場合、病気自体が続くため、顕微鏡的血尿が継続したり、体調によって肉眼的血尿が現れたりすることがあります。
  • 前立腺肥大症: 治療を受けても、前立腺自体が完全に元の大きさに戻るわけではないため、再び出血して血尿が出ることがあります。

血尿の再発を予防するためには、原因となっている病気に応じた対策を継続して行うことが重要です。

原因疾患 再発予防策の例
膀胱炎 水分を十分に摂取する、排尿を我慢しない、排尿後に外陰部を清潔に保つ、女性は排便後前から後ろに拭く、体を冷やさない、性行為の後に排尿するなど。
尿路結石 水分を十分に摂取する(1日2リットル以上目安)、特定の食品(ほうれん草、シュウ酸を多く含むものなど)の過剰摂取を避ける、バランスの取れた食事、適度な運動、シュウ酸の摂取を減らすための食事療法(例:シュウ酸はカルシウムと一緒に摂ると吸収が抑えられる)。
尿路悪性腫瘍(がん) 医師の指示に従った定期的な検査(膀胱鏡検査、画像検査など)を受ける、喫煙者は禁煙する。
腎臓病 医師の指示に従った薬物療法や食事療法、生活習慣の改善を継続する、定期的な検査を受ける。
前立腺肥大症 薬物療法を継続する、体を冷やさない、アルコールやカフェインの過剰摂取を控える。

血尿を繰り返す場合は、「またか」と軽く考えずに、一度精密検査を受け直したり、現在の治療法が適切か医師と相談したりすることが大切です。自己判断で対策をするのではなく、必ず専門医の指導のもとで再発予防に努めましょう。

心配いらない血尿もある?非病的なケース

血尿は通常、何らかの病気が隠れているサインですが、ごく稀に病気が原因ではない「血尿のように見えるもの」や、一時的な生理的な反応による血尿もあります。

偽性血尿(ぎせいけつにょう)は、尿に血液が混じっているわけではないのに、尿の色が赤っぽく見える状態です。原因としては以下のようなものがあります。

  • 食品の色素: ビーツや赤カブなどの色の濃い野菜や果物を大量に食べた後に、尿が赤みを帯びることがあります。
  • 薬剤の色素: 一部の薬剤(例:センノシドなどの下剤、リファンピシンなどの抗生物質)の代謝物が尿に排出され、尿がオレンジ色や赤色に変色することがあります。
  • 月経血の混入: 女性の場合、月経中やその前後に尿に月経血が混ざることで、血尿のように見えることがあります。

これらの偽性血尿は、原因となった食品や薬剤の摂取を止めたり、月経が終わったりすれば、尿の色は元に戻ります。

また、前述した激しい運動の後に一時的に現れる血尿も、通常は安静にすることで改善し、病的な意味合いが少ないケースの一つです。

ただし、これらの非病的なケースであっても、自己判断で「これは大丈夫だろう」と決めつけるのは危険です。特に肉眼でわかる血尿の場合、偽性血尿と本物の血尿を見分けるのは難しいため、初めて血尿に気づいた場合は、念のため一度は医療機関を受診し、医師に相談することをお勧めします。医師は尿検査などを行い、本当に血液が混じっているのか、他の異常がないかなどを確認してくれます。

まとめ:血尿が見られたら泌尿器科へ相談しましょう

血尿は、尿の色が赤っぽく変わる肉眼的血尿と、見た目には分からず尿検査で発見される顕微鏡的血尿があります。どちらの血尿であっても、尿路や腎臓、男性では前立腺など、体のどこかに何らかの異常があるサインである可能性が高いため、放置することは危険です。

血尿の原因は、膀胱炎や尿路結石などの比較的多い病気から、腎臓病や尿路悪性腫瘍(がん)といった重篤な病気まで多岐にわたります。特に、痛みを伴わない血尿は、がんの初期症状である可能性も否定できないため、非常に注意が必要です。

血尿の「治し方」は、その根本原因となっている病気によって全く異なります。感染症であれば抗生物質、結石であれば結石を取り除く治療、がんや腎臓病であればそれぞれの病気に特化した専門的な治療が必要です。自己判断で対応するのではなく、専門医による正確な診断に基づいた治療を受けることが、血尿を改善し、原因疾患の進行を防ぐための唯一の方法です。

血尿が見られた場合は、慌てずに、まずは落ち着いて泌尿器科を受診しましょう。問診や尿検査、必要に応じて血液検査、超音波検査、CT検査、膀胱鏡検査などが行われ、血尿の原因を詳しく調べます。

特に、激しい痛みや発熱を伴う場合、尿が出ない場合、大量の血尿が出る場合、そして痛みを伴わない血尿の場合は、迷わず速やかに医療機関を受診してください。

血尿は、体が発する大切なメッセージです。このメッセージを見逃さずに、早期に適切な対応をとることが、ご自身の健康を守る上で非常に重要です。不安を感じたら、まずは専門家である泌尿器科医に相談することから始めましょう。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状や状況に対する医学的なアドバイスではありません。血尿が見られた場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いません。

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