貧血が続くと、日常生活に支障が出るだけでなく、体のさまざまな機能に影響を及ぼし、思わぬ病気の原因となったり、既存の病気を悪化させたりする可能性があります。貧血は単なる「体質」として片付けられがちですが、実際には体からの重要なサインであることが多く、放置すると危険な状態に進行することもあります。この記事では、貧血が続くと体にどのような影響が出るのか、危険なサインや数値、貧血の隠れた原因、そして適切な対処法について詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、貧血の理解を深め、早期の対策に役立ててください。
貧血を放置する危険性:全身への影響
貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビンが減少し、全身に酸素を運ぶ能力が低下した状態です。ヘモグロビンは、肺で酸素を取り込み、それを体の隅々の細胞に届け、細胞が必要とするエネルギーを生み出すために不可欠な役割を担っています。貧血が続くと、この酸素供給が滞るため、全身の臓器や組織が酸欠状態になり、さまざまな不調が現れます。
初期の貧血は自覚症状がほとんどないこともありますが、進行するにつれて、疲れやすさ、息切れ、動悸、めまい、頭痛といった症状が現れます。これらの症状は、体が酸素不足を補おうとして心臓が拍動を増やしたり、呼吸を速めたりするために起こります。しかし、こうした体の適応能力にも限界があり、貧血が慢性化したり重症化したりすると、さらに深刻な影響が出てきます。
長期間の貧血が引き起こす可能性のある合併症
長期間にわたる貧血は、体の酸素不足状態が続くことを意味し、これは全身の臓器に負担をかけ、さまざまな合併症を引き起こすリスクを高めます。特に、心臓や肺など、酸素を多く消費する臓器への影響は無視できません。
各臓器への影響(心臓、肺など)
貧血による酸素不足は、全身の臓器に以下のような影響を与える可能性があります。
- 心臓への影響:
- 心拍数の増加: 体が必要とする酸素を供給するために、心臓はより速く、より強く拍動する必要があります。これにより心臓に過度な負担がかかります。
- 心拡大: 長期間にわたり心臓に負担がかかり続けると、心臓の筋肉が厚くなったり、心臓全体が拡大したりすることがあります(心肥大、心拡大)。
- 心不全のリスク増加: 拡大した心臓はポンプとしての機能が低下し、全身への血液供給が不十分になる心不全を引き起こす可能性があります。特に、もともと心臓病がある方や高齢者では、貧血が心不全を悪化させる大きな要因となります。
- 肺への影響:
- 息切れの悪化: 貧血によって血液が運べる酸素量が減るため、少し体を動かしただけでも息切れを感じやすくなります。肺の病気がある場合は、症状がさらに悪化することがあります。
- 脳への影響:
- 集中力や認知機能の低下: 脳も多くの酸素を必要とします。貧血による酸素不足は、集中力の低下、思考力の低下、物忘れ、判断力の鈍化などを引き起こす可能性があります。子どもの場合は、学習能力に影響が出ることもあります。
- 頭痛やめまい: 脳への血流や酸素供給の変化が、頭痛や立ちくらみ、めまいの原因となります。
- 消化器への影響:
- 胃炎や消化不良: 鉄欠乏性貧血の場合、鉄分を吸収する消化管の粘膜が委縮することがあり、胃炎や食欲不振、消化不良の原因となることがあります。
- 鉄剤の副作用: 鉄剤の服用は、吐き気、便秘、下痢などの消化器症状を引き起こすことがあります。
- 皮膚・粘膜への影響:
- 顔色の悪さ(蒼白): 皮膚の下を流れる血液のヘモグロビンが少ないため、顔色が悪く見えたり、まぶたの裏側が白っぽくなったりします。
- 爪の変形(スプーン爪): 鉄欠乏が進行すると、爪が薄くなり、反り返ってスプーンのような形になることがあります。
- 口角炎や舌炎: 口の端が切れたり、舌が荒れたり痛くなったりすることもあります。
- 筋肉への影響:
- 筋力低下や疲労感: 筋肉への酸素供給が不足すると、筋肉の機能が低下し、疲れやすく、だるさを感じやすくなります。軽い運動でも筋肉痛が起こりやすくなることもあります。
- 免疫系への影響:
- 感染リスクの増加: 鉄分は免疫細胞の機能にも関与しているため、鉄欠乏性貧血は免疫力を低下させ、風邪などの感染症にかかりやすくなる可能性があります。
- 精神面への影響:
- うつ症状やイライラ: 貧血による全身の不調や疲労感、酸素不足による脳機能への影響は、気分の落ち込み、イライラ、不安感といった精神症状を引き起こすこともあります。
このように、貧血を放置することは、単なる不調に留まらず、全身の臓器に影響を及ぼし、生活の質を著しく低下させ、さらには命に関わる病気のリスクを高めることにつながります。
見過ごせない貧血の重症度別の症状
貧血の症状は、貧血がどれくらいの速さで進行したか、そして貧血の重症度によって異なります。徐々に進行する貧血の場合、体がゆっくりと順応するため、かなり貧血が進んでからでないと自覚症状が出ないことも少なくありません。
軽度~中等度の症状(めまい、動悸など)
一般的な貧血の症状としてよく知られているのは、軽度から中等度の貧血で見られるものです。
- 疲れやすさ、だるさ: 少し動いただけでも疲れたり、全身がだるく感じたりします。これは、細胞への酸素供給が不十分でエネルギーが効率よく作れないためです。
- 動悸、息切れ: 酸素不足を補おうと心臓が速く動き、呼吸が速くなるために起こります。階段を上る、少し早歩きするといった軽い労作でも感じることがあります。
- めまい、立ちくらみ: 脳への血流や酸素供給が不安定になるために起こります。急に立ち上がったときにクラッとする「立ちくらみ」は、貧血の典型的な症状の一つです。
- 頭痛: 酸素不足や血管の拡張・収縮が原因で起こることがあります。
- 顔色が悪い、青白い: 皮膚や粘膜の毛細血管を流れる血液のヘモグロビン濃度が低いため、血色が悪く見えます。特に唇や歯茎、まぶたの裏側などで顕著に現れることがあります。
- 集中力の低下: 脳への酸素供給不足が原因で、集中力が続かなくなったり、考えがまとまりにくくなったりします。
- 寒がり: 体温調節がうまくいかなくなることがあります。
- 食欲不振: 消化器系の不調から食欲が落ちることがあります。
これらの症状は、貧血以外の原因でも起こりうるため、「いつものこと」「疲れているだけ」と見過ごされがちです。しかし、症状が続く場合は、一度貧血を疑って検査を受けることが重要です。
重度の症状(気を失う、嚥下障害、筋肉のけいれんなど)
貧血がさらに進行し、重度になると、生命に関わる危険な症状が現れることがあります。
- 失神(気を失う): 脳への酸素供給が極度に不足した場合、意識を失って倒れてしまうことがあります。
- 強い胸の痛み: 心臓への負担が限界を超え、狭心症のような胸痛を引き起こすことがあります。これは非常に危険なサインです。
- 嚥下障害(飲み込みにくさ): 重度の鉄欠乏性貧血の場合、食道や咽頭の粘膜が萎縮し、食べ物や飲み物が飲み込みにくくなることがあります(Plummer-Vinson症候群)。
- 異食症: 鉄欠乏性貧血の患者さんの一部に、土、紙、氷など、通常食べないものを無性に食べたくなる症状が現れることがあります。特に氷をポリポリと食べる「氷食症」は比較的よく知られています。
- むずむず脚症候群: 特に夜間に脚に不快な感覚(虫が這う、かゆみ、痛みなど)があり、動かさずにはいられなくなる症状です。鉄欠乏との関連が指摘されています。
- 筋肉のけいれん: 重度の酸素不足や電解質バランスの異常が関連して、筋肉がけいれんすることがあります。
重度の貧血の症状は、日常生活が送れないほど辛いものや、すぐに医療的な介入が必要となる危険なものが含まれます。これらの症状が一つでも現れた場合は、躊躇せずすぐに医療機関を受診してください。
貧血の放置が危険な数値とは?
貧血かどうかを判断する最も重要な指標の一つが、血液検査で測定されるヘモグロビン値です。ヘモグロビンは赤血球に含まれるタンパク質で、酸素を運ぶ役割を担っています。このヘモグロビン値が基準値より低いと貧血と診断されます。
ヘモグロビン値の基準と重症度の目安
ヘモグロビン値の基準は、性別や年齢によって異なります。また、妊娠中は生理的にヘモグロビン値が低くなる傾向があります。一般的な成人におけるヘモグロビン値の基準と貧血の重症度の目安は以下の通りです(あくまで目安であり、医療機関や検査機関によって基準値は若干異なる場合があります)。
区分 | 成人男性(g/dL) | 成人女性(g/dL) | 妊娠女性(g/dL) | 小児(g/dL) |
---|---|---|---|---|
基準値 | 13.0以上 | 12.0以上 | 11.0以上 | 年齢により異なる |
軽度貧血 | 11.0~12.9 | 10.0~11.9 | 10.0~10.9 | 基準値~2g/dL低下 |
中等度貧血 | 8.0~10.9 | 7.0~9.9 | 7.0~9.9 | 基準値から2~4g/dL低下 |
重度貧血 | 8.0未満 | 7.0未満 | 7.0未満 | 基準値から4g/dL以上低下 |
(注)小児の基準値は年齢によって大きく変動します。専門医にご確認ください。
この表からもわかるように、ヘモグロビン値が低いほど貧血の程度は重くなります。
- 軽度貧血: 自覚症状がないことが多いですが、少し疲れやすい、運動時に息切れしやすいといった症状が現れることがあります。
- 中等度貧血: 疲れやすさ、動悸、息切れ、めまい、顔色の悪さなどの症状が自覚されやすくなります。日常生活に支障が出始めることがあります。
- 重度貧血: 安静時にも動悸や息切れがしたり、強いめまいや立ちくらみ、失神、胸痛などの危険な症状が現れる可能性があります。この段階になると、早期の治療が必要不可欠です。
ヘモグロビン値が特に低い場合、例えばヘモグロビン値が7.0g/dL未満といった数値は、重度の貧血とみなされ、緊急性の高い状態である可能性が考えられます。これは、体が酸素を運ぶ能力が著しく低下しており、臓器への負担が非常に大きい状態を示唆しています。
入院・輸血が検討されるケース
ヘモグロビン値が極端に低い場合や、貧血による症状が重い場合は、入院や輸血による治療が検討されます。
一般的に、以下のようなケースで入院や輸血が必要となることがあります。
- ヘモグロビン値が著しく低い場合: ヘモグロビン値が7.0g/dL未満など、非常に低い数値の場合、速やかにヘモグロビンを補充するために輸血が行われることがあります。
- 貧血による症状が重い場合: ヘモグロビン値がそこまで低くなくても、貧血によって強い動悸、息切れ、胸痛、失神などの症状が現れており、生命に危険が及ぶ可能性がある場合。
- 急速に貧血が進行している場合: 大量の出血などにより短時間で貧血が進行した場合、体が適応できず、ヘモグロビン値が比較的高い段階でも重い症状が出ることがあります。
- 経口または注射による治療が困難、または無効な場合: 例えば、消化管からの吸収が悪く鉄剤の効果が出ない場合や、腎臓病などでエリスロポエチン製剤の効果が不十分な場合など。
- 原因疾患の精査や治療が必要な場合: 貧血の原因が、大量出血や悪性腫瘍など、入院して詳しい検査や治療が必要な病気である場合。
輸血は失われたヘモグロビンを迅速に補う効果がありますが、根本的な貧血の原因を解決する治療ではありません。輸血が必要なほど重症の貧血は、その背景に深刻な病気が隠れている可能性が高いため、輸血と同時に貧血の原因を詳しく調べ、原因に対する治療を開始することが非常に重要です。
貧血の原因を特定することの重要性
貧血と聞くと、「鉄分不足」を思い浮かべる方が多いかもしれません。確かに、日本で最も多い貧血は鉄欠乏性貧血ですが、貧血にはさまざまな原因があり、それぞれ治療法が異なります。そのため、貧血の原因を正確に特定することが非常に重要です。原因を特定せずに自己判断で鉄剤などを服用しても、効果がないばかりか、隠れた重大な病気の発見が遅れてしまう危険性があります。
鉄欠乏以外の貧血の原因(出血、病気など)
貧血は、以下の3つのいずれか、あるいは複数のメカニズムによって起こります。
- 赤血球がうまく作れない(造血障害)
- 赤血球が壊されすぎる(溶血)
- 血液が体外に失われる(出血)
鉄欠乏性貧血は、赤血球を作るのに必要な鉄分が不足するために起こる造血障害の一つですが、貧血の原因はこれだけではありません。鉄欠乏以外の主な貧血の原因には、以下のようなものがあります。
- 出血による貧血:
- 消化管からの出血: 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、大腸がん、痔などからの慢性的な少量の出血や、急な大量出血(吐血、下血)。特に、ゆっくりと続く少量の出血は気づきにくく、貧血が進行してから発見されることがあります。
- 婦人科系の出血: 過多月経(生理の量が多い、期間が長い)、子宮筋腫、子宮内膜症などからの出血。
- 尿路からの出血: 尿路結石、膀胱炎、腎臓病など。
- その他の出血: 鼻血、歯肉出血、外傷など。
出血による貧血は、鉄分が足りなくなるだけでなく、体の外に血液そのものが失われるため、鉄欠乏性貧血以上に急速に貧血が進むことがあります。出血源を見つけて止めることが最優先の治療となります。
- 慢性疾患に伴う貧血(MIA / ACD):
- 慢性的な炎症性疾患(関節リウマチ、炎症性腸疾患など)、悪性腫瘍(がん)、腎臓病、感染症などがある場合に起こりやすい貧血です。炎症や病気自体が鉄の利用を妨げたり、赤血球の産生を抑えたりすることで起こります。鉄分は体内に十分あっても、うまく利用できない状態です。
- 腎性貧血:
- 腎臓の働きが悪くなると、赤血球の産生を促すホルモンである「エリスロポエチン」の分泌が低下し、貧血になります。慢性腎臓病の患者さんによく見られます。
- ビタミンB12欠乏性貧血・葉酸欠乏性貧血(巨赤芽球性貧血):
- 赤血球を作る過程で必要なビタミンB12や葉酸が不足することで起こります。胃を切除した方、自己免疫疾患(悪性貧血)、偏食、アルコール多飲などが原因となります。手足のしびれや感覚異常といった神経症状を伴うことがあるのが特徴です。
- 溶血性貧血:
- 赤血球が通常より早く壊されてしまうことで起こる貧血です。自己免疫疾患、遺伝性の病気、薬剤、感染症などが原因となります。黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、脾臓の腫れなどを伴うことがあります。
- 再生不良性貧血:
- 骨髄の働きが悪くなり、赤血球だけでなく、白血球(感染を防ぐ)や血小板(出血を止める)も減少する病気です。重症の場合は命に関わることもあります。原因不明の場合が多いですが、薬剤やウイルス感染が関連することもあります。
- 骨髄異形成症候群(MDS):
- 血液を作る細胞に異常が生じ、異常な血液細胞が増えたり、成熟した血液細胞が減ったりする病気です。貧血、白血球減少、血小板減少などが起こります。将来的に急性骨髄性白血病に移行することもあります。
- 悪性腫瘍(がん)による貧血:
- がんは、出血(消化器がんなど)、骨髄への浸潤、慢性炎症、栄養状態の悪化、治療による副作用など、さまざまなメカニズムで貧血を引き起こします。
- 薬剤性貧血:
- 一部の薬剤(抗がん剤、特定の抗菌薬、消炎鎮痛剤など)が骨髄の働きを抑制したり、赤血球を壊したりすることで貧血が起こることがあります。
このように、貧血の原因は多岐にわたります。特に、出血が原因の貧血や、白血病や悪性腫瘍、骨髄の病気など、深刻な病気が隠れている可能性もゼロではありません。そのため、「貧血だ」と感じたら、自己判断せずに必ず医療機関を受診し、詳しい検査を受けて原因を特定することが非常に重要なのです。
女性特有の貧血の原因(月経、妊娠など)
女性は男性に比べて貧血になりやすい傾向があります。これは、女性に特有の生理的な現象やライフステージが貧血の原因となりやすいためです。
女性に多い貧血の原因としては、以下のようなものがあります。
- 月経による出血: 毎月の月経によって一定量の血液が失われます。特に、月経量が多い(過多月経)方や、月経期間が長い方は、鉄分の損失が大きく、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。過多月経は、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因となっていることもあります。
- 妊娠: 妊娠中は、赤ちゃんに酸素や栄養を送るために母体の血液量が増加しますが、赤血球の増加が血液量の増加に追いつかないため、血液が薄まった状態(希釈性貧血)になりやすいです。また、赤ちゃんや胎盤が必要とする鉄分が多くなるため、鉄欠乏にもなりやすいです。妊娠中の貧血は、母体だけでなく赤ちゃんの成長にも影響を与える可能性があるため、適切な管理が必要です。
- 授乳: 授乳によっても鉄分が失われるため、授乳中の女性も鉄欠乏性貧血になりやすいです。
- 無理なダイエット: 極端な食事制限や偏った食事は、鉄分だけでなく、ビタミンB12や葉酸など、血液を作るのに必要な栄養素が不足し、貧血の原因となります。
- 子宮筋腫や子宮内膜症: これらは過多月経や不正出血の原因となり、慢性的な出血から鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります。
女性の場合、月経に伴う多少の貧血は「当たり前」と思われがちですが、過度な月経量や長期間の不正出血がある場合は、婦人科系の病気が隠れている可能性も考えられます。貧血の症状が辛い場合や、ヘモグロビン値が低い場合は、単なる「体質」と諦めずに、医療機関で相談し、原因に応じた適切な治療を受けることが大切です。
貧血を改善するための基本的な対処法
貧血の原因が特定されたら、それに応じた治療が行われます。最も多い鉄欠乏性貧血の場合、基本的な治療は鉄分の補給です。
食事療法と栄養摂取のポイント
軽度の鉄欠乏性貧血の場合や、貧血予防のためには、食事からの鉄分摂取を見直すことが有効です。食事からの鉄分には、動物性食品に多く含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に多く含まれる「非ヘム鉄」があります。
- ヘム鉄: 肉類(レバー、赤身の肉)、魚介類(カツオ、マグロ、イワシ、貝類など)に多く含まれます。吸収率が良いのが特徴です。
- 非ヘム鉄: ほうれん草、小松菜などの葉物野菜、大豆製品(豆腐、納豆)、海藻類(ひじき、のり)、穀類などに含まれます。ヘム鉄に比べて吸収率は低いですが、食材の種類が豊富です。
食事で効率よく鉄分を摂取するためのポイントは以下の通りです。
- 様々な食材から鉄分を摂取する: ヘム鉄、非ヘム鉄のどちらもバランスよく摂取することを心がけましょう。
- 鉄分の吸収を助ける栄養素を一緒に摂る:
- ビタミンC: 鉄分の吸収を促進します。野菜や果物(パプリカ、ブロッコリー、いちご、みかんなど)を一緒に摂りましょう。例えば、ほうれん草のおひたしにレモンをかけたり、食後に果物を食べたりするのがおすすめです。
- 動物性タンパク質: 肉や魚に含まれる動物性タンパク質は、非ヘム鉄の吸収を助ける働きがあります。
- 鉄分の吸収を妨げる食品を避ける(または時間を空ける):
- タンニン: コーヒーや紅茶、緑茶などに含まれます。鉄分の吸収を妨げる可能性があります。食前食後の摂取は控え、食事とは時間を空けて飲むのがおすすめです。
- フィチン酸: 穀物の外皮や豆類に含まれます。鉄分の吸収を妨げる可能性がありますが、通常の食事量であれば過度に気にする必要はありません。バランスの取れた食事を心がけましょう。
- カルシウム: 大量のカルシウム摂取は鉄分の吸収を妨げると言われています。サプリメントなどで高用量のカルシウムを摂取している場合は注意が必要です。
- バランスの取れた食事を心がける: 鉄分だけでなく、赤血球を作るのに必要なタンパク質、ビタミンB12、葉酸などの栄養素も不足しないよう、様々な食品をバランスよく摂取することが大切です。
貧血がすでに診断されている場合は、食事療法だけでヘモグロビン値を十分に上げるのは難しいこともあります。その場合は、次の鉄剤による治療が必要となります。
鉄剤による治療
鉄欠乏性貧血の治療の主体は、鉄剤の内服です。医師から処方される鉄剤は、食事からの摂取だけでは補いきれない量の鉄分を効率よく体に供給することができます。
- 内服薬: 最も一般的な治療法です。毎日一定量を継続して服用することで、体内の鉄分貯蔵量(フェリチン値など)を増やしていきます。
- 服用期間: ヘモグロビン値が正常に戻った後も、体内の鉄分貯蔵量を満たすために、通常は数ヶ月間継続して服用する必要があります。自己判断で中止せず、医師の指示に従うことが非常に重要です。
- 副作用: 吐き気、胃の不快感、便秘、下痢、黒っぽい便(これは鉄が吸収されずに排泄されているためで心配ありません)などの消化器症状が出やすいです。副作用で服用が難しい場合は、医師に相談して、他の種類の鉄剤に変えたり、服用方法を調整したりすることができます。鉄剤の種類によっては、比較的副作用が少ないものもあります。
- 飲み合わせ: 一部の薬(特定の抗生物質、制酸剤など)や食品(牛乳、タンニンを含む飲み物など)は鉄剤の吸収を妨げることがあります。医師や薬剤師の指示に従って、正しく服用しましょう。一般的には、空腹時の服用が吸収が良いとされていますが、胃の不快感がある場合は食後に変更するなど調整が必要です。
- 注射薬: 内服薬で効果が出ない場合、消化器症状が強く内服できない場合、または鉄欠乏が非常に重度で速やかな改善が必要な場合などに、鉄剤を注射や点滴で投与することがあります。内服に比べて効果が早く現れやすいですが、アナフィラキシー(重いアレルギー反応)などの副作用のリスクがわずかにあります。
鉄剤による治療は、医師の指示のもと、正しく行うことが大切です。鉄分は摂りすぎても体に悪影響(鉄過剰症)を与える可能性があるため、自己判断での大量摂取や、原因不明の貧血に対する自己判断での鉄剤服用は避けてください。
また、鉄欠乏性貧血以外の貧血(例:ビタミンB12欠乏性貧血、腎性貧血、溶血性貧血など)の場合は、鉄剤を服用しても効果はありません。それぞれの原因に応じた治療(例:ビタミンB12や葉酸の補給、エリスロポエチン製剤の投与、免疫抑制剤、原因疾患の治療など)が必要となります。
こんな症状が出たらすぐに医療機関へ
貧血の症状は様々ですが、「いつもの疲れだろう」と見過ごしていると、気づかないうちに貧血が進行し、重篤な状態になってしまうことがあります。特に、以下のような症状が現れた場合は、貧血がかなり進んでいるか、あるいは貧血の背景に重大な病気が隠れている可能性が高いため、迷わずすぐに医療機関を受診してください。
受診の目安となる危険なサイン
- 安静時にも続く強い動悸や息切れ: 少し体を動かしただけでもなく、座っている時や寝ている時にも心臓がドキドキしたり、呼吸が苦しく感じたりする場合。
- 胸の痛み: 特に運動時や労作時に胸が締め付けられるような痛みを感じる場合。これは貧血による心臓への負担が限界に近づいているサインかもしれません。
- 頻繁なめまいや立ちくらみ、失神: 立ち上がったときだけでなく、日常的にめまいを感じたり、実際に気を失って倒れたりする場合。
- 異常な顔色の悪さ: 周りの人から指摘されるほど顔色が悪く、唇や爪の色が明らかに白っぽくなっている場合。
- 血を吐いた、または便が真っ黒になった(タール便): 消化管からの出血を示唆する非常に危険なサインです。胃や十二指腸からの出血で起こります。
- 血尿が出た: 尿が赤っぽい、または茶色っぽい場合。尿路からの出血を示唆します。
- 体重の減少や食欲不振が続いている: 貧血だけでなく、消化器系の病気や悪性腫瘍など、他の病気が隠れている可能性を疑う必要があります。
- 手足のしびれや感覚異常がある: ビタミンB12欠乏性貧血など、鉄欠乏以外の貧血の可能性があります。
- 発熱やあざができやすいなどの症状を伴う: 再生不良性貧血や血液の病気などの可能性も考慮する必要があります。
- 市販薬を飲んでも症状が改善しない、または悪化する場合: 自己判断での対処では追いつかない状態である可能性が高いです。
これらの症状は、貧血がかなり進んでいるか、あるいは貧血を引き起こしている原因が緊急性の高い病気である可能性を示しています。ためらわずに、できるだけ早く医療機関を受診してください。
どのような検査が行われるか(血液検査など)
医療機関を受診すると、まず医師による問診が行われます。症状、持病、服用中の薬、食事内容、女性の場合は月経や妊娠・出産歴などについて詳しく聞かれます。これにより、貧血の原因や重症度を推測します。
次に、貧血かどうか、そしてその原因を探るために様々な検査が行われます。
- 血液検査(末梢血検査): 貧血を診断する上で最も基本的な検査です。
- ヘモグロビン値: 貧血の有無と重症度を判定します。
- ヘマトクリット値: 血液中に占める赤血球の容積の割合を示します。
- 赤血球数: 血液中の赤血球の数を測定します。
- MCV(平均赤血球容積): 赤血球の大きさを示します。鉄欠乏性貧血では赤血球が小さくなる(小球性貧血)ため、MCVが低くなります。ビタミンB12や葉酸欠乏性貧血では赤血球が大きくなる(大球性貧血)ため、MCVが高くなります。
- MCH(平均赤血球ヘモグロビン量): 赤血球一個あたりのヘモグロビン量を示します。
- MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度): 赤血球一個あたりのヘモグロビン濃度の割合を示します。鉄欠乏性貧血ではMCH、MCHCが低くなる(低色素性貧血)傾向があります。
- 鉄代謝関連の検査:
- 血清鉄: 血液中の鉄分の量。
- TIBC(総鉄結合能) / UIBC(不飽和鉄結合能): 鉄を運ぶタンパク質(トランスフェリン)が結合できる鉄の総量や、まだ鉄と結合していない部分の量を示します。鉄欠乏性貧血では、血清鉄が低く、TIBC/UIBCが高くなる傾向があります。
- フェリチン: 体内に貯蔵されている鉄分の量を示します。鉄欠乏性貧血では、フェリチン値が低くなるのが特徴です。フェリチン値は体内の鉄貯蔵量を最もよく反映するため、潜在的な鉄欠乏の診断に非常に重要です。炎症や感染症がある場合は高くなることがあるため、他の検査結果と合わせて判断されます。
- ビタミンB12や葉酸の測定: これらの栄養素が不足している可能性のある場合に測定します。
- 網状赤血球数: 新しく作られている赤血球の数を調べます。貧血の原因(赤血球の産生が低下しているのか、破壊・喪失が亢進しているのか)を区別するのに役立ちます。
- 便潜血検査: 消化管からの微量の出血がないか調べる検査です。目で見て分からないような出血を見つけることができます。
- その他の検査: 血液検査や問診の結果から、原因疾患が疑われる場合は、さらに詳しい検査が行われます。
- 内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ): 消化管からの出血源(潰瘍、ポリープ、がんなど)を直接観察し、必要であれば組織の一部を採取(生検)します。
- 画像検査(レントゲン、CT、MRI、超音波など): 臓器の異常や腫瘍の有無などを調べます。
- 骨髄検査: 血液を作る骨髄の機能や、白血病などの血液疾患がないか詳しく調べる検査です。
このように、貧血の診断と原因特定のためには、様々な検査が行われます。特に鉄欠乏性貧血が疑われる場合でも、その原因として出血が隠れていないかを調べることが非常に重要です。原因を正確に診断し、適切な治療を受けることが、貧血を改善し、その後の健康を守るために最も大切なステップとなります。
まとめ|貧血は放置せず専門家へ相談を
貧血は多くの人が経験する可能性のある身近な症状ですが、その裏には様々な原因が隠れており、放置すると全身に深刻な影響を及ぼす危険性があります。単なる「疲れ」「体質」と軽視せず、症状が続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は、必ず医療機関を受診し、専門家の診断を受けることが重要です。
特に、ヘモグロビン値が著しく低い場合や、強い動悸、息切れ、胸痛、失神などの症状がある場合は、重度の貧血や隠れた重大な病気のサインである可能性が高く、速やかな医療的な対応が必要となります。
貧血の原因は、最も一般的な鉄欠乏性貧血だけでなく、出血、慢性疾患、他の栄養素の不足、血液の病気など多岐にわたります。原因によって治療法は全く異なるため、自己判断で市販の鉄剤などを服用するのではなく、医師の診断のもと、原因に応じた適切な治療を受けることが、貧血を効果的に改善し、合併症を防ぐために不可欠です。
女性の場合は、月経や妊娠といった生理的な要因で貧血になりやすいですが、過多月経や不正出血の裏に婦人科系の病気が隠れていることもあります。貧血の症状が辛い場合は、我慢せずに婦人科など医療機関に相談しましょう。
貧血の診断や治療は、内科や血液内科、あるいはかかりつけ医など、身近な医療機関で受けることができます。まずはかかりつけ医に相談してみるのが良いでしょう。
この記事を読んで、ご自身の貧血について不安に思われたり、気になる症状があったりする場合は、決して一人で抱え込まず、専門家である医師に相談してください。早期発見と適切な治療が、健康な毎日を取り戻すための第一歩となります。
免責事項:
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスや診断、治療の代替となるものではありません。個々の健康状態や症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断や指導を受けてください。この記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いません。