フーナーテスト(ヒューナーテスト)は、不妊検査の一つとして行われる性交後検査です。
性交から一定時間経過した後の女性の子宮頚管粘液を採取し、その中にいる精子の状態や数を顕微鏡で観察することで、精子が子宮内にうまく到達できているか、頚管粘液と精子の相性が良いかなどを調べます。
この記事では、フーナーテストの目的や検査内容、結果の見方、費用、よくある疑問、そして最新のエビデンスに基づく位置づけについて詳しく解説します。
妊活を進める上で、この検査がどのような情報を提供し、次のステップにどう繋がるのかを理解するための一助となれば幸いです。
フーナーテストは、妊活において比較的早期に行われることのある検査の一つです。
男女の性交後、女性の子宮頚管粘液中の精子の状態を調べることで、いくつかの重要な情報を得ることができます。
フーナーテストの正式名称と概要
フーナーテストの正式名称は「性交後検査(Postcoital Test)」と言います。
これは、性交を行った後に実施される検査であることをそのまま表しています。
検査は主に婦人科や不妊治療専門のクリニックで行われます。
この検査は、自然な性交の状況下で、男性の精子が女性の生殖器内、特に子宮頚管という子宮の入り口部分に到達し、そこで適切に生存・運動しているかを確認することを目的としています。
具体的には、性交から数時間後に女性の頚管粘液を採取し、顕微鏡で観察を行います。
採取された粘液の中に、活発に運動している精子がどれくらいいるか、その数は適切か、動きは正常かなどを評価します。
フーナーテストは、不妊の原因を探るためのスクリーニング検査として行われることがありますが、後述するように、その解釈や診断的価値については近年議論があり、必須の検査ではなくなりつつある側面もあります。
しかし、特定の状況下では依然として有用な情報を提供する可能性があります。
フーナーテストの目的【何がわかる?】
フーナーテストを行う主な目的は、以下の点を確認することです。
- 精子が子宮頚管に到達しているか: 性交によって膣内に射精された精子が、子宮の入り口である子宮頚管までたどり着けているかを確認します。膣は酸性度が高く、精子にとっては過酷な環境ですが、精子は頚管粘液の中に入り込むことで保護され、子宮内へ進む準備をします。
- 子宮頚管粘液が精子にとって適切な状態であるか: 子宮頚管粘液は、排卵期に向けて量が増え、性状が変化します。この粘液が、精子の動きを助け、子宮内への進入をスムーズにする役割を担います。頚管粘液の量や粘性、pHなどが精子の活動に適しているかを確認します。
- 精子と頚管粘液の間に問題がないか: ごく稀に、女性の体内に精子に対する抗体(抗精子抗体)が存在し、頚管粘液中で精子の動きを妨げたり、精子を凝集させたりすることがあります。フーナーテストは、このような精子と頚管粘液の「相性」の問題(免疫性不妊の一因)を示唆する手がかりとなることがあります。
- 男性側の精子の状態にある程度の問題がないか: 性交時に十分な数の運動性のある精子が射射精されているか、といった点についても、間接的に評価できます。ただし、これは正式な精液検査に代わるものではありません。
つまり、フーナーテストでは「性交後、女性の頚管粘液という関門を、元気な精子がどれくらい突破できているか」を知ることができます。
これは、不妊の原因が「精子の運搬・通過」のプロセスにある可能性を示唆する情報となります。
フーナーテストで確認する「頚管粘液」とは
フーナーテストにおいて中心的な役割を果たすのが「頚管粘液」です。
子宮頚管の粘液は、月経周期によってその量や性質が大きく変化します。
月経期や卵胞期前期(月経後、排卵前)は、頚管粘液の量は少なく、比較的粘り気が強く、白濁しています。
この状態では精子は頚管を通過しにくくなっています。
排卵期が近づき、卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が増加すると、頚管粘液は量が増え、透明でサラサラとした、鶏卵の白身のような性状に変化します。
これを「牽糸性(けんしせい)」がある、と言います。
指で広げると糸を引くように伸びるのが特徴です。
この状態の頚管粘液は水分を多く含み、pHもアルカリ性に傾くため、酸性の膣内から子宮内へ進む精子を保護し、その運動を助ける役割を果たします。
粘液中の網目構造も変化し、精子がスムーズに通過できるようになります。
フーナーテストは、この排卵期の、精子にとって最も通過しやすい状態になっている頚管粘液を採取して行われます。
良好な頚管粘液は、精子に栄養を与え、子宮内での生存時間を延ばすとともに、形態異常の精子や細菌などをふるいにかけるフィルターのような役割も担っていると考えられています。
フーナーテストの結果が不良である場合、この頚管粘液の量や質に問題があるか、あるいは頚管粘液と精子の間に何らかの相互作用の問題がある可能性が考えられます。
フーナーテストの検査内容と流れ
実際にフーナーテストはどのように行われるのでしょうか。
検査を受ける側のタイミングや注意点を含めて説明します。
検査を受けるタイミングと性交後時間
フーナーテストは、子宮頚管粘液が精子にとって最も通過しやすい状態になる排卵期に行う必要があります。
排卵期は、基礎体温が低温期から高温期に移行する直前、または排卵検査薬で陽性が出た頃が目安となります。
正確な排卵日を予測するために、基礎体温やエコー検査、尿検査などを組み合わせてタイミングを計ります。
検査を受けるためには、検査当日の朝または前日の夜に性交を行い、その後、指定された時間内に病院を受診する必要があります。
一般的に推奨される性交後の病院受診までの時間は、6時間から12時間以内とされています。
これは、性交から時間が経ちすぎると、たとえ良好な頚管粘液と精子であったとしても、精子の運動性が低下したり、死滅したりしてしまうため、正確な評価が難しくなるためです。
一方で、性交直後すぎても、精子が頚管粘液に十分に進入していない可能性があります。
性交後、病院に行くまでの時間は、医療機関によって推奨される時間が異なる場合もありますので、事前に必ず確認してください。
実際の検査方法
検査は女性が受けます。
性交後、指定された時間内に医療機関を受診したら、内診台に上がります。
- 問診: 簡単な問診で、最終月経日、月経周期、基礎体温、排卵日の予測、性交のタイミング、前回の性交から受診までの時間などを確認します。
- 内診: クスコ(膣鏡)を膣に挿入し、子宮頚管を露出させます。これは婦人科の内診で通常使われる器具です。
- 頚管粘液の採取: 子宮頚管の入り口付近から、細いチューブ(カテーテル)やスポイト、あるいはスワブ(綿棒のようなもの)を用いて、少量の頚管粘液を採取します。採取量はごくわずかです。
- 顕微鏡観察: 採取した頚管粘液をスライドガラスに乗せ、カバーガラスをかけて顕微鏡で観察します。医師や検査技師が、粘液中の精子の有無、数、運動性(前進運動しているか、そのスピードはどうかなど)、凝集の有無などを評価します。
- 結果の説明: 観察後、その場で簡単な結果の説明を受けられる場合が多いです。精子がどれくらい見えたか、動きはどうか、といった評価が伝えられます。
検査自体は数分で終了します。
内診台での頚管粘液採取は、通常は痛みを感じることはほとんどありませんが、個人差があります。
検査時の注意点
フーナーテストを受ける際には、正確な結果を得るためにいくつか注意すべき点があります。
- 検査時期と性交のタイミング: 必ず排卵期に性交を行い、指定された時間内に受診してください。排卵期以外に行っても、頚管粘液の状態が適切ではないため、正しい評価ができません。
- 前回の性交からの期間: 検査のための性交の前に、数日間(一般的には2~3日)性交を控えるように指示される場合があります。これは、精巣に精子が十分に蓄積され、性交時の精子の質や量が高まるようにするためです。ただし、あまり長期間禁欲しすぎると、古い精子が増えて運動率が低下することもあるため、医療機関の指示に従ってください。
- 性交の方法: 自然な形での性交を行ってください。特殊な体位や、コンドームの使用(精子が頚管粘液に触れないため)は避けてください。また、性交後に膣洗浄を行うと、頚管粘液中の精子が洗い流されてしまうため、洗浄はしないでください。
- 潤滑剤などの使用: 潤滑剤や膣剤などの使用は、頚管粘液や精子の状態に影響を与える可能性があるため、検査のための性交時には使用を避けるのが無難です。使用を検討している場合は、事前に医療機関に相談してください。
- 体調: 発熱や炎症など、体調が悪い時は検査を延期した方が良い場合があります。
- 飲酒: 検査前の過度な飲酒は、男性の精子の状態に影響を与える可能性があるため、控えることが推奨されます。
これらの注意点を守ることで、より正確なフーナーテストの結果を得ることができ、その後の不妊治療方針の決定に役立てることができます。
フーナーテストの結果の見方と基準
フーナーテストの結果は、採取した頚管粘液中に見られる精子の数や運動性に基づいて評価されます。
医療機関や専門家によって評価基準に多少のばらつきがある場合がありますが、一般的な見方と基準について説明します。
良好な結果とは
良好なフーナーテストの結果は、性交後適切な時間内に採取された頚管粘液の視野内に、活発に前進運動している精子が一定数以上観察される状態を指します。
具体的な基準値としては、「1視野あたり運動精子10個以上」や「1視野あたり運動精子5個以上」など、医療機関によって異なる場合があります。
重要なのは、単に精子がいるだけでなく、しっかりと前に向かって泳いでいる(前進運動している)精子が確認できることです。
頚管粘液の状態も良好(量が多く透明でサラサラしている)であることが前提となります。
フーナーテストの結果が良好であれば、少なくとも「性交によって精子が女性の生殖器内に射精され、子宮頚管まで到達し、頚管粘液の中で生存・運動できている」というステップには大きな問題がない可能性が高いと考えられます。
これは、不妊原因の可能性として、男性の精子の運搬や頚管粘液との相互作用の問題が比較的低いことを示唆します。
不良な結果とは
不良なフーナーテストの結果は、以下のような状態を指します。
- 頚管粘液中に精子が全く見られない
- 精子は存在するが、数が非常に少ない
- 精子は存在するが、ほとんど動いていない(不動精子が多い)
- 精子は存在するが、前進運動しておらず、同じ場所で動いているだけ(非前進運動)
- 精子が凝集している(固まって動けない)
これらの状態が見られる場合、精子が子宮頚管までうまく到達できていない、あるいは頚管粘液中で生存・運動できていない、または頚管粘液の状態が精子通過に適していない、といった問題がある可能性が考えられます。
ただし、不良な結果が一度出ただけで直ちに深刻な不妊原因があると断定できるわけではありません。
性交のタイミングが排卵期からずれていた、性交から受診までの時間が適切でなかった、たまたまその時の精子の状態が悪かったなど、一時的な要因で不良な結果となる可能性も十分にあります。
そのため、結果が不良だった場合は、再検査が推奨されることもあります。
フーナーテストの結果不良の原因
フーナーテストの結果が不良だった場合、いくつかの原因が考えられます。
原因は、男性側、女性側、あるいは両方の問題である可能性があります。
考えられる主な原因は以下の通りです。
- 男性側の問題(精液検査異常):
- 精子の数が少ない(乏精子症)
- 精子の運動率が低い(精子無力症)
- 精子の形態異常が多い(奇形精子症)
- これらの複合的な問題(精液所見不良)がある場合、性交時に射精される運動精子の絶対数が少なくなり、頚管粘液に到達する精子の数も減少します。
- 女性側の問題(頚管粘液異常):
- 頚管粘液の分泌量が少ない(分泌不全)
- 頚管粘液の粘性が高すぎる(サラサラにならない)
- 頚管粘液のpHが酸性に傾いている(精子はアルカリ性を好む)
- 子宮頚管に炎症がある
- これらの問題は、ホルモンバランスの乱れ(特にエストロゲン不足)や、過去の子宮頚管の手術などが原因となることがあります。
- 女性側の問題(抗精子抗体):
- 女性の体内に精子に対する抗体が存在し、頚管粘液中で精子を攻撃したり、動きを鈍らせたり、凝集させたりする状態です。免疫性不妊の一因となります。
- 性交のタイミングや方法の問題:
- 検査のための性交が、排卵期から大きくずれてしまっていた場合。
- 膣内ではなく、外に射精されてしまった場合。
- 性交回数が極端に少なく、精巣に古い精子ばかりが蓄積していた場合(長期間の禁欲後)。
- その他の要因:
- 性感染症など、生殖器の感染症が存在する場合。
- 精神的なストレスなど、一時的な体調不良。
フーナーテストの結果が不良だった場合は、これらの原因を特定するために、精液検査、抗精子抗体検査、女性ホルモン検査などの追加の検査が必要となることが一般的です。
フーナーテストの費用について
不妊検査や治療は、保険適用となるものと自費診療となるものがあります。
フーナーテストの費用についても、状況によって異なります。
保険適用と自費診療
フーナーテストは、かつては保険適用外の自費診療が一般的でした。
しかし、2022年4月の不妊治療の保険適用拡大に伴い、特定の条件を満たす場合、フーナーテストも保険適用されるようになりました。
保険適用となるのは、一般不妊治療(タイミング法、人工授精)の一環として、医師が必要と判断して実施される場合などです。
不妊治療の保険適用には年齢制限(治療開始時点で女性が43歳未満)や回数制限がある場合がありますので、ご自身の状況が保険適用の対象となるかは、必ず医療機関で確認してください。
保険適用外となるのは、保険適用の条件を満たさない場合や、より高度な生殖補助医療(体外受精など)の前にスクリーニング目的で行う場合などです。
保険適用の場合、窓口での自己負担は原則として3割となります。
自費診療の場合は、医療機関が自由に料金を設定できるため、全額自己負担となります。
費用相場
フーナーテストの費用は、保険適用か自費診療か、また医療機関(クリニックか病院か、所在地など)によって異なります。
一般的な費用相場は以下のようになります。
項目 | 保険適用(3割負担の目安) | 自費診療(目安) | 備考 |
---|---|---|---|
フーナーテスト単体 | 1,000円~2,000円程度 | 3,000円~10,000円程度 | 初診料や再診料が別途かかる場合あり |
初診料・再診料 | 保険適用に基づく | 3,000円~10,000円程度 | 医療機関による |
超音波検査など | 保険適用に基づく | 5,000円~15,000円程度 | 排卵日予測のために同時に行う場合あり |
(※上記はあくまで目安であり、医療機関によって大きく異なる可能性があります。
正確な費用については、受診を検討している医療機関に直接お問い合わせください。)
保険適用となったことで、以前に比べて経済的な負担は軽減される可能性があります。
しかし、自費診療となる場合や、他の検査と組み合わせて行う場合は、それなりの費用がかかることもあります。
事前に費用の概算を確認しておくと安心です。
フーナーテストに関するよくある疑問
フーナーテストを受けるにあたって、多くの人が抱きやすい疑問にQ&A形式でお答えします。
検査は痛い?
フーナーテストの内診は、一般的に強い痛みを感じることはほとんどありません。
検査方法は、内診台でクスコを挿入し、子宮頚管から少量の粘液を採取するというものです。
これは、子宮がん検診やその他の内診と基本的には同じ手技です。
粘液採取時に軽い刺激や違和感がある可能性はありますが、通常はすぐに治まります。
リラックスして臨むことで、不必要な緊張が和らぎ、よりスムーズに検査を受けられることが多いです。
もし過去の内診で強い痛みを感じた経験がある場合は、事前に医師や看護師に伝えておくと、配慮してもらえるでしょう。
フーナーテストの妊娠率は?
フーナーテストの結果そのものが、そのまま妊娠率を示すわけではありません。
フーナーテストはあくまで「性交後、精子が子宮頚管を通過できているか」という一点を確認する検査です。
結果が良好だからといって、必ずしもすぐに妊娠できるとは限りません。
妊娠には、排卵が正常に行われているか、卵管が詰まっていないか、子宮環境は適切か、着床に問題はないかなど、他にも多くの要因が関わっています。
フーナーテストが良好でも、他の不妊原因が存在する可能性はあります。
一方で、結果が不良だった場合も、直ちに妊娠が不可能であるということではありません。
前述のように、一時的な要因で不良な結果となることもありますし、原因(例えば精液所見不良や頚管粘液異常など)が特定できれば、適切な治療によって妊娠に至る可能性は十分にあります。
フーナーテストは、あくまで不妊原因を探るための一つの手がかりであり、これだけで妊娠の可能性を断定することはできません。
結果は、今後の検査や治療方針を検討するための情報として活用されます。
検査は何回必要?
フーナーテストが必要な回数は、個人の状況や医療機関の方針によって異なります。
- 1回で十分な場合: 検査時期(排卵期)や性交後の時間が適切であり、一度の検査で明らかな良好な結果が得られた場合、その後のフーナーテストは基本的に必要ないことが多いです。精子の通過に問題がないと判断できるためです。
- 再検査が推奨される場合: 一度の検査で不良な結果だった場合、その結果が一時的なものかどうかを確認するためや、検査のタイミングが適切でなかった可能性を考慮して、別の周期に再検査を推奨されることがあります。また、境界線上の結果だった場合も、念のため再検査を行うことがあります。
- 他の検査に進む場合: フーナーテストの結果が不良であり、精液検査や抗精子抗体検査などの追加検査で原因が特定された場合は、その原因に対する治療に進むため、フーナーテストの再検査は不要となることが多いです。
一般的には、一度の結果だけで判断せず、必要に応じて1~2回の再検査を行うことで、より信頼性の高い評価を目指す場合があります。
ただし、検査時期や性交タイミングの調整など、前回の注意点を踏まえて再検査を行うことが重要です。
性交後、病院に行くまでの時間は?
フーナーテストのための性交後、病院を受診するまでの推奨時間は、一般的に6時間から12時間以内とされています。
この時間内に受診することが推奨されるのは、以下の理由からです。
- 精子の生存率と運動性: 射精された精子は、膣内の酸性環境では生存しにくいですが、子宮頚管粘液の中では数日間生存できると言われています。しかし、頚管粘液に進入して間もない時間帯(数時間以内)は、まだすべての精子が粘液に入り込めていない可能性があります。一方で、時間が経ちすぎると、精子の運動性が低下したり、死滅したりしてしまい、正確な評価ができなくなります。
- 頚管粘液の状態: 性交から適切な時間内に採取することで、性交時の精子と頚管粘液の相互作用を最もよく反映した状態を観察できます。
医療機関によっては、「8時間から12時間後」や「性交から3~4時間後、または6~8時間後」など、推奨する時間が異なる場合があります。
これは、医療機関の検査プロトコルや、精子の観察に最適な時間帯に関する考え方の違いによるものです。
正確な評価のためにも、検査を予約する際に、医療機関から指定された性交後の受診時間を必ず確認し、その指示に従うようにしてください。
時間を守ることが、検査結果の信頼性を高める上で非常に重要です。
フーナーテストのエビデンスと検査の限界
フーナーテストは古くから行われている不妊検査ですが、その診断的な価値や不妊治療における位置づけについては、近年見直しが進んでいます。
フーナーテストの信頼性について
フーナーテストは、非侵襲的で比較的簡便に実施できる検査として広く行われてきました。
しかし、その結果と実際の妊娠率との関連性については、研究によって様々な報告があり、一定の見解が得られていないのが現状です。
フーナーテストが不良であったとしても、その後に自然妊娠や人工授精で妊娠に至るケースもあれば、良好な結果であっても妊娠に至らないケースも多く見られます。
これは、フーナーテストが評価できるのはあくまで「性交後、精子が頚管粘液を通過できているか」という限られたステップのみであり、不妊の原因は他にも多岐にわたるためです。
例えば、頚管粘液を通過できても、卵管内で卵子と出会えなければ受精は起こりませんし、受精できても着床できなければ妊娠には至りません。
また、フーナーテストの結果は、検査を行うタイミング(排卵期の正確さ)、性交後の時間、男性のその時の精子の状態、採取する頚管粘液の量や部位、顕微鏡観察を行う検査技師のスキルなど、様々な要因によって変動しやすいという側面もあります。
これらの要因が、検査の再現性や信頼性を低下させる要因となりえます。
これらのことから、フーナーテスト単独で不妊の原因を診断したり、その後の妊娠率を予測したりすることには限界があると考えられています。
近年の不妊治療における位置づけ
前述の通り、フーナーテストの診断的価値には限界があることが指摘されており、近年の不妊治療においては、その実施が必須ではなくなりつつあります。
不妊治療のガイドラインによっては、必須検査リストから外されている場合や、「必ずしも行う必要はない」と記載されている場合もあります。
その背景には、フーナーテストの信頼性の問題に加え、以下のような理由があります。
- 他のより信頼性の高い検査の普及: 男性側の不妊原因をより正確に評価できる精液検査や、免疫性不妊の原因となる抗精子抗体を検出できる抗精子抗体検査など、より直接的で客観的な情報が得られる検査が広く行われるようになったこと。
- 患者の負担: 性交後すぐに受診する必要があることや、結果が不良だった場合に精神的なショックを受ける可能性があることなど、患者にとって負担となる側面があること。
- 治療法の進歩: 人工授精や体外受精といった治療法が進歩し、精子が頚管粘液を通過できない、あるいは頚管粘液と精子に相性の問題があるといったケースでも、これらの関門をスキップして妊娠を目指せるようになったこと。
ただし、全ての医療機関でフーナーテストが行われなくなったわけではありません。
一部の医療機関では、スクリーニング検査として、あるいは特定の不妊原因が疑われる場合に、補助的な情報として依然として実施されています。
特に、男性側の精液検査に大きな問題が見られない場合や、原因不明不妊の場合などに、精子と頚管粘液の相互作用を確認するために行われることがあります。
フーナーテストを受けるかどうかは、医師とよく相談し、メリットとデメリットを理解した上で判断することが重要です。
フーナーテストの結果が悪かった場合の次のステップ
フーナーテストの結果が不良だった場合、それが直ちに不妊を意味するわけではありませんが、何らかの不妊原因が存在する可能性を示唆します。
この場合、原因をさらに詳しく調べたり、結果に応じた治療法に進んだりすることが一般的です。
考えられる原因と治療法
フーナーテスト不良の原因として考えられるものに対して、以下のような追加検査や治療法が検討されます。
- 精液検査の結果が悪かった場合:
- 原因:精子数、運動率、形態の異常。
- 次のステップ:泌尿器科を受診し、男性不妊の専門的な検査や治療(ホルモン療法、生活習慣の改善指導、手術など)を行う場合があります。精液所見が非常に悪い場合は、人工授精や体外受精(顕微授精を含む)といった生殖補助医療を検討します。
- 頚管粘液の分泌量や質が悪かった場合:
- 原因:ホルモンバランスの乱れ(エストロゲン不足)、頚管の炎症や損傷など。
- 次のステップ:ホルモン補充療法によって頚管粘液の分泌を改善したり、炎症がある場合は治療を行ったりします。頚管粘液の状態改善が難しい場合や、他の不妊原因も併存する場合は、人工授精が選択肢となります。
- 抗精子抗体が疑われる場合(精子が凝集しているなど):
- 原因:女性の体内に精子に対する抗体が存在。
- 次のステップ:血液検査で抗精子抗体の有無や程度を調べます。抗体陽性の場合、自然妊娠やタイミング法では精子の通過が阻害されるため、人工授精や体外受精が適応となります。特に抗体価が高い場合は、顕微授精が必要となることもあります。
- 原因が特定できない場合(原因不明不妊の一部として):
- 次のステップ:フーナーテスト以外の他の不妊検査(卵管造影検査、子宮鏡検査、ホルモン検査など)を全て行っても原因が特定できない場合、人工授精や体外受精といったステップアップ治療が検討されます。
フーナーテストの結果は、あくまで次の検査や治療の方向性を決めるための一つの情報です。
結果が不良だったとしても、落ち込む必要はありません。
適切な検査と治療に進むことで、妊娠の可能性を高めることができます。
人工授精へのステップアップ
フーナーテストの結果が不良であり、特に精液所見に大きな問題がないにも関わらず精子が頚管粘液を通過できていない場合(頚管因子不妊や、軽度な抗精子抗体など)は、人工授精(Intrauterine Insemination: IUI)が有力な次のステップとなります。
人工授精は、排卵のタイミングに合わせて、採取・洗浄し、運動率の良い精子を濃縮したものを、カテーテルを用いて直接子宮内に注入する治療法です。
これにより、精子は子宮頚管という関門を通過する必要がなくなります。
フーナーテスト不良の場合に人工授外が適応となる理由は、精子と頚管粘液の間の相互作用の問題を回避できるためです。
また、精液所見が軽度不良な場合にも、質の良い精子を選んで子宮内に注入することで、妊娠の確率を高める効果が期待できます。
人工授精の成功率は、一般的に1回あたり5%~10%程度とされており、体外受精に比べると低いですが、体への負担や費用は少なく済みます。
数回(例えば3~6回程度)人工授精を行っても妊娠に至らない場合や、他の不妊原因が明らかになった場合は、体外受精へのステップアップが検討されます。
フーナーテストと関連する不妊検査
不妊の原因は多岐にわたるため、フーナーテストだけで全てがわかるわけではありません。
不妊の原因を総合的に評価するために、フーナーテストと合わせて、あるいは結果に応じて他の不妊検査が行われます。
精液検査
精液検査は、男性側の不妊原因を調べるための最も基本的で重要な検査です。
フーナーテストの結果不良の原因として、男性側の精液所見不良が考えられる場合、必須の検査となります。
精液検査では、採取した精液について以下の項目などを評価します。
- 精液量: 1回の射精でどれくらいの量があるか(正常値:1.5ml以上)。
- 精子濃度: 精液1mlあたりに何個の精子がいるか(正常値:1,500万個/ml以上)。
- 精子運動率: 精子のうち、どれくらいの割合が運動しているか。
特に前進運動している精子の割合が重要(正常値:前進運動精子率 32%以上)。 - 精子形態: 精子の頭部、頸部、尾部の形が正常か(正常形態精子率 4%以上)。
- 生存率: 精子のうち生存している割合。
- 白血球: 炎症の有無を示唆。
これらの項目に異常がある場合(乏精子症、精子無力症、奇形精子症など)、男性不妊と診断され、その原因に応じた治療や、人工授精・体外受精といった治療法が検討されます。
精液検査は、フーナーテストでは間接的にしか評価できない男性側の精子の状態を、より客観的かつ詳細に把握するために不可欠な検査です。
抗精子抗体検査
抗精子抗体検査は、女性の体内に精子に対する抗体が存在するかどうかを調べる検査です。
フーナーテストで精子の動きが悪い、凝集しているなどが見られた場合に、抗精子抗体が原因として疑われます。
抗精子抗体は、何らかの原因で女性の免疫システムが精子を異物と認識し、攻撃するために作られる抗体です。
この抗体が子宮頚管粘液や子宮内、卵管内などに存在すると、精子の動きを阻害したり、精子を凝集させたり、卵子との受精を妨げたりすることがあります。
抗精子抗体検査は、血液検査や頚管粘液を用いた検査で行われます。
血液検査が一般的です。
抗精子抗体が陽性の場合、精子が女性生殖器内をうまく移動できないため、自然妊娠やタイミング法での妊娠が難しくなることがあります。
このような場合は、精子を直接子宮内に注入する人工授精や、体外で受精させる体外受精(特に顕微授精)が有効な治療法となります。
フーナーテストでの精子凝集所見などは、抗精子抗体の存在を示唆するサインの一つとなりますが、確定診断のためには専用の抗精子抗体検査が必要です。
その他の不妊検査(卵管造影検査、子宮鏡検査、AMH検査など)
不妊の原因は、精子の問題や頚管粘液の問題だけではありません。
女性側の不妊原因としては、排卵障害、卵管の通過障害、子宮の形態異常や病気、卵巣機能の低下など、様々な要因が考えられます。
これらの原因を調べるために、以下のような検査が行われます。
- 卵管造影検査: 子宮の入り口から造影剤を注入し、レントゲンで卵管の通り具合や子宮の形を調べる検査です。卵管が詰まっていると、精子と卵子が出会えず、受精ができません。不妊原因の約3割は卵管因子と言われています。
- 子宮鏡検査: 細いカメラを子宮内に挿入し、子宮の内部を直接観察する検査です。子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮の形の異常などが着床を妨げている可能性がないかを調べます。
- ホルモン検査: 血液検査で様々な女性ホルモン(卵胞刺激ホルモン FSH、黄体形成ホルモン LH、エストロゲン E2、プロゲステロン P4、プロラクチン PRL、甲状腺ホルモンなど)の値を調べ、排卵が正常に行われているか、卵巣機能はどうかなどを評価します。
- AMH検査: 抗ミュラー管ホルモン(AMH)の値を血液検査で調べ、卵巣の中に残っている卵子の目安の数を評価します。卵巣予備能を知るための検査であり、今後の妊娠計画や治療方針を立てる上で参考になります。
- 超音波検査: 経膣エコーで子宮や卵巣の大きさ、形、卵胞の成長、排卵の有無、子宮内膜の厚さなどを観察します。周期に合わせて複数回行うことで、排卵のタイミングを予測したり、子宮や卵巣に異常がないかを確認したりします。
これらの検査は、フーナーテストとは異なる側面の不妊原因を調べるために行われます。
不妊の原因を正確に診断し、適切な治療法を選択するためには、これらの検査を組み合わせて総合的に評価することが重要です。
まとめ:フーナーテストでわかることと妊活への活かし方
フーナーテスト(ヒューナーテスト)は、不妊検査の一つとして、性交後、女性の子宮頚管粘液中の精子の状態を調べる性交後検査です。
この検査によって、「性交によって射精された精子が、子宮頚管という関門を通過し、頚管粘液中で適切に生存・運動できているか」という点を確認することができます。
これは、精子の運搬・通過のプロセスに問題がないかを知るための一つの手がかりとなります。
検査は、排卵期に性交を行い、その後6~12時間程度で医療機関を受診し、子宮頚管粘液を採取して顕微鏡で観察することで行われます。
結果は、頚管粘液中の運動精子の数や状態によって評価され、良好であれば精子の通過に問題がない可能性が高く、不良であれば精子側、頚管粘液側、または両方の問題が考えられます。
フーナーテストはかつて広く行われていましたが、その信頼性には限界があることが近年指摘されており、他のより客観的で信頼性の高い検査(精液検査、抗精子抗体検査など)の普及に伴い、必須の検査ではなくなりつつあります。
しかし、特定の状況下では、精子と頚管粘液の相互作用に関する情報を提供する補助的な検査として有用な場合もあります。
もしフーナーテストの結果が不良だったとしても、それは必ずしも深刻な不妊を意味するわけではありません。
結果不良の原因(精液所見不良、頚管粘液異常、抗精子抗体など)を特定するために、精液検査や抗精子抗体検査といった追加の検査が必要となります。
原因が特定できれば、ホルモン療法や感染症治療といった内科的な治療、あるいは精子を直接子宮内に注入する人工授精や、体外で受精させる体外受精といった生殖補助医療へとステップアップすることで、妊娠を目指すことが可能です。
フーナーテストは、不妊原因の複雑なパズルを解くための一つのピースとなりうる検査です。
検査の結果だけで一喜一憂せず、その結果が何を示唆しているのか、そして次のステップとしてどのような検査や治療が必要となるのかを、必ず不妊治療の専門医とよく相談してください。
医師は、フーナーテストの結果だけでなく、他の検査結果や夫婦の状況を総合的に判断し、最適な治療方針を提案してくれます。
妊活は一人で悩まず、専門家のサポートを受けながら、ご自身に合った方法で進めていくことが大切です。
免責事項:
この記事で提供される情報は、一般的な知識を提供するものであり、個々の状況に対する医学的なアドバイスや診断、治療を意図するものではありません。
不妊に関するご自身の状況や懸念については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
医療に関する決定は、必ず資格を持った専門家と相談の上で行ってください。
この記事の情報に基づいてご自身で判断・行動された結果生じた不利益や損害について、筆者および公開者は一切の責任を負いません。