あなたの肺活量 基準値は?年齢・性別ごとの目安と見方

私たちの体に必要な酸素を取り込み、不要な二酸化炭素を排出する役割を担っているのが「肺」です。その肺の機能を知る指標の一つに「肺活量」があります。肺活量は、一度にどれだけ多くの空気を肺に出し入れできるかを示す値であり、全身の健康状態とも深く関連しています。

ご自身の肺活量が年齢や性別に対して適切なのか、気になる方も多いでしょう。この記事では、肺活量の基本的な知識から、年齢・性別・身長ごとの基準値の目安、肺機能検査の見方、基準値が低い場合に考えられる病気、そして肺活量を増やす・改善する方法まで、詳しく解説します。この記事を通して、ご自身の肺の健康状態をチェックし、今後の健康管理に役立ててください。

目次

肺活量とは?基本的な知識

肺活量(Vital Capacity: VC)とは、肺に最大限に吸い込んだ空気を、最大限に吐き出したときの空気の量を指します。つまり、「努力して吸える最も大きな吸気量」と「努力して吐き出せる最も大きな呼気量」の合計です。

肺活量は、呼吸の深さや肺の拡張能力、そして呼吸筋の強さによって決まります。健康な肺は、空気をたくさん取り込み、しっかりと吐き出すことができますが、肺や気管支に病気があったり、加齢によって機能が低下したりすると、肺活量は減少する傾向があります。

深呼吸は日常的に行いますが、肺活量を測定する際は、意識的に最大の努力をもって行われる呼吸運動となります。単なる一回の呼吸量ではなく、肺の容量を最大限に活用した際の交換可能な空気の総量を示す指標として重要視されます。

なぜ肺活量が重要なのでしょうか。それは、肺活量が全身に酸素を供給し、老廃物である二酸化炭素を排出する能力と密接に関わっているからです。肺活量が十分にあれば、効率的に酸素を取り込み、運動能力や持久力を維持できます。逆に肺活量が低下すると、少しの運動でも息切れしやすくなったり、日常生活に支障をきたしたりすることがあります。また、特定の病気の兆候として肺活量の低下が現れることもあるため、健康状態を把握する上で重要な指標となります。

肺活量は、性別、年齢、身長、体重、普段の運動習慣など、様々な要因によって変動します。そのため、自分の肺活量が適切かどうかを判断するためには、これらの要因を考慮した「基準値」と比較することが必要です。

肺活量 基準値は?年齢・性別・身長ごとの目安

肺活量の基準値は、個人の特性によって大きく異なります。特に、性別、年齢、そして身長は肺活量を決定する上で非常に重要な要素です。一般的に、男性は女性よりも肺活量が大きく、身長が高い人ほど肺活量も大きくなる傾向があります。また、肺活量は成長期に増加し、成人期にピークを迎え、その後は加齢とともに徐々に低下していくのが自然な生理的変化です。

ご自身の肺活量が「基準値」に対してどの程度なのかを知るためには、これらの要因を考慮した「予測肺活量」という考え方を用います。

成人男性の肺活量 基準値 目安

成人男性の肺活量は、一般的に女性よりも大きいです。これは、男性の方が女性よりも体格が大きい傾向があり、特に肺や胸郭のサイズが相対的に大きいことに起因します。

具体的な目安としては、健康な成人男性の肺活量は、おおよそ 3,000 ml(3リットル)から 5,000 ml(5リットル)程度 と言われることが多いです。しかし、これはあくまで一般的な傾向であり、個々の身長や体格、年齢、運動習慣によって大きく変動します。例えば、スポーツをしている人、特に持久力が求められる競技(水泳、長距離走など)のアスリートは、トレーニングによって呼吸筋が鍛えられ、肺活量が平均よりも大きくなる傾向があります。

後述する「予測肺活量」を用いて、ご自身の身長と年齢から算出される標準値と比較することが、より正確な評価につながります。

成人女性の肺活量 基準値 目安

成人女性の肺活量は、一般的に成人男性よりも小さい傾向があります。これは主に、男性と比較して平均的に身長や体格が小さいこと、および肺や胸郭の構造的な違いによるものです。

健康な成人女性の肺活量は、おおよそ 2,000 ml(2リットル)から 4,000 ml(4リットル)程度 が一般的な目安とされています。こちらも男性と同様に、身長や年齢、体格、運動習慣などによって個人差が大きいです。

特に、女性は妊娠や出産によって一時的に肺活量に影響が出ることがありますが、基本的には回復します。また、高齢になると男女ともに肺活量は減少していきますが、その低下のペースや程度は個人差があります。

基準値の計算方法:予測肺活量とは

肺活量の基準値を評価する際に最も一般的に用いられるのが、「予測肺活量(Predicted Vital Capacity: pVC)」です。予測肺活量は、健康な人が持つであろう標準的な肺活量を、その人の性別、年齢、身長といった客観的なデータから統計的に予測した値です。

予測肺活量は、特定の計算式を用いて算出されます。計算式は研究機関や基準によっていくつか存在しますが、基本的な考え方は共通しており、性別、身長、年齢を数式に代入することでミリリットル(ml)単位の値が得られます。

(計算式の例:詳細な数値は基準により異なります)
男性の予測肺活量 = a × 身長(cm) – b × 年齢(歳) – c
女性の予測肺活量 = d × 身長(cm) – e × 年齢(歳) – f
(a, b, c, d, e, f は統計的に定められた定数)

ご自身の実際の肺活量(実測値)を、この予測肺活量と比較することで、客観的に肺機能の状態を評価することができます。通常、実測値が予測肺活量の何パーセントにあたるかを示す「%肺活量(%VC)」という指標が用いられます。

%VC = (実測肺活量 / 予測肺活量) × 100

この%VCが、ご自身の肺活量が基準に対してどの程度かを判断する上で非常に重要な指標となります。

年齢別・性別ごとの肺活量 平均値

年齢別・性別ごとの肺活量の平均値は、予測肺活量の算出根拠となる統計データに基づいています。一般的には、以下の図のような傾向が見られます(便宜上、グラフイメージとして文章で表現します)。

【年齢別・性別ごとの肺活量 平均値の傾向】

年齢層 男性平均肺活量(目安) 女性平均肺活量(目安) 特徴
〜20歳頃 増加傾向 増加傾向 成長期であり肺機能が発達
20代〜30代 ピーク ピーク 最も高い肺活量を維持しやすい時期
40代以降 徐々に低下 徐々に低下 加齢に伴い肺や胸郭の弾力性が低下
70代以降 低下が進む 低下が進む 呼吸筋の衰えなども影響

(※これらの数値はあくまで一般的な傾向を示す目安であり、個々の身長によっても大きく異なります。)

このように、肺活量は20代から30代にかけてピークを迎え、その後は加齢とともに緩やかに減少していきます。この減少は生理的な変化であり、ある程度の低下は自然なことです。しかし、年齢の割に肺活量の低下が大きい場合や、他の症状(息切れ、咳、痰など)を伴う場合は、何らかの病気が隠れている可能性も考えられます。

肺機能検査で見るべき基準値と見方

肺活量を正確に測定し、その機能状態を詳しく評価するために行われるのが「肺機能検査(スパイロメトリー)」です。この検査では、単に肺活量だけでなく、様々な呼吸の指標が測定されます。これらの指標それぞれの基準値と見方を理解することで、肺の健康状態をより深く知ることができます。

肺機能検査は、一般的に、まず安静時の呼吸をした後、最大限に息を吸い込み、そして最大限に速く、完全に息を吐き出すという一連の動作で行われます。この際の空気の量や速度が詳細に記録・解析されます。

肺活量(VC)の基準値

肺活量(VC)は、前述の通り、最大限に吸って最大限に吐き出した空気の総量です。肺機能検査では、このVCの絶対値が測定されます。

基準値としてVCの絶対値を見ることもありますが、VCの絶対値は性別、年齢、身長によって大きく異なるため、この値単独で異常を判断することは少ないです。より重要なのは、次に説明する「予測肺活量に対する割合(%VC)」です。VCの絶対値はあくまで、その後の評価の基礎となる実測値として捉えられます。

予測肺活量(%VC)の基準値

%肺活量(%VC)は、実測された肺活量(VC)が、その人の性別、年齢、身長から算出された予測肺活量に対して何パーセントにあたるかを示した値です。

%VC = (実測肺活量 / 予測肺活量) × 100

この%VCは、肺の「大きさ」や「拡張能力」が年齢・性別の基準に対して適切かどうかを評価する主要な指標となります。

一般的な基準値は、%VCが80%以上であれば「正常範囲」と判断されます。

  • %VC 80%以上: 正常
  • %VC 80%未満: 基準値より低い(肺活量減少)

%VCが80%未満の場合、肺の容量が減少している可能性があり、「拘束性肺機能障害」の兆候が疑われます。これは、肺自体が硬くなったり小さくなったり(間質性肺炎など)、あるいは胸郭の動きが制限されたり(神経筋疾患、胸膜疾患など)するために、肺を十分に膨らませることができない状態を示唆します。

1秒量(FEV1)の基準値

1秒量(Forced Expiratory Volume in 1 second: FEV1)とは、最大限に息を吸い込んだ状態から、一気に勢いよく息を吐き出した際に、最初の1秒間に吐き出せる空気の量です。これは、肺から空気を「勢いよく出す能力」、つまり気管支の「空気の通りやすさ」を評価する重要な指標となります。

FEV1の基準値も、VCと同様に性別、年齢、身長によって異なるため、絶対値よりも予測値に対する割合(%FEV1)や、後述する「1秒率(FEV1%)」がより重要視されます。

しかし、FEV1は気管支の狭窄や閉塞を直接的に反映するため、COPDや喘息などの気道疾患の評価に不可欠な項目です。

1秒率(FEV1%)の基準値

1秒率(Forced Expiratory Volume in 1 second / Vital Capacity: FEV1% または FEV1/VC)とは、肺活量(VC)のうち、最初の1秒間にどれだけの割合の空気を吐き出せたかを示す指標です。

1秒率 = (1秒量 / 肺活量) × 100

この1秒率は、%VCとは異なり、肺の容量そのものよりも、気管支がどれだけスムーズに空気を通過させられるか、つまり「空気の通りやすさ」を評価するのに適しています。

一般的な基準値は、1秒率が70%以上であれば「正常範囲」と判断されます。

  • 1秒率 70%以上: 正常
  • 1秒率 70%未満: 基準値より低い(気道が狭窄・閉塞している可能性)

1秒率が70%未満の場合、気管支が狭くなっていたり(狭窄)、痰などで詰まっていたり(閉塞)して、空気を勢いよく吐き出すことが難しい状態を示唆します。「閉塞性肺機能障害」の兆候が疑われ、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支喘息などの病気が考えられます。

%肺活量と1秒率の見方・判断方法

肺機能検査の結果を解釈する上で、%肺活量(%VC)と1秒率(FEV1%)の組み合わせが非常に重要です。これらの値を見ることで、肺機能障害のタイプ(拘束性、閉塞性、混合性)を分類し、原因となる病気を絞り込む手がかりを得ることができます。

以下に、%VCと1秒率の組み合わせによる一般的な肺機能障害の分類を示します。(この情報を表で整理します)

状態 %肺活量 (%VC) 1秒率 (FEV1%) 考えられる肺機能障害のタイプ 特徴 疑われる代表的な病気
正常 80%以上 70%以上 なし 肺の容量も気道の通りも正常
拘束性障害 80%未満 70%以上 拘束性 肺の容量が小さいが、気道は比較的正常で空気を勢いよく吐き出せる 間質性肺炎、サルコイドーシス、胸膜炎、神経筋疾患、肥満など
閉塞性障害 80%以上 70%未満 閉塞性 肺の容量は比較的保たれているが、気道が狭く空気を勢いよく吐き出せない COPD(慢性気管支炎、肺気腫)、気管支喘息など
混合性障害 80%未満 70%未満 混合性 肺の容量も小さく、気道も狭い COPDと間質性肺炎の合併、重症の呼吸器疾患など

このように、肺機能検査の結果は、これらの数値を総合的に評価して判断されます。例えば、%VCが低い場合は肺の容量が小さい(拘束性)、1秒率が低い場合は気道が狭い(閉塞性)と判断できます。両方が低い場合は、複数の原因が考えられる混合性の障害となります。

ただし、これらの基準値はあくまで目安であり、最終的な診断は医師が問診や他の検査結果(胸部X線写真、CT検査など)と併せて行います。

肺活量 基準値が低い場合(少ない場合)に疑われる病気

肺機能検査の結果、%肺活量や1秒率が基準値よりも低い場合、何らかの肺機能障害や呼吸器系の病気が隠れている可能性があります。肺活量の低下は、自覚症状がないまま進行することもあるため、検査で早期に発見されることが重要です。

肺機能障害は、大きく「拘束性障害」「閉塞性障害」「混合性障害」に分けられます。それぞれについて、肺活量基準値との関連性や疑われる病気を詳しく見ていきましょう。

拘束性肺機能障害とは(%VC低下)

拘束性肺機能障害は、主に肺が十分に膨らむことができない、あるいは胸郭の動きが制限されることによって肺の容量(肺活量)が減少するタイプの障害です。肺機能検査では、%VCが基準値(80%)未満となることが特徴です。一方、気道の通りは比較的保たれているため、1秒率は正常(70%以上)であることが多いです。

このタイプの障害で疑われる代表的な病気は以下の通りです。

  • 間質性肺炎: 肺の肺胞と肺胞の間の組織(間質)に炎症や線維化が起こり、肺が硬く厚くなる病気です。肺がゴムのように硬くなるため、十分に膨らむことができず、肺活量が低下します。原因は多岐にわたり、不明な場合(特発性間質性肺炎)や、膠原病、薬剤、塵肺などが原因となることもあります。進行すると酸素の取り込みが悪くなり、息切れがひどくなります。
  • サルコイドーシス: 全身の様々な臓器に肉芽腫という炎症の塊ができる病気で、肺やリンパ節にできることが多いです。肺に病変ができると間質性肺炎と同様に肺が硬くなり、肺活量が低下することがあります。
  • 胸膜炎や胸水貯留: 肺を包む胸膜に炎症が起きたり、胸腔内に異常な量の水分がたまったりすると、肺が十分に広がるスペースがなくなり、肺活量が低下します。
  • 神経筋疾患: 筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーなど、呼吸に関わる筋肉(横隔膜、肋間筋など)の機能が低下する病気です。筋肉が弱ることで、十分に息を吸い込んだり吐き出したりする力が弱まり、肺活量が低下します。
  • 脊椎や胸郭の変形: 重度の側弯症など、脊椎や胸郭の骨格に変形があると、肺が収まるスペースが狭くなったり、胸郭の動きが制限されたりして、肺活量が低下します。
  • 高度な肥満: 極度に体重が多い場合、腹部の脂肪が横隔膜を押し上げ、肺が十分に拡張するのを妨げることがあります。これにより肺活量が低下することがあります。

これらの病気は、肺活量の低下以外にも、息切れ、咳、胸の痛みなどの症状を伴うことがありますが、初期には自覚症状が乏しいこともあります。

閉塞性肺機能障害とは(FEV1%低下)

閉塞性肺機能障害は、主に気管支が狭窄または閉塞することによって、空気を肺から勢いよく吐き出すことが難しくなるタイプの障害です。肺機能検査では、1秒率が基準値(70%)未満となることが特徴です。一方、肺の容量そのものは比較的保たれているため、%VCは正常(80%以上)であることが多いですが、病状が進むと%VCも低下して混合性障害となることもあります。

このタイプの障害で疑われる代表的な病気は以下の通りです。

  • COPD(慢性閉塞性肺疾患): 喫煙などが原因で、気管支が慢性的に炎症を起こして狭くなり(慢性気管支炎)、肺胞が破壊されて弾力性が失われる(肺気腫)病気です。一度吐き出した空気が肺の中に残りやすくなり(残気量増加)、十分に空気を入れ替えられなくなるため、特に息を吐き出すのに時間がかかります。これにより1秒量が減少し、1秒率が低下します。進行すると、少し体を動かしただけで強い息切れを感じるようになります。
  • 気管支喘息: 気道が慢性的な炎症によって過敏になり、様々な刺激によって気道が狭くなる発作(喘鳴、呼吸困難、咳など)を繰り返す病気です。発作時は気道の狭窄により空気を勢いよく吐き出せなくなるため、1秒率が低下します。喘息は発作がない時は肺機能が正常に近いこともありますが、慢性的な炎症が続くと気道のリモデリング(構造的な変化)が起こり、常に気道が狭い状態になることもあります。
  • 慢性気管支炎: 気管支に慢性の炎症が起こり、咳や痰が長期間続く病気です。気管支の粘膜が厚くなったり、痰が増えたりすることで気道が狭くなり、閉塞性障害の原因となることがあります。
  • 気管支拡張症: 気管支の壁が壊れて異常に拡張し、慢性的に痰がたまりやすくなる病気です。拡張した部分が感染を繰り返したり、周囲の気管支を圧迫したりすることで気流障害を引き起こし、閉塞性障害の原因となることがあります。

これらの病気は、咳、痰、息切れ、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音)といった症状を伴うことが多いです。特にCOPDは、喫煙習慣がある方で徐々に進行することが多く、気づいた時には肺機能がかなり低下していることも少なくありません。

混合性障害とは

混合性障害は、拘束性障害と閉塞性障害の両方の特徴を併せ持つタイプの肺機能障害です。肺機能検査では、%VCも1秒率もともに基準値未満(%VC < 80% かつ FEV1% < 70%)となります。

混合性障害は、例えばCOPDと間質性肺炎を合併している場合や、重症の呼吸器疾患で肺の容量減少と気道の狭窄・閉塞の両方が見られる場合に起こります。また、喫煙習慣のある方が間質性肺炎になった場合などにも見られることがあります。

混合性障害は、肺機能の低下が比較的重度である場合が多く、より複雑な病態を示唆します。診断や治療方針の決定には、呼吸器専門医による詳細な評価が必要となります。

基準値以下の場合の受診目安・危険値

肺機能検査で%VCや1秒率が基準値(%VC < 80%、FEV1% < 70%)を下回った場合、それは肺機能が低下しているサインです。どの程度低い場合に受診すべきか、あるいは「危険値」とされるかは、個々の状況や症状によって異なりますが、一般的には以下の目安が考えられます。

  • 軽度の低下: %VCや1秒率がわずかに基準値を下回る程度で、自覚症状(息切れなど)がほとんどない場合。この場合でも、原因を特定するために一度医療機関を受診し、医師の診断を受けることが推奨されます。特に喫煙習慣がある方や、特定の職業に従事している方(塵肺のリスクなど)、家族に肺の病気の人がいる方などは注意が必要です。
  • 中等度〜重度の低下: %VCや1秒率が基準値を大きく下回る場合(例えば、%VCが予測値の50%未満、1秒率が40%未満など)。このレベルになると、階段を上るだけで息切れするなど、日常生活で息苦しさを感じることが多くなります。この場合は、速やかに医療機関を受診し、詳しい検査を受けて診断・治療を開始することが非常に重要です。特に安静時にも息切れがある、唇や指先が紫色になる(チアノーゼ)、意識障害があるなどの症状が出ている場合は、生命に関わる危険な状態である可能性があり、救急での対応が必要となることもあります。

肺機能検査の結果は、医師が他の検査結果(胸部X線、CT、血液検査など)や問診、診察結果と総合して判断します。基準値以下という結果が出た場合でも、必要以上に心配しすぎず、まずは医療機関で医師に相談し、適切なアドバイスを受けることが大切です。早期に病気が発見されれば、適切な治療によって病状の進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることが可能です。

肺活量が少ない人の特徴

肺活量が基準値よりも少ない人には、いくつかの身体的特徴や生活習慣が見られることがあります。全ての人に当てはまるわけではありませんが、一般的な傾向として挙げられます。

  • 息切れしやすい: 階段の上り下り、早歩き、坂道、運動など、少し体を動かしただけで息切れを感じやすいです。これは、肺活量が少ないために、必要な酸素を効率的に体内に取り込めない、あるいは二酸化炭素を十分に排出できないためです。
  • 疲れやすい: 全身に十分な酸素が行き渡りにくいため、体が酸素不足の状態になりやすく、疲れやすさを感じることがあります。
  • 咳や痰が多い: 特に閉塞性肺疾患(COPDなど)が原因の場合、慢性的な咳や痰がみられます。気道の炎症や分泌物によって空気の流れが悪くなっているためです。
  • 呼吸が浅く速い: 肺を深く使うことが難しいため、無意識のうちに呼吸が浅く速くなる傾向があります。
  • 猫背など姿勢が悪い: 姿勢が悪いと、胸郭が圧迫されて肺が十分に広がるのを妨げることがあります。長年の悪い姿勢が肺活量の低下につながる可能性も指摘されています。
  • 喫煙習慣がある: 喫煙はCOPDをはじめとする様々な肺疾患の最大の原因であり、肺機能の低下を招きます。
  • 高齢者: 加齢に伴い、肺や胸郭の弾力性が失われ、呼吸筋も衰えるため、肺活量は自然と低下します。
  • 特定の職業: 粉塵や化学物質などを扱う職業に長期間従事していた場合、塵肺などの職業性肺疾患により肺活量が低下することがあります。
  • 肥満: 高度な肥満は肺の拡張を物理的に妨げ、肺活量の低下につながることがあります。

これらの特徴がある場合、肺活量が低い可能性があります。しかし、これらの特徴があるからといって必ずしも病気があるわけではありません。あくまで可能性として捉え、気になる場合は肺機能検査を含む健康診断や医療機関での相談を検討すると良いでしょう。

肺活量を増やす・改善する方法

一度低下した肺活量を、完全に元の状態に戻すことは、特に加齢や進行性の肺疾患による場合は難しいことが多いです。しかし、適切な方法を取り入れることで、現状の肺機能を維持したり、軽度の改善を目指したり、日常生活での息苦しさを軽減したりすることは十分に可能です。

肺活量を「増やす」というよりも、「呼吸効率を高める」「呼吸筋を鍛える」「肺の健康を維持する」という視点が重要になります。

呼吸筋を鍛えるトレーニング方法

肺自体は筋肉ではありませんが、呼吸をするためには「呼吸筋」と呼ばれる筋肉が働いています。主な呼吸筋には、息を吸うときに働く横隔膜や外肋間筋、息を吐くときに働く内肋間筋や腹筋などがあります。これらの呼吸筋を鍛えることで、より効率的に深く呼吸できるようになり、結果として肺活量に近い指標や呼吸機能全体を改善させることが期待できます。

具体的な呼吸筋トレーニングには以下のようなものがあります。

  • 腹式呼吸: 横隔膜を使った呼吸法です。
    1. 椅子に座るか仰向けに寝て、片手を胸に、もう片方のお腹に置きます。
    2. 鼻からゆっくりと息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます(胸はあまり動かないように意識します)。
    3. 口をすぼめて、お腹をへこませながら、吸うときの倍くらいの時間をかけてゆっくりと息を吐き出します。
    4. これを数回繰り返します。慣れてきたら回数を増やしたり、呼吸の時間を長くしたりします。
    腹式呼吸はリラックス効果もあり、日常生活でも意識的に行うと良いでしょう。
  • 口すぼめ呼吸: 閉塞性肺疾患の方に推奨されることが多い呼吸法です。
    1. 鼻からゆっくりと息を吸い込みます。
    2. 口をすぼめて(ろうそくの火を吹き消すときのように)、ゆっくりと抵抗をかけながら息を吐き出します。吸うときの倍くらいの時間をかけて吐き出すように意識します。
    3. これを数回繰り返します。
    口すぼめ呼吸は、気道内圧を保ち、気道の虚脱を防ぐことで、肺の中に閉じ込められた空気をより効率的に外に出す助けになります。息切れを感じた時に行うと楽になることがあります。
  • インスパイラトリーマッスルトレーナー(IMT): 呼吸筋を鍛えるための専用器具です。息を吸い込む際に抵抗がかかるようになっており、吸気筋を効果的に鍛えることができます。使用方法については、医師や理学療法士の指導のもとで行うことが推奨されます。

これらのトレーニングは、継続して行うことが重要です。無理のない範囲で、毎日少しずつでも続けるようにしましょう。

肺活量と有酸素運動

肺活量を直接的に大きく増やす効果については議論がありますが、有酸素運動は心肺機能全体を向上させる上で非常に有効です。定期的な有酸素運動を行うことで、体全体に酸素を運ぶ効率が高まり、少ない呼吸量でも必要な酸素を供給できるようになります。結果的に、日常生活や運動時の息切れが軽減され、運動能力や持久力が向上し、見かけ上「肺活量が増えた」ように感じる効果が期待できます。

おすすめの有酸素運動としては、以下のようなものがあります。

  • ウォーキング: 手軽に始められ、特別な器具も不要です。少し息が弾む程度のペースで、毎日続けることが効果的です。
  • ジョギング・ランニング: より強度が高く、心肺機能への負荷も大きいため、慣れてきたら取り入れると良いでしょう。
  • 水泳: 全身運動であり、呼吸筋も鍛えられます。水の抵抗が適度な負荷となり、効率的に心肺機能を向上させることができます。
  • サイクリング: 関節への負担が比較的少ない運動です。屋内のエアロバイクでも可能です。
  • 軽いエアロビクスやダンス: 音楽に合わせて楽しく体を動かせます。

運動を始める際は、ご自身の体力や健康状態に合わせて無理のない範囲で行うことが重要です。特に肺疾患がある方や高齢の方は、必ず事前に医師に相談し、どのような運動が適切か、どの程度の強度で行うべきかを確認してから行いましょう。

日常生活でできる肺活量アップのコツ

日々の生活の中で少し意識を変えるだけでも、肺の健康維持や呼吸機能の改善に繋がることがあります。

  • 禁煙: 喫煙は肺機能を低下させる最大の要因です。肺活量の維持・改善のためには、何よりも禁煙が不可欠です。すでに肺疾患がある場合は、禁煙することで病状の進行を遅らせることができます。
  • 良い姿勢を保つ: 背筋を伸ばし、胸を張るように意識するだけで、肺が十分に広がるスペースを確保できます。猫背などの悪い姿勢は肺の拡張を妨げるため、デスクワーク中なども時々姿勢をチェックしましょう。
  • 深く呼吸することを意識する: 普段の生活の中で、時々意識的に深呼吸を取り入れましょう。特に気分転換したいときやリラックスしたいときに、鼻からゆっくり吸って口からゆっくり吐く深呼吸を数回行うだけでも効果があります。
  • 適度な運動習慣を続ける: 前述の有酸素運動を生活の一部として継続しましょう。日々の活動量を増やすことも大切です。エスカレーターやエレベーターを使わずに階段を利用する、一駅分歩くなど、無理なく体を動かす機会を作りましょう。
  • 肺に良い環境を整える: 喫煙者のそばにいる(受動喫煙)ことを避け、空気の汚染が多い場所での活動を控える、定期的に換気を行うなど、きれいな空気を吸うことを心がけましょう。
  • バランスの取れた食事と十分な睡眠: 体全体の健康は肺の健康にも繋がります。栄養バランスの取れた食事を心がけ、十分な睡眠をとることで、免疫力を維持し、感染症などから肺を守ることができます。
  • 感染症予防: 風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症は、肺にダメージを与える可能性があります。手洗いやうがい、人混みを避ける、予防接種を受けるなどの対策をしっかりと行いましょう。

これらのコツを日常生活に取り入れることで、肺の機能を健康に保ち、呼吸の質を向上させることが期待できます。

肺活量が多い人の特徴(アスリートなど)

一般的な基準値と比較して、肺活量が特に大きい人たちがいます。その代表例が、一部のアスリートです。

  • アスリート(特に持久力系): 競泳選手、長距離走選手、自転車ロードレース選手など、持久力が求められる競技のアスリートは、心肺機能を極限まで鍛え上げています。彼らは日々の厳しいトレーニングによって、呼吸筋が発達し、肺の拡張能力も高まっているため、一般の人よりも肺活量が大きい傾向があります。例えば、競泳選手は水中で息を長く止めるトレーニングなどを行うため、特に肺活量が大きくなると言われています。
  • 高身長: 肺の大きさは体のサイズに比例する傾向があるため、高身長の人は一般的に肺活量も大きくなります。
  • 遺伝: 肺の機能や体格には遺伝的な要因も影響するため、遺伝的に肺活量が大きい人もいます。
  • 幼少期からの運動習慣: 成長期に活発に体を動かす習慣があった人は、肺や胸郭が十分に発達し、成人になってからも肺活量が大きい傾向があると言われています。

ただし、肺活量が大きいことと、運動能力が高いことは必ずしもイコールではありません。もちろん、肺活量が大きいことは酸素供給能力のポテンシャルが高いことを意味しますが、実際に運動能力を発揮するには、酸素を全身に運ぶ心臓や血管の機能、酸素を筋肉で利用する能力、そして運動の技術や精神力など、様々な要因が組み合わさる必要があります。肺活量はあくまで、肺の機能の一つの指標として捉えるべきです。

また、トレーニングによってある程度の肺活量の向上は期待できますが、その限界は個人の持って生まれた体質や骨格にも依存します。

肺活量 測り方(検査方法)

ご自身の肺活量を測る方法は、医療機関で精密に測る方法と、自宅で簡易的に測る方法があります。正確な肺機能の状態を知りたい場合は、医療機関での検査が最も信頼できます。

医療機関での肺機能検査

医療機関で行われる肺機能検査の最も一般的なものが「スパイロメトリー」です。これは、呼吸機能検査の基本中の基本とも言える検査です。

スパイロメトリーの流れ:

  • 検査の準備: 検査を受ける方は、検査前に医師や技師から検査方法の説明を受けます。鼻をノーズクリップで閉じ、マウスピースを咥えます。
  • 安静呼吸: 最初はリラックスして通常の呼吸を数回行います。
  • 努力肺活量の測定:
    まず、最大限にゆっくりと息を吸い込みます。
    次に、最大限にゆっくりと、完全に息を吐き出します。この時の量が「ゆっくり肺活量(Slow Vital Capacity: SVC)」です。
    続いて、もう一度最大限にゆっくりと息を吸い込みます。
    そして、今度は最大限に速く、そして完全に息を吐き出します。この時の量が「努力肺活量(Forced Vital Capacity: FVC)」です。通常、「肺活量(VC)」として言及される場合は、このFVCやSVCを指します。
    この「最大限に速く吐き出す」過程で、最初の1秒間に吐き出された空気の量が「1秒量(FEV1)」として測定されます。
  • 複数回の測定: 検査の精度を高めるため、これらの呼吸を数回(通常3回以上)繰り返します。最も良い結果が採用されます。
  • 気管支拡張薬吸入後の検査(必要な場合): 閉塞性肺疾患が疑われる場合、気管支を広げる吸入薬を使用した後、再度スパイロメトリーを行うことがあります。これにより、気道の狭窄が可逆的(薬で改善するかどうか)かを評価し、喘息かCOPDかの鑑別などに役立てます。

スパイロメトリーは、専用の機器(スパイロメーター)を用いて行われます。比較的短時間で終わる検査であり、特別な前処置は不要ですが、検査前に激しい運動を避けたり、特定の薬剤(気管支拡張薬など)の使用について医師に確認したりする必要がある場合があります。

この検査で得られたVC、FEV1、そしてそれらから算出される%VC、1秒率などの値をもとに、医師が肺機能の状態を詳細に評価します。

自宅で簡易的に測る方法

医療機関でのスパイロメトリーほど正確ではありませんが、自宅で簡易的に肺活量を測ったり、気道の通りやすさを確認したりする方法がいくつかあります。

  • 簡易肺活量計: 最大限に息を吸い込み、器具に向かって最大限に息を吐き出すことで、空気の量を測定する簡単な器具です。デジタル表示されるものなど様々なタイプがあります。ただし、医療用のスパイロメーターと比較すると精度は劣ります。あくまで目安として捉えるべきです。
  • ピークフローメーター: 最大限に息を吸い込んだ後、一気に息を吐き出したときの「最も速い息の速さ」を測定する器具です。肺活量そのものを測るわけではありませんが、気道の通りやすさを評価する指標(ピークフロー値)を測定できます。特に喘息患者さんが日々の気道状態の変化を把握するために使用されることが多いです。ピークフロー値も、個人の基準値に対してどれくらいかを見ることで、気道の狭窄の程度を簡易的に知ることができます。
  • ロウソクの火を消す: 最大限に息を吸い込み、口をすぼめて遠くのロウソクの火を吹き消せるかどうかで、ある程度の肺機能の目安を知る方法です。これも非常に原始的で定性的な方法であり、正確な肺活量や肺機能を示すものではありません。

これらの自宅での簡易測定は、日々の変化をモニターしたり、ご自身の体調の目安を知ったりするのには役立つかもしれませんが、病気の診断や正確な肺機能の評価には適していません。もし測定してみて気になる数値が出たり、息切れなどの症状があったりする場合は、必ず医療機関を受診し、専門的な検査を受けるようにしましょう。

肺活量 基準値についてのまとめ

肺活量は、私たちが呼吸によって一度に交換できる空気の最大の量であり、肺の健康状態や全身の持久力と関連する重要な指標です。肺活量の基準値は、性別、年齢、身長によって異なり、ご自身の肺活量が基準に対して適切かどうかを知るためには、「予測肺活量」と比較した%肺活量(%VC)や、気道の通りやすさを示す1秒率(FEV1%)といった指標が用いられます。

肺機能検査(スパイロメトリー)では、これらの指標が精密に測定され、%VCと1秒率の組み合わせによって、肺機能障害のタイプ(拘束性、閉塞性、混合性)が判断されます。

肺活量が基準値よりも低い場合、間質性肺炎、サルコイドーシス、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気管支喘息など、様々な呼吸器系の病気が隠れている可能性があります。息切れや咳、痰などの自覚症状がある方や、肺機能検査で基準値以下の結果が出た方は、原因を特定し、適切な治療を開始するために速やかに医療機関(呼吸器内科など)を受診することが大切です。

一度低下した肺活量を完全に回復させることは難しい場合もありますが、禁煙、呼吸筋トレーニング、有酸素運動、良い姿勢を保つ、感染症予防など、日頃からの心がけや習慣によって、肺機能の維持・改善を目指したり、日常生活での息苦しさを軽減したりすることは可能です。

ご自身の肺活量や肺機能に不安がある場合は、自己判断せず、医療機関での検査を受け、専門家のアドバイスを仰ぐことが最も確実な方法です。日頃から肺の健康を意識し、必要に応じて適切なケアを行うことが、健康寿命を延ばすことに繋がるでしょう。

免責事項: 本記事は、肺活量の基準値や肺機能に関する一般的な情報提供を目的としています。特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。ご自身の健康状態についてご心配な点がある場合や、肺機能検査の結果について詳しく知りたい場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けるようにしてください。

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