お子様が急な発熱やのどの痛みを訴えたとき、「もしかして溶連菌かも…?」と心配になる保護者の方は多いでしょう。溶連菌感染症は子供がかかりやすい病気の一つですが、適切な治療をすれば比較的早く回復します。しかし、診断や治療が遅れると、合併症を引き起こす可能性も否定できません。この記事では、子供の溶連菌感染症について、どのような症状が現れるのか、どうやって感染するのか、病院ではどのような検査や治療が行われるのか、そして学校や保育園はいつから行けるようになるのかなど、保護者の方が知っておきたい情報を詳しく解説します。お子様の体調が気になる時は、ぜひこの記事を参考に、慌てず適切に対応できるよう準備しておきましょう。
溶連菌 子供の主な症状
発熱・のどの痛み・発疹
発熱:
溶連菌感染症では、比較的急に熱が出ることが多いです。一般的には38℃以上の高熱になることが多いですが、微熱で済む場合や、全く熱が出ない場合もあります(これについては後述の「熱がない場合もある?無熱性溶連菌」で詳しく解説します)。熱の出方には個人差があります。熱が上がると、寒気や頭痛を伴うこともあります。
のどの痛み:
溶連菌感染症の最も特徴的な症状の一つが、強いのどの痛みです。特に、飲み込むときに痛みが強くなる傾向があります。子供によっては、痛みのために食事や水分を摂るのを嫌がることもあります。のどを見ると、扁桃腺が赤く腫れていたり、白い膿のようなものが付着していたりすることがあります。
発疹:
発疹も溶連菌感染症でよく見られる症状です。通常、発熱やのどの痛みが始まってから1〜2日後に現れることが多いです。小さな赤いポツポツとした発疹で、体や手足に広がります。特に首、胸、お腹、背中などに見られやすいです。触るとザラザラとした感触(砂を触ったような感触)があるのが特徴です。顔にも出ることはありますが、口の周りだけは白っぽく抜けることがあります。発疹は数日〜1週間ほどで自然に消えていきますが、消えた後に皮膚が薄くむける(落屑(らくせつ))ことがあります。これは病気が治ってきているサインの一つです。
いちご舌・腹痛・嘔吐
いちご舌:
溶連菌感染症に特徴的な症状の一つに、「いちご舌」があります。これは、舌の表面が赤く腫れ、小さなブツブツが目立つようになる状態です。まるでいちごの表面のように見えることから、この名前がついています。通常、病気の経過の途中、特に発熱やのどの痛みがピークを過ぎた頃に見られることがあります。
腹痛・嘔吐:
子供の場合、のどの症状だけでなく、腹痛や嘔吐を伴うことも比較的よくあります。特に小さな子供では、腹痛や嘔吐が主な症状として現れ、のどの痛みをうまく訴えられないために診断が遅れるケースもあります。これらの消化器症状は、溶連菌が出す毒素の影響や、のどの炎症が原因でリンパ節が腫れることなどが関連していると考えられています。
症状の順番と経過
子供の溶連菌感染症の症状は、一般的に以下のような順番で現れることが多いですが、個人差もあります。
- 突然の発熱と悪寒: 何となく体調が悪いと感じた後に、比較的急に体温が上がり始め、寒気を感じることがあります。
- 強いのどの痛み: 発熱とほぼ同時期か、少し遅れて強いのどの痛みが現れます。飲み込みが辛くなることが多いです。
- 頭痛、全身のだるさ、関節痛: 熱に伴って、頭痛や体がだるい、関節が痛いといった全身症状が出ることがあります。
- 腹痛、嘔吐: 子供によっては、発熱やのどの痛みと同時期か少し遅れて、お腹の痛みや吐き気を伴うことがあります。
- 発疹: 発熱やのどの痛みが始まってから1〜2日後に、体や手足に赤いザラザラした発疹が現れることがあります。
- いちご舌: 病気の経過の途中で舌がいちごのように赤く変化することがあります。
- 発疹が消えた後の落屑: 発疹が消えてから数週間後に、手のひらや足の裏などの皮膚がむけることがあります。
適切な治療(抗生物質の服用)を開始すると、通常24時間以内に熱が下がり、のどの痛みなどの症状も数日以内に改善していくことがほとんどです。しかし、抗生物質を自己判断で中断すると、症状がぶり返したり、合併症のリスクが高まったりするため、医師の指示通りに最後まで薬を飲み切ることが非常に重要です。
熱がない場合もある?無熱性溶連菌
溶連菌感染症と聞くと「高熱が出る病気」というイメージがあるかもしれませんが、必ずしも熱が出るとは限りません。特に小さな子供や、すでに溶連菌にかかったことがある子供、あるいは免疫力が比較的高い子供の場合など、発熱を伴わない「無熱性溶連菌感染症」として発症することもあります。
無熱性の場合でも、のどの痛みや腫れ、いちご舌、発疹などの他の症状が現れることがあります。熱がないからといって軽症とは限らず、放置すると合併症を引き起こすリスクも同じようにあります。
無熱性溶連菌感染症で注意すべき点:
- 診断が遅れる可能性がある: 熱がないため、風邪や他の軽い病気と間違えられやすく、医療機関の受診が遅れることがあります。
- 合併症のリスク: 無熱性であっても、菌が体内にいる限り、後述する急性糸球体腎炎やリウマチ熱といった合併症のリスクは存在します。
- 感染源となる: 症状が軽くても、菌を排出しているため、周囲の人に感染させる可能性があります。
したがって、熱がなくても、のどの強い痛み、発疹、いちご舌など、溶連菌感染症を疑わせる他の症状がある場合は、必ず医療機関を受診して医師の診察を受けることが重要です。「熱がないから大丈夫だろう」と自己判断せず、気になる症状があれば専門家に相談しましょう。
子供は溶連菌にどうやってうつる?感染経路と予防
溶連菌は非常に感染力が強い細菌の一つです。子供たちが集まる場所で流行しやすいのは、主な感染経路が飛沫感染と接触感染であるためです。これらの感染経路を知り、適切な予防策を講じることが、感染拡大を防ぐために重要です。
飛沫感染・接触感染
飛沫感染:
飛沫感染は、溶連菌感染者が咳やくしゃみをしたときに飛び散る、菌を含んだ小さな水滴(飛沫)を、周りの人が鼻や口から吸い込むことによって起こります。子供は咳やくしゃみを手で覆うことが苦手だったり、人との距離が近かったりするため、飛沫感染しやすい環境にあります。おしゃべりをするだけでも飛沫は飛び散るため、感染者との距離が近いほど感染リスクは高まります。
接触感染:
接触感染は、溶連菌が付着した物品(おもちゃ、食器、ドアノブ、手すりなど)に触れた手で、自分の鼻や口を触ることで起こります。感染者の唾液や鼻水、あるいは皮膚の病変(とびひなど)から菌が付着することもあります。子供は様々なものに触れた手で顔を触ったり、指しゃぶりをしたりすることが多いため、接触感染のリスクも高くなります。
このように、溶連菌は日常生活の中で容易に広がる可能性があります。特に子供は免疫機能が未熟なことと、物理的な距離が近くなりがちな集団生活を送っていることから、感染しやすいと言えます。
家庭内での感染対策
お子様が溶連菌に感染した場合、またはご家族の中に感染者が出た場合に、家庭内でこれ以上感染を広げないための対策は非常に重要です。以下の点を実践しましょう。
- 手洗いとアルコール消毒: 石鹸を使った丁寧な手洗いは、飛沫や接触によって手に付着した溶連菌を洗い流すのに最も効果的です。特に、食事の前、外出から帰った後、トイレの後、咳やくしゃみを手で覆った後など、こまめに手を洗いましょう。手洗いが難しい状況では、アルコール消毒液も有効です(ただし、目に見える汚れがある場合はまず手洗いが優先です)。お子様にも正しい手洗いの方法を教え、習慣づけるように促しましょう。
- マスクの着用: 感染者本人がマスクを着用することで、咳やくしゃみによる飛沫の飛散を防ぎ、周囲への感染リスクを減らすことができます。症状があるお子様には、可能な範囲でマスクの着用を促しましょう。また、看病するご家族もマスクを着用するとより安全です。
- タオルの共有を避ける: 家族間であっても、タオル(特に顔や手を拭くタオル)の共有は避けましょう。溶連菌はタオルに付着し、そこから他の人に接触感染する可能性があります。一人ずつ専用のタオルを用意するか、ペーパータオルを使用するのが望ましいです。
- 食器やコップの使い分け: 感染者の使った食器やコップは、他の家族のものと分けて洗うか、使い捨てのものを使用することも検討しましょう。使用後はすぐに洗剤で洗うようにしましょう。
- 換気: 部屋の換気をこまめに行うことで、室内に浮遊する飛沫の量を減らすことができます。定期的に窓を開けて空気の入れ替えをしましょう。
- おもちゃなどの消毒: 小さなお子様がいる家庭では、多くのおもちゃを共有して遊びます。感染者が触れた可能性のあるおもちゃなどは、可能であれば消毒(アルコールや次亜塩素酸ナトリウム希釈液など、素材に適したもの)を行うとより安心です。
- 十分な休息と栄養: 感染予防には、免疫力を正常に保つことも大切です。バランスの取れた食事と十分な睡眠を心がけましょう。
これらの対策を家族全員で意識して行うことで、家庭内での溶連菌の感染拡大リスクを抑えることができます。
溶連菌かもしれないと思ったら?診断と検査
お子様に溶連菌感染症を疑わせる症状(急な発熱、強いのどの痛み、発疹など)が見られたら、まずは医療機関を受診することが最も重要です。自己判断で市販薬を使ったり、様子を見すぎたりすると、症状の悪化や合併症のリスクを高める可能性があります。
病院を受診する目安
どのような症状が出たら病院を受診すべきか、迷うこともあるかもしれません。以下のような場合は、早めに医療機関を受診することを強くお勧めします。
- 急な38℃以上の発熱と強いのどの痛み: 溶連菌感染症で最も典型的な症状の組み合わせです。特にのどの痛みが強く、飲み込むのを嫌がる場合は受診しましょう。
- 体に赤いザラザラした発疹が出た: 溶連菌感染症に特徴的な発疹が見られたら、他の感染症の可能性もありますが、溶連菌を疑って受診が必要です。
- 舌がいちごのように赤くブツブツになった: いちご舌は溶連菌感染症のサインの一つです。
- 発熱とのどの痛みに加えて、腹痛や嘔吐を繰り返す: 子供の場合、これらの消化器症状を伴うこともあります。
- 全身状態が悪い: 元気がない、ぐったりしている、水分が十分に摂れていないなどの場合は、早急な受診が必要です。
- 周囲で溶連菌感染症が流行している: ご兄弟や学校、保育園などで溶連菌感染症にかかった人がいる場合、似た症状が出たら感染を疑って受診しましょう。
夜間や休日に症状が出た場合、上記のような症状が強い場合は、地域の夜間・休日診療所や救急外来を受診することも検討してください。ただし、軽症の場合は翌日まで待ってかかりつけ医を受診するのでも良いか、電話で相談するなど判断に迷う場合は医療機関に問い合わせてみましょう。
診断のための検査方法
医療機関では、まず医師がお子様の症状を詳しく聞き取り、のどの状態などを診察します。溶連菌感染症が疑われる場合は、確定診断のために検査が行われます。主な検査方法は以下の2つです。
1. 迅速抗原検査:
この検査は、溶連菌に特徴的な抗原(菌の一部)を検出する方法です。綿棒でのどの奥をこすって粘液を採取し、専用のキットを使って検査します。
- メリット: 非常に短時間(通常5〜15分程度)で結果が出ます。その場で診断がつくため、すぐに適切な治療を開始できます。
- デメリット: 検出感度が100%ではないため、感染していても「陰性」と出ることがごくまれにあります(偽陰性)。特に、発症して間もない時期や、菌の量が少ない場合に偽陰性となる可能性が少し高まります。
2. 細菌培養検査:
こちらも綿棒でのどの奥をこすって検体を採取しますが、採取した検体を培地で培養し、溶連菌が増殖するかどうかを確認する検査です。
- メリット: 迅速検査よりも感度が高く、より確実に溶連菌の存在を確認できます。迅速検査で陰性だった場合でも、症状から溶連菌が強く疑われる場合に行われることがあります。
- デメリット: 結果が出るまでに通常24〜48時間程度かかります。そのため、結果を待たずに迅速検査の結果や臨床症状から暫定的な診断をして治療を開始することが多いです。
どちらの検査を行うか、あるいは両方行うかは、医師の判断によります。迅速検査で陽性であれば、ほぼ確実に溶連菌感染症と診断されます。迅速検査が陰性でも症状が典型的な場合や、合併症が疑われる場合などは、培養検査が行われることがあります。これらの検査によって、風邪の原因となるウイルスなど、他の病気と区別し、適切な治療につなげることができます。
溶連菌 子供の治療法と期間
溶連菌感染症は細菌による感染症であるため、治療には抗生物質が非常に有効です。適切な抗生物質を、医師の指示通りにきちんと服用することが、症状の改善だけでなく、合併症の予防にもつながるため最も重要です。
抗生物質による治療
溶連菌感染症の治療の第一選択薬は、ペニシリン系の抗生物質です。ペニシリンにアレルギーがある場合は、マクロライド系の抗生物質などが使用されます。
- 抗生物質の役割: 抗生物質は、溶連菌を殺菌したり、増殖を抑えたりすることで、感染症を根本的に治療します。これにより、のどの痛みや発熱といった症状が速やかに改善します。
- 合併症予防: 抗生物質による治療は、症状の改善だけでなく、後述する急性糸球体腎炎やリウマチ熱といった重篤な合併症を予防するために極めて重要です。これらの合併症は、溶連菌感染後に体の免疫反応が誤って自分の組織を攻撃してしまうことで起こると考えられており、早期に溶連菌を排除することが予防につながります。
- 必ず飲み切る: 多くの抗生物質は、症状が改善した後も一定期間(通常10日間)服用を続ける必要があります。症状が良くなったからといって自己判断で服用を中止してしまうと、体内に残った溶連菌が再び増殖して症状がぶり返したり、合併症のリスクが高まったりします。 処方された薬は、必ず医師から指示された期間、最後まで飲み切ることが非常に大切です。
抗生物質の他にも、熱が高い場合の解熱剤や、のどの痛みを和らげる鎮痛剤、炎症を抑える薬などが症状に応じて処方されることがあります。これらの対症療法薬は、つらい症状を和らげるためのものであり、溶連菌自体を治す効果はありません。あくまで、原因菌を治療するのは抗生物質であることを理解しておきましょう。
いつまで薬を飲む?治療期間
溶連菌感染症の治療に用いられる抗生物質の一般的な服用期間は、通常10日間です。これは、菌を体から完全に排除し、合併症を確実に予防するために必要な期間とされています。
- 症状改善と服用期間の違い: 抗生物質を飲み始めてから、多くの場合24時間以内に熱が下がり、のどの痛みも数日以内に改善するなど、比較的早く症状が楽になります。しかし、これは菌の数が減って症状が抑えられているだけであり、菌が完全にいなくなったわけではありません。医師が指示した10日間(またはそれ以上の期間の場合もあります)は、症状が完全に消失して元気になったように見えても、薬を飲み続けることが必要です。
- 例外: 一部の新しいタイプの抗生物質では、5日間など、10日間より短い期間の服用で効果があるとされる場合もあります。しかし、これは菌の種類や状態、個人の体質などによって判断が異なるため、必ず医師の指示に従ってください。
- 飲み忘れに注意: 飲み忘れると、薬の血中濃度が十分に保たれず、溶連菌を完全に排除できない可能性があります。決められた時間に忘れずに服用させましょう。もし飲み忘れた場合は、気づいた時点で1回分を服用し、その後の服用間隔を調整するか、医師や薬剤師に相談してください。
「症状がないのに薬を飲み続けるのはかわいそう」「薬の副作用が心配」と感じる保護者の方もいらっしゃるかもしれませんが、溶連菌感染症の治療においては、指示された期間最後まで抗生物質を飲み切ることが、お子様の健康を守るために最も重要であることをご理解ください。
症状が治まるまでの日数
抗生物質による適切な治療を開始した場合、症状は比較的早く改善します。
- 解熱: 通常、抗生物質を飲み始めてから24時間以内に熱が下がることが多いです。
- のどの痛み: のどの痛みも、飲み始めてから2〜3日以内に楽になることがほとんどです。
- 発疹: 発疹は少し遅れて改善する傾向があり、数日〜1週間程度で消えていきます。発疹が消えた後に皮膚がむけることがありますが、これは回復のサインです。
- 全身のだるさなど: 全身症状も、熱が下がるにつれて徐々に回復していきます。
ただし、これらの期間はあくまで目安であり、症状の重さや個人差によって異なります。抗生物質を飲んでも熱が下がらない、のどの痛みが全く改善しない、全身状態が悪化しているなど、症状が良くならない場合は、他の病気を併発している可能性や、溶連菌以外の原因である可能性も考えられます。その場合は、必ず再度医療機関を受診し、医師に相談してください。
一般的には、抗生物質を24時間以上服用すれば、他人に感染させる可能性は著しく低くなるとされています。しかし、登園・登校の基準は症状の改善だけでなく、感染力の低下も考慮されるため、次に解説する「出席停止」の項目もご確認ください。
溶連菌を放置すると危険?合併症のリスク
溶連菌感染症は、適切な治療をすれば比較的予後の良い病気ですが、診断や治療が遅れたり、不十分であったりすると、まれに重篤な合併症を引き起こす可能性があります。これらの合併症は、溶連菌そのものが直接引き起こすというよりは、溶連菌に対する体の免疫反応が過剰に起こることで、別の臓器を攻撃してしまう「免疫学的合併症」として起こることが多いです。
急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎は、溶連菌感染症(特にのどの感染)にかかった後、約1〜3週間後に発症することがある合併症です。溶連菌に対する免疫反応が、腎臓の糸球体という部分を傷つけてしまうことで起こります。
- 症状: 主な症状としては、血尿(尿が赤っぽい、コーラ色)、むくみ(特に顔やまぶた、足など)、高血圧などがあります。尿の量が減ることもあります。
- 注意点: のどの症状が治まってからしばらく経って発症するため、「もう治ったと思っていたのに…」と気づきにくい場合があります。特に、溶連菌感染症の治療が不十分だった場合や、診断されずに自然に治った(ように見えた)場合にリスクが高まります。
- 予後: 多くの場合は適切な治療(安静や食事制限、血圧の管理など)によって回復しますが、まれに慢性腎炎に移行することもあります。溶連菌にかかった後、上記の症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。合併症予防のためにも、溶連菌感染症と診断されたら、必ず指示通りに抗生物質を最後まで飲み切ることが極めて重要です。
リウマチ熱
リウマチ熱も、溶連菌感染症(特にのどの感染)にかかった後、約2〜4週間後に発症することがある合併症です。溶連菌に対する免疫反応が、心臓、関節、脳、皮膚などに影響を与えることで起こります。
- 症状: 主な症状としては、関節炎(手足の関節が腫れて痛む、痛みが移動する)、不随意運動(手足や顔が勝手に動く舞踏病)、心炎(心臓の弁などに炎症が起こる)、皮膚症状(環状紅斑など)などがあります。発熱や全身のだるさを伴うこともあります。特に心炎は、後々心臓弁膜症などの深刻な後遺症につながる可能性があるため注意が必要です。
- 注意点: 現在の日本では、抗生物質の普及によりリウマチ熱の発生率は非常に低くなっています。しかし、世界的にはまだ見られる地域もあり、リスクがゼロになったわけではありません。
- 予後: 適切な治療によって症状は改善することが多いですが、心臓に炎症が起こった場合は注意が必要です。リウマチ熱の予防にも、早期かつ十分な抗生物質による治療が不可欠です。
その他合併症
急性糸球体腎炎やリウマチ熱以外にも、溶連菌感染症に関連して起こりうる合併症がいくつかあります。
- 扁桃周囲膿瘍: 扁桃腺の周りに膿がたまる病気で、のどの痛みが非常に強くなり、口が開けにくくなることがあります。
- 中耳炎、副鼻腔炎: のどの炎症が耳や鼻の周りに広がることで起こることがあります。
- 肺炎: まれですが、溶連菌が気管支や肺に感染して肺炎を引き起こすことがあります。
- 劇症型溶連菌感染症: これは非常にまれですが、溶連菌が血液や筋肉などの組織に急速に広がり、ショック状態や多臓器不全を引き起こす重症の病気です。「人食いバクテリア」と呼ばれることもありますが、ほとんどの溶連菌感染症はこれほど重症化しません。しかし、早期の診断と治療が極めて重要です。
これらの合併症のリスクを最小限にするためにも、溶連菌感染症と診断された場合は、自己判断せず、必ず医師の指示通りに抗生物質を最後までしっかりと服用することが、何よりも大切です。
溶連菌と診断されたら?登園・登校(出席停止)について
お子様が溶連菌感染症と診断された場合、保護者の方が気になることの一つに、いつから保育園や幼稚園、学校に行けるのか、という点があるでしょう。溶連菌感染症は、学校保健安全法で定められた「学校において予防すべき感染症」の一つであり、出席停止の対象となります。
いつから保育園・幼稚園に行ける?
保育園や幼稚園は、学校保健安全法の対象ではありませんが、感染症対策として学校に準じた基準を設けている場合がほとんどです。多くの保育園・幼稚園では、溶連菌感染症の場合、「抗生物質による治療を開始してから24時間以上が経過し、全身状態が改善していること」を登園の目安としています。
- 感染力の低下: 抗生物質を飲み始めると、数時間で溶連菌の排出量が激減し、24時間後には他の人に感染させる力が非常に弱くなるとされています。このため、24時間経過が一つの区切りとされています。
- 全身状態の改善: 熱が下がって、のどの痛みが和らぎ、食事が摂れるようになるなど、お子様自身の体調が回復していることも重要です。体調が十分に回復していないのに無理に登園させると、疲れから症状がぶり返したり、他の病気をもらってきたりする可能性があります。
- 園への報告と医師の診断書: 登園を再開する際には、医師から「治癒証明書」や「意見書」の提出を求められることがあります。受診した際に医師に相談し、必要な書類を発行してもらいましょう。また、登園前に必ず園に連絡し、登園可能かどうかを確認してください。園独自の基準を設けている場合もあります。
小学生は何日休む?出席停止期間
小学校、中学校、高等学校など、学校保健安全法が適用される学校においては、溶連菌感染症は「第三種の感染症」に分類され、出席停止の対象となります。
学校保健安全法に基づく出席停止期間の基準は、「適切な抗生物質療法を開始後24時間を経過し、全身状態が良好であること」です。保育園や幼稚園と同様に、抗生物質を飲み始めてから丸1日(24時間)以上経過し、かつ熱が下がって元気になり、普段通りの生活に戻れるような状態になっていることが求められます。
- 法的な位置づけ: 出席停止は、感染拡大を防ぐための措置です。基準を満たしていれば、症状が完全に消えていなくても(例えば、発疹が残っているなど)、出席が許可される場合があります。
- 学校への報告と手続き: 溶連菌と診断されたら、速やかに学校に連絡し、感染したことを伝えましょう。出席を再開する際には、医師の「治癒証明書」や「意見書」の提出が必要となる場合がほとんどです。診断を受けた医療機関で書類作成をお願いしましょう。
- 学校ごとの対応: 学校によっては、上記の基準に加えて、解熱後〇日など、独自の基準を設けている場合もあります。必ず学校に確認し、指示に従ってください。
出席停止解除の目安
繰り返しになりますが、溶連菌感染症による出席停止解除の目安は、以下の2点を満たしていることが一般的です。
- 抗生物質による適切な治療を開始していること。
- 抗生物質を開始してから24時間以上が経過していること。
- 発熱がなくなり、のどの痛みなどの症状が改善し、全身状態が良好であること。
これらの条件を満たしていれば、理論上は登園・登校が可能となります。しかし、お子様の体調は回復していても、まだ体力は完全に回復していない可能性があります。無理のない範囲で、徐々に普段の生活に戻していくことが大切です。また、前述の通り、保育園や学校によっては独自の基準や必要な書類があるため、必ず事前に確認を行いましょう。
項目 | 保育園・幼稚園 | 小学校・中学校・高校など |
---|---|---|
根拠法規 | 基本的に園独自の規定(学校保健安全法に準じることが多い) | 学校保健安全法 |
出席停止の扱い | 感染症予防のため、登園停止の対象となる | 第三種の感染症として出席停止の対象となる |
解除の一般的な目安 | 抗生物質開始後24時間以上経過し、全身状態が良好 | 抗生物質開始後24時間以上経過し、全身状態が良好 |
必要な書類 | 治癒証明書や意見書(園による) | 治癒証明書や意見書(学校による) |
連絡 | 診断を受けたら速やかに園に連絡 | 診断を受けたら速やかに学校に連絡 |
再開前の確認 | 園に登園可能か確認する | 学校に登校可能か確認する |
(※上記の表は一般的な目安であり、各施設によって対応が異なる場合があります。必ず所属する園や学校に直接ご確認ください。)
溶連菌に繰り返し感染することはある?
「一度溶連菌にかかったら、もうかからない?」と疑問に思う保護者の方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、溶連菌感染症は一度かかっても、繰り返し感染する可能性があります。
その理由は、溶連菌にはいくつかの「型(M型)」があり、型が違うと、前回感染したときにできた免疫が十分に働かないことがあるからです。一度感染して特定の型に対する免疫を獲得しても、別の型の溶連菌に感染すれば再び発症する可能性があります。
- 免疫の持続性: 溶連菌に対する免疫は、感染した特定の型に対しては一定期間(数年間など)持続すると考えられています。しかし、生涯続くような強い免疫ではないとされています。
- 型の種類: 溶連菌には、数百種類とは言いませんが、多くの異なる型が存在することが知られています。
- 子供の再感染: 子供は免疫システムが発達段階にあり、また集団生活での接触機会も多いため、異なる型の溶連菌に繰り返し感染する可能性は十分にあります。年に複数回、あるいは数ヶ月の間に再び溶連菌と診断されることも珍しくありません。
繰り返し感染した場合も、初期症状は同様に発熱やのどの痛み、発疹などとして現れることが多いです。ただし、前回感染したときの免疫が少しでも残っていれば、初めてかかったときよりも症状が軽い場合もあります。
繰り返し感染を防ぐ決定的な方法はありませんが、日頃からの手洗いやうがい、人混みでのマスク着用といった基本的な感染予防策は有効です。また、ご家族に溶連菌にかかった人がいる場合は、家庭内での感染対策を徹底することが、ご自身の再感染や他のご家族への感染を防ぐ上で重要になります。
もし短い期間に再び溶連菌感染症を疑う症状が現れた場合は、「またかかったのかな?」と自己判断せず、必ず医療機関を受診して診断を受けるようにしましょう。
まとめ:子供の溶連菌感染症で気になる症状があれば受診を
子供の溶連菌感染症は、A群β溶血性レンサ球菌によって引き起こされる、子供に比較的多い感染症です。主な症状は、急な発熱、強いのどの痛み、体や手足に出る赤いザラザラした発疹、そして特徴的な「いちご舌」などです。腹痛や嘔吐を伴うこともあります。熱が出ない「無熱性」の場合もありますが、熱がないからといって軽症とは限りません。
溶連菌は、感染者の咳やくしゃみによる飛沫感染や、菌が付着した物品に触れることによる接触感染で広がります。家庭内での感染拡大を防ぐためには、こまめな手洗いやアルコール消毒、タオルの共有を避ける、換気などの対策が有効です。
これらの症状が見られた場合は、必ず医療機関を受診しましょう。病院では、のどの所見と迅速検査によって比較的短時間で診断がつきます。治療の中心は抗生物質です。症状が改善しても、合併症(急性糸球体腎炎やリウマチ熱など)を予防するために、医師に指示された期間(多くは10日間)、抗生物質を最後までしっかり飲み切ることが非常に重要です。自己判断で中断しないでください。
溶連菌感染症と診断された場合、保育園・幼稚園や学校は出席停止となります。解除の目安は、抗生物質を開始してから24時間以上が経過し、かつ全身状態が改善していることです。登園・登校を再開する際には、医師の証明書が必要となる場合が多いので、受診時に相談しましょう。また、園や学校によって基準が異なる場合があるため、必ず事前に確認してください。
溶連菌にはいくつかの型があるため、一度感染しても別の型の溶連菌に再び感染する可能性があります。繰り返し症状が出た場合も、必ず医療機関で診断を受けてください。
お子様の急な体調変化は保護者にとって心配の種ですが、溶連菌感染症は適切な診断と治療を行えば怖い病気ではありません。気になる症状があれば、迷わず医療機関を受診し、医師の指示に従って治療を進めることが、お子様を早期に回復させ、合併症を防ぐために最も大切なことです。