胃潰瘍の初期症状を見逃さないで!チェックリストと危険なサイン・原因

胃潰瘍の初期症状は、時に曖昧で気づきにくいため、「たかが胃の不調」と軽視されがちです。
しかし、胃潰瘍は進行すると重篤な合併症を引き起こす可能性もある病気です。早期にサインを見つけ、適切な対策を取ることが非常に重要になります。
この記事では、胃潰瘍の初期症状から、その原因、放置するリスク、そしてどのように医療機関を受診すべきかについて、詳しく解説します。ご自身の症状に心当たりがある方は、ぜひ最後までお読みいただき、健康管理にお役立てください。

胃潰瘍は、胃の粘膜が深く傷つき、粘膜の下にある組織(筋層など)まで損傷が及んだ状態を指します。初期の段階では自覚症状がほとんどないこともありますが、何らかのサインが現れることが一般的です。これらのサインを見逃さず、体の声に耳を傾けることが早期発見につながります。

胃潰瘍の症状は、進行度や潰瘍のできた場所、原因などによって個人差が大きいのが特徴です。典型的な症状だけでなく、少しでも「おかしいな」と感じるサインがあれば注意が必要です。

胃潰瘍の代表的な初期症状

胃潰瘍の初期に比較的よく見られる症状には、胃の不快感や痛み、吐き気などが挙げられます。これらの症状は他の胃の病気でも見られるため、症状の特徴を理解することが大切です。

みぞおちの痛み:空腹時や食後の特徴

胃潰瘍の最も代表的な症状は、みぞおちの痛みです。この痛みには特徴的なパターンが見られることがあります。

  • 空腹時の痛み: 胃が空っぽの時に、胃酸がむき出しになった潰瘍面を刺激して痛みが強くなることがあります。特に夜間や早朝に痛みで目が覚めることもあります。食事を摂ると胃酸が薄まったり、食べ物が壁になったりして痛みが和らぐことが一般的です。
  • 食後の痛み: 食後しばらく経ってから、胃酸の分泌が活発になることで痛みが現れることがあります。食後30分から2時間後くらいに感じることが多いです。
  • 痛みの性質: キリキリ、シクシク、ズーンといった表現で表されることが多いですが、焼けるような痛みや鈍痛の場合もあります。痛みの程度も、軽い不快感から耐え難い激痛まで様々です。
  • 周期性: 痛みが数日続いたり、数週間続いたりした後、一度治まってしばらくしてから再び現れるといった周期性を示すこともあります。

ただし、痛みを感じない胃潰瘍(無症候性潰瘍)も存在するため、痛みがなくても他の症状があれば注意が必要です。特に高齢者や、痛み止め(NSAIDs)を常用している方に多く見られます。

吐き気・嘔吐

みぞおちの痛みに伴って、吐き気や実際に嘔吐を催すことがあります。潰瘍による炎症が胃の運動機能に影響を与えたり、痛みが強い場合に反射的に吐き気を感じたりするためです。

  • 吐き気: 食事中にムカムカしたり、食後に気持ち悪くなったりすることがあります。常に漠然とした吐き気を感じる場合もあります。
  • 嘔吐: 痛みが非常に強い場合や、胃の出口付近に潰瘍ができて胃の内容物が流れにくくなっている場合などに起こりやすくなります。嘔吐することで一時的に症状が和らぐこともあります。

吐き気や嘔吐が続く場合は、脱水症状を起こしたり、食事量が減って栄養状態が悪化したりする可能性もあるため注意が必要です。

胃もたれ・お腹の張り(膨満感)

消化不良のような症状として、胃もたれや食後に胃が重く感じる、お腹が張る(膨満感)といった不快感を訴える方も多くいます。

  • 胃もたれ: 少量食べただけなのに胃がずっしりする、なかなか消化されない感じがするといった症状です。潰瘍による胃の運動機能の低下が関与していると考えられます。
  • お腹の張り(膨満感): 胃や腸にガスが溜まったような、あるいは何か詰まっているような不快感です。これも胃の動きが悪くなることで起こりやすくなります。

これらの症状は、いわゆる「胃が弱い」と感じている人が日常的に経験しやすい症状でもあります。しかし、以前はなかった、あるいは症状が強くなってきた場合は、胃潰瘍を含む病気のサインである可能性も考慮する必要があります。

食欲不振

胃の痛みや不快感が続くと、食事をすること自体が億劫になり、食欲がなくなることがあります。また、食事をすると症状が悪化すると感じるために、無意識のうちに食事量を減らしてしまうこともあります。

食欲不振が続くと、体重が減少することもあります。これは胃潰瘍が進行しているサインである可能性も否定できません。特に、以前は食欲旺盛だったのに明らかに食欲が落ちた、といった変化には注意が必要です。

初期には気づきにくい症状(進行の可能性)

胃潰瘍が進行すると、より重篤な症状が現れることがあります。これらの症状は、潰瘍が深くなったり、合併症を起こしたりしている可能性を示唆しており、緊急性の高い場合もあります。

吐血・下血(タール便)

潰瘍が血管を傷つけると、出血を起こします。出血量が多い場合は吐血、少ない場合は便に血が混じる下血(タール便)として現れます。

  • 吐血: 胃からの出血が口から吐き出されるものです。胃酸と混ざることで、コーヒーのカスのような茶色や黒っぽい色になることが多いですが、大量出血の場合は鮮やかな赤色の場合もあります。吐血は緊急性の高い状態であり、すぐに医療機関を受診する必要があります。
  • 下血(タール便): 胃や十二指腸からの出血は、腸を通る間に分解されて黒くなります。そのため、便がコールタールのように真っ黒でドロっとしている(タール便)のが特徴です。強い臭いを伴うこともあります。タール便も出血を示しており、医療機関での診察が必要です。気付かないうちに少量ずつ出血している場合、貧血が進むこともあります。

これらの出血症状は、胃潰瘍がかなり進行しているか、合併症を起こしているサインです。放置すると命に関わる場合もあるため、絶対に見逃してはなりません。

背中の痛み

胃の不調は、みぞおちだけでなく、背中に痛みとして現れることがあります。これは関連痛(放散痛)と呼ばれ、内臓の痛みが離れた場所に感じられる現象です。

  • 痛みの場所: 胃潰瘍の場合、背中側の、ちょうどみぞおちの裏あたり(背骨の両側、肩甲骨の下あたり)に痛みを感じることがあります。
  • 痛みの性質: 胃の痛みと同様に、キリキリしたり、重苦しかったり、鈍痛だったりと様々です。
  • 特徴: 胃の痛みに連動して現れたり、胃の痛みがある時に背中を丸めると痛みが和らぐように感じたりすることがあります。

背中の痛みだけでは胃潰瘍とは断定できませんが、みぞおちの痛みや他の胃の症状と同時に現れている場合は、胃潰瘍が原因である可能性も考慮に入れる必要があります。特に、潰瘍が胃の後ろ側(背中側)にできている場合に感じやすい症状とされています。

胃に穴が開く前兆(穿孔)

胃潰瘍がさらに深くなり、胃の壁を貫通して穴が開いてしまうことを穿孔(せんこう)といいます。これは胃潰瘍の最も重篤な合併症の一つで、激しい腹痛を伴います。

穿孔が起こる前には、以下のようなサインが見られることがあります。

  • 痛みの急激な悪化: これまで感じていた胃の痛みが、突然、経験したことのないほどの激しい痛みに変わります。しばしば「ナイフで刺されたような痛み」と表現されます。
  • 痛みの広がり: 痛みがみぞおちだけでなく、お腹全体に広がります。
  • お腹が硬くなる(板状硬): お腹の筋肉が緊張し、触れると板のように硬く感じられます。
  • 発熱: 腹膜炎を起こしている場合、発熱を伴うことがあります。

穿孔は腹膜炎を引き起こし、命に関わる緊急性の高い状態です。このような激しい症状が現れた場合は、すぐに救急車を呼ぶか、夜間休日でも救急外来を受診する必要があります。「前兆」というよりは、既に重篤な状態になっているサインと考えるべきです。

目次

胃潰瘍と似た症状の病気(鑑別)

胃潰瘍の初期症状は、他の様々な消化器系の病気と似ていることがあります。そのため、症状だけで胃潰瘍と自己判断することは危険です。正確な診断のためには、医療機関での検査が必要です。ここでは、特に胃潰瘍と間違えやすい病気について解説します。

十二指腸潰瘍の症状との違い

胃潰瘍と同じく消化性潰瘍の一つである十二指腸潰瘍は、症状が非常に似ていますが、いくつか特徴的な違いがあります。

症状項目 胃潰瘍 十二指腸潰瘍
痛みの部位 主にみぞおち 主にみぞおち
痛みの出現時間帯 食後30分~2時間後(食後痛)が多い 空腹時(夜間・早朝)が多い(空腹時痛)
食事との関連 食事をすると痛むことがある(胃酸分泌促進) 食事をすると痛みが和らぐことが多い(胃酸の希釈、壁の保護)
吐き気・嘔吐 見られやすい 比較的見られにくい
吐血・下血 吐血が多い 下血(タール便)が多い
主な原因 ピロリ菌、NSAIDs、ストレスなど ピロリ菌感染が圧倒的に多い
好発年齢 40代~60代以降(比較的広範囲) 20代~40代(比較的若い世代)

ただし、これらの違いは典型的なパターンであり、必ずしも全ての人に当てはまるわけではありません。両方の特徴を持つ場合や、典型的なパターンから外れる場合もあります。正確な鑑別には、やはり胃カメラなどの検査が不可欠です。

その他の胃腸の病気

胃潰瘍以外にも、みぞおちの痛みや不快感、吐き気などを引き起こす病気は多くあります。

  • 急性胃炎・慢性胃炎: 胃の粘膜が炎症を起こした状態です。痛み、吐き気、胃もたれなど、胃潰瘍の初期症状と非常によく似た症状が現れます。胃潰瘍よりも症状が軽度であることが多いですが、重症化すると強い痛みを伴うこともあります。
  • 逆流性食道炎: 胃酸が食道に逆流することで、胸焼け(みぞおちから胸にかけて焼けるような不快感)や呑酸(酸っぱい液体が上がってくる感覚)、ゲップなどを引き起こします。みぞおちの痛みを訴えることもあり、胃潰瘍と間違われやすい病気です。
  • 機能性ディスペプシア: 検査をしても潰瘍や炎症などの明らかな異常が見つからないにも関わらず、胃もたれやみぞおちの痛みなどの不快な症状が慢性的に続く病気です。胃の機能異常(動きが悪い、知覚過敏など)が原因と考えられています。
  • 胆石症・胆嚢炎: 胆嚢や胆管の病気でも、みぞおちや右脇腹に痛みを起こすことがあります。特に脂っこい食事の後に痛みが起こりやすいという特徴があります。
  • 膵炎: 膵臓の炎症で、みぞおちから左上腹部、背中にかけての強い痛みが特徴です。吐き気や嘔吐、発熱を伴うこともあります。
  • 胃がん: 胃がんの初期には自覚症状がないことが多いですが、進行すると胃潰瘍と似たような症状(胃の痛み、不快感、食欲不振、体重減少など)が現れることがあります。特に高齢者やピロリ菌感染歴がある方は、胃潰瘍のような症状でも胃がんの可能性も考慮し、精密検査を受けることが重要です。

このように、様々な病気が胃潰瘍と似た症状を引き起こすため、症状だけで判断せず、専門医の診断を受けることが最も安全で確実な方法です。

なぜ初期症状が起こる?胃潰瘍の主な原因

胃潰瘍は、胃の粘膜が胃酸や消化酵素によって自己消化されることで発生します。通常、胃の粘膜は粘液や重炭酸イオンのバリア機能、胃の血流などによって保護されていますが、これらの防御機構が弱まったり、攻撃因子(胃酸や消化酵素)が強まったりすることで、バランスが崩れて潰瘍が形成されます。そのバランスを崩す主な原因は以下の通りです。

ピロリ菌感染

現在、胃潰瘍の最も大きな原因と考えられているのが、ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌への感染です。

  • 感染経路: 主に幼少期に、飲み水や食べ物を介して口から感染すると考えられています。
  • メカニズム: ピロリ菌は胃の粘膜に住み着き、炎症を起こしたり、胃酸の分泌をコントロールするホルモンに影響を与えたりします。また、菌が産生する毒素などが胃の粘膜を傷つけ、防御機能を低下させます。これにより、胃酸による攻撃から粘膜を守ることができなくなり、潰瘍ができやすくなります。
  • 日本の現状: 日本人では、特に高齢者を中心にピロリ菌感染率が高い傾向にあります。ピロリ菌に感染している人の全てが胃潰瘍になるわけではありませんが、感染している人はそうでない人に比べて胃潰瘍になるリスクが著しく高まります。
  • 除菌治療: ピロリ菌を除菌することで、胃潰瘍の再発率を大幅に低下させることができます。現在の胃潰瘍治療において、ピロリ菌感染が確認された場合には除菌療法が行われることが一般的です。

ストレス(精神的・肉体的)

精神的なストレスや過労、睡眠不足といったストレスも、胃潰瘍の発症や悪化に深く関与すると考えられています。

  • 精神的ストレス: 精神的なストレスは、自律神経のバランスを乱します。自律神経は胃の運動や血流、胃酸の分泌などをコントロールしているため、バランスが崩れると胃酸が必要以上に分泌されたり、胃の血流が悪くなったりして、胃の粘膜が傷つきやすくなります。
  • 肉体的ストレス: 重度の病気や怪我、手術、熱傷など、体にかかる大きな負担(肉体的ストレス)も、胃の血流を低下させたり、防御機能を弱めたりして、急性胃潰瘍(ストレス潰瘍)を引き起こすことがあります。これは、生命の危機に瀕した状態から体を守ろうとする生体反応の一部として起こると考えられています。

ストレスは、ピロリ菌感染や薬剤など他の原因と複合的に作用して、胃潰瘍を発症させたり症状を悪化させたりすることが多いです。ストレスをゼロにすることは難しいですが、適切に解消する方法を見つけることが、胃の健康を保つ上で重要になります。

薬剤性(NSAIDsなど)

特定の薬剤の服用も、胃潰瘍の原因となることがあります。特に注意が必要なのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。

  • NSAIDs: ロキソプロフェン、イブプロフェン、アスピリン(低用量アスピリンを含む)などがこれにあたります。これらの薬は、痛みや炎症を抑える効果がありますが、同時に胃の粘膜を保護するプロスタグランジンという物質の産生を妨げてしまいます。プロスタグランジンが減少すると、胃の粘液や血流が減少し、胃酸に対する防御機能が低下するため、潰瘍ができやすくなります。
  • ステロイド薬: ステロイド薬も、消化性潰瘍のリスクを高めることが知られています。NSAIDsと併用することで、さらにリスクが高まります。
  • その他: 一部の抗血小板薬や抗凝固薬、抗がん剤なども胃潰瘍のリスクを高める可能性があります。

薬剤性の胃潰瘍は、痛みを伴わない(無症候性)こともあり、気づかないうちに進行して出血や穿孔といった合併症を起こしやすいという特徴があります。日頃から痛み止めなどを常用している方は、胃の症状がなくても定期的な検査を検討したり、医師に相談したりすることが推奨されます。

その他の原因(喫煙・飲酒など)

ピロリ菌、ストレス、薬剤が胃潰瘍の主な原因ですが、その他の要因も発症に関与していると考えられています。

  • 喫煙: タバコに含まれるニコチンは、胃の血流を悪化させ、胃の防御機能を低下させます。また、胃酸の分泌を促進するともいわれています。喫煙者は非喫煙者に比べて胃潰瘍になりやすく、治りにくく、再発しやすい傾向があります。
  • 飲酒: アルコールの過剰摂取は、胃の粘膜に直接的なダメージを与えたり、胃酸分泌を刺激したりします。適量であれば大きな問題にはなりにくいですが、習慣的な多量飲酒は胃潰瘍のリスクを高めます。
  • 不規則な生活習慣: 睡眠不足、過労、食事時間の乱れなども、ストレスと同様に自律神経を乱し、胃の機能に悪影響を与える可能性があります。
  • 香辛料などの刺激物: 直接的な原因ではありませんが、胃酸分泌を刺激したり、胃の粘膜を刺激したりすることで、症状を悪化させる可能性があります。
  • 遺伝的要因: 家族に胃潰瘍になった人がいる場合、そうでない人に比べてややリスクが高いという報告もありますが、主要な原因とは考えられていません。

これらの要因が単独で胃潰瘍を引き起こすというよりは、ピロリ菌感染や薬剤といった主要な原因がある場合に、症状を悪化させたり治癒を妨げたりする補助的な要因として働くことが多いです。

胃潰瘍の初期症状を感じたら?チェックポイント

「もしかして胃潰瘍かも?」と感じたら、まずはご自身の症状を落ち着いてチェックしてみましょう。そして、症状がある場合の日常生活での注意点を理解することが大切です。

ご自身の症状をセルフチェック

以下の項目をチェックすることで、ご自身の症状が胃潰瘍の可能性を示唆しているかどうかを確認する手助けになります。

みぞおちの痛みがありますか?
はい / いいえ

痛みはいつ起こることが多いですか?
空腹時(特に夜間・早朝) / 食後 / 食事に関係なく / 特に痛みはないが不快感がある

痛みの性質は?
キリキリ / シクシク / ズーン / 焼けるような / 鈍痛 / その他

吐き気やムカムカ感がありますか?
はい / いいえ

実際に吐いてしまうことはありますか?
はい / いいえ

胃もたれやお腹の張りを感じますか?
はい / いいえ

食欲がなくなりましたか?
はい / いいえ

体重が減少しましたか?
はい / いいえ

便が黒っぽい(タール便)ことはありますか?
はい / いいえ

血を吐いたことはありますか?
はい / いいえ

背中に痛みを感じますか?
はい / いいえ

最近、痛み止め(NSAIDs)やステロイド薬を飲み始めましたか?
はい / いいえ

強い精神的ストレスを感じていますか?
はい / いいえ

タバコを吸いますか? お酒をたくさん飲みますか?
はい / いいえ

これらのチェック項目で、「はい」が多い場合、特に吐血やタール便といった出血症状がある場合は、胃潰瘍やその他の消化器系の病気が隠れている可能性が高いため、速やかに医療機関を受診することを強くお勧めします。

症状がある場合の注意点(食事や生活習慣)

胃潰瘍の症状が出ている、あるいはその可能性があると感じる場合、胃への負担を減らすための注意が必要です。

  • 食事:
    • 規則正しい食事: 毎日決まった時間に食事を摂るように心がけましょう。空腹時間が長すぎると胃酸が胃の粘膜を刺激しやすくなります。
    • 少量ずつ: 一度にたくさん食べるのではなく、少量ずつ回数を分けて食べる方が胃への負担が少なくなります。
    • 消化の良いものを選ぶ: 脂っこいもの、揚げ物、肉類、食物繊維の多い野菜などは消化に時間がかかり、胃に負担をかけやすいです。おかゆ、うどん、煮込み料理、白身魚、豆腐など、柔らかく消化の良いものを選びましょう。
    • 刺激物を避ける: 香辛料(唐辛子、コショウ)、熱すぎるもの、冷たすぎるもの、酸っぱいもの、カフェインを多く含む飲み物(コーヒー、紅茶)などは胃酸分泌を刺激したり、粘膜を刺激したりするため、避けましょう。
    • よく噛む: よく噛むことで唾液と混ざり、消化酵素の働きを助け、胃での消化をスムーズにします。
    • 食事中の姿勢: 食事中はリラックスして、食後すぐに横になったり激しい運動をしたりするのは避けましょう。
  • 生活習慣:
    • 禁煙・節酒: 喫煙や過度な飲酒は胃潰瘍の原因や悪化要因となるため、できるだけ控えるか、完全にやめることが推奨されます。
    • ストレス管理: ストレスは胃の働きを悪化させます。十分な睡眠時間を確保し、趣味や軽い運動などで気分転換を図るなど、ご自身に合ったストレス解消法を見つけましょう。
    • 市販薬の使用に注意: 痛み止め(特にNSAIDs)は胃潰瘍の原因となることがあります。安易な自己判断での服用は避け、服用が必要な場合は医師や薬剤師に相談しましょう。胃薬の中にも、症状を緩和するだけで潰瘍自体を治す効果がないものや、他の薬との飲み合わせに注意が必要なものがあります。自己判断で市販薬を使い続けるのではなく、症状が続く場合は医療機関を受診してください。
    • 体を冷やさない: 体を冷やすと血行が悪くなり、胃の働きにも影響を与える可能性があります。温かい食事や飲み物を摂る、腹部を温めるなど、体を冷やさないように心がけましょう。

これらの注意点はあくまで症状を和らげ、胃への負担を減らすための対症療法的なものです。根本的な治療のためには、必ず医療機関で正確な診断を受け、原因に応じた治療を受ける必要があります。

胃潰瘍かどうか確かめるには?診断・検査方法

胃潰瘍が疑われる症状がある場合、医療機関ではいくつかの検査を行って診断を確定します。主な検査方法には、胃カメラ、バリウム検査、そしてピロリ菌検査があります。

胃カメラ(内視鏡検査)

胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)は、胃潰瘍の診断において最も重要で、確実な検査方法です。

  • 検査内容: 口または鼻から細く柔らかいチューブ(内視鏡)を挿入し、食道、胃、十二指腸の粘膜を医師が直接モニターで観察します。
  • 何がわかるか: 潰瘍の位置、大きさ、深さ、形、数などを詳細に確認できます。出血があるかどうかもその場で確認でき、必要であれば止血処置を行うことも可能です。また、潰瘍の周囲の粘膜の状態を観察し、胃がんなど悪性腫瘍との鑑別を行います。
  • メリット: 粘膜を直接見ることができるため、最も正確な診断が可能です。疑わしい病変があれば、その場で組織の一部を採取して病理検査に提出することもできます(生検)。これにより、胃がんなどの悪性疾患との鑑別や、ピロリ菌感染の有無を組織学的に調べることも可能です。
  • デメリット: 検査時に多少の苦痛を感じる場合があります(最近は鎮静剤を使用したり、鼻からの細い内視鏡を使ったりすることで、負担を軽減できるようになっています)。検査前には食事制限が必要です。

胃カメラは、胃潰瘍の確定診断と同時に、他の病気との鑑別、そして原因(特に悪性ではないか)を調べる上で不可欠な検査と言えます。

バリウム検査

バリウム検査(上部消化管造影検査)も胃潰瘍の診断に用いられることがありますが、胃カメラに比べると精度は劣ります。

  • 検査内容: 炭酸ガスを発生させる発泡剤を飲んで胃を膨らませた後、バリウムという造影剤を飲み、様々な方向からX線写真を撮影します。
  • 何がわかるか: バリウムが胃の粘膜の凹凸に付着することで、潰瘍による粘膜の欠損を間接的に捉えることができます。潰瘍の大きさや形、位置などを確認できます。
  • メリット: 胃全体の形や動きを観察できます。胃カメラに抵抗がある方でも受けやすい場合があります。
  • デメリット: 粘膜の色や微細な変化、炎症の程度などはわかりません。初期の小さな潰瘍や平坦な潰瘍は見つけにくいことがあります。組織を採取して病理検査を行うことができないため、悪性腫瘍との鑑別が難しい場合があります。検査後にバリウムが固まって便秘になる可能性があるため、下剤の服用が必要です。

最近では、より正確な診断が可能な胃カメラが第一選択となることが増えていますが、胃カメラが難しい場合や、胃全体の形態を把握したい場合などに選択されることがあります。

ピロリ菌検査

胃潰瘍の原因として最も多いピロリ菌の感染を調べる検査は、診断と治療方針決定のために非常に重要です。いくつかの方法があります。

検査方法 内容 特徴・メリット デメリット
内視鏡を使う検査
組織検査 (迅速ウレアーゼ試験、組織鏡検、培養) 胃カメラで採取した組織片を調べる 胃カメラと同時に行える。潰瘍の状態と合わせて確認できる。迅速ウレアーゼ試験は短時間で結果がわかる。 胃カメラが必要。結果が出るまでに時間がかかる場合がある。
内視鏡を使わない検査
尿素呼気試験 専用の薬を飲んだ後、呼気を集めて分析する 簡便で精度が高い。検査の負担が少ない。 検査前に食事制限が必要。特定の薬剤(プロトンポンプ阻害薬など)の影響を受ける。
便中抗原測定 便の中に含まれるピロリ菌の抗原を検出する 簡便で精度が高い。乳幼児でも可能。 便の採取が必要。
血液・尿中抗体測定 血液や尿に含まれるピロリ菌に対する抗体の有無を調べる 採血・採尿のみで簡便。 現在の感染ではなく過去の感染でも陽性となることがある。精度が他の検査よりやや劣る場合がある。特定の薬剤や状態の影響を受けることがある。

胃潰瘍が確認された場合、これらの検査でピロリ菌感染の有無を確認し、感染が確認されれば除菌治療が行われます。ピロリ菌の除菌は、胃潰瘍の治癒を促進し、再発を劇的に減少させる効果があります。

胃潰瘍 初期症状が見られたら医療機関へ

ここまで見てきたように、胃潰瘍の初期症状は様々であり、他の病気と区別がつきにくい場合もあります。また、放置すると出血や穿孔といった命に関わる重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。少しでも気になる症状があれば、「これくらいで病院に行っていいのかな?」とためらわずに、医療機関を受診することが非常に重要です。

受診を検討すべき症状の目安

以下のような症状がある場合は、早期に医療機関を受診することを強くお勧めします。

  • みぞおちの痛みが続く、あるいは繰り返す: 特に空腹時や食後に痛みが現れるなど、特徴的なパターンがある場合。市販薬を使っても改善しない、あるいは一時的にしか効かない場合。
  • 吐き気や嘔吐が続く: 食事が摂りにくくなったり、体重が減ったりしている場合。
  • 便が黒っぽい(タール便): 明らかにいつもと違う、コールタールのような真っ黒な便が出た場合。少量でも見られたら要注意です。
  • 血を吐いた: コーヒーのカスのようなものや鮮やかな血を吐いた場合。これは緊急性の高いサインです。
  • これまで経験したことのない激しい腹痛: 特に突然発症し、お腹が硬く感じられる場合。これは穿孔の可能性があり、直ちに救急受診が必要です。
  • 胃の不調に加えて、背中の痛みや体重減少がある: 胃潰瘍が進行しているサインの可能性があります。
  • 市販薬を飲んでも症状が改善しない、あるいは悪化している: 自己判断で市販薬を使い続けるのは危険です。
  • 痛み止め(NSAIDs)を常用している方で、胃の不調を感じる: 薬剤性の胃潰瘍の可能性があります。
  • ピロリ菌に感染していると診断されたことがある方で、胃の不調を感じる: 再燃や新たな潰瘍の発生の可能性があります。
  • ご家族に胃がんの既往がある方で、胃の不調を感じる: 胃潰瘍だけでなく、胃がんの可能性も考慮して検査を受けることが推奨されます。

これらの症状は胃潰瘍だけでなく、胃がんやその他の重篤な病気のサインである可能性も否定できません。「そのうち治るだろう」「様子を見よう」と自己判断せず、専門家の診断を受けることが大切です。

早期発見・早期治療の重要性

胃潰瘍は、早期に発見して適切な治療を行えば、比較的短期間で治癒することが多い病気です。また、原因がピロリ菌であれば除菌治療によって再発を大幅に防ぐことができます。

早期発見・早期治療には、以下のような重要なメリットがあります。

  • 症状の早期改善: 適切な治療により、つらい胃の痛みや不快感から早期に解放されます。
  • 合併症の予防: 出血や穿孔といった、命に関わる重篤な合併症を未然に防ぐことができます。特に高齢者や他の病気を持っている方にとって、合併症は致命的となることもあります。
  • 治癒率の向上: 潰瘍が浅く小さい段階で治療を開始すれば、治癒にかかる期間が短縮され、きれいに治りやすくなります。
  • 悪性腫瘍との鑑別: 早期に胃カメラ検査を受けることで、胃潰瘍と似た症状を示す胃がんなどを早期に発見できる可能性が高まります。早期の胃がんは内視鏡治療で完治することも可能です。
  • 原因に応じた治療: ピロリ菌感染や薬剤性など、原因を特定することで、根本的な治療や再発予防につながる治療(ピロリ菌除菌、薬剤の変更など)を行うことができます。

「ちょっとした胃の不調だから」と放置せず、「念のため専門家に見てもらおう」という意識を持つことが、ご自身の健康を守る上で非常に重要です。

何科を受診すべきか

胃潰瘍の症状や、胃の不調全般に関しては、消化器内科を受診するのが最も適切です。

  • 消化器内科医: 胃、食道、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆嚢、膵臓といった消化器全般の病気を専門としています。胃カメラ検査やバリウム検査、ピロリ菌検査なども消化器内科で実施されます。
  • 内科: お近くに消化器内科がない場合は、まず一般的な内科を受診しても良いでしょう。症状を聞いて、必要であれば専門医(消化器内科医)への紹介状を書いてもらえるはずです。
  • かかりつけ医: 普段から診てもらっているかかりつけ医がいる場合は、まず相談してみるのも良い方法です。ご自身の体質や既往歴を理解している医師であれば、適切なアドバイスや専門医への紹介をしてくれるでしょう。

受診する際は、いつからどのような症状があるのか、痛みの性質や時間帯、食事との関連、市販薬の使用状況、普段飲んでいる薬、喫煙や飲酒の習慣、ストレスの有無などを具体的に伝えられるように準備しておくと、診察がスムーズに進みます。また、タール便が出た場合は、可能であれば便の写真を撮っておくと、医師が症状を判断する上で参考になることがあります。

近年では、オンライン診療で消化器の専門医に相談できるサービスもあります。病院に行く時間がない、あるいは直接対面での受診に抵抗があるといった場合は、選択肢の一つとして検討してみるのも良いかもしれません。ただし、症状によっては対面での検査が必要になるため、オンライン診療で相談した上で、医師の指示に従って適切な医療機関を受診してください。

【まとめ】胃潰瘍の初期症状を見逃さず、早期の医療機関受診を

胃潰瘍の初期症状は、みぞおちの痛みや吐き気、胃もたれなど、日常的によくある胃の不調と区別がつきにくい場合があります。しかし、これらのサインの裏には、放置すると重篤な合併症につながりかねない胃潰瘍が隠れている可能性があります。

特に、空腹時の痛み食後の不快感が続いたり繰り返したりする場合、そして吐血タール便といった出血を示唆する症状が見られた場合は、緊急性が高いため、すぐに医療機関を受診する必要があります。

胃潰瘍の主な原因はピロリ菌感染ストレス薬剤性(NSAIDsなど)です。ご自身の症状とこれらの原因となりうる要素に心当たりがある場合は、早めに医療機関(消化器内科)で相談し、胃カメラ検査などで正確な診断を受けることをお勧めします。

早期に胃潰瘍を発見し、原因に応じた適切な治療を行うことで、症状は改善し、再発や重篤な合併症を防ぐことができます。また、胃潰瘍のような症状が、実は胃がんなど他の病気のサインである可能性も否定できません。

「たかが胃の不調」と自己判断せず、体のサインにしっかりと向き合い、気になる症状があれば専門家である医師に相談する勇気を持つことが、ご自身の健康な未来を守るための第一歩となります。

免責事項:

本記事は情報提供のみを目的としており、医学的アドバイスや診断、治療の代替となるものではありません。ご自身の症状に関して懸念がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づくいかなる行動によって生じた損害についても、当方では一切責任を負いかねます。

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