足の付け根の痛みにお悩みではありませんか?歩くとき、座るとき、寝ているときなど、さまざまな場面で感じる不快な痛みは、日常生活に大きな影響を与えます。この痛みには、筋肉や関節の問題、神経の圧迫、さらには内臓の病気まで、多岐にわたる原因が考えられます。特に女性の場合、特有の原因が隠れていることも少なくありません。この記事では、足の付け根の痛みの主な原因や考えられる具体的な病気、痛む場所による違い、自宅でできる対処法、そして「これは要注意」という受診の目安について、専門的な知見に基づいて詳しく解説します。ご自身の痛みの原因を探り、適切な対処を見つけるための一助となれば幸いです。
足の付け根の痛みの原因とは?考えられる疾患
足の付け根、医学的には鼠径部(そけいぶ)や股関節周辺と呼ばれるこの部位の痛みは、非常に多くの原因によって引き起こされる可能性があります。これらの原因は、大きくいくつかのカテゴリーに分類できます。痛みを感じている場所や、どのような時に痛むのか(安静時、運動時、特定の動作時など)によって、原因を絞り込むヒントが得られます。
足の付け根の痛みの主な原因(股関節、筋肉など)
足の付け根の痛みの最も一般的な原因は、この部位に関連する骨、関節、筋肉、腱、靭帯といった構造的な問題です。
- 股関節の問題: 股関節は、大腿骨(だいたいこつ)の先端の丸い部分(骨頭)と、骨盤の受け皿となる部分(臼蓋:きゅうがい)で構成される関節です。この股関節自体に変形や炎症、軟骨の摩耗などが起こると、足の付け根に痛みが生じやすくなります。例えば、変形性股関節症や関節リウマチなどが代表的な疾患です。
- 筋肉・腱の問題: 足の付け根周辺には、股関節を動かすための多くの筋肉(腸腰筋、内転筋群、縫工筋、大腿直筋など)やその腱が付着しています。これらの筋肉や腱が過度な負担や繰り返しの動作によって炎症を起こしたり(腱炎)、損傷したりすると痛みの原因となります。スポーツ選手や肉体労働者に多く見られる鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)や、筋肉の挫傷(肉離れ)などがこれに該当します。
- 靭帯の問題: 股関節を安定させる靭帯の損傷や炎症も痛みの原因となり得ます。特にスポーツ外傷などで起こることがあります。
- 神経の問題: 足の付け根周辺を通る神経が、筋肉や他の組織によって圧迫されたり刺激されたりすることでも痛みが生じます。腰椎の疾患(腰椎椎間板ヘルニアなど)から神経痛として足の付け根に痛みが放散することもあります。
- 骨盤や脊椎の問題: 股関節と連動して働く骨盤や、その上にある脊椎(背骨)の問題が、間接的に足の付け根の痛みを引き起こすこともあります。姿勢の悪さや体の歪みが原因となるケースも少なくありません。
これらの原因は単独で起こることもあれば、複数組み合わさって痛みを引き起こすこともあります。
女性特有の足の付け根の痛みの原因
足の付け根の痛みは、男性と女性で原因の頻度や種類が異なることがあります。特に女性の場合、骨盤内の構造やホルモンバランスの変化が痛みに影響を与えることがあります。
- 妊娠・出産: 妊娠中はホルモンの影響で骨盤周りの靭帯が緩みやすくなったり、体重増加や胎児の成長によって股関節や骨盤に負担がかかったりすることで足の付け根に痛みが生じやすくなります。出産後も骨盤の緩みや姿勢の変化が痛みの原因となることがあります。
- 生理周期: 生理前や生理中に、骨盤内の充血やホルモンバランスの変化によって、足の付け根やその周辺に痛みや違和感を感じることがあります。
- 婦人科系の疾患: 子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣嚢腫などの婦人科系の病気が、骨盤内の神経を刺激したり、炎症を起こしたりすることで、関連痛として足の付け根に痛みが現れることがあります。
- 尿路系の疾患: 膀胱炎や尿路結石なども、関連痛として足の付け根や鼠径部に痛みを引き起こすことがあります。
これらの女性特有の原因による痛みは、他の原因による痛みと区別がつきにくいため、症状が続く場合は婦人科や泌尿器科での診察も検討することが重要です。
急に足の付け根が痛くなった場合
突然、あるいは比較的短時間のうちに足の付け根に強い痛みが現れた場合は、注意が必要です。急性的な痛みの原因としては、以下のようなものが考えられます。
- 外傷: 転倒、衝突、スポーツ中の急な動きなどによる筋肉や靭帯の損傷、打撲、骨折など。特に疲労骨折は、繰り返し負担がかかることで骨にヒビが入る状態で、急に強い痛みとして現れることがあります。
- 感染症: 股関節の細菌感染(化膿性股関節炎)や、周辺組織の感染などが急激な痛み、腫れ、発熱を伴って起こることがあります。
- 血栓: 足の血管に血栓ができ、それが原因で痛みや腫れ、変色などを引き起こす深部静脈血栓症が、足の付け根周辺に症状を出すこともあります。これは緊急性の高い状態です。
- 鼠径ヘルニアの嵌頓(かんとん): 鼠径ヘルニアが脱出したまま戻らなくなり、腸などが締め付けられる状態(嵌頓)になると、非常に強い痛みを伴います。これも緊急手術が必要な状態です。
急な強い痛みに加えて、発熱、腫れ、赤み、しびれ、麻痺、色や形の変化などを伴う場合は、迷わず速やかに医療機関を受診してください。
足の付け根が痛いときに考えられる具体的な病気
足の付け根の痛みに関連する具体的な病気は多岐にわたります。ここでは、比較的よく見られる病気と、その特徴について解説します。
変形性股関節症
変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減り、関節が変形していく病気です。多くは加齢に伴って発生しますが、子どもの頃の股関節の病気(臼蓋形成不全など)が原因で若いうちから発症することもあります。
- 症状: 初期には、立ち上がりや歩き始めに足の付け根(特に内側)に痛みを感じますが、休むと軽減します。進行すると、歩行時の痛みが強くなり、股関節の動きが悪くなります。末期には安静時や夜間にも痛むようになり、日常生活が大きく制限されます。
- 痛みの特徴: 最初は「重い感じ」「違和感」程度ですが、徐々に鋭い痛みに変わることがあります。股関節の「詰まり感」や「引っかかり感」を伴うこともあります。
- 原因・リスク因子: 加齢、先天性の股関節の異常(臼蓋形成不全など)、肥満、過去の股関節の怪我や病気、過度の負担のかかる運動など。
- 治療法: 保存療法(運動療法、体重管理、薬物療法、装具療法)が基本ですが、痛みが強く日常生活が困難な場合は手術(人工股関節置換術など)が検討されます。
鼠径ヘルニア(脱腸)
鼠径ヘルニアは、足の付け根の腹壁が弱くなり、お腹の中の臓器(主に腸の一部)が皮膚の下に飛び出してくる病気です。いわゆる「脱腸」です。
- 症状: 足の付け根(多くは内側、下腹部との境目あたり)に、立ち上がったりお腹に力を入れたりした時にポコッと膨らみが出てきます。通常は横になったり手で押さえたりすると引っ込みますが、膨らみが出ているときに違和感や痛みを伴うことがあります。
- 痛みの特徴: 鈍い痛み、引っ張られるような痛み、あるいは圧迫感として感じられることが多いです。膨らみが戻らなくなった場合(嵌頓)、激しい痛みに変わります。
- 原因・リスク因子: 加齢による組織の弱化、立ち仕事や力仕事、慢性的な咳、便秘、妊娠など、腹圧が上がる習慣がある人に起こりやすいとされます。男性に多い病気です。
- 治療法: 自然に治ることはなく、治療には手術が必要です。膨らみが戻らなくなる嵌頓を起こすと緊急手術が必要になるため、診断されたら時期を見て手術を受けることが推奨されます。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、腰の骨(腰椎)の間にあるクッション材(椎間板)が飛び出し、近くを通る神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす病気です。多くは腰やお尻に症状が出ますが、圧迫される神経の場所によっては足の付け根や太ももの前面に痛みが放散することがあります。
- 症状: 腰の痛み、お尻から太もも、ふくらはぎ、足先にかけての痛みやしびれが典型的ですが、足の付け根にも症状が出ることがあります。咳やくしゃみ、前かがみの姿勢で痛みが強くなる傾向があります。重症化すると、筋力低下や感覚麻痺、排尿・排便障害が現れることもあります。
- 痛みの特徴: 電気が走るような、あるいは焼けるような鋭い痛みや、ジンジンするしびれとして感じられることが多いです。
- 原因・リスク因子: 加齢による椎間板の変性、重い物を持つなどの作業、前かがみでの作業、喫煙、遺伝などが関係するとされます。
- 治療法: 保存療法(安静、薬物療法、ブロック注射、リハビリテーション)が基本ですが、強い痛みや麻痺がある場合は手術が検討されます。
関節リウマチ
関節リウマチは、自己免疫疾患の一つで、全身の関節に炎症を引き起こし、関節の腫れ、痛み、変形を招く病気です。股関節も炎症が起こりやすい関節の一つであり、足の付け根の痛みの原因となることがあります。
- 症状: 朝起きたときに手足の関節がこわばる(朝のこわばり)のが特徴的な初期症状です。股関節に炎症が起こると、足の付け根の痛み、腫れ、可動域の制限が現れます。進行すると関節が破壊され、変形が生じます。全身の倦怠感や微熱を伴うこともあります。
- 痛みの特徴: じっとしていても痛む(安静時痛)ことが多く、特に夜間から朝にかけて痛みが強くなる傾向があります。炎症による熱感を伴うこともあります。
- 原因・リスク因子: 詳細な原因は不明ですが、遺伝的要因や環境要因(喫煙など)が複雑に関与していると考えられています。女性に多く見られます。
- 治療法: 薬物療法(抗リウマチ薬、生物学的製剤など)が中心となり、炎症を抑え、関節の破壊を抑制することを目指します。進行した場合は手術が必要となることもあります。
疲労骨折・骨端症など
骨への繰り返し負担によって生じる骨の損傷も、足の付け根の痛みの原因となります。
- 疲労骨折: 長距離ランナーや跳躍競技の選手など、股関節周辺に繰り返し負荷がかかるスポーツを行う人に起こりやすいのが、大腿骨頸部や恥骨、坐骨などの疲労骨折です。最初は軽い痛みですが、運動を続けることで痛みが強くなり、最終的には安静時にも痛むようになります。
- 骨端症(Perthes病など): 子どもの股関節の病気で、大腿骨の骨頭への血行が悪くなり、骨組織が壊死する病気です。足の付け根や膝に痛みを訴えたり、跛行(はこう:足を引きずって歩くこと)が見られたりします。適切な治療を行わないと、大人になってからの変形性股関節症の原因となることがあります。
- 症状: 該当する骨部位に一致した痛み、運動時の増悪、圧痛(押すと痛い)などが特徴です。
- 原因・リスク因子: 過度な運動、急な運動量の増加、栄養状態、成長期の子ども(骨端症)など。
- 治療法: 安静、免荷(体重をかけないようにする)、固定、場合によっては手術など。
リンパの腫れによる痛み
足の付け根には、下半身や外陰部などからリンパ液が集まる鼠径リンパ節があります。このリンパ節が、感染や炎症、あるいは悪性腫瘍などによって腫れると、足の付け根にしこりや痛みを引き起こすことがあります。
- 症状: 足の付け根にしこりを触れる、その部分に痛みや圧痛がある、腫れが徐々に大きくなるなど。原因によっては、発熱や体のだるさなどの全身症状を伴うこともあります。
- 痛みの特徴: リンパ節の腫れによる鈍い痛みや、押さえたときの圧痛が一般的です。
- 原因・リスク因子: 細菌感染(足の傷や性感染症など)、ウイルス感染(風疹、HIVなど)、悪性腫瘍(リンパ腫や他の部位からの転移)など。
- 治療法: 原因によって異なります。感染が原因であれば抗生物質などの薬物療法が行われます。悪性腫瘍が原因の場合は、その種類に応じた専門的な治療が必要です。
病気の種類 | 主な症状 | 痛みの特徴 | 痛む場所(多い傾向) | 発生しやすい状況 |
---|---|---|---|---|
変形性股関節症 | 歩き始めや立ち上がりの痛み、股関節の動きの制限 | 初期:違和感・重い感じ。進行:鋭い痛み、詰まり感。末期:安静時痛。 | 足の付け根の内側 | 加齢、先天性異常、肥満 |
鼠径ヘルニア | 足の付け根の膨らみ(脱出)、腹圧をかけた時の違和感 | 鈍い痛み、引っ張られるような痛み、圧迫感。嵌頓時:激痛。 | 足の付け根の内側 | 立ち仕事、力仕事、咳、便秘(腹圧上昇) |
腰椎椎間板ヘルニア | 腰・お尻・足への痛み・しびれ。足の付け根にも放散痛。 | 電気が走るような鋭い痛み、ジンジンするしびれ。咳・くしゃみで増悪。 | 足の付け根(前面) | 重い物を持つ、前かがみ作業、加齢 |
関節リウマチ | 関節の腫れ・痛み・こわばり(特に朝)。全身倦怠感。 | じっとしていても痛む(安静時痛)。夜間~朝にかけて強い痛み。熱感。 | 足の付け根 | 自己免疫疾患(原因不明、女性に多い) |
疲労骨折 | 該当部位の痛み、運動時増悪、圧痛。 | 最初は軽い痛み、運動継続で増悪。進行すると安静時痛。 | 骨折部位による | 過度の運動(ランナー、ジャンパー)、急な運動量増加 |
リンパ節炎 | 足の付け根のしこり、腫れ、痛み。 | 鈍い痛み、圧痛。 | 足の付け根(しこり) | 足の傷や性感染症など、感染源がある場合。全身疾患の可能性も。 |
※上記は一般的な傾向であり、痛みの感じ方や場所には個人差があります。正確な診断には医療機関の受診が必要です。
足の付け根の痛む場所別の原因(内側・外側・片方など)
足の付け根の痛みが、内側なのか、外側なのか、あるいは片方だけなのかによって、痛みの原因をある程度絞り込むことができます。
足の付け根の内側が痛い場合
足の付け根の「内側」、特に下腹部との境目や太ももの内側にかけての痛みは、比較的多くの人が経験する部位です。
- 鼠径ヘルニア: 先述の通り、足の付け根の内側に膨らみと共に痛みや違和感が生じる代表的な病気です。
- 鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群): サッカーなどのスポーツ選手に多く、内転筋(太ももの内側の筋肉)、腹筋、股関節周辺の筋肉の付着部や腱に繰り返し負荷がかかることで炎症や微細な損傷が生じ、鼠径部や足の付け根の内側に痛みを引き起こします。特にキック動作や方向転換で痛みが強くなります。
- 内転筋関連の痛み: 太ももの内側の筋肉(内転筋群)の肉離れ、腱炎、使いすぎによる痛みは、足の付け根の内側に強い痛みをもたらします。ストレッチや開脚動作で痛みが誘発されやすいです。
- 恥骨結合炎: 骨盤の前面にある左右の恥骨をつなぐ関節(恥骨結合)に炎症が起こる病気です。妊娠・出産やスポーツ(特に左右非対称の動きが多いもの)によって負担がかかりやすく、恥骨やその周辺、足の付け根の内側に痛みを引き起こします。
- リンパ節の腫れ: 鼠径リンパ節は内側に位置するため、腫れによる痛みは内側に感じられることが多いです。
- 婦人科・泌尿器科系の関連痛: 子宮や卵巣、膀胱などの問題による関連痛が、足の付け根の内側や下腹部に感じられることがあります。
内側の痛みは、筋肉や靭帯、腱の柔軟性低下や使いすぎ、あるいは鼠径ヘルニアやリンパ節の腫れなど、比較的表面に近い構造の問題から、骨盤内の臓器の問題まで幅広く考えられます。
足の付け根の外側が痛い場合
足の付け根の「外側」、特に股関節の出っ張り(大転子:だいてんし)の周辺の痛みは、股関節自体やその周辺の構造の問題が原因となっていることが多いです。
- 変形性股関節症: 進行した変形性股関節症では、関節の変形が進むことで痛みが外側に感じられることがあります。
- 大転子部滑液包炎(だいてんしぶかつえきほうえん): 大転子と皮膚や筋肉の間にある滑液包が炎症を起こす病気です。股関節の外側を圧迫したときや、横向きに寝たときに痛みが強くなるのが特徴です。股関節の外側の筋肉(中殿筋や小殿筋など)の使いすぎや、体の歪み、硬い椅子に長時間座ることなどが原因となります。
- 股関節唇損傷: 股関節の臼蓋の縁にある「股関節唇」という軟骨組織の損傷です。スポーツでの繰り返しの動きや、外傷によって起こることがあります。股関節の鼠径部や外側に痛みが生じ、特に股関節を捻るような動作で痛みや引っかかり感が出やすいです。
- FAI(大腿骨臼蓋インピンジメント): 大腿骨と臼蓋の形状が異常なため、股関節を特定の方向に動かしたときに骨同士がぶつかり、股関節唇や軟骨を傷つけて痛みを生じる病気です。スポーツ選手や若年者に多く、足の付け根の奥の方や外側に痛みを感じます。
- 腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん): 膝の外側に痛みが生じる病気として知られていますが、股関節の外側の筋肉(大腿筋膜張筋など)から続く腸脛靭帯が硬くなると、股関節の外側や足の付け根の外側に痛みを引き起こすことがあります。ランニングやサイクリングをする人に多いです。
外側の痛みは、股関節自体の構造的問題や、その周辺の筋肉・腱・靭帯の炎症や損傷が主な原因として考えられます。
足の付け根の片方だけが痛い場合
足の付け根の痛みが、右か左の「片方だけ」に強く出ている場合、以下のような原因が考えられます。多くの原因は片側性で発症しますが、特に片側に起こりやすいものを挙げます。
- 鼠径ヘルニア: ほとんどの場合、片側に発症します。
- 腰椎椎間板ヘルニア: 神経圧迫は片側で起こることが多いため、関連痛やしびれも片側の足の付け根に現れることが多いです。
- 変形性股関節症: 進行度合いが左右で異なる場合、痛みも片方に強く出ることがあります。特に片側の臼蓋形成不全が原因の場合は、変形が進行しやすい方に痛みが出ます。
- 筋肉・腱の損傷や炎症: スポーツや特定の動作によって片側の筋肉や腱に負担がかかることで生じます。例えば、サッカーのキックで片側の内転筋を痛める、野球の投球動作で片側の股関節に負担がかかるなど。
- 疲労骨折: 片側の足に集中的な負荷がかかることで生じやすいです。
- リンパ節の腫れ: 片側の足や性器に感染や傷がある場合、その側のリンパ節だけが腫れることが多いです。
もちろん、両側に痛みが現れる病気(関節リウマチ、進行した変形性股関節症、両側の疲労骨折など)もありますが、片側性の痛みは、原因を絞り込むための一つのヒントとなります。片側だけの痛みが続く場合は、体の使い方の癖や、局所的な問題が原因である可能性が高いと言えるでしょう。
足の付け根が痛いときの治し方・セルフケア
足の付け根の痛みが軽度である場合や、医療機関を受診するまでもないと感じる場合は、自宅でできるセルフケアが有効な場合があります。しかし、これらの対処法はあくまで一時的な痛みの緩和や症状の悪化予防を目的とするものであり、根本的な原因の治療には専門家の診断と指導が必要です。
自宅でできるストレッチ
足の付け根の痛みが筋肉の緊張や柔軟性の低下によるものである場合、適切なストレッチを行うことで痛みの緩和や予防が期待できます。ただし、痛みが強いときや、ストレッチ中に痛みが増す場合は中止し、無理に行わないことが重要です。また、病気による痛みの場合、ストレッチが逆効果になることもありますので注意が必要です。
一般的に、足の付け根の痛みに効果が期待できるストレッチとしては、以下の筋肉を対象としたものがあります。
- 腸腰筋のストレッチ: 腸腰筋は腰から股関節にかけて付いている筋肉で、ここが硬くなると骨盤が前傾し、股関節への負担が増えることがあります。片膝立ちになり、前足に重心を移しながら、後ろ足側の足の付け根をゆっくり前に突き出すように伸ばします。
- 内転筋のストレッチ: 太ももの内側の筋肉で、使いすぎや柔軟性低下で痛みの原因となりやすいです。開脚姿勢で上体を前に倒したり、長座体前屈のように座って両足裏を合わせ、膝を開いて前屈したりする方法があります。
- お尻(殿部)の筋肉のストレッチ: 中殿筋や梨状筋など、股関節を支えるお尻の筋肉が硬くなると、股関節の動きが悪くなり痛みを引き起こすことがあります。椅子に座って片足のくるぶしをもう片足の膝の上に置き、上体を前に倒す、あるいは仰向けになり片足の膝を抱え込むようにして、お尻の筋肉を伸ばします。
ストレッチを行う上での注意点:
- 痛みのない範囲で行う: 「気持ちいい」と感じる程度の強度にとどめ、痛みを感じたらすぐに中止しましょう。
- 反動をつけずゆっくりと: 筋肉を痛める可能性があるため、勢いをつけずにゆっくりと伸ばしましょう。
- 呼吸を止めない: リラックスして深呼吸しながら行うことで、筋肉がより効果的に伸びます。
- 毎日継続する: 短時間でも良いので、毎日続けることで効果が得られやすくなります。
アイシングや温めについて
足の付け根の痛みの原因や状態によって、アイシング(冷却)と温め(温熱療法)を使い分けることが有効です。
- アイシング(冷却):
- 向いている場合: 急に痛みが出たとき(急性期)、熱感や腫れを伴うとき、運動や特定の動作の後で痛みが増したとき。
- 目的: 炎症や腫れを抑え、痛みを軽減します。
- 方法: アイスパックや氷嚢をタオルで包み、痛む部位に15分~20分程度当てます。凍傷を防ぐため、長時間当てすぎないように注意しましょう。1日に数回繰り返しても構いません。
- 温め(温熱療法):
- 向いている場合: 慢性的な痛み、筋肉の凝りや張り、血行不良が原因と考えられる痛み。
- 目的: 血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減します。
- 方法: ホットパック、蒸しタオル、温かいシャワーや入浴などが有効です。心地よいと感じる温度で行いましょう。ただし、炎症が強い時期に温めるとかえって悪化させる可能性があるので注意が必要です。
どちらを行うか迷う場合や、効果が感じられない場合は、自己判断せず医療機関に相談しましょう。特に、急な強い痛みや腫れがある場合は、まずはアイシングを行い、医療機関を受診することが推奨されます。
日常生活での注意点
足の付け根の痛みを軽減し、再発を予防するためには、日常生活での習慣を見直すことも重要です。
- 姿勢: 猫背や反り腰など、不良姿勢は股関節や骨盤に負担をかけやすく、痛みの原因や悪化因子となります。背筋を伸ばし、骨盤を立てるように意識しましょう。長時間同じ姿勢を続けず、こまめに立ち上がって体を動かすことも大切です。
- 体重管理: 体重が増加すると、股関節にかかる負担が増大し、痛みが悪化しやすくなります。適正体重を維持するよう心がけましょう。
- 靴: 足に合わない靴やヒールの高い靴は、歩行時のバランスを崩し、股関節や足の付け根に余計な負担をかけることがあります。クッション性があり、安定した歩行ができる靴を選びましょう。
- 運動: 痛みが強い時期は無理な運動を避け安静にすることも必要ですが、痛みが落ち着いてきたら、股関節に負担のかかりにくい運動(ウォーキング、水中ウォーキング、サイクリングなど)を適度に行うことで、筋力を維持し、股関節の安定性を高めることが痛みの予防につながります。ただし、痛みを我慢して無理な運動を続けることは逆効果です。
- 睡眠姿勢: 痛い側を下にして寝ると、患部が圧迫されて痛みが増すことがあります。痛くない側を下にして寝たり、膝の間にクッションを挟んだりするなど、楽な姿勢で眠れるように工夫しましょう。
- 体の冷え: 体が冷えると筋肉が硬くなり、痛みを悪化させる可能性があります。特に冬場は、足の付け根や股関節周りを冷やさないように注意しましょう。
これらのセルフケアや注意点は、痛みの根本原因を治療するものではありません。症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。
こんな時は要注意!病院を受診すべき目安
足の付け根の痛みが続いている場合や、特定の症状を伴う場合は、自分で判断せず速やかに医療機関を受診することが非常に重要です。以下のような症状が見られる場合は、特に注意が必要です。
受診を検討すべき目安の症状 | 考えられる状態の例 |
---|---|
痛みが非常に強い、または急激に悪化した | 骨折、重度の筋肉損傷、感染症(化膿性関節炎など)、鼠径ヘルニアの嵌頓、血管系の問題(血栓など) |
安静にしていても痛みが続く、あるいは夜間にも痛む | 炎症が強い状態、進行した変形性股関節症、関節リウマチ、骨の異常、腫瘍など |
足や足の付け根にしびれや麻痺を伴う | 神経の圧迫(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など)、神経損傷 |
足の付け根や太ももが腫れている、赤くなっている、熱を持っている | 感染症、炎症、血栓、筋肉や靭帯の重度な損傷 |
発熱や倦怠感など、全身の症状を伴う | 感染症、炎症性疾患(関節リウマチなど)、悪性腫瘍(リンパ腫など) |
足の付け根に触れるしこりがある | リンパ節の腫れ、ヘルニア、脂肪腫、腫瘍など |
歩くのが困難になった、足を引きずるようになった(跛行) | 股関節の機能障害、強い痛み、骨の異常 |
怪我や転倒の後から痛みが始まった | 骨折、脱臼、靭帯や筋肉の損傷 |
痛みが数週間以上続く、または改善しない | 慢性的な疾患(変形性股関節症、鼠径部痛症候群など)、他の病気が隠れている可能性 |
排尿・排便のコントロールが難しくなった、サドル麻酔(お尻や股間に感覚がない)がある(腰椎椎間板ヘルニアなどの重症化サイン) | 馬尾症候群など、緊急性の高い神経症状。腰椎椎間板ヘルニアなど腰の病気によるものが、稀に関連痛として足の付け根に現れる場合があるため、念のため記載。 |
これらの症状は、単なる筋肉痛や疲労とは異なる、より深刻な原因が隠されているサインかもしれません。特に急激な強い痛みや、発熱、しびれなどを伴う場合は、躊躇せずに救急外来を含めた医療機関を受診してください。
足の付け根の痛みは何科を受診すべき?
足の付け根の痛みで最初に受診を検討すべきは、整形外科です。整形外科は骨、関節、筋肉、靭帯、神経など、運動器の疾患を専門としており、足の付け根の痛みの多くの原因に対応できます。レントゲン、MRI、CTなどの画像検査や、関節エコーなどを用いて、股関節や骨、筋肉などの状態を詳しく調べることができます。
しかし、痛みの原因が整形外科領域以外の病気である可能性も考えられます。
- 鼠径ヘルニアが疑われる場合は、外科や消化器外科を受診することもあります。
- 婦人科系の疾患による関連痛が疑われる場合は、婦人科を受診しましょう。特に女性特有の症状(生理不順、不正出血、下腹部痛など)がある場合は、まず婦人科に相談することも検討できます。
- 尿路系の疾患が疑われる場合は、泌尿器科を受診します。
- リンパ節の腫れで、感染症が疑われる場合は内科、悪性腫瘍が疑われる場合は血液内科や腫瘍内科など、原因によって専門科が異なりますが、まずはかかりつけ医や総合内科で相談し、適切な診療科を紹介してもらうのが良いでしょう。
迷う場合は、まずは整形外科を受診し、必要に応じて他の科を紹介してもらうのが一般的でスムーズな流れと言えます。問診の際に、いつから、どのように痛むのか、他に症状はないかなどを詳しく伝えられるように準備しておくと良いでしょう。
まとめ:足の付け根の痛みに悩んだら専門家へ相談
足の付け根の痛みは、軽微な筋肉の疲労から、早期治療が必要な病気まで、さまざまな原因によって引き起こされます。痛みの場所や特徴、伴う症状は、その原因を探る上で重要なヒントとなります。
この記事では、足の付け根の痛みの一般的な原因や、変形性股関節症、鼠径ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニア、関節リウマチといった具体的な病気、痛む場所別の原因、そして自宅でできるセルフケアや受診の目安について解説しました。
セルフケアは有効な場合もありますが、自己判断は危険を伴うことがあります。特に、急な強い痛み、安静時や夜間の痛み、しびれ、腫れ、発熱などを伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。
足の付け根の痛みは、放置すると悪化したり、日常生活に支障をきたしたりする可能性があります。「たいしたことない」と自己判断せず、痛みが続く場合や不安がある場合は、ぜひ専門家である医師にご相談ください。適切な診断と治療によって、痛みを和らげ、元の健康な生活を取り戻すことができるでしょう。
免責事項:
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や治療を代替するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。