急な高熱とともに、腰や背中にズキズキとした痛みを感じる…それはもしかしたら腎盂腎炎(じんうじんえん)のサインかもしれません。腎盂腎炎は、特に女性に多く見られる細菌感染症で、放置すると重症化することもあるため、正しい知識と早期の対応が非常に重要です。
この記事では、腎盂腎炎とはどのような病気なのか、その原因から特徴的な症状、検査・治療法、そして日常生活でできる予防策まで、網羅的に解説します。ご自身の症状に不安を感じている方や、ご家族が診断された方も、ぜひ参考にしてください。
腎盂腎炎とは?
腎盂腎炎とは、腎臓で作られた尿が集まる「腎盂(じんう)」や「腎杯(じんぱい)」という部分に、細菌が感染して炎症を起こす病気です。
腎臓は背中側の腰の少し上あたりに左右一つずつあり、血液をろ過して老廃物を尿として体外に排出する重要な役割を担っています。腎盂腎炎は、この腎臓の機能に直接影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。多くは急に症状が現れる「急性腎盂腎炎」ですが、炎症が長引いたり繰り返したりすることで「慢性腎盂腎炎」に移行することもあります。
腎盂腎炎の主な原因
腎盂腎炎は、どのようにして起こるのでしょうか。その主な原因について見ていきましょう。
細菌による感染がほとんど
原因のほとんどは、細菌感染です。特に、本来は私たちの腸内に存在する大腸菌が原因となるケースが最も多くを占めます。
尿路感染症からの進行
細菌は、尿の出口である尿道口から体内に侵入し、膀胱へ到達して膀胱炎を引き起こします。この膀胱内の細菌が、さらに尿管をさかのぼって腎盂にまで達することで、腎盂腎炎を発症します。このように、尿路の下流から上流へと感染が広がっていくことを「上行性感染」と呼びます。
腎盂腎炎になりやすい人
以下のような方は、腎盂腎炎になりやすい傾向があります。
- 女性: 男性に比べて尿道が短く、肛門と尿道口が近いため、細菌が侵入しやすい構造になっています。
- 高齢者: 全身の抵抗力が低下していることや、排尿機能の低下などが原因となります。
- 妊娠中の方: 大きくなった子宮が尿管を圧迫し、尿の流れが滞りやすくなるためです。
- 尿路に基礎疾患がある方: 前立腺肥大症、尿路結石、腫瘍などによって尿の流れが妨げられると、細菌が繁殖しやすくなります。
- 糖尿病の方: 感染症に対する抵抗力が弱まっているため、発症しやすくなります。
- トイレを我慢する習慣がある方: 膀胱に尿が溜まっている時間が長いと、細菌が繁殖するリスクが高まります。
腎盂腎炎の症状
腎盂腎炎は、急性か慢性かによって症状の現れ方が異なります。
急性腎盂腎炎の典型的な症状
急性の場合は、比較的はっきりとした症状が現れます。
腰や背中の痛み
左右どちらか片方の腰や背中に、鈍く重い痛みや、叩くと響くような痛み(叩打痛)が生じるのが特徴です。炎症が起きている側の腎臓が痛みます。
高い発熱と悪寒
突然38℃以上の高熱が出ることが多く、ガタガタと体が震えるような強い寒気(悪寒戦慄)を伴います。
膀胱炎のような症状(頻尿、排尿痛など)
腎盂腎炎に先行して、あるいは同時に膀胱炎の症状が現れることも少なくありません。
- トイレが近くなる(頻尿)
- 排尿時に痛みを感じる(排尿痛)
- 排尿後もスッキリしない(残尿感)
- 尿が濁る(尿混濁)
- 血が混じる(血尿)
その他の全身症状(吐き気、倦怠感など)
炎症が全身に及ぶことで、以下のような症状も現れます。
- 吐き気、嘔吐
- 食欲不振
- 全身の倦怠感(だるさ)
- 頭痛、関節痛
慢性腎盂腎炎の症状
慢性腎盂腎炎の場合、急性のような激しい症状はまれです。微熱が続いたり、なんとなく体調が優れなかったり、食欲がなかったりといった、漠然とした症状が続くことが多いです。はっきりとした症状が出にくいため、気づかないうちに腎臓の機能が少しずつ低下してしまう危険性があります。
腎盂腎炎の診断方法
腎盂腎炎が疑われる場合、医療機関では以下のような検査が行われます。
- 問診: どのような症状がいつからあるか、過去の病歴などを詳しく聞きます。
- 身体診察: 背中を軽く叩いて痛みの有無を確認します(叩打痛の確認)。
- 尿検査: 尿中の白血球や細菌の有無を調べ、感染の証拠を探します。尿を培養して原因菌を特定することもあります。
- 血液検査: 体内の炎症の程度(白血球数やCRP値など)や、腎機能の状態を確認します。
- 画像検査: 超音波(エコー)検査やCT検査で、腎臓の腫れや膿のたまり(腎膿瘍)、尿路結石などの異常がないかを確認します。
腎盂腎炎の治療法
腎盂腎炎の治療は、原因となっている細菌をなくすことが基本です。
抗生物質による薬物療法
治療の中心は抗生物質の投与です。原因菌に効果のある抗生物質を点滴または内服薬で用います。尿検査や血液検査の結果をもとに、最も効果的な薬が選択されます。
重症度に応じた治療(入院は必要か?)
治療方針は、症状の重さによって異なります。
重症度 | 治療方針 |
---|---|
軽症~中等症 | 外来治療が可能です。内服の抗生物質で治療を開始します。 |
重症 | 入院治療が必要になります。高熱が続く、食事がとれない、脱水症状がある、合併症のリスクが高い場合などは、点滴による抗生物質の投与と全身管理を行います。 |
腎盂腎炎の治療期間について
治療期間は、一般的に1週間から2週間程度です。しかし、重症度や他の病気の有無によって変わります。途中で症状が良くなったからといって、自己判断で薬をやめてしまうのは絶対に避けてください。処方された抗生物質は、必ず最後まで飲み切ることが大切です。中途半端にやめると、細菌が生き残って再発したり、薬が効きにくい耐性菌が生まれたりする原因になります。
腎盂腎炎治療中の注意点(食事・水分補給)
治療効果を高め、回復を早めるためには、日常生活でのセルフケアも重要です。
推奨される食事や水分補給
- 十分な水分補給: 水やお茶などをこまめに飲み、尿量を増やして細菌を体外に洗い流すことを意識しましょう。1日に1.5リットル以上が目安ですが、医師の指示に従ってください。
- 消化の良い食事: 高熱や吐き気で食欲がない場合は、無理をせず、おかゆやうどん、スープなど消化しやすいものを選びましょう。
- 安静: 治療中は体力を消耗します。仕事や家事は無理せず、できるだけ体を休ませて、睡眠をしっかりとることが回復への近道です。
避けるべきこと
- アルコールや刺激物の摂取: カフェインや香辛料などの刺激物は、膀胱を刺激することがあるため控えましょう。アルコールは脱水を引き起こし、薬の効果に影響を与える可能性もあるため厳禁です。
- 排尿の我慢: 尿意を感じたら、我慢せずにすぐにトイレに行きましょう。
- 体の冷え: 体が冷えると免疫力が低下しやすくなります。服装や室温を調整し、体を温かく保ちましょう。
腎盂腎炎の合併症と後遺症
ほとんどの腎盂腎炎は、適切な治療によって後遺症なく治癒します。しかし、治療が遅れたり、重症化したりした場合には、以下のような合併症を引き起こすことがあります。
- 敗血症: 細菌が血液中に入り込み、全身に広がってしまう状態です。血圧低下など生命に関わる危険性があります。
- 腎膿瘍(じんのうよう): 腎臓の中に膿の塊ができてしまう状態です。
- 慢性腎盂腎炎への移行: 治療が不十分だと炎症が慢性化し、長期的に腎機能が低下する原因となることがあります。
腎盂腎炎の予防策
腎盂腎炎は、日常生活のちょっとした心がけで予防することが可能です。
日常生活でできる予防法
- 水分を十分に摂る: 尿量を確保し、細菌をこまめに洗い流します。
- 排尿を我慢しない: 膀胱に細菌がとどまる時間を短くします。
- 体を清潔に保つ: 特に陰部は清潔にしましょう。排便後は、細菌が尿道口に付着しないよう「前から後ろ」に拭く習慣が大切です。
- 過労やストレスを避ける: 免疫力が低下すると感染しやすくなります。十分な休息とバランスの取れた生活を心がけましょう。
- 体を冷やさない: 血行を良くし、免疫力を保ちます。
早期発見・早期治療の重要性
頻尿や排尿痛といった膀胱炎のサインに気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。膀胱炎の段階でしっかりと治療することが、腎盂腎炎への進行を防ぐ最も効果的な予防策です。
まとめ:腎盂腎炎が疑われる場合は医療機関へ
腎盂腎炎は、高熱や腰痛といったつらい症状を伴う細菌感染症です。治療の基本は抗生物質の投与であり、早期に適切な治療を受ければ、多くは後遺症なく回復します。
もし、この記事で解説したような症状に心当たりがある場合は、自己判断で様子を見たりせず、速やかに内科や泌尿器科などの医療機関を受診してください。特に、高熱や強い痛みを伴う場合は、重症化する前に治療を開始することが何よりも大切です。
本記事は、腎盂腎炎に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。具体的な症状や治療法については、必ず専門の医師にご相談ください。