トイレットペーパーを見て、便が普段より黒いことに気づくと、誰でも不安になるものです。その黒い色は、単に食べたものによる一時的な変化かもしれませんし、注意が必要な病気のサインである可能性も隠れています。特に「タール便」と呼ばれる真っ黒でドロっとした便は、消化管からの出血を示している危険なサインです。
この記事では、便が黒くなる原因を網羅的に解説し、どのような場合に病院へ行くべきか、具体的な判断基準を詳しくお伝えします。ご自身の状態と照らし合わせながら、冷静に読み進めてください。
便が黒い原因とは?考えられる可能性
便が黒くなる原因は、大きく分けて4つ考えられます。心当たりがあるものはないか、確認してみましょう。
病気によるもの(タール便など)
最も注意が必要なのが、病気による出血です。食道、胃、十二指腸といった上部消化管で出血が起こると、血液が胃酸によって酸化され、黒く変色します。これが便に混じって排出されると、「タール便(黒色便)」と呼ばれる真っ黒な便になります。タール便は、胃潰瘍やがんなどの重大な病気のサインである可能性があるため、見過ごすことはできません。
食べ物や飲み物によるもの
黒い便の原因として、食べ物や飲み物の色素が影響しているケースも非常に多くあります。これらは病的なものではないため、過度に心配する必要はありません。
- イカ墨:パスタやパエリアなどで有名です。
- 海苔、ひじき、黒ゴマ:黒い色素を多く含む食品です。
- ブルーベリー、プルーン:ポリフェノールの一種であるアントシアニンを多く含みます。
- 赤ワイン:ポリフェノールを多く含み、便が黒っぽくなることがあります。
- カカオ(チョコレート、ココア):高カカオのものを大量に摂取した場合に考えられます。
これらの食品を食べた後に便が黒くなった場合、1〜2日程度で元の色に戻ることがほとんどです。
薬やサプリメントによるもの
服用している薬やサプリメントの成分によって、便が黒くなることもあります。
- 鉄剤:貧血の治療で処方される鉄剤は、体内で吸収されなかった鉄分が便を黒くする代表的な原因です。
- ビスマス製剤:一部の胃薬や下痢止めに含まれる成分です。
- 竹炭・活性炭:デトックス効果をうたうサプリメントなどに含まれていることがあります。
薬を服用し始めてから便の色が変わった場合は、その薬が原因である可能性が高いでしょう。心配な場合は、処方した医師や薬剤師に確認してください。
便秘によるもの
便秘になると、便が腸内に長時間とどまります。その間に便の中のビリルビンという色素の酸化が進み、色が濃くなって黒っぽく見えることがあります。この場合は、便秘が解消されると便の色も元に戻ることが多いです。
特に注意が必要な「タール便」とは?
便が黒い原因の中で、最も警戒すべきが「タール便」です。これは消化管からの出血を示唆する重要なサインです。
タール便の特徴(色、性状、匂い)
食べ物による黒い便とタール便は、見た目や匂いで見分けることができる場合があります。
特徴 | タール便(黒色便) | 食べ物が原因の黒い便 |
---|---|---|
色 | 墨汁のような真っ黒、光沢がある | こげ茶色や緑がかった黒 |
性状 | 粘り気が強く、ドロドロ・ベトベトしている | 通常の便の硬さ |
匂い | 鉄臭い、生臭い、独特の強い悪臭 | 通常の便の匂い |
タール便は、道路工事で使うアスファルトの「タール」に似ていることから、その名前が付けられました。もし便がこのような特徴に当てはまる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
なぜタール便になるのか?(上部消化管出血との関連)
タール便は、食道・胃・十二指腸といった上部消化管で出血が起きているサインです。出血した血液中のヘモグロビンが胃酸に触れることで、黒い色のヘマチンという物質に変化します。これが便に混ざることで、便全体が黒くなるのです。
出血量が50〜100ml以上になると、肉眼で確認できる黒い便になると言われています。
黒い便から考えられる主な病気
タール便が見られた場合に考えられる、代表的な上部消化管の病気について解説します。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
ストレスやピロリ菌感染、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが原因で、胃や十二指腸の粘膜が深く傷つき、出血します。みぞおちの痛みを伴うことが多く、タール便の最も一般的な原因の一つです。
胃がん・食道がん
がん組織がもろくなって崩れたり、血管が破れたりすることで出血し、タール便の原因となることがあります。初期段階では自覚症状がないことも多く、黒い便が病気の発見のきっかけになることも少なくありません。
その他の消化器系の病気
- 急性胃粘膜病変(AGML):強いストレスやアルコールの多飲、薬の副作用などで胃の粘膜に急性のびらんや潰瘍ができ、出血します。
- 食道静脈瘤破裂:主に肝硬変が原因で食道の静脈がこぶのように腫れ(静脈瘤)、それが破裂して大量に出血します。命に関わる危険な状態です。
- マロリー・ワイス症候群:激しい嘔吐を繰り返した際に、食道と胃の境目付近の粘膜が裂けて出血します。
黒い便が下痢を伴う場合
黒い便と同時に下痢症状がある場合、注意が必要です。消化管内で出血が起こると、血液が腸管を刺激して腸の動きが活発になり、下痢を引き起こすことがあります。また、細菌やウイルスによる感染性胃腸炎で消化管粘膜が傷つき、黒っぽい下痢便が出ることもあります。
いずれにしても、黒い下痢便は体からの異常サインである可能性が高いため、早めに医師に相談しましょう。
黒い便が一回だけの場合
「黒い便が出たけれど、一回だけで翌日には普通の色に戻った」というケースもあるでしょう。
この場合、前日に食べたイカ墨や海苔など、食べ物が原因である可能性が考えられます。特定の食べ物に心当たりがあり、腹痛やめまいなどの他の症状がなければ、少し様子を見ても良いかもしれません。
しかし、たとえ一回だけでも、タール便のような特徴的な便であったり、体調に少しでも不安があったりする場合は、念のため医療機関を受診することをおすすめします。
すぐに病院に行くべき目安・判断基準
黒い便に加えて、以下のような症状が見られる場合は、緊急性が高い可能性があります。すぐに消化器内科や内科、救急外来を受診してください。
- 便が墨汁のように真っ黒で、ドロドロしている(タール便が疑われる)
- 腹痛(特にみぞおちの痛み)、胸やけ、吐き気、嘔吐がある
- めまい、立ちくらみ、ふらつきがある(貧血のサイン)
- 顔色が悪い、動悸や息切れがする
- 冷や汗が出る、意識が遠のく感じがする
- 黒い便が繰り返し続く
これらの症状は、消化管でまとまった量の出血が起きているサインかもしれません。自己判断せず、速やかに専門医の診察を受けましょう。
黒い便で受診した場合の検査・診断
病院では、まず詳しい問診(いつからか、食事内容、服用中の薬、他に症状はないかなど)が行われます。その後、必要に応じて以下のような検査が行われます。
- 便検査(便潜血検査):便に血液が混じっているかを化学的に調べる検査です。
- 血液検査:出血による貧血の程度や、肝機能などを調べます。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):口や鼻からカメラを挿入し、食道・胃・十二指腸を直接観察します。出血の原因や場所を特定するのに最も確実な検査であり、必要に応じてその場で止血処置や組織の採取(生検)を行うこともできます。
まとめ:便が黒い時は自己判断せず医療機関へ
便が黒くなる原因は、無害な食べ物から命に関わる病気まで様々です。一時的なものであれば問題ないケースも多いですが、「タール便」と呼ばれる真っ黒でドロドロした便は、消化管からの出血を示す危険なサインです。
腹痛やめまい、貧血症状などを伴う場合はもちろんのこと、便の状態に少しでも「いつもと違う」「おかしい」と感じたら、決して自己判断で放置せず、まずは消化器内科などの医療機関を受診してください。早期発見・早期治療が、あなた自身の健康を守ることに繋がります。
免責事項
本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。健康上の問題については、必ず専門の医療機関にご相談ください。