そのだるさ、めまい「低血圧」かも?目安と原因・改善方法

低血圧は、健康診断などで指摘されたり、日常生活でめまいや立ちくらみを経験したりすることで気になる方も多い状態です。しかし、具体的な基準や、どのような場合に注意が必要なのか、正しく理解している方は少ないかもしれません。

この記事では、低血圧の正確な定義や主な症状、様々な原因、そして危険なケースについて医師の視点から分かりやすく解説します。さらに、自宅でできる改善方法や食事・栄養の工夫、サプリメントの考え方まで、低血圧と上手に付き合うための具体的な情報をお届けします。低血圧でお悩みの方、自分の血圧について詳しく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

低血圧の定義と基準

血圧とは、心臓が血液を全身に送り出すときに血管にかかる圧力のことです。この圧力が通常よりも低い状態を「低血圧」と呼びます。高血圧には明確な診断基準がありますが、実は低血圧には高血圧ほど明確な統一基準があるわけではありません。しかし、一般的にはいくつかの目安となる数値や考え方があります。

低血圧の定義(WHO基準など)

世界保健機関(WHO)などでは、一般的に収縮期血圧(上の血圧)が90mmHg未満、かつ拡張期血圧(下の血圧)が60mmHg未満の状態を低血圧の一つの目安としています。

ただし、この数値だけをもって「低血圧症」と診断されるわけではありません。重要なのは、血圧が低いことによって何らかの自覚症状(めまい、立ちくらみ、倦怠感など)を伴っているかどうかです。血圧が基準値より低くても、全く症状がなく健康に生活している方も多くいらっしゃいます。このような場合は、特に治療の必要がない「体質性低血圧」や「本態性低血圧」と呼ばれることが一般的です。

低血圧の数値基準(収縮期・拡張期血圧)

改めて、低血圧の数値基準の目安を表で示します。

血圧の種類 数値の目安 補足
収縮期血圧(上) 90mmHg未満 心臓が収縮して血液を送り出すときの血圧
拡張期血圧(下) 60mmHg未満 心臓が拡張して血液を取り込むときの血圧

この数値はあくまで目安であり、症状の有無が診断や治療の必要性を判断する上で非常に重要であることを覚えておきましょう。健康診断でこの基準より低い数値を指摘されても、普段から特に症状がない場合は過度に心配する必要はありません。

女性の低血圧基準について

「女性は男性よりも低血圧が多い」というイメージがあるかもしれません。実際に、体質的に血圧が低めな方や、月経、妊娠、貧血などが原因で一時的に血圧が下がりやすい女性は多くいらっしゃいます。

しかし、医学的に女性に特有の低血圧基準というものが存在するわけではありません。男性と同じく、収縮期血圧90mmHg未満かつ拡張期血圧60mmHg未満が一つの目安となります。

女性の場合、ホルモンバランスの変化や貧血によって、低血圧に伴う症状(めまい、立ちくらみ、倦怠感など)が出やすい傾向があるため、「女性に低血圧が多い」「女性の方が症状が出やすい」と感じられるのかもしれません。女性特有の原因については、後述の「低血圧の原因」セクションで詳しく解説します。

低血圧の主な症状

低血圧の症状は多岐にわたり、個人差が非常に大きいのが特徴です。血圧が低くても全く症状がない人もいれば、わずかな数値の変動でも強い症状に悩まされる人もいます。ここでは、低血圧でよく見られる代表的な症状をご紹介します。

低血圧でよく見られる症状(めまい・立ちくらみなど)

低血圧に伴う代表的な症状は、脳への血流が一過性に不足することで起こるものです。

  • めまい・立ちくらみ: 座っていたり寝ていたりした状態から急に立ち上がったときに、目の前が暗くなったり、ふらついたりする症状です。これは、重力によって血液が下半身に移動し、脳への血流が一時的に減少するために起こります(起立性低血圧の典型的な症状)。
  • 倦怠感・疲労感: 全身の血行が悪くなることで、体に十分な酸素や栄養が行き渡らず、だるさや疲れを感じやすくなります。
  • 頭痛・肩こり: 首や肩周りの血行不良が原因で起こることがあります。
  • 吐き気・食欲不振: 消化器系の血行が悪くなることで、胃腸の動きが鈍くなり、これらの症状が出ることがあります。
  • 動悸・息切れ: 血圧が低い状態を補おうと、心臓が拍動数を増やして全身に血液を送ろうとするために起こることがあります。
  • 手足の冷え: 末梢血管の血流が悪くなるために起こります。
  • 朝起きるのが辛い: 特に午前中に症状が出やすい傾向があります。
  • 集中力の低下: 脳への血流不足によって、頭がぼんやりしたり、集中力が続かなかったりすることがあります。

これらの症状は、他の病気でも見られることがあるため、自己判断せずに症状が続く場合は医療機関に相談することが重要です。

血圧の数値と症状の関連性

前述の通り、低血圧の数値そのものと症状の重さは必ずしも相関しません。

  • 血圧は低いが症状はない: これを「体質性低血圧」または「本態性低血圧」と呼びます。体質的に血圧が低くても、体に順応性があり、症状が出ない場合は特に心配いりません。健康上の問題となることはほとんどなく、治療の必要もありません。
  • 血圧はそれほど低くないのに症状が強い: 血圧の数値は目安の範囲内であっても、普段のその人にとっての「正常値」から少しでも下がると、症状を感じやすい体質の方もいます。また、血圧の変動が大きい場合(特に立ち上がったときなど)に症状が出やすいこともあります。
  • 血圧が低い上に症状が強い: これは、血圧の低さが体の機能に影響を与えている可能性が高い状態です。何らかの原因(病気や薬剤など)が隠れている場合もあり、原因を特定し、症状を改善するための対処が必要となります。

このように、低血圧を評価する際には、数値だけでなく、どのような症状が、どのような状況で、どのくらいの頻度で出現するかという点が非常に重要になります。

血圧が90以下だとどうなる?

血圧が収縮期90mmHg以下、拡張期60mmHg以下といった低い数値を示すこと自体は、症状がなければ必ずしも問題ではありません。体質的に血圧が低い方もいらっしゃいます。

しかし、この数値よりもさらに低くなったり、急激に血圧が低下したりした場合で、かつ症状を伴う場合は注意が必要です。

例えば、

  • 強いめまいや立ちくらみ、意識が遠のく、失神: 脳への血流が著しく低下しているサインです。転倒による怪我のリスクもあります。
  • 全身の倦怠感が強く、日常生活に支障が出ている: 持続的な血行不良が体の機能に影響を与えている可能性があります。
  • 他の症状(胸痛、息苦しさ、激しい腹痛など)を伴っている: 低血圧の原因として、心臓病や消化管出血など、緊急性の高い病気が隠れている可能性も考えられます。

血圧が90以下でも無症状であれば、多くは経過観察で大丈夫ですが、数値が低いことに加えて、上記のような強い症状や他の異常な症状が見られる場合は、「どこからが危険?」という判断が必要になり、医療機関への受診を強くお勧めします。特に、普段は正常な血圧なのに急に90以下になった場合は、何らかの原因がある可能性が高いです。

低血圧の原因

低血圧には様々な原因があり、大きくいくつかの種類に分けられます。自分の低血圧がどのタイプに当てはまるかを知ることは、適切な対処法を見つける上で役立ちます。

低血圧の種類とそれぞれの原因

低血圧は主に以下の4種類に分類されます。

  1. 本態性低血圧(体質性低血圧):
    • 原因: 明確な原因が見つからないもの。体質的な要因(遺伝など)や痩せ型の人に多い傾向があります。多くの場合、症状を伴わないか、伴っても比較的軽い症状です。
  2. 症候性低血圧(二次性低血圧):
    • 原因: 他の病気や、服用している薬剤などが原因で起こるもの。原因となっている病気や薬剤を特定し、対処することが重要です。
  3. 起立性低血圧:
    • 原因: 座っているまたは寝ている状態から立ち上がったときに、収縮期血圧が20mmHg以上または拡張期血圧が10mmHg以上低下するもの。自律神経の調節機能の乱れ、脱水、特定の薬剤(降圧薬、精神科の薬など)、パーキンソン病などの神経疾患、糖尿病性神経障害などが原因となります。
  4. 食後低血圧:
    • 原因: 食事(特に炭水化物が多い食事)を摂取した後に血圧が低下するもの。食後に消化器への血流が増えることで、全身を巡る血液量が一時的に相対的に減少し、血圧が下がると考えられています。高齢者や自律神経の調節機能が低下している人に見られやすいです。

これらの種類について、さらに詳しく見ていきましょう。

本態性低血圧

「一次性低血圧」とも呼ばれます。健康診断などで血圧が低いことを指摘された方の多くは、このタイプに当てはまります。

  • 特徴: 特定の病気が原因ではなく、体質的に血圧が低い状態です。遺伝的な要因が関わっていると考えられていますが、詳細なメカニズムは不明な点が多いです。痩せ型の女性に比較的多く見られる傾向があります。
  • 症状: 症状を全く伴わないことが多いですが、人によってはめまい、立ちくらみ、倦怠感、朝起きられないなどの症状を伴うことがあります。
  • 治療: 症状がなければ、原則として治療の必要はありません。症状がある場合も、まず生活習慣の改善(後述)が中心となります。

症候性低血圧

「二次性低血圧」とも呼ばれます。低血圧の原因が、他の病気や薬剤によって引き起こされているタイプです。

  • 原因となる病気:
    • 心臓病: 心不全、不整脈、心筋梗塞など、心臓から血液を送り出すポンプ機能が低下する病気。
    • 内分泌疾患: 甲状腺機能低下症、副腎皮質機能低下症(アジソン病)など、血圧調節に関わるホルモンの分泌異常。
    • 神経疾患: パーキンソン病、自律神経失調症など、血圧を調節する自律神経の働きが悪くなる病気。
    • 感染症: 重症感染症(敗血症など)では、血管が拡張したり、体液が失われたりして血圧が急激に低下することがあります(ショック状態)。
    • 出血: 消化管出血や外傷などによる大量出血。
    • アレルギー反応: 重症アレルギー(アナフィラキシー)。
  • 原因となる薬剤:
    • 降圧薬: 血圧を下げるために処方される薬。用量が多すぎたり、体質に合わなかったりすると低血圧を引き起こすことがあります。
    • 精神安定剤、抗うつ薬: 自律神経に影響を与え、血圧を下げる作用があるものがあります。
    • 利尿薬: 体内の水分を排出することで血圧を下げる薬ですが、脱水を引き起こし低血圧になることがあります。
    • 血管拡張薬: 心臓病などに使用される薬。
  • 治療: 原因となっている病気の治療や、薬剤の調整(減量や中止、変更)が中心となります。原因を取り除くことで、低血圧も改善されることが多いです。

起立性低血圧

立ち上がったときに血圧が急激に低下し、めまいや立ちくらみ、ひどい場合は失神などを引き起こすタイプの低血圧です。

  • メカニズム: 普段、座っているまたは寝ている状態から立ち上がると、重力で血液が下半身に移動し、心臓に戻る血液量が一時的に減少します。通常は自律神経が働き、心拍数を増やしたり血管を収縮させたりして、脳への血流が維持されるように血圧を調節します。しかし、自律神経の働きが悪い場合や、循環血液量が不足している場合、この調節がうまくいかず、立ち上がったときに血圧が大きく低下してしまいます。
  • 主な原因:
    • 自律神経の機能低下: 高齢による機能低下、パーキンソン病、糖尿病性神経障害、多系統萎縮症などの神経疾患。
    • 脱水: 発熱、下痢、嘔吐、水分摂取不足など。
    • 薬剤: 降圧薬(特にαブロッカー)、利尿薬、抗うつ薬、精神安定剤、勃起不全治療薬など。
    • 長期間寝たきり: 筋力が低下し、血管の収縮力が弱まるため。
  • 症状: 立ち上がった瞬間に症状が出ることが多いですが、数分間立っていると症状が出る場合もあります。横になったり座ったりすると症状は改善します。
  • 治療: まず原因となっている病気や薬剤の特定・対処を行います。生活習慣の改善(急な動きを避ける、水分・塩分摂取、弾性ストッキングなど)も有効です。症状が強い場合は、血圧を上げる薬が処方されることもあります。

食後低血圧

食事、特に炭水化物(糖質)を多く含む食事を摂取した後、通常15分から2時間以内に血圧が低下するタイプの低血圧です。

  • メカニズム: 食事をすると、消化のために胃腸への血流が増加します。通常は、他の部位の血管を収縮させたり心拍数を増やしたりすることで、全身の血圧が一定に保たれます。しかし、自律神経の調節機能が低下していると、この代償機構が十分に働かず、胃腸に血流が集中した分、脳など他の部位への血流が相対的に減少し、血圧が下がります。
  • 主な原因: 高齢者に多く見られますが、糖尿病、パーキンソン病、高血圧で降圧薬を服用している人などにも起こりやすいとされています。
  • 症状: 食事後、めまい、立ちくらみ、倦怠感、吐き気、眠気などが出現します。ひどい場合は失神することもあります。
  • 治療: 食事の工夫が最も重要です。一度に大量に食べず少量頻回にする、炭水化物(特に糖質)を控えめにする、食事中に水分を取りすぎない、食後すぐに激しい運動や入浴を避ける、食後に横になるなど。症状が強い場合は、特定の薬剤が効果的なこともあります。

女性に多い低血圧の原因

女性は男性に比べて、ホルモンバランスの変化や特定の生理的なイベントが原因で低血圧になりやすい側面があります。

  • 月経: 月経前や月経中は、ホルモンバランスが変化したり、貧血傾向になったりすることで、めまいや立ちくらみ、倦怠感といった低血圧様の症状が出やすい方がいます。
  • 妊娠: 妊娠初期は、ホルモンの影響で血管が拡張しやすくなったり、循環血液量が増加しても全身への血流分布が変わったりすることで、血圧が低下する傾向があります。多くの場合は妊娠中期以降に安定しますが、症状が強い場合は注意が必要です。
  • 貧血: 特に鉄欠乏性貧血は女性に多く見られます。貧血があると、酸素を運ぶ赤血球が少なくなるため、体を動かした際に心臓がより多くの血液を送ろうとして心拍数が増加したり、全身の血流が不足しがちになったりすることで、低血圧やそれに伴う症状(めまい、立ちくらみ、息切れ、倦怠感など)が現れやすくなります。
  • 無理なダイエット: 極端な食事制限や栄養不足は、体全体の機能低下を招き、低血圧の原因となることがあります。

女性の低血圧は、これらの要因が単独または複合的に関わっていることが多いです。特に症状が強い場合や、貧血が疑われる場合は、医療機関で相談することをお勧めします。

低血圧はどこからが危険?注意すべきケース

ほとんどの低血圧は健康上の問題を引き起こしませんが、中には医療的な介入が必要な場合や、危険な状態を示唆しているケースも存在します。ここでは、「これは少し危ないかもしれない」「受診を検討すべき」といった注意すべきサインについて解説します。

受診を検討すべき「やばい」症状

単に血圧の数値が低いだけでなく、以下のような症状や状況が見られる場合は、速やかに医療機関を受診することを強くお勧めします。「やばい」と感じる症状は、体が助けを求めているサインかもしれません。

  • 意識が遠のく、失神する: 脳への血流が瞬間的に著しく低下した状態です。転倒による外傷のリスクがあるだけでなく、不整脈など重篤な心臓病が原因である可能性も否定できません。
  • 座っていても、横になっていてもめまいや吐き気が強い: 安静にしていても症状が改善しない場合、低血圧以外の原因や、全身状態の悪化が考えられます。
  • 胸の痛みや圧迫感、息切れを伴う: 心臓から十分な血液が送り出せていない可能性があります。狭心症や心筋梗塞など、緊急性の高い心臓病を示唆しているかもしれません。
  • 激しい腹痛、下血(黒い便や鮮血)を伴う: 消化管出血が原因で循環血液量が減少し、低血圧になっている可能性があります。
  • 高熱を伴う: 感染症によって血圧が低下している可能性があります(敗血症性ショックなど)。
  • 普段の血圧が正常なのに、急激に低血圧になった: 何か突発的な原因(アレルギー反応、薬剤の副作用、急性疾患など)が発生した可能性が高いです。
  • 脱水症状が顕著(口の渇き、尿量の減少、皮膚の乾燥など): 重度の脱水は循環血液量の減少を引き起こし、危険な低血圧につながります。
  • 新しい薬を飲み始めてから症状が出た: 薬剤性の低血圧が強く疑われます。

これらの症状は、単なる体質的な低血圧とは異なり、 underlying cause(根本原因)が存在している可能性が高いため、専門医による診断が必要です。

隠れた病気が原因の場合

症候性低血圧で述べたように、低血圧が他の病気のサインとして現れることがあります。特に、以下のような病気が低血圧の原因として隠れていることがあります。

  • 心臓の病気: 心不全、不整脈(特に徐脈)、心筋梗塞、弁膜症など。心臓のポンプ機能が低下すると、全身に十分な血液を送れなくなり、血圧が低下します。
  • ホルモンの病気: 副腎皮質機能低下症(アジソン病)、甲状腺機能低下症など。これらの病気では、血圧を維持するために必要なホルモンが十分に分泌されません。
  • 神経系の病気: パーキンソン病、多系統萎縮症、自律神経失調症など。自律神経の機能が障害されると、血圧の調節がうまくいかなくなります。
  • 重症感染症(敗血症): 体全体に感染が広がり、血管が拡張したり、臓器の機能が低下したりして血圧が急激に低下する、非常に危険な状態です。
  • 消化管出血などによる大量出血: 体内の血液量が急激に減少するため、血圧が低下します。
  • 重症アレルギー反応(アナフィラキシー): アレルゲンに対する体の過剰な反応により、全身の血管が拡張し、血圧が急激に低下します。

これらの病気は、低血圧だけでなく、それぞれの病気特有の症状を伴うことが一般的です。低血圧以外にも気になる症状がある場合は、放置せずに医療機関を受診し、原因を調べてもらうことが大切です。早期発見・早期治療が、病気の進行を防ぐために重要となります。

低血圧の治し方・改善方法

症状を伴う低血圧の場合、まずは生活習慣の改善から試みるのが一般的です。特に本態性低血圧や、起立性低血圧、食後低血圧の一部は、生活習慣の工夫で症状が和らぐことが期待できます。原因となる病気がある場合は、その病気の治療が優先されます。

生活習慣による改善

自宅で手軽に始められる、低血圧改善のための生活習慣のポイントをご紹介します。

食事療法で低血圧を改善

食生活の見直しは、低血圧の症状緩和に有効な方法の一つです。

  • バランスの取れた食事: 特定の食品に偏らず、主食・主菜・副菜をバランス良く摂りましょう。特に、血液を作る上で重要なタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)や鉄分(レバー、ほうれん草、貝類など)、ビタミンB群(レバー、魚、豆類、穀類)を意識的に摂取することが勧められます。
  • 規則正しい食事時間: 毎日ほぼ決まった時間に食事をすることで、体のリズムが整いやすくなります。欠食は避けましょう。
  • 水分・塩分摂取: 循環血液量を維持するために、十分な水分摂取が重要です。特に夏場や運動時、脱水しやすい状況では意識して水分を摂りましょう。また、適度な塩分摂取も血圧維持に役立ちます。ただし、高血圧が心配な方や腎臓病など塩分制限が必要な方は、医師に相談の上、適切な量を摂取してください。汁物や味噌汁なども手軽に水分と塩分を補給できる方法です。
  • カフェイン: コーヒーや紅茶などに含まれるカフェインは、一時的に血圧を上げる効果があるため、症状が出やすい朝などに適量飲むと効果を感じる人もいます。ただし、摂りすぎは睡眠を妨げたり、動悸を引き起こしたりする場合があるため注意が必要です。
  • 食後低血圧の対策: 食後低血圧の場合は、一度に大量に食べず、少量頻回に食事を分けるのが有効です。特に炭水化物(糖質)を控えめにする食事中に大量の水分を摂らない食後すぐに激しい運動や入浴を避けるといった工夫が症状の軽減につながります。食後に少し横になるのも良いでしょう。

適切な運動習慣

適度な運動は、全身の血行を促進し、自律神経の働きを整えるのに役立ちます。

  • ウォーキング、軽いジョギング、水泳などの有酸素運動: 無理のない範囲で、毎日または週に数回継続して行いましょう。血行が良くなり、全身の酸素供給が改善されます。
  • 筋力トレーニング: 特に下半身の筋肉を鍛えることは、血液を心臓に戻すポンプ機能を助けるため、起立性低血圧の改善に有効です。スクワットやつま先立ちなどがおすすめです。
  • 注意点: 運動中に気分が悪くなった場合はすぐに中止してください。また、急激な動きは血圧を変動させやすいため、運動前後のストレッチやウォーミングアップを丁寧に行いましょう。起立性低血圧がある場合は、運動後に急に立ち上がる動作にも注意が必要です。

睡眠の質を高める工夫

睡眠不足や不規則な睡眠は、自律神経のバランスを崩し、低血圧の症状を悪化させる可能性があります。

  • 十分な睡眠時間を確保: 個人差がありますが、一般的に7〜8時間の睡眠が推奨されます。
  • 規則正しい生活リズム: 毎日ほぼ同じ時間に寝て、同じ時間に起きるように心がけましょう。休日の寝だめは体のリズムを崩す原因になることがあります。
  • 快適な睡眠環境: 寝室の温度、湿度、明るさ、騒音などに配慮し、快適な睡眠環境を整えましょう。
  • 寝る前の工夫: 寝る直前のカフェインやアルコール摂取、喫煙、スマートフォンの操作などは控えましょう。軽いストレッチやぬるめのお風呂に浸かるなど、リラックスできる習慣を取り入れるのがおすすめです。

薬物療法について

生活習慣の改善で症状が十分に改善しない場合や、日常生活に大きな支障が出ている重度の低血圧(特に症候性低血圧や重度の起立性低血圧)に対しては、医師の判断により薬物療法が検討されることがあります。

ただし、低血圧そのものを「治す」というよりは、症状を和らげるための対症療法として薬が使われることが一般的です。使用される薬の種類は、低血圧の原因や症状によって異なります。

  • 交感神経刺激薬: 血圧を上げる作用のある薬。主に起立性低血圧に対して用いられることがあります。
  • フルドロコルチゾン(ミネラルコルチコイド): 体内のナトリウムと水分を保持し、循環血液量を増やすことで血圧を上げる薬。重度の低血圧に対して用いられることがあります。
  • 原因疾患の治療薬: 症候性低血圧の場合は、原因となっている病気(心疾患、内分泌疾患など)に対する治療薬が処方されます。

薬物療法は必ず医師の診断と処方のもとで行う必要があります。自己判断で市販薬やサプリメントで血圧を上げようとしたり、他人に処方された薬を使用したりすることは危険です。服用中の薬がある場合は、低血圧の原因となっている可能性もあるため、必ず医師に相談しましょう。

低血圧と食事・栄養

低血圧の症状緩和や体調維持のためには、日々の食事が非常に重要です。積極的に摂りたい食品や栄養素、逆に避けた方が良い食品について解説します。

低血圧におすすめの食品・栄養素

低血圧の方におすすめしたい食事や栄養素は、全身の血行を良くしたり、血液を作ったり、体のエネルギーを高めたりする効果が期待できるものです。

栄養素・食品群 なぜおすすめ? 具体的な食品例
タンパク質 血液や筋肉を作る重要な材料。全身の組織を健康に保ち、体力を維持する。 肉類(特に赤身)、魚介類、卵、大豆製品(豆腐、納豆、味噌など)、乳製品
鉄分 赤血球のヘモグロビンの材料。酸素を全身に運ぶ役割。貧血予防に不可欠。 レバー、赤身肉、マグロ、カツオ、あさり、しじみ、ほうれん草、小松菜、ひじき、大豆
ビタミンB群 エネルギー代謝に関与し、全身の細胞の働きを助ける。特にビタミンB12や葉酸は造血にも重要。 豚肉、レバー、魚類、卵、牛乳、大豆製品、穀類(玄米など)、緑黄色野菜
ナトリウム(塩分) 循環血液量を維持するために必要。 塩、味噌、醤油、漬物、加工食品など(摂りすぎは高血圧のリスクも考慮)
水分 循環血液量を維持するために最も重要。 水、お茶、スープ、味噌汁など
カフェイン 一時的に血管を収縮させ血圧を上げる作用。 コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンク(適量に留める)
その他 生姜(血行促進)、根菜類(体を温める)など

バランスの取れた食事を基本とし、これらの食品を意識して取り入れるようにしましょう。特に朝食は、一日の始まりに体を活性化させるために重要です。

低血圧の人が避けるべき食事・食べ物

特定の食品が直接的に低血圧を引き起こすわけではありませんが、症状を悪化させたり、体への負担になったりする可能性があるものがあります。

  • 過度なアルコール摂取: アルコールは血管を拡張させる作用があるため、一時的に血圧を下げることがあります。特に飲酒後に立ち上がると、起立性低血圧を起こしやすくなります。適量に留めることが重要です。
  • 極端な食事制限(ダイエット): カロリーや特定の栄養素(特にタンパク質、鉄分、ビタミン)が不足すると、体全体の機能が低下し、低血圧や貧血を招きやすくなります。健康的なダイエットを心がけましょう。
  • 食後低血圧の場合の注意点:
    • 大量の炭水化物(特に糖質): 食後の急激な血糖値上昇は、インスリン分泌を促し、血管を拡張させる可能性があります。パン、白米、麺類、甘いお菓子、ジュースなどを一度に大量に摂取するのは避けましょう。
    • 食事中の多量の水分: 食事中に大量の水分を摂ると、胃が膨満し、消化器系への血流がさらに増加しやすくなると考えられています。
  • 体を冷やす食べ物: 東洋医学的な考え方ですが、体を冷やすとされる夏野菜や果物、冷たい飲み物などを過剰に摂ると、血行が悪くなりやすいという考え方もあります。体質に合わせて注意してみましょう。

食事は、単に栄養を摂るだけでなく、体を温め、血行を促進するようなものを意識的に選ぶことも大切です。温かいスープや飲み物、生姜や根菜類などを献立に取り入れてみましょう。

低血圧とサプリメント

低血圧に対して、様々なサプリメントが注目されることがあります。しかし、サプリメントはあくまで「栄養補助食品」であり、病気を治療する「医薬品」とは異なります。サプリメントを利用する際の注意点について解説します。

低血圧ケアで注目されるサプリメント

低血圧の症状緩和や体調サポートを目的として、以下のような成分を含むサプリメントが利用されることがあります。

  • ビタミンB群: エネルギー代謝を助け、体の機能をサポートします。特にビタミンB12や葉酸は造血に関わるため、貧血傾向のある低血圧の方に注目されることがあります。
  • 鉄分: 鉄欠乏性貧血による低血圧の可能性がある場合に利用されます。ただし、鉄分の過剰摂取は体に負担をかける可能性があるため、医師や薬剤師に相談の上、適切な量を摂取することが重要です。
  • アルギニン: アミノ酸の一種で、血管を広げる一酸化窒素の生成に関わるとされています。血行促進効果を期待して利用されることがあります。
  • カフェイン: 一時的に血圧を上げる効果があるため、眠気やだるさを軽減する目的で利用されることがあります。サプリメントとして摂取する場合は、含有量に注意が必要です。
  • その他: オタネニンジン(高麗人参)やエゾウコギなどの滋養強壮成分、ハーブ類(ローズマリーなど血行促進効果が期待されるもの)などが含まれるサプリメントもあります。

サプリメント利用時の注意点

低血圧に対してサプリメントを利用する際には、以下の点に注意が必要です。

  • 効果には個人差がある: サプリメントの効果は、体質や状態によって大きく異なります。期待した効果が得られないこともあります。
  • 治療薬ではない: サプリメントは病気を治すためのものではありません。症状が辛い場合や、低血圧の原因として病気が疑われる場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けることが最優先です。
  • 過剰摂取のリスク: 特定の栄養素を過剰に摂取すると、体に負担をかけたり、他の栄養素の吸収を妨げたり、健康被害を引き起こしたりする可能性があります。製品に記載された用量を守りましょう。
  • 他の薬との相互作用: 服用中の薬がある場合は、サプリメントとの飲み合わせに注意が必要です。思わぬ相互作用により、薬の効果が強まったり弱まったり、副作用が出やすくなったりすることがあります。必ず医師や薬剤師に相談してから利用しましょう。
  • 品質のばらつき: サプリメントの品質は製品によって異なります。信頼できるメーカーのものを選びましょう。

サプリメントは、あくまで日々の食事で不足しがちな栄養素を補うためのものです。低血圧の症状に対してサプリメントを検討する場合は、自己判断せず、一度医師や薬剤師に相談してみることをお勧めします。症状の原因を正しく把握し、適切なアドバイスを受けることが大切です。

低血圧と向き合うために:まとめ

低血圧は、血圧の数値が低い状態を指しますが、数値が低くても症状がない「体質性低血圧」の場合は、多くの場合健康上の問題はありません。

しかし、めまい、立ちくらみ、倦怠感などの症状を伴う場合や、血圧の低下が他の病気や薬剤によって引き起こされている「症候性低血圧」の場合は、適切な対処が必要です。

特に、失神や強い胸痛、息切れ、激しい腹痛などを伴う急激な低血圧は、危険なサインである可能性があります。これらの症状が見られる場合は、迷わず医療機関を受診してください。

症状を伴う低血圧に対しては、まず生活習慣の改善が基本となります。

  • 食事: バランスの取れた食事、水分・塩分摂取、食後低血圧の方は食事の工夫を。
  • 運動: 適度な有酸素運動や下半身の筋力トレーニング。
  • 睡眠: 十分で質の高い睡眠。
  • その他: 急な体位変換を避ける、弾性ストッキングの活用など。

これらの生活習慣の見直しで症状が改善しない場合や、重度の場合は、医師の判断で薬物療法が検討されることもありますが、必ず医師の指導のもとで行ってください。

サプリメントは栄養補助として役立つこともありますが、治療薬ではなく、効果には個人差があり、注意点もあります。利用を検討する際は医師や薬剤師に相談しましょう。

低血圧は個人差が大きく、一律の対処法があるわけではありません。ご自身の血圧や症状、体質を理解し、必要に応じて専門家(医師や薬剤師)の力を借りながら、上手に付き合っていくことが大切です。この情報が、低血圧に対する理解を深め、より健康的な生活を送るための一助となれば幸いです。

【免責事項】
本記事は、低血圧に関する一般的な情報提供を目的としており、個々の状態に対する医学的なアドバイスや診断、治療を推奨するものではありません。特定の症状がある場合や、低血圧についてご心配な場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果に関しても、当サイトは責任を負いかねます。

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