蜂窩織炎とは?症状・原因・治療法をわかりやすく解説

蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、皮膚の深い部分や皮下組織に細菌が感染して炎症を起こす病気です。
適切な治療を行わないと急速に悪化したり、重篤な合併症を引き起こしたりする可能性があるため、早期発見と早期治療が非常に重要になります。
この記事では、蜂窩織炎の原因、症状、診断、治療法、そして予防策について、医師監修のもと詳しく解説します。
皮膚に気になる症状がある方は、ぜひ参考にしてください。

目次

蜂窩織炎とは?定義と特徴

蜂窩織炎は、皮膚の真皮深層から皮下脂肪組織にかけて広がる細菌性の感染症です。
主にレンサ球菌やブドウ球菌といった細菌が原因となります。
皮膚が赤く腫れ、強い痛みを伴うのが特徴です。
しばしば発熱などの全身症状を伴うこともあります。
体中のどの部位にも発生する可能性がありますが、特に足やすねに多く見られます。

蜂窩織炎の漢字と読み方

蜂窩織炎は「ほうかしきえん」と読みます。
「蜂窩」という漢字は、蜂の巣のように小さな穴がたくさん集まっている状態を表します。
これは、炎症を起こした組織が蜂の巣のような構造に見えることから名付けられたとされています。
医療現場では一般的に「ほうかしきえん」と呼称されます。

蜂窩織炎と他の皮膚疾患との違い

蜂窩織炎に似た症状を示す皮膚疾患がいくつか存在します。
特に混同されやすいものとして「丹毒(たんどく)」があります。

疾患名 感染部位 境界 症状の特徴 主な原因菌 なりやすい人
蜂窩織炎 真皮深層〜皮下脂肪組織 不明瞭(じわじわ広がる) 発赤、腫脹、熱感、強い痛み、圧痛。全身症状(発熱、悪寒)を伴うことも多い。 主に黄色ブドウ球菌、A群溶血性レンサ球菌 免疫低下、リンパ浮腫、静脈うっ滞、白癬、肥満、高齢者など
丹毒 真皮浅層 比較的明瞭(盛り上がった境界) 鮮やかな紅斑、熱感、痛み。しばしば顔面に発生し、悪寒や高熱を伴うことが多い。リンパ管炎・リンパ節炎を伴いやすい。 主にA群溶血性レンサ球菌 乳幼児、高齢者、免疫低下者、リンパ浮腫がある人など
壊死性筋膜炎 筋膜、皮下組織、筋肉に広がる重症感染症 広範囲で不明瞭。進行が極めて速い。 激しい痛み(初期は軽度な場合も)、腫脹、皮膚の色調変化(紫色など)、水疱、急速な組織壊死。重篤な全身症状。 レンサ球菌、ブドウ球菌、嫌気性菌など複数菌混合 免疫低下、糖尿病など重篤な基礎疾患がある人など
接触皮膚炎 皮膚の表層 原因物質に触れた部分に限局(境界明瞭) かゆみ、赤み、湿疹、水疱など。痛みは少ないことが多い。 アレルギー物質や刺激物質との接触 特定の物質に触れた人

このように、蜂窩織炎は皮膚の比較的深い層に感染が広がり、境界がはっきりしない発赤や強い痛みを伴うのが特徴です。
特に、発熱や悪寒といった全身症状を伴う場合は、蜂窩織炎や丹毒などの細菌感染症を強く疑う必要があります。
壊死性筋膜炎は、蜂窩織炎よりもさらに深部まで感染が及び、命に関わることもある非常に重篤な疾患です。
これらの区別は専門的な知識が必要なため、自己判断せずに必ず医療機関を受診することが重要です。

蜂窩織炎の主な原因

蜂窩織炎は、通常は外部からの細菌の侵入によって引き起こされます。
健康な皮膚にはバリア機能があり、細菌の侵入を防いでいますが、何らかの原因でこのバリアが破られると細菌が侵入し、感染が成立します。

原因となる細菌

蜂窩織炎の最も一般的な原因菌は、私たちの皮膚や鼻腔などに常在している「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」と「A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)」です。
これらの細菌は、普段は悪さをしませんが、皮膚のバリア機能が低下したり、傷口から侵入したりすると、感染を引き起こすことがあります。

まれに、動物に噛まれた傷や、水辺での活動に関連して感染する特別な細菌(例:パスツレラ菌、ビブリオ・バルニフィカスなど)が原因となることもあります。
また、近年ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による蜂窩織炎も報告されており、治療が難しくなる場合があります。

感染経路

細菌が皮膚のバリアを破って侵入する経路は様々です。

  • 小さな傷やひっかき傷: 日常生活でできる小さな傷、虫刺され、爪の間の傷、さかむけなどが入口となります。
  • 毛穴: 細菌が毛穴から侵入し、炎症を引き起こすことがあります(毛包炎から波及する場合など)。
  • 手術痕: 手術後の傷口から細菌が侵入することがあります。
  • 皮膚の病気: 足白癬(水虫)による皮膚のひび割れや、湿疹、乾燥によるかゆみで掻き壊した傷など、皮膚のバリア機能が低下している部位は感染しやすい状態です。
  • 注射痕: 静脈注射や採血後の注射痕から細菌が侵入することもあります。
    特に、不衛生な環境下での医療行為や、自己注射などによるリスクが考えられます。

健康な皮膚であれば、これらの経路から細菌が侵入しても通常は免疫機能によって排除されます。
しかし、次に述べるような「なりやすい人」では、細菌が増殖しやすく、感染が広がりやすくなります。

蜂窩織炎になりやすい人・リスク因子

特定の状態にある人は、蜂窩織炎にかかりやすいことが知られています。
これらの状態は、皮膚のバリア機能の低下や免疫機能の低下、血行・リンパの流れの悪化などに関係しています。

  • 免疫力の低下:
    • 糖尿病: 糖尿病患者は、血糖コントロールが悪いと免疫機能が低下しやすく、末梢神経障害による感覚鈍麻で傷に気づきにくくなることもあり、感染リスクが高まります。
    • HIV感染やAIDS
    • がんや化学療法を受けている方
    • 免疫抑制剤を服用している方(臓器移植後や自己免疫疾患の治療など)
    • ステロイドを長期間使用している方(全身投与)
    • 高齢者: 一般的に免疫機能が低下しやすい傾向にあります。
  • リンパ系の異常:
    • リンパ浮腫: 手術(特に乳がんや子宮がんの手術でリンパ節を切除した場合)、放射線療法、外傷、感染症などによりリンパの流れが悪くなると、体液が貯留しやすく、細菌が増殖しやすい環境になります。
      リンパ浮腫のある部位は、蜂窩織炎を繰り返しやすく、重症化しやすい傾向があります。
    • リンパ管の閉塞や損傷
  • 静脈系の異常:
    • 静脈瘤: 静脈のうっ滞により、皮膚の状態が悪化し、感染しやすくなることがあります。
    • 慢性静脈不全: 足のむくみや皮膚の変色を伴う場合、皮膚のバリア機能が低下している可能性があります。
  • 皮膚の疾患:
    • 足白癬(水虫): 指の間や足の裏のひび割れ、皮むけは細菌の侵入口となります。
      白癬がある方は、蜂窩織炎を合併しやすいです。
    • 湿疹、アトピー性皮膚炎: 皮膚の乾燥や炎症によりバリア機能が低下しています。
    • 皮膚潰瘍
  • 外傷や手術:
    • 大きな外傷や火傷
    • 手術後の創部
    • 虫刺され、動物・人間に噛まれた傷
  • 肥満: 皮膚のひだが多くなりやすく、湿気や摩擦で皮膚のバリアが損なわれやすいほか、リンパの流れが悪くなる傾向があります。
  • アルコール依存症: 栄養状態が悪化しやすく、免疫機能が低下する場合があります。

これらのリスク因子を持つ方は、日頃から皮膚のケアに注意し、小さな傷でも放置しないようにすることが大切です。
また、皮膚に異常を感じたら、早めに医療機関を受診することを心がけましょう。

蜂窩織炎の症状と初期症状

蜂窩織炎の症状は、感染が始まった部位とその進行度によって異なりますが、典型的なサインを把握しておくことが重要です。

典型的な症状(発赤、腫れ、痛み、熱感)

蜂窩織炎の局所的な典型症状は以下の4つです。
これらの症状は通常、急速に進行します。

  1. 発赤(ほっせき): 皮膚が赤くなります。
    初期はわずかな赤みかもしれませんが、数時間から1日程度で範囲が広がり、色が濃くなることが多いです。
    発赤の境界は比較的不明瞭で、周囲の正常な皮膚との境目がはっきりしないのが特徴です。
    これは、炎症が皮下組織でじわじわと広がっているためです。
  2. 腫れ(しゅちょう): 感染部位の皮膚が腫れて盛り上がります。
    触ると弾力があり、硬く感じることもあります。
    腫れは発赤の範囲と一致して広がります。
  3. 痛み(とうつう): 感染部位に強い痛みやズキズキとした拍動性の痛みを伴います。
    触れたり圧迫したりすると痛みが強くなる「圧痛(あっつう)」も典型的です。
    安静にしていても痛むことがあります。
  4. 熱感(ねっかん): 感染部位の皮膚を触ると、周囲の正常な皮膚よりも熱く感じます。
    これは炎症によって血流が増加しているためです。

これらの症状は、しばしば感染源となった傷口から始まり、周囲に広がっていきます。
例えば、足の指の間の白癬から細菌が侵入した場合、足首やふくらはぎにかけて赤みや腫れが広がっていくことがあります。

全身症状(発熱、悪寒、倦怠感)

蜂窩織炎では、局所症状だけでなく、全身に影響が及ぶことも少なくありません。
特に感染が広がっている場合や、免疫力が低下している場合に現れやすいです。

  • 発熱: 38℃以上の高熱が出ることがあります。
    発熱は感染が全身に広がっているサインの一つです。
  • 悪寒(おかん): 体が震えるような寒気を感じます。
    発熱に伴って現れることが多い症状です。
  • 倦怠感: 全身のだるさや疲労感を感じます。
  • リンパ節の腫れと痛み: 感染部位に近いリンパ節(例えば、足の蜂窩織炎であれば太ももの付け根のリンパ節)が腫れて痛むことがあります。
    これは、細菌や炎症物質がリンパ管を通ってリンパ節に運ばれ、そこで免疫反応が起きているためです(リンパ管炎やリンパ節炎の合併)。
  • 頭痛、吐き気などを伴うこともあります。

全身症状が現れている場合は、感染が全身に波及する「敗血症」などの重篤な状態に進む可能性も示唆されるため、緊急性の高い状態と言えます。

症状の進行

蜂窩織炎の症状は、適切な治療を行わないと比較的急速に進行する傾向があります。

  • 初期: わずかな赤み、軽い痛み、熱感といった、虫刺されや打撲に似た症状から始まることがあります。
    この段階では蜂窩織炎と気づかないことも少なくありません。
  • 数時間〜1日: 赤みや腫れの範囲が目に見えて広がり、痛みが強くなります。
    発熱や悪寒といった全身症状が現れることもあります。
    発赤の中央部に水疱ができたり、膿が溜まったりすることもあります。
  • さらに進行: 治療が遅れると、感染がさらに深部や広範囲に及び、組織が壊死(えし)して黒っぽく変色したり、皮膚に穴が開いて膿や浸出液が出てきたりすることがあります。
    重篤な合併症(壊死性筋膜炎、敗血症など)を引き起こし、命に関わる状態になることもあります。

症状の進行速度には個人差がありますが、一般的には数日以内にかなり悪化することが多いです。

蜂窩織炎の初期症状を見分けるポイント

蜂窩織炎の早期発見は、迅速な治療開始のために非常に重要です。
初期症状は他の疾患と似ていて見分けにくいこともありますが、以下の点に注意すると早期に気づきやすくなります。

  • 特定の部位の皮膚が、以前と比べて「熱い」「赤い」「痛い」と感じる: 特に、触ると周囲より明らかに熱く、境界がはっきりしない赤みがあり、ズキズキするような痛みを伴う場合は注意が必要です。
  • 赤みや腫れが時間の経過とともに広がっていく: 数時間前や前日にはなかった赤みや腫れが、目に見えて範囲を広げている場合、細菌感染が急速に進行している可能性があります。
  • わずかな傷や虫刺され、皮膚のひび割れなどの後に症状が現れた: 皮膚のバリアが破れた可能性がある場所に一致して症状が出た場合は、細菌感染の可能性が高いと考えられます。
  • 発熱や悪寒といった風邪のような症状に加え、特定の部位の皮膚の痛みや腫れがある: 全身症状と局所症状が同時に現れた場合、感染症を強く疑う必要があります。
  • 足白癬やリンパ浮腫など、蜂窩織炎になりやすいリスク因子がある人が、皮膚の異常を感じた: リスク因子がある場合は、より蜂窩織炎を疑って早期に受診することが勧められます。

これらのサインに気づいたら、「たいしたことないだろう」と自己判断せずに、早めに医療機関(皮膚科など)を受診することが大切です。

蜂窩織炎の診断方法

蜂窩織炎の診断は、主に医師による診察に基づいて行われます。
症状や身体の状態を総合的に判断します。

医師による問診と視診

診察では、まず医師が患者さんから症状について詳しく聞き取ります(問診)。

  • いつから症状が出たか?
  • どのような症状か?(赤み、腫れ、痛み、熱感、かゆみなど)
  • 症状はどのように変化しているか?(広がる速さ、痛みの強さなど)
  • 発熱や悪寒などの全身症状はあるか?
  • 症状が出た部位に、最近傷や虫刺され、できものなどはあったか?
  • 過去に蜂窩織炎にかかったことがあるか?
  • 糖尿病やリンパ浮腫などの持病はあるか?
  • 現在服用している薬はあるか?(特に免疫抑制剤やステロイドなど)
  • アレルギーはあるか?

次に、医師が患部の皮膚を直接見て触って確認します(視診および触診)。
発赤の色や範囲、境界の様子、腫れの程度、熱感、痛みの場所や強さなどを詳しく観察します。
リンパ節の腫れがないかも確認します。

経験のある医師であれば、問診と視診、触診によって多くの場合、蜂窩織炎であるかを診断できます。
典型的な局所症状と、必要に応じて全身症状の有無を確認することで診断が進められます。

血液検査や画像検査

問診と視診で蜂窩織炎が強く疑われる場合、診断を確定したり、重症度を評価したり、他の病気と区別したりするために、追加で検査が行われることがあります。

  • 血液検査:
    • 炎症反応の確認: 白血球数(WBC)やCRP(C反応性タンパク)といった炎症の度合いを示す項目を測定します。
      これらの数値が高い場合は、体内で細菌感染による強い炎症が起きていることを示唆します。
    • 原因菌の特定: 血液の中に細菌がいる可能性がある場合(敗血症が疑われる場合など)は、血液培養検査を行って原因菌を特定し、どの抗生物質が効くかを調べることがあります。
      ただし、必ずしも原因菌が検出されるわけではありません。
  • 培養検査:
    • 患部に水疱や膿がある場合は、その内容物を採取して細菌培養を行い、原因菌とその抗生物質に対する感受性を調べることがあります。
      傷口がある場合は、傷口から検体を採取することもあります。
      これにより、より効果的な抗生物質を選ぶことができます。
  • 画像検査:
    • 超音波検査: 患部の皮下組織に膿瘍(膿のかたまり)が形成されていないかなどを確認するために行われることがあります。
    • MRI: 蜂窩織炎が骨や関節、筋肉にまで広がっている可能性(骨髄炎、化膿性関節炎、壊死性筋膜炎など)が疑われる場合や、診断が難しい場合に、より詳細な情報を得るために行われることがあります。

これらの検査は、すべての蜂窩織炎の患者さんに行われるわけではありません。
軽症で典型的な症状の場合には、問診と視診のみで診断し、治療を開始することも多いです。
しかし、症状が非典型的であったり、重症であったり、治療への反応が悪かったりする場合には、これらの追加検査が診断や治療方針の決定に役立ちます。

蜂窩織炎の治療法(自然治癒は期待できるか)

蜂窩織炎は細菌感染症であるため、治療には抗生物質が必須です。
自己判断で放置したり、民間療法などに頼ったりすることは非常に危険です。

基本的な治療は抗生物質

蜂窩織炎の治療の中心は、原因となっている細菌を死滅させるための「抗生物質」の投与です。

  • 軽症の場合: 外来での治療が可能で、通常は抗生物質の飲み薬(経口抗生物質)が処方されます。
    病状に応じて、ペニシリン系、セフェム系、クリンダマイシンなどが選択されます。
    医師の指示通り、決められた期間しっかりと服用することが重要です。
    症状が改善しても、自己判断で服用を中止すると再発したり、抗生物質が効きにくい耐性菌が発生したりするリスクがあります。
  • 中等症~重症の場合: 発熱が高い、全身状態が悪い、症状の進行が速い、基礎疾患が悪化している、飲み薬で効果が不十分、あるいは飲み薬を服用できないなどの場合は、入院して抗生物質を点滴で投与する治療が必要になります。
    点滴による投与は、薬の成分が直接血中に入るため、飲み薬よりも早く、より確実に感染部位に到達させることができます。
    重症の場合に使われる抗生物質は、軽症の場合よりも広範囲の細菌に効果があるものや、より強力なものが選択されることがあります。

抗生物質の選択は、原因菌の種類や重症度、患者さんのアレルギーの有無、腎臓や肝臓の機能などを考慮して医師が判断します。
特に原因菌が特定できていない場合は、多くの細菌に効果がある「広域抗生物質」が使用されることが多いです。
培養検査で原因菌と感受性が判明した場合は、より効果的でピンポイントな抗生物質に変更されることもあります。

重症の場合の治療(入院、点滴、手術)

以下のような場合は、重症と判断され、入院や点滴治療が必要となる可能性が高くなります。

  • 高熱(38.5℃以上)や悪寒など、全身症状が強い場合
  • 血圧が低下しているなど、全身状態が不安定な場合
  • 発赤や腫れが急速に広がっている場合
  • 糖尿病などの基礎疾患が悪化している場合
  • 経口抗生物質で症状が改善しない、または悪化している場合
  • 手や顔など、特定の部位(関節に近い、神経に近い部位など)に感染が広がっている場合
  • 免疫力が著しく低下している方(化学療法中、HIV感染など)
  • 水疱や皮膚の壊死が認められる場合
  • 深部に膿瘍(膿のかたまり)が形成されている場合

入院すると、抗生物質の点滴治療の他に、安静の確保、患部の冷却・挙上、輸液による水分補給、痛み止めによる疼痛管理などが行われます。

膿瘍が形成されている場合は、抗生物質の投与だけでは治癒が難しいため、「切開排膿(せっかいはいのう)」という手術が必要になります。
これは、患部の皮膚を切開して、溜まっている膿を体外に出す処置です。
これにより、感染源を取り除き、抗生物質の効果を高めることができます。
また、広範囲に組織の壊死が認められる場合は、壊死した組織を取り除く手術が必要になることもあります。

重症の場合、治療開始が遅れると命に関わる重篤な合併症(壊死性筋膜炎、敗血症など)を引き起こすリスクが高まります。
そのため、重症度を正しく判断し、迅速に適切な治療を開始することが極めて重要です。

蜂窩織炎は自然治癒するのか?

結論から言うと、蜂窩織炎が自然に治癒することはほとんど期待できません。 蜂窩織炎は皮膚の深い部分に細菌が感染している状態であり、免疫の力だけで細菌を完全に排除するのは非常に困難です。

放置すると、細菌はどんどん増殖し、炎症はさらに広範囲に及びます。
症状は悪化し、痛みや腫れが増強するだけでなく、皮膚の壊死、深部組織への感染拡大(筋肉や骨への感染)、そして全身への細菌の波及(敗血症)といった重篤な状態に進むリスクが非常に高まります。

「少し赤くなっただけだから様子を見よう」と自己判断せず、蜂窩織炎が疑われる症状が現れたら、必ず医療機関を受診してください。
早期に適切な抗生物質による治療を開始すれば、ほとんどの場合、数日から1週間程度で症状の改善が見られ始めます。
しかし、治療が遅れると、治療期間が長くなり、後遺症が残ったり、命に関わったりする可能性も出てきます。

治療期間と予後

蜂窩織炎の治療期間は、症状の重症度や患者さんの状態によって異なりますが、一般的には抗生物質を1週間から2週間程度服用または点滴で投与します。
症状が改善した後も、再発予防や残存する細菌を完全に排除するために、数日間の服用継続が必要となることが多いです。
医師の指示された期間、最後までしっかりと治療を続けることが重要です。

  • 軽症: 経口抗生物質で通常1~2週間程度。
    症状は数日で改善に向かうことが多い。
  • 中等症~重症: 入院して点滴治療を数日から1週間程度行い、その後経口抗生物質に切り替えて合計1~2週間以上治療を行うことが多い。
    症状の改善には数日かかることがある。
    膿瘍形成や壊死がある場合は、さらに治療期間が長くなる。

予後は、早期に適切な治療を受ければ良好な場合がほとんどです。
症状は改善し、皮膚の状態も元に戻ります。
しかし、治療が遅れた場合や重症であった場合、あるいは基礎疾患がある場合は、以下のような影響が残る可能性があります。

  • 色素沈着: 炎症を起こした部位の皮膚に色素沈着が残ることがあります。
  • リンパ浮腫の悪化: リンパ管やリンパ節にダメージを受けた場合、リンパ浮腫が悪化したり、新たに発症したりすることがあります。
  • 再発: 一度蜂窩織炎にかかると、特にリスク因子(リンパ浮腫、白癬など)がある場合は再発しやすい傾向があります。
  • 瘢痕(はんこん): 皮膚の壊死や手術が必要になった場合、傷跡が残ることがあります。
  • 重篤な合併症の後遺症: 敗血症や壊死性筋膜炎などを起こした場合、命に関わるだけでなく、臓器障害や機能障害といった重い後遺症が残る可能性があります。

家庭でできる対処法(安静、冷却など)

蜂窩織炎と診断され、医療機関で治療を受けている間に、家庭でできるケアがいくつかあります。
これらはあくまで医師の治療を補助するものであり、自己判断でこれだけを行うことは絶対にいけません。

  1. 安静にする: 患部に負担をかけないように安静にすることが大切です。
    特に足の蜂窩織炎の場合は、できるだけ歩いたり立ったりするのを避けましょう。
  2. 患部を挙上する: 患部(特に腕や足)を心臓より高い位置に上げることで、腫れや痛みを軽減する効果が期待できます。
    例えば、足の場合は寝るときにクッションなどで足元を高くします。
  3. 患部を冷却する(適度な範囲で): 炎症による熱感や痛みを和らげるために、冷たいタオルや氷のうなどで患部を冷やすことがあります。
    ただし、冷やしすぎると血行が悪くなり、かえって治癒を妨げたり、組織を傷めたりする可能性があるので、直接氷を長時間当てるのは避け、冷やしすぎないように注意しましょう。
    タオルで包んだり、短時間にとどめたりします。
    冷やすことで痛みが悪化する場合は中止してください。
    医師に相談してから行うのがより安全です。
  4. 保湿: 患部以外の皮膚も含め、乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を保つために保湿ケアを適切に行いましょう。
    ただし、患部に直接触れる際は清潔な手で行い、刺激の少ないものを選びます。
  5. 清潔を保つ: 患部を清潔に保つことは重要ですが、ゴシゴシ洗いすぎたり、刺激の強い石鹸を使ったりしないようにします。
    優しく洗い、清潔なタオルで水分を拭き取ります。
    傷口がある場合は、医師の指示に従って適切に処置します。
  6. 基礎疾患の管理: 糖尿病などの持病がある方は、血糖コントロールを良好に保つことが治癒を促進し、再発を防ぐ上で非常に重要です。
    主治医の指示に従って、しっかりと管理しましょう。
  7. 指示された薬を正しく服用する: 処方された抗生物質や痛み止めは、医師の指示通りに、決められた量と時間、期間を厳守して服用することが何よりも重要です。

これらの家庭でのケアは、あくまで医療機関での治療と並行して行うものです。
症状が悪化したり、新たな症状が現れたりした場合は、すぐに医師に相談してください。

蜂窩織炎の予防策

蜂窩織炎は再発しやすい病気の一つです。
特にリスク因子を持つ方は、日頃から予防を心がけることが大切です。

皮膚を清潔に保つ

皮膚を清潔に保つことは、細菌の数を減らし、感染リスクを低下させる基本的な予防策です。

  • 毎日の入浴・シャワー: 身体を清潔に保ち、皮膚表面の細菌や汚れを洗い流しましょう。
    ただし、ゴシゴシ洗いすぎると皮膚のバリア機能を損なう可能性があるため、優しく洗うことが大切です。
  • 保湿ケア: 清潔にした後、皮膚が乾燥しないように保湿剤を塗ります。
    乾燥した皮膚はひび割れやすく、そこから細菌が侵入する可能性があります。
    特に冬場や乾燥しやすい部位は念入りにケアしましょう。
    適切な保湿は皮膚のバリア機能を維持する上で重要です。
  • 足のケア: 蜂窩織炎は足に多く発生するため、特に足の清潔とケアは重要です。
    指の間まで丁寧に洗い、しっかりと水分を拭き取ります。

傷の適切な手当て

皮膚にできた小さな傷や虫刺され、ひび割れなどが細菌の侵入口となることが多いため、これらの傷を適切に手当てすることが予防につながります。

  • 傷口の洗浄: 傷ができたら、まずは水道水できれいに洗い流しましょう。
  • 消毒: 傷口の消毒は、必ずしも必要ではありませんが、必要に応じて行います。
    ただし、過度な消毒は皮膚の組織を傷つけたり、常在菌まで殺してしまったりする可能性があるため、適切な方法で行うことが大切です。
    迷う場合は医師や薬剤師に相談しましょう。
  • 保護: きれいに洗浄・消毒した傷口は、絆創膏やガーゼなどで覆って保護します。
    これにより、外部からの細菌の侵入を防ぎます。
  • 虫刺され: 虫に刺された場合は、掻き壊さないように注意し、かゆみ止めを塗るなどの対処をします。
    掻き壊した傷から細菌が侵入することがあります。
  • 足白癬(水虫)の治療: 足白癬による皮膚のひび割れや皮むけは蜂窩織炎の大きなリスク因子です。
    白癬がある場合は、しっかりと治療を行い、皮膚の状態を健康に保つことが重要です。
    皮膚科で適切な診断と治療を受けましょう。
  • 爪のケア: 爪の周りの傷(さかむけなど)も原因になることがあるため、爪は清潔に保ち、深爪などをしないように注意します。

基礎疾患の管理

蜂窩織炎のリスク因子となる基礎疾患(糖尿病、リンパ浮腫、静脈瘤など)がある方は、これらの疾患をしっかりと管理することが蜂窩織炎の予防に直結します。

  • 糖尿病: 血糖コントロールを良好に保つことは、免疫機能の維持や神経障害・血行障害の予防に不可欠です。
    主治医の指示に従って、食事療法、運動療法、薬物療法を継続しましょう。
  • リンパ浮腫: リンパ浮腫がある方は、蜂窩織炎を繰り返しやすい傾向があります。
    弾性ストッキングや弾性包帯による圧迫療法、リンパドレナージ(マッサージ)、皮膚の清潔・保湿といったセルフケアを継続することが重要です。
    リンパ浮腫の専門医や療法士の指導を受けると良いでしょう。
    わずかな赤みや痛みでも蜂窩織炎を疑い、早期に医療機関を受診することが特に大切です。
  • 静脈不全: 静脈瘤や慢性静脈不全がある方は、圧迫療法や下肢の挙上などを行い、血行の改善に努めましょう。
    皮膚の状態が悪化している場合は、皮膚科で適切な治療を受けてください。
  • 免疫抑制剤使用中の方: 免疫力が低下している状態なので、日常的に皮膚の状態に注意し、小さな傷でも放置しないようにします。
    発熱などの症状が現れたら、すぐに主治医に相談しましょう。

これらの予防策を実践することで、蜂窩織炎にかかるリスクを減らし、特に再発を防ぐことにつながります。

蜂窩織炎の合併症と注意点

蜂窩織炎は、早期に適切な治療を受ければ比較的簡単に治癒することが多い病気ですが、治療が遅れたり、感染が重症化したりすると、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

起こりうる重篤な合併症

蜂窩織炎の感染が周囲組織や全身に広がると、以下のような命に関わる、あるいは後遺症を残す可能性のある合併症を引き起こすことがあります。

  • 敗血症: 感染の原因菌が血流に乗って全身に広がり、体の様々な臓器に障害を引き起こす、非常に危険な状態です。
    高熱、悪寒、震え、血圧低下、意識障害などの症状が現れます。
    緊急治療が必要な状態です。
  • 壊死性筋膜炎: 蜂窩織炎よりもさらに深部の筋膜に沿って感染が急速に広がり、組織が壊死していく病気です。
    皮膚の色が紫色や黒っぽく変化したり、激しい痛み(初期は痛みが軽度な場合もある)、水疱形成、皮膚の感覚が鈍くなるなどの症状が現れます。
    進行が極めて速く、緊急手術による広範囲の組織切除が必要となることが多い、生命に関わる重篤な疾患です。
  • 骨髄炎、化膿性関節炎: 感染が骨や関節に及んだ場合、これらの合併症を引き起こします。
    強い痛みや腫れ、関節の機能障害などが現れ、治療が難しくなります。
  • リンパ管炎、リンパ節炎: リンパ管やリンパ節に沿って炎症が広がる状態です。
    患部からリンパ節に向かって赤くて痛みを伴う線状の筋が見えたり、リンパ節が腫れて痛んだりします。
  • 血栓性静脈炎: 炎症が血管に及んだ場合、血管の中で血栓(血の塊)ができ、静脈が詰まることがあります。
    これにより、患部がさらに腫れたり、痛んだりします。
    肺塞栓症などの原因となる可能性もあります。

これらの合併症は、蜂窩織炎の初期段階から急速に進行することがあります。
特に発熱や悪寒が強い場合、痛みが異常に強い場合、皮膚の色が急激に変化している場合などは、これらの重篤な合併症を疑い、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。

早期発見と早期治療の重要性

蜂窩織炎における早期発見と早期治療の重要性は、何度強調しても足りません。

  • 重症化の予防: 早期に抗生物質による治療を開始すれば、細菌の増殖を抑え、感染の広がりを食い止めることができます。
    これにより、軽症のうちに治癒させることが可能となり、重症化を防ぐことができます。
  • 合併症の予防: 重篤な合併症(敗血症、壊死性筋膜炎など)は、感染が広範囲に及んでから発症することがほとんどです。
    早期に治療を開始することで、これらの生命に関わる合併症の発症リスクを大幅に減らすことができます。
  • 治療期間の短縮と予後の改善: 早期に治療を開始すれば、治療期間は短くて済み、後遺症を残すリスクも低くなります。
    逆に、治療が遅れると治療期間が長引き、手術が必要になったり、後遺症が残ったりする可能性が高まります。
  • 再発予防: 一度蜂窩織炎にかかると再発しやすいですが、適切な治療を受け、リスク因子に対するケア(白癬治療やリンパ浮腫ケアなど)を行うことで、再発のリスクを減らすことができます。

「これくらいなら大丈夫だろう」と自己判断せず、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診することが、自分自身の健康と命を守るために非常に大切です。

医療機関を受診すべきタイミング

以下のような症状が現れたら、迷わず医療機関(皮膚科、あるいはかかりつけ医)を受診しましょう。
夜間や休日でかかりつけ医がいない場合は、救急外来の受診も検討が必要です。

  • 特定の部位の皮膚が赤く腫れて、痛みや熱感がある: 特に、これらの症状が急速に(数時間〜1日以内に)悪化している場合。
  • 皮膚の赤みや腫れの境界がはっきりしない(じわじわと広がっているように見える)場合。
  • 発熱(38℃以上)、悪寒、全身の倦怠感を伴う場合。
  • 患部の痛みが非常に強い場合、あるいは感覚が鈍くなっている場合。
  • 患部に水疱ができたり、皮膚の色が紫色や黒っぽく変化したりしている場合。
  • リンパ節が腫れて痛む場合。
  • 糖尿病、リンパ浮腫、免疫抑制剤使用中など、蜂窩織炎になりやすいリスク因子がある方が皮膚の異常を感じた場合。
  • 小さな傷や虫刺され、手術痕などの後に、その周囲が赤く腫れてきた場合。
  • 一度治療を開始したが、症状が改善しない、あるいは悪化している場合。

これらのサインは蜂窩織炎である可能性を示唆しており、早期の医師の診断と治療が必要です。
特に、発熱を伴う場合や、症状の進行が速い場合は、重症化や合併症のリスクが高いため、できるだけ早く医療機関を受診してください。

シアリスED治療薬についてよくある質問


※本記事は蜂窩織炎に関する記事であり、以下のよくある質問は「シアリスED治療薬」に関する内容です。
テーマが異なりますので、ご注意ください。

【まとめ】蜂窩織炎は早期発見と早期治療が重要

蜂窩織炎は、皮膚の深い部分で細菌感染が起きる病気であり、発赤、腫れ、痛み、熱感といった局所症状と、発熱や悪寒といった全身症状を伴うことがあります。
多くの場合は皮膚の小さな傷などから細菌が侵入することで起こり、免疫力の低下やリンパの流れの悪さなどがリスク因子となります。

蜂窩織炎は自然に治癒することはほとんどなく、放置すると感染が急速に広がり、敗血症や壊死性筋膜炎といった命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

診断は主に医師による視診と問診で行われ、必要に応じて血液検査や培養検査が行われます。
治療の基本は抗生物質の投与であり、軽症であれば飲み薬、重症であれば入院して点滴治療が必要となります。
膿瘍がある場合は切開排膿が必要になることもあります。

早期に適切な治療を開始すれば、ほとんどの場合、数日から1週間程度で症状の改善が見られ、比較的速やかに治癒します。
しかし、治療が遅れると治療期間が長くなったり、後遺症を残したりするリスクが高まります。

日頃から皮膚を清潔に保ち、傷口を適切に手当てし、糖尿病やリンパ浮腫といった基礎疾患がある場合はしっかりと管理することが、蜂窩織炎の予防につながります。

皮膚の赤みや腫れ、痛み、熱感といった症状に気づいたら、「たいしたことない」と自己判断せずに、できるだけ早く医療機関(皮膚科など)を受診することが非常に重要です。
特に発熱や悪寒を伴う場合や、症状が急速に悪化している場合は、迷わずすぐに医療機関を受診してください。
早期の受診と適切な治療が、蜂窩織炎を軽く済ませ、重篤な合併症を防ぐための鍵となります。


免責事項

この記事に記載されている情報は、一般的な知識を提供するものであり、個別の医療アドバイスに代わるものではありません。
ご自身の健康状態や症状に関して懸念がある場合は、必ず医師や他の資格を持つ医療従事者にご相談ください。
診断や治療に関しては、必ず医療機関の専門家にご相談ください。
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