伝染性単核球症とは?原因・症状・治療法【俗称キス病】

伝染性単核球症は、特に若い世代に多く見られる感染症の一つです。「キス病」という別名を聞いたことがある方もいるかもしれません。
高熱やのどの痛みなど、風邪や扁桃腺炎と似た症状が現れることがありますが、原因となるウイルスや経過、注意点には違いがあります。この記事では、伝染性単核球症の原因や感染経路、特徴的な症状、診断・治療法、そして子供と大人での違いや予後について詳しく解説します。この病気について正しく理解し、不安なく対処できるようになるための情報を提供します。

目次

伝染性単核球症とは?概要と原因

伝染性単核球症は、特定のウイルスの感染によって引き起こされる感染症です。主に思春期から青年期にかけて発症することが多いですが、どの年齢層でも感染する可能性があります。名前の通り、血液中の単核球(白血球の一種)が増加することが特徴の一つです。

EBウイルスが主な原因(ヘルペスウイルス科)

伝染性単核球症の最も一般的な原因ウイルスは、エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)です。EBウイルスはヒトヘルペスウイルス群に属しており、非常に多くの人が一生のうちに一度は感染すると言われています。幼い頃に感染した場合は、ほとんど症状が出ない(不顕性感染)か、軽い風邪のような症状で済むことが多いです。しかし、思春期以降に初めて感染した場合に、伝染性単核球症として特徴的な症状が現れやすくなります。

EBウイルスは感染者の唾液中に存在しており、主に唾液を介して人から人へ感染します。感染後、通常は4~8週間程度の潜伏期間を経て発症します。一度感染すると、ウイルスは体内に潜伏し続けますが、健康な状態であれば免疫によって抑えられています。

その他の原因ウイルス

伝染性単核球症のような症状を引き起こすウイルスは、EBウイルスだけではありません。サイトメガロウイルス(CMV)や、まれにヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)トキソプラズマ原虫なども、伝染性単核球症と似た症状(発熱、リンパ節腫脹、肝機能異常など)を引き起こすことがあります。これらの病原体による感染も、EBウイルスによる伝染性単核球症と同様に、適切な診断と治療が必要です。この記事では、特にEBウイルスによる伝染性単核球症に焦点を当てて解説します。

伝染性単核球症の感染経路

伝染性単核球症は、主に唾液を介して感染が広がります。その特徴的な感染経路から「キス病」という別名で知られています。

主な感染経路「キス病」について

伝染性単核球症が「キス病(Kissing disease)」と呼ばれるのは、感染者の唾液中に含まれるEBウイルスが、キスによって非感染者の口の中に入ることで感染が成立することが多いためです。特に思春期や青年期は、友人やパートナーとの間でキスをする機会が増えるため、この年代での感染例が多く見られます。

EBウイルスは感染者の体内に一生潜伏しますが、時々唾液中に放出されます。症状がないキャリア(保菌者)からも感染する可能性があるため、感染経路を特定することが難しい場合も多くあります。

キス以外の感染経路

キスによる感染が代表的ですが、伝染性単核球症はキス以外の経路でも感染します。主なものとして以下の経路が挙げられます。

  • 飛沫感染: 感染者が咳やくしゃみをした際に飛び散る唾液のしぶき(飛沫)を吸い込むことによる感染。
  • 接触感染: 感染者の唾液が付着した食器やコップ、おもちゃなどを共有することによる感染。特に乳幼児期では、親や兄弟からの食器共有などで感染することが多いと考えられています。
  • 輸血や臓器移植: 非常にまれですが、ウイルスの存在する血液や臓器を介して感染する可能性があります。

このように、伝染性単核球症の感染経路はキスだけに限りません。日常的な接触や飛沫によっても感染する可能性があることを理解しておくことが重要です。ただし、インフルエンザや風邪のように爆発的に広がる感染症ではなく、比較的濃厚な接触が必要となる傾向があります。

伝染性単核球症の主な症状

伝染性単核球症の症状は、風邪やインフルエンザ、溶連菌感染症など、他の一般的な感染症と似ているため、診断が難しい場合があります。しかし、いくつかの特徴的な症状があります。

伝染性単核球症の初期症状

伝染性単核球症の初期症状は、発症から数日間、あるいは1週間程度かけてゆっくりと現れることが多いです。以下のような症状が見られることがあります。

  • 倦怠感: 全身のだるさや疲労感が強く現れます。これは病気が回復した後も長期間続くことがあります。
  • 微熱または軽度の発熱: 最初はそれほど高くない熱が出ることがあります。
  • 食欲不振: 全身の倦怠感とともに、食欲が低下することがあります。

これらの初期症状は、風邪のひき始めと区別がつきにくいため、「ただの風邪かな?」と思ってしまうことも少なくありません。

特徴的な症状:高熱、咽頭痛、リンパ節腫脹

伝染性単核球症を強く疑うべき3つの主要な症状があります。これらは通常、初期症状に続いて現れ、数週間続くことがあります。

  1. 高熱: 38℃以上の高熱が数日~数週間続くことが特徴です。解熱剤を使っても一時的にしか熱が下がらないこともあります。
  2. 咽頭痛(扁桃腺の腫れ): のどの痛みが非常に強く、扁桃腺が赤く腫れたり、白い苔(偽膜)が付着したりすることがあります。見た目が溶連菌感染症やジフテリアと似ているため、鑑別が必要です。痛みが強くて食事や水分を摂るのが困難になることもあります。
  3. リンパ節腫脹: 首のリンパ節(特に顎の下や首の横)が腫れて硬くなり、押すと痛みを伴うことがあります。全身のリンパ節が腫れることもあります。これは、体内でウイルスと戦う免疫細胞が増殖しているためです。

これらの3つの症状が揃っている場合、伝染性単核球症の可能性が高いと考えられます。

その他の症状:脾臓や肝臓の腫れ、発疹など

3主徴以外にも、伝染性単核球症では以下のような症状が見られることがあります。

  • 脾臓の腫れ(脾腫): 約半数の患者さんで、脾臓が腫大します。通常は症状がありませんが、お腹の左上に圧迫感を感じたり、まれに痛みを伴ったりすることがあります。脾臓が腫れている場合は、後述する注意が必要です。
  • 肝臓の腫れ(肝腫大): 肝臓も腫れることがあり、肝機能を示す数値(AST, ALTなど)が上昇することがあります。黄疸が出ることはまれです。
  • 発疹: 約10~15%の患者さんで、体幹や腕などに赤い小さな発疹が現れることがあります。特に、ペニシリン系の抗菌薬(アモキシシリンなど)を誤って投与された場合に、ほぼ必発で全身に特徴的な発疹が出現することが知られています。これは薬に対するアレルギー反応ではなく、伝染性単核球症という病気の状態にあるときに特定の抗菌薬を飲むと起こる反応です。
  • 眼瞼浮腫: まぶたが腫れることがあります。
  • 頭痛、筋肉痛、関節痛: 全身の炎症に伴ってこれらの症状が現れることがあります。

これらの症状の現れ方や強さは個人差が大きく、全ての症状が揃うわけではありません。

症状の経過と期間

伝染性単核球症の症状は、通常数週間から数ヶ月かけて回復します。

  • 発症後1~2週間: 高熱、強い咽頭痛、リンパ節腫脹が最も強く現れる時期です。倦怠感も強いです。
  • 発症後3~4週間: 熱は次第に下がり、のどの痛みやリンパ節の腫れも改善に向かいます。
  • 発症後数ヶ月: 大部分の症状は消失しますが、強い倦怠感や疲労感が数ヶ月にわたって続くことがあります。これは、体がウイルスの排除にエネルギーを使っていることや、免疫系の回復に時間がかかるためと考えられています。

多くの場合、症状は自然に軽快しますが、回復には時間がかかる病気であることを理解しておく必要があります。

症状項目 伝染性単核球症(EBウイルス性) 風邪(一般的なウイルス性上気道炎) 溶連菌性咽頭炎(細菌性)
原因 EBウイルス(主に) ライノウイルス、コロナウイルスなど多数 化膿性レンサ球菌(A群溶血性レンサ球菌)
潜伏期間 長い(4~8週間) 短い(1~3日) 中程度(2~5日)
発熱 高熱が長期間続く 軽度~中等度、短期間 急な高熱
咽頭痛 非常に強い、扁桃腺に白い苔 軽度~中等度 強い、扁桃腺の発赤や膿(白い点々)
リンパ節腫脹 首を中心に顕著 軽度 首のリンパ節が腫れることが多い
倦怠感 非常に強く、長期間続く 軽度~中等度 比較的強いが、通常は熱が下がると改善
鼻水・咳 あまり見られない よく見られる あまり見られない
治療法 対症療法(安静、解熱剤など) 対症療法(安静、水分補給など) 抗菌薬(ペニシリン系など)
特徴的な所見 血液検査での異型リンパ球増加、脾腫、発疹(抗菌薬内服時) なし 舌のイチゴ状乳頭、体幹の発疹(猩紅熱)など

※上記の表は一般的な傾向を示すものであり、個人差や病状によって異なる場合があります。

伝染性単核球症の診断方法

伝染性単核球症は症状が他の病気と似ているため、正確な診断には医師による診察と検査が必要です。

血液検査(単核球の増加、抗体検査)

診断の鍵となるのは血液検査です。

  1. 末梢血塗抹検査: 血液中の白血球を顕微鏡で観察する検査です。伝染性単核球症では、特徴的な形態を持つ「異型リンパ球(atypical lymphocyte)」が増加していることが確認できます。この異型リンパ球は、体内でEBウイルスと戦うために活性化したリンパ球であり、診断の手がかりとなります。また、単核球(白血球の一種)全体が増加することも病名の由来となっています。
  2. 異好抗体検査(Paul-Bunnell反応など): 伝染性単核球症の急性期に見られる特殊な抗体(異好抗体)を検出する検査です。簡便で比較的早く結果が出ますが、感度・特異度は完璧ではなく、特に子供では陽性率が低いことがあります。
  3. EBウイルス特異的抗体検査: EBウイルスに対する様々な種類の抗体を測定する検査です。
    • VCA-IgM抗体: 急性期に陽性となり、診断に最も有用です。通常、発症後数週間でピークとなり、数ヶ月で陰性になります。
    • VCA-IgG抗体: 感染の既往を示す抗体です。急性期から上昇し始め、一度感染すると生涯にわたって陽性が続きます。この抗体が陽性であれば、過去にEBウイルスに感染したことがあることを意味します。
    • EBNA抗体: 感染から数週間~数ヶ月遅れて陽性になります。感染の既往を示す抗体であり、EBNA抗体が陽性でVCA-IgM抗体が陰性であれば、過去の感染(伝染性単核球症ではない)であることを示唆します。

これらの抗体検査の結果を組み合わせて判断することで、EBウイルスによる最近の感染(伝染性単核球症)なのか、過去の感染なのか、あるいは他のウイルスによる感染なのかを区別します。

その他の検査

必要に応じて、以下のような検査が行われることもあります。

  • 肝機能検査: 肝臓の腫れや機能障害の程度を評価するために、AST、ALTなどの酵素の値を測定します。
  • 画像検査: 脾臓の腫れが大きい場合や、脾臓破裂などの合併症が疑われる場合に、超音波検査やCTスキャンが行われることがあります。
  • 溶連菌迅速検査: のどの痛みが強い場合、溶連菌感染症との鑑別のために行われることがあります。

これらの検査結果と、患者さんの症状や診察所見を総合的に判断して、伝染性単核球症の診断が確定されます。

伝染性単核球症の治療法

伝染性単核球症に対する特効薬は現在のところありません。治療の主体は、症状を和らげ、体がウイルスと戦うのを助けるための対症療法と安静です。

基本的な治療:安静と対症療法

伝染性単核球症の回復には、十分な休息が最も重要です。

  • 安静: 熱が高い時期や倦怠感が強い時期は、無理せず自宅で安静に過ごすことが大切です。学校や仕事を休み、激しい運動は控えましょう。安静期間については、症状の程度や回復状況に応じて医師と相談してください。
  • 水分・栄養補給: 熱によって脱水が進みやすいため、こまめに水分を補給しましょう。のどの痛みが強い場合は、刺激の少ない柔らかい食事や、ゼリー、アイスクリームなど、食べやすいものを選ぶと良いでしょう。
  • 解熱剤・鎮痛剤: 高熱やのどの痛みがつらい場合は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤が処方されます。アスピリンはライ症候群との関連が指摘されているため、子供には通常使用されません。
  • うがい薬: のどの炎症を抑えるために、うがい薬が処方されることがあります。
  • ステロイド薬: 扁桃腺の腫れが非常に強く、呼吸が苦しい、食事が全く摂れないなど、重症な場合には、炎症を抑えるために短期間ステロイド薬が使用されることがあります。

これらの治療は、あくまで症状を和らげるためのものであり、ウイルスの働きを直接抑えるものではありません。体の免疫力がウイルスを排除するのを待つことになります。

治療中の注意点(抗菌薬、運動制限など)

伝染性単核球症の治療中に特に注意すべき点がいくつかあります。

  1. 抗菌薬(抗生物質)は効かない: 伝染性単核球症はウイルス感染症であるため、細菌感染症に効果がある抗菌薬は無効です。誤ってペニシリン系の抗菌薬を服用すると、体幹などに特徴的な発疹が出現する可能性が高いです。細菌感染を合併した場合(例:溶連菌感染症を同時に発症した場合など)を除いては、抗菌薬は使用されません。
  2. 運動制限: 脾臓が腫大している場合、脾臓破裂というまれではあるものの命に関わる合併症を起こすリスクがあります。脾臓は衝撃に弱くなるため、お腹をぶつける可能性のあるスポーツ(バスケットボール、ラグビー、柔道など)や、腹圧がかかる激しい運動は、脾臓の腫れが完全に引くまで避ける必要があります。脾臓のサイズは個人差や病状によって異なりますが、一般的には発症から1ヶ月程度は激しい運動を控えるように指導されることが多いです。脾臓の腫れが引いたかどうかは、医師の診察や超音波検査で確認します。
  3. アルコールの制限: 肝機能に影響が出ている場合があるため、回復するまではアルコールは控えるのが賢明です。

これらの注意点を守り、焦らず安静に過ごすことが、スムーズな回復と合併症予防につながります。

子供と大人の伝染性単核球症

伝染性単核球症は、年齢によって症状の現れ方や重症度が異なる傾向があります。

子供の場合の症状と特徴

乳幼児や幼い子供がEBウイルスに初めて感染した場合、ほとんどのケースで症状が出ない(不顕性感染)か、出ても軽い風邪のような症状で終わることが多いです。このため、保護者も気づかないうちに感染・回復していることが珍しくありません。感染経路としては、親からのキスや、おもちゃ、食器の共有などが考えられます。

しかし、幼児期後半や小学校低学年くらいで発症する場合もあります。この年代では、典型的な3主徴(高熱、咽頭痛、リンパ節腫脹)が全て揃うことは少なく、発熱やリンパ節の腫れが中心で、のどの痛みはそれほど強くない、といったケースも見られます。

大人の場合の発症と重症化リスク

伝染性単核球症は、思春期以降に初めてEBウイルスに感染した場合に、典型的な症状が強く現れやすい傾向があります。これは、幼い頃に感染機会がなく、免疫がEBウイルスに対して十分に発達していない状態で初めて大量のウイルスに曝露されるためと考えられています。

大人が伝染性単核球症にかかると、子供よりも症状が強く、長引くことがあります。特に、高熱や強い咽頭痛、全身の倦怠感が顕著で、日常生活に支障をきたすほどの強い症状が出ることがあります。回復後も疲労感が長く続くケースも、大人に比較的多く見られます。

また、高齢者や、がん治療などで免疫力が低下している人がEBウイルスに感染した場合、まれに慢性活動性EBウイルス感染症という、より重篤で難治性の病態に進展するリスクがあります。これは、ウイルスが体内で異常に増殖し続け、発熱、肝臓や脾臓の腫れ、血液の異常、臓器障害など、様々な重篤な症状を引き起こす病気です。

年齢によって症状の現れ方やリスクが異なるため、自身の年齢や体調に合わせて適切な対応が必要です。

伝染性単核球症の予後と合併症、再発

伝染性単核球症は、多くの場合、特別な治療をしなくても自然に回復する病気です。しかし、中には回復に時間がかかったり、まれに重篤な合併症を起こしたりすることがあります。

一般的な経過と回復期間

伝染性単核球症の典型的な経過は、症状の解説のセクションでも触れたように、発熱や咽頭痛が数週間続き、その後徐々に回復していくというものです。多くの患者さんは、発症から2~4週間程度で急性期の症状が軽快し、数ヶ月以内には完全に回復します。 ただし、回復期間には個人差があり、特に倦怠感は長引きやすい症状の一つです。

長期化する疲労感

伝染性単核球症から回復した後も、強い疲労感や倦怠感が数ヶ月にわたって続くことがあります。これはPost-viral fatigue(ウイルス感染後疲労)とも呼ばれ、伝染性単核球症の比較的よくある後遺症です。日常生活に支障をきたすほどの疲労感が6ヶ月以上続く場合は、慢性疲労症候群との関連も指摘されていますが、診断には他の疾患の除外なども含め、専門的な評価が必要です。この疲労感はつらいものですが、多くの場合は時間とともにゆっくりと改善していきます。焦らず、十分な休息をとりながら回復を待つことが大切です。

稀な合併症(脾破裂、脳炎、気道閉塞など)

伝染性単核球症は、通常は予後良好な病気ですが、まれに重篤な合併症を引き起こすことがあります。

  • 脾臓破裂: 最も注意すべき合併症の一つです。脾臓が腫大しているときに、腹部への衝撃や激しい運動などによって脾臓が破裂し、大量出血を起こす可能性があります。突然の強い腹痛(特に左上腹部)、肩への放散痛、めまい、血圧低下などの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。脾臓の腫れがある間は、運動制限が非常に重要です。
  • 神経系の合併症: 脳炎、髄膜炎、ギラン・バレー症候群、顔面神経麻痺などが起こることがあります。非常に稀ですが、意識障害、痙攣、手足の麻痺などの症状が現れた場合は注意が必要です。
  • 気道閉塞: 扁桃腺や周囲のリンパ組織の腫れがひどい場合、空気の通り道が狭くなり、呼吸困難を引き起こすことがあります。特に子供で見られることがあります。呼吸が苦しい場合は、ステロイドの使用や、場合によっては気管切開が必要になることがあります。
  • 血液系の合併症: 溶血性貧血、血小板減少、顆粒球減少などが起こることがあります。重症な場合は治療が必要になります。

これらの合併症は非常にまれですが、リスクがあることを理解し、体調の変化には注意を払う必要があります。

慢性活動性EBウイルス感染症

通常の伝染性単核球症が回復した後も、EBウイルスが体内で異常に増殖し続け、持続的な発熱、肝臓や脾臓の腫れ、リンパ節の腫れ、血液の異常、さらには臓器障害など、重篤で多様な症状が長期間にわたって続く病態を慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)といいます。これはEBウイルス感染症の中でも非常にまれな病気で、診断や治療が難しく、予後が悪いこともあります。特に東アジア地域に多く見られる傾向があります。通常の伝染性単核球症による長引く疲労感とは区別が必要であり、疑われる場合は専門医の診断が必要です。

再発の可能性

一度EBウイルスに感染すると、ウイルスは体内に潜伏し続けます。健康な状態であれば免疫によって抑えられていますが、ストレスや他の病気などで免疫力が著しく低下した場合に、潜伏していたウイルスが再び活性化(再活性化)することがあります。しかし、伝染性単核球症として典型的な症状が再度現れることは非常に稀です。多くの場合、再活性化しても症状が出ないか、出てもごく軽い症状で済むことが多いです。したがって、伝染性単核球症が何度も再発することは一般的ではありません。

伝染性単核球症の予防

伝染性単核球症の原因であるEBウイルスに対する有効なワクチンは、現在のところ実用化されていません。そのため、感染リスクを減らすための一般的な対策を行うことが予防につながります。

感染リスクを減らすための対策

EBウイルスは主に唾液を介して感染するため、以下のような対策が有効です。

  • 手洗いとうがい: 外出から帰った後や食事の前などに、石鹸を使った手洗いと、可能であればうがいを行いましょう。
  • 食器やコップの共有を避ける: 特に感染が疑われる人や、体調が悪い人との間で、コップ、箸、スプーンなどの食器を共有することは避けましょう。
  • キスや密接な接触の制限: 感染者の唾液に接触する機会を減らすため、体調が悪い人とのキスや、過度に密接な接触は控えめにしましょう。
  • 体調管理: 十分な睡眠やバランスの取れた食事を心がけ、体の免疫力を良好に保つことも大切です。免疫力が低下していると、ウイルスに感染しやすくなったり、感染した場合に症状が出やすくなったりする可能性があります。

これらの対策は、伝染性単核球症だけでなく、他の様々な感染症の予防にもつながります。特に、家族の中に伝染性単核球症にかかった人がいる場合は、他の家族への感染リスクを減らすために、食器の共有を避けるなどの注意が必要です。

伝染性単核球症についてよくある質問(Q&A)

伝染性単核球症に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。

大人がEBウイルスに感染するとどうなりますか?

大人が初めてEBウイルスに感染した場合、子供の頃に感染した場合と比べて、伝染性単核球症として典型的な症状(高熱、強い咽頭痛、リンパ節腫脹)が強く現れやすく、症状も長引く傾向があります。 全身の倦怠感も顕著で、回復に数ヶ月かかることもあります。子供の場合は不顕性感染が多いのに対し、大人は顕性感染(症状が出る感染)になりやすいと言えます。

伝染性単核球症はなぜ感染するのですか?

伝染性単核球症は、主にエプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)というウイルスに感染することによって引き起こされます。EBウイルスはヘルペスウイルス科に属するウイルスで、ヒトの体液、特に唾液の中に存在しています。このウイルスを含む唾液が、非感染者の口の中に入ることで感染が成立します。

キス以外でも伝染性単核球症にかかりますか?

はい、キス以外でも感染します。EBウイルスは唾液を介して感染するため、感染者の唾液が付着した食器やコップの共有、あるいは感染者の咳やくしゃみによる飛沫を吸い込むことでも感染する可能性があります。特に乳幼児期には、親や兄弟からの食器共有などで感染することが多いと考えられています。

伝染性単核球症で死亡することはありますか?

伝染性単核球症自体で死亡することは極めてまれです。多くの場合、症状は自然に回復し、予後良好な病気です。しかし、非常にまれに、脾臓破裂や重篤な神経系の合併症、あるいは気道閉塞など、命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。また、非常にまれな病態である慢性活動性EBウイルス感染症に移行した場合は、予後が悪いこともあります。これらの合併症はごく一部の患者さんで起こるものであり、過度に心配する必要はありませんが、注意すべき症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。

伝染性単核球症は人にうつりますか?

はい、伝染性単核球症は人にうつります。感染者の唾液を介して感染が広がります。 症状のある急性期はもちろんですが、回復した後もしばらくの間、あるいは免疫力が低下した際には唾液中にウイルスが排出されるため、人にうつす可能性があります。ただし、インフルエンザや風邪ほど強い感染力があるわけではなく、比較的濃厚な接触(キスや食器の共有など)が必要です。

伝染性単核球症はどのくらいで治りますか?

伝染性単核球症の急性期の症状(高熱、強いのどの痛みなど)は、通常2~4週間程度でピークを過ぎ、徐々に改善していきます。しかし、全身の倦怠感や疲労感は、症状がなくなってからも数ヶ月にわたって続くことがあります。完全に体調が回復するまでには、個人差がありますが、数ヶ月かかる場合もあります。

伝染性単核球症と風邪・扁桃腺炎との違いは?

症状が似ているため区別が難しい場合がありますが、いくつかの点で異なります。伝染性単核球症は高熱が長期間続き、のどの痛みや扁桃腺の腫れが非常に強く、首のリンパ節の腫れが顕著であることが特徴です。また、全身の強い倦怠感が長く続きます。一般的な風邪は通常、鼻水や咳が中心で、発熱やのどの痛みは比較的軽度で短期間です。扁桃腺炎は細菌感染(溶連菌など)によるものでも起こり、高熱や強いのどの痛みが特徴ですが、伝染性単核球症のように全身のリンパ節が腫れたり、強い倦怠感が長く続いたりすることは比較的少ないです。診断の確定には、血液検査で異型リンパ球の増加やEBウイルス抗体を確認する必要があります。

伝染性単核球症は妊娠に影響しますか?

妊娠中にEBウイルスに感染した場合、伝染性単核球症として発症することはまれです。ほとんどの女性は妊娠する前にEBウイルスに感染しており、抗体を持っているためです。妊娠初期にEBウイルスに初めて感染した場合の胎児への影響については、サイトメガロウイルスなどの他のヘルペスウイルスほど明確なリスクは確立されていませんが、先天性の感染を引き起こす可能性は否定できません。ただし、そのリスクは非常に低いと考えられています。妊娠中に伝染性単核球症の症状が出た場合は、かかりつけの産婦人科医に相談し、適切な診断と管理を受けることが重要です。

【まとめ】伝染性単核球症について不安を解消し、適切に対処しよう

伝染性単核球症は、主にEBウイルスによって引き起こされる感染症で、思春期以降に初めて感染した場合に、高熱、強い咽頭痛、リンパ節腫脹といった特徴的な症状が出やすい病気です。「キス病」という別名がありますが、キス以外の唾液を介した接触でも感染します。診断は血液検査によって行われ、治療は安静と症状を和らげるための対症療法が中心となります。

子供の場合は不顕性感染が多い一方、大人がかかると症状が強く出やすく、回復後も倦怠感が長く続くことがあります。まれに脾臓破裂などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、脾臓が腫れている間の激しい運動は厳禁です。特効薬やワクチンはありませんが、手洗いや食器の共有を避けるなど、一般的な感染対策が予防につながります。

伝染性単核球症は多くの場合、自然に回復する病気ですが、回復には時間がかかることもあります。もしご自身やご家族が伝染性単核球症のような症状(特に、風邪や扁桃腺炎にしては熱やだるさが長引く、首のリンパ節が腫れているなど)が見られる場合は、自己判断せず、早めに医療機関を受診して正確な診断を受けることが大切です。医師の指導のもと、安静に過ごし、適切なケアを行うことで、回復を早め、合併症のリスクを減らすことができます。この情報が、伝染性単核球症に対する理解を深め、不安を解消するための一助となれば幸いです。

免責事項: 本記事は伝染性単核球症に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医師の診断や治療の代わりとなるものではありません。個々の症状や状況については、必ず医療機関を受診し、医師の指導を受けてください。

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