「肋間神経痛かもしれない…」「この胸や脇腹の痛みは何?」そんな不安を抱えていませんか?肋間神経痛は、肋骨に沿って走る神経が何らかの原因で刺激され、突然または持続的に痛みが生じる症状です。チクチク、ピリピリ、ズキズキと、その痛み方はさまざまですが、日常生活に大きな影響を与えることも少なくありません。この記事では、肋間神経痛の原因から具体的な症状、病院での治し方、ご自宅でできるセルフケア、そして何科を受診すべきかまで、あなたが知りたい情報を網羅的に解説します。辛い痛みを解消し、安心して毎日を過ごすためにも、ぜひ最後まで読んでみてください。
肋間神経痛とは
肋間神経痛の基本的な知識
肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)とは、その名の通り、肋骨の間を走る「肋間神経」が何らかの理由で刺激を受けたり、障害されたりすることによって起こる神経の痛みです。肋間神経は、胸椎(背骨の胸の部分)から始まり、肋骨に沿って体の前面へと伸びています。この神経は、呼吸や体の動きに関わる筋肉、そして胸やお腹の一部の皮膚の感覚を司っています。
痛みは、この肋間神経が通っている経路に沿って、帯状に、あるいは点や線で現れることが特徴です。多くの場合、体の左右どちらか一方だけに症状が出ますが、まれに両側に痛みを感じることもあります。年齢や性別を問わず起こりうる症状ですが、特に姿勢の悪さやストレス、特定の病気が原因となることがあります。
痛みを感じたときに「心臓や肺の病気では?」と心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、肋間神経痛の場合は、神経自体の問題や周囲の組織の影響で起こる痛みが主体です。ただし、痛みの原因を正確に特定するためには、他の病気との鑑別が非常に重要になります。
肋間神経痛の主な症状
肋間神経痛の痛みは、その原因や個人によって感じ方が大きく異なります。共通する特徴としては、肋骨に沿った領域に痛みが出ること、そしてしばしば特定の動作や刺激で痛みが誘発されることが挙げられます。
初期症状と痛みの特徴
肋間神経痛の初期症状は、突然の鋭い痛みとして現れることが多いです。まるで電気が走るような「電撃痛」や、ナイフで刺されたような「刺すような痛み」を感じる方もいます。痛みが始まった直後は、その強さや突然の発生に驚くかもしれません。
この初期の痛みは、数秒から数分で治まることもありますが、しばらく続くこともあります。痛みの頻度も人によって異なり、一日に何度も痛むこともあれば、数日に一度だけということもあります。
痛みを感じる場所は、背中から脇腹を通って胸、お腹にかけての肋骨に沿ったライン上のどこかです。特定の肋骨のレベルで、ピンポイントに痛むこともあれば、比較的広い範囲に鈍い痛みとして現れることもあります。
痛みの種類と現れ方
肋間神経痛の痛みにはいくつかの種類があり、どのように現れるかによって原因の手がかりになることもあります。
痛みの種類 | 特徴 | よくある原因 |
---|---|---|
刺すような痛み | 鋭く、瞬間的な痛み。特定の場所でピンポイントに感じやすい。 | 骨折、打撲、神経の圧迫など |
電気が走る痛み | ピリピリ、チクチク、ビリビリといったしびれ感を伴う痛み。急に始まる。 | 帯状疱疹、神経の炎症や損傷 |
締め付けられる痛み | 胸や脇腹が締め付けられるように感じる痛み。重苦しさを伴うことも。 | 筋肉の緊張、ストレス、姿勢の悪さ |
ズキズキする痛み | 脈打つような、拍動性の痛み。 | 炎症、血管の拡張など |
鈍い痛み | 鋭さはなく、重苦しい、漠然とした痛み。広い範囲に感じやすい。 | 慢性的な筋肉の緊張、姿勢、ストレスなど |
痛みが特定の動作で強くなることも、肋間神経痛の大きな特徴です。例えば、
深呼吸や咳、くしゃみをしたとき
体をねじる、曲げるなど、体幹を動かしたとき
特定の場所に触れたり、圧迫したりしたとき(押すと痛い場所がある)
これらの動作によって、肋骨や周囲の筋肉が動き、肋間神経が刺激されて痛みが誘発されると考えられています。特に深呼吸や咳での痛みは、肺や心臓の病気を疑わせることもありますが、肋間神経痛であることも多いため、自己判断は禁物です。
左右どちらに多いか
肋間神経痛は、ほとんどの場合、体の左右どちらか一方に痛みが出ます。これは、肋間神経が体の片側に沿って走っているためです。痛みが右側に出ることもあれば、左側に出ることもあり、どちらかに多いということはありません。
もし痛みが体の両側同時に出る場合や、痛む場所が頻繁に左右を移動する場合は、肋間神経痛以外の原因も考慮する必要があります。特に広範囲にわたる痛みや、痛む場所がはっきりしない場合は注意が必要です。
痛みが続く場合(ずっと痛い)
多くの肋間神経痛は、原因が一時的なものであれば、数日から数週間で痛みが和らいでいきます。しかし、中には痛みが持続したり、慢性化したりするケースもあります。「ずっと痛い」「何ヶ月も痛みが続いている」という場合は、以下のような原因が考えられます。
原因疾患が治癒していない: 骨折や脊椎の病気などが改善しない限り、痛みが続くことがあります。
帯状疱疹後神経痛: 帯状疱疹の皮膚症状が治まった後も、損傷した神経の痛みが長く残ることがあります。これは数ヶ月から数年続くこともあり、非常に辛い慢性痛の一つです。
精神的な要因: 長期にわたるストレスや不安が、痛みの感じ方を変化させ、痛みが慢性化することがあります。
痛みの悪循環: 痛みによって体が緊張し、血行が悪くなり、さらに痛みを強く感じるという悪循環に陥っている場合。
痛みが長期間続く場合は、単なる肋間神経痛として捉えるのではなく、その背景にある原因をしっかりと調べ、適切な治療を受けることが非常に重要です。自己判断で我慢せず、早めに医療機関を受診しましょう。
肋間神経痛の原因
肋間神経痛の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて原因が特定できる「続発性肋間神経痛」と、原因がはっきりしない「特発性肋間神経痛」の2種類があります。
特発性肋間神経痛
「特発性(とくはつせい)」とは、「原因不明」という意味です。検査をしても、肋骨や脊椎、神経そのものに明らかな異常が見つからないにも関わらず、肋間神経痛の症状が現れる場合があります。これを特発性肋間神経痛と呼びます。
特発性肋間神経痛は、精神的なストレスや疲労が深く関わっていると考えられています。強いストレスや心労、睡眠不足などが続くと、自律神経のバランスが乱れ、体の筋肉が緊張しやすくなったり、血行が悪くなったりします。その結果、肋間神経が刺激されやすくなり、痛みを引き起こすことがあります。
また、急な寒暖差による体の冷えや、長時間同じ姿勢でいることによる体の歪み、運動不足なども、筋肉の緊張や血行不良を招き、特発性肋間神経痛の原因となる可能性があります。
このように原因がはっきりしない場合でも、痛みは確かに存在します。痛みの原因が特定できないからといって、「気のせい」で済ませず、症状に応じた適切な対処や治療を行うことが大切です。
続発性肋間神経痛
続発性肋間神経痛は、何らかの病気や外傷など、痛みの原因が明確に特定できるタイプの肋間神経痛です。原因となる疾患や状況を治療することで、痛みの改善が期待できます。
骨折・変形などの外傷
肋骨や脊椎の骨折、ヒビ、打撲などの外傷は、直接的に肋間神経を損傷したり、圧迫したりすることで激しい痛みを引き起こします。特に肋骨骨折では、咳やくしゃみ、深呼吸など、胸郭が動くたびに痛みが強くなることが特徴です。骨が治癒する過程で痛みが和らぐことが多いですが、神経の損傷が強い場合は痛みが長引くこともあります。
脊椎や肋骨の病気
脊椎(背骨)に異常がある場合、そこから枝分かれして肋間神経となる神経根が圧迫されることがあります。
椎間板ヘルニア: 背骨の間にあるクッション(椎間板)が飛び出し、神経を圧迫します。胸椎のヘルニアは比較的まれですが、起こると肋間神経痛の原因となります。
変形性脊椎症: 加齢などにより背骨が変形し、骨棘(骨のトゲ)ができて神経を刺激します。
脊椎分離症・すべり症: 背骨の一部がずれることで神経が圧迫されることがあります。
側弯症: 背骨が横に湾曲している状態です。重度の側弯症の場合、肋骨や神経に負担がかかり、痛みを引き起こすことがあります。
脊椎や肋骨の腫瘍: 腫瘍が神経を直接圧迫したり、骨を破壊したりすることで激しい痛みを起こします。
これらの病気による肋間神経痛は、安静時にも痛むことがあり、進行性の痛みを伴う場合は注意が必要です。
帯状疱疹
帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが、神経節に潜伏していて、免疫力が低下した際に再活性化して起こる病気です。このウイルスは神経に沿って増殖し、神経に炎症を起こします。
帯状疱疹の痛みは、多くの場合、皮膚に発疹が現れる数日前から始まります。ピリピリ、チクチク、焼けつくような痛みで、体の片側に帯状に現れるのが特徴です。痛みの後に、赤い発疹ができ、やがて水ぶくれになります。この水ぶくれが破れてかさぶたになり、治癒していきます。
肋間神経に沿って発症することが多く、これが肋間神経痛の代表的な原因の一つです。発疹が治った後も痛みが続く場合があり、これを「帯状疱疹後神経痛」と呼びます。帯状疱疹は、早期に抗ウイルス薬による治療を開始することが、痛みの軽減や帯状疱疹後神経痛への移行を防ぐ上で非常に重要です。
ストレスや疲労
前述の特発性肋間神経痛の原因としても挙げましたが、ストレスや疲労は、続発性の場合でも痛みを増悪させる要因となります。原因となる疾患があっても、精神的な負担や肉体的な疲労が大きいと、痛みがより強く感じられたり、回復が遅れたりすることがあります。心と体は密接に関わっていることを理解しておくことが大切です。
ビタミン不足
特定のビタミン、特にビタミンB群(ビタミンB1、B6、B12など)の不足が、神経の機能に影響を与える可能性が指摘されています。これらのビタミンは、神経細胞のエネルギー代謝や神経伝達物質の生成、神経の修復に関わっているため、不足すると神経の働きが悪くなり、痛みを引き起こしやすくなったり、痛みが治りにくくなったりすることが考えられます。バランスの取れた食事は、神経の健康を保つ上で重要です。
肋間神経痛の検査と診断
肋間神経痛の痛みに悩んだら、まずは医療機関を受診することが大切です。医師は様々な検査を通して、痛みの原因を特定し、適切な診断を下します。自己判断で済ませず、専門家の診察を受けましょう。
医療機関での問診と診察
病院に着いたら、まずは医師による丁寧な問診と診察が行われます。問診では、以下のようなことを具体的に聞かれます。
いつから痛みが始まりましたか?
痛む場所はどこですか?(体のどこで、どの範囲が痛むか)
どのような種類の痛みですか?(刺すような痛み、ピリピリ、ズキズキなど)
痛みはどのようなときに強くなりますか?(深呼吸、咳、体の動き、特定の姿勢など)
痛みの頻度や持続時間は?
他にどのような症状がありますか?(発熱、発疹、しびれ、呼吸困難、胸の圧迫感など)
過去に怪我や病気をしたことはありますか?(肋骨骨折、帯状疱疹など)
現在、服用している薬はありますか?
仕事や生活習慣、ストレスについて
これらの情報から、医師は痛みの原因についての手がかりを得ます。
次に、身体診察が行われます。
圧痛点: 痛む場所やその周囲を軽く押して、特に痛みが強く出る場所(圧痛点)を確認します。
皮膚の状態: 帯状疱疹の可能性を調べるために、発疹や水ぶくれがないか、皮膚の色などを詳しく観察します。
体の動き: 体を曲げたり、ねじったりする動作をしてもらい、痛みが誘発されるかを確認します。
呼吸の様子: 深呼吸をしてもらい、呼吸が痛みに影響するかを確認します。
これらの問診と診察は、痛みの原因を絞り込むための非常に重要なステップです。緊張せず、感じている症状を正直に伝えましょう。
画像検査(レントゲンなど)
問診や診察だけでは痛みの原因を特定できない場合や、骨や脊椎の異常が疑われる場合には、画像検査が行われます。
レントゲン検査(X線検査): 肋骨や脊椎の骨折、ヒビ、変形、側弯症などを確認するために最も一般的に行われる検査です。骨の異常が原因であれば、レントゲンで診断できることがあります。
CT検査: レントゲンよりも詳細な断面画像を得ることができます。脊椎の小さな骨折や変形、椎間板の状態などを詳しく調べたい場合に用いられます。
MRI検査: 骨だけでなく、神経、筋肉、椎間板、靭帯などの軟部組織の状態を詳しく調べることができます。椎間板ヘルニアや脊椎の腫瘍など、神経を圧迫している原因を特定するために有用です。
超音波検査: 肋骨周囲の筋肉や軟部組織の状態、または胸水などが溜まっていないかなどを調べることがあります。
画像検査は、骨や構造的な異常が痛みの原因となっているかを判断するのに役立ちますが、神経自体の炎症や、ストレスによる筋肉の緊張など、画像には映らない原因も多くあります。そのため、画像検査で異常が見つからなくても、肋間神経痛と診断されることはよくあります。
鑑別診断の重要性
肋間神経痛と似たような症状を引き起こす病気はたくさんあります。特に胸部の痛みは、命に関わる病気のサインである可能性も否定できません。そのため、肋間神経痛の診断においては、これらの他の病気を除外する(鑑別診断)ことが非常に重要です。
肋間神経痛と鑑別が必要な主な病気には、以下のようなものがあります。
心臓の病気: 狭心症、心筋梗塞など。胸の痛みや圧迫感、左肩への放散痛などが特徴ですが、肋間神経痛と間違われることもあります。
肺や胸膜の病気: 肺炎、胸膜炎、気胸など。咳、呼吸困難、発熱などを伴うことが多く、呼吸時の痛みが肋間神経痛と似ることがあります。
消化器系の病気: 胃潰瘍、胆嚢炎など。上腹部や背中の痛みが肋骨のあたりに感じられることがあります。
その他: 乳腺の病気、筋肉痛、筋膜炎など。
医師は、問診、診察、必要に応じた検査(心電図、血液検査など)を組み合わせて、これらの重篤な病気の可能性がないかを慎重に判断します。自己判断で「きっと肋間神経痛だろう」と決めつけず、必ず医療機関で専門家の診断を受けましょう。
自己チェックの方法
医療機関での正確な診断が最も重要ですが、ご自身の痛みの特徴を知ることは、受診時に医師に伝える上でも役立ちます。あくまで参考としての自己チェックポイントです。
痛む場所はどこか? 具体的に指で示せる場所があるか、広範囲に及ぶか。
痛みは片側か、両側か?
どのような種類の痛みか? 刺すような痛み、ピリピリ、ズキズキ、鈍痛など。
どんな時に痛みが強くなるか? 深呼吸、咳、体の動き、特定の姿勢、押したときなど。
痛みの他に症状はあるか? 発疹、しびれ、熱、息苦しさなど。
最近、体に強い衝撃を受けたり、帯状疱疹になったりしたか?
強いストレスや疲労が続いているか?
これらの点を意識して観察し、メモしておくと良いでしょう。ただし、これらの情報だけで自己診断せず、必ず医療機関を受診してください。特に、痛みが強い、痛みが続く、他の症状(息苦しさ、発熱、発疹など)がある場合は、迷わず医師に相談しましょう。
肋間神経痛の治し方・治療法
肋間神経痛の治療は、痛みの原因に応じて行われます。原因が特定できる場合は、その原因を取り除く治療が基本となります。原因がはっきりしない場合や、原因治療だけでは痛みが改善しない場合は、痛みを和らげる対症療法が行われます。
病院での治療
薬物療法(鎮痛薬など)
痛みを抑えるために、様々な種類の薬が用いられます。医師は痛みの種類や程度、患者さんの体質や他の病気を考慮して、適切な薬を処方します。
薬剤の種類 | 特徴・効果 | 副作用・注意点 |
---|---|---|
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | 炎症を抑え、痛みを和らげます。ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなど。内服薬、坐薬、湿布薬など。 | 胃腸障害、腎機能障害、アレルギーなど。長期使用や空腹時の服用に注意。 |
アセトアミノフェン | 炎症を抑える作用は弱いですが、鎮痛作用があります。比較的副作用が少ないとされます。 | 用量を守らないと肝機能障害のリスクがあります。 |
神経障害性疼痛治療薬 | 神経そのものの異常による痛み(神経痛)に効果があります。プレガバリン、デュロキセチンなど。帯状疱疹後神経痛などに用いられることが多い。 | 眠気、めまい、吐き気など。効果が出るまで時間がかかることがあります。医師の指示通りに服用量を調整することが重要。 |
筋弛緩薬 | 筋肉の緊張が痛みの原因となっている場合に、筋肉のこわばりを和らげます。 | 眠気、ふらつきなど。 |
弱オピオイド鎮痛薬 | 上記の薬で痛みがコントロールできない場合に考慮されることがあります。トラマドールなど。 | 眠気、便秘、吐き気など。依存性にも注意が必要です。 |
貼り薬・塗り薬 | 湿布薬(NSAIDs含む)、鎮痛クリーム、カプサイシン含有クリームなど。局所的に痛みを和らげます。 | 皮膚のかぶれ、かゆみなど。カプサイシン製剤は温感刺激があります。 |
これらの薬は、痛みを根本的に治すものではなく、あくまで痛みを和らげるための対症療法です。医師の指示に従い、正しく服用することが大切です。市販薬を使用する場合は、薬剤師に相談するか、添付文書をよく読んでから使用しましょう。
神経ブロック注射
痛みが非常に強い場合や、薬物療法では十分に痛みが抑えられない場合に考慮される治療法です。痛みの原因となっている神経の周囲に、局所麻酔薬やステロイド薬などを注射し、痛みの信号が脳に伝わるのを遮断します。
肋間神経ブロック注射は、肋骨に沿って痛む箇所に行われます。注射の効果で一時的に痛みが消失したり、軽減したりすることが期待できます。痛みの悪循環を断ち切る効果も期待できます。
効果の持続時間には個人差があり、一度の注射で痛みが長期間改善することもあれば、繰り返し注射が必要な場合もあります。注射にはわずかなリスク(内出血、気胸など)も伴うため、経験のある医師が行う必要があります。
原因疾患への治療
続発性肋間神経痛の場合、根本的な治療は原因となっている病気を治すことです。
骨折: ギプス固定やテーピングなどで患部を安静にし、骨が癒合するのを待ちます。強い痛みには鎮痛薬が用いられます。
脊椎や肋骨の病気: 病気の種類に応じて、装具療法、リハビリテーション、薬物療法、または手術が必要になる場合があります。
帯状疱疹: 早期(発疹が出てから72時間以内が目安)に抗ウイルス薬の内服や点滴を行います。これにより、ウイルスの増殖を抑え、痛みの軽減や帯状疱疹後神経痛の予防につながります。
腫瘍: 手術による切除、放射線療法、化学療法などが病気の種類や進行度に応じて行われます。
原因疾患を放置すると、痛みが悪化したり、神経の損傷が進行したりする可能性があります。正確な診断に基づいた原因治療をしっかりと行うことが、痛みの根本的な解決につながります。
自宅でできるセルフケア
病院での治療と並行して、ご自宅でできるセルフケアも痛みの軽減や再発予防に役立ちます。ただし、痛みが強い時や、原因がはっきりしない時は無理に行わず、まずは医師に相談しましょう。
安静と休養
痛みが強い急性期は、無理な動作を避け、患部を安静にすることが大切です。痛む側の体を下にして寝たり、痛みを誘発するような姿勢や動きは避けましょう。十分に睡眠をとり、心身を休めることも、体の回復力を高め、痛みを和らげるために重要です。
温める・冷やす
温めるか冷やすかは、痛みの性質や原因によって使い分けます。
温める: 慢性的な痛みや、筋肉の緊張、血行不良が原因と考えられる痛みには、患部を温めることが有効な場合があります。蒸しタオル、ホットパック、カイロ、温湿布などを使ってみましょう。入浴でゆっくり体を温めるのも効果的です。温めることで筋肉がリラックスし、血行が改善され、痛みが和らぐことが期待できます。
冷やす: 打ち身や急性の炎症による痛み、または痛みが非常に強い急性期には、患部を冷やすことで炎症を抑え、痛みを和らげることができます。氷を入れた袋や冷却パックなどをタオルで包み、患部に当てます。ただし、長時間冷やしすぎると血行が悪くなることがあるため、15〜20分程度を目安に行いましょう。
どちらが良いか迷う場合は、試してみて痛みが楽になる方を選んでください。
正しい姿勢の維持
猫背や前かがみ、長時間同じ姿勢で座り続けることなどは、脊椎や肋骨、周囲の筋肉に負担をかけ、肋間神経を刺激する原因となります。普段から正しい姿勢を意識することが大切です。
座るとき: 背筋を伸ばし、骨盤を立てて座るように心がけましょう。長時間座る場合は、ときどき立ち上がって軽く体を動かす休憩を挟むと良いです。
立つとき: 体の重心を意識し、左右の足に均等に体重をかけ、まっすぐ立つようにしましょう。
寝るとき: 硬すぎず柔らかすぎないマットレスを選び、体に負担のかからない寝姿勢を見つけましょう。抱き枕を使ったり、膝の下にクッションを挟んだりするのも有効です。
ストレッチ・体操
痛みが和らいで安定してきたら、無理のない範囲で軽いストレッチや体操を取り入れることが、筋肉の柔軟性を保ち、血行を促進し、再発予防につながります。
深呼吸: 痛みが許す範囲で、ゆっくりと深い呼吸を行います。腹式呼吸を意識すると、胸郭の動きがスムーズになり、肋間筋の緊張が和らぐことがあります。
肩甲骨ストレッチ: 肩甲骨を大きく回したり、寄せたりする運動は、背中周りの筋肉をほぐし、姿勢改善にも役立ちます。
体幹の軽いひねり: 座ったままで、上半身をゆっくりと左右にひねる運動も、硬くなった筋肉をほぐすのに有効ですが、痛みが強い場合は控えましょう。
無理に行うと痛みを悪化させる可能性があるため、少しでも痛みを感じたら中止してください。どのような体操が良いか不安な場合は、医師や理学療法士に相談しましょう。
食事・栄養(ビタミンB群など)
バランスの取れた食事は、体全体の健康はもちろん、神経の機能維持や修復にも重要です。特にビタミンB群は神経の働きに関わるため、意識して摂りたい栄養素です。
ビタミンB1: 豚肉、玄米、大豆製品など
ビタミンB6: かつお、まぐろ、バナナ、にんにくなど
ビタミンB12: 魚介類、肉類、乳製品など
これらの栄養素を豊富に含む食品を積極的に食事に取り入れましょう。また、神経の炎症を抑える働きが期待されるオメガ3脂肪酸(青魚、アマニ油など)や、筋肉の健康に関わるタンパク質などもバランス良く摂取することが推奨されます。
食事からの摂取が難しい場合は、サプリメントで補うことも考えられますが、あくまで食事からの摂取を基本とし、サプリメントに頼りすぎるのは避けましょう。
肋間神経痛でしてはいけないこと
肋間神経痛の痛みを悪化させたり、回復を遅らせたりする可能性のある行動や習慣があります。痛みを早く改善し、再発を防ぐためにも、これらを避けるようにしましょう。
避けるべき行動や習慣
無理な運動: 痛みが強いのに無理に体を動かしたり、負荷のかかる運動をしたりすると、神経や周囲の組織にさらに負担がかかり、痛みが悪化する可能性があります。痛みが落ち着くまでは、激しい運動は控えましょう。
重い物を持つ: 重い物を持つ際には、体幹の筋肉が緊張し、脊椎や肋骨に負担がかかります。これにより、肋間神経が刺激され、痛みが誘発されやすくなります。
体を急にひねる・ねじる: 体を急激にひねったり、無理な体勢で体をねじったりすると、肋骨や筋肉に大きなストレスがかかり、痛みが悪化する可能性があります。
長時間同じ姿勢: 長時間座りっぱなしや立ちっぱなしなど、同じ姿勢を続けると、特定の筋肉や関節に負担がかかり、血行が悪くなります。特に猫背などの悪い姿勢は、肋間神経への負担を増やします。こまめに姿勢を変えたり、ストレッチしたりすることが大切です。
過度な飲酒・喫煙: 喫煙は血行を悪化させ、組織への酸素供給を妨げるため、痛みの回復を遅らせる可能性があります。過度な飲酒も、体の回復力を低下させる可能性があります。
痛みを我慢しすぎる: 痛みを我慢しすぎると、体が必要以上に緊張し、痛みの悪循環に陥りやすくなります。また、他の病気のサインを見逃してしまう可能性もあります。辛い時は無理せず、適切に対処するか、医療機関を受診しましょう。
痛みを悪化させる要因
上記の行動以外にも、日常の中に痛みを悪化させる要因が潜んでいることがあります。
冷え: 体が冷えると筋肉が収縮し、血行が悪くなります。特に冬場や冷房の効いた場所では、体を冷やさないように注意し、腹巻きや温かい服装などで体を温めましょう。
ストレスや不安: 精神的なストレスや、痛みが続くことへの不安は、痛みの感じ方を過敏にさせたり、筋肉の緊張を高めたりして、痛みを悪化させることがあります。リラックスできる時間を作ったり、趣味を楽しんだりするなど、ストレスを解消する方法を見つけましょう。
寝不足: 十分な睡眠は、体の修復や疲労回復に不可欠です。寝不足が続くと、体の回復力が低下し、痛みが治りにくくなることがあります。
不適切な寝具: 体に合わないマットレスや枕は、寝ている間に体に負担をかけ、姿勢を悪くしたり、筋肉を緊張させたりすることがあります。
合わない靴: 足元が不安定だと、体全体のバランスが崩れ、知らず知らずのうちに体幹に負担がかかっていることがあります。
ご自身の生活習慣を振り返り、痛みを悪化させている可能性のある要因を見つけて改善していくことが、痛みの緩和と再発予防につながります。
肋間神経痛は何科を受診すべきか
胸や脇腹の痛みを感じたとき、「何科に行けばいいのだろう?」と迷う方は多いでしょう。痛みの原因によって適切な診療科が異なりますが、まずはかかりつけ医に相談するか、以下を参考に受診科を選んでみてください。
主な受診科
肋間神経痛の可能性を考えた場合に、主に検討される診療科は以下の通りです。
整形外科: 骨や関節、筋肉、神経の病気を専門とする科です。骨折、脊椎の変形、椎間板ヘルニアなど、骨や脊椎の異常が原因の肋間神経痛である可能性が高い場合に適しています。レントゲンやMRIなどの画像検査も行えます。
内科: 全身の臓器の病気を診る科です。肋間神経痛に似た症状を引き起こす心臓、肺、消化器系の病気などを鑑別するために、まずは内科を受診するという選択肢もあります。特に、咳、呼吸困難、胸の圧迫感、発熱、消化器症状などを伴う場合は、内科での診察が必要です。
神経内科: 脳や脊髄、末梢神経など、神経系の病気を専門とする科です。神経自体の炎症や障害(帯状疱疹後神経痛など)が疑われる場合に適しています。
ペインクリニック: 痛みの診断と治療を専門とする科です。原因が特定できない痛みや、他の科の治療で痛みが改善しない場合に、神経ブロック注射などの専門的な痛みの治療を受けることができます。
まずはかかりつけ医に相談するのが最もスムーズな場合が多いです。かかりつけ医は、患者さんの既往歴や全体の状態を把握しているため、適切な科への紹介を含め、最初のアドバイスを得られます。
また、症状によっては、複数の科の診察が必要になる場合もあります。例えば、整形外科で骨の異常は見つからなかったが、神経痛の症状が強い場合は神経内科やペインクリニックを紹介される、といった流れになることもあります。
受診の目安となる症状
どのような症状が出たら医療機関を受診すべきでしょうか? 特に以下のような症状がある場合は、早めに受診することをおすすめします。
痛みが非常に強い、または痛みが時間とともに悪化する。
痛みが数日経っても改善しない、または痛みが続く。
痛む場所が徐々に広がってくる。
痛み以外に、息苦しさ、呼吸困難、胸の圧迫感がある。
発熱がある。
皮膚に発疹や水ぶくれが現れた(帯状疱疹の可能性)。
手足のしびれや脱力感がある。
体重が減少した、食欲がないなど、全身の症状を伴う。
安静にしていても痛む。
これらの症状は、単なる肋間神経痛ではなく、より重篤な病気が隠れている可能性を示唆しています。不安を感じながら過ごすよりも、一度専門家に見てもらうことで、安心できる場合も多いです。迷ったら、まずは医療機関に相談しましょう。
肋間神経痛に関するよくある質問(FAQ)
肋間神経痛について、患者さんからよく聞かれる質問とその回答をまとめました。
肋間神経痛を自分で治す方法はありますか?
肋間神経痛の症状を緩和するために、ご自宅でできるセルフケア(安静、温める・冷やす、姿勢の改善、軽いストレッチ、栄養バランスの取れた食事など)は有効ですが、これらの方法だけで痛みを根本的に「治す」ことは難しい場合があります。特に、骨折や帯状疱疹、脊椎の病気など、原因が明確な場合は、その原因に対する専門的な治療が必要です。自己判断で済ませず、まずは医療機関を受診して痛みの原因を正確に診断してもらい、適切な治療やセルフケアについてアドバイスを受けることが大切です。
肋間神経痛はビタミン不足が原因ですか?
ビタミン、特にビタミンB群の不足が神経の働きに影響を与え、肋間神経痛の一因となる可能性はあります。しかし、ビタミン不足だけが原因で肋間神経痛になるというわけではありません。骨折や帯状疱疹、脊椎の病気、ストレスなど、他の様々な原因が考えられます。ビタミンB群を意識して摂ることは神経の健康維持に役立ちますが、痛みの原因を特定するためには、やはり医療機関での検査が必要です。
肋間神経痛はストレスが原因ですか?
はい、ストレスは肋間神経痛の重要な原因の一つと考えられています。特に、検査で明らかな身体的な異常が見つからない「特発性肋間神経痛」の場合、精神的なストレスや疲労が痛みの誘発や増悪に深く関わっていることが多いです。ストレスによって体が緊張し、筋肉が硬くなり、血行が悪くなることが神経への刺激につながります。ストレス管理やリラクゼーションも、肋間神経痛の治療や予防において考慮すべき重要な要素です。
肋間神経痛はずっと痛いものですか?
肋間神経痛の痛みがどのくらい続くかは、その原因や個人の状態によって大きく異なります。一時的な筋肉の緊張や姿勢の問題が原因であれば、数日から数週間で痛みが改善することが多いです。しかし、帯状疱疹後神経痛や脊椎の病気など、原因によっては痛みが数ヶ月から数年続く慢性痛となることもあります。「ずっと痛い」状態が続く場合は、痛みの原因が治癒していないか、慢性的な神経痛に移行している可能性があります。痛みが長期間続く場合は、必ず医療機関を受診し、痛みの原因を詳しく調べてもらいましょう。
肋間神経痛はレントゲンでわかりますか?
レントゲン検査は、肋骨や脊椎の骨折、ヒビ、変形、側弯症など、骨の異常を確認するのに非常に有用です。骨の異常が原因で肋間神経痛が起こっている場合は、レントゲンで原因を特定できることがあります。しかし、レントゲンでは神経そのものの炎症や損傷、筋肉の緊張、帯状疱疹ウイルスによる神経障害などは映りません。そのため、レントゲン検査で異常が見つからなくても、肋間神経痛と診断されることはよくありますし、逆にレントゲンだけでは原因が特定できないことも多いです。原因によっては、CTやMRIなど他の画像検査や、血液検査などが必要になります。
まとめ
肋間神経痛は、肋骨に沿った範囲に痛みが生じる辛い症状です。その原因は、骨折や帯状疱疹などの病気、脊椎の異常といった明確なものから、ストレスや疲労など原因が特定しにくいものまで多岐にわたります。痛みの感じ方も、チクチク、ピリピリ、ズキズキなど様々で、深呼吸や体の動きで痛みが誘発されることが特徴です。
痛みが続く場合や強い場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診することが最も重要です。なぜなら、肋間神経痛と似た痛みが、心臓病や肺の病気など、命に関わる重篤な病気のサインである可能性も否定できないからです。医師は問診、診察、必要に応じたレントゲンやその他の検査を行い、痛みの正確な原因を診断し、他の病気との鑑別を行います。
原因が特定された場合は、原因疾患への治療(骨折の固定、帯状疱疹への抗ウイルス薬など)が基本となります。痛みを和らげるためには、鎮痛薬の内服や湿布、神経ブロック注射などが用いられます。
また、ご自宅でできるセルフケアとして、安静、患部を温める・冷やす、正しい姿勢を意識する、軽いストレッチや体操、バランスの取れた食事(特にビタミンB群の摂取)なども痛みの緩和や再発予防に役立ちます。ただし、これらのセルフケアは、医師の診断に基づき、痛みが落ち着いてきた段階で無理のない範囲で行うことが大切です。
肋間神経痛の症状が出たらまずは医師に相談を
胸や脇腹の痛みが肋間神経痛かもしれないと感じたら、不安な気持ちを抱え込まず、まずは医療機関を受診しましょう。整形外科、内科、神経内科、ペインクリニックなどが考えられますが、迷う場合はかかりつけ医に相談するか、整形外科や内科から受診してみるのが良いでしょう。特に、息苦しさ、発熱、発疹などの症状を伴う場合は、一刻も早く医療機関を受診してください。
適切な診断を受け、ご自身の痛みの原因に合った治療とセルフケアを行うことで、辛い肋間神経痛の痛みから解放され、快適な日常を取り戻すことができるはずです。
【免責事項】
この記事の情報は、一般的な知識として提供されるものであり、個別の症状や状態に対する医学的なアドバイスや診断を意図するものではありません。肋間神経痛やその他の病気の診断・治療については、必ず医療機関を受診し、医師にご相談ください。本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いません。