【要注意】血栓はなぜ危険?気づきにくいサイン・原因・予防法

血栓は、血管の中で血液が固まってできる塊のことです。この塊が血管を詰まらせると、その先に血液が流れなくなり、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。最悪の場合、命に関わる重篤な病気につながることもあるため、血栓について正しく理解し、予防や早期発見に努めることが非常に重要です。本記事では、血栓の基本的な知識から、その症状、原因、検査、治療、そして日常生活でできる予防法までを分かりやすく解説します。ご自身の健康を守るための一歩として、ぜひお役立てください。

目次

血栓とは?その定義とメカニズム

血栓(けっせん、thrombus)とは、血管内で血液が凝固して形成される塊のことです。通常、血液は血管の中をスムーズに流れていますが、何らかの理由で血管の内壁が傷ついたり、血流が悪くなったり、血液成分のバランスが崩れたりすると、血液が固まりやすくなります。この固まった血液が血栓となり、血管を塞いでしまうことで、様々な障害を引き起こします。

血栓ができるメカニズムは複雑ですが、主に以下の3つの要因が関与すると考えられています。これは「ウィルヒョウの三徴」として知られています。

  1. 血管壁の異常: 血管の内側にある内皮細胞が傷つくと、血小板が集まりやすくなり、血液凝固の連鎖反応が始まります。動脈硬化などによって血管がダメージを受けている場合に起こりやすくなります。
  2. 血流の停滞: 血流が遅くなると、血液中の凝固因子が局所に留まりやすくなり、血栓ができやすくなります。長時間同じ姿勢でいることや、心臓のポンプ機能が低下している場合などに起こります。
  3. 血液成分の異常(過凝固状態): 血液を固まりやすくする成分(凝固因子)が増えたり、固まりにくくする成分(線溶因子)が減ったりすることで、血液が固まりやすい状態になります。特定の病気や体質、薬剤などが原因となることがあります。

これらの要因が単独、あるいは複数組み合わさることで血栓が形成されます。形成された血栓は、その場で血管を完全に、または部分的に塞いだり、血流に乗って体の別の場所に運ばれて新たな血管を塞いだりすることがあります。

血栓の主な種類と発生しやすい部位

血栓は、発生する血管の種類によって大きく2つに分けられます。

  1. 動脈血栓: 動脈は心臓から全身に血液を送る血管で、比較的速い血流が特徴です。動脈血栓は、主に動脈硬化によって血管壁が傷ついた場所に血小板が集まって形成されやすい傾向があります。この血栓が動脈を塞ぐと、その先の組織への酸素や栄養供給が途絶え、組織が壊死する可能性があります。
    • 発生しやすい部位: 脳の動脈(脳梗塞)、心臓の冠動脈(心筋梗塞)、足の動脈(末梢動脈閉塞症)。
  2. 静脈血栓: 静脈は全身から心臓へ血液を戻す血管で、動脈に比べて血流が穏やかです。静脈血栓は、血流の停滞や血液が固まりやすい状態が主な原因となって形成されやすい傾向があります。特に足の静脈にできやすく、これが剥がれて肺に流れると肺塞栓症を引き起こす危険があります。
    • 発生しやすい部位: 足の深部静脈(深部静脈血栓症)、肺動脈(肺塞栓症、多くは足からの血栓が移動したもの)。

これらの血栓ができる場所によって、引き起こされる病気や症状は大きく異なります。次に、部位別の主な症状について詳しく見ていきましょう。

血栓の症状と見分け方

血栓による症状は、血栓ができた場所(血管の種類と部位)、血栓の大きさ、血管がどの程度塞がれているかによって大きく異なります。場合によってはほとんど自覚症状がないこともありますが、多くは突然の激しい症状として現れます。

どこに血栓ができる?部位別の症状

血栓が最も問題となるのは、生命維持に重要な臓器への血流が妨げられる場合です。ここでは、代表的な部位別の症状を解説します。

足の血栓(深部静脈血栓症)の症状

足の深部静脈に血栓ができる病気で、DVT(Deep Vein Thrombosis)とも呼ばれます。特にふくらはぎや太ももの静脈に発生しやすいです。

  • 主な症状:
    • 足の腫れ: 片方の足だけが急に腫れてくることが多いです。これは、血栓で静脈が詰まり、血液が心臓に戻りにくくなるため、水分が血管の外に漏れ出すことで起こります。
    • 痛みやだるさ: 腫れた部分やふくらはぎを中心に、痛みや重い感じ、だるさを感じることがあります。押すと痛むこともあります。
    • 皮膚の色や温度の変化: 詰まった血管の周りの皮膚が赤紫色っぽく変色したり、熱を持ったりすることがあります。

これらの症状は、むくみや筋肉痛など他の原因でも起こりうるため、自己判断は禁物です。特に片足だけに急に症状が現れた場合は注意が必要です。

脳の血栓(脳梗塞)の症状

脳の血管に血栓が詰まることで、脳の一部に血液が供給されなくなり、脳細胞がダメージを受ける病気です。症状は、血栓が詰まった血管が栄養していた脳の部位によって異なります。突然発症することが特徴です。

  • 主な症状:
    • 体の片側の麻痺: 顔、腕、足のうち、2つ以上に麻痺が起こる(例: 右半身が動かない)。
    • 言葉の障害: 話すのが難しくなる、言葉が理解できなくなる。
    • 顔の麻痺: 片側の顔がゆがむ、口角が下がる。
    • 視覚の障害: 片方の目が見えにくくなる、視野が狭くなる。
    • 歩行障害やめまい: バランスが取れない、まっすぐ歩けない。
    • 意識障害: 意識がぼうぜんとする、呼びかけに反応しない。

これらの症状のうち、一つでも当てはまる場合は、すぐに救急車を呼ぶなどして緊急に医療機関を受診する必要があります。発症から早期に治療を開始することが、回復に大きく影響します。

心臓の血栓(心筋梗塞)の症状

心臓の筋肉に血液を送る冠動脈に血栓が詰まることで、心筋の一部が壊死する病気です。突然の激しい症状として現れます。

  • 主な症状:
    • 激しい胸の痛み: 胸の中央や左胸に、締め付けられるような、あるいは押さえつけられるような激しい痛みが突然起こります。数分で治まらず、30分以上続くことも多いです。
    • 放散痛: 痛みが左腕、肩、首、顎、背中、みぞおちなどに広がる(放散する)ことがあります。
    • 息切れや呼吸困難: 胸の痛みと共に、息苦しさを感じることがあります。
    • 冷や汗、吐き気: 強い痛みや不快感に伴って、冷や汗が出たり、吐き気をもよおしたりすることがあります。
    • 動悸、不整脈: 心臓の動きが速くなったり、乱れたりすることがあります。

心筋梗塞も一刻を争う事態です。これらの症状が現れた場合は、速やかに救急車を要請する必要があります。

phổiの血栓(肺塞栓症)の症状

肺動脈に血栓が詰まる病気で、多くの場合、足の深部静脈でできた血栓が血流に乗って肺まで運ばれてくることで起こります。エコノミークラス症候群としても知られています。肺への血流が妨げられるため、呼吸や循環に大きな影響が出ます。

  • 主な症状:
    • 突然の息切れ、呼吸困難: 急に息苦しくなり、呼吸が速く浅くなることがあります。
    • 胸の痛み: 深呼吸や咳をすると悪化するような、鋭い胸の痛みを感じることがあります。
    • 咳: 痰の出ない乾いた咳が出ることがあります。血痰が出ることも稀にあります。
    • 失神、めまい: 大きな血栓が詰まった場合、血圧が急低下して失神したり、意識がもうろうとしたりすることがあります。
    • 動悸: 心臓がドキドキするのを感じることがあります。

肺塞栓症も緊急性の高い病気です。これらの症状が突然現れた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。

血栓の初期症状やサイン

重篤な症状が現れる前に、血栓形成の初期サインとして見落とされがちなものもあります。特に深部静脈血栓症の場合、以下のような軽微な症状から始まることがあります。

  • 片足のふくらはぎの軽い痛みや違和感
  • 歩いている時のふくらはぎの張りや疲れやすさ
  • 片足のくるぶしや足の甲あたりのわずかなむくみ
  • 皮膚の軽い赤みや熱感

これらの症状は、休息で改善したり、他の原因と思ったりして見過ごされがちです。しかし、リスク要因(長時間の移動、手術後、特定の病気など)がある場合にこれらのサインが見られたら、注意が必要です。

脳梗塞や心筋梗塞の前触れとして、一時的に血流が悪くなることで起こる「一過性脳虚血発作(TIA)」や「不安定狭心症」などがあります。これらの症状は短時間で改善しますが、本格的な血栓症の前兆である可能性が高く、非常に危険なサインです。

  • 一過性脳虚血発作(TIA)の症状:
    • 片側の手足のしびれや脱力感(数分〜数十分で回復)
    • ろれつが回らない、言葉が出にくい(数分〜数十分で回復)
    • 片目の視力低下や失明(数分〜数十分で回復)
  • 不安定狭心症の症状:
    • 今まで経験したことのない強い胸痛や、痛みの頻度・強さが増す

これらの前兆症状が現れた場合も、すぐに医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。

血栓が疑われる場合の緊急性

血栓によって引き起こされる脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓症などは、どれも緊急性の高い病気です。時間が経過するほど臓器へのダメージが大きくなり、回復が難しくなったり、後遺症が残ったりする可能性が高まります。

  • 脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓症の疑い:
    • 突然の体の片側の麻痺、言語障害、顔面麻痺
    • 突然の激しい胸の痛み(特に締め付けられるような痛み)
    • 突然の強い息切れ、呼吸困難
    • 突然の失神や意識障害

これらの症状が一つでも現れた場合は、「少し様子を見よう」などと思わずに、すぐに救急車を要請してください。 迅速な対応が、命を救い、後遺症を軽減するために最も重要です。

  • 深部静脈血栓症の疑い:
    • 片足の急な強い腫れや痛み、変色

これらの症状が現れた場合も、緊急性は高いですが、状況に応じて救急車を呼ぶか、速やかにかかりつけ医や循環器内科、血管外科のある病院を受診してください。血栓が肺に飛ぶ前に診断・治療を開始することが重要です。

いずれにしても、血栓が疑われる症状が現れたら、自己判断せずに速やかに医療機関に相談することが何よりも大切です。

血栓ができる原因とリスク要因

血栓ができる原因は多岐にわたりますが、大きく分けて生活習慣、病気や体質、そして特定の状況によるものがあります。これらのリスク要因を複数持っていると、血栓ができやすくなるため注意が必要です。

生活習慣に関わる原因

日頃の生活習慣は、血栓のできやすさに大きく影響します。

  • 喫煙: タバコに含まれる化学物質は血管の内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を促進します。また、血液を固まりやすくする作用もあり、動脈血栓、静脈血栓の両方のリスクを高めます。
  • 肥満: 体重が増えると、血管への負担が増し、慢性的な炎症を引き起こすことがあります。また、血液が固まりやすい状態になることも知られており、特に静脈血栓のリスクを高めます。
  • 運動不足: 運動量が少ないと血流が悪くなり、特に足の静脈の血流が滞りやすくなります。これにより、深部静脈血栓症のリスクが高まります。また、運動不足は肥満や生活習慣病の原因にもなります。
  • 食生活の偏り: 高カロリー・高脂肪な食事は、脂質異常症や動脈硬化を進行させる原因となります。また、水分不足は血液を濃くし、固まりやすくするため、脱水状態もリスクとなります。
  • 過度の飲酒: 過度な飲酒は、不整脈(特に心房細動)を引き起こす可能性があり、心臓内に血栓ができやすくなります。また、高血圧の原因にもなります。

病気や体質による原因

特定の病気や体質を持っていると、血栓ができやすくなることがあります。

  • 高血圧: 高い血圧は血管の内壁に持続的な負担をかけ、傷つけ、動脈硬化を進行させます。これが動脈血栓の主な原因となります。
  • 糖尿病: 高血糖の状態が続くと、血管の内壁がダメージを受けやすく、動脈硬化が進行します。また、血液が固まりやすい体質になることも知られています。
  • 脂質異常症: 血液中のコレステロールや中性脂肪が多い状態は、血管壁に脂肪が沈着し、動脈硬化を進行させます。
  • 不整脈(特に心房細動): 心房細動では、心臓の心房が不規則に震えるように動き、血液が十分に送り出されず心房内で滞留しやすくなります。この滞留した血液の中に血栓ができやすく、これが脳に飛んで脳梗塞を引き起こすリスクが非常に高いです。
  • がん: がん細胞の種類によっては、血液を固まりやすくする物質を放出するものがあり、血栓症(特に静脈血栓症)のリスクを高めることが知られています。
  • 特定の血液疾患: 血小板が増えすぎる病気や、特定の血液凝固因子が過剰な病気など、生まれつきあるいは後天的に血液が固まりやすい体質(血栓性素因)を持っている場合があります。
  • 炎症性疾患: 慢性的な炎症を引き起こす病気(例: 関節リウマチ、炎症性腸疾患など)は、血液を固まりやすくすることがあります。
  • 高齢: 年齢を重ねると血管も老化し、動脈硬化が進みやすくなります。また、様々なリスク要因を合併することも多いため、血栓症のリスクは高まります。
  • 遺伝的要因: 家族に血栓症になった人がいる場合、遺伝的に血栓ができやすい体質である可能性もあります。

長時間同じ姿勢でいるリスク

特定の状況下で長時間同じ姿勢を続けることは、特に静脈血栓症(深部静脈血栓症や肺塞栓症)のリスクを著しく高めます。これは、筋肉が活動しないことで静脈の血流が滞るためです。

  • 長時間の旅行や移動: エコノミークラス症候群として知られるように、飛行機や電車、車などで長時間座ったままの状態が続くことで、足の静脈の血流が停滞し、深部静脈血栓症のリスクが高まります。
  • デスクワーク: 長時間座りっぱなしで、足をあまり動かさないデスクワークも同様のリスクがあります。
  • 手術後や病気による長期臥床: 入院などでベッドに寝たきりの状態が長く続くと、体の重みで血管が圧迫されたり、筋肉のポンプ作用が使われなかったりするため、血流が極度に停滞し、血栓ができやすくなります。
  • ギプス固定: 骨折などでギプスで手足を固定している間も、その部分の筋肉が動かないため血流が滞り、血栓ができるリスクが高まります。

これらのリスク要因は単独でも血栓のリスクを高めますが、複数重なることでさらにリスクが高まるため、注意が必要です。例えば、高齢で肥満、喫煙習慣があり、さらに長時間の旅行をする、といった場合はかなりの高リスクとなります。

血栓の検査方法と診断

血栓が疑われる場合、医師は問診や身体診察を行い、必要に応じて画像検査や血液検査を行います。これにより、血栓の有無、場所、大きさ、そして血栓ができやすい状態にあるかなどを診断します。

主な画像検査(超音波検査、CT、MRIなど)

画像検査は、体内の血管や臓器の状態を視覚的に確認するために行われます。血栓そのものを直接確認したり、血栓によって引き起こされた臓器の障害を確認したりするために用いられます。

  • 超音波(エコー)検査:
    • 目的: 主に足の深部静脈血栓症の診断に用いられます。プローブを皮膚にあてて超音波を送り、血管の内部の状態や血流を確認します。
    • 特徴: 体への負担が少なく、ベッドサイドでも行えるため、手軽に実施できます。血管の圧迫性や内部の信号、血流の有無などを調べることで血栓の有無を診断します。
  • CT(コンピュータ断層撮影)検査:
    • 目的: 脳梗塞、肺塞栓症、心筋梗塞、その他の部位の血栓症の診断に広く用いられます。X線を体の周囲から照射し、体の断面画像を撮影します。
    • 特徴: 短時間で広範囲を検査できます。造影剤を使用することで血管の様子や血流の状態をより詳しく評価でき、血栓の場所や大きさを確認しやすくなります。脳梗塞の急性期診断に特に重要です。
  • MRI(磁気共鳴画像)検査:
    • 目的: 主に脳梗塞の診断に用いられます。強力な磁場と電波を利用して体の内部の画像を撮影します。
    • 特徴: CTよりも詳細な画像を撮影でき、発症早期の脳梗塞を検出する能力に優れています。血管の様子を立体的に描出するMRA(MRアンギオグラフィー)も血栓の診断に有用です。ただし、検査に時間がかかることや、体内に金属がある場合は検査できないことがあります。
  • 血管造影検査:
    • 目的: 特定の血管(冠動脈、脳血管など)に血栓が詰まっている場合に、より詳細な診断や治療のために行われます。カテーテルを血管に進め、造影剤を注入しながらX線撮影を行います。
    • 特徴: 血管の狭窄や閉塞の場所、程度を正確に把握できます。同時に血栓を溶かす薬を注入したり、カテーテルで血栓を取り除いたりする治療(カテーテル治療)を行うことも可能です。

血液検査(Dダイマーなど)

血液検査は、体全体の血液の状態や、血栓ができやすい状態にあるか、血栓が溶かされているかなどを評価するために行われます。

  • Dダイマー:
    • 目的: 体内で血栓が作られ、それが分解(線溶)される過程で生じる物質(フィブリン分解産物)の一つです。血栓が存在し、それが溶かされている場合に血中濃度が高くなります。
    • 特徴: Dダイマーの値が高いことは、体内のどこかに血栓があるか、または最近血栓ができた・溶けたことを示唆しますが、Dダイマーが正常値であれば大きな血栓性疾患(深部静脈血栓症や肺塞栓症など)の可能性は低いと考えられます(ただし、完全に否定はできません)。診断確定のためには画像検査などと組み合わせて判断されます。
  • プロトロンビン時間(PT)/国際標準化比(INR)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT):
    • 目的: 血液が固まるまでの時間を測定し、血液凝固機能に異常がないかを調べます。
    • 特徴: これらの値は、特定の凝固因子の欠乏や過剰、または抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)の効果を判定するために測定されます。特にワルファリンなどの抗凝固薬を使用している場合は、定期的にINRを測定して薬の量を調整します。
  • 血小板数:
    • 目的: 血小板は血を固める働きを持つ細胞成分です。血小板の数が多い、または少ない場合に血栓や出血のリスクが変わることがあります。
    • 特徴: 血小板異常が血栓の原因となる特定の血液疾患(例: 本態性血小板血症)の診断に重要です。
  • その他の凝固因子検査:
    • 目的: 特定の血栓性素因(遺伝的に血栓ができやすい体質)を調べるために、アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSなどの血液凝固抑制因子の量や活性を測定することがあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、血栓の有無や原因、重症度を診断し、適切な治療方針が立てられます。

血栓の治療法と解消について

血栓ができてしまった場合の治療は、血栓の種類、できた部位、血栓の大きさ、患者さんの全身状態などによって異なります。主な治療法は、薬物療法とカテーテル治療や手術です。

薬物療法(抗凝固薬、血栓溶解薬)

血栓の治療の中心となるのが薬物療法です。主に以下の2種類の薬剤が用いられます。

  • 抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬):
    • 目的: 既存の血栓が大きくなるのを防ぐこと、そして新たな血栓ができるのを予防することです。血液凝固の働きを抑えることで効果を発揮します。
    • 種類:
      • ワルファリン: 古くから使われている経口抗凝固薬です。ビタミンKの働きを阻害して凝固因子を抑えます。効果の発現に時間がかかり、食事や他の薬との相互作用が多く、効果を判定するために定期的な血液検査(INR測定)が必要です。
      • DOAC(直接経口抗凝固薬): 比較的新しい経口抗凝固薬です。特定の凝固因子(第Xa因子やトロンビン)を直接阻害します。ワルファリンに比べて効果の発現が早く、食事や他の薬との相互作用が少なく、定期的な血液検査が不要な場合が多いですが、腎機能や体重によって用量調整が必要です。リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトランなどがあります。
      • ヘパリン、低分子ヘパリン: 注射薬の抗凝固薬です。効果の発現が早く、急性期の治療や手術前後に用いられることが多いです。
    • 注意点: 抗凝固薬は血液を固まりにくくするため、出血しやすくなるという副作用があります。内出血、鼻血、歯茎からの出血などが起こりやすく、重篤な場合は消化管出血や脳出血などの大出血につながる可能性もあります。薬の種類や量、他の薬との飲み合わせなど、医師の指示を厳守することが非常に重要です。
  • 血栓溶解薬(血栓を溶かす薬):
    • 目的: すでに形成されて血管を詰まらせている血栓そのものを溶かすことを目的とした薬です。血栓を溶かす作用を持つ酵素(プラスミン)の働きを促進します。
    • 種類: ウロキナーゼ、アルテプラーゼなどがあります。
    • 注意点: 血栓溶解薬は強力な作用を持つため、大出血を起こすリスクが高い薬剤です。そのため、使用できるのは血栓による症状が現れてから特定の時間以内(例: 脳梗塞では発症から4.5時間以内など、病気や薬剤によって異なる)の、適応が厳しく定められた急性期に限られます。また、使用できない条件(出血しやすい状態、最近手術を受けたなど)も多くあります。多くの場合、点滴で投与されます。

カテーテル治療や手術

薬物療法だけでは血流の回復が難しい場合や、重症の場合には、カテーテルを用いた血管内治療や手術が行われることがあります。

  • カテーテル治療:
    • 目的: 細い管(カテーテル)を血管内に挿入し、血栓のある場所まで進めて、直接血栓を除去したり、血管を広げたりする治療法です。
    • 方法:
      • 血栓吸引療法: カテーテルの先端で血栓を吸い取ります。
      • 経皮的血栓溶解療法: カテーテルを使って血栓の近くに直接血栓溶解薬を注入し、血栓を溶かします。
      • 血栓破砕術: カテーテルの先端で血栓を物理的に細かく砕きます。
      • 血管形成術・ステント留置術: 血栓によって狭くなった血管や、血栓除去後に狭窄が残った血管をバルーン(風船)で広げたり、金属の筒(ステント)を留置して血管を補強したりします。
    • 特徴: 体への負担が比較的少なく、特に脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈閉塞症の急性期治療として有効です。
  • 血栓摘出術:
    • 目的: 外科的に血管を切開して、血栓を直接取り除く手術です。
    • 特徴: カテーテル治療が困難な場合や、大きな血栓がある場合などに行われます。カテーテル治療に比べて体への負担は大きいですが、血栓を確実に除去できる可能性があります。深部静脈血栓症や末梢動脈閉塞症などで行われることがあります。

これらの治療法は、患者さんの状態や血栓の状況に応じて医師が最適な方法を選択します。治療後も血栓の再発予防のために、多くの場合、抗凝固薬の服用が続けられます。

血栓は自然に消えるのか?

体には、血栓を溶かすための「線溶系」という機能が備わっています。これは、フィブリンという血栓の主成分を分解する酵素(プラスミン)の働きによるものです。小さな血栓であれば、体の自然な力で溶かされて消失することもあります。

しかし、大きな血栓や、血流が極度に停滞している場所、血液が固まりやすい状態が続いている場所では、自然な線溶系の働きだけでは血栓を完全に溶かすことが難しい場合が多いです。特に、血管を完全に塞いでしまっているような大きな血栓は、自然に消失することはほとんど期待できません。

自然に血栓が溶けるのを待っている間に、血管の詰まりによる臓器へのダメージが進行したり、血栓の一部が剥がれて別の場所に飛んでいったり(塞栓症)、血栓が血管の内壁に張り付いて血管が完全に開通しなくなったりするリスクがあります。

そのため、臨床的に問題となるような血栓が見つかった場合は、自然に任せるのではなく、上述のような薬物療法やカテーテル治療などによって積極的に治療を行い、血流を回復させることが重要です。血栓の自然溶解に過度に期待することは危険です。

血栓の予防策と日常生活の注意点

血栓は命に関わる重篤な病気を引き起こす可能性があるため、血栓ができないように日頃から予防に努めることが非常に重要です。特に、血栓のリスク要因を持っている方は、積極的に予防策を取り入れましょう。

食生活で気を付けること

バランスの取れた食生活は、血栓予防だけでなく全身の健康維持の基本です。

  • バランスの良い食事: 炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取しましょう。特に、動脈硬化の原因となる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い食事(肉の脂身、加工食品、揚げ物など)は控えめにし、魚や植物油に含まれる不飽和脂肪酸を積極的に取り入れましょう。
  • 野菜・果物の摂取: ビタミンやミネラル、食物繊維を豊富に含む野菜や果物は、血管の健康を保ち、血液をサラサラにする助けとなります。
  • 魚の摂取: 特に青魚(サバ、イワシ、サンマなど)に多く含まれるEPAやDHAといったオメガ3系脂肪酸は、血液を固まりにくくしたり、悪玉コレステロールや中性脂肪を減らしたりする効果があると言われています。
  • 十分な水分補給: 体内の水分が不足すると血液が濃くなり、固まりやすくなります。特に、暑い時期や運動時、長時間の移動の際は、こまめに水分を補給しましょう。カフェインの多い飲み物やアルコールは利尿作用があるため、水分補給には水やお茶が適しています。
  • 塩分を控える: 塩分の摂りすぎは血圧を上昇させ、血管に負担をかけます。高血圧は動脈硬化の大きなリスク要因ですので、減塩を心がけましょう。

特定の食品成分(例: ナットウキナーゼなど)が血栓を溶かす効果があると言われることもありますが、これらはあくまで食品であり、医学的な治療薬とは異なります。過度な期待はせず、あくまでバランスの取れた食事を基本とすることが大切です。

適度な運動の重要性

定期的な運動は、血栓予防に非常に効果的です。

  • 血流改善: 運動によって筋肉が収縮・弛緩することで、静脈の血流が促進されます。特に足の筋肉(ふくらはぎ)は「第二の心臓」とも呼ばれ、ポンプのように静脈の血液を心臓に戻す働きをしています。ウォーキングなどでこの働きを活発にすることは、深部静脈血栓症の予防に役立ちます。
  • 動脈硬化の予防・改善: 有酸素運動は、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった動脈硬化のリスクとなる生活習慣病の改善に役立ちます。これにより、動脈血栓のリスクも低減します。
  • 推奨される運動: 無理のない範囲で、毎日続けられる程度の運動を心がけましょう。ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動が推奨されます。1回30分程度の運動を週に数回行うだけでも効果があります。

運動が難しい場合は、座ったままでもできる足首の曲げ伸ばし運動や、ふくらはぎを軽くマッサージするなど、血流を促進する工夫を取り入れましょう。

長時間同じ姿勢を避ける方法

長時間同じ姿勢でいることは、特に静脈血栓症のリスクを高めるため、意識的に避けることが重要です。

  • 休憩を取る: デスクワークや長時間の移動(飛行機、電車、車など)の際は、1〜2時間に一度は立ち上がって歩いたり、軽いストレッチをしたりする休憩を取りましょう。
  • 座っている時の工夫: 座っている間も、時々足首を回したり、つま先を上げ下げしたり、ふくらはぎの筋肉を意識して動かしたりすることで、足の血流を促進できます。
  • 寝たきりの場合: 病気などで長期臥床が必要な場合は、定期的に体の向きを変えたり、手足を動かしたりするリハビリテーションを行います。家族や介護者が手足を動かしてあげる(他動運動)ことも効果的です。

弾性ストッキングの活用

弾性ストッキング(医療用弾性ストッキング)は、足に適度な圧力をかけることで、静脈の血流を促進し、むくみを軽減し、深部静脈血栓症の予防に用いられます。

  • 効果: ストッキングの圧力が足首から上に向かって段階的に弱まる構造になっており、足の静脈の血液を心臓方向に押し戻すポンプ作用を助けます。
  • 活用場面: 長時間座ったり寝たりする機会が多い場合(長距離移動、手術後、長期入院など)に特に有効です。日常的に立ち仕事が多い方や、足のむくみやすい方にも推奨されることがあります。
  • 注意点: 弾性ストッキングは、医師の指示や専門家の指導のもとで、適切なサイズと圧迫力のものを正しく着用することが重要です。サイズが合わないものを不適切に使用すると、かえって血流を妨げたり、皮膚トラブルを起こしたりする可能性があります。

定期的な健康診断

定期的に健康診断を受けることは、血栓のリスク要因(高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈など)を早期に発見し、適切に管理するために非常に重要です。

  • リスク要因の把握: 健康診断で、血圧、血糖値、コレステロール値などを測定することで、血栓につながる生活習慣病の有無や程度を知ることができます。
  • 早期治療: リスク要因が見つかった場合、早期に医師に相談し、生活習慣の改善や薬物療法などによって適切に管理することで、血栓症の発症リスクを大幅に減らすことができます。
  • 医師への相談: 健康診断の結果について不明な点がある場合や、気になる症状がある場合は、遠慮なく医師に相談しましょう。特に、家族に血栓症になった人がいる場合などは、その旨を伝えることが重要です。

これらの予防策を日常生活に取り入れることで、血栓症のリスクを減らし、健康寿命を延ばすことにつながります。

血栓についてよくある質問

血栓に関して、多くの方が抱える疑問にお答えします。

血栓予防に良い食べ物は?

特定の「これを食べれば血栓が完全に予防できる」という魔法のような食品はありませんが、血栓のリスクを減らすためには、前述の通り、バランスの取れた食事が基本となります。その上で、血液をサラサラにする、血管を健康に保つと言われている食品を意識的に取り入れることは有効です。

食品グループ 具体的な食品例 効果が期待される理由
青魚 サバ、イワシ、サンマ、アジなど EPA、DHA(オメガ3系脂肪酸)が血液を固まりにくくし、脂質代謝を改善する。
野菜、果物 緑黄色野菜、きのこ、海藻、柑橘類、ベリー類など ビタミン、ミネラル、食物繊維、抗酸化物質が血管を保護し、血流を改善する。
大豆・大豆製品 納豆、豆腐、味噌など 納豆に含まれるナットウキナーゼは血栓を溶かす作用があると言われている(食品としての効果)。
玉ねぎ、ニンニク 玉ねぎ、ニンニク 硫化アリルなどが血液をサラサラにする効果が期待される。
オリーブオイル エキストラバージンオリーブオイル オレイン酸などの不飽和脂肪酸がコレステロールバランスを整え、抗酸化作用も期待される。
海藻類 ワカメ、昆布、もずくなど 食物繊維やミネラルが豊富で、血圧やコレステロールの管理に役立つ。
緑茶 緑茶 カテキンなどの抗酸化物質が血管の健康維持に寄与する。

ただし、これらの食品を単独で大量に摂取すれば良いというわけではありません。あくまで全体としてバランスの取れた食事を心がけ、過剰な塩分、糖分、脂質を控えることが最も重要です。

血栓は自己治癒しますか?

小さな血栓であれば、体の自然な仕組み(線溶系)によって自己治癒的に溶かされることがあります。しかし、ある程度の大きさになった血栓や、血流の停滞が著しい場所、血液が固まりやすい状態にある場合は、自己治癒だけでは不十分であることがほとんどです。

特に、血管を完全に閉塞させているような血栓は、自然に溶けるのを待っていると、その先の組織が壊死したり、血栓が剥がれて別の場所に飛んだりするリスクが非常に高いです。そのため、血栓が発見された場合は、自然治癒に頼るのではなく、医師の診断に基づいた適切な治療(薬物療法やカテーテル治療など)を行うことが不可欠です。

血栓ができるとどのような感じがしますか?

血栓ができた時の感覚は、血栓ができた場所や血管の詰まり具合によって大きく異なります。

  • 足の静脈(深部静脈血栓症):
    • 突然の片足(特にふくらはぎや太もも)の腫れ
    • 痛みだるさ重い感じ
    • 押すと痛む
    • 皮膚の赤み熱感

    軽度な場合は、軽いむくみや違和感程度で気づかないこともあります。

  • 脳の血管(脳梗塞):
    • 突然の体の片側の麻痺しびれ(顔、腕、足)
    • 言葉が出にくい、ろれつが回らない、人の言うことが理解できない
    • 片側の顔がゆがむ
    • 片方の目が見えにくい
    • まっすぐ歩けないめまい
  • 心臓の血管(心筋梗塞):
    • 突然の激しい胸の痛み(締め付けられる、押さえつけられるような)
    • 痛みが左腕、肩、首、顎、背中、みぞおちなどに広がる(放散痛)
    • 息切れ呼吸困難
    • 冷や汗吐き気
  • 肺の血管(肺塞栓症):
    • 突然の強い息切れ呼吸困難
    • 息を吸い込むと痛い胸の痛み
    • (時に血痰)
    • 失神めまい

これらの症状は、血栓によって血流が遮断された部位の機能が低下したり、組織がダメージを受けたりすることで生じます。特に突然現れる強い症状は、血栓症の可能性が高いため、すぐに医療機関を受診することが重要です。

まとめ

血栓は、血管内で血液が固まることで生じる塊であり、これが血管を詰まらせることで脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓症、深部静脈血栓症といった、生命に関わる重篤な病気を引き起こす可能性があります。

血栓ができる原因は、喫煙、肥満、運動不足といった生活習慣の乱れ、高血圧、糖尿病、不整脈などの基礎疾患、そして長時間の同じ姿勢など多岐にわたります。これらのリスク要因を理解し、ご自身の状況に合わせて予防策を講じることが非常に重要です。

血栓による症状は、できた部位によって異なりますが、突然の体の麻痺、激しい胸痛、強い息切れ、片足の急な腫れなどは、血栓症を強く疑うサインです。これらの症状が現れた場合は、一刻も早く医療機関を受診し、適切な検査と治療を受ける必要があります。特に脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓症は緊急性が非常に高く、迅速な対応が予後を左右します。

血栓の治療には、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)や血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)、そしてカテーテルを用いた血管内治療や手術などがあります。自己判断で様子を見たり、民間療法に頼ったりせず、必ず医師の指示に従って治療を受けることが大切です。

血栓は予防が非常に重要です。バランスの取れた食生活、適度な運動、長時間の同じ姿勢を避ける、水分をこまめに取る、禁煙・節酒を心がける、そして定期的に健康診断を受けてリスク要因を管理することなど、日頃からできることは多くあります。

この記事で解説した血栓に関する情報が、皆さんの健康維持や早期発見の一助となれば幸いです。もし、血栓が疑われる症状があったり、リスクについて不安があったりする場合は、遠慮なく医療機関にご相談ください。

【免責事項】
本記事は、血栓に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の健康状態に関してご不安がある場合や、症状がある場合は、必ず医師や専門医療機関にご相談ください。本記事の情報によって生じたいかなる結果についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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