「おシッコしたいのに出ない」。この経験は、つらいだけでなく、大きな不安を伴うものです。
トイレに行きたい感覚はあるのに、いざとなると全く出ない、あるいはほんの少量しか出ないといった状況は、日常生活に支障をきたし、精神的な負担も大きくなります。
なぜこのような症状が起こるのでしょうか?
原因は様々で、一時的なものから、注意が必要な病気が隠れている場合まであります。
この記事では、「おシッコしたいのに出ない」という症状の原因や、今すぐ試せる一時的な対処法、そして医療機関を受診すべき目安について、男女別・年代別の特徴も交えながら詳しく解説します。
つらい症状の解消に役立て、安心して過ごせる毎日を取り戻しましょう。
「おシッコしたいのに出ない」という症状は、医学的には尿閉(にょうへい)や排尿困難(はいにょうこんなん)と呼ばれます。
尿閉は、膀胱に尿が溜まっているにも関わらず、全く尿を排出できない状態を指します。
これは非常に苦痛を伴い、緊急性が高いことが多い症状です。
膀胱が過度に拡張し、下腹部に強い張りや痛みを感じることがあります。
一方、排尿困難は、尿意はあるものの、排尿に時間がかかる、いきまないと出ない、勢いがない、途中で途切れる、残尿感があるなど、スムーズに尿を排出できない状態を指します。
尿閉に比べると症状は軽いことが多いですが、放置すると尿閉に進行したり、他の合併症を引き起こしたりする可能性があります。
どちらの状態も、膀胱に尿が溜まり続けることで様々な問題を引き起こします。
例えば、尿が逆流して腎臓に負担をかけたり、溜まった尿の中で細菌が繁殖して尿路感染症を起こしやすくなったりします。
したがって、「おシッコしたいのに出ない」という症状が続く場合は、原因を特定し適切に対処することが非常に重要です。
おシッコしたいのに出ない 主な原因
「おシッコしたいのに出ない」という症状は、排尿の仕組みのどこかに問題が生じているために起こります。
排尿は、膀胱に尿が溜まる→尿意を感じる→脳からの指令で膀胱が収縮し尿道括約筋が緩む→尿が排出される、という複雑なプロセスを経て行われます。
このプロセスのどこに問題があるかによって、原因は大きく分類できます。
膀胱や尿道の物理的な閉塞
尿の通り道である膀胱の出口や尿道が何らかの原因で狭くなったり、塞がったりすることで尿の排出が妨げられるケースです。
これは特に男性に多く見られる原因です。
- 前立腺肥大症(男性): 高齢男性に非常に多い病気です。膀胱の真下にある前立腺が加齢とともに肥大し、尿道が圧迫されることで尿の出が悪くなります。初期には排尿に時間がかかる、勢いがないといった症状から始まり、進行すると残尿感が増え、最終的には尿閉に至ることもあります。
- 尿道狭窄: 尿道が炎症や外傷、手術などによって狭くなる状態です。男性に多く、特に尿道カテーテルの使用歴や性感染症の既往がある場合にリスクが高まります。
- 尿路結石: 尿道や膀胱の出口に結石が詰まると、尿が流れなくなります。激しい痛みを伴うことが多いですが、結石の場所や大きさによっては痛みよりも排尿困難が前面に出ることもあります。
- 腫瘍: 膀胱や尿道、あるいは周囲の臓器(前立腺、子宮など)にできた腫瘍が尿道を圧迫したり、尿道を塞いだりすることで排尿障害を引き起こすことがあります。膀胱がんや前立腺がんなどが該当します。
- 骨盤臓器脱(女性): 子宮や膀胱、直腸などが下がってきて、腟から飛び出す状態です。特に膀胱が下がる膀胱瘤(ぼうこうりゅう)の場合、下がった膀胱が尿道を圧迫したり、膀胱の形が歪んだりすることで排尿困難や尿閉を引き起こすことがあります。
膀胱の収縮力低下
膀胱の筋肉(膀胱筋)がうまく収縮できないために、尿を押し出す力が弱くなるケースです。
- 加齢による膀胱機能の低下: 高齢になると、膀胱の筋肉そのものが弱くなり、弾力性も低下します。これにより、膀胱に十分尿を溜められなくなったり、最後まで尿を絞り出せなくなったりします。
- 神経因性膀胱: 排尿をコントロールする神経に障害が生じることで、膀胱がうまく収縮できなくなったり、尿意を感じにくくなったりする状態です。糖尿病による神経障害、脳卒中、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病などの神経系の病気が原因となります。
- 薬剤の影響: 一部の薬剤(後述)が膀胱筋の収縮を妨げたり、尿道を締め付けたりすることで、排尿困難を引き起こすことがあります。
神経の障害
排尿は、脳と膀胱・尿道の間で行われる神経の連携によってコントロールされています。
この神経経路に障害が生じると、尿意を正しく感じられなかったり、膀胱や尿道の筋肉を適切に制御できなくなったりして、排尿障害が起こります。
- 脳血管疾患: 脳卒中(脳梗塞、脳出血など)の後遺症として、排尿に関する神経機能が損なわれることがあります。
- 脊髄疾患: 脊髄損傷や脊髄腫瘍、脊髄空洞症などにより、脳と膀胱をつなぐ神経伝達が阻害されることで排尿障害が起こります。
- 糖尿病: 長期にわたる高血糖は全身の神経に障害を引き起こす可能性があり、膀胱や尿道の神経も例外ではありません。
- パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾患: これらの疾患も排尿をコントロールする神経に影響を及ぼすことがあります。
- 骨盤内手術の後遺症: 前立腺がんや直腸がんなどの手術で、骨盤内の神経が損傷することがあります。
心因性の原因
体の機能には問題がないにも関わらず、精神的な要因によって一時的に排尿ができなくなるケースです。
- シャイ・ブラダー症候群(paruresis): 他の人が近くにいる、音が気になる、時間がないといった特定の状況や環境下で緊張や不安を感じ、排尿できなくなる状態です。公共のトイレなどで起こりやすいとされています。
- 強いストレスや緊張: 極度の精神的なストレスや緊張状態が、自律神経のバランスを崩し、一時的に排尿機能を抑制することがあります。
- 過去のトラウマ: 排尿に関するつらい経験などが原因で、排尿に対する恐怖心が生じ、排尿困難につながることがあります。
薬剤の影響
服用している特定の薬剤が、排尿機能に影響を及ぼすことがあります。
- 抗コリン作用を持つ薬剤: 風邪薬に含まれる抗ヒスタミン薬、一部の精神安定剤、胃腸薬、パークソン病治療薬などには、膀胱の筋肉を緩める、あるいは尿道の筋肉を締め付ける作用を持つものがあり、排尿困難や尿閉を引き起こすことがあります。特に、前立腺肥大症がある男性や高齢者ではリスクが高まります。
- 一部の降圧剤: 血圧を下げる薬の中にも、排尿に影響を与える可能性のあるものがあります。
- 筋弛緩薬: 筋肉の緊張を和らげる薬ですが、膀胱の筋肉にも作用し、収縮力を低下させる可能性があります。
これらの原因は単独で生じることもありますが、複数組み合わさって症状が現れることも少なくありません。
例えば、前立腺肥大症がある高齢男性が、風邪薬を服用したことで症状が悪化し、尿閉に至る、といったケースです。
おシッコが出ない時に試せる一時的な対処法
「おシッコしたいのに出ない」というつらい症状に直面した時、すぐに病院に行けない場合や、一時的な緊張などが原因と考えられる場合に、試せるいくつかの対処法があります。
ただし、これらはあくまで一時的な症状緩和を目的としたものであり、根本的な治療にはなりません。
特に、痛みを伴う場合や、全く尿が出ない(尿閉)状態が続く場合は、速やかに医療機関を受診することが最も重要です。
体を温める(温水シャワーなど)
体を温めることは、筋肉の緊張を和らげ、リラックス効果をもたらします。
特に、下腹部や腰回りを温めることが排尿を促すのに有効な場合があります。
- 温かいお風呂やシャワー: トイレに行く前に、ゆっくりと湯船につかるか、下腹部や腰に温かいシャワーをかけると、体の緊張がほぐれやすくなります。シャワーの音や湯気も、排尿を促す刺激になることがあります。
- 使い捨てカイロ: 下腹部や腰に使い捨てカイロを貼るのも良いでしょう。じんわりと温めることで、筋肉がリラックスし、血行が促進される可能性があります。ただし、低温やけどには十分注意してください。
- 温かい飲み物: 白湯やカフェインの少ない温かい飲み物を飲むことも、体を内側から温め、リラックス効果を高めるのに役立ちます。
リラックスできる環境を作る
精神的な緊張が原因で排尿できない場合(シャイ・ブラダー症候群など)は、できるだけリラックスできる環境を整えることが大切です。
- 静かで落ち着ける場所を選ぶ: 可能であれば、人目が気にならない、静かで落ち着けるトイレを選びましょう。
- 時間を気にしない: 急いで排尿しようとすると、かえって緊張が高まります。「出なくても仕方ない」くらいの気持ちで、ゆったりと構えることも重要です。
- 深呼吸や軽いストレッチ: トイレに入る前に深呼吸を繰り返したり、肩の力を抜くように軽いストレッチをしたりすると、心身の緊張が和らぎます。
- 好きな音楽を聴く: トイレの中で好きな音楽を聴くことで、気分転換になり、リラックスできることがあります。
- 排尿を促す音を利用する: 流水音を流したり、蛇口から水を流したりする音は、排尿反射を誘発することが知られています。
腹圧をかけてみる
お腹に軽く力を入れてみることで、排尿を助けることができる場合があります。
ただし、これはあくまで補助的な手段であり、強く力を入れすぎたり、無理にいきんだりすることは避けてください。
特に、尿道の閉塞が原因の場合は、腹圧をかけても尿は出ず、膀胱や腎臓に負担をかけてしまう可能性があります。
- 適切な腹圧のかけ方: 息をゆっくり吐きながら、お腹をへこませるように軽く力を入れてみましょう。無理のない範囲で行い、痛みが強くなる場合はすぐに中止してください。
ツボを刺激する
排尿に関連するとされるツボを刺激することも、一時的な対処法として試されることがあります。
ただし、医学的な根拠は限定的であり、効果には個人差があります。
- 気海(きかい): おへそから指2本分ほど下にあるツボです。下腹部の血行促進に効果があるとされます。
- 関元(かんげん): おへそから指3本分ほど下にあるツボです。生殖器系や泌尿器系の不調に良いとされます。
- 三陰交(さんいんこう): 内くるぶしの一番高いところから指4本分ほど上にあり、すねの骨の後ろ側にあるツボです。婦人科系の不調や、泌尿器系の症状に良いとされます。
これらのツボを、指の腹で優しく押したり、温めたりしてみてください。
強く押しすぎないように注意しましょう。
重要: これらの対処法は、あくまで医療機関を受診するまでの間や、一時的な心因性の症状に対して試せる方法です。
症状が改善しない場合や、悪化する場合は、自己判断せず必ず医療機関を受診してください。
特に、全く尿が出ない(尿閉)状態は緊急性が高いため、速やかに病院へ行きましょう。
【男女別・年代別】おシッコが出ない原因と特徴
「おシッコしたいのに出ない」という症状の原因は、性別や年代によって特徴が見られます。
自分の状況に当てはまる可能性のある原因を知ることで、より適切に対処し、早期の受診や相談につながるかもしれません。
男性に多い原因(前立腺肥大症など)
男性の排尿トラブル、特に高齢男性において最も一般的な原因は前立腺肥大症です。
前立腺は膀胱の真下を取り囲むように存在する臓器で、尿道の起始部を取り囲んでいます。
思春期以降に成長し、特に50歳を過ぎた頃から肥大傾向が見られます。
前立腺が肥大すると、その内部を通る尿道が圧迫され、尿の通りが悪くなります。
前立腺肥大症の典型的な症状は以下の通りです。
- 尿の勢いがない、ちょろちょろとしか出ない
- 排尿開始までに時間がかかる(いきまないと出ない)
- 排尿の途中で途切れる
- 排尿後もすっきりせず、残尿感がある
- 夜中に何度もトイレに行く(夜間頻尿)
- 尿意を感じてから我慢できない(切迫感)
- 進行すると尿閉(全く尿が出なくなる)
これらの症状は「下部尿路症状(LUTS)」と呼ばれ、前立腺肥大症以外にも原因がある可能性がありますが、男性の場合はまず前立腺の異常を疑います。
前立腺肥大症以外にも、男性特有の原因としては尿道狭窄が挙げられます。
これは、性感染症(淋病など)の既往や、過去の尿道カテーテル挿入、外傷などが原因で尿道が炎症を起こし、瘢痕化して狭くなることで起こります。
比較的若い男性でも起こり得ます。
また、男性に発生する尿路結石や膀胱・尿道の腫瘍(特に前立腺がん)も、尿道を圧迫し排尿困難や尿閉を引き起こす可能性があります。
女性に多い原因(骨盤臓器脱、心理的要因など)
女性の場合、男性のような前立腺がないため、前立腺肥大症が原因となることはありません。
女性特有の原因としては、出産や加齢によって骨盤底筋が弱くなることで起こる骨盤臓器脱が挙げられます。
特に膀胱瘤(ぼうこうりゅう)は、膀胱が下垂して腟壁と一緒に外に飛び出してくる状態であり、これにより尿道が圧迫されたり、膀胱の形が変わったりして、尿が出にくくなることがあります。
立った時や力を入れた時に症状が悪化しやすいのが特徴です。
骨盤臓器脱の症状:
- 股に何か挟まっているような違和感や異物感
- 排尿に時間がかかる、出にくい
- 残尿感
- ひどくなると手で押し込まないと排尿できないことがある
- 頻尿や尿失禁を伴うことも
また、女性は男性に比べて膀胱炎などの尿路感染症にかかりやすい傾向がありますが、膀胱炎で排尿困難が生じることは比較的稀です。
ただし、炎症が強い場合や、感染が腎臓に及ぶ腎盂腎炎(じんうじんえん)を併発すると、排尿時に痛みを感じたり、全身状態が悪化したりすることがあります。
女性は、心理的な要因による排尿困難も比較的多いとされています。
例えば、公共のトイレなど特定の場所での緊張によるシャイ・ブラダー症候群は、男性にも見られますが、女性も経験しやすいです。
また、過去の性的なトラウマや、排泄に対する強い羞恥心などが排尿困難の原因となることもあります。
若い女性で「おシッコしたいのに出ない」という場合、重篤な物理的閉塞は比較的少ないため、心因性の要因や、稀に神経系の問題、あるいは薬剤の影響などが考えられます。
高齢者に多い原因(膀胱の機能低下、前立腺肥大など)
高齢者になると、男女問わず排尿に関するトラブルが増加します。
「おシッコしたいのに出ない」という症状も、高齢者によく見られます。
原因は複合的であることが多いです。
- 膀胱の機能低下: 加齢に伴い、膀胱の筋肉(膀胱筋)は弾力性を失い、収縮力も低下します。これにより、膀胱に十分に尿を溜められなくなったり、尿を完全に排出しきれなくなったりします。残尿が増えると、次の排尿までの間隔が短くなり、頻尿や夜間頻尿の原因にもなります。
- 前立腺肥大症(男性): 高齢男性の大部分が前立腺肥大を伴っており、程度の差こそあれ、多くの人が排尿困難や尿閉のリスクを抱えています。
- 骨盤臓器脱(女性): 出産経験のある高齢女性は、骨盤底筋の衰えから骨盤臓器脱を発症するリスクが高まります。
- 神経系の疾患: 脳卒中やパーキンソン病、糖尿病性神経障害などは高齢者に多く、これらの病気が神経因性膀胱を引き起こし、排尿障害の原因となることがあります。
- 薬剤の影響: 高齢者は複数の疾患を抱えていることが多く、様々な薬剤を服用していることが一般的です。これらの薬剤の副作用として、排尿困難が生じることがあります。特に、感冒薬、抗精神病薬、睡眠薬などが影響しやすいとされています。
- 認知症: 認知機能の低下により、尿意を感じにくくなったり、トイレに行くという行動がうまくできなくなったりすることがあります。
- 活動性の低下: 寝たきりなどで活動性が低下すると、排尿筋が弱まったり、排尿のリズムが崩れたりすることがあります。
高齢者の場合、これらの原因が単独でなく、複数同時に存在していることがほとんどです。
例えば、前立腺肥大症のある男性が、糖尿病による神経障害も持ち、さらに風邪をひいて抗ヒスタミン薬を服用した結果、突然尿閉になった、といったケースは珍しくありません。
そのため、高齢者の排尿トラブルでは、全身の状態や服用している薬剤なども含めて総合的に評価することが重要です。
尿が出ないことが余命に関わるケースとは
「尿が出ない」という症状が、直接的に余命を左右することは稀ですが、放置することで重篤な合併症を引き起こしたり、他の重篤な病気の一症状として現れていたりする場合には、結果的に生命予後に影響する可能性があります。
特に急性の尿閉を放置すると、膀胱が過度に拡張し、尿が腎臓へ逆流して腎機能が急速に悪化する水腎症(すいじんしょう)を引き起こす可能性があります。
急性腎不全に陥ることもあり、これは命に関わる状態です。
また、膀胱に溜まった尿は細菌が繁殖しやすいため、尿路感染症、さらに全身に波及する敗血症(はいけつしょう)を引き起こすリスクも高まります。
敗血症は非常に危険な状態であり、迅速な治療が必要です。
さらに、「尿が出ない」という症状が、進行したがん(前立腺がん、膀胱がん、婦人科系のがんなど)が尿道を圧迫したり、尿路に浸潤したりしているサインである場合や、脳卒中や脊髄損傷といった重篤な神経疾患の初期症状や進行のサインである場合、あるいは重度の全身疾患(例えば、末期心不全や末期腎不全などによる体液バランスの極端な崩れ)の末期症状として現れることもあります。
このようなケースでは、根本にある重篤な病気が生命予後に関わることになります。
したがって、「尿が出ない」という症状、特に急に全く出なくなった場合や、痛みを伴う場合、他の全身症状(発熱、だるさなど)を伴う場合は、単なる排尿トラブルと軽視せず、速やかに医療機関を受診し、原因を特定することが極めて重要です。
早期に適切な診断と治療を受けることで、合併症を防ぎ、もし重篤な病気が隠れていても早期発見・早期治療につなげることができます。
放置は危険?おシッコが出ない時に病院に行くべき目安
「おシッコしたいのに出ない」という症状は、一時的な心因性のものや軽度の薬剤性の場合もありますが、放置すると危険な状態に陥る可能性も十分にあります。
特に以下のような状況の場合は、迷わず速やかに医療機関を受診することが強く推奨されます。
【すぐに病院に行くべき緊急性の高いケース】
- 全く尿が出ない状態(尿閉)が数時間続いている: 尿意があるのに全く排尿できない状態が続くのは、膀胱が過度に拡張し、腎臓に負担がかかっている可能性があります。強い下腹部痛や張りがある場合は、特に緊急性が高いです。
- 強い痛みを伴う: 排尿できないことによる下腹部の痛みが強い場合、結石や急性の炎症、あるいは尿閉による膀胱の過伸展などが考えられます。
- 発熱や悪寒を伴う: 排尿できないことに加えて、発熱や悪寒、脇腹の痛みなどを伴う場合は、尿路感染症や腎盂腎炎を合併している可能性があります。感染が全身に広がると敗血症という非常に危険な状態になることもあります。
- 吐き気や嘔吐、だるさなどの全身症状がある: 腎機能の悪化や、他の全身疾患のサインである可能性があります。
- 足のむくみや呼吸困難など、他の症状が急に現れた: 体液バランスの急激な変化など、重篤な状態のサインかもしれません。
【早めに病院で相談すべきケース】
- 排尿困難(尿の勢いが弱い、出にくい、残尿感があるなど)が数日〜数週間続いている: 緊急性は高くないかもしれませんが、前立腺肥大症や骨盤臓器脱、神経因性膀胱などの病気が原因である可能性があり、早期に診断・治療を開始することが重要です。
- 一時的な尿閉を何度か繰り返している: 一度尿閉になったということは、原因となる問題(閉塞や収縮力低下など)が潜在している可能性が高いです。繰り返す前に原因を特定し、適切な対策を講じる必要があります。
- 服用している薬剤を変更・開始してから症状が現れた: 薬剤の副作用の可能性が高いため、処方した医師や薬剤師に相談しましょう。自己判断で中止するのは危険な場合があります。
- 上記の一時的な対処法を試しても改善しない: 原因が物理的な閉塞や神経系の問題など、自己対処では解決できない可能性が高いです。
「少し様子を見よう」と自己判断で放置することは、病気の発見を遅らせたり、合併症のリスクを高めたりする可能性があります。
特に高齢者の場合や、他の持病がある場合は、症状が軽度でも念のため医師に相談することをおすすめします。
何科を受診すべき?
「おシッコしたいのに出ない」という症状が出た場合、まず最初に受診すべきは泌尿器科です。
泌尿器科は、尿を作る腎臓から、尿が通る尿管、尿を溜める膀胱、尿を排出する尿道、そして男性の生殖器(前立腺、精巣など)に関する病気を専門とする診療科です。
排尿に関するトラブルは、泌尿器系の問題が原因であることが最も多いからです。
- 男性: 排尿困難や尿閉の原因として最も可能性が高い前立腺肥大症や前立腺がん、尿道狭窄、尿路結石などは全て泌尿器科の専門分野です。
- 女性: 膀胱炎などの尿路感染症は泌尿器科で扱います。また、骨盤臓器脱による排尿困難についても、専門とする泌尿器科医(特に女性泌尿器科医)がいます。
女性の場合、骨盤臓器脱や婦人科系の病気(子宮筋腫や卵巣腫瘍などが膀胱を圧迫する場合など)が原因である可能性も考えられるため、婦人科でも相談することができます。
しかし、排尿機能そのものの評価や、前立腺肥大症のような男性特有の疾患の除外診断は泌尿器科の専門となります。
迷う場合は、まず泌尿器科を受診するのが確実です。
原因が泌尿器系以外にあると考えられる場合は、泌尿器科医が他の診療科への受診を勧めることがあります。
- 神経系の病気: 脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病など神経系の病気が原因で神経因性膀胱になっている場合は、神経内科や脳神経外科との連携が必要になります。
- 心因性の問題: シャイ・ブラダー症候群など、心理的な要因が強いと考えられる場合は、心療内科や精神科でのカウンセリングや治療が有効な場合があります。
- 薬剤の副作用: 現在服用中の薬剤が原因と考えられる場合は、その薬剤を処方した医師(例えば内科医など)に相談し、薬剤の変更や中止が可能か検討してもらう必要があります。
まずは泌尿器科を受診し、専門医に相談することから始めるのが、原因を正確に特定し、適切な治療へたどり着くための第一歩となります。
根本的な治療法(原因に応じた治療)
「おシッコしたいのに出ない」という症状に対する根本的な治療は、その原因によって全く異なります。
正確な診断に基づき、原因に応じた適切な治療法を選択することが重要です。
医療機関では、問診、尿検査、血液検査、超音波検査、尿流測定、残尿測定など、様々な検査を行って原因を特定します。
ここでは、主な原因に対する一般的な治療法について解説します。
主な原因 | 診断のための一般的な検査 | 根本的な治療法 |
---|---|---|
膀胱や尿道の物理的な閉塞 | 尿流量測定、残尿測定、超音波検査、内視鏡検査(膀胱鏡)、CT/MRI検査 | 原因となっている閉塞を取り除く治療を行います。 ・前立腺肥大症: 薬物療法(α1ブロッカー、5α還元酵素阻害薬など)、手術(経尿道的前立腺切除術など) ・尿道狭窄: 尿道拡張術、内視鏡手術、開腹手術 ・尿路結石: 薬物療法、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、内視鏡手術 ・腫瘍: 腫瘍の種類や進行度に応じた手術、放射線療法、化学療法など ・骨盤臓器脱: 骨盤底筋体操、ペッサリー挿入、手術(腟式手術、腹腔鏡手術など) ・緊急時の尿閉: 尿道カテーテルによる導尿 |
膀胱の収縮力低下 | 尿流量測定、残尿測定、膀胱内圧測定検査、神経学的検査 | 膀胱の収縮力を改善したり、残尿を減らしたりする治療を行います。 ・神経因性膀胱: 薬物療法(排尿促進薬、膀胱の過活動を抑える薬など)、自己導尿指導、リハビリテーション(骨盤底筋訓練など) ・加齢による機能低下: 薬物療法(排尿促進薬)、残尿が多い場合は自己導尿の指導 |
神経の障害 | 神経学的検査、CT/MRI検査、膀胱内圧測定検査 | 原因となっている神経疾患の治療と並行して、排尿管理を行います。 ・原因疾患の治療(脳卒中のリハビリ、糖尿病の血糖コントロールなど) ・神経因性膀胱に準じた薬物療法、自己導尿指導、電気刺激療法など |
心因性の原因 | 泌尿器科での検査で器質的な問題が認められない場合に疑われる | 精神的なアプローチによる治療を行います。 ・カウンセリング、認知行動療法 ・リラクセーション技法(深呼吸、瞑想など) ・バイオフィードバック療法 ・必要に応じて精神安定剤などの薬物療法 |
薬剤の影響 | 服用中の薬剤と症状の発現時期を確認、必要に応じて薬剤の一時中止や変更を試す | 原因薬剤の中止や変更を行います。 ・処方医と相談し、可能であれば原因となっている薬剤の使用を中止または他の薬剤に変更します。自己判断での中止は危険な場合があります。 |
緊急時の対応としての導尿:
急性尿閉で強い苦痛がある場合、病院ではまず尿道カテーテルを挿入し、膀胱に溜まった尿を排出します。
これにより症状は劇的に改善し、苦痛から解放されます。
これはあくまで一時的な処置であり、その後、尿閉の原因を特定するための検査と、原因に対する根本的な治療が行われます。
カテーテルを一時的に留置する場合や、自宅で自分で行う自己導尿の指導を受ける場合もあります。
自己導尿(間欠的自己導尿):
膀胱の収縮力が著しく低下している場合や、神経系の障害により自力での排尿が難しい場合などに、患者さん自身または介護者が定期的にカテーテルを尿道から膀胱に挿入して排尿する方法です。
適切な指導を受ければ自宅で安全に行うことができ、残尿による合併症(感染症、腎機能障害など)を防ぎ、生活の質を維持するために非常に有効な方法です。
どの治療法を選択するかは、原因、症状の程度、患者さんの全身状態、年齢、ライフスタイルなどを総合的に考慮して、医師と十分に話し合って決定します。
まとめ:つらい症状は医療機関へ相談を
「おシッコしたいのに出ない」という症状は、一時的なものから、治療が必要な病気が隠れている場合まで、様々な原因で起こり得ます。
男性の場合は前立腺肥大症、女性の場合は骨盤臓器脱などが特徴的な原因として挙げられますが、神経系の病気や薬剤の影響、あるいは心理的な要因など、原因は多岐にわたります。
症状が軽度で一時的なものであれば、体を温めたり、リラックスできる環境を作ったりといった一時的な対処法で改善することもあります。
しかし、これらの方法はあくまで対症療法であり、根本的な原因を取り除くものではありません。
特に、全く尿が出ない(尿閉)状態や、強い痛み、発熱、全身の倦怠感などを伴う場合は、放置すると腎機能障害や重篤な感染症など、命に関わる合併症を引き起こす可能性があるため、一刻も早く医療機関を受診することが非常に重要です。
また、症状が軽くても、排尿困難が続いている場合や、一時的な尿閉を繰り返している場合は、病気が隠れているサインかもしれません。
早めに泌尿器科を受診し、専門医に相談することをおすすめします。
女性の場合は婦人科でも相談できますが、排尿機能の専門的な評価は泌尿器科で行われます。
原因が特定されれば、薬物療法、手術、自己導尿指導など、原因に応じた適切な治療を受けることで、症状を改善させ、合併症を防ぎ、安心して日常生活を送ることができるようになります。
「おシッコしたいのに出ない」というつらい症状で一人で悩まず、まずは専門家である医療機関へ相談しましょう。
早期の受診が、早期発見・早期治療につながり、より良い結果をもたらします。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個別の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じた、いかなる損害に関しても、当方は一切の責任を負いかねます。