胃潰瘍の原因・症状・治療法|つらい痛みを和らげる食事と治し方

胃潰瘍は、胃の壁が深く傷つき、ただれている状態を指します。
この病気は、みぞおちの痛みや吐き気など、様々な不快な症状を引き起こすことがあります。
しかし、「単なる胃の不調だろう」と軽く考えて放置すると、重篤な合併症につながる危険性も潜んでいます。
この記事では、胃潰瘍の主な症状、その原因、そして診断から治療、日々の食事における注意点、さらには予防法や再発を防ぐためのポイントまで、専門的な知見に基づいてわかりやすく解説します。
ご自身の胃の不調が気になる方、胃潰瘍について正しく理解し、適切な対処を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。

目次

胃潰瘍とは?基本を知る

胃潰瘍の定義

胃潰瘍とは、胃の粘膜が胃酸や消化酵素によって傷つけられ、その傷が粘膜の下にある「粘膜筋板」を超えて深くえぐられた状態を指します。
胃の壁は内側から粘膜層、粘膜筋板、粘膜下層、筋層、漿膜(しょうまく)層の5つの層で構成されていますが、潰瘍は粘膜筋板よりも深い層にまで及んでいるのが特徴です。
これに対して、粘膜層のみの浅い傷であれば「びらん」と呼ばれ、胃炎の一種として区別されます。
胃潰瘍は、進行すると胃壁に穴が開く「穿孔(せんこう)」や、血管を傷つけて出血する「出血」などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

胃潰瘍の発生機序

胃は、食べ物を消化するために強力な胃酸(塩酸)と消化酵素(ペプシン)を分泌しています。
しかし、これらの攻撃的な要因から胃自身の壁を守るために、粘液を分泌したり、粘膜の血流を保ったり、重炭酸イオンで酸を中和したりといった防御機構も備わっています。
健康な状態では、この「攻撃要因」と「防御要因」のバランスが保たれており、胃の粘膜は守られています。

胃潰瘍は、この攻撃要因と防御要因のバランスが崩れたときに発生します。
具体的には、攻撃要因が強くなりすぎるか、防御要因が弱まりすぎるか、あるいはその両方が起こることで、胃酸などが粘膜を傷つけ、潰瘍が形成されるのです。
このバランスを崩す主な要因として、後述するヘリコバクター・ピロリ菌感染や特定の薬剤の使用、そしてストレスや喫煙といった生活習慣が挙げられます。

胃潰瘍の原因

胃潰瘍の発生には複数の要因が関与しますが、現在では特定の原因が大部分を占めることが明らかになっています。

ピロリ菌感染による胃潰瘍

胃潰瘍の最も一般的な原因の一つが、ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染です。
ピロリ菌は胃の粘膜に生息するらせん形の細菌で、ウレアーゼという酵素を分泌し、尿素をアンモニアに変えることで胃酸を中和し、自らの周囲をアルカリ性に保って生存しています。

ピロリ菌が胃の粘膜に感染すると、粘膜に炎症を引き起こし、胃酸分泌の異常や粘膜防御機能の低下を招きます。
慢性的な炎症が続くと、粘膜が弱くなり、胃酸やペプシンの攻撃を受けやすくなることで潰瘍が発生しやすくなります。
日本人の胃潰瘍患者さんのうち、約70%以上がピロリ菌感染に関連していると言われています。
特に、再発を繰り返す胃潰瘍の多くの原因はピロリ菌感染です。

薬剤性胃潰瘍(NSAIDsなど)

もう一つの重要な胃潰瘍の原因は、特定の薬剤の使用です。
特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、関節痛や頭痛、発熱などの治療に広く用いられますが、胃粘膜に対する副作用として潰瘍を引き起こすことがあります。
NSAIDsは、プロスタグランジンという物質の生成を阻害することで炎症を抑える効果を発揮します。
しかし、プロスタグランジンは胃粘膜の血流を保ち、粘液や重炭酸イオンの分泌を促す防御因子としての働きも持っています。
NSAIDsがこれらのプロスタグランジンの働きを抑えてしまうと、胃粘膜の防御機能が低下し、胃酸による攻撃を受けやすくなり潰瘍が発生するのです。

NSAIDs以外にも、ステロイド薬や抗血小板薬、一部の抗がん剤などが胃潰瘍の原因となることがあります。
特に複数の薬剤を併用している場合や、高齢者、胃潰瘍や胃炎の既往がある方、ピロリ菌感染がある方では、薬剤性胃潰瘍のリスクが高まります。
薬剤による胃潰瘍を防ぐためには、医師の指示通りに薬を使用すること、胃への負担を軽減する胃薬(PPIやH2ブロッカーなど)を併用することなどが重要です。

ストレス・喫煙・飲酒などの生活習慣

ピロリ菌や薬剤といった明確な原因がない場合でも、ストレスや喫煙、過度の飲酒といった生活習慣が胃潰瘍の発生や悪化に関わることがあります。

  • ストレス: 精神的なストレスは、自律神経のバランスを乱し、胃酸分泌を増加させたり、胃粘膜の血流を悪化させたりすることが知られています。
    これにより、粘膜防御機能が低下し、潰瘍ができやすい状態を作ることがあります。
  • 喫煙: タバコに含まれるニコチンは、胃粘膜の血流を悪化させ、粘液分泌を減少させるなど、胃の防御機能を低下させます。
    また、胃酸分泌を促進する働きもあるため、攻撃要因と防御要因の両方に悪影響を与え、潰瘍のリスクを高め、治癒を遅らせる要因となります。
  • 飲酒: アルコールは胃粘膜を直接刺激し、胃酸分泌を促進します。
    特に濃度の高いアルコールは胃粘膜のバリア機能を低下させることがあります。
    適量であれば大きな問題とならないことが多いですが、慢性的な過度の飲酒は胃粘膜に負担をかけ、潰瘍のリスクを高める可能性があります。

これらの生活習慣は、単独でも胃に悪影響を及ぼしますが、ピロリ菌感染や薬剤使用といった他の原因と重なることで、より胃潰瘍が発生しやすくなったり、治りにくくなったりすることがあります。

胃潰瘍の症状

胃潰瘍の症状は、その程度や個人差によって様々です。
典型的な症状から、あまりはっきりしない症状、さらには重篤な合併症による症状まで知っておくことが大切です。

胃痛(みぞおちの痛み)

胃潰瘍の最も代表的な症状は、みぞおちのあたりに感じる痛みです。
この痛みには特徴があります。

  • 場所: 多くの場合はみぞおち(心窩部)に感じますが、背中に痛みが放散することもあります。
  • タイミング: 食事との関連性がよく見られます。
    胃潰瘍の痛みは、食事中から食後に痛みが強くなる傾向があります(十二指腸潰瘍の場合は、空腹時や夜間に痛みが強く、食事を摂ると痛みが和らぐことが多いです)。
    ただし、胃潰瘍でも空腹時に痛むことや、食事に関係なく痛むこともあります。
  • 性質: シクシク、キリキリ、焼けるような痛み、重苦しい痛みなど、感じ方は様々です。
  • 持続時間: 数時間続くこともあれば、比較的短時間で治まることもあります。

ただし、潰瘍の大きさや深さ、できた場所によっては、痛みをほとんど感じないケースも少なくありません。

軽微な胃潰瘍の症状

潰瘍が小さかったり、できた場所によっては、はっきりとした痛みを伴わないこともあります。
このような場合、以下のような比較的軽微な、あるいは非特異的な症状として現れることがあります。

  • 胃もたれ: 食後に胃が重い、スッキリしない感じ。
  • 膨満感: 胃やお腹が張った感じ。
  • 胸やけ: みぞおちから胸にかけて焼けるような感じ。
  • 食欲不振: 食欲が湧かない、少量食べただけで満腹感を感じる。
  • げっぷ: 頻繁に出る、酸っぱいげっぷが出る。

これらの症状は、胃炎や機能性ディスペプシアなど、他の胃の病気でも見られるため、これらの症状だけで胃潰瘍と断定することはできません。
しかし、持続したり繰り返したりする場合は、一度医療機関で相談することが推奨されます。
中には、自覚症状が全くない「無症候性潰瘍」の場合もあり、健康診断の胃カメラ検査などで偶然発見されることもあります。

吐き気・食欲不振・げっぷなどの症状

胃潰瘍ができた場所や深さによっては、胃の動き(蠕動運動)が悪くなることがあります。
これにより、以下のような症状が現れることがあります。

  • 吐き気・嘔吐: 胃の内容物がうまく先に進まず、逆流したり停滞したりすることで吐き気を感じたり、実際に吐いてしまったりすることがあります。
  • 食欲不振: 吐き気や胃の不快感から、食事を摂ることへの抵抗感が生じ、食欲が低下することがあります。
  • 早期満腹感: 食べ始めてすぐに胃がいっぱいになったように感じ、十分な量を食べられないことがあります。

これらの症状も、胃潰瘍だけでなく様々な胃腸の病気で起こりうる症状です。

重症の場合の症状(吐血・下血など)

胃潰瘍が進行し、胃壁の大きな血管を傷つけたり、胃壁に穴が開いたりすると、重篤な合併症による症状が現れます。
これらは緊急性の高い症状であり、すぐに医療機関を受診する必要があります。

  • 吐血: 胃からの出血が、胃酸と混じって酸化されると、コーヒーの残りカス(コーヒー残渣)のような黒っぽい色になります。
    大量に出血した場合は、鮮やかな赤い血を吐くこともあります。
  • 下血(タール便): 胃からの出血が消化管を通過する過程で変質し、真っ黒でベタベタした便(タール便)として排泄されます。
    自覚症状がないまま貧血が進行していることもあります。
  • 腹痛: 胃壁に穴が開く(穿孔)と、胃の内容物が腹腔内に漏れ出し、激しい腹痛を引き起こします。
    板のように硬い腹部(板状腹)になることもあり、腹膜炎を起こして命に関わる状態となることがあります。
  • ショック症状: 大量の出血や穿孔により、顔面蒼白、冷や汗、血圧低下、頻脈といったショック症状が現れることがあります。

これらの重症の症状が現れた場合は、一刻も早く救急医療機関を受診してください。

胃潰瘍かどうか自分で判断するには?

ご自身の症状が胃潰瘍によるものかどうかを自分で判断するのは非常に困難です。
なぜなら、胃潰瘍の症状は他の胃の病気(胃炎、機能性ディスペプシア、胃がんなど)と似ていることが多く、また無症状の場合もあるからです。

痛みのタイミングや性質、食事との関連性などからある程度推測することは可能かもしれませんが、これはあくまで目安にすぎません。
特に、みぞおちの痛みや不快感が続く場合、吐き気がある場合、そして吐血やタール便といった重症の症状が出た場合は、「おそらく胃潰瘍だろう」と自己判断せず、必ず医療機関を受診して専門医の診察を受けることが重要です。

医師は、問診で症状や病歴、服用中の薬、生活習慣などを詳しく聞き取り、必要に応じて胃カメラ検査などの精密検査を行います。
これらの検査によって、初めて胃潰瘍であるかどうかが確定診断され、適切な治療法が選択されるのです。

胃潰瘍の診断

胃潰瘍の診断は、患者さんの症状を聞き取る問診と、胃の内部を直接観察したり組織を採取したりする画像検査や内視鏡検査によって行われます。

胃カメラ検査(胃鏡検査)の必要性

胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)は、胃潰瘍の診断において最も重要な検査です。
細くしなやかなチューブの先端にカメラがついた内視鏡を口または鼻から挿入し、食道、胃、十二指腸の粘膜をモニター画面で詳しく観察します。

胃カメラ検査が必要な理由は以下の通りです。

  • 潰瘍の確認と評価: 潰瘍の存在、大きさ、深さ、場所を正確に確認できます。
    また、活動期(炎症が強い状態)、治癒期(治りかけの状態)、瘢痕期(傷跡になった状態)といった潰瘍の状態を評価できます。
  • 出血の有無と止血: 出血している潰瘍の場合、出血源を特定し、内視鏡を使ってその場で止血処置を行うことが可能です。
  • 生検(組織採取): 潰瘍の一部や周囲の組織を少量採取することができます。
    採取した組織は病理検査に回され、潰瘍が良性であるか悪性(胃がんなど)であるかを確認します。
    胃潰瘍と胃がんは見た目が似ていることがあるため、生検は非常に重要です。
  • ピロリ菌検査: 検査時に組織の一部を採取し、迅速ウレアーゼ試験などでピロリ菌感染の有無を調べることができます。

胃カメラ検査は、これらの情報を提供することで、正確な診断と適切な治療方針の決定に不可欠な検査と言えます。
検査には多少の苦痛を伴うことがありますが、近年では経鼻内視鏡や鎮静剤の使用などにより、以前に比べて楽に受けられるようになっています。

その他の診断方法

胃カメラ検査が最も確実な診断方法ですが、状況に応じて他の検査が行われることもあります。

  • バリウム検査(上部消化管X線検査): バリウムという造影剤を飲んで、食道、胃、十二指腸の形や粘膜の状態をX線で撮影する検査です。
    胃の全体像を把握するのに役立ち、潰瘍がある場合はバリウムがたまることで写し出されることがあります。
    ただし、小さな潰瘍や浅い潰瘍は見つけにくい場合があり、生検ができないため、確定診断や悪性かどうかの判断には胃カメラ検査が優れています。
  • ピロリ菌検査: 胃潰瘍の原因としてピロリ菌感染が強く疑われる場合には、様々な方法でピロリ菌の感染を調べます。
    • 内視鏡を使用しない方法: 呼気検査(尿素呼気試験)、便中抗原検査、血液検査(抗体検査)などがあり、比較的簡便に行えます。
    • 内視鏡を使用する方法: 迅速ウレアーゼ試験、組織鏡検法、培養法などがあり、胃カメラ検査と同時に行われます。
  • 血液検査: 胃潰瘍による慢性的な出血がある場合、貧血が進んでいることがあります。
    血液検査で貧血の程度を確認することがあります。
    また、炎症の程度を示すCRPなどの項目を調べることもあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、胃潰瘍の診断と原因の特定が行われます。

胃潰瘍の治療

胃潰瘍の治療の主な目的は、潰瘍を治癒させること、症状を和らげること、そして再発を予防することです。
治療法は、潰瘍の原因や状態によって異なります。

薬物療法(治療期間)

胃潰瘍治療の中心は薬物療法です。
主に以下の種類の薬が使用されます。

  • 胃酸分泌抑制薬: 胃酸の分泌を強力に抑えることで、潰瘍部が胃酸の攻撃を受けずに治癒するのを助けます。
    プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)が主に用いられます。
    PPIはH2ブロッカーよりも強力に胃酸分泌を抑制する効果があります。
  • 胃粘膜保護薬: 胃の粘膜を覆って保護したり、粘液の分泌を促したり、粘膜の血流を改善したりすることで、潰瘍部の治癒を助けます。

これらの薬は、潰瘍の状態にもよりますが、通常は数週間から数ヶ月間服用します。
一般的に、胃潰瘍の治癒には約2ヶ月程度の薬物療法が必要とされることが多いです。
症状が改善しても、潰瘍が完全に治癒していないことがあるため、医師の指示通りに服用を続けることが重要です。
治癒を確認するために、治療の途中で再度胃カメラ検査を行うこともあります。

ピロリ菌除菌療法

胃潰瘍の原因がピロリ菌感染であると診断された場合、潰瘍の治癒だけでなく、再発を予防するためにピロリ菌を除菌する治療が行われます。
ピロリ菌を除菌することで、胃潰瘍の再発率は劇的に低下することが知られています。

ピロリ菌除菌療法は、通常、2種類の抗生物質胃酸分泌抑制薬(PPI)の合計3種類の薬を1週間服用します。
これを「一次除菌」と呼びます。
約8割程度の患者さんで一次除菌に成功すると言われています。

一次除菌が不成功だった場合は、使用する抗生物質の種類を変更して再度除菌を行う「二次除菌」が行われます。
二次除菌まで含めると、9割以上の患者さんでピロリ菌の除菌に成功するとされています。

除菌治療後、約1ヶ月後にピロリ菌が除菌できたかどうかを確認するための検査(呼気検査や便中抗原検査など)が行われます。
ピロリ菌が除菌されても、胃の粘膜の炎症が完全に回復するには時間がかかる場合があります。

胃潰瘍手術が必要なケース

胃潰瘍の治療は薬物療法が中心ですが、以下のような場合には手術が必要となることがあります。

  • 合併症を起こした場合:
    • 穿孔(せんこう): 胃壁に穴が開いて腹膜炎を起こしている場合、緊急手術で穴を塞ぐ必要があります。
    • 出血: 内視鏡による止血処置で出血が止まらない場合や、再出血を繰り返す場合、手術で出血源を処理することがあります。
    • 狭窄(きょうさく): 潰瘍が治る過程で瘢痕(傷跡)が収縮し、胃の出口などが狭くなり、食べ物が通りにくくなった場合、狭窄を解除するための手術が必要となることがあります。
  • 難治性潰瘍: 薬物療法を継続してもなかなか治癒しない潰瘍の場合、原因の再評価や手術が検討されることがあります。
  • 悪性が否定できない場合: 胃カメラ検査や生検で、潰瘍が悪性(胃がん)である可能性が完全に否定できない場合、診断と治療を兼ねて手術で病変を切除することがあります。

手術は、潰瘍の縫縮や、胃の一部を切除するといった方法で行われます。
現在では、腹腔鏡を用いた低侵襲な手術が可能な場合もあります。

胃潰瘍は自然に治る?

ごく軽度の胃粘膜の傷(びらん)であれば、自然に治癒することもあります。
しかし、胃潰瘍は、胃酸や消化酵素の攻撃によって胃壁が深く傷ついた状態であり、自然に完全に治癒することは非常に稀です。
たとえ一時的に症状が軽くなったとしても、潰瘍そのものが治癒していないと、症状が再燃したり、潰瘍がさらに深くなったり、重篤な合併症(出血、穿孔など)を引き起こしたりするリスクが非常に高いです。

特にピロリ菌感染が原因の場合は、原因菌を除去しない限り、潰瘍が治っても高い確率で再発します。
自己判断で放置せず、必ず医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
早期に適切な治療を開始すれば、ほとんどの胃潰瘍は薬物療法で治癒します。

胃潰瘍は根治できる?

胃潰瘍が「根治できる」かどうかは、その原因によります。

原因がピロリ菌感染の場合: ピロリ菌を除菌することで、潰瘍の原因そのものを取り除くことができます。
除菌に成功すれば、ピロリ菌による胃潰瘍はほぼ根治されたと言えます。
ただし、除菌後も喫煙やストレスなどの他の要因によって新たに潰瘍ができる可能性はゼロではありません。

原因が薬剤性の場合: 原因となっている薬剤の使用を中止するか、胃への負担が少ない薬剤に変更する、あるいは胃薬を併用することで、潰瘍は治癒します。
原因薬剤を特定し、適切に対処すれば治癒可能です。

原因がストレスやその他の生活習慣の場合: これらの要因を改善することで、潰瘍は治癒に向かいます。
しかし、根本的な生活習慣が変わらないと、再発のリスクは高くなります。

このように、原因を特定し、適切に治療・対処すれば、胃潰瘍は十分に治癒し、再発のリスクを低く抑えることができます。
重要なのは、自己判断せず医療機関の指示に従い、原因の特定と治療、そして再発予防のための生活習慣の改善に取り組むことです。

胃潰瘍の食事

胃潰瘍の治療中、そして再発予防のためには、食事の内容や摂り方に注意することが非常に重要です。
胃に負担をかけず、潰瘍の治癒を助けるような食事を心がけましょう。

胃潰瘍治療中の食事原則

胃潰瘍治療中の食事の基本は、「胃に優しい食事」です。
具体的には以下の点を意識しましょう。

  • 消化の良いものを選ぶ: 胃での滞留時間が短く、消化に負担がかからない食品を選びましょう。
  • 刺激の少ないもの: 胃酸分泌を過度に促したり、胃粘膜を直接刺激したりする食品は避けましょう。
  • 適切な温度で: 熱すぎるものや冷たすぎるものは胃粘膜への刺激となるため、人肌程度の温かいものや常温のものが望ましいです。
  • よく噛んで食べる: 食べ物を細かくすることで胃での消化がスムーズになります。
  • 規則正しい食事時間: 毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃のリズムを整えます。
  • 腹八分目: 一度にたくさん食べすぎず、少量ずつ回数を分けて食べる工夫も有効な場合があります。
  • 食後すぐに横にならない: 食後すぐに横になると胃酸が逆流しやすくなることがあります。
    食後2~3時間は体を起こしておくのが望ましいです。

胃潰瘍で食べてはいけないもの

胃潰瘍があるときや、胃の調子が悪いときに避けるべき、または控えめにすべき食品や飲み物は以下の通りです。

分類 避けるべき食品・飲み物例 理由
胃酸分泌促進 コーヒー、紅茶、濃い緑茶、炭酸飲料、アルコール、香辛料(唐辛子、カレー粉、わさび、マスタードなど) 胃酸分泌を増やし、潰瘍部を刺激する
胃粘膜刺激 酸味の強いもの(柑橘類の果汁、酢の物)、辛いもの、熱すぎるもの、冷たすぎるもの 胃粘膜を直接刺激する
消化に時間 脂肪分の多いもの(揚げ物、脂身の多い肉、バター、生クリーム)、繊維質の多い野菜(ごぼう、たけのこ、きのこ)、硬いもの(ナッツ類、煎餅) 胃での滞留時間が長くなり、胃に負担をかける
その他 強い香辛料、チョコレート、一部の加工食品(添加物が多いもの) 胃に刺激を与える可能性がある

胃潰瘍に推奨される食べ物

胃潰瘍があるときでも比較的安心して食べられる、胃に優しい食品は以下の通りです。

  • 穀類: おかゆ、軟飯、やわらかく煮込んだうどん、食パン(トーストせずそのままか、軽く焼いたもの)、ビスケット(油分が少ないもの)
  • 野菜: 大根、かぶ、人参、じゃがいも、ほうれん草など、やわらかく煮込んだもの。
    繊維の少ないもの。
  • タンパク質: 豆腐、湯葉、白身魚、鶏むね肉(皮なし)、卵豆腐、茶碗蒸し、牛乳、ヨーグルト(酸味が少ないもの)
  • 果物: りんご(すりおろしや煮たもの)、バナナなど、酸味の少ないもの。
  • 飲み物: 湯冷まし、白湯、薄めのお茶(ほうじ茶など)、温かい牛乳

調理法は、煮る、蒸す、茹でるといった、油を使わない、または少量に抑える方法が適しています。
揚げる、炒めるといった調理法は、脂肪分が増えて消化に負担がかかるため避けるのが望ましいです。

また、食事だけでなく、十分な睡眠をとることも胃の回復にとって重要です。
喫煙や過度の飲酒も胃に負担をかけるため、控えましょう。

胃潰瘍の予防と再発防止

胃潰瘍は一度治っても、原因が残っていたり生活習慣が乱れたりすると再発しやすい病気です。
予防と再発防止のためには、原因を取り除き、胃に優しい生活を心がけることが重要です。

胃潰瘍予防のための生活習慣

胃潰瘍の予防、特に治療後の再発防止のためには、日常生活の見直しが不可欠です。

  • ピロリ菌の除菌: ピロリ菌感染が確認された場合は、必ず除菌療法を受けましょう。
    除菌に成功すれば、ピロリ菌による胃潰瘍の再発リスクは大幅に低下します。
  • 適切な薬剤の使用: 普段から痛み止め(NSAIDs)などを頻繁に服用する場合は、漫然と使用せず、医師や薬剤師に相談しましょう。
    胃に負担のかかりにくい薬剤に変更したり、胃薬(PPIやH2ブロッカー)を併用したりすることで、薬剤性胃潰瘍を予防できます。
    自己判断での長期服用は避けましょう。
  • 禁煙・節酒: 喫煙は胃潰瘍のリスクを高め、治癒を遅らせる最大の要因の一つです。
    禁煙は予防と再発防止に非常に有効です。
    過度の飲酒も控えめにしましょう。
  • 規則正しい食事: 毎日決まった時間に、バランスの取れた食事を摂るように心がけましょう。
    早食いやドカ食いは避け、よく噛んでゆっくり食べることが大切です。
  • 十分な睡眠と休息: 体の疲れは胃にも負担をかけます。
    十分な睡眠をとり、心身のリフレッシュを心がけましょう。

ストレス管理の重要性

前述したように、ストレスは胃潰瘍の原因や悪化要因の一つです。
精神的なストレスが自律神経を通して胃の機能に影響を与え、胃酸分泌の増加や粘膜防御機能の低下を招くことがあります。
そのため、日頃からストレスをうまく管理することが、胃潰瘍の予防や再発防止に繋がります。

具体的なストレス管理の方法としては、以下のようなものがあります。

  • 適度な運動: ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなど、心身のリフレッシュになる運動を習慣にしましょう。
  • 趣味やリラクゼーション: 自分の好きなことに没頭する時間を作ったり、音楽鑑賞、アロマテラピー、入浴など、リラックスできる時間を持ったりすることは、ストレス解消に役立ちます。
  • 十分な休息と睡眠: 疲労はストレスを増幅させます。
    質の良い睡眠を十分に確保することが重要です。
  • 信頼できる人との交流: 家族や友人、パートナーなど、話しやすい相手に悩みを相談することも、ストレスを軽減する方法の一つです。
  • 考え方の工夫: ストレスの原因となる出来事に対する考え方を変えたり、完璧を目指しすぎずに適度に手を抜いたりすることも有効です。

ストレスを完全にゼロにすることは難しいですが、自分なりのストレス解消法を見つけ、日常的に取り入れることが、胃の健康維持にとって非常に大切です。

まとめ:胃潰瘍が疑われる場合は早めに受診を

胃潰瘍は、胃の粘膜が深く傷ついた状態であり、みぞおちの痛みや吐き気といった症状が現れることがあります。
主な原因はピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用ですが、ストレスや喫煙、飲酒などの生活習慣も関与します。

症状は様々で、痛みがはっきりしない軽微な症状から、吐血や下血、激しい腹痛といった重篤な合併症まで起こりえます。
特に吐血やタール便、激しい腹痛は緊急性が高く、すぐに医療機関を受診する必要があります。

胃潰瘍かどうかを自分で判断することは難しく、症状がある場合は必ず医療機関で専門医の診察を受けることが重要です。
診断には胃カメラ検査が不可欠であり、潰瘍の確認、悪性かどうかの判断、ピロリ菌感染の有無の確認などが行われます。

治療の中心は胃酸分泌抑制薬などによる薬物療法です。
ピロリ菌感染がある場合は除菌療法を行い、原因を取り除くことで再発を予防します。
重篤な合併症を起こした場合などには手術が必要となることもあります。

胃潰瘍の治癒と再発予防のためには、治療だけでなく、食事療法や生活習慣の改善も非常に大切です。
胃に優しい食事を心がけ、禁煙、節酒、ストレス管理に努めましょう。

この記事で解説したように、胃潰瘍は早期に発見し、適切な治療を行えばほとんどの場合は治癒する病気です。
しかし、放置すると重篤な状態に陥る危険性もあります。
ご自身の症状が気になる場合や、胃潰瘍が疑われる場合は、「様子を見よう」と思わず、必ず早めに医療機関(消化器内科など)を受診してください。
専門医の診断を受け、適切な治療と生活指導によって、胃の健康を取り戻し、再発を防ぐことができます。

【免責事項】
この記事は胃潰瘍に関する一般的な情報を提供するものであり、病気の診断や治療を目的としたものではありません。
個々の症状や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
この記事の情報に基づいて行った行為によって生じた損害等について、当サイトは一切責任を負いません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次