憩室炎の原因を徹底解説|よくある症状と今日からできる予防対策

憩室炎は、大腸の壁にできた小さな袋状の突起(憩室)に炎症が起こる病気です。
初期段階では自覚症状がないことも多い「大腸憩室症」として存在しますが、一度炎症を起こすと激しい腹痛や発熱などの症状が現れ、生活に支障をきたすだけでなく、重症化すると合併症を引き起こす可能性もあります。
なぜ憩室炎は起こるのでしょうか。
この記事では、憩室炎の主な原因やメカニズム、なりやすい人の特徴、代表的な症状、そして診断・治療・予防法までを、分かりやすく解説します。
憩室炎の原因を知り、適切な対策を講じることで、健康な腸を保ち、病気のリスクを減らすことにつながるでしょう。

そもそも「憩室」とは何か?

「憩室」とは、臓器の壁の一部が外側に向かって袋状に突き出したものの総称です。
消化管においては、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸など、どの部位にもできる可能性がありますが、特に大腸にできるものが多く見られます。
大腸憩室は、大腸の壁にある筋層の弱い部分から粘膜や粘膜下層が押し出されるようにして形成されます。

大腸の憩室は、多くの場合、直径数ミリから1センチ程度の小さなものですが、多数できることもあります。
憩室があるだけであれば「大腸憩室症」と呼ばれ、自覚症状はほとんどありません。
健康診断や他の病気の検査で偶然発見されることが少なくありません。
しかし、この憩室に何らかの原因で炎症が起きると、「大腸憩室炎」という病気になります。

大腸憩室ができる場所は、食生活などによって人種差があることが知られています。
欧米ではS状結腸(大腸の左側)にできることが多いのに対し、日本では盲腸や上行結腸(大腸の右側)にできることが多い傾向があります。
この差が、後述する腹痛の部位など、症状の現れ方にも影響を与えることがあります。

大腸憩室炎が起こるメカニズム

大腸憩室炎は、大腸の壁にできた憩室に、主に便や食物残渣が詰まり、それが原因で炎症が起こることで発症します。
このメカニズムはいくつかの段階を経て進行します。

まず、大腸の壁にできた憩室は袋状になっているため、その構造上、便や消化しきれなかった食物残渣が入り込みやすくなっています。
正常な大腸であれば、便はスムーズに移動し排泄されますが、憩室に入り込んだものは滞留しやすい性質があります。

次に、憩室内に滞留した便や食物残渣は、時間が経つにつれて硬くなったり、細菌が繁殖しやすい環境となります。
大腸内にはもともと多くの細菌が存在していますが、憩室内に閉じ込められた状態になると、これらの細菌が異常に増殖し、発酵や腐敗が進むことがあります。

この過程で、憩室の壁が刺激を受けたり、細菌によって直接攻撃されたりすることで、憩室の壁に炎症が引き起こされます。
初期の炎症は軽度かもしれませんが、進行すると憩室の壁が腫れ上がり、痛みや発熱といった症状が現れます。
これが「憩室炎」の状態です。
炎症がさらに悪化すると、憩室の壁が破れてしまう(穿孔)ことや、周囲に膿がたまる(膿瘍形成)といった重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。

このように、大腸憩室炎は「憩室があること」と「憩室内に内容物が詰まり、細菌感染が起こること」という二つの要因が組み合わさることで発症するのです。

目次

憩室炎の主な原因(なぜ憩室炎になるのか?)

憩室炎の発症には、まず大腸の壁に憩室ができること、そしてその憩室が炎症を起こすこと、という二つの段階があります。
それぞれの段階で関わる主な原因について見ていきましょう。

憩室ができる根本的な原因

大腸に憩室ができる根本的な原因は、まだ完全に解明されているわけではありませんが、いくつかの要因が複合的に関わっていると考えられています。
最も有力な説の一つは、腸管内圧の上昇腸壁の脆弱性の組み合わせです。

加齢に伴う腸壁の変化と筋力低下

加齢は、大腸に憩室ができる最も重要なリスク因子の一つです。
年齢を重ねると、全身の筋肉量が減少するのと同様に、大腸の壁を構成する筋肉(筋層)も弾力性を失い、弱くなっていく傾向があります。
特に、血管が腸壁を貫通している部分は構造的に弱くなりやすく、内側からかかる圧力に耐えきれず、外側に袋状に膨らみやすくなります。

また、加齢に伴い、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:内容物を送り出す動き)を調節する神経や、腸壁を構成するコラーゲンなどの結合組織にも変化が生じることが示唆されています。
これらの変化も、腸壁の脆弱性を高め、憩室の形成を促進する要因となり得ます。
高齢者になるほど憩室が見つかる割合が高くなるのは、こうした加齢に伴う身体の変化が大きく影響しているためと考えられています。

腸管内圧の上昇

大腸内の圧力(腸管内圧)が慢性的に高くなることも、憩室ができる重要な原因の一つです。
大腸は、便を形成し、水分を吸収しながら肛門まで送り出す働きをしています。
この過程で、大腸の筋肉が収縮することで便を移動させていますが、何らかの原因で便がスムーズに流れなかったり、硬くなったりすると、大腸はより強く収縮して便を押し出そうとします。
この強い収縮が大腸の内圧を上昇させます。

特に、食物繊維の摂取不足は、腸管内圧の上昇と深く関連しています。
食物繊維は水分を吸収して便のカサを増やし、便を柔らかくして排泄をスムーズにする働きがあります。
食物繊維が不足すると、便の量が減り、硬くなりやすいため、大腸は強い力で便を押し出す必要が生じ、結果として腸管内圧が上昇しやすくなります。
現代の加工食品が多く、食物繊維が不足しがちな食生活は、腸管内圧を上昇させ、憩室ができやすい環境を作り出していると考えられています。
便秘が慢性化している人も、同様に腸管内圧が高くなりやすいため、憩室ができるリスクが高まります。

憩室が炎症を起こす直接的な原因

大腸に憩室があっても、必ずしも炎症を起こすわけではありません。
多くの場合は無症状のまま経過します(大腸憩室症)。
憩室に炎症が起こり「憩室炎」となる直接的な原因は、主に憩室内に内容物が詰まることと、それに伴う細菌の増殖です。

憩室内に便や食物が詰まることによる刺激

憩室は袋状の構造をしているため、大腸の内容物、特に便や消化されにくい食物残渣(例えば、種子やナッツ類、小さな硬い粒など)が入り込み、そこに滞留しやすい特徴があります。
憩室の開口部が狭かったり、便が硬かったりすると、一度入った内容物が排泄されずに長時間留まることがあります。

憩室内に詰まった便や食物残渣は、憩室の壁を物理的に刺激したり、そこに含まれる化学物質によって刺激を与えたりします。
この刺激が、憩室の壁に微細な損傷を与えたり、炎症の初期反応を引き起こしたりする可能性があります。
特に、硬い便や鋭利な食物残渣は、憩室の繊細な粘膜を傷つけやすいと考えられています。

細菌の増殖と感染

憩室内に便や食物残渣が滞留すると、大腸内に常在する細菌にとって格好の繁殖場所となります。
閉じられた袋の中で内容物が腐敗し始めると、細菌が異常に増殖します。
この細菌が憩室の壁に侵入し、感染を引き起こすことで、本格的な炎症(憩室炎)が発症します。

大腸には多種多様な細菌が生息しており、普段は互いにバランスを取りながら共存していますが、憩室内の閉鎖的な環境では特定の種類の細菌が優位に増殖し、炎症を悪化させることがあります。
炎症が進行すると、憩室の壁は赤く腫れ上がり、強い痛みを生じます。
さらに炎症が深部に及ぶと、前述の穿孔や膿瘍といった重篤な合併症につながるリスクが高まります。

このように、憩室炎の発症は、「憩室ができる」という土台があり、そこに「内容物の詰まり」と「細菌感染」という引き金が加わることで起こるのです。
予防のためには、まず憩室ができにくい腸内環境を整えること、そして憩室があっても炎症を起こしにくいように、便秘を防ぎ、腸内を清潔に保つことが重要になります。

憩室炎になりやすいリスク因子

憩室ができる原因や炎症が起こるメカニズムを踏まえると、特定の要因を持つ人は憩室炎になりやすいと考えられます。
これらの要因を「リスク因子」と呼びます。
自身の生活習慣や体の状態に当てはまるものがないか確認し、当てはまる場合は意識して改善に取り組むことが予防につながります。

高齢であること

前述の通り、加齢は憩室ができる大きなリスク因子です。
腸壁の筋力低下や弾力性の喪失が進むため、憩室ができやすくなります。
さらに、高齢者は免疫機能が低下している場合があり、一度憩室内に細菌が入り込むと炎症を起こしやすかったり、炎症が重症化しやすかったりする傾向もあります。
また、複数の疾患を抱えていたり、服用している薬が多かったりすることも、リスクを複雑にする要因となり得ます。

食物繊維の摂取不足

現代の日本人の食生活は、欧米化が進み、穀物や野菜、豆類、海藻類などの食物繊維が豊富な食品の摂取量が減少傾向にあります。
食物繊維の不足は便秘を引き起こしやすく、その結果、大腸が便を排泄するために強く収縮する必要が生じ、腸管内圧が上昇します。
この慢性的な内圧の上昇が憩室の形成を促進します。
また、便が硬く、憩室に詰まりやすくなることも、炎症の直接的な原因となり得ます。
十分な食物繊維を摂ることは、憩室炎の最も重要な予防策の一つです。

肥満

肥満、特に内臓脂肪型肥満は、全身の慢性炎症と関連があることが知られています。
体脂肪が過剰な状態では、脂肪組織から炎症性サイトカインと呼ばれる物質が多く分泌され、これが全身のさまざまな臓器に影響を与えます。
大腸においても、肥満による慢性炎症が腸壁の状態に影響を与えたり、免疫応答を変化させたりすることで、憩室炎の発症リスクを高める可能性が指摘されています。
また、肥満は便秘や運動不足とも関連しやすく、複合的にリスクを高める可能性があります。

運動不足

定期的な運動は、全身の血行を促進し、腸の蠕動運動を活発にする効果があります。
運動不足になると、腸の動きが鈍くなり、便が腸内に停滞しやすくなるため、便秘を引き起こしたり悪化させたりする可能性があります。
便秘は腸管内圧を上昇させ、憩室ができるリスクを高めるだけでなく、憩室内の便の滞留を招き、炎症の原因となります。
適度な運動習慣は、腸の健康を保ち、憩室炎の予防に役立ちます。

喫煙

喫煙は、全身の血管を収縮させ血行不良を引き起こすだけでなく、免疫機能にも悪影響を及ぼします。
喫煙によって大腸の血流が悪くなると、腸壁の健康が損なわれる可能性があります。
また、喫煙は全身の炎症反応を高めることが知られており、憩室がある人が喫煙習慣を持つと、憩室に炎症が起こりやすくなったり、炎症が治りにくくなったりするリスクを高める可能性があります。
禁煙は、憩室炎だけでなく、多くの疾患の予防に重要です。

特定の薬剤(非ステロイド性抗炎症薬など)

一部の薬剤も、憩室炎のリスクを高める可能性が示唆されています。
特に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる鎮痛剤や解熱剤(アスピリン、イブプロフェン、ロキソニンなど)の常用は、腸粘膜を傷つけたり、炎症を促進したりする作用があるため、憩室炎の発症や重症化のリスクを高める可能性が指摘されています。
ステロイド薬やオピオイド系の鎮痛剤なども、腸の動きを抑制して便秘を引き起こしたり、免疫機能を抑制したりすることで、間接的に憩室炎のリスクを高める可能性があります。
これらの薬剤を日常的に使用している場合は、医師と相談し、必要性や代替薬について検討することが重要です。

これらのリスク因子をまとめると、以下のようになります。

リスク因子 憩室炎への影響(主なメカニズム) 対策例
高齢 腸壁の脆弱化、筋力低下、免疫機能低下 急激な改善は難しいが、他のリスク因子対策は有効
食物繊維の摂取不足 便秘、腸管内圧上昇、憩室内の内容物滞留 食物繊維豊富な食品の摂取(野菜、果物、穀類など)
肥満 全身の慢性炎症、便秘・運動不足との関連 適正体重の維持、食生活改善、運動
運動不足 腸蠕動運動の低下、便秘 ウォーキング、ジョギングなどの有酸素運動
喫煙 血行不良、免疫機能低下、全身の炎症促進 禁煙
特定の薬剤(NSAIDsなど) 腸粘膜への影響、炎症促進、便秘 医師との相談による使用量や代替薬の検討

これらのリスク因子を減らす努力は、憩室炎の予防だけでなく、全体的な健康状態の改善にもつながります。

憩室炎の代表的な症状

憩室があるだけの大腸憩室症ではほとんど症状がありませんが、ひとたび炎症が起こり憩室炎になると、さまざまな症状が現れます。
症状の現れ方や程度は、炎症が起きている場所、炎症の広がり、合併症の有無などによって個人差がありますが、代表的なものとして以下の症状が挙げられます。

腹痛(多くは左下腹部、日本人では右下腹部も)

憩室炎で最も頻繁に現れる症状は腹痛です。
痛みの場所は、炎症を起こしている憩室がある部位によって異なります。
欧米人に多いS状結腸の憩室炎では、痛みが左下腹部に現れることが多いです。
これは、虫垂炎が右下腹部に痛みを生じるのと似たようなメカニズムで、炎症部位の刺激によるものです。

一方、日本人は盲腸や上行結腸に憩室ができる傾向が比較的高いため、これらの部位に炎症が起きた場合は右下腹部に痛みを感じることがあります。
このため、日本人においては、右下腹部痛がある場合に虫垂炎と区別するために検査が必要となるケースも少なくありません。

痛みは、持続的で、ズキズキとした痛みであることが多いです。
軽症の場合は鈍痛程度で済むこともありますが、炎症が強い場合や合併症を起こしている場合は、非常に強い痛みとなることもあります。
咳やくしゃみ、体の動きによって痛みが強まることもあります。

発熱

炎症が起きると、体の免疫システムが反応し、発熱を伴うことが一般的です。
憩室炎においても、腹痛に続いて、あるいは同時に発熱が見られることがよくあります。
熱の高さは炎症の程度によりますが、37℃台後半から38℃台、あるいはそれ以上になることもあります。
高熱は、炎症が比較的強く進行していることを示唆するサインの一つです。

吐き気や嘔吐

憩室炎による炎症が周囲の消化管の動きに影響を与えたり、全身の炎症反応が影響したりすることで、吐き気や嘔吐といった消化器症状が現れることがあります。
特に炎症が強い場合や、腸管の通過障害を伴うような合併症を起こしている場合に起こりやすい症状です。

便秘または下痢

腸の炎症は、その動きを乱し、排便習慣に変化をもたらすことがあります。
憩室炎では、炎症によって腸の動きが悪くなり、便が停滞しやすくなることで便秘になる人もいれば、炎症が腸粘膜を刺激し、分泌物が増加したり、腸の動きが過剰になったりすることで下痢になる人もいます。
これらの排便習慣の変化は、腹痛や発熱と同時に現れることが多い症状です。
まれに、炎症した憩室から出血し、血便が見られることもあります。

これらの症状は、憩室炎だけでなく、他のさまざまな腹部の疾患(例えば、虫垂炎、感染性腸炎、過敏性腸症候群、女性の場合は婦人科疾患など)でも見られる症状です。
そのため、自己判断はせずに、これらの症状が現れた場合は医療機関を受診し、正確な診断を受けることが重要です。

憩室炎の診断方法

憩室炎の診断は、患者さんの症状の聞き取り(問診)と体の状態の確認(身体診察)に加え、血液検査や画像検査を組み合わせて行われます。
これらの検査によって、憩室炎であるかどうかを確認し、炎症の程度や合併症の有無を評価します。

医師による問診と身体診察

まず、医師は患者さんから症状について詳しく聞き取ります。
いつから、どのような種類の、どのくらいの強さの痛みが、お腹のどのあたりにあるか、発熱の有無、排便習慣の変化(便秘や下痢)、吐き気や嘔吐の有無などを確認します。
過去に憩室炎や他の消化器系の病気にかかったことがあるか、服用している薬、食生活や生活習慣についても尋ねる場合があります。

次に、医師は患者さんのお腹を触って診察します(触診)。
痛みの場所や押したときの痛みの程度(圧痛)、お腹が硬くなっている場所(筋性防御)、お腹の中にしこりがないかなどを確認します。
これらの問診と身体診察によって、憩室炎の可能性が高いかどうか、また炎症がどの程度広がっているかなど、ある程度の見当をつけることができます。

血液検査での炎症反応確認

血液検査は、体内で炎症が起こっているかどうか、その程度を客観的に評価するために行われます。
憩室炎の場合、炎症反応を示す項目、特に白血球の数CRP(C反応性タンパク)の値が上昇することが多いです。
白血球は細菌感染などに対して増加する免疫細胞であり、CRPは炎症が存在すると肝臓で作られるタンパク質です。
これらの数値が高いほど、体内の炎症が強いことを示唆します。
血液検査は、診断のサポートだけでなく、治療の効果判定や病状の経過観察にも役立ちます。

画像検査(CT検査など)

画像検査は、憩室の存在を確認し、炎症がどの程度進んでいるか、周囲の組織への影響、合併症の有無などを詳しく調べるために非常に重要です。
憩室炎の診断において、現在最も一般的に行われる画像検査はCT(コンピュータ断層撮影)検査です。

CT検査では、お腹の断面を詳細に画像化できるため、以下の情報が得られます。

  • 憩室の存在と場所の確認: 大腸壁にある袋状の憩室がどこにあるかを確認できます。
  • 炎症の範囲と程度: 炎症を起こしている憩室の壁の厚みや周囲の脂肪織の変化などから、炎症の範囲や重症度を評価できます。
  • 合併症の有無: 炎症が進行して、憩室の壁が破れていないか(穿孔)、周囲に膿がたまっていないか(膿瘍)、腸が狭くなっていないか(狭窄)、他の臓器と交通していないか(瘻孔)といった、重篤な合併症がないかを確認できます。

CT検査は短時間で広範囲を撮影でき、詳細な情報が得られるメリットがありますが、X線を使用するため放射線被ばくがあるという側面もあります。

その他の画像検査としては、腹部超音波(エコー)検査が行われることもあります。
超音波検査はCT検査ほどの詳細さは得られないこともありますが、簡便に行え、放射線被ばくがないというメリットがあります。
特に右下腹部痛の場合に虫垂炎との鑑別に役立つことがあります。

炎症が落ち着いた後には、大腸カメラ(大腸内視鏡検査)が行われることもあります。
憩室炎が疑われる急性期に大腸カメラを行うと、腸壁が傷ついたり穿孔したりするリスクがあるため、通常は炎症が完全に収まってから行われます。
大腸カメラでは、憩室の有無や数、位置を直接観察できるほか、炎症後の腸粘膜の状態や、他の病気(大腸がんや炎症性腸疾患など)がないかを確認することができます。

これらの検査結果を総合的に判断し、医師が最終的に憩室炎の診断を行います。

憩室炎の治療法

憩室炎の治療法は、病気の重症度によって大きく異なります。
炎症が軽度で合併症がない「非複雑性憩室炎」の場合と、炎症が強く合併症を伴う「複雑性憩室炎」の場合で、治療方針が異なります。

非複雑性憩室炎の場合(保存的治療)

非複雑性憩室炎は、憩室の炎症が憩室壁内にとどまり、穿孔や膿瘍などの合併症がない比較的軽度な状態です。
この場合、多くは入院せずに外来で治療が行われます。
治療の基本は、腸を休ませて炎症を抑える保存的治療です。

抗生物質の使用

炎症の原因となっている細菌感染を抑えるために、抗生物質が処方されます。
通常、経口で数日間服用しますが、症状がやや強い場合や吐き気などで内服が難しい場合は、点滴で投与されることもあります。
医師の指示に従い、決められた期間、正確に服用することが重要です。
症状が改善しても、自己判断で服用を中止しないようにしましょう。

食事療法(絶食、流動食から開始)

炎症を起こしている腸を休ませるために、一時的に食事を制限します。
症状が比較的強い場合は、数日間絶食として、代わりに点滴で水分や栄養を補給します。
これは、食物残渣が大腸を通過するのを防ぎ、憩室への刺激を最小限にするためです。

症状が改善してきたら、段階的に食事を開始します。
最初は、消化の良い流動食(スープ、重湯など)から始め、次に重湯や軟食(おかゆ、うどんなど)へと進め、最終的に通常の食事に戻していきます。
この食事移行のペースは、患者さんの症状の改善具合を見ながら医師が判断します。
食物繊維が多いものや消化に時間のかかるものは、症状が落ち着くまで避けるように指導されることが多いです。

保存的治療によって、多くの場合、数日から1週間程度で症状は改善します。
治療期間中は、十分な休息をとり、体の回復を促すことが大切です。

複雑性憩室炎の場合(入院、手術など)

複雑性憩室炎は、炎症が憩室の壁を超えて広がり、穿孔(腸に穴が開く)、膿瘍(膿のたまり)、腸閉塞、瘻孔形成(他の臓器との異常な交通)などの合併症を伴う重症な状態です。
この場合は、入院して治療が行われるのが一般的です。

治療は、合併症の種類や重症度によって異なりますが、多くの場合、より強力な点滴による抗生物質投与が行われます。
腸を完全に休ませるために絶食とし、点滴で栄養管理を行います。

膿瘍が形成されている場合は、皮膚の上から針を刺して膿を体外に排出する経皮的ドレナージが行われることもあります。
これは、膿瘍を小さくして炎症を抑えるための処置です。

炎症が非常に重度で腹膜炎を起こしている場合や、穿孔、ドレナージで改善しない大きな膿瘍、腸閉塞を伴う場合など、保存的治療では対応できない状況では手術が必要となります。
手術では、炎症を起こしている腸管の一部を切除し、場合によっては一時的に人工肛門を造設することもあります。
人工肛門は、炎症が完全に治まってから閉鎖する手術が行われるのが一般的です。

治療法の種類 非複雑性憩室炎の場合 複雑性憩室炎の場合(合併症あり)
主な治療方針 保存的治療(腸を休ませ、炎症を抑える) 入院による強力な治療、合併症への対応
抗生物質 経口(内服)が中心、必要に応じ点滴 点滴による強力な投与が中心
食事療法 一時的な絶食、症状改善に応じて流動食→軟食→常食へと移行 基本的に絶食、点滴による栄養管理
その他の処置 特になし 膿瘍に対するドレナージ(排膿)など
手術 基本的に不要 合併症(穿孔、大きな膿瘍、腸閉塞など)があれば必要となる
入院の必要性 多くは外来治療 基本的に入院治療

このように、憩室炎の治療は炎症の程度と合併症の有無によって大きく方針が変わります。
症状が出た場合は速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが非常に重要です。
自己判断で市販薬を飲んだり、様子を見すぎたりすると、重症化や合併症のリスクを高めることになりかねません。

憩室炎の予防と再発防止

一度憩室炎になった場合、再発する可能性が比較的高いことが知られています。
また、憩室があるだけの大腸憩室症の人も、今後憩室炎を発症するリスクがあります。
憩室炎を予防し、再発を防ぐためには、憩室ができる原因や炎症を起こすリスク因子を取り除くための生活習慣の改善が非常に重要です。

食物繊維を豊富に摂る

憩室炎の予防において、最も強調されるのが食物繊維の十分な摂取です。
食物繊維は、水分を吸収して便のカサを増やし、便を柔らかくすることで、スムーズな排便を促します。
これにより、大腸が便を押し出すために過度に収縮する必要がなくなり、腸管内圧の上昇を抑えることができます。
また、便が柔らかくなることで、憩室に便が詰まりにくくなり、炎症の原因を取り除くことにもつながります。

食物繊維を多く含む食品としては、以下のようなものがあります。

  • 野菜: ごぼう、ブロッコリー、ほうれん草、きのこ類など
  • 果物: りんご、バナナ、みかんなど
  • 穀類: 玄米、麦飯、全粒粉パン、オートミールなど
  • 豆類: 大豆、小豆、ひよこ豆など
  • 海藻類: わかめ、昆布、ひじきなど

意識的にこれらの食品を毎日の食事に取り入れることが大切です。
ただし、一度炎症を起こして回復期にある場合は、食物繊維が多い食品は消化に負担をかけることがあるため、医師や管理栄養士の指示に従って、体調を見ながら徐々に摂取量を増やしていくようにしましょう。

十分な水分補給

食物繊維の効果を最大限に引き出すためには、十分な水分補給が不可欠です。
水分が不足すると、食物繊維が水分を吸収できず、かえって便が硬くなってしまうことがあります。
適切な水分摂取は、便を柔らかく保ち、スムーズな排便を促す上で重要です。
1日にコップ6~8杯(1.5~2リットル程度)を目安に、水やお茶などをこまめに飲むように心がけましょう。
ただし、心臓病や腎臓病などで水分制限がある場合は、医師の指示に従ってください。

適度な運動習慣

定期的な運動は、腸の蠕動運動を活発にし、便の通過をスムーズにする効果があります。
ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動を、無理のない範囲で週に数回行う習慣をつけましょう。
運動は、便秘の解消に役立つだけでなく、ストレス解消や適正体重の維持にもつながり、全身の健康にも良い影響を与えます。

便秘の予防・改善

便秘は腸管内圧の上昇を招き、憩室炎の大きなリスク因子となります。
日頃から便秘にならないように、食物繊維の摂取、十分な水分補給、適度な運動といった生活習慣に気を配ることが重要です。
また、便意を感じたら我慢せず、トイレに行く習慣をつけることも大切です。
もし便秘が続く場合は、自己判断で市販の便秘薬に頼るのではなく、医師に相談し、原因を調べてもらった上で適切な治療を受けるようにしましょう。

その他の予防・再発防止策

  • 禁煙: 喫煙は血行不良や免疫機能低下を招き、炎症のリスクを高めます。
    禁煙することで、憩室炎だけでなく様々な病気のリスクを減らすことができます。
  • 適正体重の維持: 肥満は慢性炎症と関連し、憩室炎のリスクを高めます。
    バランスの取れた食事と運動で、適正体重を維持するように努めましょう。
  • 特定の薬剤の使用を控える: 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤は、憩室炎のリスクを高める可能性があります。
    これらの薬剤を常用している場合は、医師と相談し、必要性や代替薬について検討することが重要です。
  • 消化されにくい食品の摂取について: かつては、種子やナッツ類、コーンなどが憩室に詰まりやすいとして避けるように指導されることがありましたが、現在では、これらの食品の摂取が憩室炎のリスクを高めるという確固たる科学的根拠は少ないとされています。
    ただし、個人によっては特定の食品で症状が悪化する場合もあるため、自身の体調と相談しながら判断することが大切です。

憩室炎の予防と再発防止のための主な対策を以下にまとめます。

予防・再発防止策 具体的な行動例 効果(主なメカニズム)
食物繊維を豊富に摂る 野菜、果物、穀類、豆類、海藻類を積極的に食事に取り入れる 便のカサを増し、柔らかくする → スムーズな排便、腸管内圧低下
十分な水分補給 1日1.5~2リットルを目安に、水やお茶をこまめに飲む 便を柔らかくする、脱水予防
適度な運動習慣 ウォーキング、ジョギングなどの有酸素運動を週数回行う 腸の蠕動運動促進 → 便通改善
便秘の予防・改善 食事、水分、運動に気を配る、便意を我慢しない、必要に応じ医師に相談 腸管内圧上昇の抑制、憩室内の内容物滞留防止
禁煙 喫煙をやめる 血行改善、免疫機能向上、全身の炎症抑制
適正体重の維持 バランスの取れた食事と運動 全身の慢性炎症抑制
特定の薬剤の使用 NSAIDsなどを常用している場合は医師と相談 腸粘膜への影響抑制、炎症促進抑制

これらの対策を日々の生活に取り入れることで、憩室炎の発症や再発のリスクを減らし、健康な腸を維持することを目指しましょう。

こんな症状が出たら要注意:医療機関を受診するタイミング

憩室があるだけの大腸憩室症は無症状ですが、炎症を起こして憩室炎となった場合は、前述のような腹痛や発熱などの症状が現れます。
これらの症状が出た場合、自己判断せずに速やかに医療機関を受診することが非常に重要です。
特に、以下のような症状が現れた場合は、炎症が強く進行していたり、合併症を起こしていたりする可能性が高いため、緊急性が高いと考えられます。

  • 持続する、あるいは徐々に強くなる激しい腹痛: 特に腹部の一部が強く痛む場合。
  • 高熱(38℃以上): 腹痛に伴う高熱は、炎症がかなり進んでいるサインです。
  • 腹部を触ると非常に硬い(筋性防御): 腹膜炎を起こしている可能性がある危険なサインです。
  • 吐き気や嘔吐がひどく、水分も摂れない: 脱水を招き、全身状態が悪化する可能性があります。
  • 血便: 大量の出血や、持続する出血が見られる場合。
  • お腹が張ってガスやお腹の動きがない: 腸閉塞を起こしている可能性が考えられます。

これらの症状が一つでも当てはまる場合は、ためらわずに救急外来を受診するか、かかりつけ医に連絡して指示を仰ぎましょう。

また、上記のような緊急性の高い症状でなくても、腹痛、発熱、排便習慣の変化などが現れた場合は、早めに医療機関(消化器内科など)を受診することをおすすめします。
これらの症状は、憩室炎以外にもさまざまな病気で現れる可能性があるため、正確な診断を受けることが何よりも大切です。

早期に適切な診断と治療を受けることで、炎症の拡大を防ぎ、重症化や合併症のリスクを大幅に減らすことができます。
過去に憩室炎にかかったことがある人も、似たような症状が出た場合は、再発の可能性を考えて早めに受診することが重要です。

まとめ:憩室炎の原因を知り、適切な対策を

憩室炎は、大腸の壁にできた小さな袋状の「憩室」に、主に便や食物残渣が詰まり、そこに細菌が繁殖して炎症が起こる病気です。
憩室ができる根本的な原因としては、加齢による腸壁の脆弱化や筋力低下、そして食物繊維不足などによる腸管内圧の上昇が関わっています。
そして、このできた憩室内に内容物が滞留し、細菌感染が起こることが炎症の直接的な引き金となります。

憩室炎になりやすいリスク因子としては、高齢であること、食物繊維の摂取不足、肥満、運動不足、喫煙、特定の薬剤の使用などが挙げられます。
これらのリスク因子を複数持っている人は、憩室炎を発症しやすい傾向があります。

憩室炎を発症すると、多くの場合、炎症部位に応じた腹痛(日本では右下腹部痛も比較的多い)、発熱、吐き気や嘔吐、便秘や下痢といった症状が現れます。
これらの症状が出た場合は、速やかに医療機関を受診し、医師による問診、身体診察、血液検査、そしてCT検査などの画像検査によって正確な診断を受けることが重要です。

憩室炎の治療は、重症度によって異なります。
炎症が軽度な非複雑性憩室炎の場合は、抗生物質の使用と腸を休ませるための食事療法(絶食や流動食からの開始)といった保存的治療が行われます。
一方、穿孔や膿瘍などの合併症を伴う複雑性憩室炎の場合は、入院して点滴による強力な抗生物質投与や、場合によっては膿瘍のドレナージ、手術が必要となります。

憩室炎の最も重要な予防法および再発防止策は、原因となるリスク因子を取り除くための生活習慣の改善です。
特に、食物繊維を豊富に摂る、十分な水分補給を行う、適度な運動習慣を身につける、そして便秘を予防・改善することが、腸管内圧の上昇を抑え、憩室に内容物が詰まるのを防ぐ上で非常に効果的です。
これらの対策に加えて、禁煙や適正体重の維持、特定の薬剤の使用に関する医師との相談なども有効です。

もし、腹痛や発熱などの症状が現れた場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診してください。
特に激しい腹痛や高熱、腹部の硬さなどがある場合は、緊急性が高いサインと考えられます。

憩室炎の原因やリスク因子を理解し、日頃から予防に努めること、そして症状が出た場合には早期に適切な医療を受けることが、健康な腸を保ち、憩室炎の重症化を防ぐために非常に大切です。

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