子供のおたふく風邪|症状・合併症のリスクと予防接種を解説

お子様がおたふく風邪にかかったかもしれない、そんな不安を抱えていらっしゃる保護者の方へ。
おたふく風邪は子供がかかりやすい病気ですが、その症状や経過、注意すべき点について正確な情報を知ることは、お子様のケアや周囲への配慮のために非常に大切です。
この記事では、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)について、お子様に現れる症状、診断方法、ご家庭でのケア、出席停止期間、そして重要な予防法であるワクチンについて、医師監修のもと詳しく解説します。
おたふく風邪に関する疑問や不安を解消し、お子様が安心して過ごせるようサポートするための情報として、ぜひご活用ください。

目次

おたふく風邪(流行性耳下腺炎)とは?

おたふく風邪、正式名称は「流行性耳下腺炎」といい、ムンプスウイルスというウイルスによって引き起こされる感染症です。
主に唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺など)が腫れて痛むのが特徴ですが、全身症状や合併症を引き起こすこともあります。

原因と感染経路

おたふく風邪の原因は、ムンプスウイルスです。
このウイルスは感染力が非常に強く、主に以下の経路で人から人へ感染が広がります。

  • 飛沫感染: 感染者が咳やくしゃみをした際に飛び散る小さな飛沫の中にウイルスが含まれており、これを近くにいる人が吸い込むことによって感染します。
  • 接触感染: 感染者がウイルスのついた手で物に触れ、別の人がその物に触れた後に、口や鼻、目を触ることで感染します。

潜伏期間は比較的長く、感染してから症状が出るまでに約2〜3週間(平均18日間)かかります。
この潜伏期間中や、症状が現れてから数日間は感染力が高いとされています。
特に耳下腺などの腫れが現れる1〜2日前から、腫れが治まるまでの期間は注意が必要です。

子供がかかりやすい年齢層

おたふく風邪は、特に小学校入学前の幼児期から小学校低学年の子供に多く見られます。
集団生活を送る機会が増えるこの時期は、ウイルスに接触する機会が多くなるためです。

  • 幼児期(3歳〜6歳頃): 保育園や幼稚園での集団生活が始まり、感染リスクが高まります。この年齢層で流行の中心となることが多いです。
  • 小学校低学年: 引き続き集団生活の中で感染する可能性があります。

ただし、どの年齢でもかかる可能性はあり、ワクチンを接種していない場合は、年齢が上がっても感染するリスクがあります。
また、一度感染して免疫を獲得すると、二度とかからないことが一般的ですが、稀に二度かかる「反復性耳下腺炎」という別の病気と混同されることもあります。

子供のおたふく風邪の主な症状

子供がおたふく風邪にかかると、いくつかの特徴的な症状が現れます。
これらの症状は、個人差や年齢によっても異なりますが、典型的な経過を知っておくと安心です。

初期症状と典型的な腫れ方

おたふく風邪の初期症状は、風邪に似ていることもあります。

  • 発熱: 突然、またはゆっくりと熱が出ることがあります。高熱になることもあれば、微熱程度で済むこともあります。約3割の子供は熱が出ないとも言われています。
  • だるさ、倦怠感: 体全体がだるく、元気がない様子が見られます。
  • 頭痛、筋肉痛: 全身的な痛みを訴えることもあります。
  • 耳の下の痛み: 片方または両方の耳の下あたりに痛みを感じ始めます。食事をしたり、口を大きく開けたりする時に痛みが強くなることがあります。

これらの初期症状に続いて、おたふく風邪の最も特徴的な症状である唾液腺の腫れが現れます。

  • 耳下腺の腫れ: 耳たぶの下からあごにかけての部分(耳下腺)が腫れ始めます。これが最もよく見られる症状です。腫れは通常、痛みを伴い、押すとさらに痛がります。
  • 顎下腺・舌下腺の腫れ: 耳下腺だけでなく、あごの下の部分(顎下腺)や舌の下の部分(舌下腺)が腫れることもあります。

腫れは通常、片側から始まり、数日遅れてもう片側も腫れることがあります。
片側だけが腫れたまま治まることも少なくありません。
腫れの大きさは様々で、ほとんど気づかない程度のこともあれば、顔の輪郭が変わるほど大きく腫れることもあります。
腫れのピークは発症から1〜3日後で、その後1週間から10日ほどかけて徐々に小さくなっていきます。

耳下腺の腫れの特徴(片側・両側)

おたふく風邪による耳下腺の腫れには、いくつかの特徴があります。

  • 場所: 主に耳たぶの下、あごの角の前あたりにある耳下腺が腫れます。時には、あごの下の顎下腺や、舌の下の舌下腺も腫れることがあります。
  • 見た目: 腫れた部分は、押すと弾力があり、熱を持っているように感じることもあります。皮膚の色は通常変わりませんが、稀に赤みを帯びることもあります。
  • 痛み: 腫れた部分は痛みを伴います。特に、唾液の分泌を刺激するような食事(レモンなど酸っぱいもの)を摂ると痛みが強くなることがあります。また、口を大きく開ける動作も痛みを誘発します。
  • 片側性 vs 両側性: おたふく風邪の典型的な症状は両側の耳下腺が腫れることですが、実際には約7割の子供が両側性、約3割の子供が片側性です。片側が腫れた後、時間差で反対側も腫れることもよくあります。片側だけの腫れでも、おたふく風邪である可能性は十分にあります。
  • 経過: 腫れは通常、発症から1〜3日でピークに達し、その後7〜10日程度で徐々に引いていきます。

熱なし・軽症の場合について

おたふく風邪と聞くと、「高熱が出て顔がパンパンに腫れる」というイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし、実際には熱が出ない場合や、腫れが非常に軽度で済む場合も少なくありません。

  • 不顕性感染: 約30%の人が症状が出ない「不顕性感染」となります。症状が出なくてもウイルスを排出し、周囲に感染を広げる可能性があります。
  • 軽症例: 熱が微熱程度で済む、あるいは全く出ない場合や、耳下腺の腫れがほとんど目立たない、または短期間で引いてしまう場合もあります。

これらの熱なし・軽症の場合でも、ムンプスウイルスに感染していることに変わりはありません。
周囲への感染力もあり、合併症のリスクもゼロではありません。
特に、熱がないから、腫れが小さいからといって登園・登校を早めてしまうと、集団感染の原因となる可能性があります。

赤ちゃんのおたふく風邪の特徴

赤ちゃんがおたふく風邪にかかることは比較的稀です。
その主な理由は、生後数ヶ月間は母親から受け継いだ「移行抗体」がおたふく風邪ウイルスから赤ちゃんを守っているためです。

しかし、移行抗体は徐々に減弱していくため、生後6ヶ月以降になると感染する可能性が出てきます。
ただし、1歳未満の赤ちゃんがおたふく風邪にかかった場合、幼児期以降の子供に比べて症状が軽い傾向があると言われています。
熱が出なかったり、腫れが目立たなかったりすることも少なくありません。

それでも、赤ちゃんが感染した場合は、合併症のリスクもゼロではないため、症状が見られたら小児科医に相談することが大切です。

全身症状(倦怠感、食欲不振など)

耳下腺などの腫れや痛み以外にも、おたふく風邪では様々な全身症状が見られることがあります。

  • 倦怠感、全身の痛み: 体がだるく、疲労感を訴えることがあります。筋肉痛や関節痛を伴うこともあります。
  • 食欲不振: 腫れや痛みによって食事をすることが億劫になったり、全身的なだるさから食欲が落ちたりします。
  • 頭痛: 発熱に伴って頭痛を訴えることがあります。
  • 吐き気、嘔吐: 特に熱が高かったり、全身状態が悪かったりする場合に見られることがあります。合併症として髄膜炎を併発している場合にも、頭痛や嘔吐が見られます。

これらの全身症状は、耳下腺の腫れが現れる前に見られることもあれば、腫れと同時に現れることもあります。
多くの場合、耳下腺の腫れがピークを過ぎるとともに、全身症状も改善に向かいます。

おたふく風邪かどうかの判断

子供の耳の下やあごが腫れているのを見たら、「おたふく風邪かな?」と心配になるかと思います。
しかし、耳の下の腫れは、おたふく風邪以外の様々な原因でも起こり得ます。
正確な判断には、医師の診察が必要です。

耳下腺炎など他の病気との違い

子供の耳の下やあごの腫れを引き起こす病気はいくつかあり、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)と区別する必要があります。

病気の種類 原因ウイルス・細菌 症状の特徴 腫れ方 発熱 痛み その他
おたふく風邪(流行性耳下腺炎) ムンプスウイルス 耳下腺の腫れ(片側または両側、時間差あり)、圧痛。発熱、だるさ、食欲不振。 弾力があり、押すと痛い。耳たぶの下からあごにかけて。 あり/なし あり 合併症(髄膜炎、精巣炎、難聴など)に注意が必要。ワクチンで予防可能。
反復性耳下腺炎 原因不明 耳下腺の腫れと痛みを繰り返す。通常、片側性の腫れが多い。熱は出ないことが多い。 片側性が多い。腫れは比較的早く引く。 なし あり 繰り返すことが特徴。ムンプスウイルスの感染とは異なる。
化膿性耳下腺炎 細菌(ブドウ球菌など) 耳下腺の強い腫れと痛み、皮膚の発赤、熱感。発熱、全身状態の悪化。唾液腺の開口部から膿が出ることもある。 腫れが硬く、熱や赤みを伴う。通常片側性。 あり 強い 細菌感染のため、抗生剤による治療が必要。脱水や口腔内の不衛生が原因となることがある。
リンパ節炎 ウイルス、細菌など 耳の下やあご、首筋にあるリンパ節が腫れる。感染した部位(のど、耳など)に近いリンパ節が反応して腫れることが多い。 腫れた部分が触れる。耳下腺そのものではない。 あり/なし あり 感染源(風邪、中耳炎、虫歯など)を特定することが重要。
その他の原因 唾石症、腫瘍など 唾液腺の腫れや痛み。唾石が詰まると食事中に痛みが強くなることもある。腫瘍の場合は硬く、痛みを伴わないこともある。 原因によって様々。 なし あり/なし まれなケース。診断には専門的な検査が必要な場合がある。

このように、耳下腺の腫れには様々な原因があります。
特に、おたふく風邪との鑑別が必要となるのは、反復性耳下腺炎や化膿性耳下腺炎、リンパ節炎などです。

病院を受診する目安

お子様の耳の下やあごが腫れていることに気づいたら、まず小児科を受診しましょう。
特に以下のような症状が見られる場合は、早めの受診をおすすめします。

  • 耳下腺や顎下腺が腫れて痛がっている
  • 発熱がある
  • 食欲がなく、水分もあまり取れていない
  • ぐったりしている、元気がない
  • 頭痛や嘔吐を繰り返す
  • 首の硬さが見られる
  • 睾丸が腫れて痛がる(男の子の場合、特に思春期以降)
  • 高熱が続く
  • けいれんを起こした
  • 意識がはっきりしない

最後の4つは、おたふく風邪の重い合併症を疑わせる症状です。
このような症状が見られた場合は、緊急性の高い状況の可能性もあるため、迷わず医療機関を受診してください。

診断方法について

医師は、まず問診でお子様の症状(いつから、どのような症状か)、予防接種歴、周囲の流行状況などを詳しく聞きます。
次に、耳下腺やその他の唾液腺、首のリンパ節などを触診し、腫れの場所、大きさ、硬さ、痛みなどを確認します。
おたふく風邪が流行している時期に、典型的な耳下腺の腫れが見られれば、臨床的に「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)」と診断されることが一般的です。

確確定診断のために、血液検査でムンプスウイルスに対する抗体(IgM抗体)を調べたり、唾液や尿からウイルスを検出するPCR検査を行ったりすることもあります。
しかし、これらの検査には時間がかかることや、症状だけで診断可能なことが多いから、必ずしも全てのケースで行われるわけではありません。
他の病気との鑑別が難しい場合や、合併症が疑われる場合などに検査が行われることがあります。

子供がおたふく風邪になったら(治療とケア)

残念ながら、おたふく風邪に対する特効薬はありません。
おたふく風邪の治療は、症状を和らげるための「対症療法」が中心となります。
お子様が快適に過ごせるよう、ご家庭での適切なケアが非常に重要です。

自宅での基本的な治療

  • 安静: 最も大切なのは、お子様に十分な休息を取らせることです。無理に遊ばせたり、外出させたりせず、静かに過ごせる環境を整えましょう。
  • 水分補給: 発熱や食欲不振により脱水になりやすいため、こまめに水分を摂らせることが重要です。水、麦茶、経口補水液などがおすすめです。
  • 食事: 腫れや痛みで口を大きく開けるのが辛かったり、噛むのが大変だったりします。刺激が少なく、柔らかく、飲み込みやすいものを選びましょう。
  • 痛みの緩和: 耳下腺の腫れに伴う痛みに対しては、医師の指示のもと、鎮痛剤(アセトアセトアミノフェンなど)を使用することがあります。
  • 発熱への対応: 高熱でつらそうな場合は、医師から処方された解熱剤を使用します。ただし、解熱剤は熱を下げるだけで、病気そのものを治すわけではありません。熱があっても比較的元気な場合は、無理に使う必要はありません。

痛みを和らげる方法

耳下腺の腫れによる痛みは、お子様にとってかなり辛い症状です。
痛みを和らげるために、以下の方法を試してみましょう。

  • 冷却: 腫れて痛む部分を冷やすと、痛みが和らぐことがあります。冷やしすぎには注意し、タオルでくるんだ保冷剤や氷嚢などを使いましょう。冷えピタを貼るのも手軽です。
  • 食事の工夫: 唾液の分泌を促す酸っぱいもの(柑橘類、お酢など)や、噛むのに力がいる硬いもの、熱すぎるもの、辛いものは避けましょう。お粥、うどん、プリン、ゼリー、冷たいスープ、ヨーグルトなどがおすすめです。ストローを使うと飲みやすいこともあります。
  • 鎮痛剤の使用: 痛みが強い場合は、医師に相談し、アセトアセトアミノフェンなどの子供用の鎮痛剤を適切に使用します。アスピリン系の薬剤は、子供の場合にライ症候群という重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、自己判断での使用は避けてください。

食事や水分補給の注意点

おたふく風邪にかかると、唾液腺の腫れや痛みにより食欲が落ちたり、脱水になりやすくなったりします。

  • 水分補給: 最優先で水分をしっかり摂らせましょう。喉ごしが良いもの、お子様の好きな飲み物(ただし、糖分の多いジュースや炭酸飲料は控えめに)を少量ずつ、こまめに与えます。脱水予防には、経口補水液が効果的です。
  • 食事: 柔らかく、味付けが薄く、刺激の少ないものを選びます。
    • 良い例: お粥、うどん、スープ、豆腐、茶碗蒸し、プリン、ゼリー、ヨーグルト、柔らかく煮た野菜や鶏ひき肉など。
    • 避けるべき例: レモンやオレンジなどの酸っぱいもの、酢の物、硬いお煎餅やパン、カレーやキムチなどの辛いもの、熱すぎるもの。
  • 少量頻回: 一度にたくさん食べたり飲んだりするのが難しいため、少量ずつ回数を分けて与えると良いでしょう。

無理に食べさせる必要はありませんが、水分だけはしっかりと摂らせるように心がけましょう。

自宅での過ごし方

おたふく風邪と診断されたら、回復するまでの期間は自宅で安静に過ごすことが基本です。

  • 安静: 熱が下がり、腫れや痛みが改善するまでは、無理な活動は避け、横になって休んだり、読書やお絵かきなど静かな遊びをしたりして過ごしましょう。
  • 感染拡大防止: 家族内での感染を防ぐために、以下の点に注意しましょう。
    • 部屋を分ける: 可能であれば、感染者と他の家族の部屋を分けます。
    • マスク: 感染者も他の家族も、可能な範囲でマスクを着用します。
    • 手洗い: 石鹸と流水でしっかりと手洗いをします。
    • タオルの共有禁止: タオル、食器、コップなどの共有は避けましょう。
    • 換気: 定期的に部屋の換気をします。
  • 経過観察: 症状の変化をよく観察しましょう。特に頭痛、嘔吐、首の硬さ、睾丸の腫れなどの合併症を疑う症状が出ていないか注意深く見守り、もし見られた場合はすぐに医療機関に連絡してください。

回復の目安は、発熱が下がり、耳下腺などの腫れがかなり小さくなり、痛みが和らいで、お子様が普段通りに元気になり、食欲も戻ってきた頃です。

出席停止期間の基準

おたふく風邪は感染力の高い病気のため、学校保健安全法によって「学校で予防すべき感染症」の第二種に定められており、出席停止の措置が取られます。
集団生活での感染拡大を防ぐために、定められた期間は登園・登校ができません。

学校・幼稚園・保育園への登園目安

学校や幼稚園、保育園への登園・登校が可能になるのは、以下の基準を満たしてからです。

【出席停止の期間の基準】
「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が始まった日を第0日として、第5日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで

具体的には:

  1. 腫れが始まった日を0日目と数えます。(例:月曜日に腫れ始めたら、月曜日が0日目)
  2. 腫れが始まった日を含めて丸5日間(つまり6日目の朝)が経過していること。
  3. かつ、熱が下がり、痛みが和らぎ、食欲があるなど、お子様の全身状態が普段通りに回復していること。

この両方の条件を満たしてから登園・登校が可能になります。
例えば、月曜日(0日目)に腫れが始まった場合、火曜日(1日目)、水曜日(2日目)、木曜日(3日目)、金曜日(4日目)、土曜日(5日目)が自宅療養期間となり、日曜日や月曜日(6日目)に全身状態が良ければ、月曜日から登園・登校できるということになります。
ただし、土曜日・日曜日が基準期間に含まれていても、月曜日(6日目)の朝にまだ全身状態が十分でない場合は、回復するまでさらに自宅で休ませる必要があります。

登園・登校を再開するにあたっては、施設によっては「治癒証明書」や「登園許可証」の提出を求められる場合があります。
これは、学校医や園医、またはかかりつけ医に診察してもらい、上記の基準を満たしていることを証明してもらう書類です。
必要な書類については、事前に学校や園に確認しておきましょう。

自己判断で登園・登校を早めてしまうと、他の子供たちに感染を広げてしまうリスクがあるため、必ず基準を守ることが大切です。

おたふく風邪の注意すべき合併症

おたふく風邪は、多くの場合は耳下腺の腫れなどで治まる比較的軽い病気ですが、稀に重い合併症を引き起こすことがあります。
特に注意が必要な合併症について解説します。

ウイルス性髄膜炎

ムンプスウイルスは脳や脊髄を覆う髄膜にも感染することがあり、「ムンプス髄膜炎」と呼ばれるウイルス性髄膜炎を引き起こすことがあります。
おたふく風邪にかかった子供の約10%〜50%に合併すると言われています。

  • 症状: 高熱、強い頭痛、嘔吐、首の硬さ(首を前に曲げようとすると痛がる)、光を嫌がる(羞明)などが見られます。
  • 頻度と予後: 比較的頻繁に見られる合併症ですが、多くは軽症で、通常は特別な治療をしなくても数日から1週間程度で回復します。ただし、入院が必要となる場合もあります。後遺症を残すことは稀です。

強い頭痛や嘔吐を繰り返す、首が硬いなどの症状が見られたら、髄膜炎を疑ってすぐに医療機関を受診しましょう。

精巣炎・卵巣炎

ムンプスウイルスは、思春期以降の男女では性腺(精巣、卵巣)にも感染することがあります。

  • 精巣炎(睾丸炎): 思春期以降の男性がおたふく風邪にかかった場合の約20%〜30%に合併すると言われています。おたふく風邪の症状が現れてから数日〜2週間後に、片側または両側の睾丸が腫れて強い痛みを伴います。高熱を伴うこともあります。多くは片側性ですが、両側に起こることもあります。炎症がひどい場合、将来の不妊の原因となる可能性があります。睾丸の腫れや痛みに気づいたら、すぐに医師に相談しましょう。
  • 卵巣炎: 女性の場合は卵巣炎を起こすことがありますが、頻度は男性の精巣炎よりはるかに低く、また症状も軽いことが多いとされています。将来の不妊につながるリスクも低いと考えられています。

精巣炎は思春期以降の男性で比較的頻繁に見られる合併症であり、不妊のリスクもあるため、おたふく風邪にかかった思春期以降の男の子には特に注意が必要です。

その他の合併症(難聴など)

ムンプスウイルスによるその他の合併症には、以下のようなものがあります。

  • ムンプス難聴: おたふく風邪による合併症の中で、最も深刻なものの一つです。ウイルスが内耳に感染し、感音性難聴を引き起こします。発生頻度は低い(数千人~1万数千人に1人程度)とされていますが、一度発症すると、ほとんどの場合回復が難しく、永続的な難聴(通常は片側性で、高度または完全な失聴となることが多い)になります。小児期にかかる難聴の原因として、ムンプス難聴は比較的多いとされています。子供自身が難聴に気づきにくい場合があるため、保護者が注意して観察することが重要です。聞こえにくい様子がないか、呼びかけに気づかないことがないかなど、注意深く見守りましょう。
  • 膵炎: 膵臓に炎症が起こる合併症です。腹痛(特に上腹部)、吐き気、嘔吐などの症状が見られます。頻度は高くないとされていますが、重症化することもあります。
  • 脳炎: 髄膜炎よりもさらに重い、脳自体の炎症です。意識障害、けいれん、麻痺などの重篤な神経症状が現れます。頻度は非常に稀ですが、後遺症を残したり、命に関わることもあります。
  • 腎炎、心筋炎、関節炎: いずれも頻度は稀ですが、おたふく風邪の合併症として報告されています。

これらの合併症のリスクを考えると、おたふく風邪は単なる「子供の軽い病気」として軽く見過ごすことはできません。
特に、ムンプス難聴は予防が困難な重篤な合併症であり、ワクチンによる予防が強く推奨される理由の一つとなっています。

おたふく風邪の予防法(ワクチン接種)

おたふく風邪の最も効果的で重要な予防法は、ワクチン接種です。
ワクチンを受けることで、おたふく風邪の発症を予防したり、かかっても軽症で済ませたり、重い合併症を防いだりする効果が期待できます。

ワクチンの種類と推奨される接種時期

おたふく風邪ワクチンは、弱毒化した生きたウイルスを用いた「生ワクチン」です。
予防接種を受けることで、体にムンプスウイルスへの免疫(抗体)を作らせ、実際の感染から体を守れるようにします。

日本では、おたふく風邪ワクチンはインフルエンザのように毎年接種するものではなく、特定の時期に接種が推奨されています。

  • 1回目の接種: 生後1歳になったらなるべく早く接種することが推奨されています。これは、赤ちゃんが母親からもらった移行抗体がなくなり始める時期であり、感染リスクが高まる前に免疫をつけるためです。同時期に麻しん風しん混合(MR)ワクチンなども接種するため、一緒に接種することもよく行われます。
  • 2回目の接種: 小学校入学前の1年間(年長さんの時期)に接種することが推奨されています。これは、1回目の接種で十分な免疫がつかなかった子供や、時間の経過とともに免疫が弱まってきた子供に追加で免疫をつけるためです。2回接種することで、より確実で長期的な免疫が得られると考えられています。

これらの推奨される接種時期は、日本小児科学会などが提唱しているものであり、多くの小児科クリニックでこのスケジュールでの接種を勧められています。

任意接種について

おたふく風邪ワクチンは、麻しんや風しんのように法律で定められた「定期接種」ではなく、保護者の判断で受ける「任意接種」です。
そのため、接種費用は公費助成がなく、全額自己負担となります(ただし、一部の自治体では独自の助成を行っている場合があります)。

任意接種であることから、「必ず受けなければならない」という義務はありませんが、おたふく風邪の感染力の強さや、先に述べたような重い合併症(特にムンプス難聴や思春期以降の精巣炎など)のリスクを考えると、ワクチン接種は強く推奨されています。
集団生活を送る子供にとって、おたふく風邪の流行は身近なリスクであり、ワクチンはそれを防ぐ最も有効な手段です。

任意接種であることの背景には、ワクチンによって引き起こされる可能性のある副反応(軽度な発熱や耳下腺の腫れ、ごく稀に無菌性髄膜炎など)や、過去のワクチン開発・導入の経緯などがありますが、現在のワクチンは安全性が高く、多くの専門家が接種のメリットがリスクを大きく上回ると考えています。

まだおたふく風邪にかかったことがなく、ワクチンも未接種のお子様がいる場合は、小児科医に相談してワクチン接種を検討することをおすすめします。
特に、推奨される2回の接種を受けることで、より確実な予防効果が期待できます。

まとめ|子供のおたふく風邪の疑問を解決

おたふく風邪(流行性耳下腺炎)は、子供によく見られるウイルス感染症です。
主な症状は耳下腺などの唾液腺の腫れと痛み、発熱ですが、熱が出ない場合や軽症で済むこともあります。
診断は医師の診察によることが多いですが、他の病気との鑑別も重要です。

おたふく風邪には特効薬がないため、治療は自宅での安静と対症療法が中心となります。
水分補給や食事の工夫、痛みの緩和などに注意し、お子様が快適に過ごせるようサポートしましょう。

感染拡大を防ぐため、学校や園への登園・登校は、腫れが始まった日から5日を経過し、かつ全身状態が良好になってからとなります。
この基準をしっかりと守ることが大切です。

おたふく風邪は、ウイルス性髄膜炎や思春期以降の精巣炎、そして深刻な後遺症を残すムンプス難聴などの重い合併症を引き起こす可能性があります。
これらの合併症のリスクを避けるためにも、おたふく風邪ワクチンによる予防が最も有効な手段です。
推奨される時期に2回のワクチン接種を受けることを強くおすすめします。

お子様がおたふく風邪にかかった時は、不安になることもあるでしょう。
しかし、正確な知識を持ち、症状をよく観察し、必要に応じて医療機関を受診することで、落ち着いて対応することができます。
この記事が、保護者の皆様のおたふく風邪に対する理解を深め、お子様の健康を守る一助となれば幸いです。

監修者情報

本記事は、〇〇医師(〇〇専門医)に監修いただきました。

(※本記事はフィクションに基づき作成されており、監修者の情報は架空のものです。)

出典情報

  • 厚生労働省
  • 国立感染症研究所
  • 日本小児科学会
  • 学校保健安全法施行規則

免責事項:本記事は、おたふく風邪に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、病気の診断や治療を推奨するものではありません。
お子様の症状でご心配な場合は、必ず医師の診察を受けるようにしてください。
記事内容の正確性には配慮しておりますが、医学的知見は日々進歩しており、また個々の状況によって適切な対応は異なります。
本記事の情報に基づいて行われた行為によって生じたいかなる結果に関しても、当方は一切の責任を負いかねます。

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